八幡のちょっとリアルな大学生活。   作:23番

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 ゴールデンウィークの話になります。
 一色いろはが書けません、可愛く書けませんでした。すみません...

 長いです、長いくせに内容は良くないです...

 でも一生懸命書いたので読んでもらえると嬉しいです。
 感想をいただけるともっと嬉しいです...。
 

 今回も暇つぶし程度に、お手すきの時に読んでもらえると幸いです。


5月①

 葉山との邂逅を果たしてから、はや三日。あれれー?おかしいぞー?祝日なのに学校があるぞー?

 どこぞの名探偵ばりに疑問点を挙げていると、隣から声がした。

 

「どうしたべー?ヒキタニ君。元気ないんじゃないのぉー?」

 

 このこのーと言わんばかりに肘で小突いてくる。どうしてリア充はこういうスキンシップが好きなの?

 鬱陶しさに身を捩りながら答える。

 

「いつもこんなもんだよ。まあ、祝日なのに学校があるってのも原因だが」

 

「まじそれなー。ハナキンだべ?」

 

 花の金曜っていうか。薔薇の祝日のはずなんですけどね...。どうなってんの大学さんよぉ。社会に出てから祝日でも出勤を言い渡された時のデモンストレーションですか?

 

 

 

 陽乃さんの意味深な発言。そして葉山隼人の憂いに満ちた目。どうにも頭にこびりついて離れない。もう彼ら彼女らとは関係ないはずなのに、一挙手一投足が意識に障る。

 

 高校3年の時の状態、陽乃さんはそう言った。それを知っていそうな人間は身近にはコイツしかいない。

 少し確認してみるか。

 

「な、なあ戸「戸部君さー今日この後ひまー?学部の親睦会でカラオケいくんだけどー」

 

 最悪のタイミングで後ろの女子が話しかけてきた。

 

「え、なになに楽しそうじゃん!いくべいくべ、ライン教えてちょー!」

 

「あはは戸部君面白ーい!」

 

 ねえ君たち人の話の邪魔はしちゃいけないって習わなかった?僕は習いました。なので邪魔しません。

 

 プリントを鞄にしまい、席をたつ。

 

「あ、ヒキタニ君またねー!」

 

 扉を開ける直前で、戸部が叫ぶ。

 手だけで答えて、教室を後にする。

 

 

 

 誘うわけじゃないんかいっ!いやいかないけど...

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 やはり4限のある日は遅くなる。帰ると既に晩御飯の準備となっていた。

 どうにかならんもんかなぁ、頭を掻きながら自室に入る。

 

 途中の駅で取ってきた、バイト情報誌を取り出してパラパラと捲る。

 朝の新聞配達なんてやりたくないし、工場のライン作業も拘束されすぎて嫌だ。

 当たり前のように人と関わらない業種に絞られていることに安堵しながらも、そうは言ってられないとも悟っている自分がいる。

 

 まあ、なんにせよ時間だよな。大学から直行で、晩御飯なしとかは避けたい。

 あの時間だけは、ちゃんとしていたいから。

 

 ば、ばか!小町のことが好きなだけなんだからね!なんだこれ照れ隠しにもなってねぇ。

 

 

「おにーいちゃんっ!なにみてるの?」

 

「うおお!ちょ、おまえ驚かすなよ...」

 

「んー、珍しくただいまも言わずに上がってったから。どうかしたのかなーって」

 

 本当だ。小町の事を考えていて、小町の事を忘れるなんて本末転倒じゃないか。

 そこで1つ、思い出すことがあった。

 

 見えているのに、見えていない。

 

 何だろう。その事実にどこか既視感を覚えてしまっている。あれは...

 

「お兄ちゃん!聞いてる!?小町の事無視しないでよ!」

 

 また考え事にふけっていたようだ。小町が少し寂しそうな顔をして訴えてきていた。

 

「あ、ああ悪い。ただいま小町、今日もかわいいな」

 

「わー、なにその取ってつけたようなセリフ...」

 

 と、そこで小町は、俺が手に持っていた冊子に気付くと、驚きに目を見開き、アワアワと口を開閉した。

 驚きすぎじゃないですかねぇ...

 

「お、おおお兄ちゃんが...求人雑誌を見てるなんて...」

 

 大丈夫?熱ある?辛いことあった?と本気で心配した声をかけて来る。

 

「おふくろに定期代払わない宣言されたから仕方なくだよ...」

 

 ワケを聞いた小町はなーんだと言わんばかりのため息をつき、再び軽侮の目でこちらを見つめてきた。

 

「はあ、お兄ちゃんが求人情報で専業主夫を探し始めたら、どうしようかと思っちゃうところだったよ...」

 

「それだとただのヒモ募集雑誌じゃねえか...」

 

 ヒモ希望のあなたにピッタリ!ヒモな男性が欲しい女性多数掲載の『月刊ヒモ』絶賛発売中!

 なにそれ定期購読したいんだけどどこに行けば売ってますか。どこに行けば売ってますか!

 

「っていうか、そんなことはどうでもいいんだよお兄ちゃん!」

 

 どうでもいいって言われちゃったよお兄ちゃん...、もっと褒めてもらえると思ってたのにぐすん...

 小町はビシッと人差し指を立てこちらを指さしてくる。

 

「今一番大事なのは、直近のいろはさんとのデートだよ!」

 

 一週間前のやり取りを思い出す。服買ってー電話してー金せびってー俺泣いてーだっけ。

 机の上には、小町に恥かかすんじゃないぞという旨のメモと一緒にそこそこの金額が入った封筒が置かれていた。

 

「ああ、そういやあそんなこと言ってたなぁ。デートじゃねぇけど」

 

「まーたひねくれボッチがなんか言ってるよ」

 

 なんか最近妹の毒舌が鋭い気がする。なにこれ書籍化待ったなしじゃん!読まないけど。

 

「それにしてもお前、一色と仲良くなるの早かったよなぁ。高校入ってすぐだったっけ。」

 

「え、う、うんそうだけど...急にどうしたのお兄ちゃん...」

 

「ん?いや、一応な」

 

 頭の上にはてなマークを浮かべている妹は置いておいて先を急ぐ。

 

「一色に服選んでもらうって言ってた件も、話続いてないしわすれてんじゃねえの?」

 

 立っているのも何だったので、ベッドに腰掛けながら携帯のメール画面を開く。

 密林・密林・密林・密林・密林...

 やだ、私の携帯超ジャングル。先住民や野生動物も引くほどのスコールを心の中で降らせていると、小町が隣に腰掛けて来る。

 

「それなんだけど、もう集合場所も決まってるから。あとは行くだけだよ♪」

 

 わー頼れるぅ。こんな幹事さんだったらぁ、私何回も頼んじゃいそう~。

 思わずいろはすが乗り移ってしまう。

 

 せめてもと小町の同行を嘆願したが、予定があると一蹴される。

 

「不安だなあ...」

 

 思わず本音がこぼれた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 流石ゴールデンウィークというべきか、車両内はそれなりの混雑を見せている。

 午前10時、千葉集合。それが一色と小町が立てた予定らしい。あとは知らん。

 小町姉さんによる、服装チェックが入ること3回。ようやくOKが出た俺は急いで千葉に向かった。あれれー?小町も予定があるって言ってたんだけどなぁ?

 俺が出かけるときもまだパジャマ姿だった妹に疑念を抱きながら、つり革を握る。

 

 小町との会話で思い出しかけた既視感。それもまた小町との会話で頭の中から消え去ってしまった。

 あれから何度か記憶を掘り起こしているのだが、靄がかかっているようで思うように出てこない。

 

 うーんうーんと唸りながら考え事をしている内に電車はホームに滑り込んだ。

 

 ぞろぞろと移動する人に続いて、降りる。一色との待ち合わせがどこかは知らないが、電光掲示板の横に設置されている時計の示す時刻は9時55分、時間には間に合ったらしい。

 改札に向かう階段を上りながら雪ノ下の言葉を思い出した。

 

 5分前集合は社会行動の基本、か。

 

 そう言った彼女、そしてその直後に登場した彼女は、何をしているだろうか。

 卒業式から、連絡は取っていない。

 自分の忙しさもそうだが、彼女らも忙しさに目が回っているのだろう、と、言い聞かせている。

 

 そんなことなど、どうとでもなるのに。

 

 改札を抜け、以前待ち合わせをした場所、千葉駅東口側の前に立ち止まる。

 俺のような千葉プロともなると、千葉駅周辺のマップはすでに頭に入っているものの、一色が迷っている可能性も存在するため携帯を確認する。

 

 高校3年に進学してすぐ、一色いろはの意味不明な宣言と共に携帯電話をふんだくられ、半ば強制的に登録されることとなった〈一色いろは〉の文字。

 もうすぐ待ち合わせの時間も過ぎる。居場所をメールで送っておくかと、柱に右肩を預けながら携帯をピコピコていると、不意に耳元に風を感じる。

 

「せーんぱい...♪」

 

「うおっ!」

 

 なんか最近驚きっぱなしだなぁ、なんで女子って急に出て来るの幽霊なの?儚い存在アピールを亡霊的な何かを利用してしてるんだとしたらいつか祟られるよ?

 

 恨めしやと念じながら後ろを振り向く。

 

 黒のタイツに花柄のスカート、白色のブラウスにカーディガンを着ている。そして耳元に揺れるイヤリングと、亜麻色の髪。

 

「お久しぶりですっ♪」

 

 紛れもない、一色いろはだ。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 千葉駅集合というだけで、千葉で買い物をする訳ではなかったらしい。なら目的地で集合でもよかったんじゃないですかねぇ...

 座席の前に立ち、一色は握り棒、俺はつり革を掴み並んでいる。席が一つ空いていた為座ることを薦めたが、首を振り遠慮された。消え入りそうな微笑を湛えていて、言葉に詰まってしまう。

 

 最初の威勢はどこに行ったのか、集合してからここまでほとんど口を利かないでいる。

 気まずいっ、気まずいよコマエモン!助けて!

 

 空気に耐え切れなくなった俺は、一色の体調を慮り、あわよくば解散にならないかと口を開く。

 

「なあ...」

「あの...」

 

 また被ったぁ、最近被ること多いよなあ。ソシャゲのガチャもよく被る。なんでだろうな、確実に持ってないカードの方が多いのにすぐ被る。

 

 一色も驚いた顔をしていたので先を促すが、お先にどうぞと制されてしまう。

 

「た、体調でも悪いのか?あんま無理しなくていいぞ?なんなら今すぐ帰っても全然...」

 

 言葉を一つ一つ並べているうちに、一色の目が少しずつ伏せられていく。

 え、何、言霊でも宿ってんの。霊能力的な何かに目覚めちゃったの俺。

 

 様子のおかしかった一色がようやく口を開いた。

 

「先輩...、やっぱり忙しかったですかね...」

 

 上目遣いでこちらを覗いてくる。その目には涙が見えなくもない。

 

「結衣先輩に聞いたんですけど、卒業式から連絡とってないって...。だから本当に忙しくて、私と会うのもの億劫だったんじゃないかと思って...」

 

「一色...」

 

 一色は一色なりに気を使ってくれていたのだろうか。思えば、誕生日だって必要ならば一色から連絡をよこしてもよかったのだ。

 進学すると感じるのかもしれないが、中学の時は高校が、そして高校の時は大学が、イメージとは違ったものとして映ることはよくある。大学という自分の知らない環境に身を置いてしまった俺に、どんな対応、接し方をしていいのか図りかねているのだろう。

 心なしか、握り棒を掴んでいる手にも力が入っている気がしてきた。

 

「いや、全然忙しくないぞ。午前中で終わる日もあるし、水曜日に至っては授業ない。完全週休3日制の超ホワイト大学だ」

 

 ブラックな大学って何なんだろう...、授業が超多い?それはそれでホワイトだよな...。

 それ基準で行くと俺の大学ブラックなのでは?

 ブラックでソロプレイヤーとかもどこかの剣士なんじゃないかって気がしてきた。あと最近のキャラクターネーム、キリト多すぎ。

 

 一色は伏し目がちだった顔を上げ、浅い息を吐きながら言葉を紡ぐ。

 

「本当ですか...?」

 

「嘘つくメリットもないだろう...、それにブラックな大学だったらとうにやめてる」

 

「それはちょっとどうかと思いますけど...」

 

 一色の顔にいつもの蔑んだ表情が少しずつ戻ってくる。

 いつもの蔑んだ表情って何、俺そんな表情されてたの?

 

「まあ、だからあれだ。気遣わんでいいぞ別に」

 

 その言葉で封を切られたように、いつもの一色が目を覚ます。

 カツンとヒールを鳴らし、ウインクをばっちりと決めながらこちらに向き直り、言う。

 

「じゃあ...じゃあ、今日はトコトン付き合ってもらいますからね先輩!私の誕生日も忘れてたんですからっ」

 

 自惚れになってしまうが、あの場所を、あの時間を少しでも大切だと感じ、気遣っていてくれたことに、胸が震える。一色いろはという、あの空間に欠かせなくなってしまった存在に。

 

「いや、一応先輩だから敬ったり労ったりはしてね?」

 

「私もう誕生日過ぎてるので先輩と同い年ですよ?」

 

 確かに...、8月生まれの俺と4月生まれの一色では4か月間の同い年期間がある。いやでも、それを同い年にしたら世の中下克上祭りになってしまう...

 今まさに下克上にあいそうでびくびくしていると、一色は年齢という壁をやすやすと破壊してくる。

 

「後輩も同い年も、両方デートできるなんて贅沢ですね、ハチマン君♪」

 

 少し顔を赤らめながら発せられた言葉に、後輩一色いろはの影はなく、思わず顔を背ける。

 ていうか女子に名前呼ばれるなんて、同年代では戸塚ぐらいしかないから、むず痒い気持ちになる。あ、これ実質ゼロだわ。

 

「だから、そういうのがあざといんだよ...」

 

 目的の駅に到着するアナウンスが流れ、車内の人がざわめき立つ。皆目的地は同じなのだろう、俺たちも例外ではない。

 扉が開くと共に、人が雪崩のように出ていく。一色は先に出たのだろうか、流れに乗れなかった俺はほとんど最後の方で降りることとなった。

 降りたホームで、少し先に立つ一色を見つけ、傍に駆け寄ると手鏡で何かを確認しているところらしかった。耳まで少し赤みが残るその後ろ姿に、一応と思い声を掛ける。

 

「本当に体調は悪くないんだな?」

 

 まだ降りてないと思ったのか、不審者に声を掛けられたと思い驚いたのか、びくりと体をこわばらせて振り向く。前者であってほしい...

 

「...大丈夫です。ていうか、先輩のそれも結構あざといとおもうんですけどね。」

 

「やだなぁ、素に決まってるじゃないですか~」

 

 ぷくーっと頬を膨らませている一色の横を通り過ぎ、階段を降りる。後ろからついてきていることを確認しながら、改札を潜ると、看板が見えた。

 目的地までは徒歩1分らしい。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 幕張新都心にある大型ショッピングモール。と言えば皆さんお分かりだろうから説明しないが、とりあえず日本の新都心を狙っていることだけは伝わってくる。流石だぜ千葉...、これから千葉県民が千葉に出かけた後は期待してほしい。さぞかしビッグになって帰ってくるだろう。

 

「とりあえず、小町ちゃんに聞いた話だと、先輩の服買うってことでいいんでしたっけ。」

 

 駅からすぐのモール内に足を踏み入れた俺たちは、ファッション系の店舗が多く並ぶフロアに向かっている。

 エスカレーターの2段上に立っていた一色が後ろを振り返る。

 

「先輩って服の好みとかあります?」

 

「普通なやつ」

 

「はあ...そうじゃなくて、カジュアル~とか」

 

 大仰なため息をつき、ジトーっとした目つきで半ば投げるように質問をしてくる。

 と言っても、ファッションに疎い俺がそんなジャンルなど分かるはずもなく、カジュアルもアメカジもエレカシも分からないということを伝えると、諦めを含み納得をしてくれた。

 

「まあ、ある程度キレイ系というか、シンプルな恰好すれば似合うからいいですよね。目以外はそこそこ悪くないですし。」

 

 何かブツブツ言っているが、まあ一色に任せていれば問題はないだろう。今の一色の格好もセンスのない俺でもおしゃれなことはよくわかる。

 一色の姿を下から舐めるように見ると、顔の辺りで目が合ってしまった。

 エスカレーターから降りつつ声を掛けて来る。

 

「なんですか?じろじろ見て」

 

「いや、しゃれてるなぁと思って...」

 

 俺のセンスはともかく、いいと思った事実をそのまま伝えたが、反応は思ったより薄く...

 

「先輩、ファッションとか分かるん...」

 

 と、そこで言葉を切り、はっとした表情で言葉をまくしたてる。

 

「はっ!なんですかもしかして今わたしのこと口説いてましたか下から上まで舐めるように見られるとか先輩以外ありえないですけど心の準備ができてないので終盤に差し掛かってからにしてくださいごめんなさい。」

 

 距離を取るように両手を押し出すと、酸素を求め深い呼吸を繰り返す。

 

「...ああ、うん、見てたのは悪かったよ。ここ危ないから移動しようぜ。」

 

 俺が先に進むのに慌ててついてくると、息を整え、むくれる。

 

「先輩人の話聞いてないですよね...」

 

「聞いてる聞いて「せんぱいっ!ここ良いですよ入りましょう!」

 

 袖を思いっきり引っ張り、横に現れた白い壁が眩しい店舗に引きずられる。

 うん、話聞いてないのは君だよね...

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 それなりの買い物をし、間に昼食、そして突然この間観るのをやめたからという理由で映画を挟んで、一色の買い物に少し付き合っていると、家族連れは帰り始める時間となっていた。

 最後に一色に本屋に寄りたい旨を伝えると、快諾してくれたため北西に歩を進める。

 

 電車での通学時間を読書に充てると、すぐに一冊終わってしまう。少しストックをしておきたかった。

 自転車通学という自分1人の時間を確保できるのも悪くはなかったが、両手の塞がってしまう朝の通勤ラッシュ時以外、帰りの時間などは、本を読むことができるのは利点だろう。

 

 新刊コーナーを抜け、日本人作家の棚に着くと、物色を始める。

 一色はどこかへ行ったようだ。

 

 さて、鞄の中にあるものはいつ渡そうか...

 

 

 

 10分ほどだろうか、購入する本をある程度見積もっていると、いつの間にか一色が後ろに立っていた。

 

「おお...どうした?」

 

 少し伏せられていた顔を覗き込みながら訪ねると、不敵な笑みを浮かべた悪魔のような美少女の顔がそこにはあった。

 嫌な予感が...

 冷たい何かが背中を這うような感触から逃れようと、レジに向かう。

 

「じゃあ、これ買ってく「せんぱい。」はいなんでしょうか」

 

 一色は唇に指を当て、提案をするように上目遣いでこちらを覗く。

 

「私って~、誕生日過ぎてるじゃないですか~」

 

「はい」

 

 ショッピングモール内の書店のはずなのに、正座をさせられている気分になる。

 あれれ~、いろはす目が怖いよ?さっきまでそれなりに楽しくやってたような気がするんだけどなぁ...。

 

「でも今日~せんぱいから何もしてもらってない気がするんですよね~」

 

「はい...」

 

 一色の目がキラリと光る。

 

「私の言うこと一つ聞いてもらえませんか?」

 

 何でも言うことひとつ聞く。そんな条件を飲んではいけない!耐えて!八幡!

 

「いや、できることなら聞くけど...」

 

「そんな無理なお願いをするつもりはありませんよ~」

 

 そうなの?てっきりいろはすの事だから、難題を押し付けて答えられなかったら食べられるとかそういうスフィンクス的な何かだと思った。どんだけ恐れてんだよ...

 

 今一度、一色の顔を覗き込む。

 しかしそこには、不敵な笑みを湛えた顔があるのみだった。

 

 不安だ...。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 一色に連れられたのは、高校2年の冬、雪ノ下と由比ヶ浜、主に由比ヶ浜に連れられた葛西臨海公園だった。あれ以来、来る用事もなければ、連れてこられることもなかった為、少し懐かしさを感じる。

 時刻は5時を過ぎた位だろうか、日は傾き始め、オレンジの色彩を強めている。

 

「本当にここでよかったのか?水族園も売店も閉まってるが...」

 

「いいんですよ、観覧車乗りに来ただけですし」

 

 それに、水族園はまた一緒に来ますから。と一色は付け加える。

 

「次があるのね...」

 

「あるに決まってるじゃないですかっ!忘れたわけじゃないですよねっ!」

 

 ああ、忘れるわけがない。高校3年のはじめ、突然奉仕部の部室にやってきた。まあそれ自体は珍しくもなんともないのだが、そこで葉山隼人を諦めるという宣言を高々と行った。

 それはもう高々と。雪ノ下と由比ヶ浜には伝わっていたようだが、俺はというと携帯の窃盗に合い、無理やり連絡先を登録されるという猛獣に襲われたんじゃいかと思う経験をした。

 は!あれは俗に言う逆ナンというやつなのでは!まあ、ナンパしたことないから何が逆なのかも分からないが。

 世の中、逆を付ければ何でもいける風潮、あると思います。逆ナン逆セクハラ逆エビ反り、なんだ逆エビ反りって。

 それ以来、事あるごとにデートの練習に連れていかれた。普通に受験期だったので、あんまり相手をしてやれなかったのは申し訳ないと思っている。

 

「ほら先輩っ、乗りますよっ♪」

 

 当たり前のように手を引かれ、乗り込む。

 

 あんまり、そういうことしてると、運命の相手が悲しむぞ。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「うわぁ、きれいですね先輩っ!」

 

「それはどっちだ...」

 

 俺の言葉に、むぅ、と膨れる。

 

「素に決まってるじゃないですか~、ていうか、先輩に対してはいつも素ですよ♪」

 

「ハイハイ」

 

 もうすぐ、頂上に到達する。渡すには絶好の場所だろう。

 鞄を開き、小さな紙袋を取り出す。小町には悪いが、あれは底に隠させてもらう。恥ずかしいし...。

 

「なあ、一色」

 

「ほあ?」

 

 素っ頓狂な声をあげ、窓から離した目をこちらに向ける。それ絶対素じゃないだろう...それ素だったらただの2歳児だぞ...。

 

「なんというか...遅れてすまん...」

 

 未だ身体は外を向いている一色に向かって、紙袋を差し出す。

 

「あんま期待すんなよ...」

 

 一色は驚きのあまりか、目を見開きジッとしていたが、思い出したように背筋を正すと仰々しく受け取った。

 

 だからそんな重く受け取らないでっ!

 

「あ、ありがとうございます...あ、開けてもいいですか?」

 

「好きにしろ...」

 

 なんだかむず痒く、思わず顔を背けてしまう。

 日はあといくばくかで沈んでしまうのだろう。水平線に、落ちていく。

 

「先輩、なんですかこれ」

 

 いろはすの冷たい声が背筋を伝う。本日2度目だけど、こいつの声マジで怖いんだよなぁ...。

 

「これは、あれだ、俺が受験勉強の時に使っていたのと同じ種類のシャーペンだ。」

 

 第一志望には落ちてしまったが、志望校には受かった。何この詐欺。詐欺だけど誰も不幸にならない。不幸なのは俺だけだ...

 

「はあ...先輩に期待した私が馬鹿でしたね...」

 

「おい、だから期待すんなって言っただろう」

 

 予想通りの反応だったため、寧ろふんぞり返る。小町に指摘されたことと同じ言葉を言われた。

 

「高いんだぞそれは、軽いし、折れないし、シャー芯がたくさん入る!」

 

 シャーペンの芯がたくさん入ることは重要だ。集中力が高まって、スタディーズハイになりかけたところで芯が切れたらもう終わり。その日の大半は集中できずに終わるだろう。俺の集中力弱すぎ...

 

 ジトーっとした目つきのいろはすだったが、何を思ったのか急にいろはすスマイルで問いかけて来た。

 いろはすスマイルってなんかすごい純粋な感じがしてこいつには合わない気がする。

 

「こういう時は、先輩が実際に使ってたシャーペンを渡すといいんですよっ♪」

 

「はぁ?」

 

 そんなんあげたら、なにそれキモ、そんなの使うわけないじゃんとか言われるに決まってんじゃねえか。うっ、トラウマが...

 まあでも、勝者のコイン的なもんか...。

 鞄を漁ると、偶々持ってきていた小さな筆箱から一本のシャーペンを取り出す。

 

「ほらよ、一応第一志望の大学には受かったし。持ってても悪くはねえと思うぞ。」

 

 一色は意外だったのか引いているのか分からない表情でこっちを見つめている。

 あれー、地雷ふんじゃったかなぁ。これはまた新しいトラウマの1ページが刻まれる奴では...。

 

「いいんですか...?」

 

「お、おお、あれだしな、一色に渡したやつも最新のしかなくて、型変わってるみたいだったし...」

 

 俺の手からペンをおずおずと受け取ると、プレゼントした奴と一緒に握りこむ。

 そしてそのまま顔を外の景色に向けてしまって感情を読み取れない。

 

 え、いいのか。正解なのか。分からん、俺のトラウマディクショナリーをいくら引いてもアウトの3文字しか出てこない。時代が違うのか、ようやく時代が追い付いてきたというのか...。

 

 分からん...。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 観覧車を降りても一色はこちらを振り向くことなく歩いていく。

 これは...不正解ですね。呆れられてるやつですね。

 やってしまいましたよ小町さん。お兄ちゃん燃え尽きちまったよ...

 

 どこぞのジョーのように白い背景に身を任せたまま、駅まで歩く。

 一色は一向にこちらを向かない。

 

 

 

 電車は白い光を吐きながら、突き進む。まるで冬の寒空の下、白い息を吐いているかのようだ。

 俺と一緒だな...、俺も寒い、極寒。早く帰りたい。

 

 もうすぐ千葉というところまできて、ようやく口を開いた。俺が。

 

「い、一色さん...?」

 

 名前を呼ぶと、こちらを振り返る。そこにはいつもの一色がいて少し安心してしまう。別れ際まできて、気を使わせているのだろうか。申し訳ない。

 

「どうしました?せんぱい」

 

「あ、いや、今日は何点ぐらいだったのかなぁと思って...」

 

 ばかあああ、俺の馬鹿あああ。自ら死刑台に上っていくなんて馬鹿すぎるだろう。やばい、雪ノ下ばりの罵詈雑言が飛んでくると思い。思わず目をつむる。

 

「そうですねー...」

 

 言葉が止まり、ちらりと伺う。とあの指折りが始まった。

 

「まず、言動諸々でマイナス40点と、女の子に呼ばれてホイホイついてきちゃう辺りはマイナス50点ですよねー」

 

「ま、まあ妥当...だな...」

 

 ここからシャーペンマイナスが入ってもうマイナスの点しか思い浮かびませんね。

 数学の試験でも9点は取ってたのに...(低すぎる)。

 

「あとは...」

 

 ゴクリ...

 

「私のお願いを聞いてくれたので、10点あげます...」

 

 ん?お願い?というかプレゼントの件はなしでいきます?思い出すのもつらい系ですかー?

 

「お願いって、観覧車だけでよかったのか...?」

 

「はい、むしろそれがなかったらマイナス80点です」

 

 ええ、どんな採点基準だよコイツ...。なんならこいつのデートコースに観覧車組み込めば80点は確定とか寧ろ優良物件じゃねえか。(数学9点)

 

「女の子にはいろいろあるんですー」

 

「そ、そうか...」

 

 とりあえず今日のところは何も言うまい。罵倒されたらすぐ泣く準備ができてしまっている。もうマジ絹ごし豆腐メンタル。

 

 

 

 目的の駅に電車がつく。俺は乗り換えだが、一色はそのままらしい。

 

「じゃあ、気をつけて帰れよ」

 

「はい、先輩もお気をつけて♪」

 

 扉の閉まる音に合わせて笛が鳴る。それに合わせて一歩下がると、駅員さんの旗も下がる。

 完全に閉まったのを確認し窓に目を向けると、一色と目が合い、こちらに向かって手を振ってくる。

 

 少し迷って、そのまま捨てられるのももったいないと思い、一色が腕から下げている紙袋を示す。と、そこで電車が発車した。

 一色がどんな表情をしたか、それ以前に気付いたのかは分からないがもう知る由もない。

 

「小町に叱られるか...」

 

 ついでた独り言に駅員さんがギョッとする。

 

 

 

 す、すみません...。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 家に入ると、小町が仁王立ちしていた。

 こいつ...いつから待機してたんだ、エスパーなの?鞄とかに入っちゃうの?

 

「た、ただいま小町今日もかわ「おかえりお兄ちゃん」

 

 まー、最近の子はどうして話を聞かないのかねえ、お兄ちゃん心配になっちゃうよ。

 よーしここはお兄ちゃんの威厳を見せるために、世間の一つでも説いてやろう。

 

「なあこま「ちゃんとプレゼントは渡した?」

 

 ふえぇ、怖いよお。よくよく考えなくても俺が世間を語るなんて100年早かったですね。つまり死ぬまで語れないと。

 

「渡したは、渡したよ...気付いたかは知らんけど...」

 

 兄の曖昧な表現にしびれを切らしたのか、携帯を片手にリビングへと駆け込んでいく。

 やだなあ、怒られたくないなぁと思いながら、階段を上がる。

 

 自室に入ると、買い物袋を床に置き、ベッドに寝転がる。

 触っていないため、充電が90%を超えたままの携帯を開く。そのタイミングで1通のメールが届いた。

 また密林かと思いながら開くとそこには〈一色いろは〉の文字。

 

 〈一色いろは〉

『今日はありがとうございました♪

 すっごく楽しかったです!

 あとプレゼントも...

 おまけで30点あげますね♪

 途中会話できなかったお詫びです↓』

 添付ファイル:1件

 

 

 え、なにお詫びとか言って実はウイルスがとかじゃないよな。頭の仲とは裏腹に指は素直に動く。まあ、あいつにそんな知識ないし。

 

 ファイルを開くと、そこには洗面台だろうか、赤を基調とした髪留めで一つにまとめ、手には2本のシャーペンを持った一色いろはの自撮り写真があった。

 

 そこでもう一通メールが届く。

 

 〈一色いろは〉

『写真、保存してもいいですよ♪」

 

 口がにやけそうになるのを抑え、返信を打つ。

 

 〈比企谷八幡〉

『しねえよ、早く寝ろ

 

 俺も楽しかった、

 疲れたけど。

 

      おやすみ』

 

 

 そこで急激な眠気に襲われた、下の階からお兄ちゃんやるぅーとか聞こえるが、もう、聞こえない。

 

 

 

 




 どうでしたでしょうか...。
 次も5月ですね。頑張って書きたいです。

 また最低一週間以内だと思っておいてください。(保険)


 ご意見ご感想お待ちしております。

 ではまた。
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