ヲ級side…
「ウ〜〜〜〜ン…………すっごく暇ダ」
深海鎮守府へ帰還した私は、執務室の椅子に座ってぼんやりと外を眺めながらそう呟いた。外は相変わらず快晴であり、窓からはル級を旗艦とした艦隊が海へ巡航に向かっているのが見える。うん、実に平和だ。
しかし平和過ぎて退屈でもある。今日の仕事は全部終わってしまったし、最近の海賊共は私達が活動している海域にあまり近寄らなくなったし、海軍や世界政府の連中は私達が占領した島や支部を取り返そうとしなくなってしまったから、ぶっちゃけ超暇。
「いっそ海軍本部ニ殴り込みに行こうカナ?」
「レ?ソレ楽シソウ♪私モヤル!」
「ヤルヤル〜♪」
「いや冗談だからナ!?」
暇過ぎてつい零した冗談を執務室で本物の艦載機を使った飛行機ごっこをして遊んでいたレ級とホッポが本気にしてしまったので慌てて冗談だと付け加える。結構いい笑顔で参戦しようとしたなこの子達……こら、不満そうな顔をするんじゃありません。
「チェ〜。ナンダ、冗談カ」
「スッゴク、タノシソウダッタノニ……」
「気持ちは分からなくもないガ、そんなに不満そうニしないでくれないカ?……後、屋内で飛行機ごっこヲするのは構わないガ、責めてその手に持つ艦載機に搭載されている爆弾ハ取り外して遊んでクレ」
「「ハァ〜〜イ」」
レ級とホッポは慣れた手つきで遊んでいた艦載機から爆弾を取り外すと飛行機ごっこを再開した。もっと言えば本物の艦載機で飛行機ごっこをする事そのものをやめて欲しいのだが……今度妖精さん達にホッポ達専用の艦載機の玩具を作ってもらう様に頼むとしよう。
機体はやっぱり烈風がいいかなと艦載機で遊んでいる2人を眺めながら考えていると、執務室の扉のすぐ側に取り付けられている妖精さん専用の扉が開き、リーダー妖精が入って来た。だがちょっと慌てた様子だ。いったいどうしたんだ?
『ヲ級さん!ヲ級さん!そろそろ姫級か鬼級の建造出来るのです!』
ん?やっとか。今回は建造時間がいつもより掛かったな。元々姫級や鬼級の建造は資材を大量に消費するし、建造に1日から2日程の時間が必要になる上、何故か高確率で建造に失敗する事がある。失敗すると『失敗』と書かれたプレートを持ったしょんぼりとした表情の妖精さんのぬいぐるみが服装はランダムでドックから出て来る。因みにこのぬいぐるみはホッポを始め一部の深海棲艦達に大人気だったりする。
だが、いつもは今回の様に慌てた……いや、どちらかと言えば興奮しまくっている様子で報告しに来る事はない。
「どうしたんダ?少し慌てていル様だガ……?」
『実は急にドックが変になったのです!今までに無い現象なのです!きっと“かくてーえんしゅつ”ってヤツなのです!』
確定演出?【艦これ】の建造にそんなものはない筈だ。でも建造しているのは艦娘ではなく深海棲艦だし、今回の建造時間はなんと3日と14時間!確定演出だという可能性は十分にある!そう考えると私もなんだかワクワクして来た。
「分かっタ!直ぐに工廠へ向かおウ。ホッポとレ級も来るカ?」
「ウン!イク〜!」
「私モ行クヨ!」
「決まりだナ。じゃア、行こうカ」
そうして私はリーダー妖精を肩に乗せ、レ級とホッポと一緒に工廠の建造ドックへと向かった。
★
工廠に着いた私達は、リーダー妖精の案内で確定演出とやらが起こっているドックへ向かった。そこでは沢山の工廠娘達が騒いでおり、彼女達の視線の先にはなんかバチバチと激しく放電し、ヤバそうな音を立てながら光を発している6つの建造ドックが……え゛?
『ほら!今までに無い現象なのです!これは確定演出に間違い無いのです!』
「いやイヤいやいヤ待って待ッテちょっと待ッテ!!あれ絶対確定演出的なヤツじゃないヨネ!?絶対致命的な故障か何かダよねアレ!?」
だって普通の機械から鳴ってはいけない様な音トップ10に入りそうな音滅茶苦茶鳴ってるし!工廠娘達が何人か放電で感電して担架でどっかに運ばれてるし!しかもなんか光ってるもん!なんかめっちゃ光ってるもん!!
『大丈夫なのです!カウントダウンクロックも凄い事になっていますが、ちゃんと建造はされている様なので問題無いです!』
「ア!ホントダ!ナンカ凄イ事ニナッテル!」
「ホントダ!スゴイ……!」
「いや凄い事ッテ何……って本当ダ!本当になんか凄い事ニなってル!」
リーダー妖精達の言う通り、建造に掛かる時間を知らせるカウントダウンクロックが狂ってなんかもう凄い事になってた!しかも気のせいじゃなかったらドックから段々煙的なものが発生している気がするんだけど絶対気のせいじゃないよねコレ!?
「ちょっとリーダー妖精!!これ絶対大丈夫ジャないよネ!?建造終了した瞬間ドカァーンってなヤツだよネ!?」
『もう!ヲ級さん落ち着いてください!安心するのです!建造はされているので多分大丈夫なのです!』
「今『多分』って言ッタ!!やっぱり駄目なヤツなんダ!今すグ異常発生中のドックから工廠娘達ヲ退がらせテ!レ級とホッポは念ノ為に艤装ヲ展開!爆発とかしたラ工廠娘達ヲ守ってくレ!」
「「リョウカ〜〜イ♪」」
どこか面白そうにドックを見ていたホッポ達は瞬時に艤装を展開し、いつでも動ける様に構えた。ドックの前で騒ぎまくっていた工廠娘達は最初は『えぇぇ〜〜?』とすっごく不満そうに言ってこちらを見たが、やがて渋々全員ドックから退がり、ヘルメットを着用して物陰に身を隠しながらドックの様子を見始めた。まぁ、それぐらいならいいかな?
(さてと、後はこのドックだが………ぶっちゃけどうすりゃいいの?停止ボタンなんて建造ドックには存在しないし、今まで何百回も建造を行なって来たがこんな風になったのは初めてだからなぁ…)
いっそ一斉射撃でドックを破壊して建造を無理矢理止めるかと考え込んでいると、急にドックが放電を止め、音も光も発さなくなった。狂っていたカウントダウンクロックは『00:00:00』で停止している。
え?急に止まられても困るんだけど………何?私にどうしろっての?
『建造が終了したのです』
『今回は失敗ではなさそうなのです』
『でも、これってちゃんと新しい艦が建造されるのですか?』
『そう言えば知らないのです。なんだか静か過ぎて不気味なのです』
『……嵐の前の静けさ』
急にうんともすんとも言わなくなったドックに、先程まで騒ぎまくっていた工廠娘達も緊張した雰囲気を醸し出した。誰かは知らないけど最後に言った妖精さんの言葉の通り、今建造ドックが置かれている部屋は異様な程静かだ。レ級とホッポはどうすればいいか分からず、私に視線を送って来た。
「ヲ級オ姉チャン、ドウスル?」
「エ?いやどうするッテ言われてもナァ……」
ぶっちゃけ私が聞きたい。取り敢えず建造ドックの状態を調べたいんだけど、いつ爆発とか起こすか分からないしなぁ。バリア張っておけば大丈夫かな?工廠娘達の話が本当なら、誰かは分からないけど建造は終わってるらしいから中が気になるんだよね。
「アケテミル?」
「………そうだナ。レ級とホッポはここデ待機。シャッターが開き切ったラ私が中ヲ確認してくル。もし爆発とカしたら工廠娘達ヲ守ってくレ」
「了解」
「ワカッタ」
私はステッキを構えていつでも艦載機を発艦出来るようにしてバリアは展開した。これで開いている途中に爆発しても防げるだろう。そしてドックの前まで来ると、私は工廠娘にドックを開けるよう指示を出す。1つずつ順番にだ。
『では、行きますよ?先ずは1番建造ドック……シャッターを開きます!』
工廠娘がスイッチを押し、ガコン!と音を立ててシャッターがゆっくりと開き始めた。姫級と鬼級の建造ドックは普通の建造ドックと違って扉は両開きになっている。ゆっくりと左右に開いて行くシャッターを睨みながら、私はゴクリと固唾を飲む。やはり先程の現象で建造ドック自体にダメージが入っているのか、シャッターが開いて行くと共にギギギと油が切れたような音が鳴り響き、時折バチバチッと小さく火花が散っている。シャッターが開いて出来た隙間からは煙が漏れ、それが邪魔をして中を確認出来ない。
(煙が邪魔だけど、誰かいるのは確かだな。………というか、今思ったけど中にいる奴無事かな?結構放電とかしまくってたし)
電探に建造ドックのある位置に艦の反応があるので誰かいるのは分かったが、中にいる誰かが無事かちょっと心配になって来た。深海棲艦だから多分大丈夫だとは思うが、建造中の状況がアレだったので心配だ。やがてシャッターは開き切り、私はジリジリと建造ドックに近付いて行く。するとドックの中から人が倒れ込んで来たので、私は慌てて地面に倒れる前にそれをキャッチした。
(ぎ、ギリギリセーフ!間に合って良かったぁ……)
私は無事にキャッチ出来た事に安堵する。倒れたまま動かないって事は気を失っているのだろうか?ホッポや飛行場姫達が建造された時は気を失ってはいなかったが、まぁ今回は気を失っていても不思議ではないな。
(さて、いったい誰が建造され…て………え?)
私は抱えている人物を改めて見て驚愕した。抱えている人物が誰なのかすぐに理解出来たのだが、完全に予想外の艦だったのだ。
膝くらいまである長い焦げ茶色の髪をポニーテールにまとめ、健康的な普通の人間の様な肌色。
服装は何故かボロボロではあるが、上が体のラインにフィットした前留め式の紅白のセーラー服で、首元にはスカーフではなく金色の注連縄状のものが巻かれている。 袖は肩が露出しており脇下で胴と繋がっており、袖口は手のひらを半分覆い隠すほど長く、左の二の腕にはZ旗状の腕章が着けられている。
下は。両腰の部分が露出している赤いミニスカートで、黒紐パンの紐のようなものに錨が掛けられている。足には左右非対称の紺の靴下を履いており、右は普通の、左は白ラインの入ったニーソックスになっており、外側面に
(な、なんでお前が建造されるんだ!?これは
私は自分の腕の中で気を失ったまま動かない彼女が何故
(
大和型戦艦、一番艦、“大和”だ。