「シオン…ここは?」
「俺の隠れ家の一つだが?…あぁ、アリシアは知らなかったか」
「アリシアが
「一旦ここを捨てて、マークされなくなったところでまた使うようになったんだよ」
「…そういうことじゃない……そういうことじゃないのよ!ここに
「…あぁ。そういうことか。そんなもん簡単だろ?アリシアがわかってないはずない。いや、わかりたくないのか」
「…なんでこんなの…」
「囮に使うからだ。ジェイルが何を企んでるかは知らないし、あっちもあっちで目立つものを用意するだろうが、俺から目をそらさないといけない状況を嫌でも作らせるためにはこれぐらいは必要だろ?」
「アリシア。元からこのつもりだったのよ。10年前から決めていたこと。…黙っていたことになら謝罪するわ。でも、計画の変更はない。…もう引き戻す時間もないのよ」
私はレイシアのその言葉に違和感を覚えた。自然の摂理を無視して長大な時間を生きてきたシオンに、『引き戻す時間もない』とはどういうことなのか。少し考え込んで、そして理解した。理解できてしまった。時空管理局創設以来、今回が初めての出来事なのだろう。ジェイルとシオンという最大の悪を相手取るというのは、そしてシオンにとっても今回が千載一遇のチャンスなのだ。自分と同等の悪と手を組み、互いに利用し、囮にし、そして目的を果たす。
──
「それで?アリシアはどうする?まだお前は降りられるぞ?」
「…まさか。最後までついていくよ。…たとえ破滅の未来に向かってるとわかっていても」
「…そうか」
〜〜〜〜〜
「で?俺たちが出かけてる間にお前らは何してるわけ?」
「ちょうどいいタイミングね〜。助けてくれないかしら?私とセインちゃんの能力で逃げるつもりだったのに、そこのヒーロー様からは逃げれないみたいなのよ〜」
「クアットロ以外なら助けてやってもいいが?」
「私も助けなさいよ!?」
「クアットロって品がないから私好きじゃないのよ。だからあなたは捕まったままでいてくれない?」
「それでいいから助けて〜」
「…セインちゃん?」
クアットロ、セイン、ディエチの三人を拘束してるのは、エースオブエースことなのはとヒーローこと疾斗、か。この二人は別々に対処すると楽なんだが、コンビで来られると面倒なんだよなぁ。ま、拘束を解いて二人同時に相手にするだけでいいから、全員逃がすのも可能なわけだが。
「意外とそいつらとも仲がいいんだな」
「仲がいいってわけじゃないけどな」
「そのあたりはどっちでもいいかな。シオンくん、あなたもここで拘束します」
「お前にできるか?痴女」
「ち、痴女!?私そんな変態じゃないもん!」
「なのは、あなたは来年で20歳だったわよね?それなのにミニスカートって…しかも空を飛ぶのにそれじゃあ下着を見せびらかしてるようなものよ?同じ女性として恥ずかしいわ。フェイトもフェイトだし、はやてもだけど…」
「あら?もしかして私たちの邪魔をする機動六課の人間は、変態の集まりだったのかしら?」
俺とレイシアが隊長陣を蔑んでいると、拘束されているクアットロがそんな疑問を言った。そして言ったと同時に「そんな変態に捕まるだなんて…」とショックを受け、他の二人もそれに感化されてた。たしかにショックなのは仕方がないと思うが、お前等の服装も大概だからな?
「痴女じゃ…」
「はいぃ?なんですかぁ?」
「痴女なんかじゃないもん!」
「チッ」
「あ、あなたねー!拘束してる相手に向かって砲撃するってどうなのよ!」
「…気にするなら衣装変えろよ。ま、その間に倒させてもらうけどな!」
なのはの砲撃を防ぎ、爆風にまぎれてシンクロしとく。爆風が晴れる前に自ら外へと飛び出してなのはに斬りかかる。無論そんなことは疾斗もわかっており、間に入って防いでくる。だが、これでこちらの目的も達した。セインとディエチの拘束は解いており、ディエチがクアットロを担いで逃走を開始。ルーテシアの方は、アリシアがすでに救出済み。あとは俺が撤退するだけだ。
「シオン…お前は
「…あの子?」
「体に鎖が繋がれて、それでリリックを引きずって地下水道を歩いてた女の子のことだ。ギンガが培養器も発見していた。知らないのか?」
「あいにくと出かけててな。またジェイルが作ったクローンだろうよ。…誰のかは知らないが」
「ちょっと疾斗くん!?なんでそんなことを話してるの!」
「あの子の正体がわかるかと思ってな」
「……なるほど。その子をヘリに乗せて、それをディエチが砲撃しようとしたのか。クアットロも悪趣味だな」
「本当に知らないようだな」
「まぁ、な!…んじゃ、俺も撤退するかな」
「させると思う?」
疾斗と剣を交えながら話している間に、なのはが魔力弾を生成し続けていた。その数は32個。どうやら捕まえる気満々らしい。
「シュート!」
「捕まえる気があるなら、リミッターぐらい外せよな。"レディアントソード"」
瞬時に小型の剣を、なのはと同数用意する。後退しながら迎撃し続け、なのはの攻撃が直線的になるように仕向ける。こうすれば避けるのも迎撃するのも楽だからな。そして、こういう行動を取っていれば─、
「お前はそう動くだろうな?疾斗」
「読まれることも織り込み済みだ!」
「…なるほどな」
疾斗と再度剣を交えたタイミングで、上空からヴィータが相棒のアイゼンを振り下ろしてくる。それを受け流しつつ、疾斗がいる方に振りぬくように仕向ける。それで疾斗も距離を取るしかなくなるからだ。
(前方にはなのは、左には疾斗、上空からはヴィータ。そしてこれで終わるはずもないよな?)
「なぁ?シグナム」
「ふっ、これも防ぐか。さすがだなシオン」
疾斗とは反対側から仕掛けてきたシグナムにも対応する。俺だけが現場に残っている状態で、捕まえる気があるのならこれくらいは集まるだろう。だが、さっきも言ったように、リミッターがついているのなら話にならない。
「お前らやるなら本気でやれよ。そんなんじゃあ守りたいもんも守れねぇぜ?」
障害になると思っていた人物たちが、やる気を削いでくるような行動を取る。これなら俺はその時が来るまで出てくる必要もないな。ジェイルたちが好き勝手に6課と戯れときゃいい。
──"クロノス"
「じゃあな。この程度でやられるようじゃ俺を止めるなんて到底無理な話だ」
己を中心とした一定範囲の時を止める。本来ならその間に攻撃を仕掛けたりもするのだが、リミッター付きの魔導士が相手ならこの程度で十分だ。
範囲外は時が流れている。止まっていた場所は時が戻ったときにその揺りもどしの影響を受ける。誰も味わったことがないその揺らぎに、人間の体が耐えられるはずもなく、激しい頭痛や吐き気に苛まれ意識を失う。耐えれたとしてもまともに動ける人間は、ほとんどいない。俺の経験からしても、闘いを続行してきたのは片手で数えれるほどだ。
〜〜〜〜〜
「機嫌悪そうね」
「…まぁな」
「期待してたのかしら?」
「多少はな。どこまで影響が出るかは知ったことじゃないが、この事件で間違いなく世界は変わる。管理局の真の意味での戦いも、責務も、この事件の後の世界で求められる。その1役を担うメンバーが集まってるのが6課だ」
「それなのにあの体たらくだった。…そりゃあ失望もするわね」
「それじゃあシオンはこれからどうするの?」
「…アリシア、いつの間に来たんだ」
「今だよん♪」
ルーテシアをジェイルの所に送ってからこっちに来たのか。それにしても、俺が感知できなかった…。アリシアも順調にアークを鍛えれてるようだな。というかペース早くね?まぁ元々覚醒寸前ぐらいだったし、もう少しで壁を突破するんだろうな。
「それで?どうするの?」
「どうもしねぇよ。ジェイルにやらせときゃ6課はそれだけで手一杯になるんだしな」
「それじゃあそれまでは休暇だね!」
「休暇…あぁ、まぁそうなるのか?」
「うんうん!それじゃあ出かけよ!気分転換も必要だよ!」
俺とレイシアの手を引っ張るアリシアに苦笑するが、内心は感謝している。いつだってアリシアは気持ちを上向きにさせてくれるし、いつだって引っ張ってくれるから。
「…で?なんで
「場所はシオンが嫌いそうだけど、でも花がきれいに咲いてるじゃん?空気も澄んでるしさ」
「まぁ
アリシアの行動は仕方ないと諦め、しばらくはここにいるとしよう。ストレスがたまるようなたまらないような、複雑なんだけどな。とはいえ、教会の人間に合わなければまだましか。そんなことを思っていると、何かが足に当たった。
視線を下げるとそこには金髪の小さな女の子がいた。コケてしまっているその子に手を差し伸べつつ、視線を合わせるためにしゃがみこんだところで俺は固まった。
──その子が
「ヴィヴィ…?」
──かつて守れなかった人とそっくりだったから。