Dies irae(別世界)補足   作:機械龍

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遊佐司狼の回想
遊佐司狼の過去


 遊佐司狼という男は、喧嘩が好きだった。ロートス――藤井蓮と出会った高校時代にも、彼は蓮と、事件になるような喧嘩を起こしたことがある。

 喧嘩に強くなるにはどうしたら良いか。彼はそんなことばかり考えていた。筋トレをして、強靱な肉体を手に入れる。ボクシングや空手、柔道などの格闘技の有段者になる。そういう人を集めて喧嘩をし続ける。――彼は全て試した。しかし何かが違う。俺が求めている強さはこういうのじゃない。

 ちょうどその頃、周りで噂されていたのが聖槍十三騎士団黒円卓という組織だった。幸い、その支部は彼の住んでいる諏訪原市にあったため、そこにたどり着くのには時間がかからなかった。噂というのは「人智を超えた化け物がいる」だの、「あそこに足を踏み入れたが最後、もう帰って来れない」だの、アホらしい身も蓋もない噂だった。そこを探っている時に知り合ったのが藤井蓮と櫻井螢だった。なにやら2人は、聖槍十三騎士団にと関係があるらしい。

「おい蓮。お前、聖槍十三騎士団黒円卓って知ってるか?」

 ある日の帰り道、彼は友人にそう聞いた。

「…知らない。なんでそんなこと聞くんだ?」

「気になったからに決まってんだろうが。あと、その知らないってのは嘘だな」

「なに?」

 彼に特殊な能力がある訳では無い。ただ、周りで噂されているのに知らないと言ったこと、そして、最初の間の違和感で放った、勘の一言だった。

 しかし、蓮はすぐにそれを認め、そこの団員であることを告白した。

「俺をそこに入れてくれねえか?」

「なんでだ。あそこは危険すぎる。俺が言えたことじゃないけど」

「お前が良くて、俺が悪いなんてことは無いだろ。前にも言っただろ「既知感(デジャブ)」が止まんねえって。そこに行けば「既知感」が消えるかも知んねえだろ?」

「遊佐君。あなた、死に行くようなものよ?やめておいた方がいいわ」

「大丈夫だ。俺が「既知感」を感じてる間は絶対に死なねえ。死ねねえからな」

 それを言ったところで、2人の様子が変わった。

「そうか。そんなに行きたいなら行かせてやるよ。今度の日曜、この場所に来い」

「おお、分かった」

 ――そして、約束の日。

 約束した場所は海浜公園。カップルが昼間からイチャイチャしている、いわゆるデートスポットだ。

 そこに男二人でいるというかなり場違いなことをしている。しかし、二人とも俗に言うイケメンなので女性が色めき立っている。

「蓮、早く行こうぜ。なんか…そろそろ奴らに動きがあってもおかしくねえぞ」

「そう…だな。じゃあ行くか」

 周りの女性を尻目に、彼らは歩き出した。

「ここは…」

「そう。教会だ」

 目の前には、キリスト教の教会が建っている。ここには2人の先輩が住んでいる。

「ここの地下に支部がある。行くぞ」

 歩きながら会話をする。

「こんなところにあっていいのかよ」

「さあな。だけど、首領が言ってるんだ。しょうがないんだろ」

「ふーん」

 2人は会話をしながら、教会の中に入っていく。

「ここだ」

 礼拝堂に地下への階段があった。

「へえ。それっぽいじゃねえか」

「入るぞ」

 階段はとても長く、それがずっと続いていた。

「いやーなんか怖えな」

「俺も最初は怖かった。もう今は慣れたけどな」

「お待ちしてました。司狼さん」

 階段を下り終え、通路にさしかかったところで金髪長身のカソックを着こなした男性に声をかけられた。

「ああ、神父さん」

 ここに何故彼がいる?この教会の神父だが…。あの噂には合わないほど、温厚な人物だ。

「ここにいるってことは、神父さんがここからの案内人ってわけか?」

「そういう訳ではありませんよ。ここから先は魔の領域。あなたのような常人にはもしかしたら耐えられぬかもしれません。私はその呪詛の魔術を抑えるためにいるのですよ」

「魔の…」

 恐ろしく、そして在り来りな表現だ。

「トリファ神父。脅かすなよ。司狼、根っからの嘘…って訳じゃないけど、そういう事だ。気にすんな」

「ははは、すみません。では、行きましょうか」

 そして3人は通路を歩き始めた。

 …しばらく歩いていると、巨大な扉に突き当たった。

「さて、ここの扉からは1人でしか入れない決まりなんです。私たちは他の扉から入りますんで、後で合流しましょう」

「え?あ、ああ。分かった。じゃあ、あとで」

 司狼は両手でその巨大な扉を開けた。

「…おお、すげえな…」

 中には巨大な円卓があり、その周囲には13個の座が配置されていた。それぞれ、何か文字のようなものが刻まれているが、アルファベットでも日本語でもないため、何が書いてあるかはわからない。

「黒い…円卓…。なるほど、「黒円卓」か」

 13個の座も「聖槍十三騎士団」ということなのだろう。

『座り給えよ』

 どこからか声が聞こえてきた。低く、外国人が日本語を喋るような口調だったが、とても流暢だった。

 すると、1番の座のところに黄金の(もや)が出現した。ホログラムか?

『その7(ズィーヴェン)8(アハト)…いや、8が良いだろう。どうせこの後ツァラトゥストラが来るのだろう』

「ツァラトゥストラ?」

 司狼は訊いた。

『ああ、卿が仲良くしているあの少年。確か君には藤井蓮と名乗っていたかな』

 指示されたように8番の座に座りながら、司狼は次いで質問をした。

「なんだ、蓮はツァラトゥストラってのか?あいつドイツからの転校生だったからなぁ。ありえない話じゃないか」

『彼の本名…では無いが、いわゆるあだ名のようなものだよ。まあ、これも少し的が外れてるかもしれんが』

 すると、司狼の右斜め後ろの扉と右斜め前の扉、そしてその二つ隣の扉が開いたような音がした。そこからは蓮と先程の神父、そして螢が登場した。3人は軍服のようなものに着替えていて、司狼だけが洋服という、なんとも浮いている状況が形成された。

「ラインハルト。そういう話はあとにしてくれ。今話して欲しいのは、司狼を入団させるかについてだ」

『そうか。ならば結論は出ている。空いている席はない。故に卿を入団させることは不可能だ』

「なっ…!おい!俺はなんのためにここに来たんだよ!」

 机を強く叩き、口論の姿勢を示した。

『だが、卿は『既知感』を感じていると言っていたらしいな。それに、その間は何をしても死なないと』

 突然そのことに話題を移されたため、腰をおられた。

「あ、ああ。この間トラックに思い切り轢かれたときも死ななかった。「前に感じたことがある」だとか思ってよ」

 確実に死ぬような状況でも死なないのだ。自分は無敵だとか考えてしまうよな。

『レオンハルト、アレ(・・)の複製は持ってきているな?』

「ええ。ここに」

 レオンハルトと呼ばれた螢が机の下から出したのは本のようなものだった。

『これは呪われた聖なる遺物。聖遺物だ。これと契約してもらう』

「まあ、力が付くならそれでも良いか。いいぜ。どうやんだ?」

『契約の意思を示せばおのずと契約されるさ。尤も、その器でないと判断されたら拒絶されるがな』

 螢がやり方を教えてくれる。正直、ラインハルトと呼ばれた黄金の話はよく分からなかったため、ありがたい。

「っ…オオオオオォォォ!!!」

 バチバチバチバチ!!!

 手をかざし、念を入れた途端に、手に激痛を覚えた。

『ツァラトゥストラ。彼が形成を上手く扱えるようになったら、戦いを指南してくれ。創造、…流出までもが使えれば上出来だが、創造までで構わん』

「了解。でも、俺でいいのか?俺だと殺しちゃうかもしれないし…。櫻井の方がいいんじゃないのか?」

 ギロチンと刀だ。処刑具と生粋の武器とでは性能が違いすぎる。

『誰でも殺してしまう可能性は変わらぬだろう』

「もしくは、俺の時みたいにシュピーネにやってもらうとか」

 ロートスは蜘蛛のような、細い男を思い出していた。

『残虐性が高すぎる』

「じゃあシスター…」

 今度はFカップの、教会のシスターとしては凶暴すぎる胸を持った母性に溢れた女性を思い出す。

『攻撃手段がカインだ。最も危険だ。』

「そうか…。なら仕方がない。俺がやろう…」

『ああ、了承してくれてありがたい』

「ラインハルト…。終わったぞ…」

 程なくして、司狼の契約が終わった。

『それはとある聖遺物の複製だから、性能はそれに劣る。だが、卿なら本物ですら超えられるだろうよ。では、指南を頼んだぞ、ツァラトゥストラ――』

 そう言い残すと、ラインハルトは消えていった。

「おい…!」

「行ってしまわれましたね」

「複製版という話は本当か!?」

「ええ。間違いありません。正規団員でないあなたには本物を与えることが出来ない、ということでしょう」

「ちっ。てめえの都合で俺をはねのけた上に、てめえの都合で模倣品か…。舐めたことしてくれるじゃねえか」

「だけど、ラインハルトはお前に、本物ですら超えられるだろうって言ってただろ。別に本物だろうが、偽物だろうが関係ないってことだろ」

 蓮が司狼の的はずれな怒りを鎮めようとする。

「まず最初は、慣れる所からだ。俺とレオンハルトで教えてやるから、ちょっとは我慢しろ」

「…ッ!」

 司狼も、そこまで聞き分けが悪いバカじゃない。

「わったよ。あー、神父さんよ、ひとつ聞かせてくれ。これの本物は誰が持っているんだ?」

「そうですね…。ドイツにいるマレウス・マレフィカルムという方ですよ。彼女が持っています」

 聖遺物を誰が宿しているかはトップシークレットの情報だ。漏らす訳にはいかない。しかし、誰かを特定するのが困難な、魔名で教えるのは大丈夫だという事だ。

「そうか。マレウス…。俺はお前を超えてみせる…」

 司狼は心に誓った。

「では、この場はお開きと致しましょう。司狼さん。何かあればいつでも言ってください。ロー…いや、藤井さんやレオンもお待ちしていますよ」

 レオン…?誰のことだ?思えば、先程も蓮がそう言っているのを聞いた。あの時は頭に血が上っていたので疑問に思わなかったが。

「では、行きましょうか。この場にいたところで何が起こるわけでもありませんし」

 神父さんはそう言うと、黒円卓がある部屋の外へ司狼たちを誘導した。

 廊下を歩いている時、司狼は先程抱いた疑問をロートスにぶつけた。

「なあ蓮、レオンってのは誰のことだ?」

「櫻井だ。あいつは俺らからレオンハルトって呼ばれてる。俺のツァラトゥストラってのと同じだ」

「そうか。神父さんもなんかあんのか?」

 今度はトリファに投げかける。

「ええ。ありますが、そこまで教える訳にはいかないんですよ。もしかしたら司狼さんが敵対勢力のスパイかも知れませんからね」

「ならなんで蓮たちはいいんだ?」

「仲がよろしいようなので、そのうち知ることになるだろうとの事から、ハイドリヒ卿から許可が出ているのです」

 なるほどな。

 そのような会話をしていると、いつの間にか外に出ていた。

 海浜公園で待ち合わせて、ここに来た時は朝だったのに、もう夕方になっている。

「じゃあ、トリファ神父。俺たちはここで。先輩によろしく伝えといてください」

「ええ。分かりました。では、お気をつけて」

 トリファと別れた司狼とロートス、そして螢の3人は、それぞれの帰路に着いた。

 司狼とロートスは同じマンションに住んでいるので、同じ道を歩んでいく。螢だけが違う道だ。

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