あの日に操作した聖杯。
何かが妙だと感じた。
邪悪な物を感じたけれど、私の願いを叶えるためにこれ以上は何も触らない。
聖杯へのアクセスが幾許か感知が出来た。
恐らく聖杯のアクセスを利用して聖杯戦争を起こすための準備をしているのだろう。
聖杯戦争はありとあらゆる願いを叶える万能の願望器である聖杯を廻って戦う戦争。
私の都合を合わせると今回の聖杯戦争を逃せば次はないかもしれない。
「・・・
私の身体に秘められた魔力という名の幻想が溢れる。
存在するだけで世界を揺るがす私は
排除しようとすれば私の能力で無かったことにされ、勧誘しようとしても頷かれない。
利益を私に与えれるほどの物を与えれないのだ。
そんな相手に屈する必要を感じれない。
それに、あの子に会うためにその方法は使いたくない。
「はぁ・・・」
つまらない。
そう感じる日々も今日で終わればいいなと思いながら。
私は紡ぐ。
魔術師たちが行う詠唱を真似て、模写する。
だが完全には真似ない。
恐らくこの詠唱の呪文はオリジナルを持たせて、ある程度の召喚を操作できる。
当然供物は使うが、それでも変えてしまった方がいいだろう。
使う供物を収納空間から取り出す。
小瓶に液体のようなものが入っている物を供物に。
あの子が持っていた小瓶を本人から貰っていたのを大事に取っておいた。
「・・・ふう」
溜め息にも似ている呼吸をすると、魔力を操作する。
私の中に渦巻く魔力を全て操作し、ただ一点へ。
事前に書いておいた魔方陣へ魔力が集まっていく。
素に銀と鉄。
礎に石と契約の大公。
手向けるは源は顕し。
祖には我が守護、神ガ守。
降り立つ風には壁を。
四神の霊獣は見守る。
神ノ社より出で。
参道に至る石段は遥か永く。
閉じよ。
閉じよ。
閉じよ。
閉じよ。
閉じよ。
繰り返すつどに五度。
ただ、満たされし刻に天命下すばかり。
告げよう。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い この意 この理に従うならば応えなさい。
誓いを此処に。
我は常世総ての善と成し者。
汝三大の言霊を纏う七天。
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!
紡がれた呪文に反応を起こし、私の魔力を大幅に使っての召喚。
小瓶もなくなり、具現化した魔力が形を成すと一人の人間の姿を形作る。
溢れんばかりの光が収まると、魔方陣の中心。
その場所に片膝を血に付け、ひざまずく人物がいた。
「召喚に応じ、参上した」
ピンク色の髪で、少女のような姿。
左右をリボンで結んでおり、ただ頭を垂れていた。
「ん・・・」
「問おう。汝が、ボクのマスターか」
「・・・そう」
「ボクは『ライダー』。よろしく頼むよ、マスター」
クラス名しか告げないのは聖杯戦争ではよくあることだろう。
マスターには真名も告げるのだが・・・。
「・・・顔を、上げて」
「まさか、だよ。こうして会えちゃうんだからね」
私にはその必要性を感じない。
大昔だったとしても、戦ったときもある。
「ボクの事、言わなくても分かっちゃう人に召喚されちゃったとは思わなかったよ?」
「・・・それほどにまで、ってこと」
「あははっ!それもそうだね!」
立ち上がって、くるっと一周回ると、微笑みながら私を見る。
懐かしむような、嬉しそうな表情で。
「ボクは、シャルルマーニュが十二勇士!アストルフォ!」
「・・・朔月朱音」
「名前変わったんだ?」
「・・・今風の名前にしてるだけ」
名前なんて正直必要ない、と思ってはいる。
呼ばれて嬉しいとも思わないし、そもそも呼んでくれる相手がいないから。
それでも、この子は。
「ならその名前でこれからは呼んだ方がいいかな?」
「好きに・・・すれば」
「うんうん!そうするよ!」
はにかみながら私に笑ってくれる。
名前を呼べるのがそんなに嬉しいのだろうか。
あの時も名前・・・のようなものはあった気がするけれど。
「これからよろしくね?朱音!」
私の能力により、見えてしまうこの子のスキル。
その中になければならないスキルがなくなっていた。
あの小瓶だけでは到底有り得ないはず。
何故・・・?
「どうしたの?そんな怖い顔して」
「ん・・・なんでも、ない」
今は考えなくても構わない。
いつかわかることだ。
別れる日があるかもしれない。
その時はこの子に反対されてでも押し通す。
もう大事な人が死に行く光景を見るのはもう、疲れたから。