機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ vivere militare est 作:kia
主戦場から外れた一画。
そこに流れ着いたハルは、揺れる振動で目を覚ました。
「ぅ、俺は」
何が起きたのか?
朦朧とする意識と事態をはっきりさせようと頭を振ると、周囲の状況を確認する。
周りは戦艦やモビルスーツの残骸で埋め尽くされ、先ほどの振動もアスベエルと残骸が激突したかららしい。
「そうだ、サイラスは。何が起きたんだ? あれから戦場は……鉄華団は?」
何が起こったのかはすぐに分かった。
否が応でも目に入る光景が、すべてを物語っている。
交差するように接触し、派手に損傷した巨大戦艦。
その激突に巻き込まれたのだ。
相当の衝撃だったのだろう。
アスベエルにも無数の破片が突き刺さり、機体全体がボロボロになっている。
阿頼耶識で接続されていたにも関わらず、意識を失ったという事は、相当な衝撃を受けたのだろう。
「サイラスの乗っていた機体はないか。これでは生死を確認できない」
いや、サイラスがこんなに簡単に死ぬとは思えなかった。
生きているという前提で動くべき。
何よりももう一人。
絶対に放置してはいけない奴がいる。
あの男だけは何としてでも仕留める必要があった。
「鉄華団、イサリビの反応は……ないな。レーダー範囲外にいるのか、それとも」
嫌な想像を振り捨て、追加装甲と使えなくなった装備をすべて投棄。
追加装甲のお陰か、本体の損傷は大きくない。
片方のフレシキブルスラスターは半分切り裂かれ、使いものにならないから切り離した。
残りの一つだけでバランスを取るのは難しいだろうから、もう盾と割り切った方がいいだろう。
「使える武装はバルカン砲に太刀が一本、腕のロケット砲が一門か」
無事だったとはいえ、バルカン砲とロケット砲の残り弾数は少ない。
補給が期待できない以上、慎重に使っていかなければ。
「行こう」
ハルは慎重にペダルを踏み込む。
傷だらけのアスベエル・マルスの挙動を確かめながら、戦場へと移動し始めた。
「ん、敵の進行速度が鈍い? 戦力の大半が旗艦周辺に戦力が集中している。陽動?」
状況が掴めない。
味方と情報を共有できれば、少しは何かが分かるかもしれないが。
「バルバトスもイサリビも反応がない。他の機体は……あれは」
戦場においても目立つ色。
間違いない。
「ライドの雷電号か!」
傷ついた辟邪・叢雲を守りながら、主戦場から離れて行っている。
行く手を阻む敵を切り伏せ、叢雲と雷電号に近づいていく。
「アスベエル!」
「ハルさん、無事だったんですね!」
「ああ、何とか。それより―――」
「ハル! 貴方、モビルスーツに乗って、大丈夫なの?」
叢雲から聞こえてきた懐かしさすら感じる声に、ハルは思わず笑顔を浮かべる。
「お嬢様、無事で! ナーシャ、やってくれたのか」
「苦労したけどね」
「死にそうになってましたよ。単機で敵艦に突入するなんて」
「ちょ、ライド君!」
「え、単機で?」
単独で敵旗艦の中に突入するとは無茶な事を。
流石に肝が冷えたが、それ以上にイサリビが沈み、バルバトスも戦闘不能になった事を聞かされたのが一番驚いた。
あの三日月をそこまで追い込むとは、相当な相手だったのだろう。
「イサリビから脱出した団員は皆、ギャラルホルンに保護してもらって、護衛はクランクさんの斬妖が。団長たちもそっちに向かってるって」
「残った戦力は僅か。それにフミタンも」
気になる事は多い。
確実なのは、もはや鉄華団に戦闘を継続する力は残っていないという事だ。
この戦いにおける大勢は決している。
此処が潮時。
引き際を見誤れば、助かる命も助からない。
だが。
「ライドとナーシャはこのままオルガ達と合流してくれ。俺はまだやる事がある」
戦うと言いかけた途端、叢雲からクーデリアが飛び出してくる。
アスベエルのハッチに飛びつくと、無理やりコックピット内に入り込んできた。
「お嬢様、何をして」
「ハル、貴方」
幼い頃から長い時間を共に過ごしてきたクーデリアには分かる。
ハルは何か危険な事をしようとしていると。
いや、取り繕うのはやめよう。
彼は命を捨てて、戦いに臨もうとしている。
「クーデリア」
ハルが優しい声でクーデリアの名前を呼ぶ。
やっぱり間違いない。
「死ぬつもりね」
「死ぬ気はないよ。でも、命は懸けなきゃ勝てない」
「何をする気なの?」
「ヴェネルディだよ……俺はヴェネルディを殺しに行く。奴はクーデリアが、いや、俺達が願った世界をぶち壊す害悪だ。今後も必ず障害になる。生かしてはおけない」
しかし口で言う程、容易くはない。
あの三日月さえも、倒せなかった手練れである。
それこそハルが倒すには命懸けになるだろう。
「貴方がそこまでする必要は」
「あるさ。今まで犠牲になった者の為にも、俺達は此処で退く訳にはいかない。そうだろ?」
それは、クーデリアが内心抱えた覚悟と全く同じ。
彼もまた覚悟を持って戦っていると再認識して、クーデリアは唇を噛んだ。
止められない。
止める事が出来ない。
クーデリアの瞳から自然と溢れる涙が零れて、ハルは困ったように苦笑する。
「……そんな顔をしないでくれよ。大丈夫だって。後、困った時は皆を、鉄華団を頼れ。家族なんだ。一人で抱え込むな。いいな?」
「ハル!?」
ハルはクーデリアを突き飛ばし、コックピットから押し出すとハッチを閉じる。
制止する声を振り切るようにハルは一人、最後の戦場へと足を踏み入れた。
◇
ラスタル・エリオンにとって、サイラス・スティンガーという男は自らと対極に位置する人間であった。
生まれも、立場も、その思想も、すべてが違う。
だからこそ、出会った時から互いにこうなると、無意識で理解していたのだ。
「それでどうする、ラスタル? 勝負はついた。ギャラルホルンは今日で終わりだ」
「業腹だが、そうだろう。だが、グレゴリが取って代わる事など出来ないぞ。貴様らはやりすぎた」
グレゴリはギャラルホルンの影。
表裏一体の存在。
しかし結局の所、グレゴリもまたギャラルホルンであるのに変わりはない。
これだけの紛争が起きた以上、グレゴリもまた排斥される事は間違いないだろう。
「お前たちの本当の目的はなんだ?」
サイラスは肩を竦めると、司令席とは反対にある席へと腰掛ける。
「もう達成しているさ。俺達の目的はギャラルホルンの排除だけだからな」
「我々を排除しただけで、世界が単純に変わると本気で考えているのか? 重石の無くなった世界は混乱し、厄祭戦のような動乱が確実に起きる」
「かもな。ただこっちにも考えくらいはあってな。経済圏の方にも手は回してある。だが、それには今までの枠組みを取り払うだけではなく、生贄が必要になる」
「それがギャラルホルンという訳か」
「不都合をすべて被ってくれて、自分達を押さえつける目障りな番人を始末できる。さらに民衆の不満の受け皿にもなる訳だ」
ラスタルは此処にきて、まだ敵を見誤っていたのだと痛感する。
グレゴリという存在はギャラルホルンだけでなく、世界をも蝕む想像以上の猛毒だったのだ。
「最後まで読み誤っていた訳か」
「昔にも言っただろう。お前は読み易いんだよ。戦略にしても、謀略にしても、正直すぎる。だから先読みされるのさ」
「耳の痛い話だな」
単なる旧友同士の会話にも見える。
傍から見れば妙な光景であろう。
しかし二人は紛れもない敵同士。
一切の油断なく、会話が切れたのを合図に発砲音が響き渡った。
「ぐぅ」
倒れたのはラスタルだった。
銃を構えた右肩が撃ち抜かれ、バランスを崩して倒れ込んだ。
「お前がその席に座って艦隊指揮をしている間も、俺は最前線で戦い続けていたんだぞ。真っ向勝負でお前に勝ち目がない事は、わかっていただろう」
「分かって、いるとも。だから、私も考えていたさ! 読まれていたとしてもな!」
ラスタルの叫びを切っ掛けに、ブリッジ内に潜んでいた数人が一斉に姿を現し、マシンガンを構える。
一瞬の間で判断したサイラスは、足元の椅子を相手の方へ蹴り上げ、その場を飛び退いた。
銃撃と共に蹴り上げた椅子がハチの巣になり、サイラスが身を隠したコンソールもあっという間に削られていく。
「俺が直前まで気が付かないとは、相当の手練れらしいな」
サイラスに油断は全くなかった。
ラスタルとの会話の時にも周囲の警戒は怠らず、当然伏兵の可能性も考慮していた。
にも拘わらず、直前まで気配を悟らせないとは。
どうやら精鋭中の精鋭らしい。
「自身を囮としてまで、この状況を作るとは。しかも、来るかどうかも分からない俺を倒す為に、精鋭を此処に配置しておく胆力も。流石はラスタル・エリオン」
サイラスは素早く周囲に視線を滑らし、人数を確認する。
目視できる範囲で、四人。
どれも強力な火器を使用しており、サイラスの持っている武装では、正面から対抗するのは厳しいだろう。
それでも。
「やりようはある」
激しい銃撃から逃れるように、身を屈めて素早く移動。
先ほどのように、椅子や放置された小型端末などを、かく乱として投げつけながら、隙を伺う。
当然、そんな陽動に引っ掛かる訳もなく、サイラスとの距離を詰めながら銃口を向けてきた。
「狙いは正確。実戦経験も豊富。行動も的確ときたか。優秀だよ、11番にも見習わせたいくらいだ。だが、マニュアル的すぎる。もう少し泥臭い戦いを覚えた方が良い」
コンソールの陰から再び投擲。
幾度もかく乱を行った結果、兵士達は惑わされずにサイラスから目を離さない。
だが、それこそが落とし穴だ。
投げたのは小型の瓶。
サイラスが自作した爆弾。
それが空中で炸裂し、爆発と共に無数の金属片をバラまいた。
衝撃と共に弾かれた金属片が兵士達に襲い掛かり、動きを鈍らせる。
その隙に飛び出したサイラスは、近くにいた一人をナイフで刺殺。
同時に反対側にいた一人を射殺する。
「残り二」
武装を奪い取り、死体を蹴り上げ、敵に向かって放る。
さっきまで生きていた仲間の遺体だ。
どれほど鍛え上げていたとしても、精神的な揺さぶりに対する耐性はないだろう。
精鋭とはいえ人間。
ましてや、アリアンロッドとして勝ち戦が当たり前だったならば、尚の事。
案の定、動揺したのか銃撃が止まった。
「仲間の死体ごと撃つのが正解だよ」
死体を死角にして近づいたサイラスのマシンガンによって、残った面子も銃撃を受けて倒されてしまった。
「くっ、これだけやっても倒せないとはな」
「ラスタル、お前は此処で死んでおいた方が楽で良いと思うがな。生きて戻ったとしても、待っているのはお前が想像している以上の惨めな末路だ」
「それは予言か?」
「いや、事実を言っているだけだよ。そこを動くな。すぐ楽にしてやる」
「ラスタル様!」
サイラスが引き金を引く直前にブリッジに飛び込んできた者がいた。
倒れ伏すラスタルを抱き起したのは、フミタンとジュリエッタであった。
ジュリエッタが拳銃でけん制しながら、フミタンがラスタルの応急処置を始める。
「フミタン、ジュリエッタ。何故、来た」
「今、ラスタル様を失う訳にはいかないからです」
これから先、地球圏がどうなるかは分からない。
しかし、ただ平和で、何の争いが起きない世界になるとも思えなかった。
ギャラルホルンが今日終わるのだとしても、グレゴリの好きにさせない為にも、ラスタルを死なせる訳にはいかない
何よりもジュリエッタにとっては恩人なのだ。
見殺しにするなど出来なかった。
「全く、お前達は。合図したらフリッジの出口まで走れ」
「……私が援護します。フミタン、ラスタル様を抱えられる?」
「問題なく。ラスタル様、少し痛みますが我慢してください」
互いに緩める事を知らない銃撃に、物陰に隠れていたサイラスは、いかに仕留めるかと思考を巡らせる。
その時だった。
隠れていた最後の伏兵。
何処までも慎重にチャンスを逃すまいと、虎視眈々と機会を伺っていた兵士の捨て身の一撃。
好機とみてサイラスの背後から飛び掛かった兵士だが、振り向き様に放たれた銃撃に射貫かれてしまう。
しかし、その兵士の覚悟はサイラスの予想を上回っていた。
「うおおお!!」
「何!?」
撃たれて尚、動きを止めず、サイラスを羽交い絞めにすると、最後の力を振り絞って叫んだ。
「ラ、スタル様ァァァ!!!」
その声に反応したラスタルが端末のスイッチを押すと、ブリッジの一部が爆発。
「今だ!」
爆発による煙幕に紛れて、ブリッジから脱出したラスタル達は、通路にある緊急用のレバーを引く。
「ぐぅうう」
隔壁が降りたと同時に、凄まじい揺れと衝撃を蹲って耐えた三人は、互いの無事を確認すると大きく息を吐き出した。
「ラスタル様、ご無事で」
「ああ。ブリッジを破壊する程の爆発だ。いかに奴でもあの場から逃れる事は出来まい。犠牲は大きかったが」
ラスタルの相打ち覚悟で仕掛けた最後の罠。
爆弾は完全にブリッジを破壊出来る威力のものを用意していた。
ジュリエッタ達が来なければラスタルもまたその場に残り、命を捨ててサイラスを倒す算段だったのだ。
「……奴を倒した」
そうだ。
今度こそ過去の亡霊を葬った。
もう蘇る事は無い。
「ラスタル様、此処も安全ではありません。脱出しましょう」
「そうだな。生き延びたからには、無駄死にだけは出来ん」
何処か不安感が消えないのは、奴の死を直接見ていないからだろうか。
いや、考えすぎだろう。
あれで生きている訳がないのだ。
苦笑しながらフミタンの肩を借りて、ラスタルはその場を後にする。
過去の亡霊が再び蘇らぬよう、祈りながら。
◇
ガンダムアザゼルとマスティマの戦いは、依然としてヴェネルディ優位のまま継続していた。
そもそもヴェネルディとマスティマでは、経験にも力量にも差がありすぎる。
それを此処まで食い下がっていられたのは、阿頼耶識typeEのお陰であった。
「これで!」
ランスによる刺突。
並みのパイロットであれば容易に撃破できる一撃を軽く回避したアザゼルは、マスティマを蹴りで吹き飛ばす。
「くっ」
「相変わらず素直すぎる」
アザゼルソードの斬撃がマスティマの装甲を断ち切り、首元に突き刺した一撃に火花が飛ぶ。
「ぐぅ、まだまだァァァ!」
突き刺さったソードを掴み、アッパーカットの要領で半ばから叩き折る。
そして、機体ごと体当たりでアザゼルを弾き飛ばした。
「ッ、アザゼルソードを折るとは。今までの戦いによるダメージの蓄積もあるのだろうが、人の執念とは侮れないものだ」
ヴェネルディは感心したとばかりに称賛の言葉を贈る。
それがさらにマスティマの激情を煽り、命を捧げた特攻に拍車を掛けた。
「何処までも私達を下に見るか!」
自身の力不足が恨めしい。
コックピット越しでも分かる。
コイツは今頃、薄ら笑いを浮かべているのだろう。
それを消してやる。
残ったすべてを振り絞り、アザゼルへ猛攻を仕掛ける。
「ウオオオ!!」
使い物にならなくなったランスを捨て、ブレードに持ち替える。
アザゼルソードとマスティマブレードが幾度も激突し、無手の一撃を撃ち込んだ。
しかしそれも膝で防がれ、折れたアザゼルソードを投げ捨てたアザゼルの拳が腹部に直撃する。
「ぐぅ、まだまだァァ!!」
スラスターを使い、体勢を立て直したマスティマは、アザゼルソードによる突きを右掌で受け止める。
突き刺さったアザゼルソードを足で弾くとアザゼルの頭部を殴りつけ、至近距離からのバルカン砲が火を噴いた。
「これで近接武装はあるまい!」
「マスティマ。君の執念も、部下達の怨念も、存分に伝わった。しかし!」
電磁砲を放ち、上段から振り下ろされたマスティマブレードを弾き返す。
そして無手となった左手で、スラスターウイング内にある予備のアザゼルソードを逆手に抜き放った。
「何!?」
咄嗟に機体を引くマスティマ。
だが、完全には避けきれず、右腕が切り裂かれてしまった。
「残念だが私の勝ちだ」
「ふざけるな!! まだ左手が残っている!!」
「生憎だがそこまで君に付き合っている暇はない。止めを刺させて―――ッ!?」
強力なレールガンによる砲撃。
それを宙返りで回避したアザゼルの前に、ロトのシグルドリーヴァが立っていた。
「ロトか!」
「これ以上、グラズヘイムには接近させない」
グラズヘイムはもう目と鼻の先。
戦い続けている内に、ヴェネルディ達は地球外縁軌道統制統合艦隊の敷いた防衛ラインにまで近づいていたらしい。
レールガンによる砲撃を紙一重で躱しながら、もう一本のアザゼルソードを抜き放つ。
「お前を倒せば、もう私の邪魔をする者はいなくなる」
「簡単に行くと思うな」
「そうかな?」
砲撃を潜り抜け、接近したアザゼルの斬撃とヴァルキュリアブレードが交差する。
他者を寄せ付けない激しい斬り合い。
スラスターと機体特性を十全に生かした、攻防には美しさすら感じる。
シグルドリーヴァにダメージが加わると同時に、ガンダムアザゼルにも同じように損傷を受けていく。
ロトの斬撃を前にしては、いかにアザゼルと言えども、無傷とはいかないのだ。
だが、どれだけ傷が刻まれようと、ヴェネルディは一切止まる気配がない。
初めから、ロトほどの実力者相手に無傷で済むとは思っていなかったからだ。
「損傷を厭わない!?」
「君を倒すには相応の覚悟は必要だろう!」
交差した瞬間、刃を滑らせ、より距離を詰めたヴェネルディは、アザゼルソードの柄で敵の頭部を殴打。
一瞬、動きを鈍らせた所に二刀の斬撃を叩き込むと、レールガンごと左腕を切断した。
「な!? この!」
機体を半回転させ、残った右手のヴァルキュリアブレードを振るうも、軽く受け流されてしまう。
「軽いぞ。それでは私は倒せない」
片手とは思えぬ強烈な一閃を何度も受けながら、それでもヴェネルディの体勢を崩さず。
逆に相手の力を利用して、斬撃を受け流し、攻撃を加えていく。
「くっ」
「私を忘れるな!!」
ウェポンシールドから発射された砲撃に後退したアザゼルは、シグルドリーヴァを蹴りつけると、その反動を利用して加速。
一気にマスティマとの距離を詰める。
「邪魔だ」
一刀で盾を弾き、振り抜いたもう一刀のアザゼルソードでマスティマの腹を裂き、再び喉元へと突き刺した。
「ガァァッッ!?」
「そのまま散れ。部下の元へ行くがいい」
横薙ぎに振るわれたアザゼルソードが、飛び退くマスティマの胸部を切り裂く。
そして―――
「止めだ」
「やらせるか!」
「迂闊だぞ、ロト!」
背後から斬りかかってきたシグルドリーヴァの斬撃を受け流し、返す刀でアザゼルソードを叩き込む。
「グハァ!」
無防備に受けたアザゼルソードがコックピットを斬り潰し、ロトも致命傷を負った。
即死しなかったのは、直前に機体を捻り、ギリギリ狙いを外したからだろう。
「ロト、素晴らしい強さだ。それこそ初代にも劣らない。バクラザンのガンダム・フレームがあれば、こうもあっけなく勝てはしなかっただろう」
「ま、だ」
痛みを堪え、残った意識をかき集め、必死に操縦桿を動かす。
すると操縦系が生きていたのか、シグルドリーヴァの右手が振り上げられ、胸部を突き刺す剣を握っていたアザゼルの左腕を切断した。
「ッ、まだ動くだと!?」
「此処、まで、か」
大量の出血により、ロト・バクラザンの意識が薄まっていく。
最後の浮かぶ走馬灯。
そして、大切な人達の顔。
彼らをこの手で守れなかったのは、本当に悔しい。
しかし、もう出来る事は無い。
自分なりに必死になってやってきた。
恥じ入る事は何もないが、彼女には怒られるかもしれない。
何せ隠し事ばかりしていたから。
「まぁ、それ、もいいさ」
今も生きる者達を思いながら、ロト・バクラザンはゆっくり目を閉じた。
「ロト、君の奮戦、本当に見事だった。アザゼルの武装も殆ど残っていない。此処まで損耗させられるとは思っていなかった」
現に此処までの戦いの影響か、アザゼルもギリギリまで追い込まれていた。
誰一人として容易な敵はおらず、装甲は傷だらけで、武装の大半と左腕を失った。
それだけ手強い敵ばかりだった。
「マスティマはまだ生きているようだが、あの損傷ではもう何も出来まい。しかし、フリーエ……連絡もなく、アルマロスの姿もない」
彼女の性格から考えて、何か不測の事態が起こって、作戦行動に支障が出たとしても、ヴェネルディへの連絡を怠るとは思えない。
となれば、予期せぬアクシデントに見舞われて動けないか。
それとも。
「すでにやられてしまったか、だな。アルマロスを使ったグラズヘイム制圧は難しいか」
悉く思い描いた終局は阻止されてしまった。
これがギャラルホルンの底力。
鉄華団の協力もあったとはいえ、圧倒的に不利な状況を此処まで押し返すとは。
「ならば、さらに予定を変更せざる得ない……フィンブルヴェトル、聞こえているな。艦を動かす事は可能か?」
≪機敏な動きは無理ですが、軽く動かすくらいならば≫
「そうか。では、意趣返しといこう。現状における最大出力でフィンブルヴェトルを動かし、敵旗艦に再衝突させよ」
その命令は予想外だったのか、通信機の向こうで息を飲んでいるのが伝わってくる。
「弾かれた反動を利用して、スキップジャック級をグラズヘイムにぶつける。急げ、敵に悟られる前に作業を完了させろ」
≪り、了解!≫
戦闘の勝敗が見えた以上、グラズヘイムにこだわる事はない。
だが、未だ戦い続けるギャラルホルンの息の根を止めるには、相応の衝撃を与える必要があった。
彼らの心を折らねば、いつまでも抵抗をやめないだろう。
「後はスキップジャック級を狙い通り、グラズヘイムにぶつければ終わりだ」
すでに邪魔者は誰もいない。
後はヴェネルディの想像通りの決着を迎える―――
いや、まだだ。
まだ終わっていない。
もう一体だけ残っていた。
本来であれば、同じグレゴリとして轡を並べていた筈だった堕天の悪魔が。
「……まだ、生きていたとはな。悪魔に喰われた子供」
「アンタを殺しにきた、ヴェネルディ」
ガンダムアザゼルの道を阻むように、ガンダムアスベエル・マルスルクスが立ち塞がっていた。
堕天の悪魔による最後の激突が始まろうとしていた。
残り2話で完結の予定です。