昨日の夜に、響とクリスは任務に出かけて行った。国外の災害の救助の手伝いらしい。
嫌な顔一つしないで行ってきますと言った響は多分大丈夫だろう。心配はもちろんあるけど、不安はないから。
そんなこんなで今日私は一人で登校し、隣の親友不在で学校の授業をこなしていた。だからといって友達がいないわけではないので楽しいことには変わりはない。時折、寂しさは感じるけれど。
どこか物足りない時間を過ごし、終業の時間となった。予定という予定もなかったのでS.O.N.Gで手伝いにでも行こうかと思ったところだった。
「未来さん発見デース!」
正面約20メートルほど先から、大きな声と元気な足音がこっちに向かって来た。
パタパタと学校のルール御構い無しにこちらに走ってくる切歌ちゃんを見ると自然に頰が緩んだ。なんだろう、この気持ち。微笑ましい…。マリアさんの気持ちが少しわかる気がする。
「お疲れ様、切歌ちゃん。でも廊下は走っちゃだめだよ?」
あっという間に私の目の前まで来た切歌ちゃんは息切れ一つしていない。子供は風の子、そんな言葉が頭をよぎった。歳はほとんど変わらないけど…。
「了解デース!会長の言うことは絶対なのデス!」
「……あはは、まだ会長じゃないんだけどね」
切歌ちゃんはビシっと私に敬礼してくる。
先日の選挙の結果は切歌ちゃんが言った通り、私の当選という形で幕を閉じた。とは言ってもまだ肩書きは次期。引き継ぎもしてないし、現会長の任期もまだひと月ばかり残っているから。
「それにしても、どうしたの?いつになく元気みたいだけど…」
「そうデス!今日は未来さんの会長おめでとうパーティをしようと思ってデスね、探していたデスよ!」
「気が早すぎるような…」
いや、そりゃもちろん嬉しいんだけど…。
「とにかく!今日は響さん達も任務でいないデスし、私達と遊ぶデスよ!……あれ?調?」
左右をキョロキョロしてる切歌ちゃんだけど、調ちゃんは真面目なことに廊下を走ることなくこちらに向かって来てるからまだ後ろだった。
私が調ちゃんに向かって手を振ると、調ちゃんもすっごい控えめに、ちょっと照れくさそうに手を振り返してくれる。なんだろうこの気持ち、微笑ましい。マリアさんの気持ちがわかる気がする…。
「切ちゃん、廊下は走ったらだめだよ」
「調まで言うデスか〜。さっき会長にも注意されてしまったデスよ〜」
「……切歌ちゃん、会長はやめて……」
さすがにそれは恥ずかしいから…。
やいのやいのと会話を重ねていく。響とクリスは任務、翼さんマリアさんは国外。残った切歌ちゃん調ちゃんの二人では訓練も単調になっちゃうとのことで今日は二人はお休みらしい。
通りすがる一年生の生徒から別れの挨拶を多く受ける二人。マリアさんからたびたび相談を受ける私だけど、これなら次回も良い報告が出来そうだ。
「と、言うわけで遊びに行くデスっ!」
「それは大歓迎だけど、どこか行きたいとこあるの?」
「調がデスねぇ、未来さんとプリクラを撮りたいと言ってたデス!!」
「き、切ちゃんっ!!」
カァァっと調ちゃんの色白の綺麗な肌が赤に染まっていく。
「調〜、なにを照れてるデスか〜。この前勉強見てもらったお礼もしたいって言ってたデスし、チャンスデス!!」
「そ、そうかもしれないけどっ!自分で言うからっ!」
そんなこと思ってくれてたんだという嬉しい気持ちと、真正面からそれを聞かされるという気恥ずかしさで、私もどういう表情をすればいいのか非常に迷う…。
リディアン入学当初、またS.O.N.G所属直後は元FISの三人とはちょっと壁のようなものを感じてた時期はあったけど、今はこうして仲良くお喋りできるまでになれた。そう思うとひどく感慨深いものがあるなぁ。
「そ、その、未来さん。日頃のお礼もしたいので、今日時間貰ってもいいですか?」
「そうデス!そうデス!遊びに行くデース!」
照れくささを隠しきれてない調ちゃんに、ニッコニコに笑う切歌ちゃん。
なんてことない会話に、なんてことない風景なはずなのにちょっとだけ泣きそうになってしまったのは内緒。
──────
とりあえず私たち三人はここ最近リディアン生徒内で話題にあがるカフェに行くことにした。
提案したのは私。二人がお礼という名目で誘ってくれてるなか、私が行き先を決めるのは…と思ったけど、どうしても二人を連れて行きたかった。
二人とも甘い物が好きなのは知っているので、クリスじゃないけど先輩としていいお店を教えてあげたいという先輩欲のようなものが出ちゃったのだ。
なにってこの二人の後輩力が高すぎる。どこかほっとけなくて、反応が可愛くて…。マリアさんの気持ちが…。
「ほえー、こんなところにこんなオシャレなお店があったんデスかー」
「話にはたびたび聞いてたけど、来るのは初めて」
店の中にはすでにリディアンの生徒の姿も見える。
装者のみんなは少なくないお給金をもらってるので、そう心配する問題ではないけど、この店は普通の学生にも優しいお値段で甘い物が食べれるのが一世を風靡している理由でもある。
生徒数の多いリディアンなので、放課後にこの店に行けば誰かしら生徒がいるのが面白い。
「とりあえず、入ろうか」
そう言って私は店に入っていく。
程よく空いた小腹を、甘い匂いが刺激してくる。目の前のショーケースに入っている様々なケーキが私たちを迎えてくれた。1日一個だとしても制覇するには一ヶ月では足りないだろう。新商品もたびたび出てくるし。
目をキラキラしてそのショーケースを見る2人は普通の女子高生だ。何度も世界を救った立役者の1人とは誰も思わないだろう。
「す、すごい。あんな大きなショーケースは初めて見たかも…」
「デース!しかも見るデス調!ケーキ3個以上注文で割引、さらにはドリンクがついてくるらしいデスよ。な、なんとお得なお店…」
「ふ、2人とも……」
席にも座らないで、2人はショーケースの前にベッタリである。0が一個足りてないんじゃないデスか?大丈夫デスか!?なんて言う切歌ちゃんは軽いパニック状態だ。
FIS時代は相当切り詰めた生活をしてたって話だし…。2人の価値観は下手したら私より普通の学生に近いのかも。
苦笑いで席に案内してくれた店員さん。席に座ってからも2人は楽しそうにどれを食べるかを相談している。
本当に先輩冥利に尽きる反応をしてくれる後輩たちだ。
「ふふ、ケーキは逃げないから安心して?ちなみに、私のオススメは新商品のレモンケーキかな、真夏だとカキ氷関連のものもあってそれもすごい美味しいんだけどね」
「レモンケーキとなっ!?うう…、どうするデス調。この中から一つを選ぶのは至難の技な気がしてきたデス」
「私はもう決めたよ、切ちゃん」
「デース!?」
そんなやりとりもあって、ケーキを選ぶのには少し時間がかかっちゃったけど、三人違うものを頼んでシェアしあうことでたくさんの種類を食べようという案で落ち着いた。
調ちゃんは私のオススメのレモンケーキ、切歌ちゃんはガトーショコラ、私はミルクレープ。
最初にさっぱり爽やかのレモンケーキを三人でちょびちょび食べ、やいのやいの。お次にクリーム系のミルクレープを食べキャピキャピ。最後には濃厚なガトーショコラを口に含んでみんなで幸せを分かち合った。
「それにしても、2人とも学校楽しそうでよかった。マリアさんすごい心配してたよ?」
ケーキが終わったら雑談タイムである。セットでついてきた紅茶を飲みながら、私はそう声をかける。
「マリアは心配しすぎ。今でこそないけど、最初なんて毎日電話がかかってきた」
「デスデス。正直、私たちからしたらマリアのほうが心配デース」
「本当にそう。みんなの前では取り繕ってるけどマリアは寂しがりや。ちょっとおばかなところもあるし」
……すごい言われようだ。
「三者面談が憂鬱デスよー。何回か宿題を忘れたことがバレたら絶対怒られるデース…」
「……私も、調理実習でレシピ無視して創作料理したことがバレたら…」
「あはは…」
さすがにこれはマリアさんには秘密にしておこうかな。一応2人のことはお願いされてるけど、楽しんでるのは間違いないみたいだから、セーフだよね?
「だいたい、マリア仕事大丈夫なんデスかね?私たちの目から見ても多忙に過ごしてる気がするデスけど」
「確かに。仕事で三者面談に来れないなら仕方ない。うん、仕方ないから未来さんにきてもらおう」
「……保護者が学生って前代未聞だと思うなぁ」
なんてマリアさんの愚痴をボロボロと溢す2人だけど、いざ仕事で来ないとなると絶対ガッカリするくせに。
今でもマリアさんが三者面談に行くと言った時の嬉しそうな顔は脳内で保存してある私です。
「…!」
「…!」
「…!」
そんな時、三人同時に呼び出し音が鳴った。飾り気も何もない質素な音。私たち三人私用の携帯はもちろん持っているけど、こんな同時に鳴ることなんてありえない。つまり……。
「……緊急連絡?」
調ちゃんがボソっとこぼした、それしかない。私たちが持たされているS.O.N.Gからの連絡用端末。それが音を立てていた。
三人で顔を見合わせ、一度頷きあうと、素早く会計を済まして店の外に出る。道を一本ばかし外して人通りが少ない場所で私たちは端末を繋いだ。
『急な連絡すまないっ!!出動要請が入った!とはいえ、現状クリス君、響君は任務。翼にマリア君は国外だ。調君に切歌君、君たちを動かす以外他がない』
力強い風鳴司令の声が端末から響く。
簡潔で、それでもわかりやすい司令の状況説明によって現状の把握に努める私たち。
要請があった場所は日本、火事からの建物崩落で二次災害続出で逃げ遅れた人が多数だということ。
調ちゃん、切歌ちゃんは現状LiNKERを打ってないので一度本部に戻りそこから出動するようにとのこと。
リディアンに迎えが来るとのことなので私たちの目下最初の行動は、学校に戻ることとなる。
「……残念、まだプリクラとれてなかったのに…」
小走りで学校へ向かう中、調ちゃんがポツリとそんな言葉を溢した。
どれだけ普通の学生に溶け込もうとも、価値観が学生に近かろうと、やはり装者であるという事実は彼女達を一般人にはさせてくれない。
「……また、一緒にケーキを食べよう?プリクラもたくさん撮ろ?響達に自慢できるぐらい、たくさん。ね?」
こんなありきたりなことを言うことしか出来ない自分が酷く情けない。
だから私は笑おう。ここがみんなの日常だってわかるように。言葉じゃ伝えられないから。少しでもみんなの気持ちを楽にするために。
「はいっ!」
「デースっ!」
それに、この可愛い後輩たちの前では私も少しばかり見栄を張りたいのだ。
「うん、いい返事。無理だけはしないこと。大怪我なんて許さないんだからね?体内洗浄の準備はしておくから、思っ切りやっておいで」
すぐに終わらせてきます。と元気よく返事をする二人と目が合った。なぜか二人はニコニコ笑ってて、小走りしながら私たちは声を出して笑いあった。
一般人じゃないかもしれない。でも、違うなら違う楽しさがある。心配ばっかりが役目じゃないなぁなんて、後輩二人から教わりました。
感想もそうですけど、誤字報告とかしてくれる人もいて感謝感激です。