双頭の骸、虚圏に立つ   作:ハンバーグ男爵

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俺は此処に立っている



☆オリジナル技あり、魔改造あり注意☆

…わりといつもの事やんな



十九話 遊び遊ばれ遊び果て 前

そもさん、『完璧な生命』とは一体何か。

絶対的な攻撃力か、何物も通さぬ鉄壁の防御か、はたまた万人を虜にするカリスマか…候補は尽きない。

だが、天才たる僕は2つの結論を導き出した。

 

『再誕』と『継承』

 

1つは邪淫后(フォルニカラス)の真の力、受胎告知(ガブリエール)

対象に僕自身を孕ませ、その霊圧を吸い取ることで甦る受胎能力。この能力のお陰で僕は死を克服し、完全な生命へと進化を遂げる。

死すら自身の循環に取り込む事で永遠の生命となりうる。この身体になってから数百年に渡る永き月日の末、手に入れた僕の最高傑作だ。

 

もう1つは…あの忌々しい女の助言によって思い付いたものだから言いたくはない。

見せるとしたら、それは僕が本当に追い詰められていて、なりふり構っていられない時のみだ。

 

ま、尤も、そんな状況になるなんて事、例え虚圏が海に沈んでも有り得ないけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

「では、100年後までごきげんよう。」

 

そう言って涅マユリは無防備なザエルアポロの心臓へ斬魄刀を突き刺し、刃先を根本からへし折った。

 

ザエルアポロVS涅マユリ、第8十刃の宮で行われた争いは、宮を全壊させるまでに及ぶ。

 

「おい、斬魄刀折って大丈夫なのか…?」

 

ザエルアポロの能力によって軒並み臓物を潰され、息も絶え絶えな石田は呟くが、マユリは一笑に付した。

 

「ハッ、主人を攻撃する斬魄刀など、これぐらいのお仕置きが丁度いいヨ。

これで邪魔者は消えた。ネム、探せ。」

 

「……………」

 

「おいネム…ああ、そうだった。

全く使えん奴め…」

 

マユリの視線の先には、ザエルアポロの受胎告知を受け、ベーコンの様に干からびたネムの姿。

 

 

「仕方ないネ…」

 

 

 

 

 

 

~~突然ですが暫く音声のみでお送り致します〜~

 

 

ジュボッ…

 

「…あっ」

 

ジュブ…ジュブブ…

 

「あぁ…♡あっあっ♡」

 

ジュボボボボッ……

 

「あぁ~ッ♡あああああっ♡」

 

グチュ…グチュ……ジュプンッ

 

「あああああああああああっっっ♡」

 

ジュルンッ…

 

「あぁ…♡はっ…はっ…♡」

 

 

〜~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

「…ふう。」

 

「有難う御座います、マユリ様。」

 

 

「おい待てエエエエエッ!?!?」

 

叫ぶ石田。潰れた内臓に痛みが響くのもお構い無しに彼は心からの叫びを上げた。

それをマユリは心底嫌そうな目付きで睨み付ける。

 

「なんだ、五月蝿い奴だネ。」

 

「今のは何だ!?ナニをしてた!」

 

「決まってるだろう、『治療行為』だヨ。」

 

「嘘つけ!映せないことしてただけだろ!」

 

「ヤレヤレ、童貞滅却師はこれだから…」

 

「どどど童貞ちゃうわ!ぐっは!?」

 

「落ち着け石田、一応俺達内臓潰れてるんだぞ…」

 

同じく内臓を潰された恋次の忠告虚しく、興奮状態の雨竜はギャグ漫画よろしく再び口から血を吐いた。

そんな彼等を見るのに飽きたのか、マユリはネムに命じ、その後無事に恋次と雨竜は身体を(なお)される事となる。

 

 

 

 

 

マユリは崩れ去った第8宮を眺め、いくつか場所を指定しネムに掘り起こすよう命じる。

途中埋まっていたペッシェとドンドチャッカが掘り起こされて一悶着あったものの、マユリは目論見通り、無事に目的の場所を見つける事が出来た。

 

「なんだ…この扉。」

 

雨竜は不思議そうに呟く。そこにあったのはあれだけ大規模な崩壊が起こったにも関わらず、傷一つ付いていない四角い箱の様な部屋と、それに続く扉だった。

 

「やっと見つけたヨ…これで多少なりとも《始祖》の情報があればいいが…」

 

説明する暇もなく、マユリは扉に手を掛けたその時。

 

『僕の研究成果をコソドロとは感心しないね、涅マユリ。』

 

「「「「!?!?!」」」」

 

 

聞き覚えのある声が響いた。

すぐさま恋次は蛇尾丸を構え、警戒態勢をとる。だがマユリだけは、面倒臭そうに扉に手を掛けたまま冷静な口調で応対した。

 

「なんだ、まだ隠し玉があったんじゃないか。ザエルアポロ・グランツ。」

 

ちらりと先程殺したザエルアポロの死体を見る。確かに彼はマユリの作った薬品『超人薬』を摂取し、永劫に等しい苦しみを与えられながらじわじわ死んでいった。正しくは現在進行形で死んでいる筈。

 

『ああ、勘違いしないでくれ。

君達は間違いなく僕を殺した、()()()()()()()()()()。』

 

「…ホウ?」

 

 

パチ…パチ…パチ…とわざとらしい拍手が聞こえてくる。音源は扉に取り付けられたスピーカーからだった。

 

『侵入者諸君、よくぞ僕を打倒した。

と、褒めておいてあげよう。それが如何に無駄な事と知っていようとも、努力は認めないといけないねえ?』

 

「てめぇ…またどっかに生まれ変わってやがったのか!姿を見せろ!」

 

恋次が吼えるも、笑うザエルアポロはそれを無視して喋り出す。

 

『受胎告知は邪淫妃の最高傑作、そして今の僕は…邪淫妃の()()()()双児繭(ヌメラウス)によってたった今産まれた新たなザエルアポロさ。

君達如きにこの能力は不要だと思って使わないつもりでいたんだが…なんとも事は上手く運ばないものだね。』

 

「コピー…だと?」

 

『そうだとも、滅却師。

忌々しいあの女に作らされた研究成果さ。

記憶、戦闘経験、能力や他全てを蓄積した《繭》を 創り、本体(オリジナル)の死をトリガーにして新たに生まれ変わる。』

 

「……何かと思えばクローン程度、下らないネ。」

 

『クローン……?矮小だね涅マユリ。

これは《転生》さ。

肉体の死を超え、精神の死すら超越した僕は更なる高みへと至る。

……ああ、そう言えば忘れていた。

僕が死ぬ事によって発動するものはもう1つあるんだ。』

 

もったいぶって話すザエルアポロ。

その様子から、マユリはいち早く結論にたどり着いていた。

 

扉から手を離そうとするがもう遅い、扉から伸びた触手があっという間にマユリの腕を絡め取り、まるでコンクリートの様に凝固したのだ。

 

「…!」

 

『おおっと、逃がさないよ。

これから起こる出来事を馬鹿の君達にも分かるよう、簡潔に丁寧に説明してあげよう。

その部屋はこれから爆発する。』

 

 

「「「なん……だと…!?」」」

 

 

今明かされる驚愕の真実に唖然とする雨竜と恋次、ペッシェとドンドチャッカがワタワタと大げさに慌てふためいているがそんな事はどうでもいい。

 

『涅マユリ。

君が扉に手を掛けるその部屋には、積み上げた僕の研究成果も、まして始祖の情報も、なに1つ存在しない。

代わりに在るのは特大の《爆弾》さ、この宮を纏めて飲み込む程のね。』

 

「……」

 

『……全く。散々否定しておいて、結局あの女の言う通りになっただなんて…腹立だしい限りだが…』

 

「ハッタリを言っているワケでは無さそうだネ。」

 

『僕はいつだって本気さ。

永年溜めた始祖の研究成果を、ポッと出の死神に奪われるなんて堪らない。君だってそうするだろう?

奪われるくらいなら、諸共吹き飛ばしてしまえってね。』

 

では、さよなら。

 

スピーカーから音声が途切れると同時に、地面が大きく揺れる。震源はあの部屋からだ。

 

最初に異変に気付いたのは、恋次だった

 

「オイ…あの部屋、萎んでねえか?」

 

あれだけの崩落を受けてビクともしなかった正方形の小部屋が、徐々に小さくなっていく。

更に雨竜の足元にあった小さな小石ほどの瓦礫が、ひとりでに動き始めた。それだけではない。部屋を中心に、まるで吸い寄せられるかのように、周り全ての瓦礫がズルズルと動き出していた。

 

「な…なんだ…何が起こって…」

 

「ネムッ!ワタシの腕を切り落とせ、早くしろ!」

 

「……ッ!?承知しました、マユリ様。」

 

ネムの手刀がすかさず触手によって固められたマユリの腕を根本から切り落とし、漸く彼は自由になるが、タッチの差で、マユリの腕ごと白い扉がへしゃげ、四角い部屋が内側から押し潰された。

すぐにマユリは持参した補肉剤(ほじくざい)で失った腕を再生させる。

 

「一体何がどうなってるでヤンス!?」

 

「わからん!分からんが十中八九我々はピンチだ!それも命に関わるレベルのなああああああああ!?!?」

 

「ペペペッシェエエエエエッ!!」

 

軽いペッシェがいの一番に中心に引っ張られ始め、それに気付いたドンドチャッカが必死に彼の手を掴み引き寄せる。

 

「危なかったでヤンスゥ!」

 

「しっ…死ぬかと思った…

だが一瞬チラッと見えたぞ雨竜!

なんか黒い塊があの部屋を呑み込んでいる!」

 

「はあ!?訳がわからないぞ!」

 

更に部屋は小さくなる、サッカーボール程の大きさまで圧縮された部屋はそのまま呑み込まれ、消えてなくなった。

中から顔を出したのは、漆黒の球体だ。光も一切反射しない真黒な塊がそこに鎮座していた。

 

「なん…だ…これは…?」

 

「つうか見るからにやべえ!

涅隊長、逃げましょう!」

 

「何を馬鹿な事を言っている阿散井恋次。

目の前に貴重な材料があるのだ、このままサンプルも取らずに見過ごせるか。」

 

「こんな時まで!?マッドサイエンティスト怖い!」

 

球体が心臓の様に脈動を始め、それに伴い吸い込む力が更に激しくなる。段々と雨竜達の身体も引き寄せられ始めた。

 

黒い球体…強烈な引力…

 

「まさか、ブラックホール!?

ザエルアポロが言っていた『爆弾』はこれの事だったのか!」

 

雨竜の推理は的確だ。

ザエルアポロは、嘗てジェーンから得た残魄玉をトラップに改造し、あの部屋に仕掛けていた。自分の死後、研究成果を荒らす者が現れると悟り、残魄玉による証拠隠滅を企てた。

然してその企みは的中し、こうして宮ごと雨竜達を飲み込もうとしている。

 

「おい、涅マユリ!

逃げないと僕達も巻き込まれるぞ!」

 

「………チッ!仕方ないネ。」

 

「うぉぉぉぉぉぉ吸い込まれるぅぅぅぅッ!?」

 

大量の瓦礫が宙を舞い、強烈な引力が雨竜達を襲う。球体に触れたそばから瓦礫がすり潰され、砕け散る。それを見てドンドチャッカは顔を青くした。

 

「ひいいいい瓦礫がぺちゃんこでヤンス!」

 

「まずいぞ、僕達もすり潰される前に一刻も早くここを離れないと…」

 

「滅却師、仕事を与えるヨ。

これからーーーーーをーーーしてーーー」

 

「なんだって?聞き取れないぞ!

もっと大きな声で…ッ!?!?」

 

吹き荒れる風と轟音によって世界が歪む。

雨竜がマユリに聞き返す声すらかき消しながら、一際大きく球体が震え……

 

 

 

 

 

黒い塊が宮の跡地を飲み込み、弾け飛んだ

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっはっは。

相も変わらず、笑っちゃうくらいの威力だな。」

 

自身の宮が弾け飛ぶリアルタイム映像を見ながら、珈琲を一口含んだ。

 

ザエルアポロ・グランツは死んだ。

新しい僕は嘗てのラボに見切りをつけ、侵入者(コソドロ)ごと吹き飛ばしてやったのだ。

貴重な研究成果?そんなもの、3000回以上ラボを吹き飛ばされている僕からすれば屁でもない。こちとらプロなのだ。

 

…自分で言っててちょっと悲しくなってきた。な、泣いてねえし…

 

「ロカ、連中は死んだか?」

 

「残魄玉の霊圧が入り乱れているので、糸を使っても詳しくは調査できませんが…おそらく全滅したものと思われます。」

 

「そうかい、いい気味だ。」

 

残魄玉の暴走に巻き込まれて生きてはいまい。アレは始祖の力だ、仕留め損ねる。という事もないだろう。正直僕もなんであの時生きていたのか不思議なくらいだからね。

 

「……………」

 

「なんだロカ、言いたいことがあるなら言え。

そんなにまじまじと見るんじゃない。」

 

「いえ…その…とても可愛らしいお姿になられて…」

 

「ああ?」

 

「すいませんすいません!

でも…とても愛らしいです。庇護欲をそそられます。」

 

頬を赤らめながらうっとりとした視線で僕を舐めるように見続けるロカ、鬱陶しい事この上ない。…コイツこんな性格だったか?

 

まあ…この身体では仕方の無い事か…

 

《双児繭》唯一の欠点だ。記憶と経験の完全継承は可能だが、そっちにリソースを使いすぎた。肉体の完全なコピーが生成しきれない。

僕の身体は今、十歳前後の子供と変わらない程縮んでいる。人間の成長を模倣したからか、子供の姿で生まれ変わってしまった。成長するまでしばらくはこのままだ。

 

「あ!写真を撮らせて頂いても良いですか?

ジェーン様と共有したいのですが…」

 

「止めろォ!!絶っっっ対に撮影するなよ!?

さっさとジェーン・ドゥに命令された仕事に戻れ馬鹿!」

 

「はい…」ショボーン

 

心底残念そうにロカは隣の部屋へと去っていく。

冗談じゃない、こんな情けない姿を撮影なんてされてたまるか!もしジェーン・ドゥなんかにこの姿を見られたら……

 

 

 

 

 

…ほわんほわんざえるあぽろ~~…

 

 

『きゃああああああ可愛い!ちびアポロだちびアポロ!』

 

『ちびアポロ君、ご飯はピカロ達と一緒がいい?

カレーにする?ハンバーグにする?

旗立てよっか?』

 

『はーい皆と一緒にお風呂入りましょうねーちびアポロくーん♪

背中は私が洗ってあげるからー!』

 

 

…………………

………………

……………

…………

………

……

 

 

 

 

 

フンヌア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ッ!!?!?(床をのたうち回る)

 

考えただけでも恐ろしい!

きっと僕は自殺するぞ!情けなさの余り死ぬ!

あの女がこの状態の僕を弄らない訳が無い!きっと抱き着かれたり、頬擦りされたり、好き勝手もみくちゃにされて、ありとあらゆる辱めを受けるのだ!現世の本みたいに!現世の本みたいに!

 

「絶対此処から動かないぞ…」

 

決意を新たにする。

テコでも僕はこの『ジェーン・ドゥの宮の地下に作った予備のラボ』から出んからな!絶対にだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう言えば、残魄玉が弾ける直前、中心付近で一筋の青い光が走ったような気がしたが、気のせいだろうか。

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

深い闇の底から浮き上がるような、そんな感覚に襲われた。

 

…私は何をしていたんだったか、確か海燕殿の偽物と戦って…次に現れた男に…

 

「…はっ!此処は…(ごっちん!!)」

 

「「あ痛ったあああ!?!?」」

 

勢いよく起き上がると、何かとぶつかって頭に強い衝撃が走った。い、痛いではないか!

 

「おぉぉ…朽木さん…おはようございます。」

 

「貴方は…花太郎……」

 

「頭の湿布を替えようとしたんですが……急に起きるから避けられなくて…」

 

「むうう…すまぬ。」

 

「いいえこちらこそ…」

 

お互い平謝りして、とりあえず湿布を替えてもらった。

まだ頭に鈍痛が走るが…此処は一体?

私と花太郎は、逆四角錐の形をした黄色い膜に護られていた。

 

「これは…『倒山晶』?」

 

「はい、話すと長くなるんですが…この結界は『ボクが張ったんだよ、おねえちゃん。』」

 

ひょこっと花太郎の後ろから現れたのは、ボロボロのローブを着込んだ子供、その頭には割れた仮面が着いている。

まさかこの子は…

 

「破面の子供…?」

 

『ウン、僕等はピカロ。宜しくね。』

 

彼は小さくお辞儀して、握手を求めた。

思わず手を取ってしまったが、危険ではないのか?相手は子供とはいえ破面だぞ?

 

落ち着いて周りを見間渡せば、真っ暗だった建物は天井が抜け落ちてかなり明るくなっていた。

部屋の中心では彼と同じローブを来た幾人もの子供達と…

 

「兄様…」

 

私の兄、朽木白哉が戦っている。

一体いつから……?

 

「く、朽木さん、覚えてますか?

破面に刺されて重傷だった事…」

 

「…ああ、覚えている。

私は手も足も出ずやられてしまった。この様子だと、私はまた兄様の手を煩わせてしまったな…

というか何故兄様達が此処に!?尸魂界は織姫から手を引いたのでは無かったのか?」

 

そうだ、織姫が私達を裏切り藍染の下へ向かったという情報を受け、瀞霊廷は織姫捜索に見切りを付けた。だから私と恋次は黙って虚圏までやって来たのだ。

……霊圧を探れば、兄様の他にも涅隊長と卯ノ花隊長の霊圧も感じる。遠くにいる為か、()()()()()()()()()更木隊長の霊圧も感じ取れた。

隊長格を4名も動員するなど、総隊長が許す訳がない。

 

「良く分からないですけど、僕達はちゃんと総隊長の命令で虚圏(こっち)に来ましたよ?」

 

キョトンとする花太郎。

下級隊士には殆ど伝えられていないようだ。なら兄様にご質問するのが一番手っ取り早いのだが…

 

『今あのおにーさんはボク達と遊んでるんだから、邪魔しないでよね。』

 

不貞腐れるように、ピカロと名乗った少年は言った。

子供とはいえ、相手は破面。負傷した私と戦えない花太郎では少々厳しいか…ここは大人しくしておこう。

 

兄様は今、戦闘の真っ最中だ。

白い髪をした子供の破面が持つ二本のダガーナイフが高速で振るわれ、兄様の斬魄刀とぶつかり合う。剣戟を交わす度、周囲に金属の音が響いた。

始解もせぬ状態とはいえ、あの少女は兄様と速度で渡り合っている。凄まじい手練だ。

 

それに加え、周りの子供破面達が繰り出しているのは鬼道か!?

あれは破道の四、『白雷』。向こうは破道の三十二、『黄火閃』。多種多様な鬼道が兄様に向けて繰り出されていた。

 

「何故彼等は死神の鬼道を…」

 

『藍染おじさんや市丸おじさんに教えて貰ったよ?』

 

お、おじさッ…

 

『おかあさんからオススメされて皆で練習したんだ。今までこんな面白い事があるなんて知らなかったよ。

ボンってなったりピカってなったり、楽しいよね!

それにボク達にも個性があってさ。

破道の得意な子、縛道の得意な子、無詠唱で使える子、色々居るんだ。』

 

因みに僕は防御系の縛道が得意だよ。とあっけらかんと言ってのけるピカロという破面。

 

 

 

「あはははっ!おにいちゃん強いね!

他の十刃落ち(ぷりばろん)じゃここまでたくさん遊んでくれないんだ。」

 

「子供と戯れている暇はない、そこを退け。」

 

「やだもんやだもん。おかあさんから侵入者さんとは沢山遊んでもらえって言われたし、まだまだ付き合って貰うよ!みんなー!」

 

はーーい!

 

 

縛道の七十九、九曜縛(くようしばり)!!

 

 

発動したのは縛道、『九曜縛』。それが兄様の動きを鈍くする。

この破面、易々と七十番台の縛道を…ってなんだあれは!?明らかに数が多いではないか!

本来なら9つの球体が相手の動きを封じる技だが、先程見えた球体の数は明らかに多かった。

 

『そりゃそうでしょ、9×4は36だよ?』

 

「なん…だと…?」

 

まさかあの子供達は、一人一人が個別に縛道を発動させていたのか…?

 

鬼道の弱点は詠唱中は無防備になる事だ、更に同時に複数の鬼道を使う際には「後述詠唱」という技術が必要になる。 これはかなり高等技術ゆえ、習得するのに並々ならぬ鍛錬を積まねばならない。

だがあの子供達は代わる代わる交互に鬼道を唱え、人海戦術で詠唱のデメリットを潰している。そして同じ鬼道も同時に重複させる事により威力を増していた。

 

たしか瀞霊廷でも鬼道を主に扱う「鬼道衆」なる者達が居て、似たような連携を取っている所を見た気がするが、この子供達には遠く及ばないだろう。

 

「えいっ!」

 

「ぐッ…!?」

 

九曜縛で動きが鈍った兄様へ少女のダガーナイフが肩を切り裂く。

隊首羽織が裂け、鮮血が舞った。

 

「あはは!もっともっとー!」

 

《縛道の六十三、鎖条鎖縛》

 

〝縛道の六十一、六杖光牢〟

 

休む間もなく、霊子で編まれた鎖が兄様を雁字搦めにし、その上から光の杭が打ち込まれた。

 

「やっちゃえみんなー!」

 

 

君臨者よ、血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ

 

蒼火の壁に双蓮を刻む

 

大火の淵を遠天にて待つ

 

 

まるで合唱のように、ピカロ達が同時に詠唱を始め、青い炎がそこらじゅうに灯った。

あの詠唱は…まさかッ!?

 

「……ッ!」

 

「せーのっ!」

 

 

 

 

破道の七十三、双連蒼火墜!!

 

 

 

 

次の瞬間、10人分の双蓮蒼火墜が兄様に向けて炸裂した。大爆発が建物を揺らし、視界が煙に包まれる。私達は結界に護られていたので何ともないが…

 

「く、朽木隊長ぉ!?」

 

「兄様っ!」

 

 

 

 

思わず叫んでしまったその時、桜色の風が煙を切り開く。

煙が晴れるとそこには、卍解《千本桜景厳》の花弁を漂わせる兄様の姿が。

良かった、多少火傷は負っている様だが、直撃する寸前に卍解を発動させて爆発の威力を殺いだようだ。

 

「すごいすごい!

それ、きれーな技だね。おにいちゃん。」

 

「…今日はよく褒められる日だな。」

 

「おかあさんが言ってたよ、死神って《オサレ》な戦い方をするんだって。

おにいちゃんもなの?」

 

「オサレはよく分からないが、私は私の掟の為、戦うだけだ。」

 

「おきて…?何それ、良くわかんないや。」

 

(わらべ)が理解するにはまだ早い。」

 

「も~!子供扱いして!」

 

床を勢いよく蹴って、飛び出すピカロ。

千本桜の花弁が集まり、撃ち落とそうと束になって彼女を襲う。

 

それをピカロは全て叩き落としていた。腕が見えなくなるほどの連続攻撃が見舞われ、ギャリギャリと耳障りな音を立てながら千本桜が散り散りになっていく。

 

「破道の七十八、斬華輪!」

 

ダガーナイフの描いた軌跡が光の帯になり、そこから生まれた鬼道の刃が兄様に襲い掛かった。

 

距離が近い…!だが兄様ならこの程度の鬼道など…

 

「…ッ!」

 

そう思った矢先、鮮血が兄様の脇腹を染めた。何故だ、確かに距離は近かったが、防御出来ない速度ではなかった。千本桜を自分の傍まで回せば十分防ぐ事が出来たはずなのに。

 

「…?…どーんっ!」

 

「…ッ!おっふゥ!?

 

…聞いたことの無い声が兄様から聞こえた。

まあ、そうなるのも仕方ないか。突然ピカロが兄様のどてっぱらに飛び込んで抱きついたのだから。

 

兄様に抱きつくなんてちょっと羨まし(ゲフンゲフン)…いやなんでもない

 

 

「なんの真似だ…」

 

「えへへー、やっぱり。

そのきれーな花びら、あんまり自分の近くに寄せられないんだ。

近づけ過ぎると自分まで斬れちゃうもんね。」

 

「……!」

 

「この距離なら斬れるかな…わッ!?」

 

ピカロが飛び退いた場所を一瞬遅く千本桜が通過した。

 

「あっぶないなーもー!」

 

「『無傷圏』と呼んでいる。

自身の刃で手を切ったなど、笑えぬ話だからな。」

 

兄様の千本桜は広範囲を切り裂く斬魄刀。威力が絶大だが、使い勝手を誤れば自身を傷付けてしまう。故に刃を通さぬ範囲を設定して自傷を避けているのか…流石兄様だな!

 

「最終勧告だ、そこを退け。童を嬲る趣味は無い。」

 

「やーだよっ、私達はまだ満足してないもん!」

 

ピカロはべえーっと舌を出してこれを拒否。

 

「…なら、仕方無い。」

 

 

再び無数の鬼道が兄様を狙って放たれた。

あの詠唱は赤火砲…それに大地転踊…雷吼炮まで撃てるのか!?

 

「…『断空』。」

 

凄まじい音が鳴り響き、それらは全て兄様の断空によって阻まれる。

 

「あー!それずるい奴だ!」

 

「狡くない、立派な鬼道だ。」

 

ピカロは姿勢を低くし、床を蹴って一足飛びに無防備な兄様へと飛びかかった。ダガーナイフはまっすぐにその首筋へ向けられている。

…速い!また無傷圏の中へ入る気か!?

 

ふと気付く、さっきまで兄様の周りを舞っていた千本桜の花弁は何処にも無かった。部屋の中央には斬魄刀も持たぬ無防備な兄様が居るだけだ。

このままでは直撃してしまう…!

 

 

散陣(さんじん)・千本桜景厳』

 

 

突如、地面から千本桜の刃が吹き上がる。

 

 

「きゃああああああっ!?!?」

 

「気付かなかったか、私の足下に千本桜の花弁が舞落ちていた事に。

童とて破面。忠告はした、せめて一息に葬ってやろう。」

 

桜色の瀑布がピカロを襲い、そのまま周りの子供達を巻き込んで渦を巻き始めた。

一通り暴れ回った花弁が再び兄様の下へ戻ってきた時、周りには身体を切り刻まれ、血にまみれた子供達が床に転がっているのが見える。

子供の姿をした破面だから余計惨いな…兄様と戦っていた少女は特に傷が酷く、消えてしまいそうなのか、身体から赤い霞の様なものが滲み出していた。

 

「あぅ…痛い…痛いよぉ…」

 

「…済まない。苦しませずに逝かせてやるつもりだったが、加減を間違えた。

お前達は鋼皮を纏っていたのだったな。」

 

「まだ…まだだよ…

ピカロ(わたしたち)はまだ遊び足りないって言ってる…

まだ…おにいちゃんと遊ばなきゃ…わたしは満足しないもん…」

 

「喋るな、苦しみが増すだけだ。」

 

血を滲ませながら少女が起き上がり、兄様に向けてダガーナイフを突き付ける。が、限界が訪れたのか、刃が届くことはなく、糸が切れた人形の様に膝から崩れ落ち、彼女の霊圧は完全に消えてしまった。

 

それにつられるように他のピカロ達が血霞の様に消えていく。

 

 

 

終わりか、後味の悪い戦いだったが、これで先に『そんなわけないじゃーん』

 

 

 

なん…だと…?

 

 

そう言えば此処にピカロが一人残っていた!

今まで結界の中から静観を決め込んでいた少年は立ち上がり、兄様に向けて言い放つ。

 

 

『ボク達はまだ遊び足りないよ。

もっと遊ぼう、死ぬまで遊ぼう、遊び疲れて眠くなるまで、おにいちゃんに構ってもらうのは止めないよ。』

 

それがボク達(わたしたち)のやりたい事だから

 

 

なんだ?今、この子の声が二重に聞こえて…

 

結界が解除されていく。少年は、あの少女と同じ小さなダガーナイフを腰から抜いて、呟いた。

 

 

 

ーーー遊べ、《戯擬軍翔(ランゴスタ・ミグラトリア)

 

 

 

そこかしこから霊圧が溢れ出し、さっきまで倒れていた子供達が一斉に起き上がる。その背中には虫の羽を模した4枚の翼が付いていて、超音波の様な耳障りな音が鳴り響いた。

勿論、兄様がボロボロにしたあの少女も元気に起き上がり…

 

 

 

 

「おにいちゃん、あ・そ・ぼ♪」

 

 

 

 

 

満面の笑みで、兄様の背を刃が貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

子供ってのは純粋だ

 

あらゆるものに興味を持ち、スポンジみたいに経験を吸収して、自分の力に変えてしまう。

その行動は予測不可能回避不可、目を付けられたら最後、満足するまで付き合わされる。

『無邪気』って言葉があるでしょ?

(よこしま)な心が無いと書いて無邪気。あの子達に悪意は一切無い、あの子達はただ()()()()()()だけなんだ。

 

鬼ごっこでもいい、かくれんぼでもいい、おままごとでもなんでもいいから構って、遊び相手になって欲しい。

なんなら戦闘ですら、あの子達にとっては『遊び』になるだろう。その為に最適なピカロ(自分)をあの子達は作り出した。

 

死神達はピカロとの遊び方に気付くかな?

それとも気付かないまま死ぬまでピカロにせっつかれるのかな?

まあ、連中が死のうがどうでもいい話だけどさ。

 

 

 

第2宮を追い出されて、私は織姫ちゃんの所にでも顔を出そうかと虚夜宮の中をとぼとぼ歩いてた。たまには瞬間移動だけじゃなくて徒歩で移動しないとね。

 

……ダーリンったら。私は『今一番やりたい事』を言っただけなのに、それ聞いた途端目の色変えて私を追い出すんだもん。やんなっちゃうね。

妙なやる気に満ち溢れて、変なのー。

 

 

 

どーすっかなー、藍染君トコにでも冷やかしに行ってやろうか。どーせ私は呼ばれるまで暇人だし…いや暇破面か。

 

 

「ジェーン・ドゥ。」

 

廊下を歩いてると唐突に声がしたので振り返る。そこにはウルキオラがいつもの仏頂面で立っていた。

 

なんだよミスター無表情。

 

「お前が予見した通り、グリムジョーが黒崎一護と交戦した。」

 

あっそ、良かったじゃん。

あの通路の先にアイツ置いて正解だったね。きっと負けると思うけど、相手が黒崎君なら殺されはしないかな。

 

「何故そう言いきれる。」

 

織姫ちゃんから話を聞いたからね。

正義感の強いザ・一般人みたいな子だよ黒崎一護君。

彼の目的は『襲撃』じゃなくて『潜入』だ。無用な戦いは避けるだろうし、グリムジョーを殺してまで私達の警戒を引き上げるメリットが無いもの。

 

 

「…そうか。」

 

 

…で?なんで私は喉元にアンタの斬魄刀を突きつけられてるのか教えてくんない?

 

「いつもの無駄に派手なリアクションはしないんだな。」

 

えっ期待してた?ゴメンもう一回やり直そ、出川〇朗も裸足で逃げ出す脅威のリアクション芸見せてあげるよ。

 

「却下だ、そして誰だ。

貴様の行動が理解出来ん。何故俺達を誑かす、何の意味がある。虚圏に侵略を許した今においても尚、貴様の行いには何かが欠けている。

それを問い質すまで刃は引かないぞ。」

 

『藍染様の不利になるのなら俺が貴様を殺す』でしょ

 

「…ッ!?」

 

声が被った。

そう言うと思ったよ、ウルキオラ。

アンタは一番藍染君にご執心だもんね。

 

刃を掴む。ウルキオラは力を込めている様だけど、こんな程度で私は切れないし、私のパゥワの前では無力なのだよふはははは。

 

 

……フフ、怖いか?

 

「何を言っている。」

 

隠さなくてもいいよ。藍染君が現れて、私と話して、変わっていく他の連中を見て、最近だと織姫ちゃんに会った。

虚圏は今どんどん環境が変化してる。それに付いていけないんだ、ウルキオラは。

 

戸惑ってるんでしょ。

 

「感情の無い俺に戸惑いなど…」

 

自覚が無いだけだよ、そのうち嫌でも理解するさ。

目先しか見えない愚直な虚でも、立ち止まって、一歩下がって顔を上げれば、夜空が見えるし星も見える。その余裕さえあれば、生き方だって少しは変わるってもんさ。私はきっかけを与えただけだよ。

勿論、アンタにもね。

 

「……俺は…」

 

だんまりを決め込むウルキオラ。

はいっ、おねーさんの超親切なアドバイスはここまで!ここから先は別途料金になります。

 

まあ、なるようになるさ。今は余所者を排除しようね。

 

()()()()()()()

 

あーそれと、私は藍染君と敵対してもないし、懐柔されてる訳でもないよ。私ってば仏のように優しいからね、困ってる友達見てると助けずにはいられないタチなのさ。

 

 

「それは無いだろう、お前に限って。」

 

急に辛辣になるなクソぁ!

 

 




後半へ続く(まる○並感)




オリジナル技
『散陣・千本桜景厳』
地面に伏せた花の刃を巻き上げ渦を作り出す。「吭景」とは違い、多方向からの斬砕ではなく、渦に巻き込んですり潰す技。惨い。
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