双頭の骸、虚圏に立つ   作:ハンバーグ男爵

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戦闘が上手く表現出来ねえや!






十七話 依存

彼女はきっと『星』なのだ

 

地に這い蹲る自分達とは違う存在

 

虚圏を見下ろす奈落の星

 

 

()()はきっと俺達が持っていちゃあいけない感情だ。一度嵌ってしまったら、二度と抜け出せない甘い甘い毒の沼。

捨て駒になってもいい。使い捨てられても構わない。ただ彼女に褒めてもらいたい、認メテ貰イタイ。「ご苦労さま、頑張ったね」って言って欲シインダ。

 

 

 

 

 

 

地を這う虚は夜空の星に手を伸ばす

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

「さあ立ちたまえぼうや(二ーニョ)、反撃の時間だ。」

 

自らの斬魄刀を解放し、堂々たる姿でアーロニーロの攻撃を阻み、一護の前に立つ紳士、ドルドーニ・アレッサンドロ・デル・ソカッチオ。

 

「………ゲロくせえ…」

 

自分の危機を救ってもらったにも関わらず、当の一護は塩対応だった。

 

「んなっ!?会って5秒で吐く台詞がそれかね!

ピンチを救った男に感謝の言葉とかないのか!?」

 

「近い近い近いあんま近付くな酸っぱい臭いするから!つーかアンタも破面だろ、仲間割れか?

傷はどうしたんだよ。」

 

「彼処のお嬢ちゃん(べべ)が治してくれたよ、代わりに大切なものを失ってしまった気がするがね…」

 

明後日の方角を見ながら呟くドルドーニ、広間の入り口ではネルが一護に向かってグッ!とガッツポーズをキメていた。

 

「いちごーっ!そのおっちゃん、ネルのヨダレいっぱいかけたら元気になったっス!」

 

「えぇ…(ドン引き)」

 

「こ、こらお嬢ちゃん!誤解を招く発言をするでない!」

 

必死に弁明するがもう遅い、既に一護の中でドルドーニは「幼児に涎をかけられて回復する変態」としてインプットされている事だろう。

哀れである。

 

 

「「ッッッ!?」」

 

咄嗟に2人は身を躱す、さっきまで一護達がいた場所は大量の触手によって埋め尽くされていた。

アーロニーロは表情こそ変わらないが、声のトーンが下がり、明らかに怒りを顕にしている。

 

『「ドルドーニぃ…なんデボく等のじゃマをスる?」』

 

「なに、簡単な事だよ。

『ワガハイは好きな様にする』。ぼうやはワガハイの獲物だ、お前に喰われてしまってはそれも叶わんだろう。

だから先ずはお前を討ち、然る後ぼうやに戦いを挑む事にするよ。」

 

「『ジェーンに言ワれた事ヲ忘れタカ!』」

 

「勿論覚えているとも、彼女は『侵入者が現れたら、頑張って迎撃してね』と我々を激励してくれた。

言葉通り侵入者はこうしてやって来た、が。何を『頑張って迎撃する』とは指定してはおらんよ?」

 

『「屁理屈ヲををヲヲッッッ!」』

 

怒れるアーロニーロの放つ槍のように尖った触手の束がドルドーニへ向けて殺到する、それを庇うように今度は一護が超高速の斬撃で全て撃ち落とした。

 

「いい腕だ、ぼうや。」

 

「ひとまずアンタは味方って事で良いんだな…?」

 

「楽観視は止めたまえ、アーロニーロが片付けば、次はぼうやに牙を剥く。」

 

「その時はその時だ。」

 

「甘いねェ、チョコラテの様だ。

だが、彼女の甘さに私も彼も救われたのだ…」

 

「…?」

 

ドルドーニの言葉に疑問を覚える一護だが、そんな悠長な時間は無い。

一護は織姫を救う為に此処へ来た、一刻も早く此処を抜けなければならない。友の為にこんな所で立ち止まっている訳にはいかないのだから。

 

「構えろぼうや。

…奴の鋼皮は硬い、つい最近までは十刃最硬と言われていた者の力だ。生半可な攻撃では傷一つ負わす事は出来まい。」

 

「あのツリ目野郎の事か。」

 

「左様。元は5番の十刃、ノイトラ・ジルガという男の身体をアーロニーロは乗っ取っている。ただ格上を喰らったせいか、少しばかり感情の制御が利いていないみたいだがネ。」

 

広間の中央に陣取るアーロニーロは雄叫びを上げながら部屋中の触手をうねらせ、随分ハイになっているのが傍目から見ても一目で分かる。

貰い物とはいえ、手に入れた巨大な力は良くも悪くもアーロニーロを突き動かしていた。

 

「……どうすればいい?」

 

「普段の奴なら付け入る隙もなかろうが、あの状態ならば難くあるまい。

タイミングはぼうやが決めろ、ヒントは『傷』だ。」

 

「傷…」

 

見ればアーロニーロの身体には、先程突然付いた刀傷がハッキリと残っていた。

肩から胸に掛けてバッサリと、一護と斬り結んでいた際突然開いた謎の傷だ。

 

「アーロニーロは特殊な破面。喰った虚の死体の力を我が物とする能力だったが、あるとき能力の幅が広がった様でね。喰った虚に力を分けて、分身の様なものを作れるのだ。しかしあの様子だと、分身の受けたダメージは幾分か本体にも反映されるようだな。」

 

「じゃあ何処か別の場所にいるアイツの分身が殺られたから、アイツも傷付いた…?」

 

「そうだ、このチャンスを無駄にしてはならん。全力でかかりたまえ。」

 

「…応っ!」

 

「『こそコソ何を喋ッテルぅ!!』」

 

再度襲いくる触手の刃、一つ一つが鎌のような形状をしたそれを竜巻で受けたドルドーニは前へ出て、竜巻の陰に一護を隠す。

 

「さァ踊るぞ暴風男爵…もう無様な姿は晒すまいッ!」

 

竜巻から風の嘴が4つに増え、それぞれが鎌と音を立ててぶつかり会った。

突風が踊り狂い、鎌鼬が広間の壁をズタズタに裂いていく。

 

「『邪魔スるなクソカす野郎!ジェーンに褒めて貰ウノはボれ達ダ!!』」

 

「やれやれ、ノイトラの口調まで移ったか。

一途なのはいい事だが、彼女も罪作りな女だね…チィッ!?」

 

両者壮絶な剣戟を繰り広げる中、暴風男爵の嘴が一つ大鎌に切り裂かれ、その余波で治ったばかりのドルドーニの脇腹から血が再び滲み出した。

にも関わらず、彼は気遣う様子もなく更に暴風を纏い、触手を相手に尚も激しく踊り続ける。

 

 

(……やはりお嬢ちゃんの治癒能力だけでは十分に回復していない。

が、まだ止まらんよ…ッ!!)

 

更にスピードを上げ、八本に増えた嘴が次々襲い掛かる触手の鎌を両断し、両断され、破壊と再生を繰り返す。筋肉に負荷を掛けすぎたのかドルドーニの身体中がミシミシと不気味な悲鳴を上げ始め、今にも張り裂けそうだ。

 

「雄オオオオオオオオオオッッッ!!!」

 

 

強欲の魔物と踊る彼の脳裏を過ぎるのは十刃から外され、十刃落ちの称号である103の数字を与えられた当初の記憶。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

破面は藍染殿の為に存在する消耗品、新しい物ができれば古い方が切り捨てられるのは当然の帰結。故に納得はしている。

完成形の崩玉で造られた破面はワガハイの様な未完成品とは基盤が違うのだ。無限に進化し続ける能力を持つアーロニーロの様な者ならともかく、ワガハイの強さの天井は呆気ない程低かった。ピカロ達の様に幼子なら気にすることもなかったかもしれない、チルッチ嬢の様に踏ん切りを付け、駒に徹していれば良かったのかもしれない。

だが1度でもあの高みに登ったワガハイは、心のどこかでもう一度、十刃に戻りたいと願い続けていたのだ。

そんな悶々とした日々を過ごす内、彼女が新たな十刃として選ばれた。

 

ジェーン・ドゥ。

今となっては御伽噺にも近い存在として語られる《始祖の虚》、その破面。

彼女は美しい女性だった、そして何より強かった。5番の十刃を軽々と下す強さに加え、その抱擁力と、他の者達を巻き込んで包み込むような優しさに、誰もが憧れ、焦がれた。

 

これはきっと、虚の本能を刺激するものなのだろう。

虚は亡くした孔を埋める為に整を喰らう。

だが彼女は我々が失い、永遠に得られない筈の〝ぬくもり〟を持っていた。

虚の身では決して手に入れることが出来ないもの。蜜に群がる蝶のように、我々がそれに惹き付けられるのは必然だった。

 

彼女が3ケタの巣にやって来た事は過去に何度かある、そして他の数字持ちの面々にも。彼女は笑顔を振り撒き、菓子を配り、我々と打ち解けようと努力していた。初めは素っ気ない態度を貫いた者達も、次第にその心を溶かされ彼女の来訪を心待ちにする様になった。そしてワガハイも、彼女と話せる事は至上の喜びだと感じている。

彼女と菓子を囲み、下らない話に興じている時だけは、密かな野望も、嫉妬も、劣等感も、自らに孔が空いていることすらも忘れ、幸福な時間を過ごせた。

 

憧れ、焦がれ、安らぎ、そして気付く。

満たされれば二度と、失いたくないと思ってしまう。彼女は我々を蕩かす毒なのだ。

 

 

アーロニーロよ、彼女と永く時を過ごしたお前は、もう彼女無しでは生きていけないほど依存しているのだろう。彼女の期待に応えたい、その一心で自身の命など二の次にしてしまう程に。

だが此方にも譲れぬものはある、ワガハイだって折角ジェーン嬢に『頑張って』と言われたのだ。ぼうやには否が応でもワガハイの相手をしてもらう。

ワガハイ、結構我儘なのだよ。

此処は3ケタの巣、彼が此処に迷い込んで来たのなら、この戦いはワガハイのものだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

「脇役は下がっていたまえ、アーロニーロォッ!!」

 

『「邪魔ァすルナぁァぁァァッッッ!!!」』

 

響く怒号、吹き荒れる鎌鼬。壁中から現れた大量の触手の鎌が、四方から暴風男爵ごとドルドーニを貫いた。

だが同時に、伸びた風の嘴はアーロニーロの身体に生えた6本の腕を抉り取る。

 

 

「『ぐおおおおあああっ!?』」

 

「ぐッ…ふ…腕は頂いた…ぞ…」

 

「『…ヒヒヒハハハハハ!!残念だッタなァ!

この身体は、腕なんテ幾らデモ再生するンダよ!!!』」

 

勝ち誇る様に叫ぶアーロニーロ、だがドルドーニの口元は緩んだままだ。

 

無事送り出せたのなら問題ない、と。

 

 

 

『「…………ハ?」』

 

突然目の前に現れたのは漆黒の死縛装に身を包み、黒く輝く刃を振り上げ今にも此方に斬り掛からんとするオレンジ髪の死神。

 

なんだこいつは、何処から現れた。

 

突然の出来事にフリーズするアーロニーロを見ながら瀕死のドルドーニは嗤う。

 

「…見えなかっただろう?

幾重にも編んだ風の層は視界を歪め、対象を透明に見せるそうだ。昔、ジェーン嬢に貸してもらった漫画に書いてあったよ。

ノイトラの力に溺れ、隙だらけのお前を騙すには丁度いい……」

 

行きたまえ、ぼうや

 

 

 

 

「月牙…天衝ォッッッ!!!」

 

 

 

 

両腕を失い、無防備なアーロニーロの傷をなぞるように、黒い斬撃が広間で炸裂した。

 

 

 

 

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『貴方、アーロニーロって言うの?

私はジェーン・ドゥ、宜しくね!いやー今までちゃんと話できる虚なんて殆ど会ったこと無かったから嬉しーなー!』

 

初対面の彼女とは、こんな会話をしていたと思う。この日もボク達はいつもの様に虚を喰らい、消えない苦しみから逃げようと躍起になっていた。

そもそも存在自体が歪な喰虚だ。グチャグチャに混ざり合った虚の塊、動けば身体が軋むし、苦しくて息が詰まる。残ったボク達もいつなけなしの理性が消えて、物言えぬ虚に堕ちてしまうのか、不安で堪らなかった。

 

 

『あ、今日はお土産に熊っぽい虚とっ捕まえてきたから一緒に食べよう!

そんで黒〇徹子ばりのお茶の間トークで花を咲かせようじゃない。此処砂漠だけど!』

 

この虚が何を言ってるのか分からない、偶に出てくる意味不明な固有名詞もそうだが、俺達の前で虚を差し出し話など、馬鹿げている。

 

なのに、何故か奴と一緒にいる間だけは、消えない筈の苦しみが、少しだけ和らいだ。

 

『へぇー喰虚ね、死んだ虚の力使えるんだ。

凄いじゃん。』

 

何故だ、何故此奴は汚い喰虚の力を見ても尚、俺達に踏み込んでくる。

 

『見た目?いやまだマシでしょ、私なんてイカだよイカ!』

 

何故、何故この虚は醜いボク達の姿を見ても尚、話を絶やさないの?

 

 

『アーロニーロ』

 

 

初めてだった。

名前を呼んで貰うと、苦しみが消えていく。

彼女と言葉を交わす度、胸に空いた大きな孔がぬくもりと共に埋まっていく様な、こそばゆい気持ちになる。これを失っちゃいけないと、本能が理解した。

ジェーンが居ないと、俺達はまた苦しみに苛まれる。

ジェーンが居ないと、ボク達の孔は埋まらないまま。

ジェーンが居てくれないと、アーロニーロの苦しみは永遠に消えない。

だからあの子を護らなきゃ。アイツの敵は全て俺が殺し尽くしてやらなければ。

そうすればまた、名前を呼んでくれるだろう。褒めてくれるだろう。埋まらない筈の孔を、彼女が満たしてくれるだろう。

 

『お疲れ様、頑張ったね。アーロニーロ。』

 

彼女が笑って言葉を掛けてくれる、ただそれだけを求めて。

 

 

 

依存だって?そんな事、はなから分かってる。それでもボク達は

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジェー…ン……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

がしゃんと、ガラスの割れる音がした。

胴体は斜めに両断されて、喰虚とも切り離された身体が宙を舞い、床に叩き付けられる。

 

駄目だ、死ぬ

 

直感でそう思った。

ガラスの向こう側だった世界が間近に迫る。襲ってくるのは昔と同じ。痛みと、苦痛と、終わってしまうという絶望。アーロニーロ・アルルエリという破面が消えてなくなってしまう恐怖。

 

喰虚は虚を喰らう、なら喰らった虚に残った自我はどうなる?当然、本体である俺達に統合されるのだ。虚なんて基本後悔だらけで、おかしいやつばかり、そんな連中が何百何万も一斉に自分の中に入って来たらどうなるか?答は簡単、頭の中は阿鼻叫喚だ。

 

後悔、絶望、嫉妬、怨念、倒錯、ありとあらゆる負の感情がボク達の中で渦を巻く。

苦しみの原因はそれだった。ジェーンが教えてくれた。だって彼女と話してる時だけは、連中は息を潜めて彼女の話に没頭するんだもの。都合のいい奴らったらありゃしない。

 

「じゃあ、その意識を全部統一して、制御できるようになれば、アーロニーロはもっと強くなれるね!」

 

口で言うのは簡単だけどさ、あいつら、最近俺達の人格乗っ取ってお前とイチャつこうとするんだぜ?特に淫姦が原因で死んだ虚共な、勝手に俺の身体の中で催淫剤作るんじゃねえっての。何?触手プレイなら任せろ?うるせえ死ね!もう死んでるけどな!

頑張ってみたけど、制御できて分身を作るまでに成長したのはたった一匹だけ。もっと時間が欲しかったなァ…

 

 

ああ、消える。消えてしまう。

あいつとの思い出が泡みたいに浮き上がっては消えていく。

楽しかった、嬉しかった、暖かかった。報われない筈だったボク達は彼女に救われた。

 

なのに…

 

 

 

ごめんな…ジェーン…負けちまった…

 

 

期待に、応えられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様、アーロニーロ。

もう休んでいいんだよ。」

 

 

霞の掛かった視界の向こうで、彼女が笑ってそう言ってくれた気がして…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「………逝ったか、古き友よ。」

 

血を流し、地面に倒れ込むドルドーニは、赤い培養液に塗れ、既に物言わぬ2つの小さな頭を眺めて呟いた。

 

アーロニーロの固有能力の一つ、認識同調。

テレパシーの様に自身の思念を特定の相手に飛ばす事ができるものだ。恐らく彼は虚夜宮内の全破面に今の思念を飛ばしたのだろう。

 

戦った侵入者の速度、霊圧、そして以前のデータより何倍も強力になった卍解の細かな情報を。後に控える十刃達に伝えた。情けなのか、ドルドーニが一護に加勢した事は語られていなかった。

そして、最後にジェーンに向けて感謝と謝罪を述べ、彼からの念波は途切れた。

 

2つの頭が崩れ落ち、泡のように消えていく。

 

「昔のお前は苦しみから逃げ続ける子供のようだったのに、一丁前に背伸びしおって…」

 

尽きぬ筈だった強欲の魔物は今、満たされた。それを見届け、痛む身体をなんとか起こしたドルドーニは、本来の目的である一護に向け折れた刃を突き付ける。

 

「な、何やってんだオッサンそんな傷で!?」

 

「何を、だと…?

これがワガハイの本来の目的よ。これで邪魔者は消えた…存分に…ぼうやと闘えるだろう…?」

 

「馬鹿な事言うなよ!?ボロボロじゃねえ…くっ!?」

 

言い訳する一護の喉元に間髪入れずドルドーニの刃が飛び出す。それを天鎖斬月で払うと、折れた刃は更にスピードを上げ、鋭い連撃が一護を狙い始めた。

 

「チョコラテの様に甘いぞぼうや!

君は侵入者(インバソール)!ワガハイはこの城を守る兵士!ならば始末を付けるのは当然の帰結だろう!これもジェーン嬢に任された仕事だからねェ!」

 

「なんで…なんでそんなに必死になるんだ!

そのジェーンってのは…そんなに大切な奴なのか!?」

 

「……哀れな(われわれ)は届かぬと知りながら星に焦がれ手を伸ばす。それが如何に無為な事と知っていても、あの温もりを知ってしまえば最早逃れる事など出来んのだよ。

ぼうや、覚えておくがいい。これより先、姫君(プリンセッサ)を救いたくば、相手取らねばならぬのは藍染殿だけではない……我々の本拠地に攻め入るという事は、虚圏の頂点…奈落の妖星と相見えるという事だ。

…彼女と闘う覚悟がぼうやにあるのかね?」

 

「奈落の…妖星………ッッッ!」

 

 

さァワガハイを斬り給え!

そこまで言えなかった。

 

膨れ上がる霊圧

 

いつの間にかネルを抱えた一護が後ろにいる

 

ドルドーニの胸へ横一文字に赤い線が走った

 

一護が走り出す、ドルドーニは振り向けない

 

赤い飛沫が飛び散って、ドルドーニは床に膝を突いた。

 

 

彼の目には全てが一枚絵のように過ぎ去っていく

 

(全く……見えなかった…か…フフッ…)

 

身体は限界だったが精神はこれ以上無いほど研ぎ澄まされていた。

油断はなかった、慢心はなかった。

ただ、見えなかった。

 

「見事…ッ」

 

虚の仮面を消し、ネルを抱えたまま振り返らず一護は走り去る、血だらけになりながら仰向けに倒れ、ボロボロの天井を眺めながら、意識が遠くなっていくのを感じた。

 

(嗚呼、それでいいのだぼうや。

甘さ(チョコラテ)を捨てろ、鬼になれ。此処より先の連中はワガハイほど甘くはない…)

 

 

 

 

 

……………

 

 

 

 

 

そこかしこで軋むような、砕けるような鈍い音が聞こえてくる。アーロニーロと融合していたこの広間は、彼が死んだ事により形を保てなくなっていた。

もうすぐ此処は崩落するだろう。

 

「……ニ様。

ドルドーニ様…」

 

声がする、死にかけの身で振り返る事すら出来ないが、確かに彼を呼ぶ声が崩れかけの広間に響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

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〜~〜~♪〜♪〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふふっ…ふふふふっ…

 

 

 

 

アーロニーロが死んだ。

あのどうしようもなく弱くて、臆病で、ずっとずっと苦しみから逃げ回っていたあの子が。

私の古い友達で、喰虚に振り回されながら必死に生きてきたあの子が。遂に死んだ。

私はとっても嬉しいんだ。

今まで逃げてばかりだったあの子が、自分の最期と向き合って弱音一つ吐かずに逝った。それが友達として誇らしい。

 

「…第9十刃、アーロニーロ様の消滅を確認。

『反膜の糸』、並びに『虚繭(カプーロ)』予定通り正常に作動しています。ジェーン・ドゥ様。」

 

ロカちゃんから報告を受けて満足した私は立ち上がり、ちょうどエンディングを眺めているピカロ達に向けて言い放つ。

 

 

よーし。じゃあピカロ、お外で遊んでおいで。

不審な人影を見つけたら私かテスラ君達に報告する事!お弁当はみんな持ったかな?

 

「『(《はーーーい!》)』」

 

元気に返事をするピカロ達、次々と宮から飛び出して行って、残ったのは私と、ルドボーン君を除く3人の従属官だけになった。

あ、ロリはめっちゃ酔わせたら「巨乳がなんぼのもんじゃい!」とか叫びながら酒瓶担いで突然出ていって、それをメノリも追っ掛けて行ったので居ません。何処行ったんだろ?

 

まぁいいや(某魔術師殺し並感)

 

今テンション高いんだ私。このノリでザエルアポロの宮にでも突撃隣の虚夜宮してやろうかと思ったけど、霊圧探ったところ生憎侵入者とかち合ってるみたいだし、邪魔するのはよしてあげよう。

ゾマリも多分戦闘中…随分霊圧乱れてるけど大丈夫かなあいつ。

藍染君は計画の最終段階で忙しいから茶々を入れに行くのも悪い気がするし、ラブリーマイエンジェルリリネットたんは現世侵攻組だからその準備中、ハリベルは…この前揉んだばっかだしいっか。

 

 

となると残るはヤミーかウルキオラ、グリムジョー…

となったら行く場所はひとつしかあるまいて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Heyダーリン、遊びに来たぜ!

 

 

「儂らも現世侵攻の準備中なんじゃが?」

 








次回、ゾマリ死す!デュエルスタンバイ!

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