「メチャクチャ狂喜乱舞したわ」
(べ、別に嬉しくなんて無いんだからね!)
今更ですが読みにくかったりしませんかね?
最初は三人称視点ですけど途中から一人称視点に変化させているので、一応違和感がないように頑張りましたが、読みにくかったら言ってくれると幸いです。
……この主人公いつもキスされてんな。
一話一キスをノルマにしてみようか。
というわけで今回は乙女な少女を。
男を知っても、報われることのなかった少女を。
カルデアの廊下を静謐のハサンは歩いていた。
病室のように清潔でいて実験室のように近代的な廊下を歩く度に、自分が遠い所に来たことを実感する。聞くところによればカルデアは6000メートル級の山脈の一角にある研究所らしく、当然のように土の香りも風の匂いも感じることはないが、それはサーヴァントになった今でも慣れない感覚だった。
……目的もなく、歩く。
それすらも、今までは考えられないことだった。
この体の全ては毒で出来ている。揃えた髪も、伸ばした両手も、高鳴る胸も、唇さえも、体の全ては毒でしかない。サーヴァントとして現界したことで毒の体の性能は補正され、気化した汗すら人を痺れさせる。そんな体で無闇に出歩くなど叶わない夢の話だった。
けれど、静謐のハサンは今ここにいる。
詳しいことは分からないが、何人かのキャスターで集まってサーヴァントでも過ごしやすいようにカルデアの改革にのり出しているらしい。獅子の顔をした声の大きい人とか狐耳の人とかにマスターが話をしているのを何度か見たことがある。
カルデアの廊下を見ると、等間隔で壁に紙で出来た札が貼られている。なにやら珍妙な文字が
──これで気を使わなくても歩けるようにと、私に。
そう言ったマスターの顔が、とても優しくて。
……自然と口角が上がっていた。体も何だか温かく、熱くなって、お腹の辺りがきゅう、となって。何だか喉が乾いてくる。
「……マスター」
人を好きになったことなら、何度もある。
ハサン・サッバーハの首領として暗殺対象に近づいて、好きになってもらった。偶然を装って近づいて、気があるように振る舞って、機会を作っては話を聞いたりして……相手が自分を愛した時には、いつしか自分も好きになっていて。
そしてそれを、自分で殺した。
後悔はない。この身は
けれど、マスターは違う。
私を見てくれた。
私を認めてくれた。
私に触れてくれた。
異性として愛しては貰えてないけれど、好きになった。
──一度は、自分を疑ったことがある。
マスターと話すのに夢中になって、アーチャー……アーラシュ・カマンガーにぶつかって……マスター以外にも、私に触れられる人に出会ってしまった。
昔の私なら、きっと喜んでいた。毒の体をものともしない彼に、恋心すら抱いたかもしれない。
けれど、その時の私は怖かった。
見るのが怖かった。
認めるのが怖かった。
触れるのが怖かった。
マスターを好きになったことが嘘のように思えて怖くて、何よりも自分が、触れられるのなら誰でも良いと少しでも思ってしまうのが怖かった。
『死ななければ誰でもよいのでしょう』
パラケルススが話した毒の娘の昔話。
……薄々気づいてはいた。
彼らはきっと、何処かで私と会ったことがあるのだろう。恐らくは聖杯戦争で……自分の主を好きになった私を。
自分の名を呼んだ男を殺した私を。
動く死体を送られた、私を。
……けれど、それでも。
私は、マスターが好きだ、そういうことにした。
……恋が分からないのだから自分で決めることにした。不安はあるけれど、マスターはそれでも良いといってくれたから、私は胸を張る。
たとえどこかの私が違う人を愛していても、この私の思いは私だけの物だから。
「……マスター」
マスターの笑う顔が好きだ。
「……マスター」
マスターの優しい手が好きだ。
思っていたよりも白くて細く、でも触ってみると少し固くて、男の人なんだなって、嬉しくなる手が好きだ。
「マスター」
マスターの……唇が、好きだ。
最初は事故だった。今では
そして、カルデアで。
マスターの体温と感触が忘れられなくて、何度も何度も
最初はほんの出来心だった。布団のなかでマスターの体温を感じる度に、体が疼いて仕方がなかった。マスターの鼓動が聞こえる距離で、吐息がかかる程近くにいて……気付いたら唇を重ねていた。
寝ているからか少し乾燥した唇に自分の唾液を塗って、思い切って舌を口内に入れた。甘いような苦いような、けれど何度も味わいたくなる唇で、私はそのまま舌で歯を
すぐに謝ろうとした。元々マスターには布団に忍び込むのを注意されていたから、誠心誠意謝ろうと思った。
でも、結局言えなかった。
……初めて、あんなにキスをしたから。
……あんなの、何度だって欲しくなる。
「マス、ター……」
無意識に唇に手がいった。
人差し指で唇をなぞる。あの時のマスターの唇みたいに乾燥していて、気付いたら自然と舌で湿らせていた。
……私の唇は、どんな味がしたのだろう。
……好きになってくれると、うれしいな。
「……また、マスターと」
「呼んだー?」
「!!!???」
思わず飛んで距離を取った。
見ればさっきまで私がいた場所の、肩に手を置けるくらい近くまでマスターが近づいていたようだ。アサシン顔負けの気配遮断、流石マスター。かっこいい。
マスターは私が急に飛び上がったことに驚いたのか、中途半端なところまで手を上げた状態で呆然としていた。
「い、いやー何だか廊下の真ん中で立ってたから、ちょっと驚かしてみようかなーなんて思ってたんだけど……大丈夫? すごい顔赤いけど」
「だ、大丈夫です。……申し訳ありません、アサシンが背後を取られるなど……ハサン失格です」
「あー……何だかすごい悩んでたみたいだけど、何か相談事があるなら聞くよ?」
「いえ、その……話すようなことではなくて」
あなたの事を想っていたら、いつの間にか棒立ちになっていました……なんてこと、話せない。
……だめだ、まだ顔が赤い。気を鎮めなくてはマスターに不審がられる、心配をかけるのは駄目だ。
マスターは少し考えると、いつもの笑顔で「そっか」と言って近付いてきた。一瞬身構えそうになるのを必死に抑える。私は未熟でもサーヴァントだ、主君に対して身構えるなんて失礼は許され──。
「でも何か熱っぽいね? 風邪かな?」
「……っ!? な、なにを!?」
「おでこ、熱計ってるんだよ。……やっぱりちょっと熱いな……サーヴァントって風邪引かないよね? なんでかな……」
おでこと、おでこをくっつけられた。
マスターの白いおでこで、熱を確かめるように。
顔がとても近くにあってマスターのちょっと長い睫毛とか低くて可愛い鼻とか、唇が──。
あぁ、駄目だ。駄目、それはいけない、よくない。
こんなの、キスしたくなるに決まってる。
熱に浮かされたように私の手が動いて、マスターの腰に手を回す。音すらたてずに抱きついて一歩前へ、逃がさないように踏み込む。
その時にはマスターも私の異常に気づいては名前を呼んだけど……呼ばれたなら、答えなきゃ、ですよね。
私とマスターだと身長差があるから、少し爪先と背筋を伸ばして……何だかそれだけで、自分が普通の女の子みたいだと勘違いしそうになるけれど。
でもマスターは、毒の娘の私を認めてくれたから。
それだけで、私は良い。嬉しくて、キスしたくなる。
……あぁ、幸せだ。
……この人を好きになって良かった。
「フォフォウ、フォーウ」
(いやはや全く、前回に引き続き今回も講評することになるとは思わなかったよ。味をしめた作者は単純だね。まあ静謐のハサンはマシュに匹敵するポテンシャルを持っているのは確定的に明らかだから是非もないが。今回のコンセプトも『乙女』。それもマシュのようないじらしく奥手な魅力とは少し違う、好意を抱けば大胆だが行動の節々で自分の心を疑ってしまうような……マシュなら一歩を踏み込むのを躊躇うところを先んじるのに、その先でどうすれば良いのか全く分からないタイプ……いや、男自体は知っていながら、本当に愛するという行為をを知らない感じかな。マシュは大好きでたまらなくても計画的に考えて行動するけど、彼女は行動が先に来てしまう……どちらにせよ大好物だけどね。今回は基本的に彼女の独白のような物だから点数は付けないけど、あえてポイントを挙げるなら何度もマスターを呼んでいることかな。好きになった人の名前を意味もなく何度も呼んでしまう辺りに彼女の内心の寂しさと、止まることのない渇望が見えているね。そういう純粋な欲望は嫌いじゃないとも。それと、中盤の辺りで何度か確かめるように同じような事を繰り返すのもポイントだ。彼女の心の中の不安を、一つ一つ自分の考えを確かめることで消していく……人を好きになるのは幸せだけど不安な物だ。だからこそ悩む度に自分を確認して、何度だって好きになる。とても美しい少女のあり方だと思うよ)