For honor『始まりし9年戦争』   作:ペペロンチーノ伯爵

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『深淵の娘』

「どうしてこんな事に……アポリオンは死んだというのに……!!」

 

アポリオンを打倒し、亜由の命令でシャードから脱出しようと人影の少ない通路を駆け走り、城の外に出て城下町を下っていると、焼け落ち、バイキングに略奪し尽くされた街が見えてきた。

 

「戦争は終結するはずだった……なのになぜ!?これがあやつの言っていた狼の時代というヤツなのか………!!」

(拙者のやって来たことは………命懸けで皆と戦って来たのは全て………無駄だったのか!?)

 

苦悩に苛まされながら石段を降り、半壊になった民家を通り過ぎる刹那、神風は充満する黒煙と煤の臭いとは別に、民家の奥からする血の臭いがその鼻に纏わり付いた。

 

「………誰か………そこにおるのか?」

 

無垢の民は全て逃げたハズではないのか?

ここまで民の死体を見ていないのが何よりもの証拠では無いのか?

ヴァイキングは戦の術を持たぬ者も殺すのか!?

略奪と繁栄と闘争……あの蛮族にはそれしかあり得ぬのか!?!?。

 

「ッッ……!」

 

思考を振り抜いて、神風は藁にも縋る思いで焼け落ち半壊した民家に足を踏み入れる。

だがそこには神風が想定していたような最悪の事態は広がっていなかった。

 

「………………っ!!」

 

民家の中はヴァイキングに全て略奪された跡が残っていたが、死体は転がっていない。

それに安堵するのも束の間、家の奥から何者かの気配を感じた。

神風は全速力で瓦礫の間を滑り抜け、奥の部屋を塞いでいるタンスを非力ながらも押し上げて退かし、その先に視線を向ける。

 

「ッッ!お主!大丈夫か!!」

 

「!ッ………??」

 

そこにいたのは、とても綺麗で美しい緑の長髪をした幼い少女だった。

少女は首を傾げ、人形のように白く可憐な顔は無表情でじっと神風を見つめていた。

そんな異様な少女に少し固まっていると、床にへたり込む少女の右脚に長い木の破片が深く貫通しているのが目に入って我に帰る。

 

「怪我をしているではないか!」

 

「………………?」

 

「この傷で良くも泣かずに堪えられたな……良い子だ」

 

「あ………………これ………?」

 

「っ、お主、日の元の言葉が言えー」

 

その瞬間、自分の脚に木片が貫通しているのを見た少女は何の躊躇いもなくソレを引き抜いた。

 

「ッッなっー!?」

 

「………………………」

 

「何をしている!!!止せ!!!!」

 

「ッッ!?!?!?!?」

 

「っ………」

 

余りの行動につい怒鳴り散らしてしまった。

少女は驚きと困惑で身体をビクッと震わせる。

 

「………す、すまぬ、驚かしてしまった……拙者の名は神風……ところで痛くは無いか?」

 

手持ちにあった布と軟膏を使ってひとまずの応急措置を施しながら少女に優しく声を掛ける。

 

「うん………大丈夫………………だよ」

 

「そうか、確かに……泣かず、声も上げぬ程の強い子だ、抜いても堪えられるのか………拙者がお主くらいならばとても我慢など出来ずに泣け叫んでいるに違いな………………童時代……?」

 

「………………?」

 

拙者は………子供の頃の事を何一つ覚えていない……親の顔も……名前さえも。

 

「それはそうと、お主、日の元の言葉が言えるのか?」

 

「日の……元……?……あの……あたし……えっと………」

 

「日の元を知らぬのに言葉が話せるのか………不思議な子だな」

 

「あたし……ずっと………穴の中に………………そこで…外に連れ出してくれた男の人が…………同じ言葉を教えてくれたの……」

 

「………そうか」

(穴の中だと?彼女は一体………言葉を教えてくれたと言うが、戦争前に日の元からナイトの地に向かった侍などいたか………?)

 

戦禍の炎が激しくなる音を感じ取った神風が反射的に立ち上がろうと腰を上げた瞬間、疲弊し、傷だらけになった神風の身体が悲鳴を上げる。

 

「ぐぅ……!」

 

「あ…う………だいじょうぶ………?」

 

「っ……はっ………情けないところを見せたな………大丈夫だ」

 

開いた傷口から溢れ始める血に歯軋りを立てながら神風は姿勢を保てずに崩れ落ちた。

 

「はぁ………はぁ………案ずるな………すぐにお主を………ここから連れ出してやる……」

(アポリオンとの戦いが………思った以上に響いていたようだ………)

 

「………かみ……かぜは」

 

「………??」

 

「どうしてそんなに悲しい顔をするの……?どうして自分の為に痛がらないの?」

 

「……お主は凄いな………ハハッ……拙者は民を、友を、主を守らねばならぬからだ、それが拙者の全て、身を捨て、命を捧げて民を守るのが拙者のー」

 

「何もない」

 

「ッッ!」

 

少女の緑目は神風の全てを透かしているように見開かれ、神風の頬に手を添えてくる。

 

「……血の匂いと……硝煙……神風の匂い…………でもね、神風からは命の匂いがしないの………とっても苦しくて、とっても………とってもとっても憎くて、とってもとっても悲しい匂い……」

 

「………」

(この子は一体………)

 

「私といっしょ……」

 

「っ………」

 

「何も分からなくて、どうしていいかも分からない………」

 

「………拙者は……皆を」

 

「うん………うん………でも、それが本当に正しいのか………もう、何をしてるのか分からなくなって………そんな………感じがするの、そんな匂いが、そんな温度をしてる」

 

「それは……………そんな事は………!」

 

「でも、神風はもう自分が消えかけてるよ?」

 

「っあ………………」

 

少女のその言葉で、神風の中で何かが芽生えるのと同時に、何か多くの物を失ったような感覚に陥った。

 

「頑張ったよね………ずっとずっと………頑張ったのに………何を得たのか分からなくて………どんなに頑張っても、どんなに傷付いても………自分が失うか、誰かの何かを奪っているだけ………それがいいのか、悪いのかも分からない………何も変わらない」

 

「………………………何も………変わらない………?」

 

その時、神風の背後から大きな足音が聞こえた。

神風は即座に刀に手を伸ばし、足が上がらず立てないまま振り返って刀を構える。

 

「………こんなところにおったか神風」

 

「………大熊……」

 

「亜由から生きている民は保護しろと言われて探していたが……既にアイアン・リージョンのあのウォーデンが全員逃がしていたか……むぅ?」

 

大熊は神風の状態を眺めるのと同時に、その背後にへたり込む少女にも目をやる。

 

「なんだ、まだ残り物があったのか……それにしても緑の髪とは珍しいのぉ………目も緑色とはこれまた………まぁそんな事はいい」

 

「大熊、この子を連れて脱出するのだ、拙者も後から向かう」

 

その言葉を聞いた大熊は高々と笑いながら神風の脚を軽々と掴み上げて身体を軽々と宙に浮かせ、神風を肩に背負う。

 

「軟弱者が、もう動けぬのだろうに、やはり飯が足らんのだな!ハッハ!!!」

 

「………あれだけ食っても爆発しないのはお主くらいだぞ大熊………」

 

「フン、だから軟弱者なのだ……そこの童女、着いてきたいなら着いてこい、他所に逃げたければ行け」

 

「………………」

 

少女は大熊の腰に巻かれた布を恐る恐る摘まんで掴む。

 

「ふむ、よぉし、行くぞ………と、童女、名前は何という?と言うか、日の元の言葉は話せるか?」

 

「っ……えっと……名前……確か………やまかぜ……名前の意味は………分からない………文字も………知らない」

 

「やまかぜか………んぅむ………」

 

「山風………」

 

「ん?」

 

「え?」

 

不恰好に、肩に担がれて格好が付かない神風がボソリと呟いた。

 

「お主を山に見立て、その爽緑の髪を風に見立てる………それで山風……では?」

 

「山風………のぉ、風はともかくまだまだちっこいのに山とはなぁ………たらふく食わせて本当に山のようにしてー」

 

「お主と同じ膳量では三日と持たず破裂するぞ」

 

そんな二人のやり取りを聞いているうちに、山風の表情は優しく、穏やかな微笑みに変わっていた。

だが大熊は談笑の中で、担ぐ神風に視線を向け、大熊のその顔は決して穏やかではなかった。

 

(俺が見つけた時の神風のあの眼……あの気配、悪寒………危ういな………亜由に報告すべきか)

 

もしも自分が神風と敵同士であり、あのまま足が動かぬあやつを攻撃したとしても、無事では済まなかっただろう。

そう思わせるほど、あの時の黒く、暗く、おぞましい気配を感化させていた神風はそのへ堕ちる寸前だったのだ。

 

「………兄さん」

 

「………?」

 

「かみかぜ………兄さん」

 

「止めておけ、良いものではないぞ」

 

「良いではないか神風、兄と親しまれるのも悪くはないぞ………紅葉が喜ぶな、あやつは童が大好きだからのぅ!」

 

「亜由様には会わせられぬな、亜由様は童が大嫌いだからな」

 

 

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