双頭の骸、虚圏に立つ   作:ハンバーグ男爵

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衝動で書いた、後悔はしていない





一話 虚圏に光る奈落の星

永遠に明けない夜、見渡す限り白い砂漠、唯一夜闇を照らすは天に輝くお月様。

私は気づけばそんな砂漠のド真ん中に放り出されていた。

 

……Why?

 

ぉぉおおお落ち着け、状況を整理しよう、素数を数えるんだ……素数ってなんだっけ?

5秒くらい考えて数えるのは諦めた。

いやまだだ!もしかしたら夢かもしれない、頬を自分でつねって…つねって……つね…

 

『ぎょああああああああああああああっ!?!?』

 

自分の腕を見て思わず乙女らしからぬ雄叫びを上げてしまった。

ひ、左手が!左手がなんかヌメヌメする!

ついでに右手も!というか腕!?触手!?キモイ!まじキモイ!私の玉のようなお肌はいずこ!?…言うほど玉でもなかったわ畜生め。

 

ワケわかんなくなってきた。周りは砂漠で、腕はタコ!清らかなる乙女にこの仕打ち!今なら私は神をも呪い殺す所存である!

 

あわ…あわわわわわわ…

 

 

~~~しばらくお待ちください~~~

 

 

……だんだん頭が冷えてきた。ポジティブになれ、私。動かしてみるとこの触手、思うがままに動かせる、そんなに不便なわけじゃない。

よしいいぞ、このままこの身体のメリットを挙げていこう。

触手の周りにはまるで装甲のように硬い骨が散りばめられていて、指先(触手の先)には獣の様なドラゴンのような、何かの動物の頭骨がアクセントの様に付いている。まるで骨でできた首長竜みたいだ。ちょっとかっこいいと思っちゃったじゃないか。

それと周りが目視で見えてるだけじゃないっぽい。熱とか振動とかを尋常じゃない精度で感知して物体を把握してるんだ。潜水艦のソナーみたいな感じ。ちょっと意識を集中すると砂漠の地形や、かなーり遠くの方にある建物の形状、中の構造まで何となくだけど探知できた。

 

よしいい感じだ私、そのままそのまま。

最後になるけど、私の現在の姿を嫌でも確認しなきゃいけない。目線が結構高いからかなり大きい生き物みたいなんだけど、どこかに鏡とかないかなあ…

とか思いながら砂を進んでいると、小さい枯れかけたオアシスの様な水場があったので、恐る恐る淀んだ湖面から自分の姿を確認した。正直後悔した。

 

イカだった、紛うことなきイカだった。それも特大サイズの。

装甲バリバリの触手に加え、これまた巨大な龍の頭骨を帽子みたいに被ったイカ、という例えが一番わかりやすいかな。とにかくめっちゃ硬そうな骨の装甲に守られた巨大イカ、それが今の私。

まさかの超絶可愛いハイスペックJK(自称)から超絶硬いフルアーマーゲッソーにジョブチェンジである、正直泣きたい。いや泣く。

 

JK…そうか、落ち着いたら何となく自分が死んでいたって事を思い出した。多分病かなんかで惨めに死んだんだった、生前の私は。

そんで気付いたら体に穴が空いてて…

ちょッ待てよ(キムタ〇並感)。その果てがこの姿か、おお?生前明るさだけが取り柄だった私でも流石にイカに転生は神様に一言物申したいぞ?

 

しくしくと悲しみの余り暫く泣き、いい加減くよくよするのにも飽きたので、生まれ変わった自分の身体を少し動かしてみる事にした。以下、記述していこう。

 

 

触手の先からは赤黒いビームが出る、装甲も相まって骨龍の口からビーム吐いてるみたいで見栄えした。

イカの口からも2倍くらいの太さのビーム吐けるすげえ。こっちの破壊力やばくて、空間が歪んでた。

 

着弾したビームはなんか重力場みたいなのを発生させるみたいだ、砂は勿論建物も余裕で貫通するしかなり遠くまで届く。どうやらビームの軌跡にそって空間ごと抉りとって消し飛ばすようだ。

私は生前に読んだ漫画を参考にしてこのビームを「超重力砲」と名付けた。色も似てるし、我ながらナイスセンス。

 

頭の骨からは骨の欠片をミサイルみたいに上空へ打ち出す事ができるみたい。放物線を描き、着弾した場所は爆発して大きなクレーターが出来てた。殺傷能力高し。

 

機動性はそんなに高くない…まあ図体が図体だからね。

 

 

 

以上がこの数時間で判明した今の私だ。

 

正直よくわかんねえ、けどかなり戦闘に特化してるなこの身体。これに加え先述したソナーに重装甲、まるで戦艦や要塞みたいだ。攻撃と防御全振り!みたいな。

色々試したおかげで地形がかなり変わってしまったけど、この辺私しかいないし問題ないよね!…ね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この姿になってから暫く経った、相変わらず私以外の存在に出会ったことが無い。寂しい。

それと、とても大切な事をここで発表しよう。

 

 

お 腹 が す い た

 

あいあむべりーはんぐりー。

油断してた。調子乗ってビーム撃ちまくってたら私の中のスタミナゲージがギュンギュン減ってって、あっという間に動けなくなるくらい飢餓状態に陥っていた。これは不味いですよ。

私の身体は「空気中に落ちてる霊子をお食べよ」って促してくるんだけど、空気中?霊子?良く分からない、それに地面に落ちてるものを食べるなんて私の倫理感が許さない。

なんとかごはんを調達しないと…あぁ…

 

 

あっ…だんだん意識が遠のいて……らめぇ…第2の人生早速餓死とか…洒落にならな……ぃ…

 

 

 

 

 

 

 

 

~数時間後~

 

 

 

 

 

 

 

なんか生きてた!

知らない間にお腹が膨れてて、めちゃ元気になった。記憶はないけどどっかでご飯を調達したんだろう、さすが私。

しかも私の意思で動く謎のゲートみたいなのが開くようになってた。ワープとは違う、何処か違う世界へ続く扉…そんな気がする。

何よりゲートの開き方がかっこいい、まるで口が開くみたいにびゅわんっ!てなる。かっこいい(語彙力消失)

少しだけ覗いて見たけど怖くなったので結局頭だけ出して直ぐに引っ込んだ。ビビリなのは生まれ変わっても変わらずか……私は悲しい。また機会があったらチャレンジしよう。

 

お腹が減るから不用意にビームも撃てなくなったし、この世界、基本何も起こらない。ソナーで探知してはみるも、だーれもいない、一人ぼっちだ。辛い。

なんか時間の感覚も曖昧になってきたし、相変わらずこの砂漠は殺風景だ。石のような木と無限に広がる砂しかない。

何か面白い事でも起きないかなー。

 

取り敢えず今日は寝ちゃおう、おやすみなさーい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

青年は、絶望を見た。

押し潰される家屋、倒壊する屋敷、穴ぼこになる田畑、そして為す術なく死に惑う人々。

 

始まりは突然であった、いつもと変わらぬ尸魂界に突如謎の門が開き現れたのは巨大な2本の首を持つ虚。奴は流魂街の住人達を手当り次第に喰ってまわり、瞬く間に街を廃墟に変えていった。巨体から放つ異常な霊圧を浴びた者はおしなべて恐れおののき瞠目する。ある者は恐怖で身が凍り、またある者は発狂し狂喜に堕ちた瞳で自ら餌となっていった。

あっという間に廃墟と化す流魂街を放っておくまいと立ち上がった者達も、彼らと同じ運命を辿るのに時間は掛からなかった。

硬い装甲の前に斬撃は通らず、鬼道を浴びせればお返しとばかりに虚から赤黒の光が無数に放たれ、当たった者は跡さえ残さず消滅させられる。尸魂界一番の知恵者、一番の豪傑と謳われた実力者ですら、それの前では塵芥同然だった。

 

ひとしきり暴れたそれは再び門を開き、もう用済みとばかりにそそくさとその場を去っていく。

実に十六もの街が犠牲になった大惨事を彼は青年の身でありながら経験した。

さながらそれは生きた災害、厄災そのものだったと、生き残った者達は後に語る。

 

 

 

自分は役立たずだった。

鍛え上げたつもりの剣は通じず、歩法も、白打も、鬼道も、己が力の結晶であった斬魄刀の解放ですら、まるでそれを傷付けるには至らない。

青年は弱い自分を呪う。

もっと自分が強ければ。

他の実力者達と連携し、事に当たっていれば、被害はもっと減らせたのではないか?

敗北を悔い、己が未熟を恥じ、青年は決意した。

 

組織を作ろう。

 

千年、いや万年続く、魂魄達の安寧を守る組織を。この世界を護り、大切な者達を守る為に、強くて強大な、何者にも負けぬ〝力〟を手に入れると。

いつかまたやってくるであろうそれに対抗する為に。奴を完全に討伐し、正義を成す為に。

 

 

 

 

 

後に「山本元柳斎重國」と呼ばれる、太陽の如き青年はこの時、燃え尽きる流魂街を眺めながら誓ったのだった。

 

 




つづ…く?

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