「シュピーネ。いるか?」
ロートスは、シュピーネの部屋に行き、そう訊いた。
(返答がない…いないのか…?)
さて困った。早々に形成を覚え、さっさとアンナを連れて、ここを出て行きたいのだが…。
と、そこに白い髪に赤い瞳を持つ、アルビノの男が通った。
「すまない。シュピーネがどこにいるか知らないか?」
「あ?シュピーネだぁ?知らねえな。なんだお前。新人か?」
不良のようにアルビノはロートスに言う。
「ああ。そうだ」
「あー…。メルクリウスのクソ野郎が言ってたツァラトゥストラって奴か。なるほどな。どうせ形成を覚えようってんだろ。手ェ貸してやろうか」
アルビノがロートスに訊く。
「教えてくれるってんなら誰でもいい。教えてくれ」
「ハッ。いい度胸してんじゃねえか。じゃあ大広間に行くぞ」
そうして2人は大きな広間がある部屋へと向かっていった。
アルビノの名はヴィルヘルム・エーレンブルグ=カズィクル・ベイというらしく、彼曰く、吸血鬼らしい。
不良のように振舞っているが、根はいい人のようだ。話してみての感想だ。
「で、俺の体から生えてるのが、俺の聖遺物の形成した姿だ」
彼の体から赤い杭が無数に生えている。
「ああ、触らない方がいいぜ。精気吸われっからな」
「あ、ああ。すまない」
触れようとしてみたが止められた。
「俺も使えるようになるのか?」
「そうだな。形成位階くらいまでは誰でも行けるさ。ただ、その後の創造位階ってのになるとなれないやつも出てくる。真っ当な考えを持ってる奴だな」
創造位階というのは、自分の渇望を世界に一時的に付与するというものらしい。彼はまだ完全に吸血鬼に成り切れてないから『吸血鬼になりたい』という渇望を持っている。
少し会話をしていると、すぐに目的の場所へと到着した。
「少し騒がしいな…。誰か使ってんのか?」
そう言いながらヴィルヘルムが扉を開放した。
そこには、ザミエルと黒い男、そして白い少年がいた。
「げっ…。大隊長どもじゃねえか…」
「あれ?ベイじゃないか。どうしたんだい?」
少年が問う。
「こいつの訓練しに来たんだよ。ちょっと開けてくんねえか、シュライバー」
「へえ。こんにちは」
シュライバーと呼ばれた少年が子供に言うように言ってきた。
「…ども」
「無愛想だねぇ。マキナみたいじゃないか」
シュライバーは黒い男の方を向き、そう言った。
「お前は…。…見たことがあるが…どこでだ…」
男がロートスを見るとそう言った。
「ああ。俺もアンタを見たことがある。でも、どこだか思い出せない。俺ら初対面だよな?」
マキナと呼ばれた男に何故かそのような感覚を覚えた。彼とは初対面のはずだが…。
「ああ。もしかしたら、ハイドリヒが言っているように、既知感というものなのかもな」
「既知感…」
「んなクソみてえな理論はどうでもいいんだよ。早く退け」
「彼の訓練をハイドリヒ卿から仰せつかっているのはシュピーネのはずだが、何故貴様がやる?」
ザミエルがヴィルヘルムに問う。
「シュピーネがいなかったからな。代わりに俺が見てやろうってんだよ。やるなら早くやった方がいい。それに、てめえら大隊長サマじゃこいつに教えるのは無理だろ。ハイドリヒ卿とメルクリウスも論外。イザークも然り。さっきマレウスとすれ違ったんだが、憔悴しきっていた。あれもダメだ。カイン、クリストフ、レオン、バビロン、ヴァルキュリアは今ここにはいねぇ。故に、俺しかいねえな。教えられるのは」
「なるほどな。良かろう。我々の
ヴィルヘルムの演説を聞いたザミエルが大隊長二人に提案する。
異論は無いようで、マキナとシュライバーはその場から早々に消えて行った。
「あまりスパルタにはしないようにな」
そう言い残し、ザミエルも炎に包まれて消えて行った。
「さあ始めようじゃねえか。ツァラトゥストラ」
「ああ!」
こうして、ロートス・ライヒハートの聖遺物に慣れるための訓練が始まった。