For honor『始まりし9年戦争』   作:ペペロンチーノ伯爵

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『過去の友よ、さらば桜』

…………とても懐かしい匂いだ……臭みの強い草薙の草原がワシの心を清めてくれる…………いつだってそうだ。

ここで何度も刀を交えた、今はもう取り戻せぬ友達……そして、もう二度と戻っては来ない、親友も。

もう一度……もう一度だけ……あの時の様に、研鑽し合いたかった…………。

 

「おい……大丈夫か十兵衛?」

 

「…………??」

 

視線を上げると、清々しい晴天が気持ちの良い暖かさを下に広がる草原に浴びせ、其処に立つ大蛇が刀を構えながらも心配そうに声を掛けてくれた。

 

「あぁ…………案ずるな深創、やろうか」

 

「うむ……!」

 

刀身が激しく混じり合う、随分と懐かしい感覚だ、こうして深創と研鑽した日々が何時の事だったか、忘れたことはない、この時の匂いも、手に響き渡る痺れも、心臓が破裂する寸前まで打ち合った事も…………忘れぬ、忘れられぬ。

 

「ふむ……今日も俺の勝ちだな」

 

「ふぅ…………やはり勝てぬ、強いな深創は」

 

ワシは……いや、拙者は一度も深創には勝った事がない、それどころか追い詰めた事すらない、情けないな。

 

「……のぉ深創………いや………なぁ、深創?」

 

「なんだ?」

 

勝者が刀を地面に突き刺し、敗者は刀を地面に置く、そうして互いに向き合って胡座を掻いて座る…………懐かしいなぁ…………。

 

「もしも……もしもお主が、鬼となったら?」

 

「ん……?鬼?…………そうだな……」

 

深創は少しだけ考えたが、その考えを振り払うように首を動かし、隠布越しに笑った。

 

「その時は、俺の友のみなが首を落としてくれるのだろう?潔く、気持ち良く殺してくれるだろうな、フッハハ」

 

「……………………そうか……ッッ……」

(すまぬ…………すまぬ深創…………)

 

「っ……どうした十兵衛、何を泣いておるのだ?」

 

溢れる涙が止まらない、これが夢で有ることなどとうに気がついて居たのに……もうお前は其処に居ないというのに…………どうしてこうも涙が止まらぬのだ。

 

「拙者だけが……拙者だけが生き残ってしまった…………全て……拙者のせいなのだ……止められなかった…救えなかった…………」

 

「…………何があったかは聞かぬ、だがな十兵衛」

 

深創は不敵な笑みで十兵衛に語り掛ける。

 

「どれだけの命を奪おうとも、救えずとも、その命を背負う事など誰にも出来ぬ」

 

「……………」

 

「ただそこには結果のみが残る、後悔や懺悔などを考える余裕などない、少なくとも俺にはな……」

 

「深創…………」

 

「だがお前は後悔してる余裕があるではないか、悔い改められるではないか、まだ生きておるのだから」

 

「ッ……!!」

 

「生きておる限り、結果はずっと襲ってくるのだ、それに立ち向かう事が重要なのだ、それによって生み出された結果がどうであろうと、立ち向かった時点で『正しい』ことで、『正しくない事』など存在しない、この世にあるのは正しさだけ、だが、『後悔』だけはするな、自分がやった正しさを、後悔するな十兵衛」

 

少しずつ、少しずつ、深創の身体が薄れていく。

 

「自分を信じろ十兵衛、お前の行動は正しい、必ずだ、どのような結果になろうとも、それを目指したのだから、後悔するなよ、正しいのだから……」

 

「深創……お主は!?お主はどうだったのだ!?何を見て!何を遺してきた!?」

 

「俺か……?俺は…………」

 

深創は刀を抜いて立ち上がり、薄れながらも十兵衛に背を向ける。

 

「俺が見たものは、戦争の醜さと絶望……だがな十兵衛、最後に遺したものは……『己の背を見守ってくれる者達』それだけで十分だ、後悔は無い」

 

そして最後に、深創は十兵衛に振り返る。

 

「十兵衛……お前は良く頑張った、迷惑を掛けてしまったな」

 

「ッッ……!!深創……!!」

 

「すまぬが……息子を……神風を頼むぞ」

 

「何故だ…………どうして…………お主だったのだ……どうしてお主が……」

 

十兵衛は去って行く友の背中に手を必死に伸ばす。

 

「ま、待ってくれ深創!!もう少し!もう少しだけここに居させてくれ!!まだ戻りたくないのだ!!」

 

「……ダメだ十兵衛、お前は進まねばならない、迷えば猪突猛進、そう言ったのはお前だろうに、それではな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

閃光と共に十兵衛は目を覚まし、無言で起き上がって鏡と向き合うと、片目から涙が零れていることに気が付く。

涙を拭い、彼は野太刀を肩に担いで面を着ける。

 

「…………野渡、如月よ」

 

「はい、」

 

「なんなりと」

 

「行くぞ、我々は、進まねばならぬ」

(例えそれが悪でも、正しいと信じる)

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