私は狂わされてしまった。
獣刻という力を得たことによって、歪んでしまった。
他人の為にどれだけ力を振るえるかはわからない。それでも、後悔するのだけは嫌であったのだ。

※マスターが若干喋ります

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優しさを願う宿り木の唄

 きっと、どこかで世界は歪んでしまっていたのだと思う。 

 人を思う感情など、消えてしまった。

 思いやりの心など、私の中にはもう存在しないだろう。

 枯れた果実のように憔悴しきった精神を、錆びついた金属の如く朽ち果てゆく身体を、私は、ただひたすらに癒す。それを繰り返すほど、目的を達成しようとするほど、私は『嫌な女』になってしまった。

 目的の為ならば手段を選ばない。

 『平等』の為ならば、犠牲は厭わない。

 『愛』を得る為ならば、他者を蹴落としてしまっても構わない。

 存在意義を求めて。

 自身の生きる意味を求めて。

 嫌われ者になろうとも、私は『愛』を求め続けた。時には味方すら利用する私はきっと『嫌な女』と、蔑まれていたはずだ。そして、それはきっと、これからも続いていくだろう。

 私がそうなってしまったのは獣刻されてしまったからかもしれない。

 私が、狂おしいほどに『愛』を求めているのは、私の価値を定められていたからに違いない。

 自己弁護を繰り返しては、自分の行ってきたことの愚かさを悔いる。

 どんなにこの手を清めても、血の色が落ちることはない。純白であろうとしても、自分を偽っているような気持ちになってしまって怖いのだ。

 そんな私はもう二度と、優しいと呼ばれる存在にはなれはしないだろう。

 自分自身が悪いわけではない。獣刻を行ったトレイセーマという国のシステムが悪いのだ。自分の非を認めないという逃避を繰り返しながら、私は諦めの黒と愛の赤が混じった坩堝に呑まれてゆく。

 『愛』を求めては歪んでいき、その歪みに苦しみながら、それでも生き続け、矛盾を孕んだ自身の感情を呪うだけ。

 私は、答えが欲しかったわけではない。ただ、愛されたかっただけなのだ。

 心を殺し、精神を破壊し、残ったのは、ただ愛を求める愚鈍な獣。そんな私は、きっともう愛されないだろう。

 識別番号C・○四。その刻まれた名前は無機質で、冷たかった。

 

 

 

 

 

 

「ミストルティン。今は問題ないか」

「感傷に浸っていただけですから、大丈夫です。自身の役割は果たしていますよ」

「そうか……」

 

 同じ部隊のマサムネに声をかけられて、現実に意識が戻ってくる。

 トレイセーマから開放された私は、世界の秩序を取り戻す戦いに参戦していた。

 鬱蒼と茂った森林地域で、今は駐屯し、一時的な休息を取っている。

 

 

「報告する、今の戦況はあまりよろしくない」

「なんとなく、わかります」

「……そなたは周囲のことを把握できるのだったな」

「えぇ」

 

 マサムネは事実を打ち明けたくないという、苦い顔をしていた。それでも、事実を知っている私は受け入れることしかできない。

 私のスカートは、地面の草木を通じて周囲の情報を察知することができる。愛するものの行動を調べるという邪な使い方も可能ではあるが、本来は諜報に特化した能力だ。だからこそ、知ることができる。

 

「形勢不利。……逃走を試みた方がいい状況ではありますね」

「アルマスが前線を維持してくれてはいるが、孤立無援の状態。いつまで持つかは……」

「私の力が及ばないばかりに……」

 

 戦力を分断され、味方の支援を受けるのが困難な状況。そして、支援に向かおうにも、今は動けない状態だ。

 ベッドに横たわるマスターの額に手を添える。高熱だ。このままでは、命に支障が出てしまうだろう。敵の毒矢を受けてしまったマスターは、今、一歩も動くことが叶わない。

 咳を繰り返し、うなされている姿を見ていると、その矢を喰らうのが自分だったらよかったのにと思わずにいられない。その時になにもしてあげられなかった自分自身が、酷く憎い。

 

「私がもっとしっかりしていたらマスター様は、こんなことには……」

「過去のことを悔やんでも仕方がないだろう。今は、やれることをやるしかない。ミストルティン。まだ、護衛は任せられるか」

「この身を尽くしてでも、マスター様をお守りします」

「かたじけない。どうか、そなたも無理はしないでほしい」

「……優しいのですね」

「仲間だから当然だろう」

「……こんな私でも、仲間って呼んでくれるんですね」

「どうしたのだ、急に」

「私がマスター様の代わりに犠牲になれば、きっとこんな状況にはならなかったんです。……不甲斐ない私が、仲間なんて呼ばれる資格なんてありません」

 

 胸が苦しくなる。動悸が激しくなって、不安な感情が押し寄せる。

 こうすればよかったという考え方が浮かんでは、消えてゆく。こんなことをしている暇などないのに。後ろを振り向いても意味がないのに、繰り返されてゆく。

 

「……ミストルティン。そなたがいるから、最悪な状況には陥ってはいないということは、どうか知っていただきたい」

「どういうことですか」

「拙者もアルマスも他者を癒やす力は持っておらぬ。せいぜい回復薬を利用して怪我の治癒を行うので精一杯だ。だから、傷を癒やすことができるそなたは役立たずではない。そう、気に病む必要などないのだ」

「マサムネさん……」

 

 切実な意思をマサムネが私にぶつけてくる。真摯なその姿からは、私の存在を受け入れてくれているように感じた。

 役立たずではないという事実を知ることができて、心が少しだけ落ち着く。こんな些細なことでも不安定になってしまうのは、私自身の嫌なところだ。

 

 

「皆が力を発揮している。そなたも、自分の身を削りながらも主君の回復に努めている。だからこそ、拙者は戦えるのだ」

「……ふふっ」

「そなたがそのように笑うとは珍しいな」

「いえ……トレイセーマでは、こんなこと、ありませんでしたから」

「拙者もそなたも変わったということかもしれぬな」

「そうかもしれませんね」

「この戦、主君の為にも勝利するぞ」

「力を尽くします」

 

 杖を利用してマサムネの傷を癒やす。よく見ると、全身に傷を負っていた。それでも、切り傷やかすり傷ばかりであり、致命的な攻撃は受けてはいない。長期戦闘に慣れているのだろう。彼女の粘り強さを感じ取った。

 

「マサムネさんは、やっぱり強いですね」

「何かを守る為に力を振るう。それが、力になっているのだ」

 

 治療を受けたマサムネは、立ち上がるとすぐに駐屯地を抜け、戦地に駆け抜けていった。

 その出撃前、私の顔を見てマスターを守るようにと、視線を送ってきたので、私はそれに頷く形で答えた。ここで、負けてはいけないのだ。

 落ち着いたところで、自分自身の身体の調子を確認する。

 安全地帯にいる関係から外傷は無い。そもそも、敵がこの場所に赴く前に、蔦の罠を仕掛け、対応しているので、見逃さなければこの場所に敵がやってくることはないだろう。そうした事情もあり、毒矢の攻撃以外で、マスターは攻撃を受けていない。

 だからといって、安心はできない。常に敵の行動を察知しつつ、マスターの回復を行っているから気を抜いていると、足元をすくわれる。

 マスターが受けた毒は、対キル姫用の強力なものである。バイブスを持っていて、私達の力を引き出してくれるマスターでも、その毒に単独で抗うのは困難を極める。

 時間が経過すれば、毒は抜ける。だからこそ、持続して私が回復するために、この空間に居続けている。任されているという、その期待には答えなければならない。

 

「……まだ、大丈夫」

 

 駐屯地の薬はもうない。回復薬は前線で戦っているアルマスやマサムネが持っているのもその原因の一つだろう。自分自身の回復はできない。でも、まだ動ける。

 杖を通じて、マスターの体力を回復してゆく。急速に回る毒に抵抗する為に、持続して回復を繰り返す。私自身の負担は大きいかもしれない。それでも、回復の為に魔力を注ぐ。

 マスターに薬を直接与える、という選択は出来なかった。薬が効きすぎて返って毒となってしまう可能性が高く、リスクが大きかったからだ。 

 自分自身の心臓に手を添える。自分でも不安になるほど、不自然に鼓動している。回復を繰り返し行っていることもあり、体力の衰弱が激しい。

 油断すると意識が飛んでしまいそうだ。動悸が激しい。苦しい。少しずつ、私自身の身体から力が抜けていく。

 それでも、負けてはいけない。倒れてはいけない。

 ここで私が先に力尽きたら、全てを裏切ることになる。

 マスターが毒に立ち向かっているのに、先に倒れてしまうなんて、そんな愚かな真似は出来ない。マスターを助ける為、そして信じている人の為に、私はここで動かないといけないのだ。

 

「マスター様がいなくなってしまったら、私に生きている意味なんて、ないですから……!」

 

 必要ないと言われるのが怖い。

 それ以上に、助けてくれた人がいなくなるのが恐ろしい。

 もう二度と、『嫌な女』にはなりたくない。

 繰り返し、マスターの再起を祈りながら回復する。

 数分の時間が経過した、その時だった。

 

「あ、れ……?」

 

 突然、自分自身の血の気が引いた。

 身体に力が入らない。マスターの姿が見えない。視界が朦朧としている。

 自分の身体を騙していても、結局は無意味なのだろうか。

 不本意なタイミングで、限界と叫ぶ私の身体が憎い。最悪だ、このままでは何も成し遂げることができない。

 

「い、嫌です、こんなところで倒れるなんて……っ!」

 

 縋るように、マスターが横たわっている場所に手を伸ばす。

 ……偶然触れることができた、マスターの掌は冷たかった。

 

「あ、あぁ……!」

 

 私の掌よりも、冷たく、生の感触を感じない。

 もう手遅れなのか。

 回復を繰り返しても、無駄だったのか。

 ……違う。無駄であるはずがない。無駄にするわけにはいかない。

 

「大丈夫、大丈夫です、私が、絶対に……絶対に良くしてあげますから……っ!」

 

 自分の魔力を解き放つ。

 一つ、良い手段を思い浮かんだ。

 私自身の命を犠牲にして、マスターを助ければよいのだ。

 大切な使命を持っているマスターと、ただひたむきに愛を求めているだけの私。どちらの方が存在価値があるかは明確だ。私などでは、比べ物にはならない。

 ……ちっぽけな私の愛など、マスター様の崇高な目的の前には無用なのだ。

 全身の魔力をマスターに注ぐ。それで、私はいなくなっても構わない。

 愛の為に死ねるというのなら、それでいい。私らしい終わり方だろう。

 

「マスター様……私なんかのことなんて忘れて、どうか、幸せになってくださいね……?」

 

 意を決した瞬間だった。

 

「そうやって、勝手にいなくなられるの、もう見たくなんてない」

「あ、アルマス、さん……?」

 

 後ろからアルマスに声をかけられた。

 前線は大丈夫なのか、どうしてそんなことを言ったのか、色々なことを問われる前に、回復薬が私の掌に注がれた。

 朦朧としていた意識が蘇る。

 呼吸を整えて、アルマスの方を振り向いた。

 ……怒っているとも、悲しんでいるとも考えられる、複雑な表情をしていた。

 

「仲間がいなくなる勝利なんて、私はいらないわ。そんなの、本当の勝利なんかじゃない」

「私が犠牲になって、マスター様が助かるなら……それで、いいじゃないですか」

「私は、もう誰も失いたくないのよ!」

 

 アルマスの声が響いた。

 単純な怒りの声ではなかった。

 切実に、訴えかけている声だった。

 自分の手を強く握りしめる。

 

「元々敵だった私の命なんて、マスター様と比べたら」

「そういうのじゃない」

 

 アルマスが近づいて、私の手を掴んできた。

 唐突な行動に驚いてしまったけれども、気がついた。

 アルマスの手が震えていたことを。

 

「……マスターが危険だから、そういう行動を取ろうとしているのわかるわ。けど、私はミストルティンが犠牲になってもほしくはない」

「どうしてですか」

「同じ目的の為に戦っている、仲間だから」

 

 それでも、その言葉は震えていなかった。むしろ、芯があって、迷いがない。アルマスの意思を強く感じる。

 そんな中、私は再び聞いた、仲間という言葉に動揺していた。

 

「アルマスさんも……そう言ってくれるのですね」

「当たり前でしょ。自分の身を犠牲にする覚悟でマスターを回復してくれているミストルティンのことを、もう敵だなんて思ってなんてないから」

「……優しいんですね」

「リーダーだから、知っているだけよ」

 

 照れている様子だったけれども、褒められていると感じたのか、アルマスは顔を反らしていた。

 既に汚されてしまっている私の手を気にしないで、今は、色んな姫が私のことを仲間として接してくれている。道具などではなく、ミストルティンという一人の存在として。

 その事実が、不思議と暖かかった。

 

「落ち着いたかしら」

「……大丈夫です」

「回復薬が無いからって、自分の命を利用しようなんてもう考えないで。私が間に合わなかったら、どうなっていたか、わかんなかったんだから」

「……間に合う?」

「マサムネが教えてくれたの。ミストルティンの体力が衰弱しているのに、それを解消する方法がない。だから、回復薬を持ってきてほしいって」

「マサムネさんがそんなことを……」

 

 回復ばかりのことを考えていたから、それ以外のことを気にしていなかった。間接的とはいえ、マサムネにも私は助けられていたのだ。

 あまりにも、周囲が見えていなかった。私は、一人で戦っているわけではなかったのに。

 

「マサムネが伝えてくれなかったら、私は気がつけなかった。マサムネは、もう予備の回復薬を使い果たしてしまったから、回復が出来なかったから、私の場所まで走ってきたの。……ミストルティンを助けて欲しいって」

「私なんかの為に……」

「前線で戦っているわけじゃないけど、あなたも体力を消費している。なにより、マスターの回復っていう大切な役割を受け持ってるじゃない。もっと、自分に自信を持っていいと思うわ」

「でも、結果に結びつかなければ、意味が……」

「それについては、大丈夫よ。ほら」

 

 アルマスが、マスターの方を指差す。

 私が振り向いて、その方向を見てみると、マスターの様子が快調なものに戻っていた。

 

「ずっと、眠っててごめんね。もう、平気」

「マスター様っ!」

 

 顔色も良い。完全とまでは言わなくても、元通りに近い。

 歓喜余って、マスターに抱きつく。体温が暖かい。死を感じさせる冷たさがそこにはなかった。

 

「全く、目覚めるのが遅いわよ。ねぼすけ」

「本当にごめん……助けてくれて、ありがとね」

「お礼を言うなら、私よりミストルティンに言ってほしいわ。毒が抜けるまで、ずっと診ていてくれたんだからね」

「そ、そんな、お礼なんて……!」

 

 恐れ多くて、受け取れない。

 確かに診ていたのは事実だけれども、ただ、助けたくて、いなくなってほしくなくて、治療していただけだ。そんな私が褒められる資格なんて無い。

 マスターから身を遠ざけようとする。

 しかし、アルマスが私の背中に手を添えて、それを妨害する。逃げられない。

 

「……私ね、ミストルティンの声が聞こえたの」

「私の、ですか?」

「絶対によくなってほしいっていう、願いの声。救い出そうとする一途な声、そして……自分を犠牲にしてでも、私を助けようとしてくれる声」

「マスター様の為なら、なんでもしますから」

「嬉しかった。けど、けどね」

 

 不意に、抱きつかれた。

 心臓が高なって、そんな場合じゃないと自分を律して、マスターの言葉に静かに耳を傾ける。

 

「いなくなるなんて、私は嫌だよ……トレイセーマの姫じゃなくて、貴女はミストルティンで、欠かせない存在で、一緒にいたいから……っ!」

「マスター、様」

「無茶ばっかりして、私は眠ってて……っ! ミストルティン、貴女を失ってしまいそうだった……っ! 私、怖くて、怖くて……!」

「大丈夫、です」

 

 マスターの身体を強く抱きしめ返す。

 もう、マスターは冷えてなどいない。涙と、身体の熱を感じ、受け止める。

 

「もう、勝手にいなくなることなんて考えません」

「本当に……?」

「本当です。だって……」

 

 マスターの顔を見て、はっきり答える。

 

「……仲間がいますから」

 

 アルマスの顔を、マサムネの顔を、部隊の仲間の顔を思い浮かべる。

 ……私はもう、一人ではない。

 誰かと比べられるのに恐怖する日々はもう終わっていた。支えて、支えられながら、生きてゆく。道具、兵器としての私はもう、存在しない。

 

「……ミストルティン、いい目をするようになったな」

「マサムネ! いつからそこに!」

「さっきほど。ある程度の敵は迎撃してきた」

 

 戦場から戻ってきたマサムネは、凛とした表情をしていた。それでも、少し微笑していて、私の成長を喜んでいるようだった。

 

「マサムネさん」

「他人を思いやる、優しい瞳だ。そなたはもっと強くなれるよ」

「ありがとうございます」

「ミストルティンから、『仲間がいる』って言葉がきけるなんて思わなかったわ」

「……皆さんのお陰です。トレイセーマにいたころの私だったら、きっとそうしたことを考えている余裕なんてありませんでしたから」

 

 立ち上がり、準備をする。

 マスターは復活した。

 3人という少ない人数ではあるものの、この場所には、背中を預けられるような仲間もいる。

 反撃の準備は整った。

 

「マスター様、指示をお願いします」

「主君、無理はなさらぬよう」

「ここから先は、反撃の時間ね」

 

 各々が覚悟を決める。

 マスターを、そして仲間を見つめて頷く。

 この戦いに勝つ、そして生き延びよう。そう、強く感じる瞳だった。

 

「……仲間との連携を大切に、そして、支援に特化した陣営でいこう! 敵が多くたって、私達なら、絶対に勝てるから!」

「わかりました……!」

 

 この想いに迷いなどあるわけがない。

 私達は、仲間と共に敵に立ち向かっていった。

 絶対に、皆で勝つ。そう強く願いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 

 

 

 

 

 

 戦闘は無事に勝利という形を迎えることが出来た。

 マスターの状態復帰による、キラーズの活性化。そして、連携行動により勝つことが出来たのだ。

 今は、街に一人で歩いている。比較的安全な空間であり、ここならば安心して怪我などを癒やすことができる。

 街の端にあった、大樹に背中を合わせ、空を見上げる。

 見上げた空は、思っていたよりも青かった。

 

「仲間って呼べる人ができると思っていませんでした」

 

 誰かに話しかけるということもなく、言葉にする。当然、誰もいない場所なので、誰にも聞かれることもなく消えてゆく。それでいい。

 『嫌な女』から、私は変わることが出来たのだろうか。わからない。

 心を元の私に近づけることには成功したのだろうか。それも、わからない。

 でも、一つだけわかることがあった。

 

「私を、C・○四としてではなく、ミストルティンとして認めてくれている……」

 

 無機質な存在から、抜け出すことができたという事実だ。

 ミストルティンとして、呼ばれた。必要としてくれた。それだけでも、救われたような気持ちだった。

 誰かと比べられるわけではない。私として、努力をすればいい。

 愛のことを考えてしまうと、止まらなくなってしまう私の性質はそうそう変えられないかもしれない。それでも、受け入れてくれるならば、甘えてしまいたい。少し、欲張りかもしれないけれども。

 

「……そろそろ、行きましょうか」

 

 無事に帰還できた記念で、ちょっとしたパーティーを行うらしい。

 騒がしいところは苦手だけれども、喜んでいる他人を見るのは嫌いではない。

 それに、もしかしたらマスター様と一緒にいられるかもしれない。

 ちょっとした思いを胸に、私は前に歩き始めた。

 人を思う感情は、きっと無くならない。

 愛や、仲間。色々なことが積み重なって、大切にしたいものができてゆく。その、一つ一つを大切にしていくのだ。

 ミストルティン・獣刻・ドリュアスとして、一歩ずつ歩んでいく為に、どんな困難にも打ち克ってゆく。宿り木の無限の可能性を信じて、私は、私として生きてゆくのだ。

 

 


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