機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ vivere militare est   作:kia

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第63話 血の教訓

 

 

 

 スキップジャック級が激突したフィンブルヴェトルの艦内は、蜂の巣をつついたような騒ぎとなっていた。

 

 それもその筈。

 

 まさかこのような形で進軍が阻止されるとは誰が思うだろう。

 

 しかもスキップジャック級から送り込まれた陸戦隊により、艦内で戦闘が繰り広げられているのだから、状況把握もままならない。

 

 混乱するなという方が無理な話だ。

 

 そんな中、軟禁状態だったクーデリアとアトラは怪我もなく、どうにか難を逃れていた。

 

 「アトラさん、大丈夫ですか?」

 

 「イタタ、私は大丈夫。クーデリアさんも怪我はない?」 

 

 「はい。でも、一体、何が起きたのか……」

 

 頭を抱えて伏せていた二人は、体の強張りを解しながら立ち上がる。

 

 凄まじい振動だった。

 

 よく無傷で済んだものだと感心する程、凄まじい衝撃。

 

 怪我が無かったのは運が良かった事に加え、部屋の備品が最低限しかなかったのが幸いしたのだろう。

 

 もしも乱雑に物があったら、重傷を負っていた可能性もある。

 

 「重力制御に異常が無かったのも幸いですね。もしも重力が切れていたら、天井に叩きつけられていたかも」

 

 クーデリアとアトラが歪んだ扉を力づくでこじ開けると、見違えるほどにボロボロになった通路が顔を出した。

 

 所々がひしゃげたように歪み、天井が崩れ落ちている所もある。

 

 「クーデリアさん、これどこかで空気漏れが起きてるかも」

 

 「ええ。ここに留まるのは危険ですね。移動しましょう。まずは状況を把握しないと」

 

 幸いこちらを気にしている者はいない。

 

 いや、そんな余裕はないのだろう。

 

 頷き合った二人は空気漏れに気を付けながら、ボロボロの通路を進み始めた。

 

 

 

 

 イサリビとバビロンの戦い。

 

 撃ち合う砲撃にも効果はなく、致命傷には至らない。

 

 奇しくも同型の強襲装甲艦同士の戦闘は、互いに決定打を見いだせない、拮抗状態に陥っていた。

 

 その現状を、バビロンで指揮を執っているフィンは違和感を感じていた。

 

 「……妙だな」

 

 「どうした、フィン?」

 

 「いえ、先ほどまではこっちが有利だった筈が、いつの間にか拮抗状態に持ち込まれているのです。戦術も今までとは違うやり方……隠し玉か」

 

 フィンの予想は正しい。

 

 現在イサリビを指揮しているのはオルガではなく、戦場から帰還したクランクである。

 

 歳星での戦いでマルドゥークとの差を痛感したオルガ達が、これを埋めるべく指揮官に据えたのが、最も戦闘経験豊富なクランクであった。

 

 そんなフィンの予測を横で聞いていたジャスレイは得心がいったように頷いた。

 

 「なるほど……クランク・ゼントか」

 

 「クランク? 確か諜報部の」

 

 「そうだ。奴は元々ギャラルホルンの軍人だったらしいからな。部隊指揮の経験もあるんだろう。……大人に頼る事を覚えたか。大した成長じゃないか、オルガ」

 

 嬉しそうに笑ったジャスレイは、懐から取り出したタバコに火を付けた。

 

 初めて出会った時からオルガはギラギラした目を隠そうともせず、常に野心を漲らせていた。

 

 まるで餓えた狼のように。

   

 ジャスレイにも頭を下げてはいたものの、その目には自分に対する―――いや、大人というものに対する不信に満ちていた。 

 

 仕事の際の顔合わせの時も、鉄華団全体でそういった警戒心が露骨に表れていた。     

 

 大人に対する不信。

 

 それは彼らの境遇を考えれば当然であるし、似たような生い立ちを持つ自分やマルドゥークの面々にもよく分かる事だ。

 

 だからこそ自分達を守る為に、手柄を上げ、力をつけようとしていたのだろう。

 

 最短距離で。

 

 そんな風に考えているのが手に取るように分かった。

 

 しかし、世の中そんなに甘くはない。

 

 正確には最短距離など存在しないのだ。

 

 時間を掛けて、積み上げて、進んでいくしかない。

 

 それを歪めてしまえば、それだけの反発を招き、結果としてすべてがご破算になってしまう。

 

 ジャスレイはそんな連中を山ほど見てきたし、何よりも今、マルドゥークの置かれている立場がそれを指し示している。

 

 だからこそ、仲間とはいえ大人の力を借りる選択をしたオルガの成長が嬉しかった。

 

 「我々と同じ轍は踏まずに済みそうですかね」

 

 「それはアイツら次第だろう。だが、親父や名瀬もいる。大丈夫だろうさ」

 

 ブリッジにいる全員が笑みを浮かべた。

 

 マルドゥークの中には鉄華団を快く思わない者もいた。

 

 だから一人一人、ジャスレイやフィン、カインと共に話を聞き、全員の意思統一は済んでいる。

 

 この期に及んで恨み事をぶつけるような人間は一人もいない。

 

 そう、彼らの意志は決まっている。

 

 自分達を生かしてくれたテイワズの守り手として、後を託す後輩達の成長の糧となる。 

 

 その為に自分達は此処にいるのだ。 

 

 

 

 

 「見つけたぞォォ、鉄華団!!!」

 

 咆哮するソレと相対したナーシャ・タービンは、今まで感じたことのない怖気に歯を食いしばって耐えていた。

 

 ガンダムシャムハザイ・ルヴァンシュ。

 

 一対の巨翼を持つ堕天の悪魔。

 

 その機体から発せられる殺気と憎悪に中てられて、耐えていた筈のナーシャの体が勝手に震え出す。

 

 「震えが止まらない。何、アイツ?」

 

 脳裏に浮かぶのは、エドモントン動乱で見たグレイズアインだ。

 

 あの機体も憎悪と怨嗟をまき散らし、戦場を暴れ回り、アスベエルとグレイズ改参型を大破へと追い込んだ。 

 

 間違いなくアレと同種である。  

 

 「単機で挑むなんて無謀なんだろうけど」

 

 今、イサリビの防衛戦力はハッシュだけ。

 

 彼にコイツの相手は難しいだろう。

 

 「私がやるしかない!」

 

 弟分を頼むと頭を下げた名瀬の為にも、託してくれた仲間の為にも、彼らを死なせる訳にはいかない。

 

 それがタービンズとして、鉄華団としての自分の仕事である。 

 

 体の震えを噛み殺し、果敢に堕天の悪魔に攻撃を仕掛ける、辟邪・叢雲。

 

 だが、敵の動きは予想を超えていた。

 

 射撃を事も無げに回避したシャムハザイは、一気に叢雲との距離を詰めてくる。

 

 「この動き、三日月と同じ!?」

 

 気持ちが悪い程の変則機動。

 

 限界を超えた動きにナーシャは全く捉える事が出来ず、背後に回られてしまった。

 

 「このォォ!!」

 

 振り向き様に片刃式ブレードを叩きつけるも、敵を捉える前に手首を掴まれてしまう。

 

 「その程度でこのガンダムシャムハザイと戦う気かァァァ!!」

 

 ノイの咆哮を力に変えたシャムハザイは、叢雲の左腕を力任せに引き千切ると、腰から抜いたグレゴリブレードを振り下ろす。

 

 「ッ!?」

 

 ギリギリで、110㎜バヨネットライフルの先端に付いた刃で、ブレードの軌道を逸らす事に成功する。

 

 だが、体勢を立て直そうとするも、シャムハザイは引き千切った腕を叢雲に叩きつけた。

 

 「死ねよ!!」

 

 腕のショートブレードを引き出すと、叢雲に向けて突き出す。 

 

 咄嗟に機体を捻り、腕を失った左肩で刃を止めたナーシャだったが、同時に繰り出された蹴りで吹き飛ばされてしまった。

 

 「キャアアア!!」

 

 「ナーシャさん!!」

 

 見かねたハッシュが援護の為に近づいてくる。

 

 「もう一機……行けよォォ!!」

 

 ノイの戦意の呼応するかのように射出されたフィンブレード。

 

 常人には捉えきれない複雑な軌道を通りながら、ハッシュに二本の刃が這い寄っていく。

 

 「これ、バルバトスと同型の? くそ!!」

 

 出来るだけ距離を取りながら、ライフルでフィンブレードを迎撃する。

 

 しかし全く捉える事が出来ず、天津の右足を抉り、左胸を掠めて、天津を吹き飛ばした。

 

 「ぐっうう!」

 

 「次はァァァ!!」

 

 死に体の二機を無視し、レールガンにて狙うのは未だバビロンと交戦していた鉄華団の母艦イサリビ。

 

 「落ちろォォォ!!」

 

 ナノラミネートアーマーすら粉砕する強力な砲撃が、イサリビの横腹に直撃した。

 

 

 

 

 老獪な戦略と的確な戦術を駆使するバビロンに対し、食い下がるように戦っていたイサリビ。

 

 しかし、予期せぬ砲撃によって、大きな損傷を負ってしまった。

 

 「ぐぅ、何だ!?」

 

 「バビロンからの攻撃じゃない?」

 

 「敵モビルスーツからの砲撃です!」

 

 「これがモビルスーツからの攻撃だってのか!?」

 

 オルガが戸惑うのもよくわかる。

 

 基本的に戦艦というのは厚い装甲に守られているが故に堅牢で、モビルスーツの攻撃では中々ダメージが与えられないのだ。

 

 まあ最近は、対ナノラミネートアーマー用レールガンや、ヴォーダンの持つ特殊ライフルなどの兵装も増え始めたので、一概に無理とは言えない。

 

 それでも堅牢には違いなく、簡単にダメージをもらう筈はないと高を括っていたのだが。

 

 船体を揺らす振動に耐えながら、冷静に戦況を見ていたクランクが指示を飛ばした。

 

 「状況報告!」

 

 「敵の砲撃により右側面部に損傷! 右舷砲塔発射不能!!」

 

 「ユージン、そっちはどうだ?」

 

 イサリビを阿頼耶識でコントロールしていたユージンは船体の異常を感じ取っているのか、顔を顰めていた。

 

 「やべぇぞ、出力が低下している上にスラスターの一部が全く動かねぇ! このままじゃ狙い撃ちにされちまう!!」

 

 イサリビが戦上手なバビロン相手に拮抗できていたのは、その機動力にあった。

 

 例え阿頼耶識の特性が活かせぬ状態だとしても、その恩恵は確実に彼らの身を守る一助になっていたのは間違いない。

 

 それが発揮できない今の状況は、翼をもがれた鳥と同じ。

 

 「次弾きます!!」

 

 「残ったスラスター全力噴射、回避!!」

 

 「間に合わねぇ!!」

 

 シャムハザイのレールガンがイサリビの土手っ腹へと直撃。

 

 装甲の一部が破損し、イサリビに深刻なダメージを負わせた。    

 

 「ぐああああ!!」

 

 「隔壁閉鎖! 姿勢制御!!」

 

 クルー達の努力も空しく、イサリビは制御出来ず、ゆっくりと流されていく。

 

 完全に無防備。

 

 否、虫の息と表現すべきだろう。

 

 もはやイサリビに強襲装甲艦として、役目を果たす事はもうできまい。

 

 当然、そんな虫の息のイサリビをノイが見逃すなど、あり得ず。

 

 シャムハザイはブリッジを射貫くべく、レールガンの銃口を向けた。

 

 阻む者はおらず、イサリビにそれを避ける余力もない。

 

 無慈悲に発射された砲弾が、命を刈り取るべく直撃しそうになった、その瞬間―――

 

 「え?」

 

 イサリビにいた誰もが驚きで僅かの間、硬直する。

 

 砲弾とイサリビの間に割り込むように、バビロンが飛び込んできていたからだ。

 

 レールガンはバビロンの船体によって防がれ、イサリビは九死に一生を得た。

 

 さらに、今まで敵対していたマルドゥーク所属のモビルスーツがシャムハザイへ向かっていく。

 

 「何を考えてやがる」

 

 正直、オルガは混乱していた。

 

 目の前の出来事が理解出来ない。

 

 何故、敵対している自分達を庇うのか?

 

 色々な考えが脳裏を巡り、気が付けば真意を質すべく、通信を繋いでいた。       

 

 乱れる映像に映し出されたのは破壊されたブリッジと倒れ伏すクルー達。

 

 そして―――

 

 ≪よう、元気そうじゃねぇか、オルガ≫

 

 「ジャスレイ・ドノミコルス」

 

 画面の中では、かつての上役が頭や腹から血を流しながらも、タバコを咥えて出迎えていた。

 

 「一体、どういうつもりなんだ? 何で俺達を」

 

 ≪別に。お前らが気にするような事じゃない。俺らの勝手な理由さ≫

 

 そんな訳がない。

 

 ジャスレイやマルドゥークと関わった機会は多くはないが、それでも一本芯が通ったような、筋を通す真っすぐさを感じていた。

 

 だからこそ、曖昧な理由で鉄華団と事を構えるとは思えなかった。

 

 そして、マルドゥークが反旗を翻した理由もオルガにはおおよそ分かっている。   

 

 テイワズの為にそうするしかなかったのだ。

 

 諜報部からの報告で明らかになったのは、マルドゥークと鉄華団はあまりに似通った存在であったという事実。

 

 テイワズの武力の象徴といえば聞こえはいいが、逆を言えば戦うしか能のない集団とも言える。

 

 今の鉄華団と何処が違う。 

 

 だが、彼らには鉄華団にはない確かな実績があった。

 

 それでも味方から刺され、最終的な結果がコレ。

 

 納得できる話じゃない。

 

 何故なら彼らは鉄華団の別の可能性だ。

 

 ここまでの選択一つでも違っていたら、鉄華団がマルドゥークのようになっていたかもしれない。

  

 だからこそ彼らの事を知りたかった。

 

 答えないジャスレイにもう一度問いただそうと口を開こうとしたオルガの肩に、クランクの手が置かれる。

 

 「オルガ、彼らの行動の理由は単純なものだよ。テイワズの為であり、何よりも俺達の為さ」

 

 「俺達の為?」

 

 ≪おい、クランク。余計な事を言うんじゃねぇよ。それは野暮ってもんだ≫

 

 「個人的には気持ちは良く分かる。しかし、それでは伝わらないんだ。きちんと言葉にして伝えなければ……それでも伝わらないかもしれないが、伝える努力を怠っては、どんな立派な教訓も意味がない」

 

 かつてクランクはそれを怠った。 

 

 伝えたつもりになった結果、部下二人は悲惨な末路を辿ってしまった。

 

 その過ちを繰り返させる訳にはいかないのだ。

 

 過去の誤りを悔やむような吐き出す、クランクの様子にジャスレイも神妙な表情で、口を開いた。

 

 ≪……オルガ、マルドゥークの事は調べたな?≫

 

 「ああ」

 

 ≪なら、わかったろ。俺達がどうしてこうなったのか≫

 

 「……分からねぇよ。アンタらは自分の仕事をこなして、テイワズの、仲間の為に戦って来たんだろ! なのに何で」

 

 ≪簡単だ。血を流しすぎた、殺しすぎた。俺達は恨みを買いすぎたのさ≫

 

 テイワズの武の象徴。

 

 言葉にすれば、格好良いようにも聞こえる。

 

 しかしそれは、テイワズで起きた荒事すべての矢面に立つ事を意味する。

 

 結果、マルドゥークの周りに積み重なるのは屍の山。

 

 死屍累々。

 

 いつしか、マルドゥークに向けられる感情は、膨らむ憎悪と止まらぬ嫉妬のみとなっていた。

 

 テイワズを守る為に血を流す度に、誰かが泣き、恨みが募る。

 

 それは戦果となり、命懸けの仕事に見合う多大な報酬と名声を得ても、敵味方含めた他者からの嫉妬を買う。

 

 ままならないとはこの事だろう。

 

 ≪結局は、力だけを頼みにしてきたツケだ。俺らにはそれしかなかったとはいえ、最後までソレだけを頼みにしてきた。だが、それだけじゃ駄目だったのさ≫    

 

 痛みを堪え、煙を吐き出すとジャスレイは皮肉そうな笑みを浮かべて、吐き捨てた。  

 

 ≪俺達は仲間以外の誰も信じず、敵だけを作った。敵を許せず、味方を作ることを怠った。その結果だよ≫

 

 ああ、本当に他人事とは思えない。

 

 死んだ者達の為に。

 

 今、生きる仲間の為に。

 

 最短距離で。 

 

 そんな事を考えていたオルガの目の前に、ある種の答えを突きつけられた気がした。

 

 お前達の未来はこうだぞと。

 

 ≪オルガ。これが『末路だ』。忘れるな、教訓として刻み込め。それが俺らからの餞別だ≫

 

 つまりは鉄華団の為に、彼らは命を使う選択をしたのだと。

 

 似た境遇とはいえ、かつてこんな大人がいただろうか?

 

 鉄華団の周りにいたのは、身勝手な者たちだけ。  

 

 名瀬やマクマードといった、自分達を真っ当に扱う大人も勿論いた。

 

 しかし根っこの部分にある、多くの子供達が抱く大人に対する不信感を拭いさる程ではなかった。

 

 大半の大人達は自分達を害し、食い物にする者なのだと、現実を見せつけられてきただけに、それは簡単に払拭できない根深いもので。

 

 そんな価値観が揺らぐ程の衝撃。

 

 命を賭した彼らの真意に、オルガを含めた誰もが言葉を発せない。  

 

 せめて何か口にしなければ。

 

 そんな焦燥感に襲われ、口を開こうとしたオルガの視界に、マルドゥークのモビルスーツを潰したシャムハザイが近寄ってくるのが見えた。

 

 「ッ!? アイツが来る! 急いで脱出―――」

 

 ≪もう遅い。何だか締まらない最後になっちまったが、ま、こんなもんだろ。じゃあな、後輩。親父を……いや、後を頼む≫

 

 笑みを浮かべたジャスレイは、別れの挨拶に手を掲げる。  

 

 次の瞬間、シャムハザイのフィンブレードがブリッジごとジャスレイ達を押しつぶした。

 

 

 

 

 「この期に及んで、鉄華団を庇うとはな! やはり同じ穴の貉!」

 

 マルドゥークの獅電にブレードを突き立て、止めを刺すと苛立たし気にバビロンの方へ視線を向ける。

 

 ノイにとってテイワズから離脱してきたマルドゥークは、鉄華団と同じ組織に属していた者達であり、初めから信用に価する者達ではなかった。

 

 裏切りも想定の範囲内。

 

 それでも流石に身を挺して庇うとは思っていなかったが、それもこれで―――

 

 「終わりだ! 行けよォォォ!!!」

 

 背中から射出されたフィンブレードが正確に相手の急所に突き刺さる。

 

 ブリッジは潰され、同時に発射したレールガンがバビロンに致命傷を与えた。

 

 「ハ、ハハハ、アハハハ! そして次はお前達!!」

 

 ノイの本命。

 

 鉄華団の母艦で、もはや虫の息であるイサリビに銃口を向けた。

 

 「今度こそ止めだ、鉄華―――ッ!?」

 

 トリガーを引こうとしたノイだったが、横目で捉えた光に気が付くと、咄嗟にその場から飛び退いた。

 

 側面から迫ってきたのは這い寄る蛇。

 

 ワイヤーでコントロールされた鋭い牙が、シャムハザイを穿たんと迫ってくる。

 

 「ッ、フィン……いや、テイルブレードか!」

 

 スラスターを噴射しながら器用に旋回。

 

 テイルブレードを引き離し、体勢を立て直すと、グレゴリブレードで弾き返す。

 

 「本体は何処に!?」

 

 迎撃する一瞬の間を狙っていたのか、凄まじい速度で接近してきた機体が巨大な鉄塊を叩きつけてくる。

 

 それをギリギリ剣で止めたノイは、待ちわびた敵の姿に狂気の籠った笑みを浮かべた。

 

 「来たかよォォォ、バルバトスゥゥゥ!!!」

 

 シャムハザイと組み合うのは鉄華団最強戦力。

 

 左腕にバルバトスルプスの腕とレギンレイズの肩装甲を装着し、再び姿を変えた悪魔。

 

 修復と補給を終えたバルバトスルプス・レクスが、ノイの前に立ちはだかっていた。

 


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