機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ vivere militare est 作:kia
戦闘はいよいよ最終局面へと差し掛かりつつあった。
粘りに粘るギャラルホルンと、数に任せて攻めに攻めるグレゴリ。
未だ激しく続く戦いだが、傷つき戦線離脱した者達の受け入れを初め、撤退を支援している艦もあった。
戦場の外れに位置する、フローズヴィトニルの旗艦であるハーフビーク級もその一つである。
鉄華団の斬妖に護衛されながらも、戦場の端で待機していたその船に、今また接近してくる機体があった。
「あれはライドとナーシャ。二人共無事だったか!」
「クランクさん!」
「何とか無事です。それから敵艦より保護してきた人達がいるので、連絡をお願いします」
「分かった」
誘導に従い着艦する雷電号と辟邪・叢雲に、退避していたオルガ達、鉄華団のメンバーが近寄っていく。
「ナーシャ、ライド!」
「団長!」
「何とかね。それから二人も救出してきたわ」
コックピットから降りてきたクーデリアとアトラに、メンバー全員が沸いた。
「クーデリアにアトラ!?」
「無事だったか!」
「オルガ団長、二人のお陰で助かりました。でも、ハルが」
途中で遭遇したハルの話を聞いたオルガは、険しい表情で唇を噛んだ。
「そうか。すぐにでも救援に向かいたい所だが、イサリビも落とされて、モビルスーツは残ってない。今、俺らに動く手段はねぇんだ」
「いえ、余裕がないのは承知していますから」
周りに傷ついてないモビルスーツは存在せず、この艦も含めて戦場に戻れる状態でない事は一目瞭然だった。
それは鉄華団も同じ事。
モビルスーツで五体満足残っているのは、艦を守る斬妖のみ。
さらにイサリビ撃沈の際にはクルーの何人も帰らぬ人となり、とても動ける状態ではない。
「大丈夫だよ、クーデリアさん」
「ありがとう、アトラさん」
気遣うアトラにほほ笑み返し、クーデリアは未だ続く戦場の方へ視線を向けた。
そこで戦う大切な人が無事に戻ってくる事を祈りながら。
◇
マスティマがそれに気が付いたのは偶然であった。
機体の損傷による一時的なシステムダウン。
それをどうにかしようと足掻いていたからこそ気が付いたのだ。
「敵旗艦のエンジンが動いている。何をするつもりだ?」
スキップジャック級の突撃を受けたフィンブルヴェトルに、もはや戦艦としての機能は残っていない筈だ。
アレを今から動かす事に何の意味があるというのか。
敵の動きを訝しむが、次の瞬間、フィンブルヴェトルの生きているエンジンが噴射され、近くに浮かんでいたスキップジャック級へと再び衝突する。
大した出力ではないにしろ、フィンブルヴェトル程の質量を持つ物体が再び激突したのだ。
動きを停止させていたスキップジャック級を動かすには十分で。
その行く先は誰の目にも明白であった。
「グラズヘイム!?」
スキップジャック級はゆっくりと、しかし確実にグラズヘイムに向かっていく。
もしもあのままぶつかれば、グラズヘイムは地球へ落ちてしまう。
「くっ、絶対にさせるものか!」
急いでシステムを復旧させ、機体状態を確認する。
武装の大半を消失。
機体全身にも損傷を負ってはいるが、動かすくらいなら問題ない。
だが、阿頼耶識typeEは沈黙したまま。
システム自体が複雑すぎて詳細は分からない。
破壊されたのか、それとも時間が経てば復旧するのか、それすらも判然としない。
「もう使えないのだとしても、やるしかない」
生きているスラスターを吹かし、今出せる最大出力でスキップジャック級を追って動き出す。
そこで戦場の状況も見えてきた。
明らかにギャラルホルン側の動きが鈍くなっており、押され始めている。
その理由は簡単だ。
地球外縁軌道統制統合艦隊の指揮を執っていたロト・バクラザンの死亡が、大きな影響を及ぼしている。
これではスキップジャック級を止めるなど―――
「ッ!」
その時、マスティマは躊躇なく、全周波数にて通信を繋いだ。
「この宙域で戦うすべてのギャラルホルン兵士達に告げる! 私はセブンスターズ第一席、イシュー家の跡取り、カルタ・イシューである!!」
戦場に響き渡る声が通信機を通して、兵士達の耳に届いた。
「現在、敵旗艦の再衝突により、スキップジャック級が移動を開始した。このままではグラズヘイムに激突するは必至。グラズヘイムは地球に落下し、甚大な被害をもたらす事になるだろう」
突然の声に最初は戸惑っていた兵士達も、徐々に状況が呑み込めてきたのか、自然と落ち着きを取り戻していく。
「そうなれば我らの故郷に消えぬ傷を刻み込み、ギャラルホルン最後の戦いに泥を塗る結果となるだろう。何よりもあの蒼い星には家族が、恋人が、友人がいる」
ああ、そうだ。
此処で戦わなければ、ギャラルホルンはおろか大切な人達に危害を加えてしまう事になる。
それだけは絶対に阻止しなくてはならない。
「膝を屈するには早すぎる。奮起しろ、戦士達! 家族を、友人を、故郷を守れ!! ギャラルホルン、最後の意地を此処に示すのだ!!」
戦場に響いたこの声が、風前の灯火だったギャラルホルンの息を吹き返した。
生き残った者達が連携を組み、グレゴリの部隊に立ち向かっていく。
「……例え道化でもいい。今だけはセブンスターズの肩書に感謝できる。後は」
どうやってスキップジャック級を止めるかだ。
内部に侵入し、生きているエンジンを動かして、進路を変える。
無理だ。
時間が足りなさすぎる。
退艦命令が出されている以上、内部に人も残っていまい。
となると―――
「ありったけの火力をぶつけて、スキップジャック級の進路を変えるしかない」
マスティマはスキップジャック級に接近すると、残った左腕でレールガンによる攻撃を開始する。
しかし焼け石に水。
何発撃ち込んでも進路を変えるには至らない。
レールガンは確かに強力で、ナノラミネートアーマーも破壊出来る。
だが、スキップジャック級の進路を変えるには、あまりにも火力不足だった。
「くそ! なら最後の―――」
その時、マスティマの背後から発射された砲撃が、スキップジャック級に突き刺さる。
「あれは」
変り果てたマスティマではあるが、その姿を見た瞬間、こみ上げてくるものを堪える事が出来なかった。
近づいてきたのは、自身にとって馴染み深い、地球外縁軌道統制統合艦隊所属の機体グレイズ・リッター。
当然ながら、搭乗しているパイロット達は、かつてマスティマが司令官をしていた頃の部下達だ。
「お前達」
「遅参申し訳ありません、カルタ様!」
モニターに映る全員、馴染み深い顔ばかりだ。
しかし、かつてとは動きも、そして顔つきもまるで違う。
彼らもまた変わり、一端の兵士になったのだろう。
「……手を貸してくれるのか?」
「勿論です! 我々は地球外縁軌道統制統合艦隊。地球を守る事こそが任務です!」
愚問だったようだ。
彼らは自分などが居なくとも、立派に軍人として成長していた。
ならばこれ以上、余計な詮索は必要なかった。
「スキップジャック級の進路を変える。全機、躊躇するな。ありったけの火力を叩き込め!!」
「「「了解!!」」」
マスティマの命令に従って、地球外縁軌道統制統合艦隊のモビルスーツが一斉に動き出す。
これは奇跡だ。
もう二度と彼らの姿を目にする事はないと、そんな風に思っていただけに。
マスティマは最後に起きた奇跡の光景を噛みしめながら、率先して前に出る。
彼らの期待に応えんがために。
◇
ガンダムアザゼルとガンダムアスベエルマルス・ルクス。
この二機はグレゴリにとって始まりとも言えるガンダムである。
ガンダムアザゼルについては言わずもがな。
かつての英雄であるアグニカ・カイエルの搭乗した象徴であり、グレゴリにとっても中核をなす始まりのモビルスーツである。
では、ガンダムアスベエルは?
この機体はネフィリムシステムのデータ収集を目的に、グレゴリで開発された試作機。
バエルのデータを元に、現行と厄祭戦時の技術融合を目的とした、いわばグレゴリ製ガンダムフレームのプロトタイプであった。
即ち二機ともにグレゴリの礎となったガンダムなのだ。
それがこうして向き合い、互いを討たんと牙を磨いている様は皮肉としか言いようがない。
「……哀れ。忠告を無視して戦い続けた挙句、戦場で朽ち果てる。見るに堪えない」
「だったら此処で死ねよ。そうすればこれ以上、見なくて済むだろう」
問答無用。
ただ相手を容赦なく轢殺すると、ハルは太刀を突きつける。
その戦意に当てられたのか、ヴェネルディもまた笑みを浮かべた。
「いいだろう。最後の障害、取り除かせてもらおう」
残った右手のアザゼルソードを握りなおすと、前に出たアスベエルとほぼ同時に斬り込んだ。
剣と太刀が交差した瞬間、グラズヘイムへ向かっていたスキップジャック級の状況が大きく変わる。
◇
スキップジャック級に対する複数のモビルスーツによる同時攻撃。
いかに堅牢な装甲を持つ戦艦とはいえ、これだけのモビルスーツによる攻撃には耐えられず、徐々に破壊され始めていた。
しかし、進路を変えるには至らない。
「くそ、これだけ撃ち込んでいるのに、動かないぞ!!」
「弱音を吐くな! 最終限界ラインまでには絶対に進路を変えるんだ!!
そう、タイムリミットは迫っている。
最終限界ライン。
グラズヘイムに近づいているスキップジャック級の進路を変えられる、文字通り最後の一線である。
此処を超えると、どれだけ火力を与えようと、スキップジャック級ほどの質量を持つ物体の進路を変えるのは不可能になってしまう。
さらに面倒なのは、こちらの狙いに気が付いたグレゴリ側が妨害に出始めた事だ。
一機のエゼクェル相手にこちらは数機で対応しなくてはならず、火力不足がさらに顕著になってしまっている。
タイムリミット間近でこの状況は厳しい。
「……この辺りが限界か。全機、後退しろ。後は私がやる」
「何を!?」
「もう時間がない。この機体を自爆させて進路を変える。もう一度言う、巻き込まれないように後退しろ」
弾切れを起こしたレールガンを投げ捨てたマスティマは、スキップジャック級に向かって突撃する。
この機体、マスティマはアリアンロッド艦隊における切り札的な存在。
かつて地上で所属を隠したまま隠密活動を行ったように、秘密裏に活動する場合もある。
故に、その正体を悟らせない、誰にも奪わせない為、機体には自爆装置が仕込まれていた。
モビルスーツを完全に破壊する為に、その爆弾は強力で、破壊力は通常のものとは比較にならない。
これを使えば、進路を変えることぐらいなら可能な筈。
それには、最も的確なポイントで自爆しなければならない。
「邪魔だ、どけぇぇ!!」
残った左手のバトルネイルで邪魔をするエゼクェルのコックピットを抉り潰すと、近くにいた敵に向かって投げつける。
さらに敵の射撃を潜り抜け、目的の場所まで一気に駆けていく。
しかし、敵もそれを見逃す程、甘くはなかった。
連結型グレイヴを握り、マスティマを囲むように突撃してくる。
前進を優先した事に加え、アザゼルとの戦闘で損傷したマスティマに、四方からの刺突は避けきれず、串刺しにされてしまった。
「グハァ、わ、私はこの程度で」
コックピット内も損傷し、拉げた装甲に潰されたマスティマの口から血が溢れる。
だが、この程度の痛みが何だという。
自分を守る為に遥か格上に向かい、散っていった部下達の痛みと恐怖に比べれば、大した事はない。
問題は駆動系も損傷したのか、機体が動かなくなっている事だ。
「う、動け。動け、マスティマ。私はこの時の為に、命を、繋いだのだ」
迫る敵。
無くなる時間。
立ち止まって等―――
「やらせるものか!」
「全機、援護しろ!!」
進路を阻むエゼクェルに、飛び込んできたグレイズリッターが体当たりの要領で組み付いていく。
「ば、馬鹿な。早く離脱しろ。巻き込まれるぞ」
「我らに構わず!」
「地獄までお供します!!」
一瞬だけ沸き上がる良心の呵責。
だが、そんな感傷に浸っている暇はない。
「動け。今、動かねば、私は、誰にも顔向け出来ないのだ。動けェェェ!!」
その叫びに応えるように阿頼耶識typeEが再起動する。
「ウオオオオ!!」
突き刺さったグレイヴを引き抜き、正面にいたエゼクェルに投げつける。
そして頭部を掴み、包囲網を突破すると、スキップジャック級へ叩きつけた。
「此処ならば!!」
マスティマを落とそうと再びエゼクェルが攻撃を仕掛けてくるが、もう遅い。
「貴様ら諸共、付き合ってもらうぞ!」
グレイヴがマスティマに突き刺さった瞬間、起爆した爆弾が炸裂し、大きな閃光がすべてを包み込む。
「……私は皆の期待に応えられただろうか?」
誰にも聞こえぬ最後の呟き。
閃光に呑まれる一瞬に、マスティマは確かに見た。
自らの礎になって、力となってくれた者を。
最後まで共に戦った部下達を。
そして、追い続けた憧れの背中を。
誰もが自分にとってかけがえのない存在。
その姿に堪えに堪えていた涙が溢れ出る。
少しでも彼らに報いる自分に近づけたならばと、僅かな誇りを抱いてマスティマの意識は掻き消えた。
◇
一際目立つ巨大な閃光。
突如として起こった爆発によって、スキップジャック級の進路は変わり、グラズヘイムとの衝突は避けられた。
「あの爆発……まだ、あんな手を残していたとはな」
ヴェネルディの思惑は外れた。
スキップジャック級は、地球外縁軌道統制統合艦隊による攻撃のダメージと、マスティマの自爆によって二つに割れ、グラズヘイムから逸れていった。
「これでアンタの思惑通りにはならない」
「ふむ、確かにこちらの狙いは外された。しかしだ、結果としては悪くない」
「何?」
「スキップジャック級をよく見てみると良い」
スキップジャック級とグラズヘイムとの激突は免れた。
しかし分割された戦艦の残骸の一つが重力へ引かれ、地球へと向かっていくのが見えた。
「細かい残骸は大気圏で燃え尽きるだろうが、スキップジャック級の半分がそのまま地球へ落下する」
確かにそうだ。
現に重力に引かれた細かい破片の一部が、すでに地球へ降下を始めていた。
それは自分達も同じ。
気が付けばグラズヘイムからも離れ、スキップジャック級の残骸と共に地球へ引かれ始めている。
このまま何もしなければ、大気圏へ落ちていくのも時間の問題だろう。
「止める手段はもうない。君と戦う理由もない訳だが」
「言ったろ、俺はアンタを殺す為に此処にいるんだよ」
アスベエルの斬撃を器用に片手で捌くと、その流れに逆らわず肩の装甲を斬り飛ばす。
「残念だが、君の太刀筋は私には通用しない」
「この!!」
重力に引かれながらも、スラスターでバランスを取りながら、アザゼルに斬りかかる。
幾度となく激突し、交錯する二機のガンダム。
しかし、アスベエルの攻撃はすべて弾かれ、いなされ、受け流される。
何度もだ。
太刀を振るい、バルカン砲やロケット砲での攻撃を混ぜ、カウンター狙いの一撃すらも通じない。
明らかにハルよりも格上。
いや、そんな次元の力量ではなかった。
三百年積み上げてきた経験と、それを活かすべく血の滲む鍛錬を積んできた、ヴェネルディという天才。
この二つが組み合わさった、絶技としか言いようのない極地が襲い掛かっているのだ。
凡人であるハルに勝てる筈がない。
それでも―――
「まだまだ!!」
諦める事なく、攻撃を繰り出していく。
リミッターを解放し、あらゆる攻撃を繰り出して、それでもハルの攻撃は全く通用せず、逆にヴェネルディからの反撃により、左腕が斬り裂かれてしまった。
「理解に苦しむな。何故、命を捨ててまで挑んでくるのか」
「いい加減に興味のある振りは止めたらどうだ? 興味なんてない癖に」
ハルの言葉にヴェネルディがピクリと反応する。
「どういう意味かな?」
「そのままだよ。アンタ、どうでもいいんだろ。全部さ。ギャラルホルンもグレゴリも、この戦闘の行方も、俺の事も」
それはヴェネルディの抱えた闇。
殆ど接した事がない筈の子供が、正確に彼の闇をさらけ出す。
「手合わせした時から分かってた。アンタから何の情熱も感じない。強いて言うなら、戦う時だけは楽し気だけど、それも別に拘っているって程じゃない」
今もそうだ。
ハルと戦っていても、ヴェネルディから何も伝わってこない。
先も自身の思惑から外れている筈なのに、微塵も憤りや焦りを感じていない。
「空っぽなんだよ、アンタは。だってその生まれも、生きる理由も、戦う事すら他人から押し付けられたものだから。でも、他にやる事もない。全部捨てて逃げる事も出来ない。受け継いできた記憶がそれを許さない。だから今、此処に居るんだろ?」
それが答えだ。
彼が世界に憤っていたのは、否定していたのは、自分という存在を生み出した現状に対する絶望だった。
子供達に戦う力を与えたのも、抗う為ではなく、世界を否定する者を具現化する為。
クーデリア達から聞いたヴェネルディの出自。
聞かされてようやく、ハルはこの男を嫌悪する本当の理由が理解できた。
「アンタみたいな人間を、世間じゃこう言うんだよ。『ヒューマンデブリ』ってな!」
残った一つのフレキシブルスラスターを巧みに使い、太刀を下方から切り上げる。
本来とはかけ離れた不安定な機動故に、ヴェネルディの虚を突いた一太刀は、アザゼルの片足を斬り捨てた。
「なるほど。その通りかもしれないな。確かに私に情熱はない。与えられた使命に対してあるのは虚無感だけだ。しかしそれがどうした?」
重力に引かれ続け、ついに大気圏の灼熱が二機を出迎える。
「私は私の使命を全うするだけだ。それの何がいけない?」
「だからアンタは此処で死ぬんだ。この先、亡霊の牽引はいらない。未来にお前は必要ない」
同時に繰り出される一太刀。
太刀とアザゼルソードが交差し、火花を散らす。
激突の結果、太刀は半ばからへし折られてしまった。
「私の勝ちだ」
「ああ、やっぱり強い。俺が今まで戦ってきた敵の中でもアンタは別格だよ。でもな」
瞬間、ハルは右腕のロケット砲を背後に向けて発射する。
「何!?」
「此処は大気圏なんだ。普段の力は出せない」
かつて地球外縁軌道統制統合艦隊との戦いで得た教訓。
それが此処で活きる。
撃ち抜いた残骸の爆発を背後に受けたアスベエルは前方に押し出され、その勢いのままに右足で胴体目掛けて蹴りを放った。
左腕を失い、損傷と大気圏故に動きの鈍ったアザゼルに防ぐ手立てはなく、蹴りが胴体に直撃する。
胴体がへし折れるのではないかと錯覚する程、強烈な一撃。
吹き飛ばされたアザゼルは、スキップジャック級の残骸に激突する。
「ハアアア!!」
リミッター解放によるツインアイからの紅い光が漏れ出ていく。
大気圏の衝撃でフレキシブルスラスターが吹き飛ぶのも構わず、加速したアスベエルは折れた太刀を構えて突進し、アザゼルを貫いた。
太刀によって残骸に縫い付けられたアザゼルは、上方から押されるように降下。
重力に囚われ、残骸に押し潰されたアザゼルに脱出する術はなく―――灼熱の空間に焼かれながら、落下していった。
「ハァ、ハァ」
アスベエルもまた限界だった。
すべての武装を失い、フレキシブルスラスターも吹き飛んでしまった。
脱出する術はない。
もう出来る事は無かった。
「……クー、デリア……」
ハルは大切な人の名を呼び、意識は闇に沈む。
そしてアスベエルもまた、落ちていくスキップジャック級の残骸に呑まれてしまった。
堕天使達は灼熱に消え、番人の残骸は蒼き星へと沈んでいった。
次回、最終回となります。