ヲ級side…
ある日、私はレ級とホッポ、そして仲間の深海棲艦を4人連れて、シャボンディ諸島という島を訪れていた。この島は巨大な《ヤルキマンマングローブ》という樹木が集まって構成された島だ。その名の通り、地面…正確には木の根からシャボン玉が発生しており、島の住民達はそのシャボン玉を利用して日々の生活に役立てている。島の樹木にはそれぞれ番号が書かれており、1〜29番は無法地帯。30〜39番は繁華街。40〜49番は観光関係といった感じに分けられており、他にも造船所、海軍駐屯地、ホテル街などもある。
また、シャボンディ諸島は
そんな島に私達が何しに行くのかというと、今まで沈めてきた海賊達の財宝の換金をする為だ。札束や硬貨はそのまま使えるが、金の杯やダイヤの指輪なんて普通の島では使えないからな。
「オォ♪シャボンダマ、ノレタ♪」
「ア、コラ!危ナイカラ降リナサイ」
島から発生するシャボン玉に乗ってはしゃいでいるホッポに注意をしたのは《
「マァマァ、イイジャナイカ。別ニ人間達ニ迷惑ヲ掛ケテナイシ」
「ソウデスヨ戦艦棲姫サン。ホッポ ハマダ小サイノデスヨ?」
シャボン玉からホッポを降ろそうとする戦艦棲姫に2人の深海棲姫が待ったを掛けた。最初に話し掛けたのは《
もう1人は鬼級の《
「シカシダナ。我々ハ今回、沈メタ海賊共ノ財宝ヲ換金シニ来タノダゾ?」
「ソウダケドサ、別ニ暴レテル訳ジャナイダロ?迷子ニナラナイヨウニ見テルダケデイイノサ」
「レ級ダッテ、出店デ綿飴買ッテマスシ、気ニスル程デハナイト思イマス」
「ナ!?レ級!イツノ間ニ!?」
「レレ〜♪」
なんかホントにいつの間にかレ級が大きな綿飴を食べながら私の隣を歩いてた。レ級は甘いものが大好きで、よく私が作ったケーキやクッキーを本当に幸せそうな顔で口に頬張ってるんだよな。偶に私にも分けてくれたりする。
「ウルサイワネェ?モウ少シ静カニ出来ナイノカシラァ?」
「もう少しデ換金所ニ着くかラ、我慢してクレ」
私の隣を歩きながら眉を顰めているのは《
しかし、凄い面子に成ってしまった。戦艦1と空母1と鬼級1と姫級4。どこに戦争をしに行く気なんだろうな?
(クジ引きで決めたとはいえ、まさか過半数が姫級になるとは……しかもみんな美人だからさっきから凄い視線を感じる)
チラッと視線のする方に目を向けると、視界に入った男達が全員顔を真っ赤にして視線を逸らした。さっきからずっとこんな感じだ。中には奥さんか彼女さんにぶん殴られている奴もいる。何やってんだよ。
しばらくあちこちから視線を感じながら道を歩き、ようやく換金所に到着した。中に入ると外より視線は少なくなったが、外よりジロジロと見られている。見世物じゃないんだがな。
「不愉快ダナ…ヲ級、ココノ人間共ヲ消シテイイカ?」
「ダメに決まっテルだろう。私達はただ換金シニ来ただけ。どうせ殺ルなら《天竜人》共にシロ」
私はあの忌々しい連中を思い出しながら物騒な事を言っている戦艦棲姫に言った。
天竜人…800年前に世界政府を創設し、聖地マリージョアに移り住んだ20人の王達の末裔の一族の事だ。これだけ聞けば大昔凄い事した人達の子孫としか思わないが、800年の長い時間と共に、天竜人は殺人や奴隷所持などの極悪非道の行為を当然の様に行う外道だ。語尾に「だえ〜」とか「アマス!」とか付けてるし、宇宙服みたいなものを着ている。常に奴隷達とSPと兵士達を従えており、それ等が歩いて来ると市民達は道を開けて土下座しなければならないのだ。以前シャボンディ諸島に買い出しに来た時に建物の影からみたことはあるが、あれ程腹が立った事は前世も含めて無かった。
「防空棲姫とレ級は一緒ニ来てクレ。換金しに行ク。ホッポ達は少しの間待ってイテクレ」
「リョ〜カ〜イ♪」
「分カッタワァ。サッサト行キマショウ」
私はレ級と防空棲姫を引き連れてカウンターの列に並んだ。しばらく待っていると私達の順番が来た。受付の男性は私達…主に防空棲姫の胸辺りを見て鼻の下を伸ばしてる。ぶっ飛ばすぞお前。
「はい、お待たせ致しました。今回はどういったご用件で?」
「アァ、少し換金シテ欲しイ物があってナ。悪いガ、奥の部屋ヲ使わセテ欲しイ」
「はいはい♪畏まりました。ささ、こちらへどうぞ」
私達は受付の男性の後に着いて行き、換金所の奥にある応接室らしき部屋に案内された。私達は部屋に置かれたソファに座った。
「それで?換金する物は何処にあるのでしょうか?」
「ン?オ前が鑑定するのカ?」
「えぇ、ここにいる職員は殆どが鑑定する事が出来るんですよ。私もちゃんとした鑑定士です」
「そうなのカ?なら構わなイ。レ級、全部出しテクレ」
レ級はビシッと陸軍式の敬礼をすると、背中に背負っているリュックサックを降ろし、テーブルの上に置いた。チャックを開けて、レ級がリュックサックを逆さまにすると、ガラガラと音を立てて金の延べ棒や金の杯などなど…海賊達の財宝が雪崩の様に出て来た。レ級のリュックサックも私の頭の艤装と同じ様に、見た目より沢山収納する事が出来るのだ。
財宝の山が高くなって行くのに比例して、受付の男性の顔は真っ青になって行き、全て出し終わる頃にはガタガタ足を震わせていた。
「これを全テ換金して欲しイ。……ッテ、どうかしたのカ?」
「お……オォォォォォナァァァァァ!!!ちょ、ちょっとこっちに来て下さぁぁぁぁぁい!!!」
彼はドアを蹴破る勢いで部屋を飛び出し、何処かに走って行った。
★
10分程すると、この換金所のオーナーと名乗る老人が入って来て、さっきの彼の代わりに鑑定をしてくれた。ルーペを使って1つ、また1つと鑑定していく内に、オーナーは顔を驚愕に染めて行った。じっくり30分以上鑑定していたオーナーは、額に浮き出た汗をハンカチで拭いながら換金金額を提示した。金額はなんと………。
「「「ヨ、ヨヨヨヨ4億ゥゥゥゥゥゥ!!?」」」
「はい。長い事鑑定をして来ましたが、こんなに素晴らしい財宝を見た事はありませんからね」
マジでか!?ヤバい!換金所に着いて1時間も経ってないのに、4億の大金手に入れてしまった!やった♪4億もあったら深海鎮守府のみんなの食費補えるぞ!
オーナーはそのまま退室し、しばらくすると4つのアタッシュケースを台車に乗せて戻って来た。オーナーはアタッシュケースの蓋を全て開けると、中には沢山の札束が詰まっていた。私達はそれ等を受け取り、2つをレ級のリュックサックの中に、もう2つを私の頭の艤装に収納し、オーナーに礼を言って部屋を後にした。
「思ったヨリ高くて良かッタナ。最近お金が足りなクテ、困ってタ所ダ」
「私モ含メテェ、空母ヤ戦艦…特ニ私達姫級ヤ鬼級ハ食ベル量モ多イモノネェ」
「最近はル級やチ級モ手伝ッテくれているガ…姫級の貴女達は空母や戦艦よりよく食べるカラナ」
ホッポ達と合流する為にロビーに戻って来ると、3人の姿は無く、店の中にいた人達はみんな顔を蒼くしながら窓の外をこっそり覗いていた。私達は互いに顔を見合わせてから、彼等の後ろから窓の外を見た。
窓の外では不機嫌そうな顔をした戦艦棲姫と飛行場姫、そして空母水鬼と彼女に肩車されたホッポが天竜人の前に仁王立ちして睨み付けてう〜〜んちょっと待って?
私は一度目をゴシゴシと擦ってから再び窓の外を見た。だが、景色が変わっているなんて事は無かった。
………何やっちゃってんのぉぉぉぉぉ!!?
私は慌てて換金所を飛び出して戦艦棲姫達の所に走って行き、出来るだけ小さな声で戦艦棲姫と話した。レ級と防空棲姫も後を追って外に出て来た。
「ちょっと戦艦棲姫!何やっテル!?私確かシャボンディ諸島ニ来る前に天竜人ガ来たラ建物の中ニ隠れロッテ言ったヨネ!?」
「何?コノ人間達ガ天竜人カ?ナラ消シテモ構ワナイナ」
「良くねーヨ!!なんデそんなニ殺気立ってるノ!?」
「ホッポ ト外デ遊ンデタラ、コノ人間達ガ偉ソウニ話シ掛ケテキタンダ」
飛行場姫もでっぷりお腹が出た天竜人を睨みながら小さな声で話に混ざって来た。ヤバいな…このままだと確実に面倒な事になる。しかもこの天竜人私の体を気持ち悪い目付きでジロジロ見て来るから超気持ち悪い!!出来る事なら今すぐコイツを殺りたい!…いやいやいや!ダメだわそんなの!取り敢えず謝れば許してくれるか?でもどうしよう、凄く謝りたくない!
私がどうやってこの場を乗り切るか考えていると、天竜人が話し出した。
「ぬぅ〜?おい、そこのデカい帽子の女。こっちを向くんだえ〜」
「エ?ア、はい。何カ?」
いきなり言われたので取り敢えず向いてみると、今度は私の顔をジロジロ見て来た。今すぐ砲弾をぶち込みたいが、ここは我慢して乗り切r……。
「よし、お前!ボクちゃんの奴隷にな「死ねオラァァァァァァ!!!!」ぐぶぅえがぁぁぁぁ!!?」
ドゴゴゴォォォン!!!!
私は至近距離で全主砲による一斉砲撃を天竜人に喰らわせた。天竜人は砲撃によって吹き飛ばされ、遠くにある建物を幾つか貫通し、更に遠くにある頑丈そうな建物に激突した。