サーヴァントといちゃつくだけ   作:PRD2

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お久しぶりです。
待っていた方は居ないかもしれませんが……まあ暇潰しに読んでやってください。
バレンタインが良すぎたのと、復刻祝いということで。
今更ながらキャラ崩壊注意。
では、どうぞ。


メルトリリス 01(最新話)

「入るわよ、マスター」

 扉越しにそう言いながら、許可を取る前に中に入る。カツカツと(かかと)を鳴らしながら、まるで自室のように堂々と。

 邪魔するわ、なんて言葉は言わない。

 私は邪魔だと思わないし、彼も思わないだろう。というか思ってたらお腹に膝だ。

 当然でしょう? 私がわざわざ足を運んで、感謝はあっても迷惑な筈がないのだから。

「ん、いいよー……」

 そんな間延びした声を上げた方には、確かに藤丸立香がいた。椅子に座って机に向かっていた彼は、入ってくる私に向かって笑みを浮かべた。ただし何となく眠たそうというか、気だるげそうな表情であり何より。

 ──メガネだった。

「────」

 ──その時、私に電流が走った。

 そもそも私にとってメガネとは無駄でしかない。

 何故なら私は完璧であり、完全であり、そこには一分の欠点すらないからだ。至上にして最上──かの皇帝の言葉を真似るならそれである私にとって、視力を矯正する媒体(デバイス)は不必要な物でしかない。リップの胸と同じ──無駄である。

 では、他人ならばどうか。

 たとえばいつもは三枚目の藤丸立香。頑固で無鉄砲で、頼んでもいないのに何だかんだと付きまとってきて、誉めるところと言えば優しくて何かと気にかけてくれて、笑うとちょっと可愛いくせに真面目な顔は結構格好良いところくらいしかない男。

 そんな彼に、メガネ。

 シルバーのスクエアフレームという、大した捻りも面白味のないシンプルなメガネ。机に向かっていた姿と机の上の本──数学書を見るに、勉強でもしていたのだろう。彼の視力は悪くないため、恐らくは目を悪くしないためのメガネだろう。カルデアで支給されたアトラス院制服を模した魔術礼装とセットのメガネとは違う、自前か誰かの贈り物か、後者なら文句を言いに行く必要があるだろう。いえ決して悪いわけではないけど、でも私が選んだ方がセンス良いもの、絶対。

 ……話が脱線した、とりあえずはメガネだ。

 前述した通り私にとってメガネとは無用の長物でしかないが、別に存在を否定しているわけではない。私が完璧であることは間違いなくとも、何もこの世には実用的なメガネしか無い訳ではない。ファッションという意味でのメガネもあるのだから。ただ、単に『知的に見える』という記号のみを残したメガネという存在にどれだけの価値があるのだろうかと呆れているだけの話だ。

 しかるに、彼のメガネを見るに。

 こちらを向きつつ流し目を送りながら、しかし私を歓迎するような微笑み。そしてシンプルなメガネによって知的さを見せつつも、寝不足そうな顔がどこか透明というか儚げな印象を(かも)している。苛めたくて、でもやっぱり安心させたいという嗜虐心と保護欲求が同時に沸き上がるような、矛盾している感情を震わせるような何かがそこにあるというか。

 つまりは、結局のところ。

「………………………………や、やるじゃない」

「?」

 言葉を濁すくらいには似合っていた。

 その程度のことである。

「どうしたの? こんな夜中に……」

「……あら、何か用がなきゃいけなかったのかしら? それに、私にとって貴方の都合とか関係ないもの」

「横暴だなぁ……」

「ふん。それで? 貴方は一人で勉強? 相も変わらず無駄なことに精を出すのね。この時代の魔術師に数学なんて、なくても困らないでしょうに」

 彼の机に近付き、そこに広げられた数学書を見て冷ややかに笑う。二段の小さな本棚には幾つもの本が並べられ、開かれた本には付箋が貼ってある。学校──それがどんなものか知識でしか知らないが──の教科書ではなく、本格的な知識を(つづ)ったような物のようだ。

「バベッジにバレンタインのお返しに貰ったからさ。難しいけど、取り敢えず分からないなりに目は通してみようかなって」

「へぇ、そう? まあ、貴方程度の知能で理解できるとは思ってなかったけど」

「メルトは分かる?」

「当然でしょう……認めたくないけど、仮にも月の支配者(BB)のアルターエゴだもの。人間とは性能(スペック)からして違うのよ。まあ、無様に泣いて懇願するなら、教えてあげなくもないわよ」

「自分で頑張ってみます」

 そう、と返答してそのまま立香の後ろを通りベッドに座っては、彼に視線を向けた。

 彼は机に向き直ると、本を開いて読み始める。横にノートを出して何か図説を書いては、時に違う本を開いて比較したり……予想以上に力を入れているらしい。

 カリカリという、ペンの音だけが響く。

 会話のない時間が過ぎ、私は適当に暇を潰すようにベッドで寝転んだりしていた。

 元より用事なんてものはない。

 用意できても、する必要もないだろうし。それに無理に会話する必要もない。立香は喋りたがりだが、静かな時間を苦だと思わないようだし。

(……そうね、これくらいが丁度良いのかしら)

 私には他人の気持ちが分からないが、それでも考えていることくらいは理解できる。ならそこから他人の嗜好くらいは読み取れる。

 だから、後は待つだけで良い。

「……そういえば、メルト」

 こんな風に、彼から話始めるのを。

「バレンタインのチョコ……じゃないけどプレゼント、ありがとう。なんていうか新鮮な味というか……うん、甘くて美味しかった」

「語彙力が乏しいわね。もう少し気の効いた誉め言葉は無いのかしら」

「あはは、ごめん……でも、凄い嬉しかったよ。ちょっと食べるとき口切っちゃったけど」

「へえ、そう。それは作った甲斐があったわね。痛みに悶える姿は見ものだったでしょうに」

 口端を上げて嘲笑(ちょうしょう)すると、マスターはなんとも言いがたそうに笑う。

 その間抜けというか、情けなさそうな顔が、どうにも脳裏に焼き付いて、忘れられなくて。

 ──苛めたくなる。

 その思考を胸の内に仕舞い込みながら、さっきと変わらず彼を観察し始めた。

 

 

 数分か、数十分か経って。

 机に頭をつけるように突っ伏した彼の姿を確認すると、私は忍び寄るように彼の元まで歩く。

 顔を近づけると、小さく寝息が聞こえた。

 思わず捻り潰したくなるくらい、か細い声だ。

「……不用心ね。私を前に警戒心もなく眠るなんて」

 彼に言うには信頼しているのだろうが、だからといって目の前に無防備な面を晒すのはただ単に愚かでしかない。

 今は人理修復の仲間? 信頼できるパートナー?

 あまりに短慮で滑稽。蜂蜜よりも甘すぎる考えだ。

 顔に掛けてあったメガネは既に机の上に置いてあった。少しだけメガネの(つる)を触り……すぐにやめた。メガネ自体に大した価値はないのだし。

 椅子と彼の体の間に両手を差し込んで、膝と背中を持ち上げる。指先の感触はないが、それでも筋肉質な男の重みをすこしだけ感じられた。

 俗に言うお姫様だっこ。

 ……姫と呼ぶには、少し野蛮が過ぎるが。

 それにお姫様抱っこはするよりもされる方が良いに決まっている。

 今度やらせよう、と呟きながらそのまま寝台まで運び、立香の腰を寝かせる。私もそのまま彼の頭を持ち上げながら寝台に座り──彼の頭を膝に乗せた。

 膝枕。これは──まあ、しても良い。正直嫌いじゃないし。でもやっぱり今度やらせよう。

 さらけ出した太股(ふともも)に、チクチクとした髪の毛が当たる。痛覚が鈍化しているとはいえ、手ほど感覚が無いわけではない。たとえ私が手で触れて何も感じなかったとしても、私の体に触れる感覚は手以外ならあるのだから。

「『楽園は触れることで得られる』……だったかしら? 成る程ね……分からなくもないわ」

 その言葉は、誰の言葉だったか。

 楽園とやらが触れることで得られるのなら、私には縁のないものと思っていたけれど。

 触れることは、触れられるということ。

 触れられることは、触れるということ。

 なら楽園なんてものは、月なんかよりもずっと近くにあるものらしい。

 ……ふと。

 先ほどの彼の言葉を思いだして、彼の顔をこちらに向けつつ両手で口を開けさせる。なされるがままのように簡単に開いた口の中を覗くと、並びの良い歯が見える。手入れも行き届いているように見える。

 歯が綺麗なのは高得点、エクセレント。誰だってキスをするなら綺麗な歯に決まっている。

 そのまま口の中を見ると──確かに切れていた。

 細い刃物で引っ掻いたような、小さな傷。少し血が滲んでいて、大した痛みじゃないだろうけど気になるような傷が、幾つか。

「……ふふっ」

 つい笑ってしまう。

 渡すときにあれだけ脅して、遊んであげたのに少しも気を付けてなんかなかった。

 馬鹿みたいに素直に口にして、涙目になりながら食べる姿が容易に想像できる。

「本当に……馬鹿な人」

 そう口にしながら、感覚の無い左手で服の上から右袖のベルトを緩める。初めて会った時のように、上手く緩められずモタモタとした動きだけれど……何だかそれが妙に心地良い。

 待たすのも待たされるのも嫌いだったのに、今は焦らされるのも嫌いじゃなくなった。

 ……エラーかしらね?

 ……だとしても、悪くないわ。

 やっと思いで右手の袖を(まく)ると、素手(すで)のまま立香の唇まで持っていき──指を入れる。

「……っ」

 彼の顔が少し歪む。

 呻くような声を聞きながら、彼の口内で指を動かす。

 指先の感覚は無いし、熱も感じない。彼の喉を抜ける吐息が甲を撫でてもそれを私は知ることは出来ない。

 けど、彼の苦しそうな顔を見ればちゃんと触ってるんだと理解できる。

 ……今度は私の息が、荒れる。

 熱が競り上がるように、首元を熱くする。

 ──あぁ、そうだ。私はいつだって誰かを苛めることでしか自分を実感できなかった。

 けど、今は違う。

 彼を苛めて、慰めて、遊んで、弄んで……触れられて、私は自分と彼を実感できる。

 私が指先を動かして、彼が苦痛に顔を歪ませる度に、もっと奥まで指を入れてしまいたくなる。

 ──存在しない心臓が早鐘を打つように、霊基が強く熱を帯びる。

 もっと歪ませたい。

 もっと悲鳴をあげてほしい。

 泣いて許しを乞うほどに苦痛を与えて、苦痛に身を(よじ)るほどに絶望させて、そして最後には──。

 

『──その恋は、報われない』

 

「…………」

 スゥッ……と。

 波が引くように、熱が下がる。

 急速に冷えた思考が発動していた『加虐体質』を止め、熱に浮かされた体を制止させる。

 一度だけ、長く息を吐く。

 体の内に貯まっていた何かを吐き出すように息は続き、そしてそのまま彼の口に入れていた右手を抜いた。

 水音を鳴らしながら引き抜いた右手は、まるでコーティングされたように彼の唾液と──少しの血が指先に付いていた。

 どうしたものかと考え、結局彼のポケットからハンカチを取り出して拭くことにした。完全流体とはいえ、唾液を吸収するような趣味はない。それで喜ぶのは、あの底無しの性悪女くらいな物だろう。

「……まさか噛みすらしないなんて……寝てまでお人好しなんて、本当に理解できないわね」

 そう言いつつ軽く口の中を見る。血の滲んでいた切り傷はもう見当たらない。上手く傷口を埋めることが出来たらしい。

 犬だろうがハサミだろうが、ウイルスだろうがつまりは使いようだ。

 立香の頭を上げて、立ち上がる。彼の頭が枕の辺りに来るまで動かしたら、ブランケットを胸元まで掛ける。

 彼の顔を見れば、何もなかったように呑気に寝ていた。あまりにあどけない顔と、ここまでされて起きない図太さに少し呆れてため息を吐く。

 正直ここまで信用されると……何というか苛めにくいし、何より毒気を抜かれる。彼が何を根拠に私を信用しているのか、全くもって理解できない。

 やっぱり人間は、よく分からない。

 彼の前髪を軽く整えてあげて──彼に当たらないように髪の毛を抑えつつ彼に顔を近付け、耳元で(ささやく)く。

「……お休みなさい、立香。また明日」

 何の変哲もない、夜の挨拶。

 けれど正しい意味でのそれを初めて呟いた私は、彼に唇を近づける。

 ──まるで白鳥が飛び立つように、優しく。

「今度は……貴方からお願いね」

 誰にも聞こえ無いように小さな声。

 いつか、いつの日か。

 そんな日が来ることを夢見ながら、私は部屋の電気を消して廊下に出る。

 暗い廊下に、踵が鳴らす音だけが響いた。

 

 




「フォーウ、フォキューン」
(まさかバレンタインにボイスが付くとは思わなかった……さて、今回のコンセプトは『恋』、ありきたりだがメルトにとってそれは存在定義に等しかったりするよ。全体としては今回は原点回帰……というよりいちゃいちゃさせたかったんだと考えてくれ。前半と後半で雰囲気が違うのは特に理由は無いけれど、なんとなく『CCCにおけるメルトらしさ』よりも『FGOにおけるメルトらしさ』を意識しているね。……自分の欲求と恋を疑っていないのに『その先』を望んではいないところは、彼女なりの成長と言えるかもしれないね)

イチャイチャ度が足りない……。
今回の彼女は絆レベル5以上。
そこまで絆が上げられれば特にフラグは必要ありません。
バレンタインの会話の節々から自然と恋人扱いっぽい言動が見え隠れし、暇なときは何となくマイルームに入り浸って弄ってきたり、たまにお姫様だっこを要求してきたりします。時に優しく、時にちゃんと嫌がり、そして真摯に接するとたまに優しくしてくれます。
ちなみに主人公の着けてるメガネは時系列的にシグルドのプレゼントではありません。たぶんダ・ヴィンチちゃんがつくりました。あと作中の言葉はマザーテレサの日記より抜粋。
次回はアタランテを予定。
モフらせる、命に変えても……!
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