機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ vivere militare est   作:kia

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第7話  女傑乱舞

 

 

 

 

 宇宙を揺蕩う岩の陰に二機のモビルスーツが身を隠していた。

 

 それらはギャラルホルンの機体とも、そして鉄華団のような厄祭戦時の機体とも違うもの。

 

 そんな一種異様ともいえる機体のコックピットに座っているのは、これもまた異様。

 

 戦場に出るとは思えない妙齢の女性達である。

 

 今もモビルスーツに乗っているとは思えない緊張感の無い鼻歌を歌いながら、女性が足の爪にネイルを塗っていた。

 

 「ふん、ふん、ふ~ん」

 

 「ハァ、これから戦闘になるかもしれないのに呑気だなぁ」

 

 手元にある雑誌のページを捲りながら、反対方向にいる機体から聞こえる鼻歌に呆れたような声を掛けた。

 

 「それ私に言ってる?」

 

 「此処には私とラフタしかいないと思うけど?」

 

 「そういう事は手元の雑誌を仕舞ってから言ったら、ナーシャ?」

 

 「私はちゃんと見てるよ。後で旦那様に叱られたくないからね」

 

 「とてもそうは見えないけどねぇ」

 

 二人で軽口を叩きながら雑談しているとセンサーが動いている物体を捉えた。

 

 モニターに映し出されたのは一隻の船。

 

 ターゲットに間違いないと確認した二人の目は獲物を狙うハンターのように鋭い物に変わっていた。 

 

 「まるでエビみたい。早く食べたいなぁ」

 

 「ラフタの感性って変わってるよね」

 

 「えぇ、そうかな」

 

 緊張感の欠片も無いが視線は獲物から離れない。

 

 何時でもそう。

 

 ふざけているように見えても彼女達は常に本気である。 

 

 「楽しみ!」

 

 まるでご馳走を前にした子供のように逸る気持ちを押さえながら、狩人達は獲物を狩る瞬間を待ちわびていた。

 

 

◇ 

 

 

 イサリビのブリッジは息を飲む緊張感と共にどこか微妙な空気に包まれていた。

 

 《ガキじゃねぇって言うなら俺を敵に回すって意味が解ってるんだろうな?》 

 モニターの先で不愉快そうに眉を顰めるスーツの男、彼こそタービンズの代表『名瀬・タービン』である。

 

 隣には褐色の肌を持つ女性アミダ・アルカ。

 

 そしてそのすぐ横で息巻いている男こそ微妙な空気を作り出している元凶だった。

 

 マルバ・アーケイ。

 

 元CGSの社長であり、先の戦いでオルガ達を見捨てて逃げた男だった。

 

 何故、彼がタービンズと一緒に行動しているのか?

 

 どうやら昔に仕事をした事があったらしく、その縁で追い詰められたマルバを助ける事にしたらしい。

 

 話を聞くだけならば良い方にも聞こえるが無論、タービンズの提案は慈善事業などではない。

 

 CGSの資産丸ごとタービンズに預ける事がその条件である。

 

 マルバとしてはギャラルホルンと揉めたままより、タービンズの下で保護してもらった方が良いと判断したのだろう。

 

 しかし問題があった。

 

 CGSは廃業となり、その資産すべて鉄華団のものとなっていたのだ。

 

 つまりタービンズが此処に現れたのはCGSの資産を鉄華団から取り上げにきたという事。 

 

 鉄華団としてはそんな話は受けいれられる筈はない。

 

 資産回収に応じた際の彼らが提供してくれる真っ当な仕事とやらも、どこまで本当なのか信用もできない。

 

 ましてや自分達を見捨てたマルバの側についているのだから当然だ。

 

 しかし理由としてはそれだけではない。

 

 名瀬の言葉を信用できないのは大人たちに翻弄され、弄ばれ、裏切られてきたからこそ。

 

 そんな子供達の集まりである鉄華団には無理のない事だった。

 

 「何を言われようがそっちの要求は呑めない。アンタの道理がどうだろうが、俺達にも通さなきゃならない筋がある」

 

 《それは俺達とやり合うって事でいいんだよな?》

 

 「ああ。マルバ、お前にもな。死んでいった仲間のけじめきっちりつけさせてもらうぞ」

 

 《オルガァァ!》

 

 《生意気の代償は高くつくぜ》

 

 モニターの映像が消えると同時に緊張から解放された全員が息を吐いた。

 

 「此処までは予定通りだ」

 

 「うん。僕としてはもっと穏便に話を進めたかったけど」

 

 「向こうがそれを望んでない以上は仕方ねぇさ」

 

 タービンズとの交渉はマルバの件を除き、概ね計画通りに事が運んでいた。

 

 鉄華団の目的はクーデリアを地球へ運ぶ事。

 

 タービンズが持つ航路を使用させてもらえれば、無事に地球までたどり着く事が出来る。

 

 しかしそんな交渉にタービンズが応じない事はこれまでの組織を見ても明白だった。

 

 子供と見下されていたままでは、オルクスの二の舞になる。

 

 交渉とは対等の立場で行うものなのだ。

 

 そしてモーゼス曰く『基本的に組織が動くのは利益があるからだ』との事。

 

 つまりタービンズに鉄華団との取引に応じても良いと思わせる必要がある。

 

 だが鉄華団に示せるものなど、不本意ではあるが武力のみ。

 

 そこでオルガは鉄華団を対等だと思わせる為、取引に応じても良いと思わせる為、タービンズの無力化を図る事にしたのだ。

 

 無論、当然だがリスクもある。

 

 死人が出れば今後タービンズとの仲は修復不能になるほどこじれるだろうし、下手をすればテイワズそのものを敵に回す可能性も低くはない。 

  

 それでも千載一遇のチャンスである事も事実だった。

 

 「悪いな、ビスケット」

 

 「分ってる。退けないんだろ」

 

 「ああ。だから力を貸してくれ」

 

 ビスケットとしては今回の作戦は不本意ではあった。

 

 戦わずに交渉で済めばよいと名瀬にも話を持ち掛けたが、『火事場泥棒のガキが交渉の真似事なんかするな』と一蹴されてしまった。  

 

 事前の懸念通り話すらまともに聞いてもらえず、結局は戦闘になってしまった。

 

 こうなってしまえばビスケットも覚悟を決めるしかない。

 

 「……ハル、頼むよ」

 

 「ああ、何とかやってみる。フミタン、お嬢様を頼む」  

 

 「えっ、ハル? 私は自分で」

 

 「ノーマルスーツ、自分じゃ着れないから言ってるんですよ。後、よろしく」

 

 「ちょ、ハル!」   

 

 騒いでいるクーデリアを放ってノーマルスーツに着替えると格納庫に向かう。

 

 「悪いな、調整がまだ全部終わってねぇ」

 

 「仕方ないですよ。それよりバルバトスは?」

 

 「あっちはアスベエルよりも深刻だ。特にリアクターの方がな」

 

 つまりバルバトスはまだ出せないという事だ。

 

 となると昭弘のグレイズ改とアスベエルの二機で対処しなくてはならない。

 

 「分かりました。正面の敵は俺達で何とかします」

 

 「頼むぞ。バルバトスも何とかするからよ、それまで踏ん張れ」

 

 「はい」

 

 阿頼耶識を接続し、機体を起動させるといつもとは違う微妙な違和感と重みのような圧迫を感じた。

 

 「最近、連戦だったからか。機体の各所に不具合が出てる。ヤバいかもな」

 

 これは整備不良によるもの。

 

 接近戦で動きに制限が掛かるかもしれない。 

 

 この局面を切り抜けた後で鉄華団の整備方面に関しては何かしらの改善策が必要だろう。

 

 人手もそうだが、それ以上に知識不足は想像以上に深刻な問題だった。

 

 「クランクのおっさんを無理やり連れてくるべきだったか」

 

 彼が居れば少しは状況も違ったかもしれない。

 

 「ま、これでもやりようはあるさ」

 

 アスベエルの発進準備が整うとモニターにフミタンの顔が映る。

 

 「お嬢様は?」

 

 《自分で出来ると言って一人で中枢ブロックへ行かれました》

 

 一人で出来るとか絶対に嘘だ。

 

 クーデリアは昔から妙な所で見栄を張りたがる。

 

 料理の件といい特にハルの前ではそれが顕著だった。

 

 「自分でノーマルスーツ着れない癖に」

 

 《お嬢様は貴方に格好悪い所を見せたくないのでしょう》

 

 「もう知ってるのにか?」

 

 《ええ、知っていてもです。お嬢様の事はアトラさんにそれとなくお願いしておきましたから大丈夫でしょう》

 

 確かに世話好きなアトラに任せておけば問題ないだろう。 

 

 クーデリアとも仲が良く、最近は二人で子供達に勉強も教えているらしい。

 

 彼女に友達が増えるのは良い事だ。

 

 《敵艦からモビルスーツの発進を確認。数は二》

 

 「了解。雪之丞さん!」

 

 「おう、アスベエルを出すぞ!」

 

 ハンガーアームによって運ばれたアスベエルがカタパルトスペースまで移動する。

 

 《エアロック作動、カタパルトハッチ解放します》

 

 アスベエルの前方のハッチが開き、収容されていたレーンが伸びた。

 

 《カタパルトスタンバイ、いつでもどうぞ。……気を付けて》

 

 「ああ、そっちもな。ガンダムアスベエル、ハル・ハウリング、出るぞ!」

 

 押し出されると同時に機体を加速させ、先行した昭弘のグレイズ改に追いついた。

 

 「今回は俺達二人だ。よろしく、昭弘。当てにさせてもらう」

 

 「おう、こっちもな。で、三日月は?」

 

 「アイツはバルバトスがまだ動かせないから。あっちは任せておけば良いさ……来るぞ!」

 

 二機の前方から見慣れない機体が近づいてくる。

 

 「あれが百錬」

 

 『百錬』とはテイワズが厄祭戦時に開発予定だった高出力フレームのデータを元に独自に建造した機体である。 

 

 エイハブ・リアクターこそ厄祭戦時のものを使用しているが、フレームの建造を行えるのは現状ギャラルホルンを除けばテイワズだけであり、『百錬』はその象徴的な機体ともいえる。

 

 稼働している数は四十四機と少ないものの、その存在はある程度知られていた。

 

 「出撃してきた敵数は想定内だ。詳細なデータは手に入らなかったけど、後は戦ってみるしかないな」

 

 「油断するなよ、ハル!」

 

 「分ってる!」

 

 向かってくる二機の百錬に向け、アスベエルは滑腔砲を構えた。   

 

 

 

 

 イサリビとタービンズの船『ハンマーヘッド』との戦いは鉄華団側にとって苦しい展開となっていた。

 

 そもそもの位置が悪い。

 

 追尾してきたハンマーヘッドはイサリビの背後を取っていた。

 

 これによりイサリビは転進して、後退しながらの砲撃戦を強いられている。

 

 「少しは回避できねぇのか!」

 

 「迂闊に動けば距離を詰められて対艦ナパーム弾の射程に捕まる。目標ポイントまで、このまま!」

 

 「ミサイル接近!」

 

 「迎撃!」

 

 撃ち込まれたミサイルをイサリビの対空砲が撃ち落としていく。

 

 爆発による衝撃に揺られながら、ビスケットの声がブリッジに響き渡った。

 

 「これを繰り返されるとナノラミネートアーマーでも融解するんだ。迎撃可能な距離を維持して!」 

 

 「このままでもヤバいけどな!」

 

 ビスケットの言葉に舵を握るチャドが冷や汗を掻き、ユージンが歯噛みする。

 

 敵艦からのミサイルと主砲による波状攻撃に耐えながら、目標ポイントまで移動すべく進路を維持する。

 

 そんな修羅場と化したブリッジにアトラに連れられたクーデリアが飛び込んできた。

 

 「アトラ、クーデリアさんも!? 二人共、何で此処に?」

 

 「私はすべてを見届ける義務があります」

 

 「あれ、オルガさんは?」 

 

 「オルガは他にやる事があるのさ。それより此処は危ないから、さっさと奥に戻って―――」

 

 ユージンの言葉を遮るように上方からの攻撃がイサリビを大きく揺らした。

 

 「今の状態じゃ動く方が危ない! その辺に掴まってて。アドモスさん、今の攻撃は?」

 

 「上方から敵モビルスーツ。数は二」

 

 「百里って奴かよ」

 

 『百里』とは不安定なエイハブ・ウェーブや多数のデブリなどネガティブな条件の多い木星圏での活動を主とするテイワズが開発した高い索敵能力と長い航続距離を与えられた機体である。

 

 二機の百里は背中に装備した四角のバックパックの出力に物を言わせ、通常のモビルスーツとは比較にならない速度でイサリビに向けて突撃してきた。

 

 「くそ、このままじゃ嬲り殺しにされる! 三日月を出せ!」

 

 「バルバトスはまだ万全じゃないって言ってるけど」

 

 「どの道このままじゃ落とされる!」 

 

 「了解」

 

 格納庫にて急ピッチで整備が進められていたバルバトスもようやく動かせる状態まで持ち直していた。

 

 しかしあくまでも動かせるだけであって万全には程遠い。

 

 「悪いな、三日月。リアクターの調整は完璧じゃねぇ」

 

 「いいよ、動くなら何とかするさ。それに腹の中に入ったまま死ぬ気はないよ」

 

 イサリビのハッチが開き、バルバトスが発進位置に固定される。

 

 《発進、いつでもどうぞ》

 

 「三日月・オーガス、バルバトス、出るよ」 

 

 出撃したバルバトスを待ち受けていたのは二機の百里だった。

 

 水を得た魚の如く、宇宙を縦横無尽に動き回る敵はバルバトスの砲撃をいとも容易く避けてみせた。

 

 「バルバトスの動きが鈍い。それ以上に敵の動きが速すぎる」

 

 滑空砲が敵を捉える前に敵は視界から外れ、背後を取って攻撃してくる。   

 

 「俺達の船に勝手に手を出すな」

 

 「生意気!」

 

 「そんな動きじゃ私達は捉えられないよ」

 

 百里を操るラフタとナーシャは見事な連携でバルバトスを翻弄し、ライフルを立て続けに直撃させる。 

 

 その衝撃に耐えながら、爆煙から飛び出した三日月は再び滑空砲で百里の動きを牽制した。

 

 敵は速く、バルバトスも本調子には程遠い。

 

 だからまずは動きを止める必要があると判断したのだ。

 

 しかしそんな三日月の思考を嘲笑うように二機の百里はさらにアクロバティックな機動で砲撃のタイミングを外してきた。

 

 「推進力が違うっての!」

 

 「砲撃なんて当たらないよ!」

 

 大推力ブースターによる急旋回、そしてバク宙による方向変換。

 

 避ける間もなく背後からの一撃がバルバトスの脚部に直撃。

 

 さらにすれ違うように正面から突っ込んでくる一機が肩にライフルの一撃を叩き込んできた。

 

 「ぐぅぅぅぅ!!」

 

 二人のパイロットは射撃の腕も良いらしい。

 

 あれだけの速度で動きながらも正確にバルバトスへ直撃させてくる。

 

 「遅い、遅い、遅い!!」

 

 「火星で見た時よりも動きが鈍い。整備不良かな? だとしても手加減はしてあげられないけどね」

 

 舞うように動く百里はライフルによる攻撃を繰り返しながら、動きの鈍るバルバトスを追い込んでいく。 

 

 

 

 

 苦戦するバルバトスと同じく先行していたハル達もまた厳しい戦いを強いられていた。 

 

 「ほら、どうした坊や達!」

 

 「くっ」

 

 アミダ・アルカ、そしてアジー・グルミンの駆る二機の百錬の動きは今まで戦ってきたギャラルホルンのパイロットとは一線を画していた。

 

 特にアミダは百戦錬磨ともいうべき戦巧者である。

 

 アスベエルの斬撃を上手く流し、的確に急所を突いてくる。

 

 さらにアジーもまた曲者だ。

 

 援護に入ろうとする昭弘を上手く牽制しながら、アミダへの支援も忘れない。

 

 堅実であるが故に隙がなかった。

 

 機体の不調に加え、即席のコンビであるハルと昭弘ではこの二人の裏をかくのは至難の業であった。

 

 「イサリビの方は?」

 

 「援護に行きたいけど、この二機を何とかしないと」

 

 滑空砲で射撃しながら二機を引き離し、徐々に後退しながら距離を取る。

 

 しかし逃がさないとばかりに一気に距離を詰めた百錬は片刃式ブレードを抜き、襲い掛かってきた。

 

 「他所を気にしている余裕があるのかい!」

 

 アミダの片刃式ブレードが肩を斬り裂き、至近距離から発射されたアサルトライフルがアスベエルの装甲に直撃する。

 

 そこに割り込んだアジーの蹴りがグレイズ改を吹き飛ばした。

 

 「ちくしょうが!」

 

 「ぐぅ、機体の挙動が鈍い、けど!」

 

 大剣の腹で振り抜かれたブレードを止め、分割した剣を百錬に叩きつける。

 

 「昭弘!」

 

 「おお!」

 

 刃が脚部を捉え、バランスを崩した所にグレイズ改が体当たりで吹き飛ばす。

 

 そして立て続けに発射したライフルが百錬に直撃した。

 

 「姐さん!?」

 

 「チッ、このくらい大したことないさ。しかし中々粘るじゃないか」

 

 互角に見える戦いは確実に鉄華団の方が追い詰められつつある。  

 

 それだけの手応えをアミダは感じていた。

 

 「ま、坊や達にしては頑張ったけどね。一気に決着をつけるよ、アジー」

 

 「はい、姐さん」

 

 勝負を決めるべく前に出る二機の百錬。

 

 ライフルの銃撃に晒され、銃弾がアスベエルの頭部に直撃し、爆煙が機体の姿を覆い隠した。

 

 その隙にアスベエルは滑空砲を別方向へ切り離し、敵の意表を突く形でその反対から飛び出すと大剣を振り抜いた。

 

 振り抜かれた一撃がアジーの百錬に傷をつけ、同時に振り抜いたもう一太刀がアミダのライフルを奪い去る。

 

 その隙に距離を詰めた昭弘がアジーの機体を殴り飛ばした。

 

 「ッ!?」

 

 「やるねぇ。けど、甘いんだよ!」 

 

 アミダはアスベエルの腕を掴み、反対方向へ引っ張ると背中に蹴りを叩き込む。

 

 「此処までだよ、坊や達!!」

 

 しかし追い詰められた筈のハル達は冷静なまま。

 

 ひたすらレーダーで敵味方の位置だけを確認していた。

 

 そこでアミダとアジーも気が付く。

 

 「敵、味方がほぼ一か所に集まっている?」

 

 先行していた筈のアミダ達は砲撃を繰り返しつつ後退するアスベエルとグレイズ改を追って、いつの間にかバルバトスと交戦する百里の戦闘域に近づいていた。

 

 当然、その傍にはイサリビやハンマーヘッドが居る。

 

 「まさか、誘われた?」

 

 「今更気がついても遅い!」

 

 出撃前から厳しい戦いになる事は予想していたのだ。

 

 だからこそ、この瞬間を待っていた。

 

 「ハル、そろそろだ!」

 

 「ああ、イサリビ!!」

 

 予定していた通りのポイントにイサリビのブリッジも動き出す。

 

 「ビスケット!!」

 

 「うん!」

 

 タイミングを見計らい、ビスケットが端末のスイッチを押す。

 

 すると二隻の船の傍に浮遊していた小惑星が爆発した。

 

 「何!?」

 

 「爆発した!?」

 

 その爆発により細かく飛び散った破片が宙域全体に放射状に広がっていく。

 

 さながら周囲を包む雨となった岩片は鉄華団のみならず、攻勢を仕掛けていた百錬、百里、そしてハンマーヘッドを巻き込んでいく。

 

 「姐さん!」

 

 「落ち着きな! 爆発の規模が小さい。飛び散った岩片も大したことは無いから、モビルスーツや戦艦が潰されはしないよ!」  

 

 「でも動きは止まったよなァァァ!!」

 

 「ッ!?」

 

 岩場を縫って突撃してきたグレイズ改のアックスがアジー機の腕を潰し、射出したワイヤーが岩と機体を固定してしまう。

 

 「アジー!?」

 

 「余所見してる暇があるのか!!」

 

 忍び寄る悪魔の一太刀。

 

 それが百錬の脚部を捉えて、食い込んだ。

 

 「チッ、今のも躱すか!」

 

 背中のブースターを狙ったのだが、敵パイロットが咄嗟に機体を捻って避けて見せたのだ。

 

 改めてパイロットの技量に舌を巻く。

 

 「やってくれるじゃないか!」

 

 「まだだ!」

 

 「いいねぇ、そういうのはさ!」

 

 攻撃を繰り出そうとしたアスベエルに蹴りを入れ、さらにブレードを叩きつけてくる。

 

 ハルは上段からの一撃をあえて避けず、左腕を突き出して受け止めると思い切り叫んだ。

 

 「昭弘!」

 

 「オオオオオ!!!」

 

 突撃したグレイズ改がアミダの百錬に組み付き、岩片へと叩きつける。

 

 「邪魔だよ!」

 

 何度も肘を叩きつけられ、頭部がひしゃげていくが昭弘は百錬を離さない。

 

 「俺ごとやれ!」

 

 「分かった!」

 

 アスベエルの持っていたワイヤーが射出され、グレイズ改ごと拘束した。

 

 「後は!」

 

 ハルの視線の先。

 

 そこにはラフタの百里をワイヤーで捕まえたバルバトスの姿があった。

 

 「こんなもので!」

 

 「それでも動きはかなり鈍ったね!」

 

 散乱する岩の所為でアクロバティックな機動は目に見えて少なくなっていた。

 

 さらにワイヤーで掴まれた事で上手く身動きできていない。

 

 三日月は岩にワイヤーを引っかけて百里を引き寄せると、メイスを振りかぶる。

 

 「そろそろ止まれよ!」

 

 「舐めるなァァァ!!」

 

 百里のバックパックに収納されていた腕が露出し、振り下ろされたメイスを横へと弾く。

 

 「な!? しぶといね」

 

 「そっちこそしつこい男は嫌われちゃうよ。それにもう一機いること忘れてない?」 

 

 「そういう事!」

 

 上方にバルバトスを狙うナーシャの百里がライフルを構えていた。

 

 「こっちの勝ちだね!」

 

 「どうかな?」

 

 「は? ッ!?」

 

 突如、岩が動き出し、百里に向かってきた。

 

 咄嗟に避けるナーシャ。

 

 だがそこに待ち構えていたのは大剣を担ぐ悪魔だった。

 

 「ハアアアアアアア!!!」

 

 一直線に突撃してきたアスベエルの大剣が百里のバックパックを貫通、ワイヤーを射出して岩片へと繋ぎ止めた。

 

 「ぐぅぅ!!」

 

 「これで後はそっちだけだ!」

 

 「分ってる」

 

 百里を見下ろすバルバトスが再びメイスを振り被ろうとした瞬間、戦闘中止の声が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 鉄華団とタービンズの戦闘。

 

 それを離れた場所で見守っているものがいた。

 

 黒コートの仮面をつけた人物である。

 

 モニターの映像にはスモークを発射したイサリビがハンマーヘッドへと突撃していく姿が映し出されていた。

 

 「……すれ違った際に敵艦へと侵入するか」 

  

 「あまりに無謀で危険な策です」

 

 呆れたように傍に立つ女性が呟いた。

 

 「だが運命を切り開く為には命を懸ける選択が必要になる時もある。彼らのようにな」

 

 小惑星の爆発も鉄華団の事前の仕込みだ。

 

 おそらく様々な面で劣る鉄華団がタービンズを抑え込む為に考えた策なのだろう。

 

 タービンズの戦艦、モビルスーツを各々が押さえ、罠を仕掛けたポイントまで誘導。

 

 タイミングを見計らい爆弾を起爆させ、相手の視界を奪うと同時に機動力も落とした所で攻勢に出る。

 

 そんな所だ。

 

 各モビルスーツをパイロットを殺さずに、敵艦ブリッジを押さえれば交渉も可能だと考えたのだ。

 

 「手持ちのカードが無い以上、そうする他選択肢がないというのは理解できる」

 

 「しかしそれでは運の要素があまりに強い」

 

 「運も重要な力の一つさ。運の無い奴は何をしても生き残れない。……それにしても前より動きが悪いな」

 

 見つめていたのはアスベエルとバルバトスだ。

 

 明らかに挙動に乱れが多い。

 

 「アスベエルは当然としてバルバトスも。整備不良といったところか」

 

 「今現在、ガンダム・フレームに関する情報は少ないですし、当然ですね。彼らにそれを補う物資や知識があるとも思えません。それでアスベエルも含め、今後どうなさるのですか?」

 

 「鉄華団……テイワズか、それとも今まで通りの野良犬か。彼らがどちらに転んでも、使えるかもしれないな」

 

 仮面の人物は笑みを浮かべ、鉄華団の戦いを眺めていた。

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