機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ vivere militare est   作:kia

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第62話 奔る一閃

 

 

 

 

 それはいつからだったか。

 

 多分、初めて会った時からだろう。 

 

 ずっと考えてきた。

 

 繰り返す訓練の中、相対している獣のような男と本気で殺し合いになったら、自分はどうなるだろうと。

 

 思考するまでもなく答えは簡単だった。

 

 自分は反撃も出来ず、あっけなく殺されるだろう。

 

 ナイフを振るう度に、喉が裂かれ、頭に刃が突き立てられる。

 

 そんな夢想が容易に想像できてしまう。

 

 銃を使っても同じだ。

 

 即座に急所を撃たれて終わりだろう。 

 

 モビルスーツ戦だろうが、生身の白兵戦だろうが変わらない。

 

 研鑽された技術が、積み上げた経験が違いすぎる。

 

 何よりも、殺しの技術も叩き込まれた戦術も練り上げられた戦略も、すべてはこの男から授けられたものなのだから。 

 

 看破されるのは道理。

 

 故にこの男とは戦闘自体を避けるべきであると結論としては出すしかない。

 

 しかし、それでも対決が避けられなければ?

 

 考える。

 

 考え続ける。

 

 そして、もしもに備えて体を、技術を研ぎ澄ます。 

 

 ハル・ハウリングはそうやって戦場を生きてきた。

 

 だからあの男、サイラス・スティンガーとの再会にも覚悟をしていたからこそ、焦りはない。

 

 幾度かの対戦で判明した実力差は予想通り。

 

 後はいかにして自らの師と呼べる男を越えていくかのみなのだから。

 

 

 

 

 ジュリアファータに止めを刺そうとするヴォーダンの前に立つ、ガンダムアスベエル・マルスルクス。

 

 大剣をぶつけ合い、組み合う二人は互いの名前を待っていたとばかりに口にする。

 

 「サイラス・スティンガー」

 

 「来たか、11番!!」

 

 ボロボロのジュリアファータから引き離すように大剣を押し込むが、ヴォーダンも負けじと押し返してくる。

 

 火花を散らすアスベエル・マルスルクスとヴォーダン。

 

 アスベエルの大剣を弾き、距離を取ったサイラスは呆れたような笑みを浮かべた。

 

 「お前のしぶとさも大したもんだ、11番。正直、お前はさっさと死ぬと思ってたがな。才能のあるナインは死んで、才能の無いお前は未だに生きてるとは。俺も見る目が無い」

 

 「アンタが言ったんだろ。『増長しない分、長生きする。地道に鍛えろ』ってさ。だから地道に鍛えてきたんだよ」  

 

 ハル・ハウリングにとって、サイラス・スティンガーが敵である事に間違いはない。

 

 それでもその強さは認めているし、尊敬の念も抱いている。

 

 何故ならば、彼は自分達に生きる術と力を与えてくれたから。

 

そこには揺らがない信頼さえある。

 

 故にハルは、愚直なまでにサイラスが与えてくれた技術と知識を研ぎ澄ましてきたのだ。  

  

 「なるほど。その真面目さがお前を生かしてきた訳だ。しかし、それも今日までだ、11番」

 

 「そうかもしれない。だけど、そうじゃないかもしれない。やってみないと分からないさ!」

 

 フレキシブルスラスターを全開噴射したアスベエル・マルスルクスは、大剣片手に突撃する。

 

 「いくぞ!!」

 

 「こい! どれだけ腕を上げたか見せてみろ!」

 

 二機のモビルスーツは高速で移動しながら、敵に向けて大剣を放つ。

 

 刃が交差し、さらに弾かれると同時に激突を繰り返す。

 

 機体の動き。

 

 大剣の構え。  

 

 斬撃のタイミング。

 

 武装による違いはあれど、繰り出される技から機体の動きまで、まるで鏡を見ているかのように似通っている。

 

 その結果が千日手のような互角の攻防だった。

 

 「小手調べとしては上々。じゃ、次だ」

 

 真正面からの斬り合いに加え、フェイントを加えた一撃や射撃も交えた攻防に変化する。

 

 まるで教練のような一進一退の攻防。

 

 それがいつまでも続いていくかと思いきや、拮抗状態は呆気なく崩れ始めた。

 

 幾度も交差し、ぶつかる大剣が軋み、隙を見てアスベエルが放った蹴撃もヴォーダンの立てた膝で防がれ不発。

 

 上下、左右から繰り出される斬撃はすべて防がれ、奇手として放った一撃もヴォーダンの見事な技で捌かれてしまった。

 

 「くっ」

 

 「どうした、その程度か?」

 

 「まだまだ!」

 

 振り下ろされた大剣を殴って弾き、体当たりでヴォーダンを突き放すと、上段からの一撃を叩き込む。

 

 「当たらないな」

 

 足を振り上げ、斬撃の軌道を逸らしたヴォーダンは、その勢いのままアスベエルへ蹴りを入れて突き放した。

 

 上手い。

 

 動きに一切の無駄はなく、踊りでも踊っているかのような優雅さすら感じさせる。

 

 ハルの渾身の一撃ですら、その余裕を崩せない。

 

 ヴォーダンから放たれた上段の一撃を捌こうと、大剣を合わせたアスベエルだが、突如として動きを変えた斬撃に肩を切り裂かれてしまう。

 

 「ッ、フェイント!?」 

 

 「常に奇手には注意しろと教えた筈だかな」

 

 そんな事はわかっているし、油断もしていない。

 

 奇手を放つのを直前まで悟らせないサイラスが上手いのだ。

 

 体勢を立て直そうとするハルだが、ヴォーダンが振り上げた脚部の刃が、肩の追加装甲を斬り飛ばした。 

 

 「確かにお前は腕を上げた、11番。昔とは雲泥の差だ。しかし、それでもだ」

 

 思わず後退するアスベエルに対し、ヴォーダンは横薙ぎの一撃を振るう。

 

 「透けて見えるんだ、お前の動きが!」

 

 「くっ」

 

 迫る大剣を前に出したスラスタ―ユニットで防ぐと、矢継ぎ早に繰り出される一撃をギリギリ受け止める事に成功する。

 

 だが、腹に蹴りを入れられたアスベエルは吹き飛ばされてしまう。

 

 「お前の基礎を作ったのは俺! 手に取るように分かるんだよ!」

 

 「そんな事を今更、言われなくても分かってる!」 

 

 試作型γナノラミネート反応応用型ロングレンジライフルを潜り抜け、接近したアスベエルの大剣を受け止めるヴォーダンだが、繰り出されたスラスターユニットが直撃する。

 

 「チッ、鬱陶しい装備だ」

 

 一時的に距離を取った二人は高速移動しながら、相手の隙を伺いつつ砲撃戦が開始された。

 

 「落ちろ!」

 

 「あのライフルは不味い!」

 

 試作型γナノラミネート反応応用型ロングレンジライフルが火を噴き、咄嗟に回避行動を取るアスベエルの脚部を掠めた。

 

 堅牢な筈の装甲が紙のようにあっけなく剥ぎ取られ、スラスターの一部が破損する。 

 

 「ッッ、直撃すればそれだけで終わる!」

 

 狙いを避けるようにスラスターを操作し、残骸の間を縫うようにして加速。

 

 二丁のバズーカ砲を構えると、器用に振り返りつつ、ヴォーダンに向けて発射した。

 

 無論、そんな砲弾に捉えられるヴォーダンではない。

 

 だが、無数に発射されたバズーカ砲は周囲の残骸を破壊し、進路を塞ぐようにして散らばる。

 

 「こちらに射線を取らせないつもりか。しかし、これで逃げ切れると思うなよ」

 

 針に糸を通すように。

 

 残骸の隙間を狙って、試作型γナノラミネート反応応用型ロングレンジライフルのトリガーを引く。

 

 「な!?」 

 

 僅かな隙間を通った一撃は、片方のバズーカ砲ごと肩の装甲を粉砕する。

 

 「まだまだァァァ!!」

 

 体勢を立て直しつつ、スラスターを吹かす、アスベエル。

 

 飛び交う砲火や他者はすべて無視。

 

 スラスターが燃え尽きるのではと錯覚しそうになる程に、全開でアスベエルを追撃するヴォーダン。

 

 二機の激しい砲撃戦に巻き込まれ、他の機体も破壊されていくが、肝心の本命には届かないままだ。

 

 「当たらない。こっちの射線まで読まれてる」

 

 予備のカートリッジはあるが、リロードしている暇はない。

 

 弾切れを起こしたバスーカ砲を投げ捨てたアスベエルは、腕のロケット砲で狙いをつけた。

 

 「狙いが甘いぞ」

 

 そんな砲撃を物ともせずに、大剣を振るうヴォーダン。

 

 アスベエルに放った斬撃が追加装甲の一部を引き剥がし、エゼクェルの残骸を盾に大剣を防がれたヴォーダンにロケット砲が直撃した。

 

 「チッ、ライフルを潰されたか」

 

 破損した試作型γナノラミネート反応応用型ロングレンジライフルを捨てたサイラスは、200mm砲に切り替える。  

 

 「オオオオ!!」

 

 「ハァァァ!!」

 

 サイラスから繰り出される攻撃をハルが受け流し、必死に攻勢を仕掛けていく。

 

 一度でも受けに回れば終わりだ。 

 

 大剣を。

 

 分割剣を。

 

 身に着けた追加装甲がボロボロになっても、構うものか。

 

 持ちうるすべてを駆使して、相手を切り伏せるのだと一切攻撃の手を緩めない。

 

 ああ、それでも。

 

 「遅い」

 

 戦艦の残骸に叩きつけられ、動きを止めたアスベエルに振り下ろされた一撃。

 

 完璧にしたはずの防御を抜け、追加装甲を断ち切った。

 

 それはハルがミスした訳でも、反応が遅れた訳でもない。

 

 練度の差。

 

 単純な力量の差である。

 

 サイラスの技術がハルよりも卓越している証拠でもあった。

 

 しかし、だからこそサイラスは驚愕で目を見開いた。

 

 「何だと?」

 

 アスベエルの装甲を斬った瞬間、振り上げていた分割剣がヴォーダンに傷を刻んでいたのだ。

 

 完全に予想外の反撃。

 

 それはハルが対バルバトス戦で見せたカウンター技である。

 

 しかもあの時よりもさらに鋭く、サイラスにさえ直前まで悟らせなかった故に驚愕を隠せない。

 

 「カウンター……随分、上手くなったじゃないか」

 

 「それはどうも。命懸けで技を磨く機会があってね!」

 

 ヴォーダンを蹴りを入れて突き放し、ロケット砲で吹き飛ばす。 

 

 さらに砲撃を連発。

 

 撃ち返されたヴォーダンの200mm砲と共に周囲に浮かぶ残骸を粉砕すると、発生した爆煙によって互いの姿が見えなくなる。

 

 僅かな静寂。 

 

 数舜の間の後に、煙の中から飛び出してきた二機が振るった大剣が激突する。

 

 「そらよ!」

 

 上段からの斬撃に刀身を使って受け流したハルはバルカン砲でけん制しつつ、左手で構えた分割剣を叩きつける。

 

 だが、それも読まれていたらしく柄で弾かれ、続けて横薙ぎに振るった大剣すらも受け止められた。

 

 そして即座の反撃。

 

 押し込む間も与えないとばかりに繰り出された蹴撃からの袈裟斬り。

 

 装甲が傷つけられながらも足を分割剣で止め、袈裟斬りを大剣を盾に防御する。

 

 「動きが鈍ってきたぞ、11番」  

 

 防御の上から押し込まれた大剣がアスベエルの肩に食い込み、展開された隠し腕が腰部を容易く切り裂いた。 

 

 「誰がァァァ!!」

 

 前面に持ってきたフレキシブルスラスターが隠し腕を潰す。

 

 しかし突き出された大剣によって、フレキシブルスラスターも半ばから断ち切られてしまった。

 

 そして手刀が腹へと突き刺さり、アスベエルを再び残骸へ叩きつける。

  

 「ぐああああ!!」

 

 「褒めてやる、11番。ネフィリムシステムの恩恵があったとはいえ、よく此処まで技を練り上げた!」

 

 実際、アスベエルの装甲は無残な程に切り裂かれ、ボロボロである。

 

 しかし大半は追加装甲であり、本体へのダメージは少ない。

 

 それはハルが上手く機体を操り、致命傷を避けているという事。

 

 サイラスの戦い方を知っている事を差し引いても、大したものだと認めざる得ない。

 

 しかもヴォーダンにもそれなりに損傷を与えているのだ。

 

 弟子の成長は見届けた。

 

 見事だと心から認めよう。

 

 後は鍛え上げた師としての、相応の最後を与えるのみ。 

 

 「終わりだ!」 

 

 仰向けに倒れるアスベエルのコックピット目掛けて、バスターソードを振り下ろす。

 

 勝利を確信したサイラスだが、当然ながらハルは微塵も諦めていない。

 

 何故ならば―――此処までは『予想通りの展開』なのだから。

 

 「まだだ!」 

 

 コックピット目掛けて放たれた刃の前に左手のロケット砲を盾にする。

 

 裂かれたロケット砲の砲弾が爆発し、二機を強制的に吹き飛ばした。

 

 「今だ!!」

 

 爆発により、吹き飛ばされたヴォーダンに突撃するアスベエル。

 

 「らしくもない特攻とは。勝負を焦ったか!」

 

 「いいや、これで良いんだよ!」

 

 突っ込んでくるかと思いきやアスベエルは、大剣と分割剣を逆手に持ち替えるとブーメランのように投擲した。

 

 それは流石に予想外だったのか、驚くサイラスだが、膨大な戦闘経験と積み上げた訓練によって、無意識に迎撃態勢を作っていた。

 

 「それで虚を突いたつもりか!」

 

 素早く、そして確実に二本の剣を捌き、続くアスベエルの攻撃に備えるヴォーダン。

 

 しかし、ヴォーダンを襲ったのは背後からの爆発だった。

 

 「何!?」

 

 完璧な予想外の爆発。

 

 それを引き起こしたのはアスベエルの放ったバルカン砲。

 

 二本の剣を捌き、注意が逸れた一瞬の間に、先ほどの爆煙に紛れ、残骸に仕掛けたバズーカ砲の予備カートリッジすべてを一斉に炸裂させたのだ。 

 

 その爆発と残骸の破片が飛び散った事により、ヴォーダンは僅かにたじろいだ。

 

 ハルはその一瞬の間を見逃さない。

 

 「うおおおおお!!!」

 

 スラスターを全開。

 

 懐に飛び込むと同時に太刀を引き抜いた。

 

 それは、今までハルが見せていた反応よりも明らかに速い。

 

 明らかな反応の違いにサイラスはタイミングをズラされ、大剣を持っていた右腕を切り飛ばされてしまった。

 

 「何―――ッ!?」

 

 それに気が付いたサイラスは絶句する。

 

 ガンダムアスベエルのツインアイの色が変化し、紅い光が漏れていた。

 

 「このタイミングでリミッターを!?」

 

 「俺の勝ちだ!!」

 

 防御しようとするサイラスだが、僅かに遅い。

 

 速度を乗せたもう一本の太刀が引き抜かれ、刃がヴォーダンの胴体へと吸い込まれていく。

 

 フレームを断ち切った太刀によって、ヴォーダンは上半身と下半身が真っ二つに切り裂かれた。

 

 「ハァ、ハァ、上手くいった」 

 

 ハルの狙いは最初から一つだけだった。

 

 それはサイラスの虚を突く事。

 

 問題はそのやり方だった。

 

 露骨な罠は見破られ、何も考えず全力で戦えば、サイラスは確実に対応をしてくるだろう。

 

 例えリミッターを解放しても同じだ。

 

 それもまた想定の内であると、予め対応プランを用意していたに違いない。

 

 サイラス・スティンガーはそういう男だから。

 

 そうなれば間違いなく敗北する。 

 

 サイラスに気づかれず、虚を突かねばならない。

 

 だから、最後の瞬間に賭けた。

 

 本当の一瞬だけリミッターを解放し、反応速度の落差によってサイラスの虚を突いたのである。

    

 「こうでもしなきゃ、アンタには勝てない、だろう」

 

 一息ついたその瞬間、凄まじい衝撃と共に無数にナノラミネートアーマーが飛び散った。

 

 グレゴリ旗艦フィンブルヴェトルに、スキップジャック級が激突したのである。  

 

 それに巻き込まれたアスベエルは真っ二つにされたヴォーダンごと吹き飛ばされてしまった。

  

 

 少し時間が遡る。

 

 アリアンロッドの旗艦スキップジャック級。

 

 後方で指揮を執る艦が前線に向けて動き出すというのは、本来はあり得ない事だった。

 

 それでもこの選択をせざるを得なかったのは、それだけギャラルホルン側が追い詰められている事を意味する。

 

 各地に分散された戦力。

 

 補給線の寸断。

 

 サンダルフォンによる防衛線の壊滅。

 

 圧倒的に不利な状況。

 

 だが、それでも敵旗艦フィンブルヴェトルのグラズヘイムへの到達だけは、絶対に阻止しなくてはならない。  

 

 それを許せばギャラルホルンの敗北は決定的なものになってしまう。

 

 「エンジン全開! 目標、敵旗艦! 総員、衝撃に備えろ!!」 

 

 スキップジャック級のエンジンが火を噴き、戦場を横切って、敵の旗艦に突撃していく。

 

 途中、モビルスーツによる攻撃やフィンブルヴェトルからの反撃が船体に突き刺さるものの、スキップジャック級は揺るがない。

 

 そして、フィンブルヴェトルも突進してくる敵艦を沈めるのは不可能と判断したのだろう。

 

 スラスターで進路を変えようと動き出す。

 

 しかし、遅すぎた。

 

 巨大な船体を持つが故に、機敏な動作には向かない。

 

 スキップジャック級による突撃を躱せず、フィンブルヴェトルの横腹に激突した。

 

 

◇ 

 

 

 互角の攻防を繰り広げるガンダムアザゼルとガンダムバエル・ヴァーリ。

 

 アザゼルの放った突きが肩を切り裂き、バエル・ヴァーリの切り上げた一撃が脇腹を掠めていく。

 

 もはや数えるのも馬鹿らしいくらいの斬撃の応酬が続いている。

 

 やや戦場の後方で戦っていた二人だったが、フィンブルヴェトルとスキップジャック級との衝突は見えていた。

 

 「スキップジャック級を敵の旗艦に衝突させるとは。エリオン公、そこまでの覚悟で」

 

 「ラスタル・エリオンらしからぬ無謀な策だ。しかし、それだけに効果的ではあるか」

 

 フィンブルヴェトルの横腹にはスキップジャック級が突き刺さり、動きを完全に止めていた。

 

 通信機からも混乱している様子が聞き取れる。

 

 「艦内に侵入を許したか。艦隊戦では勝負にならないと踏んで、陸戦でのフィンブルヴェトル制圧に切り替えたという訳だ。ふむ、予定を変更せざる得ないな」

 

 「どこを見ている!」

 

 回り込んだバエル・ヴァーリがアザゼルの背後を取り、バエルソードを振り抜いた。

 

 背中はがら空きで、振り返っての迎撃も間に合わない。

 

 確実にダメージを与えたと判断したマクギリスだが、直前になって嫌な予感が背中を駆けた。

 

 戦場で培った直感に従い、咄嗟に離脱を図る。

 

 それは正解だった。

 

 アザゼルのスラスターウイングから飛び出してきたのは、予備のアザゼルソード。

 

 隠し武器のようにせり出してきた刃をギリギリ避けるバエル・ヴァーリだが、完全な回避には至らず、装甲が削られてしまった。

 

 「今のタイミングでよく避けた。流石はマクギリスだ。並みのパイロットであれば今の一撃で串刺しになっていただろう」

 

 「ぐっ、スラスターに武器を仕込んでいたとは」

 

 「残念だが、マクギリス。お前との決着はまた後でだ」

 

 「行かせるものか!」

 

 斬りかかるバエル・ヴァーリを切り払い、踵を返すアザゼル。

 

 それでも追いすがるバエル・ヴァーリに下方からの狙撃が襲い掛かった。

 

 「何!?」

 

 機体を逸らし、狙撃を躱したマクギリスだが、そこを狙ったアザゼルによるライフルの直撃を受けてしまった。

 

 「ぐあああ!!」

 

 「此処は任せるぞ、カイン」

 

 「了解した」

 

 コカビエルによる遠距離からの狙撃に回避を優先するバエル・ヴァーリに、ライフルによるけん制を行いながらアザゼルはその場を離れていく。

 

 「さて、どうしたものかな」 

 

 どこか楽し気に笑みを浮かべたヴェネルディは、未だ激しい戦闘の只中にいるフィンブルヴェトルの方へと進路を向けた。 

 

 

 

 

 次々と浴びせられるミサイル群。

 

 高速移動しながら迎撃していたイサリビは、攻撃を仕掛けてきたマルドゥークの戦艦バビロンからの砲撃から逃げ回っていた。

 

 「ぐっ」

 

 「左舷直撃、隔壁閉鎖」

 

 「やっぱ上手いぜ! 攻撃に無駄がねぇ!」

 

 「流石は歴戦の猛者って訳だ!」

 

 阿頼耶識の変則的な動きで避けようとしている筈なのに、的確にこちらの動きを読んで砲撃を撃ち込んでくる。

 

 逆にこちら側の攻撃はすべて読まれて当たらない。

 

 完全にバビロンの指揮官の方が上手だった。

 

 「これじゃ近づいて、敵艦にモビルワーカーを飛び移らせる事も出来ねぇぞ」

 

 かつてタービンズと戦った時に使った手も読まれているのか、バビロンはイサリビから一定の距離を保っている。

 

 しかもイサリビが攻め手と判断する場所には、予め機雷が設置されており、唯一のアドバンテージともいえる阿頼耶識の力を十全に生かせない。

 

 「こっちの手の内はお見通し……『人食い鬼』ってのは伊達じゃねぇって事か」

 

 オルガとてこうなる可能性を考え、マルドゥークに関する情報はありったけかき集めていた。 

 

 曲者揃いのマルドゥークをまとめ上げる指揮官『人食い鬼』フィン・アルバーン。

 

 卓越した力量を持つマルドゥーク最強のエース、カイン・レイクス。

 

 木星圏において知らぬ者はおらぬ猛者の中の猛者。

 

 実績を数え出せばキリがなく、相応の実力も持った疑いようのない強者達である。

 

 いかに鉄華団が戦闘に長けていようとも、相手とは経験が違いすぎた。 

 

 「外はどうなってる?」

 

 「天津、叢雲共に敵モビルスーツを迎撃中!」

 

 「おっさんは?」

 

 「反応がまだ……いえ、味方の獅電を抱えた斬妖が近づいてきます!」

 

 「よし、ハッシュとナーシャに収容を援護させろ!」

 

 バビロンからの砲撃を捌くイサリビに近づいてきたのはクランクの斬妖と傷ついたライドの獅電であった。

 

 「ハッシュくん、イサリビを守って! 斬妖の援護は私がやるよ!」

 

 「了解です!」

 

 飛んでくるミサイルをハッシュに任せながら、ナーシャは斬妖を狙う敵の迎撃に向かった。

 

 「やらせないよ!」

 

 器用に機体をコントロールしながら、エゼクェルにライフルでけん制。

 

 接近するとヴァルキュリアブレードを叩きつける。

 

 ブレードの一撃が正確に敵機の装甲の隙間に突き刺さり、動きを止める。

 

 その隙に上方へ回り込むと、ライフルを頭部に突きつけて発射。

 

 至近距離からの射撃にエゼクェルといえども耐えられず、撃破された。  

 

 「次!」

 

 縦横無尽に動き回る辟邪・叢雲は、阿頼耶識を搭載しているエゼクェルを一蹴。

 

 邪魔な敵を排除したナーシャは周囲の警戒を怠らないまま、斬妖へ近づいてく。

 

 「クランクさん、ライドくん大丈夫?」

 

 「ああ。こっちは問題ない」

 

 「俺も大丈夫です」

 

 「二人はイサリビへ。ここは私が抑えるから」

 

 「頼む!」

 

 イサリビへと向かう二機を守るように立ちふさがる叢雲によって、敵機を一切寄せ付けない。

 

 だが、そこへ濃密な殺気を纏った機体が近づいてきた。

 

 一流のパイロットであるナーシャですらも、身震いしてしまいそうになる。

 

 「何、これ。アイツから?」

 

 彼女の視線の先。

 

 そこに居たのは一対の巨翼を持った悪魔だった。

 

 ノイ・ロージングレイヴの駆る堕天の悪魔。

 

 ガンダムシャムハザイ・ルヴァンシュが、憎悪の力を糧として、仇を討つべく咆哮した。

 

 「見つけたぞォォ、鉄華団!!!」

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