「彼が卿の息子だという男か」
「然り。まあ今は、聖遺物を取り込んだ影響で意識は失っているがな」
ということにしよう。
メルクリウスはあの後、聖槍十三騎士団黒円卓のアジトである、ヴェヴェルスブルグ城に向かい、その首領である、ラインハルト・ハイドリヒにロートスを紹介しに行った。
「まだ、体が丈夫でないゆえ、私たちのように意識を保つことが出来なかった。そういう事だよ」
「なるほど。彼はまだ活動であるな?」
「まあそうだな。取り込んだ直後にそれを使うことが出来たというのは驚きだったな。彼と獣殿、あなたくらいしかおらぬよ」
「そうか。あとが楽しみだな。ところで、彼は誰に任せるのだ?同じ家に住んでいるマレウスか、似たような境遇のベイか。それとも形成位階のバビロンかシュピーネか…」
ラインハルトは、すぐに彼を使える人材に育てたいらしく、急かしている。
「そうだな…。シュピーネがいいかな。前にも話しただろうが、別の世界の『藤井蓮』はシュピーネのおかげで形成位階に達したのだ。マレウスだと情が湧く。ベイだと残虐になる。バビロンは攻撃手段が他人だ。クリストフなどでも良いが、生憎、今ドイツにはいないからな」
「ああ、そうだ。ベイと同じ境遇だと言うので思い出した。彼は卿の息子…卿が育てた訳では無いのだろう?いわゆる養子に卿が出したという…。ならば、育ての親に許可をとらねばならないのではないか?」
しかしメルクリウスは、養父であるアドップにそのような真似はしないと言ってしまった。
「まあ…その辺は…そうだな…。なんとかするよ」
あとのことは全く考えていなかった。
「大丈夫なのか?」
「ああ…いや…あー…。うん。マレウスに頼んでみるよ。彼女が私に従ってくれるかは賭けだが…」
「はぁ…。分かった。いざとなれば私が出よう。それっぽく適当に言えばいいのだろう?」
「では、交渉に行ってくる。…いや、ついてきてくれないか…?」
勇ましく扉から出ていこうとしたメルクリウスは、直後、後ろを振り向き、ラインハルトにそう願った。
「なぜ卿はそんなにも緊張しているのだ?と言うよりなにか、怯えているような」
「ああー…いや。そういう訳では全くないのだが…」
「まあ良い。私が行けば、信憑性が増すという事だな。良かろう。行こうじゃないか」
そうして2人は、ロートスをその部屋に置いたまま、出て行った。
「……?ここは…」
その数分後、ロートスが目を覚ました。
「…?俺、さっきまで処刑場いたよな…。あの後の記憶が…」
「おや?貴様がクラフトが言っていたツァラトゥストラとやらか?」
辺りを見回していると、赤い髪を持ち、タバコを吸っている美女が話しかけてきた。
「あんたは?」
「質問に質問で返すとは。まあ良い。話しかけた私から名乗るのが常識か」
笑いながら美女はそう言った。
「私の名前はエレオノーレ・フォン・ヴィッテンブルグ=ザミエル・ツェンタウア。この城の皆からはザミエルと呼ばれているよ。さて、君は誰だ」
ザミエルは訊いた。
「俺は…ロートス・ライヒハート。ただの田舎者だ…」
ロートスは名乗った。相手が名乗った限り、自分も名乗るのが礼儀というものだろう。
「なるほど。ではロートス。貴様はツァラトゥストラか否か。答えたまえよ」
「…いや…。ツァラトゥストラってなんだ?」
ザミエルにとっては予想外の回答だったのだろう。目を見開き、驚いている様子だった。
「本気で言っているのか…?冗談で言っているのなら、焼き殺しているがな」
「じょ、冗談じゃない!俺の名前はロートスだと言っただろ?」
ザミエルは、なるほどなと呟き、ロートスに向かって歩き出した。
思わずロートスは身構える。
「っ…!」
「そう固くなるな。少年。君の状態はよく分かった。大方、ここに来たばかりなのだろう?」
ザミエルはロートスの頭を撫でながらそう言った。
「ところで、ここにいるということは何かしらの聖遺物を宿しているはずなのだが…。まあそれも分からんのだろう。分かりやすい例を連れてきてやる。ここで待っていろ」
そう言ってザミエルは扉から出ていった。
(…聖遺物…。この腕に入ってきたやつか…?)
ロートスはそう考える。そこまでの記憶はあるようだ。
「そういえば…あの人は…?」
メルクリウスがいないことに気がついた。
「どこに行ったんだ…」
そう思っていると、再び扉が開放された。
「ああ、あなたがザミエル卿の言っていたツァラトゥストラですか。見た感じ子どものようですが…」
扉から入ってきたのは、色白で手足の長い痩躯の男。なんとなく蜘蛛のような印象を得る。
「私はロート・シュピーネ。以後、お見知り置きを」
丁寧に挨拶をする。
「あ、ああ。俺は…」
「ああ、大丈夫ですよ。副首領閣下から伺っております。ロートス君ですね?」
「え?あ、うん。そうだ…。そうだ。さっきの…ザミエル?はどうしたんだ?」
「ザミエル卿は私を呼んだらどこかに行きましたよ。恐らく大隊長の会議かなにかでしょうが」
シュピーネが丁寧に教えてくれる。
(堅苦しいけど、優しそうな人だな)
話してみた印象はこうだ。
「さて、聖遺物の説明をしてこいと言われましたが。まずあなたは聖遺物がなにかご存じですか?」
「いや…知らない。けど、多分この中に入ってるやつ…だと思う」
右の腕を見ながら答える。
「聖遺物は人によって違うんですよ。私のは
そう言いながらシュピーネは体から糸を出した。その糸は壁に付き、固定された。
「あなたは…まだ形成は出来ないでしょうか。まだ取り込んだばかりですからね」
「聖遺物ってのはなんであるんだ?これを見る限り何に使えるのか…。スパイ○ーマン?」
「ふん…。そうですねぇ…。私たちの個々の願い…渇望を叶えるため、ですかね…」
「個々の…願い…?」
「そうです。あるポイントで
シュピーネが微妙な表情でそう言った。
「尤も、私は殺しが好きだからやっているだけで、そんな願いは叶えてもらわなくても良いのですがね」
「殺しを…!?って事はこれって凶器なのか!?」
腕を見ながらロートスが叫ぶ。
「まあ、そういうことになりますねぇ。正しい使い方をすればそんな殺さなくても良くなるのでしょうがね」
「そんなものを俺に…!?」
「まあしかし、一般人は殺しませんよ。殺すために戦うのは我が国ドイツの敵になりうる国家ですよ。それに、あなたに適正があったからそれはあなたに取り込まれたのです。…どうです?我々、
シュピーネが糸をしまいながらロートスに勧誘してくる。
「あなたは副首領閣下の息子なのでしょう?なら、確実に少将の地位以上になれるはずですよ」
シュピーネがそうロートスに言った数秒後、また扉が開き、誰かが入ってきた。
「おや?シュピーネではないか。これから呼びに行こうと思ったのだが…手間が省けてよかった」
メルクリウスとラインハルトだ。
「目が覚めたようだな。ツァラトゥストラよ」
「あんたは…?」
「私はラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒ。卿の縁者から
「悪魔…」
なんて恐ろしく、そして陳腐な形容なんだ。
「さて、シュピーネよ。卿に彼の教育係を命ずる。そしてツァラトゥストラよ。卿の親…から許可を得ることが出来た。ここに学校のように通うか、住むか。決めたまえよ」
「アドップさんからはどちらでも大丈夫だと言われている。どちらにもメリットがあり、そしてもちろんデメリットもある」
メルクリウスがそう言ってくる。
「ま、待てよ。俺はお前らの仲間になるなんて一言も…」
「良いのかツァラトゥストラ。これに従わないことによって、卿の大切な人に刃が向くかもしれんぞ?」
完全に脅しだ。
(なんて汚い手を…)
「それにマレウス…卿の姉は我々の仲間だ。これで引くという考えは無くなったろう」
アンナ…。こんな殺人者の仲間なんかに…。
「まあじっくりと考えるといい。だが、もう卿は聖遺物と契約してしまったから仲間になるという手しかないと思うがな」
そう言ってラインハルトは部屋から出ていった。
「カール・クラフト。そしてシュピーネ。どうしたらいいと思う」
「そうだな。素人がそれを自分だけで扱うのは難しい。扱うのになれる為にも、我々の仲間になってもらった方が良いと私は思うね」
「同じく、仲間になった方が良いと思いますよ」
2人がそう言う。
「アンナは…?アンナに意見を聞きたい」
「マレウスか。そう言うと思って連れてきたんだが…。どこかに行ってしまったようだな」
「私、探してきましょうか?」
シュピーネがそう尋ねる。
「ああ、頼むよ。だが、一緒に来ること。マレウスもお前も、逃げかねない」
「わ、分かってますよ…。信頼ないんですかね…」
呟きながら退室する。
「さて、これから君が仲間になったと仮定して、これからの君の予定を述べていくが、よろしいかな?」
「ああ。構わない」
メルクリウスの質問にロートスは快諾する。