For honor『始まりし9年戦争』   作:ペペロンチーノ伯爵

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第五話『二匹の大蛇』

「…………亜由様?」

 

帝の間に戻ってきた神風は無人の部屋を見渡してから帝の座に添えられている置き手紙を見つけて広げる。

 

「ふむ……寺院の庭園か……ではここで待っー」

 

畳に足を乗せたその時、部屋の中に一羽の鴉が身を据えていた。

 

「伝令鳩……鴉……紅葉のものか」

 

鴉を抱え上げ、足首に括り付けられた巻文を外した瞬間に鴉は神風の腕を強く突いて蹴り離れ、威嚇しながら飛び去って行く。

 

「っ……相も変わらず紅葉にしか懐かぬか……さて」

 

神風は巻文を広げ、内容を独り言に読み上げた。

 

「ほう……『狼煙を上げ、対成るものの強者たり、ゐな劣勢の至り、市場にて戦火』……苦戦しておるようだ。市場か、亜由様を待たねばならぬが仕方あるまい」

 

休息を止め、巻文を残して神風は再び戦地へと駆け出す。

 

「紅葉には清十郎が着いてるはずだ、一体何者が二人を苦しめておるのか……」

 

 

~『市場』~

 

 

その刃は、紅葉の膝を切り裂き、清十郎の眉間を掠める。

 

「むッ……ぬぅ」

 

「くっ……」

 

「お主らに用などない、大人しく道を開ければ殺しはしない」

 

二人の膝を付かせたのは、一人の剣聖だった。

戦で疲弊しきっていた二人は身体を起こし、目の前の剣聖に構える。

 

「清十郎……遣いは送っている。直ぐにでも援軍が来るはず」

 

「ああ……もう暫くだ」

 

清十郎は陰流を構え、剣聖へと走り出す。

 

 

ー『地払い』ー

 

 

そして直前で身体を落とし、地面を滑るように回し蹴りを繰り出したが、剣聖の両足は既に清十郎の視界から消えていた。

再び清十郎が剣聖を捉えた時、剣聖の野太刀は彼の腹部に深く斬り込まれている。

 

「フッ……ぬ……!」

 

「させませぬ……!」

 

切り裂こうとした剣聖に紅葉が薙刀を振り落とすが、容易く躱され、更にガードを崩されて牛小屋の壁に叩き付けられてしまう。

木の板が軋む程の衝撃に怯んだ紅葉の頭上から弧炎を纏った刀身が振り落とされようとした瞬間。

 

「……ッ!」

 

剣聖は野太刀を引き戻して大きく仰け反る。

そして彼の顔があった空間を苦無が突き抜けた。

身を躱した剣聖を追尾しながら空中で身体を捻り、黒い影を纏う男は神風、陰流の斬り込みが突風の如く叩き落とされる時だった。

 

「む……っ!」

 

まるで何事もなかったかのような落ち着きで、剣聖は苦無を躱し、神風の刃をゆっくりと観察しながらスウェイの隙が無くなった刹那、降り落ちる刃に向かって踏み込む。

 

 

ー『スペリオルブロック回避』ー

 

 

「甘いわ……!」

 

「っ…………」

 

「神風!!」

 

「クソッ……傷が……」

 

スペリオルブロック回避によってガード崩されてしまった神風をリカバリーするために清十郎が駆け出す、紅葉は起き上がろうと膝を浮かせたが深く切り開かれた傷口が紅葉に膝を付かせる。

 

「神風……まさか貴様から来てくれるとはな……」

 

「…………っ?」

 

「あの野武士の伝令鳩を見逃した甲斐があったというものよ」

 

 

この男…………知っているぞ。

 

 

「神風!」

 

「ッ!来るな清十郎!!」

 

「烏合の衆どもが……!」

 

清十郎が剣聖に刀を振り払い、それを見透かしていた剣聖は難なくその攻撃をパリィで受け飛ばし、範囲に野太刀を振り回して清十郎と神風を斬り退ける。

 

「ぬぅ…………」

 

「ふむ……清十郎、まだやれるか?」

 

「無論だ」

 

「よし、紅葉!お主は?」

 

「直ぐにでも……ッッ…」

 

完全に紅葉は脚を負傷しており、立ち上がれどまともに動けないだろう。

 

「…………無理はするな、亜由様の元へ行ってこい、退るのだ」

 

「いいや、まだやれー」

 

「そんな身体で動かれても足手まといだ、使い物にならなくなる前に下がれ」

 

「ッ…………御意」

 

片足を引きずりながら全線から下がる紅葉を見送り、神風と清十郎は刀を構える。

 

「清十郎……貴様に用など無い、貴様も退くがいい」

 

「……なぜ俺の名を……?」

 

「当然だ………あの太刀筋…この男は……」

 

「ほう?良く分かったな…………その通り」

 

剣聖は構えを解いて野太刀を肩に乗せ、脇差しに左手を添える。

 

「……名は十兵衛、二代前の帝、日の国を治める者……」

 

「なんっ……!」

 

「二代前……アポリオンが始末した帝の前代か……未だ健在だったとはな」

 

十兵衛……この者はかつての帝であり、亜由様から剣聖の道を憧れ、その技を伝えた者。

そして……まだ白き輝きを纏い、正義と守護を誓った大蛇が命に代えて御守りすると決めていた主でもある。

 

「だが……もう昔の話だ、今の主は亜由様。お前ではない」

 

「阿修羅を封じる為に策を練り、わざわざ貴様を幽閉したと言うのに……亜由の童め…余計なことを」

 

十兵衛は漆黒の隠布から覗く神風の眼光を睨みながら野太刀を構え始める。

 

「その鎧兜にその眼……ここで断たねば手遅れになりそうだ」

 

「何の話かさっぱり分からぬが……『俺』は既に越えている、行くぞ清十郎」

 

「御意、お前に合わせる。好きな時に仕掛けろ」

 

 

帝の守護者

黒き鬼を帯びる者・大蛇

ー『神風』ー

 

「十兵衛、お主を野放しには出来ぬ、亜由様の為に。『拙者』は貴様を斬る」

 

 

帝の玄人

野望を断ち、主に尽くす・大蛇

ー『清十郎』ー

 

「その阿修羅とやらが何なのかは分からぬ、だが、訳あれど刃を向けるのなら向かうまでよ」

 

 

自分に向けて刀を構える二人を眺めながら十兵衛は深く溜め息を着き、己に渇を入れて大きく野太刀を振りかざす。

 

 

第二十八代目ノ帝

鬼断ちの鬼者・剣聖

ー『十兵衛』ー

 

「鬼には鬼断ち業をもって斬り……名を十兵衛……鬼断ち…………いざ参る!!!」

 

「先行はこちらだ!行くぞ神風!!」

 

「うむ!」

 

挟み込むように左右へと別れた二人の大蛇を見定め、十兵衛は野太刀を強く握り締めた。

そして神風の滑り込むような踏み込みから繰り出される範囲攻撃を容易くパリィで受け弾き、大降りな振り上げを見せた瞬間に引き戻してリカバリーに入った清十郎の顔面に柄を叩き付ける。

 

「ブッ…………ぬぅ!」

 

「…………」

 

 

ムーブ

ー『軌跡』ー

 

 

弧炎を纏った神風の刃が十兵衛に叩き落とされたが、一刀目を躱し、二刀目を見切ってパリィ体制に入った。

十兵衛の両腕が上がった所で神風は軌跡を解除し、瞬間的に素早い斬り払いが迫る。

 

「ふん、甘い!!」

 

 

ー『スペリオルブロック回避』ー

 

 

十兵衛も素早く体制を戻して身体を逸らしながら神風の刃を弾き、そのまま凪ぎ払おうとした刹那。

 

 

ー『ディフレクト』ー

 

 

神風を押し退けながら割り込んで来た清十郎が強引に凪ぎ払われる刃の軌道に逸って受け流す。

 

 

ー『迅雷』ー

 

 

十兵衛に背中を押し付け、全身から沸き立つ弧炎を脇に構える刀に閉じ込める。

しかし、迅雷はその溜めの長さゆえに十兵衛程の男ならばいとも容易く躱せるだろう。

 

「そんなもの当たッー」

 

「逃がさん……!」

 

身を翻して回避しようと左足を浮かせた瞬間、死角からスルリと懐に入ってきた神風にガードを崩されてしまった。

 

「何ッー!!!」

 

「死ねぇい!!!」

 

迅雷は十兵衛の腹を貫通し、肋を割った、そして神風の追撃の大振りが背中を斬り裂く。

だが十兵衛は驚きはしても焦ってはいない、心が揺さぶられようと、身に染みた戦の経験値が彼の瞳に宿る。

追い討ちに斬り込んでくる清十郎の鋭い刃をスペリオルブロック回避で弾き飛ばし、神風の崩しを抜け、更なる清十郎からの攻撃をパリィ、そして神風に豪快な範囲攻撃を繰り出した。

 

 

ー『ディフレクト』ー

 

 

「見えているぞ十兵衛……」

 

「ッ……あっぱれよ」

 

 

ー『迅雷』ー

 

 

そして……分かっていたぞ。

 

すぐさまガードを崩そうとタイミングを合わせてくる清十郎を睨み、身体を捻って振り返り、兜割りを清十郎に振り落とした。

無論、清十郎も甘くはない、兜割りに反応して防御するが、清十郎の攻撃はどれも鈍器のような圧力が掛かり、弾くことは出来ない。

 

「ッ……」

(なんだこの重さは……あの踏み込みからこんなものが打てるのか……!?)

 

兜割りから十兵衛は攻撃を繋げ、決して怯むことの無い素早い突きを振り向き様に神風へと放つ。

 

(これならば少なくとも相討ち、ただでは貰わぬ!!)

 

が。

 

 

ー『ディフレクト』ー

 

 

「何ぃ!?」

 

「甘いな……帝どの?」

 

神風は事前に十兵衛の動きを察知し、迅雷をキャンセルして再び攻撃をディフレクトしたのだ。

 

 

ー『疾風』ー

 

 

迅雷よりもダメージは少ないが、確実な方法を取り、十兵衛に刃を浅く突き刺し、迅速に構え直して左斜め下に振り払った。

 

「まだ終わらぬ!!」

 

疾風から繰り出される攻撃を回避する時間はない、十兵衛は防御を固めて神風の振り払いを堅実に打ち弾く、だがそれは愚策。

 

 

スタンス

ー『影纏い』ー

 

 

攻撃を弾かれた刹那、神風は弾かれる余力に身を任せて身体を唸り、十兵衛の視界から消えて高速の一撃を繰り出す。

 

「まだまだぁ!!」

 

神風の影纏いを初見で見切り、弾いたと同時に飛び込んで来た高速の刃をパリィする。

そして確実にリカバリーを逃さない清十郎の割り込みを予測し、咄嗟に振り返って刀を斬り落とそうと構えた清十郎のガードを崩して神風に投げ飛ばす。

 

 

ー『フィニッシュ阻止不能上強攻撃』ー

 

 

「尋常に勝負!!!」

 

 

膨大な弧炎を纏って掲げられた野太刀を見上げた神風は歯を食い縛り、清十郎の膝を蹴り落とし、その背中を乗り越えながら前に出ると同時に清十郎を押し飛ばした。

 

「は……?」

 

「ッ…………」

 

刃は神風の身体に深く沈み込み、彼の手から刀が離れる。

ピクリとも動かなくなった神風からは吐血すらなく、全身から流れ落ちる大量の出血がその足元を覆う。

 

「止めだ……」

 

 

ー『エクセキューション』ー

 

 

「ッ……ダメだ止めろぉ!!」

 

清十郎は白と混濁に染まる視界のまま地面を這い、神風に手を伸ばすが届かない。

十兵衛は神風から野太刀を引き抜き、背を向けて野太刀を逆手に構えて神風を貫こうとした刹那。

 

 

ー『鬼の突撃』ー

 

 

十兵衛と神風もろとも突き飛ばし、間に割って入ったのは大熊だった。

大熊に突き飛ばされた神風を片手で支え、清十郎に任せた亜由は十兵衛を強く睨み、右手に握り締めた野太刀を地面に突き刺して叫ぶ。

 

「殺れぇい!!大熊ぁ!!!そやつを生きて帰すなぁア!!!」

 

「怖いのォ……御意」

 

「なんだ貴様は……半端な守護鬼など興味なー」

 

 

バキャンッ!!!

 

 

口ずさみながら兜割りを繰り出した瞬間、十兵衛の刃は半身を残して大熊にへし折られる。

 

「ッ……!?」

 

「悪いが……いまわしは機嫌がすこぶる悪い…………あまり怒らせるな、腹が空くだろうが」

 

大熊は手の中の刃を握り潰し、十兵衛に投げ付ける。

 

(なんだこの守護鬼は……化け物め……武器がなくてはどうしようもあるまい)

 

十兵衛は発煙弾を地面に投げつけ、辺りを煙幕で覆い尽くす。

 

「……ふむ、逃げたか」

 

「十兵衛の奴め……なまくらを使いおったな」

 

「なまくら……だと?」

 

「あの野太刀は十兵衛の物ではない、きっとそこらで拾った剣聖の野太刀を使ったのだ」

 

亜由は清十郎から神風を受け取り、大熊に預ける。

 

「何よりも、まだ本気の一つも出してはおらぬ。まったく底知れぬ男よ」

 

「ッ……それよりも神風だ、容体はどうだ!?」

 

「案ずるな清十郎、この程度でくたばる雑魚ではあるまい……にしても軽いのぉ……よくこれで生きて行けるな、まったく考えられん」

 

「お前は食い過ぎだ大熊、それと神風を干し鯣のように担ぐのを止めぬか」

 

「まだあと三人は行けるぞ」

 

「ぬかすな。そういえば……紅葉が来る前に二人の野武士が訪ねて来ていたな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~深刻~

ー『カノピー・老樹の間』ー

 

 

「…………それで、主旨は?」

 

「ヴァイキングの方は順調だ……面白いウォーロードが居たとの報告があったが」

 

「ふむ……それで、ナイトの地は?」

 

「まずまず……だが、厄介ごとがまだ残ってる」

 

「最後はこの地だ……十兵衛?」

 

「ああ……全く問題はない、あとは帝だけだが……」

 

「あの大蛇か?」

 

「そうだ、奴を残せば、例え帝を潰しても絶対的な驚異となる、それだけは阻止せねばなるまい」

 

「なるほど……いいだろう、方法は貴様の軍に任せる」

 

男は椅子から立ち上がり、円卓に背を向ける。

 

「グランド・マスターには俺から方向しておこう、皆の者、もう下がってよいぞ」

 

人魂を全身に纏い、沸き立つ怨念を羽織って彼はその場を後にした。

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