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戦争があった。強いが国の小さかった東の国は徐々に数で追い込まれていった。
国は国民達に総力戦と謳い、婦人会や学校などを介して国民に金属や犬といった戦争に使える物を次々と徴収していった。また、徴兵令もあった。令状が届くと戦地に行かねばならなかった。嫌だったが皆国の為にという謳い文句に従って戦地に旅立った。
東の国のある村に1人の少年が居た。彼は捻くれ者だった。村人は真面目でコツコツ働きながらも徴兵にも金属の徴収にも応じた。だが少年は金属を貯め込み、徴兵令を目の前で破り捨てた。
村の皆が少年を非国民と罵った。だが、彼は「僻み屋」だと彼等を笑い飛ばした。ある者が因縁をつけて家に火をつけた。因果応報と笑った村人達の家全てに少年は御礼参りと称して火を放った。ある者は少年の分だけ配給を渡さなかった。次の日から少年は渡さなかった者の家にズケズケと上がり込み、「困った時はお互い様」と屁理屈を並べてその家の食料を奪い去った。村人達は少年を存在しない者として扱うようになった。少年は虫を育て食って生を繋いだ。村の子供たちが少年を非国民と笑った。少年は「何故我慢するんだ」と言った。そして、「戦争には絶対負ける」と言い放った。非国民の戯言と誰一人耳を貸さなかった。そして村の皆が国の勝利を祈った。
ある日、戦争は唐突に終わった。東の国は負けた。惨敗だった。
配給も唐突に打ち切られ国民は貧困に喘いだ。少年は貯め込んだ金属を西の国の商人に高値で売りつけ金持ちになっていた。
村人達は痩せ細った畑を耕し苦しい生活を送った。元少年は立派な家で分厚い肉を食べている。
村人達は子供を出稼ぎに出して何とか生を繋いだ。元少年は西の国の美しい女と結婚して3人の子供をもうけ、皆学校に通っている。
村は過疎化が進み、老人ばかりが残っている。元少年は村を潰して大規模な兵器工場を建てようとしている。
どこで間違ったのだろう…ある村の男は、取り壊されていく家を見てそう思った。アリとキリギリスはキリギリスが勝った。苦しい時に逆らいぐうたらしたキリギリスが勝った。なにが御国のためだ。自分達は勝つまでと多くの事を我慢して働き続けた。普通はアリが勝つべきだろう!そう叫びたかった。だが、キリギリスは先を見越していた。だからこそ余裕のある生活が出来た。
本当は気付いていたのだろう…あの村の女は、路頭に迷った末に娼婦として働いている。いくら頑張っても苦しくても国からの言葉はいつも変わらない。耳触りのいい言葉しか喋らない。だが、皆が我慢しているから自分も我慢する。自分も我慢するからお前も我慢しろ…そういった呪縛に囚われていたのだろう。だが、後悔しても遅い。今の村は工場になり、今も元少年の経営の下で多くの労働者が幸せな生活を送っているらしい。この違いはなんだろう?女は悔しさで咽び泣いた。
運だった。元少年は遺書を遺して大往生を迎えた。身内には充分に遺産を分け、工場の経営手法もしっかりと伝承した。
彼の始まりはたった1回の盗み聞きだった。『西の国は数が多いが我が国の徹底抗戦で消耗しつつある』。その一言で少年は先を見越して金目の物を貯める選択肢を選んだ。絶対に見つからない場所に隠し、後は来るべき敵の勝利を待つだけだった。当然ながら村人からの非難はあったが、未来の幸せな生活を考えれば苦でもなかった。むしろ楽な生活をしてクレームを適当に流せばいいだけの毎日だ。これほど気楽なものはなかった。毎日美味しい食事をしてぐうたらして時々遠出してガラクタを集めるだけ。キリギリスのような生活だった。そして、目論見通り敵が勝った。敵も総力戦で金属が不足していた事は承知の上だった。金属は軒並み値上がりしており、特に調理器具やネジなどの部品は高値で売れた。暇な時間に武器の構造などをチェックしたので兵器工場を建てる際はそれのコピー品から始めた。まだ著作権などが無い時代だったのでその間にしっかり稼ぎその豊富な予算で新商品の開発を行った。結果、今は兵器工場ではなく車という新商品を開発し続けているが売り上げは好調。一時は占領された東の国も無事独立し、今では大規模な道路開発が行われている。
もしあの時盗み聞きしなかったら……元少年はこう綴った。自分がこうして大往生出来たのは運だった。金属を貯め込み・敵が消耗しながら勝つという条件をクリアしなければこの道には進めなかった。『最後に笑うのは運なのだ』……元少年の遺書にはやけに太い字でそう締めくくられていた。
最後に勝つのは運。要するにそういう話です。世の中いくら頑張っても上手くいく時といかない時、頑張らない人が上手くいく事だってあります。『結果は付いてくる』は絶対に無いと思います。
『結果は運によって道を選ばされる』と自分は思っています。