For honor『始まりし9年戦争』   作:ペペロンチーノ伯爵

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第七話『決戦、その影達』

~丑三刻~

カノピー

ー『老樹の根蔵』ー

 

 

「十兵衛は襲撃に向かったか」

 

椅子に座り、彼女は不気味な笑みを浮かべる。

 

「一つ、疑問があるのだが聞いても良いかホーク?」

 

対面に座る男がホークと呼ばれた彼女に話し掛けて来た。

 

「……なんだジオ?」

 

「なぜ我々『ウルブズ』でもない侍がウルブズと対等の扱いをされている?」

 

「それはー」

 

口ずさもうとしたその瞬間、二人が気付かぬ間に真横に立っていた男が声を出す。

 

(やつがれ)が放浪主義だからだろうな」

 

「ッ……!!」

 

「…………いつからそこに居た、白迅(はくじん)

 

純白に色塗られた甲冑と兜を着こなしている男はウルブズの一人、大蛇の白迅は首を傾げながら答える。

 

「さっきからここに居たが?」

 

「……ならば気配を消すのを止めろ、心臓に悪い」

 

ウルブズのバーサーカー、ジオは椅子から立ち上がり、帝の城へと続く夜空の先を眺める。

 

「直ぐにでも決戦が行われる、いや、もう起きているかもしれない」

 

そう言うジオを余所目に、同じくウルブズであるブラックプリオールのホークが白迅に声を掛ける。

 

「お前はどう思う?白迅」

 

「…………そうだな、一筋縄では行かないだろう、間違いなく、その戦いで十兵衛は死ぬ」

 

「分かるのか?」

 

「ああ、グランドマスターの右腕、あのロウブリンガーがしっかりと援護するならともかく、ないだろうな」

 

「ではこの決戦は無意味だと?」

 

「そうだ、我々も十兵衛の警告どおり帝の守護者を甘く見ないほうが良いかもしれない、もしかしたら奴の言う阿修羅と言うのは『深淵の力』の事かもしれぬ」

 

その言葉でホークとジオの動きが止まり、白迅の声に集中する。

 

「深淵の力、その領域に達するには死を乗り越えねばならない」

 

そうして白迅は手を組み、ゆっくりと語り始める。

 

 

「普通、我々が戦場で戦っているとき、複数の敵に囲まれ、極限状態に追い込まれた時、自分が意図していないほど強力な力が湧いてくる事があるはずだ、それを(やつがれ)は『反撃の刻』と呼んでいる、そして深淵の力、それは生存本能の先にあると思う、即ち死の領域の先。反撃の刻は『死にたくない』という本能が生み出す力だが、深淵の力は『既に死んでいる亡者』だと己の存在を確立した時に湧いてくる物だと思っている、つまり。己の死を意識している者はその領域には入れず、死を完全に忘れた者だけが深淵に入れるのだ」

 

 

「…………なるほど」

 

「それで……お前は今まで何処に行っていたのだ?グランドマスターがお見えになる会議にも出席せずに」

 

白迅は壁に背を預け、暫く沈黙する。

 

「………………緑色の髪」

 

「なに…?」

 

「緑色の髪をした女が居ると聞いてな、どうやらそやつは帝の守護者、神風の家族同然の存在らしい」

 

「……ふむ、その女を人質に取ると?」

 

「ハッ、そんな面倒なことはせぬ、殺して首を晒し上げ、奴が冷静さを失った所を殺す。それが一番楽だろう?どのみちこの決戦は負けるのだから」

 

「その女の居所は掴んだのだろうな?」

 

「無論、その為の放浪よ、かなり手間取ったが、居所は帝の城から遠く離れた御沼の廃れた寺院で密かに暮らしている、女の名は奴の技と同じ名前だと言われている……『山風』とな、既に兵を送っておる。夜が明ける前にはその首がここに置いてあるさ」

 

 

~御沼~

ー『樹隠之寺院(みきがくれのじいん)』ー

 

 

「………………………………?」

 

「ん?どうかされましたか?山風様?」

 

深い眠りから覚め、布団から起き上がり窓の外をじっと眺める山風、そんな彼女を見掛けた神主が名を呼んだ。

 

「何か……変…………誰かが……ここに来る…………」

 

「誰か…………?と言いますと?ああ、神風様でしょうか」

 

山風は神主の方に振り返り、太股にまで達するほど長く美しい明緑色の髪を靡かせながら首を左右に振る。

 

「違うよ……兄さんはいつも一人で来る…………8人…………武器を持ってここに来てる………まだそんなに近くない…………」

 

「左様ですか…………」

(山風様の五感は恐ろしく鋭い……きっと嘘は言っていない、目的はきっと神風様の弱みを握るために何者かが兵を送ったと考えるべきか……)

 

「ねぇ……爺…………」

 

「ご安心下さい山風様、この私めが必ずや山風様を御守りします」

 

「…………ありがとう、爺」

 

「勿体無いお言葉、感謝恐縮の至りに御座います」

(神風様が命よりも大切な存在だと言っていた山風様を御守りするのが私の役目、山風様、そして私を救ってくださった神風様へのご恩の為、御守り通す)

 

 

帝の城

ー『正城門』ー

 

 

「やはり……来たか十兵衛」

 

兵の知らせを受けた亜由は正城門の物見櫓に立ち、進軍してくる十兵衛の軍勢を見下ろす。

 

「亜由様、あの軍勢、予想通りナイトの部隊も混じっております」

 

「そうか…………うむ、ならば神風、お主はあの姉妹と小隊を連れて裏門から攻めて来ているナイトの囮部隊を殲滅せよ」

 

「御意、仰せのままに」

 

「他の者達は私と共に本隊を迎え撃つ。我々の力を思い知らせる!心して掛かれ!!」

 

敵は帝の城を挟むように正面の正城門に十兵衛の軍、道幅が狭い裏手の裏門に青銅色のロウブリンガーが率いるナイトの軍が進撃してきている。

だが、これは十兵衛が思い描いた作戦と異なり、普通であれば裏門を攻めているロウブリンガーの部隊が4000、十兵衛らが1000の少数精鋭で敵の弱まった正城門を突く作戦だったが、ロウブリンガーは兵を500しか集めておらず、十兵衛達が目立ってしまったのだ。

 

「ぬぅ……あのロウブリンガーめ……」

(初めから様子見のつもりだったか…………嵌められた)

 

合計1500の部隊に対し、亜由の軍は8000、どう考えても数で劣勢だった。

だが十兵衛は野太刀を掲げ、一切怯まず、背後の兵士を鼓舞しながら一直線に突き進む。

 

「大熊、私と兵の指揮を取れ」

 

「よぉし……」

 

「紅葉、清十郎は二人で別動隊を編成、指揮しろ。先陣は私が勝ち取る」

 

「了解」

 

「承った」

 

亜由はわざと正城門を開き、その回りを槍兵で囲んで兵の門を築いてその前に立ち塞がって亜由の兵が進軍する。

 

「裏門に300、正城門は7700、数では勝るが相手には十兵衛がおる、一筋縄では行かぬぞ。だが恐れる事はない!この私が付いている限り敗北などありえぬ!!敵を撃滅する!!皆の者、続けぇぇぇえ!!!!!」

 

「ぬ!?」

 

亜由の作戦は常軌を逸していた。

普通に考えて、敵よりも坂上を取っている亜由は動く必要などない、だがよりにもよって彼女達は坂上のアドバンテージを捨てて坂をブレーキ無しで掛け降りてきたのだ。

その勢いと圧力に圧された十兵衛以外の兵士が足を仰け反らせるその瞬間、十兵衛は四股を踏み、雄叫びにも似た渇を唱え、鬼神の如き気迫で一人亜由の軍に突撃した。

十兵衛の突撃に引っ張られるように萎縮寸前だった兵士達も雄叫びをあげながら共に突撃する。

 

 

~帝の座に君臨する者~

剣聖

ー『亜由』ー

 

「行くぞ十兵衛!!!!我が師よ!!!!」

 

 

~喪えど立ち向かう者~

剣聖

ー『十兵衛』ー

 

「ワシを越えて見せるがいい!!!愛弟子!!!!」

 

 

火蓋は開かれた、もう誰も止められない。

亜由と十兵衛の太刀が触れあった瞬間、雪崩のように崩れ落ちてきた兵の山が混じり合う。

だが坂上から下り掛けてきた兵たちの勢いで十兵衛の軍は一気に隊列が崩壊し、転げ回り、組み合いの戦いに発展する。

兵と兵の間を縫い渡り、十兵衛に斬り込む、だが十兵衛の反射神経は人の域を越えており、亜由の斬撃を躱し退け、亜由の兵士を凪ぎ払いながら彼女に反撃の一手を差し込むが亜由はこれを防御して弾く。

 

「お主の目的は神風か!!」

 

「その通り!それ以外に興味などない!!」

 

亜由の頬を刀身が掠め、素早い踏み込みと共に野太刀の柄が顔面を打ち付け視界が歪んだ瞬間に足払いを掛けられて亜由は地面に倒れる。

 

「あの男はいずれ阿修羅になる!!あやつの父と同じように!!深創の様に!!!!貴様にも分かるはずだ亜由!!」

 

「ぐ……ぬぅ…………そんな事は、奴がアポリオンを打ち倒した時から知っていた!!!」

 

 

ー『桜刺(かんざし)』ー

 

 

振り落とされる太刀をパリィで弾き飛ばし、素早い切り払いを命中させた瞬間に身体を回して鋭い蹴りを十兵衛に食らわせる。

十兵衛は用意していた破城槌に背中を強打し、野太刀を杖に膝を付いた。

 

「ぐぅ………ッッ…!」

 

「だがあやつの蒼眼は死んではおらぬ!私はそれに賭けたのだ!例え諸刃の剣であろうとも、神風は私の守護者、ならば救ってやるのが主君の道理。神風を信じているのだ!!」

 

「ッ………今にもそんな考えは消し飛ぶだろう!貴様の首と共に!愚かな弟子よ!!」

 

破城槌の壁を背中で打ち、その勢いに乗せて亜由に斬りかかる。

 

「なぜ分からぬのだ亜由!!!神風はいずれ狂人と化す!!戦いの目的を忘れ、死の感情を喪い、護るべきものも捨てる!!そうなればもう止めることは出来ない!!戻ることは出来ないのだ!!!!」

 

「貴様こそ気付いたらどうだ!?あの男は己の父を知らぬ!!アレとは違うのだ!!神風は強い!!分かっているだろう!!!」

 

響き、かち渡る刀身に打ち弾かれる火花が二人の顔を照らし、宵闇の暗闇に光を灯す。

 

「確かにあの男は強い……!だが!!父親ほどではない!!そんな者が阿修羅に呑まれぬはずがないだろう!!」

 

「いつから太刀筋だけで人を判断するようになった……!大切なのは魂………精神の事を言っておるのだ!!!」

 

「そんな物、アテになるものか!!!!!」

 

 

ー『鬼滅の構え』ー

 

ー『烈風』ー

 

 

十兵衛は深くスウェイを踏み込み、亜由の左側に身体を振り抜きながら強烈な横凪ぎの斬り払いを亜由へ向ける。

だが亜由に見て分かるような攻撃は通用しない、亜由は落ち着いて一度十兵衛の間合いから離れようと後ろにステップした瞬間。

 

「ッッ!?」

 

「逃さんっ!」

 

亜由が想定したよりも野太刀の刀身、その間合いは異様に広く、亜由の腹を浅くも確かに斬り込んだ。

 

「ブッ…ハッ……そうだった…………貴様の間合いは昔から計り知れぬ広さだったな……」

 

「貴様ではワシには勝てぬ、小娘は引っ込んでいろ……」

 

「フンッ!私に勝つ……?この帝に…?自惚れるなよ(ジジイ)めが、貴様など私でなくても勝てる」

 

「負けず嫌いの小者が…」

 

「古ぼけた老害如きが粋がるなよ?」

 

二人は再び構えを取り、叫びながら斬り合う。

 

 

~帝の城~

ー『裏門の庭』ー

 

 

神風は刀を振り払い、数少ないナイトの歩兵を斬り捨て、舞のように流れながら次々と死体を作りながら前へと突き進む。

エリート級の敵は一人もおらず、単なる歩兵だけで編成された部隊に神風が手こずる訳もなく、仲間の兵を一人も失う事なく順調に斬り進んで行く。

 

「…………ん?」

 

敵は残り数人という時、背後に控える姉妹と兵たちを止める。

すると敵の兵士を掻き分けながらゆっくりと、一人のロウブリンガーが姿を表した。

 

「俺の気配に気付いたか大蛇……」

 

「貴様は……」

(なにか違う……今まで戦ってきた中でもこの男は別格だ、強いな…アポリオンに似た威圧感だ)

 

「さて……少しだけ遊んでやろう大蛇、掛かってこい」

 

「…………」

 

刀を翻し、青銅色のロウブリンガーに構える。

 

 

~グランドマスターの右腕~

ロウブリンガー

ー『ウルバルト』ー

 

「俺の名前はロウブリンガーのウルバルト、我らがグランドマスターの右腕だ」

 

 

~帝の守護者~

大蛇

ー『神風』ー

 

「グランドマスター……?拙者の名は神風、帝の守護者だ」

 

 

先に踏み込んだのはロウブリンガー、飛び出すようなステップの後にポールアックスを横に構え、柄を神風に打ち出すが神風はこれを難なく躱し、身体を横に捻りながら滑らかな斬り払いを繰り出した。

 

(動きは悪くない、ショブのスピードも並のロウブリンガーを遥かに上回るが、それだけではー)

「…………ッ!?」

 

「フン……固いか?」

 

完璧に斬り込まれた神風の刃はナイトの鎧にも易々と沈み込む、だがこのロウブリンガーは己の両手の籠手で刃を弾いたのだ。

 

「ッッ……どうなっておる…………?」

 

「フフフ、俺の籠手はある意味での盾、この籠手はどんな刃も通さないのさ」

 

「…………としても、貴様、片手でポールアックスを扱えるのか」

 

ウルバルトは自分の武器を片手で軽々と振り回せる程の筋力を持っており、特殊な籠手を嵌めた状態でも素早くガードする程度の力を発揮できるのだ。

 

「それで……?どうする?」

 

つまり、ウルバルトのガードスタンスは二つの方向を保持できるのだ、ポールアックスで右を守りつつ左を籠手で守ることができるのだ。

幾度か斬り込んでみても、二方向を同時に防御できるウルバルトは鉄壁であり、まさに要塞、神風との相性は最悪だった。

一方でウルバルトは神風のディフレクトを警戒してショブを繰り返して神風を完全に封殺していく。

 

「ッッ…………!」

(こやつ、ただの固さ自慢ではないな、陰流を見てから防御し、軌跡のフェイントも通用しない、更には影纏いの連擊も見えているのか………まずいな)

 

「フンッ……いいぞ」

(なるほど納得だ……この男、強いな、一瞬で俺の間合いを把握して繰り出せる攻撃が通用しないなら次々と無尽蔵に引き出しを開けてくる。底が知れないな、これ以上停滞すれば俺に一太刀浴びせてきそうだな…………)

 

ポールアックスを地面に突き、構えを解いて神風を指差す。

 

「貴様の先をもう少し見ておきたい所だが、俺も忙しくてな、ここで退散させてもらおうか」

 

「逃がすと思っているのか?」

 

「…………やれ」

 

刹那、神風の頭上に一発の投石が飛び込み、爆発と共に粉塵を撒き散らす。

間一髪で峯月が神風を引き寄せた事で回避できたが、ロウブリンガーを逃してしまった。

 

「ッ……、大丈夫ですか神風さま?」

 

「ああ、すまぬ……結局奴は何をしに来たのだ…………?」

(グランドマスターの右腕……何者だ?)

 

その一方、十兵衛は亜由達に囲まれていた、自分の兵士は全滅し、残るは十兵衛ただ一人となっていたのだ。

十兵衛の回りに円を作り、この中で十兵衛と亜由が互いに睨み合っている。

 

「………………」

 

「十兵衛、貴様の兵士は全滅したぞ」

 

「フン、その程度でこのワシが退くとでも?」

 

そう言って亜由に斬り込み、剣技を振るおうとした瞬間、彼の右足に矢が突き刺った。

 

「ぐ…ぬぅ!?」

 

矢が飛来してきた方向を見ると、背後にあった破城槌の上に登っていた清十郎が長弓を放ったのだ。

素早く矢を抜き、亜由と清十郎の二人を視界に捉えようと足先を変えた瞬間、地面にいつの間にか敷かれていた小袋を踏み抜き、その中から散布された粉煙を吸い込んでしまった。

 

「ッッ…………これは……!?」

 

「紅葉の特製品だ十兵衛、暫くはうごけまい」

 

「流石ですね清十郎」

 

「造作もござらぬ」

 

全身が痺れ、両足の力が抜けて両膝をガクリと落とした十兵衛の首に野太刀を添える。

 

「……さぁ、やれい」

 

「…………十兵衛、お主を牢に入れる」

 

「なんだと……ワシを侮辱する気か!!!」

 

亜由は冷静に、自分の野太刀を地面に突き刺し、中途半端に刺さった十兵衛の野太刀を拾って地面にそっと置いた。

そして十兵衛に向き合って胡座を掻いた。

 

「貴様は勝負ではどうか知らぬが、(いくさ)で私に負けたのだ、それに貴様を補助していた連中にも見放され、裏切られたようだな?」

 

「ッッ……」

 

「私は勝利戦を長引かせるような質ではない、お主を殺すより、捕らえる方が犠牲も、傷も少ないだろう…………さあ、この者を侍神神社の麓にある牢に入れよ」

 

「侍神神社……それは…………」

 

完全に全身の力を失った十兵衛が兵士に肩を捕まれて立たされる。

 

「そうだ、貴様が神風を幽閉していた牢、あそこの暗闇の中で神風は何年も閉じ込められていたのだ。貴様も今に分かる、あの場所がどんな場所なのか」

 

 

決戦中

~御沼~

ー『樹隠之寺院(みきがくれのじいん)』ー

 

 

「ここの神主はおるか?」

 

白迅が用意した8人のエースクラスの内、隊長格を務める荒武者が夜の寺院の境内に踏み込み声を上げる。

 

「は……はい、この爺めが、ここの神主に御座います」

 

「そうか……一つ聞きたい、この寺院に緑色の髪をした小娘は居るか?」

 

「いいえ?そのような珍しい娘は見たこともありませぬ」

(六人……?残りの二人は何処に…………?)

 

「ふぅん……なるほどな……嘘など言っていないだろうな?」

 

外の様子を密かに見ていた山風もその異変に気が付いており、部屋を横切った巫女の裾を引く。

 

「あら?どうなされましたか山風様、ここを動いては行けませんよ?」

 

「えと……あのね…………二人…この屋敷の中に入ってきてるの」

 

「ッ……本当ですか山風様…?」

 

必死に山風は頷く。

 

「そうですか……分かりました山風様、どうかご安心を」

 

巫女は山風の頭を愛とおしく撫で回してから部屋を後にして複数人の巫女とすれ違う瞬間。

 

「屋敷内に曲者が二人、全ての巫女に知らせなさい、神主様は外で客人の相手をしているから私達でやります」

 

「承知しました。素早く対処しましょう」

 

外で対話をしていた神主も内部の異変に気がついたらしく、一瞬だけ屋敷の方に視線を向ける。

 

「そうです、所でお侍様方、何か食べ物でもどうですか?ちょうどいま懐に甘菓子が御座いますので……」

 

「要らぬ、それよりも屋敷の中にいれー」

 

「ッッ!!!」

 

「貴様ッ!!!」

 

神主が目を伏せたその瞬間、裾下ごと引き裂きながら振り抜かれた鎖鎌が荒武者の首を撥ね飛ばした。

 

「たまには運動もしなければ……この爺には堪えますな」

 

「貴様!!忍か!!」

 

刹那、屋敷の中から野武士と大蛇の首が投げ捨てられ、それと同時に深紅の血に染まった巫女姿の可憐な女達が鎖鎌を両手に姿を表した。

 

「この爺だけではない……この樹隠之寺院に就く者は皆、忍の家系にございます、さて……蹂躙しましょうか」

 

外が騒がしくなっている様子を聞きながら山風は妙な違和感を感じていた。

 

「おかしい……この屋敷の巫女達は全員外にいるのに…………まだ、誰かいるの……?」

 

多勢に無勢、白迅の刺客達は神主の言う通り蹂躙され、巫女達にその首を並べられる。

 

「一つ二つ……ふむ、ちょうど八人か」

 

そして爺は一人だけ刺客を残しており、その者に振り返って穏やかに話し始めた。

 

「さてお客人……だれの差し金で動いてはいるのでしょうか?」

 

「……フハハ……」

 

「……?何が可笑しい」

 

「貴様らがそうしてる内に、拙者達の作戦通りに進んでおることに気付かぬとは間抜けな忍どもだな!!」

 

「何を言って……」

 

周辺を見渡すと、刺客達が境内に入る時に付いた沼地の足跡を見ると、

8人分の足跡の一つが異様に深いことに気が付き、屋敷の方に振り向く。

 

「山風様……!!いけません!!!」

 

去り際に刺客の首を刈り落とし、巫女と共に全速力で山風が住んでいる部屋に飛び込んだが、既に遅かった。

 

「……山風……様」

 

「…………爺?どうしたの?」

 

山風は何事もなかったかの様に自然で麗しい笑顔を神主と巫女達に見せるが、皆は硬直したままだった。

なぜなら、正座している山風の足元に大量の血が流れており、彼女の膝の上に九人めの刺客である女忍の捻れ曲がった首が乗っており、その頭を山風はまるでペットを撫でるように手を添えていた。

その首には鎖鎌が深く無理やし押し込まれていて見るに絶えない酷い状態だったが、それよりしたの胴体は綺麗に損失は無い。

 

「…………山風様、その者は……?」

 

無惨なら死体なら見飽きている、だが何よりも不可解で恐ろしいのは、平然と何事も無かったかの様にその場でずっと座って笑顔を見せる彼女であり、それに畏怖している。

 

「うん……私をね…………殺すって言ったの……だから…………………………兄さんに怒られちゃう……かな…………?」

 

「いいえ、神風様はきっと誉めてくださいますよ、それよりも。お召し物が汚れてしまいます。別の部屋で着替えましょうか」

 

「…………うん……ごめんね…爺」

 

「なにを仰いますか、山風様と神風様をお守りすると我々は誓ったのです、謝罪など、この爺には勿体無い」

 

 

決戦後

カノピー

ー『老樹の根蔵』ー

 

 

使い鴉の報せを受け、白迅は深く深呼吸をしながらゆっくりと大木に背中を預け、夜空を見上げる。

そして閃光の一瞬、白迅の刀の柄から右手が離れ、背中を預けていた筈の大木は横凪ぎに切り落とされており、その先にあった石段の柱も薙ぎ倒されていた。

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