For honor『始まりし9年戦争』   作:ペペロンチーノ伯爵

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第九話『死への不干渉』

浮き上がる太陽の温もりを背に、白迅は刀を振って神風に斬り込む。

刃を重ね、激しく散る火花が冷えきった二人の頬を伝って熱く弾ける。

 

「っ………」

(この男……まさか)

 

「ッッ………!」

(やはり勘づいたか、神風……!)

 

神風は気が付いた、白迅には特別な技が存在しないことに。

そして事実として白迅に特筆できるムーブセットはない、だが白迅がウルブズという座に君臨するのには確かな実力が存在する証拠があるのだ。

 

「………ッッ」

(………分かったぞ)

 

白迅の攻撃を弾き飛ばし、神風は大きく距離を取った。

 

「貴様、特筆する技を持たぬ代わりに、全ての基本的な身技耐を極めたのか」

 

「流石に分析が早いな神風、その通りだ」

 

同じ大蛇が繰り出す強攻撃でも白迅のほうが神風よりも速く振り抜いてくる。

仕上げられた体幹は神風の二倍近いスタミナを持ち、攻撃の隙を狙ったガード崩しも白迅には無意味だ。

攻撃を受け、刀を交えている間に神風は自分のほうが白迅よりも技の数は有利でも、もともとのスペックに雲泥の差があることに気が付いたのだ。

 

「………ッ」

(速い……それにこやつ、どんな状況でも回避を使えるのか、足取りが素早い……)

 

一撃目の素早い振り抜きを躱し、攻勢に構えても白迅はステップを踏んで体勢を素早く整える。

何よりも全てのムーブが加速しており、一瞬のズレが神風の頬に切り傷を入れる。

 

「なるほど………強いな白迅」

(あれほど攻撃を受け流し、弾いたというのに疲れるどころか汗一つ流さんとは……なんというスタミナだ、少なくとも拙者の二倍以上の気力を持っているのだろう、厄介だ)

 

「ここまで斬り込んで掠り傷一つだけとは、驚いたぞ神風………」

(こいつ……素早く決着を付けねば五体満足で帰れなくなるな………まだ何処か余裕を隠してやがる)

 

互いに踏み込み、懐に潜り込んで再び斬り合う。

だが白迅の無尽蔵にも思えるスタミナ差に神風は押され始める。

同種の剣技を持つ者同士の戦いは基本的に相手の攻撃を捌き切り、スタミナを奪ってから攻勢に出るのが普通だが、今回は同じ大蛇であれど、常人並のスタミナしかない神風に比べて差を付けている白迅は防衛も攻撃も圧倒的に有利だった。

だからこそ神風は守りに撤するよりは攻めて活路を開こうとしたが、埋められぬスタミナ差に負け、神風の気力が先に尽きる。

 

「ぬぅ………!!」

 

普通ならば気力を失っても捌けるはずの攻撃が捌けず、みるみる内にバリエーションが多い白迅の攻め手が神風の身体を切り刻む。

 

「その程度か!帝の守護者よ!」

 

「クッ………!」

 

それでも何とか致命傷は避け、苦し紛れに素早い範囲攻撃を繰り出して白迅のムーブを止める。

 

「はぁ……はぁ………」

(速すぎる……そして隙がない……奴の弱は重く、強の振り込みは弱と見分けが付かぬほど速い、そして何よりも厄介なのはあの体幹の強さ……回避に踏み込む瞬間を崩そうとしても崩せん、もう少し観察せねば……)

 

「………………」

(僕を観察しているな………弱点を見つけるつもりか………だが………)

 

神風は白迅の基本的なステータスから編み出せるムーブのバリエーションを観察し、更新し続けている。

 

≪スタミナ250≫

≪回避距離5メートルF10≫

≪弱攻撃 改≫

≪上弱二連10F≫

≪左右弱12F≫

≪フィニッシュ弱9F≫

≪強攻撃12F≫

≪フィニッシュ強10F≫

≪全ムーブリカバリー回避≫

≪フィニッシュ&攻撃時の硬直無効≫

≪無限チェーン≫

≪回避中阻止不能≫

≪ガード崩し無効≫

≪ソフトフェイント可能≫

 

「っ………ふぅ………」

(よし………そろそろやるか)

 

「………………」

(………来るか)

 

再び迫り来る白迅から斬り込まれる刃を退け、白迅の周りを動き回りながら防戦一方に徹する神風は刀を左手に納め、深海を発動する。

そして白迅の攻撃を二度躱してリズムを計り、顎を握り締める左手の親指に力を入れる。

 

「ッ………ッ………」

(………さぁ………!)

 

「………………」

(………知っているぞ神風……)

 

白迅はスタンスに入った神風を嘲笑う。

 

「分かるぞ神風……貴様のソレは深海という技だ」

 

「………ッ!!」

(な………!?)

 

神風から素早く距離を取った白迅は縁側に立つ山風に視線を向け、懐からクナイを取り出して山風へと投げ飛ばした。

 

「グッッ!!」

 

「………フンッ」

 

クナイの前に飛び込み、左腕を伸ばして刺し止める。

 

「神風様!!」

 

「手を出すな巫女よ!爺に説明して帝に行け!亜由様に増援を呼ぶのだ!お主では歯が立たん!」

 

「………兄さん……!」

 

「案ずるな……この程度………ッッ!!」

 

視線を戻したとき、白迅は既に神風の懐に潜り込んでおり、左足を踏み込んで振りかざした刀を垂直に振り下ろす。

 

「ッ……!」

 

何とか刃を受け止め、次の追い討ちを警戒したが、白迅の攻撃はそこで止まった。

 

「………っ!」

 

その隙を逃さず、神風は距離を取ろうとする白迅を追いかける為に3歩足を進めたその時、踏み込んだ右足が何かを踏み抜いた。

 

「これはーッ!」

 

「ふんー、抜かったなアホが!!!」

 

刹那、噴出的な爆発音と共に地面から炸裂した飛来物が神風の全身に突き刺さる。

 

「ーーーーーッッ!!!」

 

全身から血を噴き出しながら神風は地面に倒れ込み、不格好な受け身をとりながら必死に起き上がろうと膝を付く。

 

「ゴホッ!!カハッ!!」

 

頬を貫通する錆びた鉄釘を抜き捨て、身体に突き刺さって行動を制限しているガラス片や変色した鉄片などを全てを引き抜くと、神風は荒く息付きながら刀を杖にフラフラ起き上がる。

 

「クソ………迂闊………」

(白迅………クナイで視線を誘導し、その隙に釘爆弾を地面に………何てことだ……乗せられてしまった)

 

ガクガクと痙攣する両脚を動かそうとする度に突き刺さっている破片が食い込み、尋常ではない激痛が走る。

 

「フーッ!フーッッ………!」

(時間を稼がねば……拙者との相性が悪すぎる………!)

 

刀を地面から抜き、構えを取ろうと振り上げるが、腕に力が入らず、糸が切れたようにまた地面に倒れ伏す。

血の池の上で無様に這いながら手放してしまった刀の柄に手を伸ばす。

 

「クソッ………ッッ………うぅ………!」

(ほんの数秒だけで構わぬ………立てるだけの力でいい………頼む………頼む………山風を……守らねば……)

 

「フン、これでは拍子抜けもいいところだな神風、貴様は僕に能力で負け、策に敗れた、無様だな」

 

もがき、苦しみ、血を吹き出しながらこちらを睨み付け、その手を己の刀へと伸ばすその姿は実に滑稽だった。

それと同時に、憎しみが沸き立つ。

 

「何故………何故!貴様のような弱者がアポリオンを超えられたのか!?僕は不思議でならぬ!!!不可解だ!!!その事実が不快だ!!!!」

 

白迅は握りしめた刀を神風に向けながらゆっくりと歩いてくる。

 

「ッッ………!!」

(まずい………まずい……これでは………こんなことでは………………!!)

 

広がっていく血の池を見ながら体温が奪われていく、意識が薄れていく、この身から魂が抜けようとしている。

もう手を伸ばす力もない、脚も、胴も、息も、視界も、思考すらも薄れていく。

 

「今すぐに殺してやる、僕の刃で、貴様の真の臓を抉り、首をそこの小娘と共に、いいや、ここの寺院に住む全ての首と並べてやろう……!」

 

「………………………………」

 

もう呻くことすら出来ない、これから拙者はこやつに殺されるのだろう、そして、山風を守れず、愚か者として死ぬのだろう………昨日、十兵衛と話したばかりだと言うのに………母から受けた命を………昨日の今日で無駄にすることになるとは………情けなくて………情けなくて………。

 

「………む?」

 

「………………………………?」

 

迫る白迅が映る視界を緑色の綺麗な紋様が施された布地が遮った。

冷たくひえきった神風の手を取り、己の体温を与えようと必死に握り締める。

 

「………何のつもりだ小娘、そんな事をしても手遅れだぞ」

 

「………………っ」

(山風………ダメだ………声が………でぬ)

 

「………………………」

 

一度歩を止めた白迅は再びゆっくりと二人に迫る。

 

「愚かな者よ、弱者に拾われ、弱者を慕った結果、お主は僕に殺され、首を晒されるのだから、恨むのならそこに転がる弱者をー」

 

「どうして?」

 

「っ………………?」

 

神風の前に正座して彼の手を握る山風は目を大きく見開いた、白迅に振り向いて首を傾げる。

 

「どうしてそんな酷い事を言うの?」

 

「………なんだと?」

 

「何で兄さんに痛いことするの?どうして仲良く出来ないの?」

 

「阿呆か小娘………何も知らぬのだな」

 

「うん………私は何も知らない………だから」

 

血まみれになった巫女装束を引きながら山風はゆっくりと立ち上がり裸足のまま血の池に浸った枯山水の石庭を踏みながら白迅の目の前に立ちはだかった。

そして神風が落とした刀を拾い上げる。

 

「せめて私が知ってる人を痛め付けるのは………ダメ」

 

「ほう………泣けてくるわ、貴様が僕を殺すのか?」

(この小娘………………………なんだ?)

 

「ううん…痛いことするの……きっと痛いよ………だから、ここから出ていって」

 

白迅は妙な違和感を感じるも、気のせいだと思考から退かせる。

 

「それは恐ろしいな………痛いのは嫌いか?」

 

「え………う、うん………多分、痛いのは………嫌いだと思うけど………?」

 

「歯切りの悪い娘だ……まぁいい、僕はお主ら全員を殺さねばならぬ、その理由がある、ソレを果たすまで、どんな痛みでも受け入れよう、小娘………僕を殺してみせろ」

 

「???………殺さないよ?痛くするだけ、だから私は殺さない……」

 

その言葉を屈辱と受け取った白迅は陰流を構え、山風の腹を切断するつもりで駆け出し、思い切り振り払う。

 

「ふん……」

 

「………………………」

 

振り返る、彼女はこちらを見つめたままそこに立っていた。

 

「………なに?」

(確かに振り抜いた………防御など出来るわけが………っ?)

 

視界が歪む、がくりと膝を落とした。

 

「なんだ………眩暈が……………ッッ!?」

 

焦点が合わない視界に己の両手を見せるが、右腕の肘から先が無かった。

 

「う………あ………なんっ!?!?」

 

視線を上げると、山風は目の前に立っており、陰流を繰り出す前に時間が戻っていた。

 

「腕は………ある………なんなんだ?」

 

「………………?」

 

「小娘………何者だ」

(今のは……あれが僕の末路だと言うのか?この小娘にそれだけの……………ッッ………恐れているのか?恐怖しているのか!?あんな年端もいかぬ小娘に!僕が!?)

 

「出ていって、もう……来ないで………」

 

「………いいや………あの小娘の得たいの知れない感性のせいだ、あの違和感はそれだ、そのせいで不安になっているだけ………何も恐れる事はない!!」

 

「………?」

 

それでも、白迅の本能が油断を許さなかった、慢心を捨て、決して見くびるなと本能が身体を動かす。

刀をしっかりと両手に構え、刀の持ち方すらままならぬ小さな童女に全神経を集中させる。

 

 

~同時刻~

ー≪帝の間≫ー

 

 

血相を掻いて帝の間に滑り込んで来た巫女と爺の報告を受けた亜由たちの中で一人、十兵衛が勢いよく立ち上がった。

 

「白迅だと!?そう申したのか!?」

 

「は、はい……襲撃者の名は白迅という男一人で、現在、帝の守護者様が応戦しております」

 

「知っているのか十兵衛?」

 

「ウルブズの一人、大蛇だ」

 

この言葉を聞いた亜由は鼻で笑い、帝の座から立ち上がる。

 

「ならば神風の一人勝ちだろうが……」

 

「聞け!!神風と白迅の相性は最悪と言っていいだろう、神風だけに限らず、同じ大蛇が白迅と戦ってはならぬ!!」

 

「なるほど、だが焦るな、すぐに向かう、共に来い十兵衛大熊と紅葉は残れ、行くぞ」

 

「御意」

 

「ご無事で」

 

「行くぞ亜由、急がねば」

 

 

~同時刻~

カノピー

ー『老樹の根蔵』ー

 

 

「………………ウルブズの白迅は?どこに?」

 

「御沼の寺院へと向かいました、グランドマスター」

 

「目的はなんだ?」

 

ウルバルトは座に付くグランドマスターの隣に立ったまま答える。

 

「寺院内の神主と巫女、そして山風と呼ばれる緑色の髪をした娘を殺すと言っておりました」

 

「………………………他には?」

 

「特にはありませんが、どうやら帝の守護者が居たらしく、交戦しているかと」

 

「大蛇か……それならば放っておいても問題はないが………帝の者共が増援に来たら面倒だ、ウルブズのブラックプリオール……ホークを向かわせろ」

 

「は、仰せのままに」




~ムーブセット紹介~

ー≪白迅≫ー
特殊ムーブセット無し

基本パッシブ能力
≪スタミナ250≫
≪回避距離5メートルF10≫
≪弱攻撃 改≫
≪上弱二連10F≫
≪左右弱12F≫
≪フィニッシュ弱9F≫
≪強攻撃12F≫
≪フィニッシュ強10F≫
≪全ムーブリカバリー回避≫
≪フィニッシュ&攻撃時の硬直無効≫
≪無限チェーン≫
≪回避中阻止不能≫
≪ガード崩し無効≫
≪全ムーブソフトフェイント可能≫
≪初擊阻止不能≫
≪弱攻撃阻止不能≫
≪強攻撃阻止不能≫
≪範囲攻撃阻止不能≫
≪全ムーブセット阻止不能≫
≪不動≫
≪スタミナを全て消費した後の自然回復中も疲弊せず、全てのパッシブを保持したまま、回避行動、攻撃速度のみ並の大蛇と同等になる≫
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