ex.Ⅻ月
ホワイトクリスマス。
そんな現象がこの日本で起きるのは何年ぶりなのだろう。近年の温暖化の所為か、平年よりも気温は高い日が続いていたが、図ったように空気は冷え、肌を刺す。
家を出るときは既に日を跨いでいて、ホワイトクリスマスイブあんどホワイトクリスマスだったかは定かではない。缶詰め状態でペンを走らせていて夜更かし。これをサンタはどうカウントするだろうか。いい子なのは確かだが、寝ないとプレゼントがもらえない。いつかグリーンランド行ったら国際サンタクロース協会に聞いてみよう。いい子に勉強していたのにプレゼントなかったんですけどー。
薄く浅く、コンクリートの凹凸に入り込むように敷き詰められた結晶は、閑静で灰色の住宅街を別世界へと変貌させていた。深夜の街に振動はなく、降りしきる雪が音を吸い込んでいる気がした。
鳴らない足音に自らの口で効果音をつける。
「さくっさくっ」
誰もいない舞台で、八幡のひとり劇場が始まる。始まらない。
寒さでマフラーに顔をうずめ、角を曲がるとこれまた煌々とした異世界が姿を現した。オレンジ、グリーン、レッドの三色の帯は今の時期にはぴったりにも見えた。
夢の扉を押して開くと、サンタ帽子をかぶった美少女。ではなく、ただの青年が棚に商品を置いていた。こちらを一瞥して再び棚に向き直ってから、ぶっきらぼうに「らっさいませー」と言う。
店員の視線は冷たいが、店内には暖房が効いていて、ほっ、と一息つく。雑誌の棚を通り過ぎ、アダルトコーナーに視線が吸い寄せられるのを堪える。お、男の子だもんっ。
ダラダラと物色しているが、イマイチこれといったものがなく迷う。家に帰ってから作る物は面倒で、どうせなら帰りがけに食べられるものがいい。まだ勉強するつもりなので多少がっつりしていても可。
アイスのエリアを見て、流石に無理だと身体を震わせる。その先にあったショーケースに目を奪われた。
少し歩いてから取り出すと、暖かそうな湯気が立つ。あまりの寒さに肉まんが悲鳴を上げたようにも見えた。
ほくほくと齧り付くと、肉汁が口の中に広がり、旨味が染み渡った。抉られた肉の部分から先ほどの倍の量の湯気が立ち、今度は断末魔かな? と思う。容赦なく口に運び、咀嚼を続ける。身体の中から温まり、切れた集中力がまた繋がり始める。
デザートとして、マッ缶を握り込む。じんわりと温かさが掌に広がり、逆に一人だと実感した。俺の恋人はマッ缶だけだよ…。
クシャリと形容しがたい音を立て、プルタブが沈む。折り返して戻すと一気に煽った。甘さが脳まで貫き、ブドウ糖が活発に吸収されていく感覚が分かった。
気付いたら家の前まで歩いて来ていた。静かに鍵を回しドアを開ける。両親はまだ仕事の様で、家には小町一人が寝ているだけの筈だ。
そろりそろりと階段を昇り、足とドアを滑らせるように部屋に入る。トム・クルーズも真っ青だぜ。コートを脱ぎ、マフラーをベッドに投げ捨てたところで見慣れない箱に気付く。コンビニの色によく似た包装用紙で包まれている。
付箋が貼ってあり、サンタクロースより♡と書かれている。小町の字だ。手のひらサイズの箱を持ち上げると、少しの重量感に驚き、苦笑する。
部屋を出て、隣の小町の部屋を目指す。恐らくまだ寝ていないだろうが、一応形式として慎重にドアノブを下げる。小さな音で開いた。隙間から覗く。壁を向いて寝ている小町は月明かりで照らされていて、神々しさを纏っていた。
そっと近づき、サンキュと呟く。髪の毛が揺れたが気の所為だとしておく。背中に隠していた小さな箱を取り出し、枕元に置いた。サンタクロースはまだ仕事らしいから、これで勘弁な。
同じように部屋を後にして自室へと戻る。一度伸びをしてから椅子に座ると、厚くない壁の向こうからもぞもぞと動く気配がした。
「メリークリスマス」
そう言い、参考書に目を落とす。
カイロも貼っていないのに、胸の内がぽかぽかと温かかった。マッ缶すげえ。ということにしておこう。
社会人の方はまだもう少し仕事らしいですね。少しでも楽しみになったら嬉しいです。
本編の続きは製作中で数日以内に出来上がりますが、せっかくのクリスマスということで書きました。これと一週間前に出していた『陽気なギャングの青春と間違い。』を読んで待っていていただけると幸いです。
伊坂幸太郎さんの作品をダブルパロディしていますが、俺ガイルのキャラの個性は残しているので雰囲気は楽しんでいただけると思います。「陽気なギャング」シリーズが気になったりしたらラッキーに思います。
それでは。
メリークリスマス