『シオン』
『はい』
『貴方に使命を与えます』
『はっ。なんなりと』
『娘を…この子を孤独にさせないこと。貴方が隣で守り続けること。いいわね?』
『かしこまりました』
『…ふふっ、4才の子に言うことじゃなかったわね。…でも、ありがとう』
──人質としてこの国へと捨てられた俺を匿ってくれた王妃に与えられた最初で最後の使命だった
──結局俺はこの時の使命を果たすことができなかったがな
「…ヴィヴィ」
「ふぇ?ち、ちが…う。…ヴィヴィオ」
「え?…あ、そっか。ごめんな、ヴィヴィオ。それでヴィヴィオはこんなとこでどうしたんだ?」
「…ママが、いないの」
「!!」
もしかしたら違うかもしれない。そんな願いは叶うことなく、現実を突きつけられた。目の前にいるこの小さな女の子は、間違いなく
こんなことができるのは、あのマッドサイエンティストしかいない。…何百年と経ったこの時代で、どうやってオリヴィエのDNAを入手したかは知らないが。
「…シオン」
「大丈夫だ。心配すんなレイシア。…ヴィヴィオ…だったな。いい名前だな」
「ん…」
「俺の名前はシオン、俺と同じ髪色のがレイシア。金髪のがアリシアだ。よろしくな」
「うん」
「ママがいないんだったな。一緒に探そうか」
「え…?」
「一人は寂しいだろ?」
しゃがみこんでる俺は、うさぎの人形を握りしめているヴィヴィオに手を差し伸べた。ヴィヴィオがこの手を取るなら手伝うし、取らないならここの人間に任せたらいいだろう。どうするかはこの子の意思に任せるし、どのみちジェイルと決別する日は予定より早くなりそうだ。
ヴィヴィオは、俺の手と目を交互に見て、様子を見守ってる二人の顔も見て迷っていた。知らない場所で、知らない大人三人が目の前にいるんだ。迷うのも当然だろう。だが、ヴィヴィオは俺の手を取った。俺はヴィヴィオを抱っこして立ち上がる。この方がヴィヴィオも周りがよく見えるだろう。
「わっ、高い…」
「良く見えるだろ?」
「うん!」
「それでどうするのかしら?」
「とりあえずはヴィヴィオに任せたらいいんじゃない?アタシ達の目的は息抜きなわけだし」
「そうだな。ヴィヴィオはどっち行きたい?」
「うーん……あっち!」
「わかった」
ヴィヴィオが指をさした方向に歩いていく。そっちに行ってただ言葉を交わすだけなのに、ヴィヴィオはそれを心底楽しそうに笑う。順にアリシアやレイシアもヴィヴィオを抱っこし、今は二人でヴィヴィオを挟むように並んで両方ともヴィヴィオと手を繋いでいた。
「なーに黄昏れてんのー?」
「黄昏れてないだろ…」
「そうかな?ジジ臭い感じがしたんだけど」
「爺さんなら誰でも黄昏れてると思うなよ。それに俺はジジイじゃない」
「生きた年数で言ったら誰よりも爺さんでしょ」
「シオンはジィジ?」
「そうね〜。そう言えるわね」
「それならレイシアはお婆さんだね!」
「ふふふっ、消し炭にしてやろうかしら?オバサン」
「喧嘩なら買うよ!」
自分で導火線に火を着けといて、それが自分に回ってこないと思ってたのか。アリシアは考えが甘いな。不気味な笑みを浮かべ合う二人の間で見えない火花が散っていると、それを止めたのは意外な人物だった。
「レイシアもアリシアも、喧嘩はメッ!」
「…くっ、ははは!だってよ?」
「…シオンは笑いすぎー」
「まぁ、ヴィヴィオがそういうのなら私達も矛を納めるとしようかしら」
「だね」
「ヴィヴィオはすごいな〜」
「そう?えへへ〜」
褒めて頭を撫でてやると、くすぐったそうにしながらも満面の笑みで喜んでいた。次はどうするか、とも考えたのだが、どうやらこの時間はもう終わりらしい。
「隠れてないで出てこいよ。シスター風情」
「…やはり気づかれてましたか」
近くの茂みから姿を現したのは、たしかカリムの盾として動くシスター・シャッハだ。シスターでありながら騎士であるとかなんとも頭がおかしい奴だ。どっちにしろどっちかに。
「それで隠れてると思ってるなら底が知れてるな」
「くっ…。……あなた達の目的はなんですか。その子ですか」
「お前の質問に答える必要はないだろ。会話をしたいならそれ相応の実力をつけるこった。ま、こんな時代じゃ無理な話だがな」
「…ならば実力を今示しましょう」
「なんだ、お前ただの脳筋か。それと、なぜ敵対してる相手に正々堂々と戦う必要がある?」
「は?……っ、がはっ!」
「俺がお前たち教会の人間に合わせる必要がどこにあるんだよ」
シャッハが武器を構えたときには、腹に膝蹴りをかました。後方に飛ばされながら何度か地面をバウンドし、10mほど離れたところで止まった。自分の手から直接魔力を出し、剣の形に留める。起き上がろうとしたところに剣を投げ込んだのだが、それは新たな乱入者に止められた。
「…なんで、ここに…」
「アリシアの気まぐれだな。で、お前も何しに来たんだ?なのは」
「保護したその子に会いに来たんだけど…、どうやら穏やかじゃなさそうだね?」
「文句はそこの脳筋に言え」
「シグナムさんに近いからね」
「そりゃあ制御しにくいな。で、疾斗はそこで何してる?」
後方を見ると、レイシアたちのすぐ側に疾斗が立っていた。リアラとシンクロしてないようだし、人質を取ったってわけでもないようなんだが…。レイシアもアリシアも自然体だし、話し合いでも望んでるのか。
「…お前らと話すことはないぞ」
「そう固いこと言うなよ。せっかく会ったんだしさ」
「言ったろ。邪魔をするなと」
「ここで何かしようってわけでもないんだろ?」
「…生ぬるいお前らと話すことはないが、別の案件もある…か」
「別の案件?」
疾斗の疑問を無視し、なのはへと視線を戻す。シャッハを蹴り飛ばしたわけだが、今となっては特にやる気もない。それをなのはも感じ取ったようで、警戒を解いていた。…そういうとこが生ぬるいんだがな。
「お前らはヴィヴィオに会いに来たんだったな」
「ヴィヴィオ…がその子の名前なんだね。うん、そうだよ」
「お前らが保護しろ。それとヴィヴィオは母親を探してるからそれもやれ」
「それは別にいいんだけど、なんでシオンくんがそこまで…」
「話す気はない」
レイシアたちの所へと歩いていき、ヴィヴィオに視線を合わせるためにしゃがみこむ。ヴィヴィオの目からは不安の色が見て取れた。だから、ヴィヴィオを安心させるために頭を撫でてやる。ヴィヴィオはそれである程度不安がなくなったようだが、それでもさっきまでの笑顔は浮かべなかった。本能的にわかるのだろう。だがヴィヴィオのことを考えたら、なのはたちに預けておいた方がまだましだ。それでも結局はジェイルに利用されるんだろうが、
「ヴィヴィオこの痴女たちのとこで世話になれ」
「痴女じゃないからね!?」
「シオンは?」
「お別れだ。俺たちとは一緒になれないんだよ」
「…ぇ……やだ!やだやだ!」
なのはに抱きかかえられているヴィヴィオが暴れ始めた。幼いから全然暴れてるわけでもないが、なのははヴィヴィオを落とさないようにアタフタしていた。こいつに預けるのは失敗だったか、とも思ったが、とりあえずヴィヴィオを説得するとしよう。…できないだろうけど。
「ヴィヴィオ。俺たちは悪い人だから、一緒にいれないんだよ」
「そんなことないもん!シオンもレイシアもアリシアも優しいもん!悪い人じゃない!」
「ははっ、純粋だな。だが駄目だ。ここでお別れだ」
「いや!一緒がいい!」
「…なら約束するか」
「……やくそく?」
「必ずまたヴィヴィオに会いに行く。どうだ?」
「…うん。やくそくだからね!」
「あぁ」
涙をこらえてるヴィヴィオと握手を交わす。なぜこの短時間でここまで懐かれたのかがわからないが、そこは気にしなくていいか。改めてヴィヴィオに別れを告げ、レイシアとアリシアと一緒に転移した。
「…オリヴィエのクローンが造られ、ジェイルはレリックを集めている。……シオン、ジェイルの狙いは」
「ま、大方予想通りだったな。別にそれならそれでいいさ。むしろ好都合だ」
「でもシオン。あの子…ヴィヴィオが巻き込まれるんでしょ?…アタシはそれヤダかも」
「どうなるかは6課の実力次第だな。なんならアリシアは6課と協力してもいいぞ?」
「んー、それはやんないよ。…ヴィヴィオは……」
「…死なせはしない。それだけはさせないし、アイツラが役に立たなかったら目的を果たした後に助けるさ」
「…うん」
さてと、ジェイルが大々的に動くまでは潜伏しとくか。そろそろ
短く刻んでいくスタイルに変化しそうです。…おっぱじめるまでは。