ありがたや……ありがたや……。
この作品を読んでくれることでラブコメが増えることを願います。作者は癒しに飢えているのです。
というわけで今回は彼女の話を。
父のことを崇め尊敬しながら、ついぞ認められることはなかった、強くて弱い彼女の話を。
夕暮れに包まれた海岸に、波が飛沫をあげていた。
打ち寄せ、引いていく波の音だけが辺りに響く静かな時間、昼は
俺が少し身体を縮ませると、隣に座るマスターは俺を見ながら、
──少し、寒くなってきたね。
そう言って、繋いだ手を強めに握ってきた。
何だか弱味を見せたような気がした俺は平気な顔で「俺は寒くねぇよ」と返した。ただの強がりでしかないが、そんなことは大したことじゃない。コイツの前の俺は、強く頼もしい騎士だ。騎士は決して弱音を吐かず、民に高潔な背中を見せ、我らが敵を
──そっか。
そう言ったマスターが繋いだ手を離す。
思わず声が漏れた。あっ、という物欲しげな声が、俺の口から。
……みっともない。何を間抜け面を
あまりの苛立ちに心の中で自分を罵倒し、
──でも、オレは寒いかな。
舌打ちをする前に、マスターに左手で抱かれた。
俺の左肩を手で掴み、強引に自分の胸に引き寄せられた俺はそのままマスターに密着する。
それはあまりに突然で……俺の頭が丁度マスターの胸の辺りに来ている事に気付くと、途端に頭が熱くなる。
「なっ! ちょ、お前っ!?」
──ごめん、でも頼むよモードレッド。君がいてくれなきゃ凍えてしまいそうなんだ。
マスターは少し申し訳なさそうに、けれど俺を掴む手を離さずにそう言った。
俺の頭の中には数えきれないくらいに文句が浮かんだが……結局俺ができたのは口をパクパクさせた後、
「……わぁーたよ」
不満げな声でそう言うだけだった。
──ありがとう、モードレッド。頼れる俺の騎士。
俺の、騎士。
その言葉だけで、胸が熱くなる。
渇いた喉を潤すように唾を飲み、せめてもの抵抗としてマスターの胸にグリグリと頭を擦り付ける。
どうだ、痛いか? なんて聞こうと思ったが、良く考えればこんなものが仕返しになんてなる筈もなければ、こうして頭を擦り付ける様は、
──モードレッドは、暖かいな。
俺を離さないマスターは、そう呟いた。
背中の辺りが
あれほど寒さを訴えていた体は嘘のようにおとなしくなり、代わりに少なくない汗をかいていた。もう何も言えなくなった俺は、抱かれた体勢のまま、静かに
すぐ近く、耳元からマスターの心音が聞こえる。
一定のリズムを刻む心音は、何だか妙に心地よくて……汗は静かに引いて、丁度良い暖かさが身体を包んだ。
波の音が、響く。
お世辞にも綺麗とは言い難い海岸だが、二人っきり。
本当に静かで、寂しい風景で、もしかしたら世界にはもう俺たちしかいないのかもしれないと、錯覚しそうになるほどに、静まり返っていて。
……それでも、一人じゃねぇ。
抱かれた左手から伝わる体温が、耳に届く鼓動が、俺/君は一人じゃないと訴える。
不意に、何だかソワソワと、浮わつくような気持ちが心に浮かんで、中途半端に上げた右手が所在なさげに宙を動き……意を決したようにマスターの太ももに手を当てる。
そのまま俺は顔を上げ、マスターに向かって口を開き──そのままキスをされた。
途端に
無理矢理合わせた唇で
抵抗は、した。
声に鳴らない声をあげることが、抵抗というのなら。
弱々しい声は、数秒で小さくなり、結局嬌声へと変わった。発情した猫みたいな声が鳴り、風を引いたように昂る体に嫌気がして、そのくせ腹の底はこれ以上無いくらいに疼いた。思わずギュッと目を瞑ったが、マスターは俺に聞かせるようにわざとらしく水音を立てる──これはお前の立てた音だ、とでも言いたげに。
ヒートアップしたキスはやがて唇を押し付けるだけの単調な物になり、その勢いのままマスターは俺を押し倒す。砂浜に背中を着かせ、けれど頭を打たないように肩を掴んでいた左手をクッションにする。後頭部を支えられた時として、押し倒された時に一際大きな女の声が漏れて、それが俺の声だと気付くのは難しくなかった。
その状態でキスをして数秒──俺にとっては、もっと長いように感じられた数秒だった。最初の勢いとは裏腹に、マスターは名残惜しそうに静かには唇を離す。俺とマスターとの間には唾液でできた橋が縦にかかり、マスターはそれを、俺ともう一度キスをすることで舐め取った。
何度も口の中を蹂躙された俺は息を荒らげ、もう睨むような気力すら残っていなかった。たった数十秒のキスで俺が出来たのは、催促するような気色の悪い声を出すくらいで──今も俺を真っ直ぐに射抜く瞳から不満げな顔で目を反らすことしか出来ない。
──モードレッドってキス、弱いよね。
「……うるせぇ。今のは、不意打ちだろ」
優しい声音に、反抗するように声をあげる。どうやらそれくらいの気力は残っていたらしい。
──じゃあ、さ。
マスターはそのまま、俺に顔を近付ける。
またキスされると思った俺は反射的に目を瞑って──すぐに耳元から、マスターの囁く声が聞こえた。
──モードレッドから、してよ。
恐る恐る目を開けると、そこには悪戯が成功したとでも言いたげに笑ったマスターがいて……俺は、それに反逆したくなった。
あぁ、そうだ。俺は反逆者だ。
我らが王に、麗しきブリテンのアーサー王に歯向かった、反逆の騎士モードレッド。
だから、俺は。
作るように不敵な笑みを浮かべながら、熱のこもった目を向けながら、震える唇をマスターの顔に近付けて──。
「……………………………………………………………………あぁ?」
唐突に目が覚めた。
やけに明確な意識が頭に残ってて、何度か瞬きした俺はゆっくりと身体を起こして周りを見た。
見慣れた俺の部屋だ。別に何か物が置いてある訳じゃない、あるのはクローゼットと
……いやそれはどうでもいんだよ。
何度見てもそこは俺の部屋だった。
当然ながら夕暮れの海も、人気のない海岸も、マスターもいない。
「………………………」
手を開いて、握る。
そこにマスターの体温はなかった。
次いで唇に右手をやって──そこまでやって、一気に頭に血が上った
「──だああああくそっ!! 何やってんだ俺はっっ!?」
頭を抱えて、我慢できずに絶叫した。
全くもって最悪の目覚めだった。
「……ざけんなくそが。なんだアレは……アレはねーだろくそったれ」
怨み言を呟きながら食堂の机に座る。白髪頭の褐色野郎から引ったくるように受け取ったトレーが音をたてた。
今日のメニューはしょうが焼き定食……らしい。注文するときも苛ついてて何頼んだか思えていない。今は腹に溜まるなら何でも良い気分だった。
本当に、最悪の気分だ。
何だあの夢は。甘ったる過ぎて反吐が出る。盛りのついた女子高生じゃあるまいし。鳥肌がたつわ。
……つーか何だって相手がマス──いや、そういう問題じゃねぇ!
「──だぁーくそっ! 思い出したらまたムカついてきた。おいそこの白髪野郎、ちょっと殴らせろ」
「理不尽すぎるぞ反逆の騎士! 何をイライラしているんだ君は!?」
「ムシャクシャしてっから殴る。理由もなければ反省もしねぇ」
「なんでさ!?」
近くで机を拭く白髪野郎に八つ当たりしつつ、わりとマジで殴ろうと椅子を立ちかけたとき、
「──止めなさい、モードレッド」
机の向かい側から聞きなれた声がした。
見なくても分かる。一度聞けば忘れはしない。
横目でそちらを睨むと、そこには王がいた。
ブリテンの赤き竜、その化身にして麗しき我が父上──キングアーサーの普通の方だ。
頭のおかしな事に、カルデアには父上が何人もいる。黒い方とか白い方とか黒くて槍持ってる方とか白くて槍持ってる方とか……あと本当に意味が分からないのは男の方の父上や宇宙から来たとかいう父上達の事だ。全く意味が分からない。
「んだよ父上。説教なら聞かねぇぞ」
「……今朝からあなたの行動は目に余ります。今さら貴方に説教などするつもりもありませんが、マスターのサーヴァントである以上、騒ぎを起こすつもりなら無理矢理にでも止めるまでです」
「……チッ」
父上は俺にそう言うと、持ってきたトレーに乗った和食に目を向けて食事を始めた。本当に警告するだけして俺の方を見ようともしない辺りはいつも通り。
普通の父上は張り合いが無いというより、本当に俺に興味を持たない。怨み言を言おうがどこ吹く風とでも言いたげに無視の一点張り。
「──ほう、面白い顔ぶれだ。教師の真似事でも始めたのか?」
不意に声がかかる。
見ればそこにいたのは──黒い方の父上だった。
不敵な笑みを浮かべながら挑発的に笑った黒い方の父上は、そのまま普通の父上の隣に座る。一緒に持ってきたトレーには……ケバブが乗っていた。山盛りで。アレもジャンク扱いなのかよ。
「そのような物ではありません。単に騒がしいので、警告しただけのこと」
「殊勝な心掛けだな、優等生」
それだけ言うと、黒い方の父上はケバブをもっきゅもっきゅと食べ始めた。……本当にもっきゅもっきゅと音が鳴るのはどういうことなんだ。子供用の玩具かよ。
……何だこの状況。
俺の前には青と黒の父上が座ってて、何も喋ることなく黙々と食事をしている。どっちも俺の方見ねぇし……何がしたいんだよ。
俺は不機嫌な顔を隠さず、そのまま定食を食べ始めた。あちらが喋らないなら、俺も喋ることはない。当然の反逆だ。空気を読むつもりなどさらさら無いのだから。
「……ええと、どういう状況?」
今度は誰だよ。空気読めよ。
声の聞こえた後ろを振り向くと……マスターがいた。
ちょっと困った顔でこちらを見ながら苦笑して──笑った唇が真っ先に目についた。
「っ!」
途端に心臓が高鳴って──そのまま顔を背ける。
……うるせぇ、静かにしてろ。いっそ止まっとけ。
「……知らね」
素っ気なくマスターにそう言うと、そのまましょうが焼きをかっ食らう。黒い方の父上が訝しげにこちらを見てくるが無視だ無視無視。
「……ではちょっと失礼して……おはよう、二人とも。なんか珍しい組み合わせだけど、どうしたの?」
「おはようございますマスター。いえ、大したことではありませんから、お気になさらずに」
「もっきゅもっきゅ……ふん、優等生のお節介を眺めていたにすぎん」
マスターはそのまま俺の隣に座った。何で俺の隣に座ったのか悪態を吐きたくなったが、口が上手く動かない。俺は気付かれないように少し椅子をマスターから離した。他意はない。
そのままマスターは手を合わして「いただきます」と言うと、そのまま食べ始めた。メニューは俺と同じくしょうが焼き定食……それだけのことで心臓が騒ぐ。
……だからうるせぇんだよ。
マスターに聞こえたらどうすんだ。
……結局、そのまま俺達四人はその後普通に食事をして終わった。たまにマスターが話を振ってくれたが……良く覚えていない。
心臓が騒がしかったからだろう。
そうに決まっている。
「フォーウ…………」
(やあ、今回も解説として呼ばれることになったよ。癒しに飢えた卑しい作者をどうか罵ってやれ。今回はモードレッド……万年反抗期過ぎてつい円卓割っちゃった彼女がこんなにも乙女になるとは、少し感慨深いね。さて、今回の話で特筆すべきは、やはり序盤の夢の話だ。注目していきたいのは、最後まで彼女が受け身に回っていたことだろう。何気に初めてマスターが積極的にヒロインを求めている珍しい話だが、マスターに挑発されない限り反逆しなかった所が彼女の願望を表しているのかも……彼女は欲しがりな所があるからね。あとは夢の中でも、その後でも自分の体の反応に一々悪態や文句を言っているが、ここは彼女にとって、自分が『女』であることの文句でもあるだろう。女扱いされたくない彼女だからこそ、自分が女の子みたいな反応をするのが我慢ならない、ということかな。まあその辺はマスターが何とかするというか、絆すだろうから続編に期待したまえ。最後の方の四者面談は……まあ、彼女達なりに心配した、とでも思ってくれ。おそらくロンの槍を持つ白い彼女は厳しい目で、男の方は何だか心配そうな目で彼女らを物陰から見ていたかもしれないが、それは各々で脳内保管してほしい。
……少し設定に詳しい型月民なら気付くかもしれないが、サーヴァントは基本的に夢を見ない。例外としてマスターと夢で繋がる場合はあるが、今回マスターはモードレッドと夢で繋がってはいない。つまり他に夢を見る方法があるとしたら……まあ、あの穀潰しが見せるくらいしか無いだろうな。彼女は動揺して気付いていないようだし、アイツが自分に都合の良い夢を見せるとは思えないが……それはそれとしてやっぱ死なないかなアイツ)
今回のモーさんはセイバーとライダーの中間くらいの性格だと思ってもらえれば。基本はセイバーモーさん、ちょっとデレる時はライダー、みたいな。
このモードレッドは絆レベル5以上の状態で水着イベをモーさんに結構構いつつ過ごすこと、そして父上を最低三人以上召喚していることが必要です。イキイキと反逆するモーさんの面倒を見つつ、ちょっとだけ女の子として意識しましょう。後はマーリンが何とかします。
四者面談書くのむつかしいぃ……。本当はマスターがモーさんに告白っぽいことして「美しいとッ! 言ったかッ!?」と叫ぶCEOに落ちを持っていって欲しかったんですが……流石に父上×2の前でやらせるのは難しいと判断しました。
ちなみに青王以外のアルトリアはみんなヒロイン候補です。やっぱり青×士郎は頂点にして原点なので。