公開意見陳述会、なにやらお偉方からそれなりの地位の人までが集まって議論を交わす会らしい。管理局に属せずにフリーの魔導士として活動している俺には縁のない話だ。
─今までなら
6課に協力して、はやてに指示を出された今ならそうは言ってられない。俺も嫌な予感がするし、シオンかジェイルがこの絶好の機会に手を出さないわけがない。当然警備には6課も参加しているし、会場を囲むように万全の態勢を敷いている。
「……仕掛けてくるんでしょうか」
「必ず来るから全員気を抜くなよ」
「なんで分かるんですか?」
「勘……だけど、向こうの戦力とかを考えたら仕掛けてくるのは明白だ」
「疾斗さんはいつ始まると思いますか?」
「逆にキャロはいつだと思う?」
「え」
「キャロが仕掛ける側だったらいつ仕掛ける?」
質問に質問で返すのは申し訳ないが、本来防衛の仕事はこうやってするべきだ。とりあえず守ってろ、じゃ穴ができるからな。敵の立場になって考えるほうがより強固な陣を敷ける。
フォワード陣だとやはりティアナが1番頭の回転が早い。真っ先に気づいたようで、弾かれるように顔を上げた。ティアナが気づいたからかスバルは思考を放棄してティアナの言葉を待ち、エリオとキャロは自分なりに答えを見つけようとしつつティアナの言葉を待っていた。
「ティアナのは後として、キャロはわかったか?」
「えっと……警備の意識が薄くなった時、ですか?」
「正解っちゃ正解だな。ティアナ補足してやってくれ」
「分かりました。……警備の意識が薄くなる時は、つまり任務が終わりそうになった時。もしくは誰しもが任務が終わったと思った時」
「え、任務が終わったら警戒解いていいんじゃないの?」
「バカスバル。そこを狙われるって言ってんのよ。いい?今回の場合はこの公開意見陳述会が終わった時。あとは皆さんが帰るだけって状態が1番狙われるのよ」
「つまり、公開意見陳述会が終わった時こそ警戒を高めないといけないんですよね」
「そういうこと。エリオが分かってるのになんで先輩のアンタが分かんないのよ」
「うっ……ごめん」
今ティアナが言ったとおりなんだよな。もちろんこんなことは分かっている人からすれば当たり前。だが、その当たり前のことを全員に意識させなければ必ず穴ができる。そしてシオンやジェイルがその穴を見逃すわけがない。
「疾斗、そろそろです」
「わかった。みんなは引き続きよろしく〜」
「あれ?疾斗さんとリアラさんはどこに行くんですか?」
「はやてに頼まれてることやってくるんだよ。俺だからできることを、な」
「皆さんも警戒を解かないように。ガジェットは確実に飛ばされてくるでしょうから」
「わかりました! お二人もお気をつけて!」
リアラと手を取り合いアークを発動させる。転移した先は会場内。わざわざ転移するほどの距離でもないのだが、この中に誰にも気づかれないように入って気配を消す。こうやって襲来に備えるのが俺の仕事であり、シオンですら気づきにくい程に気配を消せる俺にしかできないことだ。
「疾斗胸騒ぎがします」
「それはまぁ俺もだけど」
「
「へ?違うって何が?」
柱の裏に隠れ、体を密着させているリアラが瞳を揺らしながら見上げてくる。いや、瞳が揺れているだけじゃない。小さく体も震えている。俺はリアラのその様子だけでリアラが危惧していることを察することができた。片手をリアラの背に回すことで抱き、反対の手でゆっくりと頭を撫でる。
「大丈夫だ。そんなことにはならないから」
「そんなのわからないじゃないですか。……わたしは……もう失いたくないのです」
「うん。分かってる。リアラの過去も知ったし、今のリアラの想いも知ってるから。だから何度でも言うよ。
「疾斗……」
「俺は死なないさ。リアラを孤独になんてさせないから」
「……はい。約束ですよ?」
「ああ」
リアラの先代の契約者は古代ベルカ時代にまで遡る。彼は人工魔剣であるリアラを擁護し、自分の出世を鼻で笑って蹴り捨てた人だ。自分の地位よりも一人の少女を優先した。優秀な騎士であったが、勘当されて家から追い出された上に所属していた騎士団からも追い出された。しかし、それでも彼は後悔することなく国を出て敵国の騎士を頼った。
その騎士こそがシオンだ。シオンは彼とリアラを見ただけで状況を察し、何も言わずに受け入れた。シオンは最前線に送り出される騎士であったが、どの騎士団にも所属していなかった。当時既に亡くなっていた王妃の計らいによって所属しない権利を与えられ、王女の守護を任命されていたからだ。
彼はシオンと同じ仕事をこなすようになり、戦場で命のやり取りをしていた二人が肩を並べて戦うようになったのだ。リアラもレイシアと交流を深め、魔剣の役割、心得といったことを全て教わっていた。
何も見返りを求めず、ただ一緒に過ごしていた彼との生活はリアラに幸福を与えた。しかし、最終的に"ゆりかご"を動かすまでに至った最終戦争が始まった時にその生活は終わりをつけだ。敵国が突如戦場に導入した
魔剣を兵器と捉え、忌み嫌う人が圧倒数いた時代において、彼は数少ない理解者だった。人生を壊され人という存在から落とされたリアラに、もう一度人生を与え、再び人にした人物だった。だからこそ禁忌兵器を破壊する瞬間にリアラをシオンの居場所まで転移させたのだ。破壊すれば周りを巻き込んで大爆発を引き起こし、その際に魔法やアークすら無効化すると察しての行動だった。
(記憶を見た限り、あの人って死にそうになかったもんな……)
──絶対に死なない
これほどリアラが不安になる言葉もないのだろう。シオンと真正面から斬り結んで、何度も何度も戦っても決着がつかなかった程の猛者がそう言って死んでしまったのだから。
だが、それでも俺は何度でも言う。"絶対"を信じられないリアラに証明してみせるために。リアラが不安にならなくていいようにするために。何度でも"絶対"という言葉を使って、その度に生き抜いてみせる。
「疾斗。ちょっと痛いです」
「あ、ごめん」
決意を強くしたらリアラを抱きしめる力も強くなっていたみたいだ。困ったように眉を顰めるリアラに謝って力を抜く。それでも手はそのままに。リアラも手を回してきて、これから大事件が起きるであろうというのに、そんなものは知らないと表明するかのように。ただただお互いにお互いの存在を証明するように。
「……疾斗の気持ちは嬉しいですよ。私もそうなりたいと思ってます。でもそう簡単にはいかなくて」
「そりゃそうだろうな。あんなに慕ってた人だったんだから。だから俺がリアラの"絶対"になるよ。俺という存在が"絶対"の証になる」
「ふふっ、ありがとうございます。期待してますよ?」
「任せろ。俺は期待に応える男だからな」
「そうでしたね」
体の震えが収まったリアラと唇を重ねる。
新たな誓いを立てるために。
どれだけそうしていたかはわからない。自由に行動する俺達だが、なんだかんだでいつも何かしらの用事に追われていた。ゆっくりする時間もなく、何よりも二人きりになる時間もないから。宿舎で同じ部屋になっていても俺が訓練したり私用(飲み会とか)があったりして結局一緒にいられることが少なかったから。
その埋め合わせという意識もなかったのだが、結果的にそうなった。顔が離れて柔らかな笑みを浮かべ合う。何も言葉がなくともこうして一緒にいられるだけでよかった。ただ無言でも居心地がよかった。そうして何分後だろうな。
──シオンとジェイルが仕掛けてきたのは
「疾斗。陳述会が終わったようです」
「みたいだな。シンクロしとこうか」
「はい」
ガジェットの反応が多数発生したみたいで、会場内にもアナウンスが流れた。戦闘が収まるまでこの場で待機。当然の対応だが、シオンとジェイル相手にそれでいいのかは疑わしいな。
どう仕掛けてくるのか、気配を消しながら周囲を警戒するも仕掛けてくる様子がなかった。そう、
「きゃああああー!」
その悲鳴で全てが分かった。シオンもジェイルも今からこの会場に仕掛けてくるんじゃない。
「き、貴様!管理局に一人で挑むというのか!」
この声は……たしかレジアスのおっさんだったか。なんでこの人だけ見逃されてるのかと思ったが、今絶賛死にかけてるな。シオンに剣を突きつけられている。
「一人かどうかはともかく、勝算がついたから仕掛けてるんだよ」
「これだけの数を一手に……」
「殺したところで問題ないさ。最高評議会の忠実な手足になってるだけのバカ共しか殺してないからな。殺り方も単純だ。全員が席に着いてからターゲットに魔法をセットしておく、陳述会の終わりと同時に発動する。それだけだ」
「……バケモノめ!」
「これぐらいのことをこなさなきゃ戦場じゃ死ぬんだよ。あぁそうだ。お前は殺さねぇからな。お前を殺すのは俺の仕事じゃねぇし……邪魔だな」
「気配は消せてたはずだが……」
「まだ甘いんだよ」
シオンは俺の方を見向きもせずに攻撃を防いだ。過去に一度しか全力を見たことがないが、やはり今の今までずっと手を抜いていたようだ。
「止めてみせる。これ以上俺の知る世界で人を死なせないためにもな!」
「やれるならやってみろ。……開戦だ。力ない者は死ぬか戦場から逃げるんだな」