「何故って・・・」
高海さんが食い下がってくる
それに驚いて一歩後ろ下がる俺
確かに、悪気は無いわけではない
自分だけ分かりきったように偉く話している
高海さんの表情を見る限り本気・・・と捉えて大丈夫だろうか
「なんでなの〜」
「分かった、分かったから!教えるから!」
ここでジタバタされても仕方ないので話してあげることにした
(野球してる時は良い眼してるのに、OFFの時は常にこんな感じなのか)
ー音ノ木坂学院グラウンドー
あの伝説のμ'sの9人が廃校を救ったのは事実だったが、彼女たちの決断でμ'sの9人は野球部に幕を下ろした
μ'sはこの9人だからこそー
という事だ
しかし、野球部再設立の要望はあったらしく
一見この時点で俺は転勤と思っていたが全く新しいメンバーで復活したという事で残留した
以前とは違い、野球経験者が多数なのでより優勝出来る可能性はある
梨子もその中の一人だった
桁違いのストレート、プロ顔負けの打力
普通なら一軍メンバーで大活躍出来る実力はある
しかし、梨子には難点があった
自分に自信がない
いくら実力があってもピンチの時に抑えられなければいけない
そのピンチにこそ試されるのが自尊心
「自分なら出来る」と思えば、安心出来るのだが梨子にはそれが難しかった
自分がダメな時、自身を責めてパニックになってそのうち思考回路が回らなくなる
梨子は結果が出ず二軍続き
俺が一番最後にいた時には梨子は一度も二軍に上がれなかった
「そんな事が・・・」
「桜内さん、野球で苦しんでたんだね」
二人とも少し真剣な顔になる
「でも、梨子はまだ野球を諦めてないと思う。今日こういう場所に来てたし、何処かで野球したいって思いはあると思うよ」
諦めてない、そう思った
いや思いたかったのかもしれない
「っておい!練習!!」
「あ!忘れてた!」
そして、練習が始まった
110km/hの球を打とうとする高海さん
ソフトボールを少々やってきたお陰か、綺麗なフォームで魅了する
キーン
梨子・・・とまではいかないが弾道は明らかに良い
一方
ブンッ
「あれ〜、やっぱり当たらないなぁ」
松浦さんは、フォームこそ豪快で当たればドカンといくのだろうが
驚きな事に、あれだけ速い球を投げておきながら初心者なのだ
タイミングに慣れたらきっと良くなるはず
「あ〜、やっぱりホームラン出ないなぁ」
高海さんがそう嘆く
「そんな簡単に出ないよ、ほらもっとプロの選手とか・・・」
そう言いながらホームランを打った人の表を確認すると、
「・・・!?ま、マジかよ」
そこには、桜内梨子の文字があった
しかも、120km/hを3回も
「どうしたんですか?・・・え!?桜内さん?」
「やっぱり、野球好きなんだろ。な?」
「へ〜桜内さん、だよね?本当に凄い人なんだ」
松浦さんも関心している
「やっぱり、私・・・」
練習を終えて、バスに乗って帰路につく3人
海が段々と見えてきた
何度見ても忘れられないこの群青色の景色
・・・あれ?あそこにいるのって・・・
「あれ、桜内さんじゃない?」
本当に今日何回会うんだよ
高海さんの言葉を借りるとするならば
「奇跡だよ!」の一言である
偶然にも付近のバス停がちょうど降りようとしていたところだったので
降りるなり、高海さんがめちゃくちゃ速いスピードで走っていった
それを追いかける俺と松浦さん
「千歌、ああ見えて諦めは悪いんですよ。今日もかなり勧誘してたらしいですし」
「今日・・・も?まだ始業式だぞ?」
「家がちょうど隣らしくて・・・」
衝撃の事実
本当に高海さんには奇跡が纏わり付いているとしか言いようがないな
それにしても、あいつストーカーじゃねぇかよ!
不審者って訴えられてもおかしくないぞ!
「桜内さん!やっぱり野球好きなんだよね?」
「何度言っても結果は同じです!」
なんかきた時には喧嘩なんじゃないかというレベルに発展していた
「高海さん、一回落ち着け・・・」
「か、監督!?」
「梨子がやりたくない理由はこれだろ?自分が入っても迷惑がかかるだけだから」
梨子は少々迷ってゆっくりと頷く
「そ、そんなことないよ!!」
「これから出来るかも・・・」
「これからって、私何回その言葉信じなくちゃいけないの?もう・・・」
梨子は、軽く落ち込んでしまった
「梨子、この世の中沢山努力しても報われないことっていっぱいある。それを一番自分が分かってるだろ?」
梨子は、小さく頷く
「でも、これからって何度も立ち上がらないと報われるチャンスすら与えてくれない。
少なくともこの2人はどんなけ上手くいかなくても責めるような人達じゃないし、野球が好きって気持ちだけでどうにかしようとしてる。
もし良かったらでいいから一度考えてみてくれ。
俺からもだけど、、梨子が必要だ」
そう言うと、驚いた表情でこちらを見る梨子
顔を赤らめている
「いやいや!何を考えてるかは知らないが、少なくともそっち方向ではないからな・・・」
というところで、別れた
別れ際に聞いた
「私、やっぱり本気で野球がしたい」
という梨子の本音は心の芯からそう言っていたように感じた
また1人、部員が増えた
そう思って、俺たちは夕日に向かって歩き出した