For honor『始まりし9年戦争』 作:ペペロンチーノ伯爵
全てが始まる前、アポリオンは深淵の底へ立っていた男を探していた。
常人には耐え難い死臭と暗闇の中、彼女は腐った骸を踏みつけながら口を開いた時。
「…………病に……侵されたか、アポリオン」
「っ…………知ってるのか、深創」
アポリオンの目の前に立っていた男はゆっくりと振り向き、手元に掛けてあった松明に火を付けて姿を浮かばせる。
もはや銘柄も分からぬ程、黒血に染まった全身、腰から炎の光を反射している刀の刀身は元の原型を留めておらず、顎が外れ柄と刀身のみで支えられ、顎の支えは固まった血肉で補われていた。
『深創』、そう呼ばれた男はアポリオンを指差す。
「……肺と、左目……そして…………両脚も侵されているようだ……」
「…………その通りだ」
アポリオンは己の兜に手を添え、両脚に視線をやる。
「病を抱え……それでもお前は戦争を起こすのか…………アポリオン?」
「フッ……我々、ブラックストーン・リージョンは新たに結成された……あとは私が……己が何者なのかを忘れた羊達を……狼に変えるだけだ」
「……………………そうか」
立ち尽くす深創を余所目に石段に腰掛け、ロングソードを骸の地面に突き刺す。
「アポリオン……ここから消えろ…………俺に殺される前に」
そう言って深淵の更に奥へと進んで行く深創を呼び止め、ロングソードの柄を握る。
「一つだけ聞きたい、貴様には息子が居ると言ったな……強いのか…………?」
「……いいや、もう…………忘れてしまった……………………息子が居たかどうかすら…………もう……………………ただ一言……『神風』という……その二文字だけが頭から離れぬ…………」
「いま、日の丸で十兵衛とか言う剣聖が帝に努めて居るとか……そしてその帝の守護者はまだ成人にもなっていない子供の大蛇が担っているらしい」
その言葉を聞いても歩みを止めない大蛇は限界が近付いている精神と肉体を引きずって奥へ奥へと進む。
「………………………………どうでもいい……今はただ……深く……先へ…………絶頂を抑えねば…………深淵を…………留めねば…………」
「……貴様も私も……もう長くはないのかも知れないな……私は死の病に侵され、貴様は深淵のそこで死ねず消え行くのみ……」
アポリオンは激しく咳き込みながらロングソードを支えに立ち上がり、まだ太陽の暖かさが残る上へと登る。
これ以上ないほどの狼……全て、深創、貴方のおかげだ…………。
日に当たるアポリオンの兜から、一滴のソレは流れ落ちた。
[…………どうやら私は病に侵されてしまったようだ……剣を振ると肺に張り裂けるような激痛が走る、左目も何かに感染して焼き潰すしかなかった。両脚は常に痺れが走ってたまに動かなくなる。もう私は戦えないのだろうか……いや、私にはまだやるべき事が残っている、この弱く腐りきり、本来の姿、誇り、魂を忘れた者共に気付かせることだ。自分達が何者なのかを、何者で在るべきかを。私は諦めない……狼の時代、その先が見えなくなっても、私は成し遂げる]
アポリオンの病状一覧
結核
眼球汚水感染症
下半身準不全