双頭の骸、虚圏に立つ   作:ハンバーグ男爵

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疾走予備軍おじさん参上

イベント被せてくんの止めろつってんだろ(半ギレ)





十二話 偽りの侵略者

はーいワンダーワイスちゃん!今度はこっちの服を着てみましょうね〜♪

 

「え…あの……」

 

あ、こっちのフリフリもいいかなー?

今度はフリルの付いたワンピース仕立ての死縛装を手に取って、ワンダーワイスにあてがってみる。

破面の服は全て白で統一されてる、どっかのDJ統括官様のせいで厳しい規制が敷かれてるんだ。

全く、服くらい好きに選ばせて欲しいよね。DJは「調和ガー秩序ガー」とか煩く統一感のある格好にしろって言うし…私の海賊コートも散々文句言われたんだよ。

 

「えっと…お母様……」

 

あ、それからそれから、ワンダーワイス…長いからマルちゃんでいいか!

 

「ジェーン、ワンダーワイスが混乱している。」

 

ウッキウキで話していると隣のハリベルが諭してきた。

おっとごめんねマルちゃん、なんだい?お母さんに言ってみな?

 

「あの…目覚めて早々着せ替え人形にされている理由を教えて頂きたいんですが…」

 

ああそうだったね、君にも伝えておかないと。

あの時実験室でマルちゃんを創り出してから、藍染君はウルキオラにある命令を出した。

その手助けとして、なんと産まれたてのマルちゃんに出撃命令が下されました。

私も着いていくんだけど、藍染君曰く「ワンダーワイスの保護者役」らしいので、戦闘はしないかな。

マルちゃん初めての現世です。なので素っ裸は不味いと、私の宮で衣装チェンジをする事になった。ハリベルはその手伝い。

他にも、お供3人娘の中で一番乙女心が分かってそうなスンスン。それから未だマルちゃんの事を認知してくれないクソダーリンが寄越した彼の従属官、シャルロッテ・クールホーンに応援を頼んでる。

……可愛い名前してるけど、シャルロッテは男だ。

巌のような体付きにオカマ口調という、キャラがクレ〇おばさんのクリームシチュー並に濃厚で、最初は引いてたけど、話してみるとあの色モノ揃いの従属官の中では一番マトモな奴だった。

前ケーキ持ってダーリンの宮に突撃した時仲良くなったんだけど、砂漠しかない虚圏でお肌のケアとか、ネイルとか、一体どうやって知識仕入れてるんだ…

 

マルちゃんのコンプレックスだったそばかすを化粧で上手く誤魔化して見えないようにしたのも彼。すごい慣れた手つきだった。

多分この中で…いや全破面中一番女子力が高い。悔しい…

 

「ン〜…やっぱりワイスちゃんにはフリフリよりズボンタイプの方が似合うんじゃないかしら?

それにこれから戦闘するのだし、動きやすい方が吉よね。」

 

ド正論である。

いやでも私はコッチのフリフリスカートでキラッキラしてるヤツを推すよ!

 

「……これでいいんじゃないか?一番動きやすそうだ。」

 

……ハリベルあんたこれ本気で言ってんの!?こんなんちょっと動いただけで色んなところが諸々見えちゃうじゃん!

痴女コスはハリベルだけで充分だよ!

 

「ち…痴女じゃないもん…」

 

あ、しょげた。

 

「き、筋肉ダルマが一番マトモな事言ってるのが恐ろしいですが、私もズボンタイプに1票です。

死神との戦闘が控えているなら尚のこと、ですわ。」

 

えースンスンもー?

可愛いと思ったのになーキラキラフリフリ〜。

 

「スンスン…お前も私を痴女と呼ぶのか…」

 

「いやいやいや一言も言ってませんわよハリベル様!?ただ、ハリベル様のお選びになった装束はすこーし…露出が…」

 

「やっぱり痴女じゃないの。」

 

「お黙りなさい筋肉ダルマァッッ!!」

 

「ずーん……」

 

コントやってる連中は置いといて、誠に残念だけど、断腸の思いで遺憾ながらズボンタイプの衣装にしようと思う。

 

はいマルちゃんこっちに着替えてねー。

 

「ぁぅ…お母様……ありがとうございます。

…帰ったらキラキラフリフリの服も着ますから……」

 

なんだ天使は此処にも居たんだ。リリネット同様、心の癒しが身の回りに増えていってお姉さん嬉しい。

 

「はぃ…部屋着にします…」

 

(((こんなに気を使えてものが言えるだなんて、本当に生みの親がジェーンなんだろうか…?)))

 

おいなんだその目は、言いたいことがあるなら言ってみろそこ3人コラァ!

 

 

 

 

 

「お〜いまだ衣装選び終わらないのぉ〜?

いい加減ヤミーとオセロで遊ぶの飽きたんだけどぉ。」

 

そう言いながら客間からダラダラと入って来たのは中性的な顔に袖の長い服が特徴の破面、ルピ・アンテノールだ。今回の作戦の為にシャルロッテのツテで連れてきたヴァストローデ。

本人の性格が玉に瑕だけど、多対一の戦闘なら引けを取らない影の実力者である。昔ダーリンの勧誘蹴ったんだってさ、そんで何故かシャルロッテとは今でも交流があるらしい。

 

ああ、似てるもんね。何がとは言わないけど。

 

「ジェーン、今すっごい失礼な事考えたでしょ。」

 

ナンノコトカナー?

 

もうちょい待ってねー、ヤミーがうだうだ言ってたらこれ渡せばしばらく大人しくなるから。

 

そう言って例のアレをルピに放り投げた。

 

「何コレ?」

 

現世のお菓子だよ、あんたの分もいる?

 

「要らなーい。何このパッケージから滲み出る化学薬品臭、絶対身体に悪いよコレ。」

 

現世の子供達は皆これが大好きなんだよ?

 

「現世の子供ってこんなもん好んで食ってんの!?どんなディストピアだよ…」

 

などとぶつぶつ言いながら出ていくルピを見送って。さあ、マルちゃんお着替えタイムは再開しよう!

 

 

 

え?ピクニック気分かって?そうだよ。

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

夜虚宮、モニタールーム

 

夜虚宮の一角に設けられた狭く薄暗いこの一室は、ごく限られた者しか入る事を許されない秘密の部屋。

此処では虚夜宮全体の監視や天蓋に備え付けられている擬似太陽の操作、更には回廊の組み換えまで可能な便利空間だ。

 

何画面ものディスプレイには、それぞれの宮の映像が映し出されている。それを監視する者が3人、部屋に佇んでいた。

 

「新たに産まれた破面、ワンダーワイスの言語能力に異常は無いようです。

人格も遜色ないように形成、後は実力と帰刃ですが…」

 

「《始祖》の霊圧を使って産まれた破面だ、それなりに期待はしているよ。

…それにしても、あのジェーンから産まれたとは思えない程気の利く破面だ。本当に、あのジェーンから産まれたとは思えない。(大事な事だから二回言った)」

 

「そうですねえ、ジェーンちゃんと違って。

そんで藍染隊長。

…なんでナチュラルに覗きしとるんです?」

 

「…………ギン、分かっていないね。

これは…『観察』だよ、決してやましい事などない。」

 

「ちょっと言い淀みましたね?」

 

「そうだぞ市丸、藍染様がそんな下劣な目的の為にこの部屋を使うと思ったか。」

 

「DJは黙っといて。」

 

「お前まで私の事をッ!?」

 

「……いいんだ、要。

正直に言おう、私はジェーンの行動によって周囲に及ぼす影響がどれ程のものか、少し…いやかなり興味がある。

一般の虚とは一線を画した《始祖》の骸。その影響で周りの破面は一体どんな影響を受け、変わるのか…いち研究者としてこれ程興味深いものはない。

 

無いんだよ

 

静かに、だが力強く言い放つ藍染の背中に某海賊漫画よろしく『ドン!!』が浮かぶ。

 

「その結果が盗撮ですか。」

 

「盗撮じゃない、これは『観察』だ。

そこのところ間違ってはいけないよ、良いね?」

 

「アッハイ(この人もだんだん染められてきてるなあ…

つーか今完全に自分が盗撮してる自覚あるって言うた…ええわ、黙っとこ。)

……あ、でも。万が一ジェーンちゃんにバレでもしたら、絶対嫌われますね。間違いないわ。」

 

「…………………………ッそうだね。」

 

(今すっっっごい自分の中で葛藤したな…)

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

「「「「「ッッッッ!?!?」」」」」

 

 

青空の一角に、まるで口を開くように裂け目が展開される。無論、それは何者かが黒腔による虚圏と現世間を移動している事を表していた。

 

中から出てきたのは5人、どれも白い死縛装に割れた仮面を付けた虚の変異体。紛れもなく破面だ。

100%完全な人型に成る個体はヴァストローデのみ、と研究ではそう語られている。

出てきた5人の破面は皆、見た目は死神や人間達と変わらない人型だ。

それはつまり、ヴァストローデ級の破面が彼等の目の前に5体居ることになる。

 

「お!いい〜場所に出たじゃねェか〜。」

 

「ヤミーの腕ぶっ飛ばした冴えないオジサンは居ないみたいだねー。」

 

「わぁ…そら…あかるい。

建物もいっぱい…これが現世なんですね…」

 

「ねえ待って、ずっと言いたかったんだけどなんでグリムジョーのヤツ馬鹿でかいリュック背負ってんの?ピクニック気分なの?馬鹿なの?」

 

「……俺が知るか…

此処来る直前にアイツに持たされたんだよ…」

 

居合わせた死神達が刮目するなか、5体の破面は現世へと降り立った。

 

 

 

「おいおい、前回の襲撃から殆ど経ってねえぞ…」

 

「……今しがた観測班から連絡が入った。

反応は紅色…少なくとも十刃が3人はいるらしい。」

 

いち早く尸魂界からの情報を受け取り、静かにそう言った日番谷。

すると、大きなリュックを背負っていた青髪の破面が何か言ったと思うと、リュックを傍に居た別の破面へと投げつけ何処かへ行ってしまった。

去っていく破面を追い掛けたいところだが、生憎他の四体が見逃してくれそうもない。

 

「やるしかねえか…『氷輪丸』!」

 

日番谷の斬魄刀が抜かれ、冷たい風が辺りに吹き荒れた。

その直後、響転で近付いてきた大柄な破面の拳と氷輪丸が激突し、鈍い音を立てる。

 

「…護廷十三隊十番隊隊長、日番谷冬獅郎だ。」

 

「奇遇だなァ、オレも10だ。

破面No10(アランカル・ディエス)、ヤミー。

よろしく…なァッッ!!」

 

「くっ…!!」

 

鍔迫り合いの後力で押し負け、軽い日番谷の身体が宙を舞う。

 

ふと周りを見渡すと、松本、弓親、一角もそれぞれ破面と対峙していた。

 

(苦戦は必至か…ん?)

 

ふと先程黒腔が開いた方を見上げた日番谷の目に映ったのは、空中にランチョンマットを広げて呑気にサンドイッチを頬張るポニーテールの女破面の姿だった。

 

 

 

………………

 

 

 

「ぇと……あの…宜しく御願いします…?」

 

「え?ああどうも御丁寧に…」

 

胸元が大きく開いた死縛装を身に纏うグラマラスな死神、護廷十三隊十番隊副隊長の松本乱菊は今、目の前の敵と距離を取り、向き合っている。

相手は金髪にティアラのような仮面が頭に乗った女破面。放たれる霊圧はそこそこで、副隊長には勝るとも隊長格には劣る。そんなどこか『惜しい』と感じてしまう霊圧だった。

 

「ワンダーワイス・マルジェラと…いいます。

私の相手はお姉さんみたいなので…お手柔らかに…」

 

遠慮気味にそう言い放ち、背にする西洋風のロングソードを模した斬魄刀を振り上げる。

 

(……来るっ!)

 

「え、えぇ〜い…!」

 

「へ!?」

 

上から下へ、愚直に振り下ろされた剣を乱菊はひらりと躱し、当たらなかったワンダーワイスは振った剣の勢いに振り回されながら一回転して再び乱菊へ向き直る。

 

「や…やりますねぇ〜…死神さんって素早い…」

 

「いや、アンタが遅いだけだと思うけど…」

 

「ひ、酷い…もう1回……とりゃあ〜…!」

 

今度は横振り、乱菊はそれも軽く避け、勢い余ったワンダーワイスが空中をごろごろ転がった。

 

「ひぃ〜…避けないで下さい〜…」

 

その後も、半泣きになりながら太刀筋もへったくれもなく剣に振り回されるワンダーワイスの攻撃を避けながら乱菊は思った。

 

(……コイツ、倒しちゃって良いのかしら…)

 

「……あ、トンボさんだぁ〜。」

 

(集中力!)

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

サンドイッチうめえ。

 

ヤミーはあの時藍染君に騙され斬られ散々だった子供隊長と。マルちゃんはエロい格好した乳デカ死神と、ルピはスカしたナルシスト風死神と戦い出した。グリムジョーは……あの時のオレンジ髪君の所へ行ったんだろう。どうせ帰る時は反膜で強制送還だし、それまでほっとけばいい。

 

「オイ女、テメェは戦わねえのか?」

 

なーんて呑気にサンドイッチ頬張ってると、向こうにも一人溢れた坊主頭の死神が警戒しながらこっちに話しかけてきた。

 

戦いは結構でーす、今日はあの子達の保護者なんで。そっちこそ、あのナルシスト君に協力しなくていいの?

ルピの奴、あれで結構強いよ?

 

「良いんだよ、一体一(サシ)の勝負にゃ手を出さねえのが流儀だ。」

 

へぇー難儀だねー。あ、サンドイッチ食べる?

 

「敵から施しなんぞ受けられるか!」

 

あそふん。ま、正当防衛はするけど、私は基本手を出す気は無いから。攻撃するならご自由にどうぞ〜。

 

「覇気の無え奴だなァ…」

 

戦闘にならないのが余程残念なのか、坊主頭はガックリと肩を落としてルピとナルシスト君(弓親って言ってた)の戦いを眺めた。

 

 

……遠くでグリムジョーの霊圧が大きくなってる。アイツもおっぱじめたのかな?

 

 

「グハハハハ!涼しいぜェー!」

 

子供隊長の仕掛けた氷の技を受けながらヤミーは笑う。ぜんぜんダメージになってないぞ子供隊長!

ルピも退屈そうに弓親って死神を跳ね飛ばして溜息を吐いてた。

 

「つまんなーい。ねえヤミー、マルジェラ、そっちのも譲ってよ。

コイツらうだうだめんどいからさ、解放してさくっと殺っちゃうね。」

 

「ああ〜ん?しゃーねえなー。」

 

「は…はいぃ…疲れました〜…」

 

ヤミーとマルちゃんが引き上げて、代わりに戦いを求めて坊主頭がルピの方へ飛んでった。

 

 

4対1…いや、ルピの手数なら4対8か。

 

 

「━━━縊れ、《蔦嬢(トレパドーラ)》」

 

ルピの解放にいち早く気付いた子供隊長がすぐさま卍解して止めに入るけどもう遅い。

ルピを中心に辺りは煙に包まれて、中から触手が一本子供隊長へ襲いかかった。

 

鈍い音がして、氷と触手がぶつかり合う。

 

「どうした、こんなもんかよ。解放状態の攻撃は。」

 

「やるねえー、正直止められるとは思わなかったよ。意外とやるもんだね、隊長ってのは。

……でも、もしその攻撃が…」

 

8倍になったらどうかなァ?

 

煙の晴れた先にいたのは、刀剣解放して背中から8本の触手をうねらせるルピだった。

 

 

 

そっからはもう一方的だ、子供隊長は触手八本纏めて食らって落っこちちゃったし。他の死神達も多方面から予測不能の攻撃を仕掛けるトレパドーラに対応出来てない。あっという間に捕まっちゃった。

 

「オイジェーン、オレにもサンドイッチ寄越せ。暇になっちまった。」

 

「ぁ…私も頂きたいです…お母様…」

 

はいはーい、お手拭きあるからちゃんと手を綺麗にするんだよー。

 

……ん〜グリムジョーの霊圧、乱れてるなあ。遠くの方で虚に近い霊圧が増えたと思った矢先にこれだよ。

やばくなったら助けに行った方がいいかなー。でも前とは違ってちゃんとした藍染君の命令だから、邪魔すると超機嫌悪くなりそうだし…年頃の若者は扱いに困るね。どうしたもんか。

 

 

 

 

「お姉さん、セクシーだなー。いいなあー…その身体、穴だらけにしちゃおっかなあ〜。」

 

調子乗ったルピが捕まえたセクシー死神を串刺しにしようとした時、どっからか赤い斬撃が飛んできてトレパドーラの触手を切り落とした。

 

「どぉーもどぉーも、真打ち登場ッスよ。」

 

カランコロン下駄の音を響かせ、現れたのは帽子を被った男。ウルキオラの映像で見た、黒髪褐色ボインのお姉さんと一緒に居た人だ。名前は…喜助とか言ったっけ?

 

「お!?アイツぁ…」

 

手にしていた食べかけのサンドイッチを慌てて口に放り込み、ヤミーが飛び出した。

因縁あるもんね、行ってらっしゃーい。

 

 

「おお!?いきなりとは御挨拶ッスね。」

 

「会いたかったぜぇゲタ野郎!死ね!」

 

ヤミーの拳に固められた霊圧が高速で喜助さんをぶっ飛ばす。

 

「グハハハハ!コイツは虚弾(バラ)って言ってよ、固めた霊圧を拳に乗せて飛ばす技だ!

威力は虚閃にゃ及ばねえが…速度は虚閃の20倍だ!!」

 

木っ端微塵になって死ねェッ!!

 

ヤミーが調子に乗ってご丁寧に解説しながら虚弾を撃ちまくる。

 

…………グミ撃ちって知ってる?それ、負けフラグなんだよ?

 

「ヤミーさん元気ですね〜…私はもう疲れましたぁ〜…」

 

サンドイッチを小口でパクパク食べながらマルちゃんは呟いた。

いや、思ったよりマルちゃん戦闘能力無いよね。まだ産まれたてだからかな?

 

「ぐはっ…!お母様の言葉が胸に刺さります…」

 

 

 

 

 

まだウルキオラの奴は任務中みたいだし、もうちょっと観戦していよう。

と、思ったら。ルピの触手が氷漬けにされちゃった。

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

「お喋りが過ぎたな、俺に時間を与え過ぎた時点でお前の負けだぜ破面。」

 

卍解、大紅蓮氷輪丸による氷の翼を翻し、ルピの凍った触手を砕き割る。

それに連鎖して、八本のうち半分が凍り付いた触手と、巻き添えで左手にビシビシと亀裂が走り、粉々に砕け散った。

 

「なっ…がァァァァァァァァァッッッッ!?!?」

 

「悪いな、中途半端に凍らせちまった。」

 

「ッ!!…の野郎ぉ…!!」

 

「今度はちゃんと痛みのねえように凍らせてやるからよ。」

 

片腕が無くなって悶えるルピが返事を返す暇もなく、周囲の水分が凍って柱の様に象られ、包み込む様に彼を覆い尽くす。

 

 

『千年氷牢』

 

 

あっという間に勝敗は決した。

 

「はぁっ…はぁっ…松本、斑目、綾瀬川、無事か…?」

 

「はい、なんとか…ですが…」

 

「彼処に居座ってる破面をどうするか、だな。」

 

息を整えながら、日番谷は空を見上げる。

そこには相も変わらずランチョンマットに座って戦場を呑気に眺める女破面が居た。

 

(あの破面から霊圧を全く感じねえ…

涅の言ってたのと同じだ、てことは…奴が…)

 

自分は藍染に斬られ、その場に居合わせる事が出来なかったが、彼女が藍染離反の際、逃亡の手助けをしていたらしい。

 

「あーあ、ルピやられちゃったよ。生きてんのかなコレ。」

 

!?!?!?!?

 

突然、渦中の女破面が日番谷達の前に現れた。

 

「…ッ!!」

 

「そう身構えないでよ、戦闘の意思はないからさ。…て、さっきそこの坊主頭の死神君にも言ったな私。」

 

「…その首の数字。お前、十刃か?」

 

「そうそういかにも!

第5十刃、ジェーン・ドゥ。お呼びとあらば即参上だよ。」

 

誰も呼んでねえよ、とは流石に誰も言えなかった。

外見は何らおかしい所はない、普通の女の子のようだ。破面の死縛装の上から海賊の様なコートを羽織った奇抜な格好をしていなければの話だが。

 

「…護廷十三隊十番隊隊長、日番谷冬獅郎だ。」

 

「ああ知ってる知ってる、藍染君に酷い目に合わされた子供隊長だよね。」

 

「子供じゃねぇ…」

 

日番谷の額に青筋が浮かぶが、そんな事ジェーン・ドゥ(虚圏いち空気の読めない女)が気にするはずもない。

 

「来ねえのかよ、仲間の仇取らねえのか?」

 

「仇ぃ〜?何それパスパス。

そーいう汗臭いの嫌いだし、それにもうすぐウルキオラが……やっべ、コレ言っちゃ駄目な奴だった。今のナシね。」

 

「……?」

 

「取り敢えず、私はキミ達が此処にさえ居てくれればそれで仕事してる事になるし、このままテキトーに駄弁ってようかな。

あ、そーだ!せっかく生の死神に会ったんだし聞いときたい事があったんだ。

……死神ってう〇こすんの?」

 

「「「ぶっ……!?!?」」」

 

「だってさ、私達もそうだけど、死神って一回死んでるんだよね?なのにう〇こすんの?

あと林檎好きってホント?名前書いただけで人間殺せるノートとか持ってるの?」

 

「持ってるわけ無えだろうが!

あと年頃の娘がう〇ことか言うんじゃねえ!?」

 

「あ、因みに破面はう〇こs「人の話を聞け!?」」

 

唐突に始まる緊張感の無い会話、松本と弓親が気まずい顔をしながら一角がツッコミの嵐をかます後ろで、日番谷は彼女の言葉に違和感を覚えた。

何故自分達を此処へ留まらせておく必要がある?自分は戦う気すら無いのに…

 

その言葉に隠された真意は……

 

「……ッ!!

松本ォ!今すぐ尸魂界に繋「ありゃ、バレた。駄目だよそんな事しちゃ」なっ……」

 

空間の軋む音がする。ギリギリと魂魄が締め上げられ、今にも身体が張り裂けそうだ。

あの夜一瞬感じたものと同じ、身の擦り切れるような異常な霊圧を日番谷達は全身に浴びせられた。

 

間違いない

 

「テメェが……始祖かッ!!」

 

「おん?言ってなかったけ?

まあいいや、尸魂界に連絡なんてさせないよ。此処から離れる事も許さない。」

 

笑顔のまま、だがその紫の瞳が全く笑っていないジェーン・ドゥは言い放つ。その瞳に睨まれて、思わず身体が強ばる日番谷とその仲間達。

ちらりと松本の方を向いてみるが、彼女は首を横に振った。それは恐らく周囲の霊子が不安定になり過ぎて、伝令神機が使えなくなった事を意味しているのだろう。

これで尸魂界との連絡手段は断たれた。

 

「キミ達は大人しく此処に居てくれればいいの、私も手を出さずに済むからね。

だから無駄に暴れられたら…面倒だなあって。」

 

日番谷も警戒していた異常な霊圧、一体何が『異常』なのか、今ひしひしと身を締め付けられている松本達も漸く理解出来た。

それは『根源的な死への恐怖』。ただ大きいだけの霊圧ならば、それに耐えきれず周囲の魂魄が死滅するだけだ。しかし、始祖の放つ霊圧からは彼女の持つ圧倒的な力量差と、それに「勝てない、負けて死ぬ」という密なる恐怖。

明確な『捕食者』と『餌』の関係が連想された。

 

死ぬのが分かりきっていて怖くないと感じる者など、幾度となく死線を潜り抜けた戦士でも無い限り克服する事など不可能だろう。

 

並の魂魄ならば即時発狂ものの霊圧を浴びながらも、幸い彼等は護廷十三隊の隊士達。相応の訓練も受けているし、命のやり取りだって何度も行っている。故にまだ目の前の化け物に抗う気力は残されていた。

 

 

 

「あれ…まだやる気なの?

しょーがないなあ、ちょっとだけよ?」

 

ジェーン・ドゥの差し出した掌が黒く輝き出す。それを日番谷達の方へと向け、大気が震え始めた。

真っ黒なエネルギーが球状に渦を巻き、明滅を繰り返す。赤と黒の入り交る淀みきった霊圧の塊が掌から弾けるその瞬間―――

 

「任務完了だ、ジェーン・ドゥ。」

 

それを静止する声がして、彼女の肩に手が置かれる。振り返るとそこには、もう1人の破面の姿があった。

 

「あれっ、もう終わったのウルキオラ?」

 

「ああ、太陽は無事我等の手に堕ちた。帰投するぞ。

…此処で貴様の虚閃など撃ったら、後に何も残らなくなるだろう。それは藍染様の意にそぐわない。」

 

切れかけていた茶葉のストックも購入した、もう此処に用はない。とレジ袋片手にそう言うウルキオラに、ジェーン・ドゥは掌にチャージしていた虚閃のエネルギーを握り潰して霧散させ、軽くため息を吐いた。

 

「ちょっとー、買い出しするんなら言ってよ。

せっかくポイント溜まってたのにさ。」

 

「知らん、さっさと帰るぞ。」

 

「へいへーい。

あ、じゃあね子供隊長。もう何処へなりと行っていいよ。

おーいマルちゃんヤミー、それから聞いてるかわかんないけどルピも、帰るよー。グリムジョーは強制送還な。」

 

ふっと、重々しい霊圧から開放され息を荒らげる死神達を尻目に、彼女の作り出した反膜に包まれた破面達はあっという間に黒腔へと消えて行った。

 

 

 

 

日番谷達は、余裕の笑みを浮かべ手を振り消えていくジェーン・ドゥを見送りながら歯噛みする。

破面達が去り、気の抜けた拍子に松本と弓親が膝から崩れ落ちた。

 

「はっ……はっ……はっ……ッ!!」

 

「間近で浴びるととんでもないですねアレ……生きた心地がしなかった…」

 

「尸魂界へ通信は?」

 

「……駄目です、霊子の乱れが激しくて伝令神機がイカレちゃいました。」

 

「あの総隊長が化け物扱いするのも頷けるな…」

 

認識を改めなければならない。

始祖の虚は噂どおりの化け物だ。護廷十三隊総出で掛かっても相手になるのかどうか…

 

「いやー大変だったッスねー護廷十三隊の皆サン。」

 

「浦原喜助か…」

 

「少しお話があるんですケド、お時間大丈夫ッスか?」

 

先程までヤミーの相手をしていたというのに、殆ど傷を負っていない喜助は飄々と笑う。

後に彼の出した『提案』に、半ば訝しみながらも日番谷は頷いた。

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

尸魂界 瀞霊廷内

護廷十三隊十二番隊隊舎、通称「技術開発局」

 

「……ふふっフフフフハハハハッッ!!

素晴らしいッ!素晴らしいネ!

霊圧を放っただけでアレか!未知の存在!始祖なる虚!

実に…実に実に実に研究しがいがあるヨ!」

 

研究室の奥、日番谷本人には黙って取り付けた監視用の菌からの情報を得ながら、技術開発局局長涅マユリは笑っていた。

実際のところ、ジェーン・ドゥの放った霊圧によって菌は軒並み死滅したため、詳細な情報は得られなかったが…

 

「なんとしても捕えなければ……私の探究心を満たす為にネ…」

 

まるで新しい玩具を見つけた子供のように、マユリは暗い研究室の中で嗤い続ける。

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

「ただいまー!

グリムジョー、まーた不機嫌になってるけどどしたん?」

 

「……別にィ。」

 

「ふんふん、あのオレンジ髪とは戦えたけど散々他の奴に邪魔されて消化不良だと。」

 

「当たり前のように心を読むな!?」

 

「まー安心しなよグリムジョー。藍染君が考えて、ウルキオラが実行したなら、間違いなくオレンジ髪のあの子とはまた会えるさ。」

 

「……?」

 






檜佐木さんの卍解の内容が明らかになったら続く
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