流石に一話3000文字は少なすぎると思ったのでもういっちょ。
〇月×日、月がきれい。
今日も砂漠は真っ白わーるど、何も起きない。ただ、少しだけ周りの気配の数が増えた気がする。
いつも通りその辺の仮面被った鹿っぽいのをとっ捕まえて食べる。味気ない。料理とかして食べたいね、でもこの身体じゃ無理かな…
散歩をしていたらなんかピーピー言ってるのを見つけた。角の長い牛の頭骨が印象的な子だった。踏み潰すのも可哀想だったので触手でひょいっと持ち上げて頭に乗せてあげる。最初は狼狽えてたみたいだったけど、そのうち慣れたのか大人しくなった。今では一緒にその辺の仮面鹿を捕まえて食べる仲。やっぱり味気ない、ケーキ食べたい。
〇月△日、此処って雨降らないの?
おっどろいた。いつものように2人でご飯を食べてたら、牛頭くん急に成長して喋りだしたんだもん。なんか急に礼儀正しくなって、自分を「ルドボーン・チェルート」と名乗った。彼曰く、私に餌付けされてるうちに上位存在へと進化したから喋れるようになったらしい。
恩返しがしたいとしつこいものだから、「私の世話役になれ」って言ったら跪いて喜んでた。もしかしてこいつドMなのでは?今私の心に一抹の不安が過ぎる。
牛くん改めルドボーン君は「自分の劣化分身を無限に生み出す」能力を持ってるらしい。
試しに使ってみてもらうと、骸骨の分身が増えること増えること。やっといてもらって何だけど正直邪魔だったので、超重力砲で纏めて吹き飛ばした。「主の力の一端を垣間見た!」とルドボーン君は泣いて喜んでた、引くわ。
結局、再び髑髏樹の分身達を呼び出してルドボーン君に身体を磨いてもらった。私ってば綺麗好きだからね。
×月□日、相変わらず砂漠は殺風景
ルドボーン君曰く、私のいるこの世界は《
それはさておき…私は悪霊だったのか。説明して貰ったけどギリアンやらアジューカスやら、正直専門用語ばっかりでちんぷんかんぷんなんですが。
まあいいや、ぶっちゃけ強さとかどうでもいい…
「本来戦いを欲し、強さに執着する筈の最上級大虚である貴女様が『強さに興味が無い』とは…流石は虚の本能を超越した上位存在であらせられます。このルドボーン感服致しました、改めて忠誠を誓わせて頂きます。」
仮面の奥から見えるくらい目を輝かせながらルドボーン君なんか言ってる、凄まじい誤解だ。解くのも面倒だしもういいや、ご飯にしよ。
晩ご飯は大きい仮面猿の虚だった、鹿よりマシだけどやっぱり味薄い…ハンバーグ食べたい…
△月〇日、砂嵐は起きるのね。砂漠だもんね。
ルドボーン君と一緒に過ごし始めてからかなりの時間が経った。ルドボーン君はあの後も進化を何度が経て、《
ここで彼からの疑問が一つ、私の胸に突き刺さった。
「貴女様のお名前はなんと申せばよろしいのでしょうか?」
私の名前、である。
生前の記憶ではちゃんと名前を持っていたはずだけど、もう思い出せない。なので私は考えた末に、「ジェーン・ドゥ」と名乗る事にした。
ジェーン・ドゥとはたしか前世では海の向こうで使われていて、「女性の身元不明遺体」の意味を示すスラングだったと思う。因みに男ならジョン・ドゥだ。
死んだ私には丁度いいや。
かなり不吉だけど、もう死んでるからへーきへーき。死人は気楽なもんですわ。
今日、虚圏に
今日のご飯は豪勢に熊型虚のお肉にしよう!
□月〇日、死体の雨が降るよ(真顔)
なんて日だ…今日は沢山の虚の群れに襲われた。いつもの有象無象と違い、相手はなんだか統率が取れていて、集団で襲い掛かってきた。まあ私のイカ装甲はそんじょそこらの攻撃で抜けるほどヤワではないので、纏めて今日のお昼ご飯になりましたけどね。ルドボーン君に調べてもらったところ、「虚圏の神」と名乗る虚が勢力を拡大しているため、見境なく暴れ出す者が増えたんだとか。物騒な世の中になったなあ…
思えば昔、誰も居なかっただだっ広い砂漠も、虚がどんどん増えていき、今となっては大小様々な魑魅魍魎が跳梁跋扈する魔境へと変わり果てたものだ。最近知ったんだけど虚圏の地下には森もあるんだって、いつか行ってみたいね。
それと、最近アーロニーロ・アルルエリという虚とお友達になった。彼は〝
そんな自分の能力にコンプレックスを持ってるらしく、妙に自信がなさそうなので、かっけぇじゃんって褒めたら呆気に取られた顔されて、ちょっと照れてた。可愛い奴め。
☆月△日、雨!雨はまだ!?雨ェーッ!!
猛烈にお風呂に入りたい。
いやこんな砂漠で風呂とかコイツ何言ってんのm9(^Д^)プギャーとか思われそうだが、私は真剣だ。真剣と書いてマジだ。
ルドボーン君が毎日磨いてはくれるものの、女の子たるもの水で洗ってさっぱりしたい。私はイカだけど。
ただ、この虚圏では水はかなり貴重なものである。虚は基本飲み物は飲まないし、共食いで強くなる事しか考えてないから、必要としないゆえ扱いがぞんざいだ。虚圏、生活レベルがクソザコナメクジさんなのだ。
ルドボーン君に何かいい案はないかと相談して、分身出して散策してもらったところ、なんと水を生み出す能力を持った虚がいるという情報を持って帰ってきた!
素晴らしい!なんて素敵な能力なんだろう!
多分戦闘に特化した使い方するんだろうけど、水を生み出せる時点で私の願いは叶ったも同然だ。早速その人にお願いして、身体をキレイキレイして貰おう!話がわかる人だといいな~♪
☪︎月☆日、虚圏は…青かった…白いけど
ルドボーン君の案内に従って、たどり着いた先で出会ったのはコロニーの様な大きな施設だった。なんでもこの辺は「虚圏の王」に反発する者達が集って身を寄せているらしい。
コロニーの傍まで近付くと、虚にしてはやけに人間らしい姿をした女の人が3人のお供を連れて現れた。皆かなり険しい表情をしていて、敵意剥き出しだ。
流石にこの厳ついイカボディで話すのは相手を更に警戒させてしまう、なのでルドボーン君に代弁してもらう事に。
…ルドボーン君、超話上手いね。物腰丁寧だし、分かりやすいし、中間管理職とか向いてるんじゃない?
納得してもらえたのか、渋々私の身体を洗ってもらえることになった、やったぜ。たしか名前はティア・ハリベルと言っていた。金髪褐色爆乳ドスケベ衣装という男の子の夢を詰め込んだ様な見た目をしてる。
すごいえっちだ…この人本当に虚なの?え、ヴァストローデには人間の姿に近い女性型の虚もいるんだ、へえ…(自分の姿を見ながら)な、泣いてねえし。
ハリベルさんの異形化した腕から出る高圧水流が長年溜まった骨の隙間のしつこい汚れまで綺麗に洗い流す。虚圏に生まれて初めてのシャワーに私ってば夢心地。
ああ~心も身体も洗われるんじゃ~^^
きれいさっぱり洗ってもらった御礼に、頼み事を聞いてあげることにした。そしたらハリベルさんは、このコロニーが虚圏の神率いる虚の群れに狙われていて危険だから手を貸してほしい。とのこと。
もっちろん承諾した私。でもお風呂上りで余り汚れたくないので、敵が陣を構えている場所を教えて貰い、その方角に向かって超重力砲を口からおもっきりぶっぱした。
遠くに見える砂漠の山が3つほど崩れ去って、私の直線状に見えるものは何も無くなったので、ルドボーン君の分身に確認してもらったところ、しっかり敵陣を貫通して、陣を構えていた砦ごと敵を消し飛ばしたらしい。やってやったぜ。
でも発射の時に舞い上がった砂でまた汚くなっちゃった…またお願いね、ハリベルさん。
ルドボーン君、「お見事です、ジェーン・ドゥ様。」だって、褒められちゃった。照れちゃうなあ…えへへ。
…ん?ハリベルさん、なんで白目剥いてるの?お供の子達もなんで泡吹いて倒れてるの?
疲れたのかな…?
☆☆☆☆☆
コロニーに向かって巨大な虚が接近していると、見張りの誰かが叫んだ。
馬鹿でかい霊圧の塊が、このコロニーに向かってやって来ていた。噂の「神」とやらか、それともその使いの者か。どちらにせよ、この中で1番強いのは私だ、なら出向いて応戦しなければならない。コロニーの中には力の無い虚達も大勢居る、せめて彼等の逃げる時間位は稼ぐ事ができれば…などと、この時は愚かしくもそんな事を考えていたのだ。
一目見て絶句した。
2本の首を持つ巨大な虚、強固で刺々しい骨の鎧に全身を覆われ、常人なら一瞬で発狂する程の膨大な霊圧を惜しげも無く発するそれに面と向かった瞬間、思わず膝を突きそうになった。
私が出ると言うと必ず着いてくると言って聞かなかった後ろの者達も、恐怖で肩で息をしているのが分かる。これは埒外の化け物だ。
「逃げろ」と、私の中の本能が耳を突き破る勢いで泣き叫んでいた。実際、こんな化物と戦闘になったら数秒と持たないだろう。否、そもそもそれは闘いではなく蹂躙だ。私達は蟻のようにあっけなく踏み潰される。それで終わりだ。
だんだんと呼吸が浅くなり、吸った息を吐けない。見える明確な死のイメージ、磔になった様に動かない私の身体、今までの出来事が走馬灯のように流れていく中、巨体から飛び降りてこちらに歩み寄る虚の姿を見た。
恐らくアジューカスなのだろう。彼が私達の様子を訝しげに観察し、怪物へと耳打ちすると、たちまち奴から発せられていた霊圧が消えていき、身体に自由が戻ってきた。
危なかった。後ろに居たスンスンなどは白目を剥いて気をやってしまう1歩手前だったろうに…
話の通じる彼、ルドボーン曰く、このコロニーに居る「水を操る能力」を持った虚に、あの怪物は用があるとのこと。
それは私だ。何を突きつけられるのだろうか、全く身に覚えがないが、報復の為にやって来たと考えるのが妥当だろう。
ここで下手にはぐらかせば、奴はコロニーの者達に危害を及ぼしかねない。そうなる訳にはいかないのだ。
意を決して怪物の前に立ち、私がその虚だと宣言した。
「本当!?いやー見つかって良かったあ!
君に頼みたいことがあってねー!」
瞬間 耳を 疑う
その巌のような姿からは似ても似つかぬほど年頃で可愛らしい女の子声が私の耳に届く。
これが、私ことティア・ハリベルと謎の虚ジェーン・ドゥの最初の出会いとなった。
この後、無造作に放たれた極大の虚閃を目撃したスンスン達は結局気絶した。
続くよ……多分