For honor『始まりし9年戦争』 作:ペペロンチーノ伯爵
プロローグ・銀拍の雪狼
夕刻・占領されたヴァイキングの砦
ー『処理掘』ー
……………
名の通り何かを処理または捨てる為に掘られた底の深い穴、そこに捨てられていたのは、無数に惨殺された屈強なヴァイキング達の死体だった。
その光景は余りにも酷く、死体から沸き出る蛆や蝿の群れが死体を埋め尽くす。
「……………………」
そんな腐敗した地獄の中で大きく蠢く者が一つ。
「……………………アァ……」
口の中を寝床にする蝿を食い潰し、指先を噛る蛆を握り潰す。
ゆっくりと四肢を動かし、かつての盟友、その惨たらしい遺体を押し退けてこの暗闇から脱しようと必死にもがく。
切断されて腐敗し、体液が染み出た友の腕や脚、はたまた頭を蹴り退け、払い退け、押し退けて少しずつ上へ上へと登る。
「ウルガド……バルア……エゾ……アァァ…………」
踏み分ける友の名を呟き、涙を流しながらも彼はやっと死体の中から脱して雪の天井に腕を突っ込んだ。
(外は……もうすぐだ……)
なぜ自分だけが生きているのか?なぜ盟友達でなく自分だけなのか……。
(答えは分かりきっている……あの鉄の塊を見に纏ったクソッたれロウブリンガーのせいだ……殺してやる)
雪の天井を突き抜け、豪雪荒れ狂う空に顔を出す。
(俺が生き残ったのは奴を殺す為だ……その為に俺が……俺が残ったんだ……)
本来ならば、彼の身体は極限零度に侵されている、だが冷え固まっているはずの肉体は溶炉の如く熱を放出し、青ざめた顔は憤怒の怒りに染まっていた。
膨張する筋肉で掘をよじ登り、冷たい崖に両腕を乗せて体を起こす。
(武器だ……武器は……どこだ)
処理掘の外は豪雪の影響で数メートル先の世界が遮られている。
だが憤怒のヴァイキングは歩みを止めず進撃していく。
「っ…………あれは……」
豪雪の中、彼は数本の火種を見つける。
その火種が付いている場所には覚えがあった。
「……ニーナ…………ニーナァァ!!」
小さく、それは残り火だろうか、豪雪に覆われたその場所は彼の生まれ故郷である村の峡谷が焼き焦がされており、目に見えた火種はある人間から発された物だった。
「……ァ……」
言葉を失い、峡谷の端にある桟橋に横たわった焦げた焼死体を抱き抱えようと肩を持ち上げるとその両腕が焦げ落ちる。
「ニーナ……そんな……待ってくれ……あ……アァァァァ!」
この完全に焼け焦げて顔の判別すらままならないような焼死体だが触れた瞬間に分かった。
彼女はこの男の妻、ニーナである。
「…………分かった……ああ、分かってる」
屈強なバーサーカーだったニーナの焼け落ちた両腕の先に積もった灰と一緒に残された手斧を拾い上げ、彼女の胸に置く。
「……………………フゥ……少し狩りに出掛けてくるよニーナ……それが終わったら……ヴァルハラでまた一緒に狩りに行こう」
ニーナの焼死体を橋の上に置き、目の前のロープで繋がれた小舟の裏側に手を潜らせ、右手で鋼鉄の片手剣を取り、左手に狼の木彫りが施された円盾を取り出す。
「忌々しいナイトどもが……首を斬り落としてやる……」
彼は勇猛なるヴァイキングのウォーロード『ガウル』
そして…………
「誰が私達の首を落とすって?」
「…………っ」
ガウルの眼前に立ちはだかる女はナイトのピースキーパー『ギルティ』
「オマエは……ピースキーパーとか言う……」
「フン、あの糞溜めで大人しくくたばっておけば良いものを……まったくヴァイキングはしぶといな……威勢だけのウォーロードは特にな」
二人はお互いに武器を構える。
いつの間にか豪雪の嵐は去り、峡谷に残ったのは二人の眼光と降り落ちる冷たい雪だけだ。
侵略者のピースキーパー
ー『ギルティ』ー
「そこの……ニーナと言ったか?そいつも威勢だけの雑魚だったな」
全てを
ー『ガウル』ー
「それ以上喋れないようにその顎を粉砕してやる……クソ女」