機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ vivere militare est   作:kia

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第6話  進むべき場所

 

 

 

 

 

 軌道上での戦闘を終えたマクギリスは地球から同道していた部下と共に後処理に奔走していた。

 

 本来はアーレスの指令であるコーラルが行うべき事なのだろうが、今回の戦闘指揮を執っていたのはマクギリス達。

 

 立つ鳥跡を濁さずとも言うし、事後処理くらいは自分達の手で行うべきだとマクギリスの主張によって関係者全員で奮闘しているという訳だ。 

 

 無論、マクギリスの目的は単純な事後処理だけではない。

 

 コーラルが隠している何かについて探りを入れる為でもあった。

 

 「怪我の具合はどうだ、ガエリオ」

 

 「掠り傷だと言っただろう」

 

 医務室で戦闘で負った怪我の治療を行っていたガエリオは元気そうに包帯が巻いてある手を振った。

 

 だが体は元気そうである反面機嫌はすこぶる悪そうだ。

 

 原因は先の戦闘だろう。

 

 よほど彼らにしてやられた事が屈辱的だったらしい。

 

 「追撃の手筈はどうなっている? 準備ができ次第、俺も出るぞ。今度こそあのクソガキを!」

 

 「落ち着けよ、ガエリオ。追撃はしない」

 

 「な!? 奴らを放っておくのか! 連中がオルクス宛に送った『荷物』から色々わかったんだろ!」

 

 そもそも前回の戦闘が発生した経緯はオルクスの船が鉄華団のシャトルを攻撃した事にある。

 

 その原因を探ろうとオルクスの船に接近した際に鉄華団の船からの『荷物』を回収したのだ。   

 

 「落ち着け。クーデリア・藍那・バーンスタインがあの船に乗って地球に向かおうとしているという事実確認が出来ただけでも十分だ」

 

 それもコーラルによってお膳立てされたような気がしてならない。

 

 気がかりではあるがガンダム・フレームの件を含め収穫もあった。

 

 「そもそも時間がない。本部から急ぎ帰還せよと命令がきている。ガエリオ、我々の役割は監査官だ。そちらを蔑ろには出来ない」

 

 「なら奴らを放っておくのか?」

 

 「鉄華団は地球を目指している。なら再会する機会は幾らでもあるさ……コーラルの思惑を暴けなかった事は心残りだが、命令無視は出来ないからな」

 

 もしもコーラルが違法行為に手を染めていれば、火星圏での滞在を伸ばす事も出来ただろう。

 

 しかし監査の結果は疑念が思い浮かぶ程に真っ白である。

 

 これ以上の滞在は出来ないだろう。

 

 「ただ帰還するにしても今すぐじゃない、事後処理も残っている。それに今の内に尻尾を掴める可能性もある」   

 

 「そういえば奴らが使っていたモビルスーツについても分かったって? 確かガンダム・フレームとか言ってたな」

 

 「ああ。一機は『ガンダムバルバトス』、厄祭戦末期に実戦投入された専用設計のエイハブリアクター2基を搭載した72機の内の一つだ」

 

 端末に映されたデータを見たガエリオは胡散臭い表情を隠さない。

 

 彼からしたら厄祭戦時代のモビルスーツにしてやられたのは信じがたいだろう。

 

 「ガンダムか。聞き覚えはあるが……じゃあもう一機も?」

 

 「いや、あの機体に関してのデータは存在しなかった」

 

 「機体の詳細が分からないって事か? 厄祭戦時にデータが失われた可能性は?」

 

 「不明だ。しかし連中の『荷物』から機体名だけは聞き出せた。機体名は『ガンダムアスベエル』」

 

 名を口にしながらマクギリスは奇妙な違和感を拭えずにいた。

 

 「……『アスベエル』か」

 

 名前からして通常のガンダムフレームとは一線を画する機体だと推測は出来る。

 

 しかし外見上ガンダム・フレームとの類似点が多いのも事実。

 

 普通に考えれば厄祭戦で使用された機体と考えるべきだ。

 

 厄祭戦時のデータの多くは失われている。

 

 中には現在伝わっていないガンダムフレームの存在があったとしても不思議はない。  

 だがマクギリスの直感がそうではないと告げていた。

 

 「何にしろそんな大昔のモビルスーツに苦戦させられるとはな」

 

 「機体というよりはパイロットの問題だろう。元々阿頼耶識システムはモビルスーツの力を最大限発揮させる為に開発されたものらしいからな」

 

 「宇宙ネズミか……そういえばあのグレイズについては?」

 

 阿頼耶識に関して嫌悪感を隠そうともしなかったガエリオが一転して興味深そうに聞いてくる。

 

 余程あのグレイズに興味があるようだ。

 

 「アレは監査の際に報告に上げられていた例のカスタム機らしい」

 

 「ああ、火星独立運動を警戒しての戦力強化プランだったか?」

 

 火星独立運動に関して地球側の動きは非常に鈍い。

 

 本気で危機感を抱いている者など殆ど居ないだろう。

 

 だが火星支部は違う。

 

 いざという時、事態の対処を迫られるコーラルは地球本部に対して戦力の増強に関する要望を提出していた。

 

 しかし危機感の無い本部の連中は戦力の増強を却下し、現行のまま対応を命じたのである。

 

 騒乱が起きていない以上、現行戦力で問題ないと判断されたのも理解はできる。

 

 余計なコストを掛けたくないというのが本音だろうが。

 

 だがそうなると予想していたのかすぐにコーラルは本部と交渉して譲歩を引き出した。

 

 それが現行機体の改修、強化である。

 

 火星支部の増援を数機のグレイズに留める代わりに、その機体の強化を行う許可を得たのである。

 

 それが戦力強化プランだった。

 

 無論、監査の際にマクギリスも報告書に目を通していたが、此処までの性能とは思っていなかった。

 

 「機体名はグレイズノイジー。パイロットは火星支部所属エリヤ・スノードロップ」

 

 手渡された資料を覗き込んだガエリオは怪訝な表情を浮かべる。

 

 「機体自体のコンセプトはスラスター増設による機動性の強化、機体の制御プログラムの改善による反応速度の向上か。これであれだけの動きが可能になるのか?」

 

 「それもパイロットの技量次第と言った所だろう」

 

 「パイロットは子供だぞ。まさか阿頼耶識なんていうつもりじゃないだろうな?」

 

 「いや、あの動きは確かに異常だったが阿頼耶識ではない。その辺は調べるにしても地球に戻ってからになる」

 

 データはすでに本部へと提出してあり、検証は地球に戻っても可能だ。

 

 勿論、提出されたデータに偽りがなければの話だが。

 

 「地球に戻るまでもう少し時間がある。それまで休んでいろ」

 

 「奴らを追わないならそうさせてもらうさ」

 

 ベットに寝転ぶガエリオを見て苦笑しながらマクギリスは医務室を後にした。

 

 

 

 

 火星支部の奥に存在している格納庫。

 

 そこには固定されたグレイズノイジーにチューブが取り付けられ、整備士が忙しなく動き回っている。

 

 元々グレイズノイジーは試作機だ。

 

 実機試験は行われていたとはいえ、初の実戦。

 

 さらに専用装備ともいえるブースターユニットも損傷し、全員が頭を抱えながら修理や調整に追われているのだ。

 

 そんな喧噪を聞きながらグレイズノイジーのコックピットで調整を行っていたエリヤは先の戦闘の事を思い出していた。 

 

 「あのガンダム……確か名前はバルバトスだっけ」

 

 名前を口にする度にムカムカした感情が湧きあがってくる。

 

 エリヤがこういう風に何かに苛立つというのは珍しい事だった。

 

 彼女は自分自身の感情が薄い事を自覚している。

 

 だからある意味新鮮ではあるのだが、それでも不快という事実は変わらない。

 

 「珍しいな、エリヤ。お前がそうして感情を露わにするとは」

 

 いつも冷静なコーラルが珍しいものを見るような表情を浮かべている。

 

 一瞬、任務失敗の嫌味でも言いにきたのかと思ったがこの堅物な男に関してそれは無い。

 

 「別に。何か用?」

 

 「お前に新たな任務だ。地球へ行ってもらう、グレイズノイジーと一緒にな」

 

 「鉄華団の事はいいの?」

 

 「そっちについては考えがあるそうだ。お前もそちらの作戦に回される可能性がある。一応気にしておけ」

 

 「了解。そういえばあの二人はどうするの?」

 

 あの二人とはアインとグレイの事だ。

 

 先の戦闘では独断専行し返り討ちに遭い、損傷したモビルスーツの回収作業に回されてしまった。

 

 彼らが先行しすぎなければ、あそこまで簡単に包囲を破られる事は無かったかもしれない。

 

 「奴らにも地球へ行ってもらう。本人達もそれを望んでいるようだからな」 

 

 アインとグレイは是非追撃部隊へ加えて欲しいと嘆願してきている。 

 

 それは願ったりだとコーラルは彼らを放り出すつもりなのだ。

 

 エリヤとしてもそれは賛成である。

 

 「アイツら邪魔。勝手ばかりして」

 

 「そう言ってやるな。恩師の仇を討ちたいという気持ちは汲んでやれ」

 

 「それは否定しない。でも他を巻きこまないで欲しい」

 

 「お前も雪辱したいとは思ってるんだろう? 地球で会ったら挨拶くらいはしてやるといい。仮にも同僚なのだからな」

 

 「分かった」

 

 去っていくコーラルの背中を見つめながら、エリヤは自分が笑みを浮かべているのに気がついた。

 

 鉄華団に雪辱を果たす機会を与えられる可能性がある。

 

 今はそれだけで十分だった。

 

 

   

 

 ギャラルホルンからの追撃から逃れた鉄華団。

 

 戦闘を終えたイサリビの格納庫では雪之丞達がモビルスーツの補修や調整作業を行っていた。

 

 しかし雪之丞の顔は暗い。

 

 「たく、バルバトスは碌なデータが残ってねーな」

 

 手元にあるバルバトスに関する情報は殆どなく、修復や調整の参考に出来るものは限られていた。

 

 それはアスベエルも同様ではあるものの、長年放置されていたバルバトスとは修復の度合いが違いすぎる。

 

 不幸中の幸いなのはハルやクランクからモビルスーツに関する知識を得られた事だろう。

 

 「ハァ、あのクランクとかいう奴もこっちに上がれたら違ったのかもしれなけどなぁ」

 

 クランク・ゼントは鉄華団の本部で治療中である。

 

 怪我の程度によっては宇宙に連れていって整備を手伝わせようとも思ったが、満足に歩けない今の状態では宇宙に来ても足手まとい。

 

 だから火星に残って雑務を担当してもらう事にしたのだ。

 

 「おやっさん!」

 

 「ちょっと待て! ハル、来てくれ!」

 

 アスベエルの調整を行っていたハルを呼び、頭を抱えながら機体の整備の手順を進めていく。

 

 「ハルさん、このモビルスーツって大昔に作られた機体なんですよね」

 

 バルバトスを見上げたタカキが不思議そうに聞いてくる。

 

 CGS時代から施設の動力源として使われていたものだから、実際に動いている姿が奇妙に映っているのかもしれない。

 

 「ああ、300年くらい前に厄祭戦って言う大きな戦いが地球であって、その時に使われた機体だって話だよ」

 

 「へぇ」

 

 偉そう語っているがハルとて詳細は知らない。

 

 今となっては厄祭戦の詳細を知っている者など居ないだろう。

 

 一番年上の雪之丞すら名前を知っている程度だ。

 

 「ま、ギャラルホルンの使ってる機体以外は大体が大昔の骨董品だけどなぁ。だからこいつに関しても苦労してるんだよ」

 

 「ええ。ただ俺や雪之丞さんの知識が足りないのも理由の一つなんだけど―――」

 

 「ハルさん、一度ブリッジへ上がってくれって」

 

 話に割り込む形で備品を抱えたライドが呼びに来た。

 

 ブリッジで今後の方針について話し合っているらしい。

 

 「まだ整備の途中なんだけど」

 

 「先に行ってこい。こっちは出来る限り進めとくからよ」 

 

 「分りました」

 

 その場を雪之丞に任せたハルがブリッジに上がると、オルガ達が今後の方針について話し合っていた。

 

 「モビルスーツの方はどうだ?」  

 

 「頭が痛い。情報も知識も少ないから調整だけでも一苦労だよ」

 

 「ま、そっちは任せる。でだ、今後の方針なんだが―――」

 

 「新しい案内役を見つけない事にはどうにもならないね」

 

 ビスケットのいう通りだ。

 

 鉄華団単独での地球への航行など自殺行為にも等しい。

 

 最悪宇宙で遭難する羽目になる。

 

 「ハル、お前の知り合いに良い案内役いないのかよ」

 

 「無茶言うなよ、ユージン」

 

 「ハルは俺らより知り合いとか多いみたいじゃん。だから案内役もさ、心当たりくらいあるんじゃねーのって話してたんだよ」

 

 最初は懐疑的だったユージンやシノ達のハルに対する態度も大分軟化してきていた。

 

 まあ三日月や接する機会の少ない一部の人間は態度がぎこちないが、それは時間が解決してくれるのを期待する他ない。

 

 「あ、火星との通信が繋がった。すげぇな、アンタ」

 

 「どうした、チャド?」

 

 イサリビの操舵士を担当しているチャド・チャダーンがフミタンと何かしていたらしく驚いた声を上げていた。

 

 「何とか火星の連中と連絡を取ろうとしてたんだけど、この人が簡単に繋げちまったんだ」

 

 「いえ、アリアドネを利用しただけです」

   

 アリアドネとは惑星間航行を可能とするシステムの総称だ。

 

 宇宙にはエイハブ・リアクターを搭載した『コクーン』と呼ばれるものが数百万Km間隔で設置されており、そこから発生されるエイハブ・ウェーブを感知する事で艦船は航行する。

 

 まさに宇宙の灯台である。

 

 これは普段ギャラルホルンが管理しており、通常は所定の通行料を払えば利用可能。

 

 しかし海賊や非合法の艦船などはギャラルホルンの目が届かない外周ルートや独自の航路を利用している。

 

 さらに通信の中継ポイントしても使用され、暗号化されている為にギャラルホルンに知られる心配もほぼない。

 

 フミタンはこれを利用し火星と通信を行えるようにしたのだ。

 

 「へぇ、そんな方法があったのか」

 

 「よろしければ今後もお手伝いしましょうか? お嬢様のお許しがあればの話ですが」

 

 「勿論、構いません」

 

 「決まりだ、通信オペレーターとして頼むぜ」

 

 「かしこまりました」

 

 「フミタン、早速で悪いけどモーゼスと連絡は取れないか? ギャラルホルンの動きとかが分かれば知りたい」

 

 今の所、ギャラルホルンが追撃してくる気配はない。

 

 だがクランクによればコーラルという司令官がクーデリアを狙っていた事は間違いない。

 

 何らかの形で再び襲撃してくる可能性は高いだろう。

 

 フミタンは座席に腰掛け、しばらく機械を操作すると通信が繋がったのかモーゼスの厳つい顔がモニターに映し出された。

 

 《おう、ハルか。話には聞いてたが無事だったようだな》

 

 「相変わらず耳が良いな」

 

 《情報は常に新しいものをってな。それをおろそかにする奴は今の世の中、生きていけないさ》

 

 自信満々に語るモーゼスだが、言っている事は正しい。

 

 仮に前回の件モーゼスに情報をもらっていなければ、ああも簡単に対処出来なかっただろう。

 

 まあ、オルガはトドの裏切りを予測していたみたいだが。

    

 「話の途中で悪いな。鉄華団の代表オルガ・イツカだ。今回は世話になった」

 

 《モーゼス・マーソンだ。前回の件についてはもう金を貰ってる。俺はその分の仕事をしただけだ。今後も何かあれば声を掛けろ、出来る範囲で力になってやる。勿論、金はもらうがな》

 

 「そりゃありがたい。でもよ、一つだけ良いか? 何でアンタは俺らみたいなガキにそこまでしてくれる?」  

 

 それはハルにとっても疑問に思っていた事だ。

 

 出会った頃からモーゼスはハルやクーデリアには親切だった。

 

 火星のみならず圏外圏で後ろ盾のない子供など誰も相手にしないのが普通だ。

 

 ゴミのように簡単に切り捨てる。

 

 だからこそオルクスの罠にも気が付けた。

 

 そんな疑問を読み取ったのかモーゼスは一瞬だけ痛ましいものを見るような表情を浮かべる。

 

 しかしすぐに表情を変え、ニヤリと笑った。

 

 《理由はいくつかあるが、俺は諦めない奴が好きなんだよ。お前みたいに覚悟を決めた眼をした奴が特にな。そういう奴は大人も子供も関係なく他人を簡単に裏切らない。だからこっちも信用できるって訳だ》

 

 「なるほど」

 

 《それに今後の期待も出来る……今よりもデカくなるつもりなんだろ、オルガ?》    

 

 「当たり前だ」

 

 野心の籠ったオルガの眼を見てさらにモーゼスの笑みも深くなる。

 

 《ならこっちも本気でやらせてもらうさ。商売で一番重要なのは信用だからな》

 

 「今後ともよろしく頼むぜ」

 

 《おう。で、ギャラルホルンだが今の所お前達をどうこうしようって表立った動きは無いようだ。水面下では分からないが、今すぐに追撃されるって心配はしなくて良い》

 

 「そんな情報とかどうやって手に入れてるんだ?」

 

 「さあな」

 

 ユージンやシノの疑問は最もだ。

 

 ただモーゼスは方々に手を伸ばして商売をしているらしく、中にはギャラルホルンとも取引を行っているらしい。

 

 詳細は不明だがおそらくそこから情報を仕入れているのだろう。

 

 「案内役については?」

 

 《お前らの今の立場で引き受けてくれる案内役となるとなぁ。鉄華団の事は業者間で噂になってる。ギャラルホルンと揉めてる時点で仕事を請け負ってくれる連中はいないだろう》

 

 「こうなると単純な案内役じゃなく、火星の連中もひっくるめて守る事が出来る相当な力を持った後ろ盾が必要になる訳か」

 

 《後ろ盾ね。ああ、そういえば……本来は金をもらう所だが今回はサービスで教えてやる。ギャラルホルン以外でお前らを嗅ぎまわっていた奴らがいたぞ。『タービンズ』って組織だ》

 

 「タービンズ!?」

 

 その名前に反応したのはビスケットだ。

 

 ハルも一応名前くらいなら聞いたことがある。

 

 そしてもしも予想通りの名前であるならかなりヤバい。

 

 「知ってるのか、ビスケット?」

 

 「うん、えっと、『タービンズ』っていうのはあの『テイワズ』の輸送部門を担当する直系組織だよ。リーダーの名瀬って男はテイワズの代表マクマード・バリストンと親子の杯を交わしてるって話もある」

 

 「テイワズ!?」

 

 「木星圏を拠点にしている複合企業ですね。実態はマフィアだという話も聞きます」

 

 テイワズは圏外圏で最も力を持つ組織の一つと言っても過言ではない。

 

 それを敵に回せば鉄華団などあっさり潰されてしまう。

 

 「CGS時代にタービンズと取引でもあったのか?」

 

 「そんな話を社長から聞いた事はないよ。僕らが知らないだけかもしれないけど、詳しい記録を漁ってる暇も無かったし」

 

 「そうか。向こうが調べていたって事は近いうちに接触してくるつもりなのかもしれない」

 

 「どうするんだ、オルガ? テイワズと揉めるのは流石に不味いぜ」

 

 皆が不安そうにオルガへ視線を向ける。

 

 テイワズというビッグネームに血の気の多い鉄華団のメンバーたちも及び腰だ。

 

 しかしオルガは好都合とばかりに笑っていた。

 

 「いや、これはチャンスだ。正直、後ろ盾の事はテイワズしかねぇと考えてはいた。後は渡りのつけ方をどうしようかと思っていたんだが、向こうから来てくれるとはな」

 

 「オルガ、本気?」

 

 「ああ。上手くやればテイワズを後ろ盾に出来るかもしれねぇ。どの道今のままじゃ火星には戻れないんだ」

 

 確かにオルガのいう事も一理ある。

 

 もはや鉄華団は先に進むしか道は残されていないのだ。

 

 しかしリスクが高いのも事実だ。

 

 失敗すれば鉄華団は確実に終わる。

 

 「モーゼス、金は払う。タービンズについて情報をくれ」

 

 《向こうが接触してくるまでに時間がねぇぞ。教えられる情報なんてさわり程度だ》

 

 「構わない」

 

 《その程度ならすぐだ。少し待ってろ》

 

 これも何時もの事だ。

 

 もしもの場合に備えて出来る限りの事をしておく必要がある。 

 

 生き延びる為に。

 

 そしてクーデリアを守る為に。

 

 

 

 

 方針を固め、機体整備、三日月、昭弘とのシミュレーション、そして今後の備え。

 

 やるべき事は山ほどある。

 

 宇宙での作業を終えたハルはクーデリアの元へ戻ろうと部屋へ向かっているとビスケットが一人佇んでいるのに気が付いた。

 

 「ビスケット、どうした?」

 

 「あ、ハルか。ちょっとね」

 

 ビスケットは笑みを浮かべているつもりなのかもしれないが、上手く笑えていない。

 

 何か悩みがある事は誰の目にも明らかだった。

 

 「悩みか? 話を聞く事くらいは出来るけど」

 

 「悩みっていうか、これからの事。ギャラルホルンの件だけでも手一杯なのに今度はテイワズだからね。それにオルガの事も」

 

 「オルガ?」

 

 「うん。僕にはオルガが危険な選択を進んで選んでいるように見える時があるんだ。このままじゃ―――」

 

 「破滅してしまう?」

 

 ハルの指摘にビスケットは黙って俯いた。

 

 彼の危惧する事は理解出来た。

 

 ビスケットは就学の経験から、ハルはクーデリアからの教育である程度の教養を身につけている。

 

 だから現在の社会における越えてはならない一線を見極める事が出来た。 

 

 しかし他は学校に通った事がある者が少数派であり、文字すら読めない子供ばかりだ。 

 

 故にその辺の見極めが出来ない。

 

 いや、知らないのだ。

 

 それは教育を受ける前のハルも同じだった。

 

 だから昔を思い出す度に毎日が色々な意味で危険だったのだと認識させられる。

 

 オルガは確かに優れたリーダーだと思う。

 

 戦闘における判断も的確だ。

 

 だが組織のトップとしてはどうだろうか。

 

 組織としての活動は今までとは違いただ敵を倒せばよいという訳ではない。

 

 時に敵対している相手とでも笑みを浮かべ、腹の探り合いをしなくてはいけない。

 

 付き合いの浅いハルには判断が出来ないがビスケットとしては危ういと思っているのだろう。

 

 「まだ出会って間もない俺が言っても説得力がないかもしれないが、そこはビスケット次第だと思う」

 

 「僕?」

 

 「ああ。鉄華団の抱える問題をはっきり認識できているのはきっとビスケットだけだ。だからブレーキ役になれるのもビスケットだけだと思う」

 

 「ブレーキ役……でも、僕が言ってもオルガは……」

 

 「それでも言い続けるしかない。鉄華団の皆を大切に思っているのはお互い一緒なんだ。ならビスケットの意見は絶対に必要になる」

 

 ハルの言葉にしばらく考え込んでいたビスケットだったが、やがて思いが定まったように顔を上げた。

 

 「ありがとう、ハル。君の言う通りだ、せっかく一歩を踏み出したんだ。こんな所で――」

 

 その時、艦内に警報が鳴り響く。

 

 「これって、もしかして」

 

 「ああ、タービンズが来たのかもしれない」

 

 ビスケットと顔を見合わせたハルは急いでブリッジへと走り出す。

 

 

 鉄華団の行く末を左右する戦いが始まろうとしていた。

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