八幡のちょっとリアルな大学生活。   作:23番

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 八幡が入学式に行くところから始まります。

 3月から来年の4月まで、計14話ほどで終わるつもりだったのですが、3月で言っていたショートショートなどどこにいったんだという程、ダラダラと書いてしまいました。

 なので4月の①です。

 今回も、稚拙な文章力で申し訳ないのですが、読んでもらえると嬉しいです。

 できたら感想なども頂けると励みになります。

 皆様の暇つぶしになれたらと願っています!


4月①

 曇天だ。曇天。まるで俺の心を映す鏡のように空は灰色に覆われている。

 どこかの省エネ主人公の学生生活のようだ。あの無造作ヘアー、灰色灰色グダグダ言っていたくせに、灰色だったのはオープニング映像の数秒だけじゃねえか。

 窓から見える空色を横目に、くだらないことを考えながらベッドのぬくもりにもう一度身を委ねようとすると、部屋の扉が勢いよく開かれた。

 

「お兄ちゃーん!朝だよー!」

 

「うぅ...あと一日...」

 

「お兄ちゃんそれはもう明日だよ...ほら起きてっ!」

 

 今日の小町は積極的だ。どうしようお兄ちゃん、人生相談とかされたら付きっ切りで話聞いて逆に引かれそう。引かれちゃうのかよ....

 

 卒業式から約二週間、薔薇色、なんて表現ができるような輝かしい青春を送ってきたとは言えないが、それなりに濃い時間は過ごしてきた...らしい。

 つかの間の春休みを入手した俺は、買い貯めてしまっていた本を消費しようと引きこもっていたが、何かが足りない。課題か、学期明けの実力テストへの微かな憂鬱感か、それとも...

 

 答えはとうに出ている。失いたくないと願い、選ばないことを選んだそれは、残酷な時間の経過とともに消失した。

 時間はすべてを勝手に奪い傷つけ、そして勝手に癒していく。もし、もしも新世界の神になれたとして、時間を止めることはできるのだろうか。

 時間はすべてを解決する。怪我も、別れもすべてを解決してしまう。ならば、あの場所をもう一度手にしたいという願いはなぜ解決してくれないのだろうか。都合のいい言葉ばっかり並べてんじゃねえよくそ野郎。

 

 我ながらとんでもない暴論だ。雪ノ下に言ったらなんていうだろうか。由比ヶ浜が聞いたらなんておかしなことを口走ってしまうのか...。

 

 失ったあの日からこんなことばかり考えてしまう。そして考えている間にも時間は容赦なく進む。ていうかマジヤバイ遅刻しそうだ。

 

 リビングに行くとすでに小町は朝食を食べ終わり、片づけをしていた。

 

「おはよう、お兄ちゃん」

 

「ん、おはよう」

 

 高校生の小町はまだ春休みの真っただ中が故、俺に合わせて用意をさせていることに申し訳なさを感じる。やはり謝辞の一つも言っておくべきだろう。

 

「悪いな、せっかくの長期休みなのにこんな兄の世話までさせちまって」

 

「そんなこと考えなくていーのお兄ちゃん。早く食べちゃってよ、小町スーツ取ってくるから」

 

 お兄ちゃんの新しい門出なんだから、と付け加え、小町は2階へ上がっていった。

 本当に、頭が上がらない。

 

 

 ちゃっちゃとご飯を流し込み、皿を洗い終わると。ビニールに包まれたままのスーツを手に戻ってきた。

 本当にできた妹だ...、できすぎてできなさすぎる兄の評価が相対的に下がっていき、父親からのおこずかいとして表れる。そしたら俺への愛情ゼロになっちゃうんですがそれは...。

 

 

 スーツに袖を通すと、なぜか身が引き締まる。

 拝啓 喰種殿、人を食べるならスーツを着た瞬間がいいと思います。

 

 そろそろ家を出ないとやばいか。自転車だとある程度の調整が利くが、自転車+電車となるとまた変わってくる。いまいち流れが掴めない。

 まあそれも、時間が解決してくれるのだろう。万能薬なのだから。

 

 玄関に腰を下ろす。スーツと共に買った靴の履き心地はよくない。これも毎日履いていたら慣れるのだろうか。こんなにも、履きづらいのに、慣れるものなのだろうか。

 

「いってきます...」

 

 無駄な思考が止まらない。

 扉に手をかけるところで、小町に呼び止められた。

 

「お兄ちゃん、もう行くの...?」

 

「ああ、、、」

 

 小町もなのだろう。

 新しい肩書を手に入れるということは、前の肩書に上書きされるということ。ソフトと同じだ、上書きすると前のデータは消える。違うところは、前のデータを保存しておくことができない、ただそれだけ。

 

 だが、ここで立ち止まっていては、選ばなかった意味がない。彼女らにも失礼だ。

 

「大丈夫だ小町、兄ちゃんは変わらない」

 

 扉を開き、一歩前へ。あの時間に繋ぎ止められた鎖を、一歩、また一歩、ひと漕ぎ、またひと漕ぎ引きちぎって進む。

 大丈夫、大丈夫だ。

 

 万物が流転し、世界が変わり続けるなら、周囲が、環境が、評価軸そのものが歪み、変わり、俺の在り方は変えられてしまう。

 だから。

 --だから俺は変わらない。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 自転車で15分、電車を一回乗り継いで45分。所要時間は一時間。は大学への通学時間。入学式は別のホールを借りてやるらしいよっ☆

 それを忘れていた俺は今、絶賛振り子ダンシング。良い子はマネしちゃだめだぞっ!

 

 その甲斐あってか、スマホのナビより早く駅に着くことができた。しかし電車はあれだな、時間が決まっているから諦めがつく。諦めちゃったよもう...

 

 8時53分、時間ぴったりに電車がホームに滑り込む。少し時間は遅い為通勤ラッシュは避けられたが、それでも席はすべて埋まり、手を広げることはできない程度の人は乗っていた。

 時間を守る車掌さんには悪いが、日本の電車が正確であることが、日本という社会の時間を重要視する価値観を生み出しているのではないかと感じてしまう。

 いっそのこと15分20分遅れることが日常茶飯事となれば、会社も時間に対する認識を改めて遅刻に寛容になるのではないか。いやないな。遅れることを承知して早めに家出ることを強要されるのだろう。会社って怖い。働きたくない...。

 

 電車に乗っている会社員の姿を見て思わず日本を憂いてしまう。

 そこで電車は暗闇に飲み込まれた。ごうごうと音を立て、一筋の光を目指し突き進んでいく。

 ほらそこにも、疲れたサラリーマンが一人...あ、窓に映る自分の姿でしたね。齢18にしてこの貫禄、将来有望な社畜エリート街道まっしぐら。

 いやまだ専業主夫の夢を諦めた覚えはない!大学で見つけるんだ、理想のキャリアウーマンを!

 

 そこでごうごうとなっていた音が止み、視界は光に包まれ、俺の専業主夫への道にも、光明が見えた気がした(気のせい)。

 

 本でも読むか...。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 目的の駅に着き、中扉の開閉音と共に降り立つ。プシューという音といい扉の開き方といい、ターミネーターになった気分だ。思わず仁王立ちするが、これを通勤ラッシュ時にやったが最後、好奇の目と大量の舌打ちに囲まれ、そのままホームを渡りお家に帰るまである。

 ストレスフルのサラリーマン程怖いものはない。ソースは俺の両親。かっこ小町に対してを除く。

 

 人の流れに乗り階段を上り、改札を降りた時点で時刻は9時47分。因みに入学式の時間は9時半スタート。うん、ただの遅刻ですね。

 

 空は相変わらずの曇天だ。雨が降るのも時間の問題に見える。

 遅刻が確定した瞬間の解放感はすごい。急ぎの課題などがない場合はもう無敵。だって手遅れなのだから。

 頭の中でマリオのスター状態の曲を流しながら、人の間を縫って歩く。

 

 ものの数分でホールにはたどり着いた。当たり前だが外には誰もいない。もしかしたら、遅刻仲間がいて、それが女の子で、それが偶々同じ学部で、それがetc...、などと妄想しながら歩いていたのは内緒だ。え、みんなしないの...?ですよね。

 

 ホールの玄関口から入ると、パイプ机の受付が沢山あった。見れば学部ごとに分けられているらしい。それぞれの受付に立っている事務員の方の視線が痛い。最近注目ばかり受けている気がする。自意識過剰か...。

 

 そのうち一人の女性がが、持ち場を離れ話しかけてきた。持ち場を離れるなと上官言われなかったのか!

 

「あのー、新入生の方ですよね?」

 

「あ、いや、いやずあ、あはいそうです...」我ながら酷いな俺。

 

 上官は臨機応変に対応せよと言ってましたね、サーイエッサー...

 

「じゃ、じゃあ事前に届いた入学証明書を貰えますか?」

 

「は、はいすみません」

 

 悪いことをしてないのに責められている気がして謝ってしまう。遅刻?悪いのは俺じゃない!社会だ!

 内心とは裏腹に体はそさくさと動く。

 

「お願いします」 

 

 受け取った事務員は、用紙を一瞥し、視線を通路の奥に移動させた。

 

「経済学部の方は法学部の奥になりますね。通路を左に折れてもらえれば受付がありますので」

 

 ありますのでなんなんだ、などと考えながらお礼を言い、紙を返してもらった後通路を進む。

 

 通路の突き当りには、右に心理学部、左に法学部が見える。

 そこに立っているのは事務員であり、何の権利も罪もないと分かりながらも、思わず恨めしい目線を送ってしまう。あからさまに目をそらされると、お前なのかと聞いてしまいそうな衝動が沸き上がり、抑える。そんな勇気もないくせに。いや、ただの負け惜しみか。

 

 恐らく日本国民ならば聞いたことがあるだろう、有名私立大学の法学部に俺は落ちた。法学部に入りたかった理由はいろいろあるが、とにかく俺は落ちた。そこで一緒に受けていたのが同大学の経済学部、そして滑り止めとしての他大学だった。

 落ちた理由など、自分の実力不足にほかならないのだから、言い訳をする意味もないのだが。目の前で見せられると思わず視線が吸い寄せられてしまった。

 この大学に拘った理由は、公務員試験対策の充実と合格率、そして採用率が主な理由だ。さっきも言ったが専業主夫を諦めたわけではない。どんなことにも保険は大切だってどっかの窓口が言ってたもん。

 

 法学部受け付けを通り過ぎ、経済学部の受付へと歩を進める。

 

「新入生の方ですね、入学証明書をお預かりしてもよろしいですか?」

 

「遅れてすみません、お願いします」

 

 やっと頭がさえてきた、環境がかわるのだ。覚悟を決めなければいけない。

 

 学生証と入学に関するパンフレットが入った手提げを受け取り、ホールへ向かう。

 証明写真がうまく撮れた試しがない。それともこれが最高なのか、だとしたら私の目...腐りすぎ...!

 

 重厚感のある観音開きの扉をそっと開け、体を滑り込ませる。OK.ホール内への潜入に成功した。どうぞー。誰にもばれないように行動するってドキドキするよね!

 

 後から入るという心配もしていたが、そんなことは杞憂だった。生徒はこれから始まる新しい生活に希望を膨らませ、長い話に聞き入っている。

 静かに最後尾に着席すると、学生のひそひそ話が耳につく。同じ高校出身なのだろうか、それとも今仲良くなったのか、はたまた今話題のSNSで、すでに友達として登録されていたのか。

 新たな環境に身を投じた人間は、周囲に溶け込もうとし逆に違和感のある行動もとってしまいがちだ。それが俺。やっぱり入学式って友達作った方がいいのかと考えちゃう!

 

 ソワソワ...ソワソワ...

 

 

 

***

 

 

 

 曇天は雨天に変わり、人々の頬を濡らす。駅への道を急ぐ人々は、傘をさしたり、鞄を頭に抱えるなど、様々な方法を駆使し、雨風を防ごうとしている。

 俺はというと、涙で濡れた頬を隠すように水を滴らせ帰路をのんびりと歩いている。

 だってあいつら最初から友達できとるもん...そんなの普通できひんやん...半端ないって...。

 

 というわけで友達戦争に参加する前に敗退が決まった自分の選択肢は小町の待つあったかハイムに帰ることだけだった。

 因みに、新入生のガイダンスは一部の学部を除いて明日になるとのこと。経済学部はその一部に入っていないので今日の仕事は終了だ。早く帰って小町に癒してもらおう...

 

 涙がこぼれないように、雲に包まれた空を眺めていると、真っ赤な何かで視界を遮られた。

 

 急な警告色に首を巡らせ振り返ると、そこにいたのは、赤い傘、赤い口紅、赤いスカート。点滅信号の様に赤を散らした、雪ノ下陽乃が立っていた。

 

「やーっぱり、比企谷君だ。偶然だねぇ」

 

 ...まだ今日の仕事は終わらないらしい。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 陽乃さんに促され、少し入り組んだ住宅街の中にひっそりと営業している喫茶店に足を踏み入れた。

 

「どうしたの~比企谷君。顔が赤いぞ~?」

 

 分かっている癖にこの人は...

 もうすぐ駅というところで引き留められた俺は、帰路を急いでいることをやんわりと伝えたものの、陽乃さんに通用するわけもなく、さらには傘を持っていない俺を傘の中に招くという愚行を行った。

 途中のコンビニでビニール傘を購入することを提案するも、あえなく却下され、要するに衆人環視、同じ大学の学生も見ている駅前からこの喫茶店まで相合傘をしてきたという...。

 初めてを奪われちゃった...もうお婿に行けない...!!

 

「少し歩いて暑くなっただけですよ、もう春ですし」

 

「ふーん、まあいいけど。比企谷君もあの大学だったのねぇ...」

 

「...も?」

 

「んーん♪何でもないよっ」

 

 陽乃さんは不敵な笑みと意味深な言葉を残し話をすり替えた。ウインクといいしぐさ一つ一つから魅力を余すことなく伝えて来る彼女を見ていると思わずペースを握られてしまいそうになる。

 視線を無理やり外し、店内を見渡す。ここは千葉ではない、故にオサレなカフェがあってもおかしくはないが相も変わらずこの人の選ぶ店はセンスがいい。

 

 はいっ!と何かを差し出してくる。波状攻撃をどこかで止めないとのまれてしまう。が、そこにあったのはかわいらしい花を刺繍してある、小さなハンドタオルだった。

 

「風邪ひくよ?」

 

 純粋無垢な表情で差し出してくる彼女は、本当に心配しているのかと錯覚してしまうほどの潔白さを見せている。

 

 いや、大丈夫です。と制し、鞄を弄る。頼むコマエモン、あの時の優秀さをここでも発揮してくれ!

 

 という大きな希望も儚く散った。

 

「ほら、本当に風邪ひかれるのは私としても望んでないよ。なんたって可愛い妹のお友達なんだから」

 

 真剣な顔をされるとまた違った威圧感がある。そこまで言われて受け取らないのも失礼だろうと自分を納得させる。

 

「すみません、ありがとうございます」

 

 礼を言い、受け取る。小雨とは呼べないほどの雨とは言え、数分間浴びえしまえばそれなりに不快なものだ。

 ジャケットは座席にかけ、頭、首、腕と拭かせてもらう。頭から首にかけて拭うとき、確かな香りが、しかし全く不快ではない質の香りがした。

 この人どんだけ良いにおいするんだ...。

 

 ハンカチ、タオル等を借りてしまえば、言う言葉など決まっている。

 

「これ、洗って返しますね」

 

「えーいいのにー、比企谷君が拭いたタオルならお義姉ちゃん歓迎だぞっ?」

 

「じゃあ、また今度返しますね。あと漢字違いますよ」

 

 ちぇーとか、ぶーとか聞こえるが聞こえない。好意には甘える形にはなったが、甘やかすつもりはない。たまに妹レーダーが反応しそうになるが気のせいだ!!

 

「とりあえず合格おめでとう?でいいのかな?」

 

「俺が落ちた大学の入学式にスーツ着て参加するようなイカレた奴じゃなきゃそれでいいんじゃないですか。」

 

「ん?落ちた?」

 

「言葉の綾です、気にしないでください」

 

 陽乃さんに対する言葉を選んで会話しているつもりだが、それでもボロが出てしまう。さっきのいい匂いの所為か...卑怯な...

 

 まあそこらへんは総武校行けば分かるからいいんだけど~などと恐ろしいことを言っている。マジで怖いこの人。

 

「大学合格おめでとー」

 

 入店したときに頼んで貰ったアイスコーヒーで乾杯を促してくる。恥ずかしさを覚えながらも、人からの称賛は素直に受け入れるとするか。

 

「ありがとうございます」

 

 スチールのカップとカップがぶつかりカンッと音がする。

 

 そろそろ本題が知りたい、なぜこの場所にこの人がいたのか。そしてなぜいつもよりも強引な方法で拉致されたのか。

 彼女の本性は未だ得体が知れない。俺が3年になった辺りから奉仕部への興味をなくし、まあ、俺たちの関係性に面白みを見出せなくなったのが主な理由だろうが...、部室を訪れる等の行動は鳴りを潜めた。

 それでも姉妹の仲は良好のようで、良好?なのかあれは...

 とりあえず大きな衝突などは起こらない関係性を築き上げた。

 

 殆ど会うことがなくなり、文化祭などの学校行事の際にはちょっかいをかけて来るものの、以前のようなボディタッチはなくなった。べ、別に残念がってなんかないんだからね!

 

「私の分析は終わった?」

 

 ...!!思わず目を見開きかける。動揺を見せるな。

 

「私があの場所にいた理由はその内分かるよ」

 

「そうですか...、じゃあ、俺を強引にここまで連れてきた理由は何ですか」

 

 店に意味はなさそうですが、とだけ付け加える。

 

「比企谷君にはあんまり意味ないし、単刀直入に聞こうかな。3年の終わり頃の隼人の様子何か知らない?」

 

 質問の意図が汲み取れない。なぜ俺に?もちろん葉山に接点はある。しかし、3年ではクラスも別になり、会話することはとうとうゼロといえるほどになった。

 

「知りませんよ、クラスも違いますし」

 

 実際、葉山の進学した大学などもしらない。かくいう俺も進学する大学は身内と奉仕部の二人以外には教えていない。あ、戸塚は天使だからノーカウントで。

 

「なんでもいいの、些細なことでもいいから」

 

 様子がおかしい...珍しく陽乃さんが食い下がる。訝しむ目線を送ると、陽乃さんは自分の状態に気付いたのか姿勢を正し、コーヒーを一口啜った。

 

「ごめんなさい。ちょっと長いこと気になってて」

 

 落ち着いたのか、陽乃さんは脚を組み替える。

 ぬおお、視線が吸い寄せられるぅぅ...3.14159265あこれ円周率だ。

 

 素数と円周率を間違えているうちに、彼女の中で整理がついてしまったのか、残った液体をあおり、会った時と変わらない余裕たっぷりの表情で向き直った。

 

「ありがとう比企谷君。変なこと聞いてごめんね。また今度ちゃんとお祝いしなきゃねっ♪」

 

「いいですよそんな。小町に沢山祝ってもらったんで」

 

「相変わらずのシスコンぶりだねぇ~」

 

「あなたに言われたくないです」

 

 わかるぅ?この間雪乃ちゃんにね~...と雪ノ下にもらったプレゼントの話などを話し始めた。

 どんだけ好きなんだよこの人...

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「じゃーね♪比企谷君っ」

 

 首肯で答えると、黒塗りのセダンは窓を閉めながら走り去っていった。車、変えたのか...。

 

 いつの間にか迎えを呼んでいた雪ノ下さんは、送っていくとありがたい申し出をしてくれたが、丁重に断った。せめてもと、傘を渡されそうになって断ろうとしたが、どうせハンドタオルも返すのだからと受け取った。

 

 車に乗る前、肩に手を添え、耳元で囁かれた言葉が脳にこだまする。

 

 

 -私はまだ、君に期待していいのかな?-

 

 

 真っ赤な傘をさして、駅へと戻る。雨は少しづつ勢いを強めている。雲は厚く、太陽の光でさえも全く通さない。

 振り返れば、喫茶店を囲む新緑の木々が生い茂る。しかしその葉は、日光を避けるように下へ下へ力なく垂れてしまっているように感じてしまう。

 

 

 雨に濡れた陽乃さんは、香水の匂いと湿った香りを纏い、少し人間らしいにおいがした。




 次もまだ4月を書きます。この流れでいくと確実に人と人とのつながりになりますね。

 八幡が大学生だったら、そして周りとどうかかわるのか両立できるよう頑張りたいです。
が、前話で言ったことももう外れたので、今回もそうかもしれないので聞き流してください。


 更新は不定期なので、待っていただけると嬉しいです。週一は破らないよう頑張ります。

 優柔不断なあとがきですみません。

 ご意見ご感想など頂けると嬉しいです!

 ではまた。

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