双頭の骸、虚圏に立つ   作:ハンバーグ男爵

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シゴト…イソガシ…

あーオバロ並のチート転生してー







二十一話 奈落の星、見上げる蝙蝠

 

 

激戦に次ぐ激戦。

『転界結柱』によって移し替えられた偽物の空座町で死神と破面が互いに血を流し、戦いを繰り広げている。

総隊長、山本元柳斎重國の放つ炎によって隔離された藍染達を背に、♯2(セグンダ・エスパーダ)バラガン・ルイゼンバーンは設えさせた骨の椅子に腰掛けながら、配下が負けて逝くのを見届けていた。

4本の柱を破壊する為放った刺客は全て死神達に葬られ、連れてきた6人の従属官も皆倒された。

 

 

深く溜息を吐く

 

 

ちらりと周りを見渡せば、♯1の小僧と♯3の小娘も隊長を相手取り戦っている。此方に加勢する余裕などないだろう。

目の前には小柄だが、先程配下の1人ジオ=ヴェガを始末した娘と、その腰巾着の様なブ男の2人。好戦的な目付きで此方を睨み付けていた。

 

「……帰ったら披露宴だとアレだけ騒いでおったのに、馬鹿共が。」

 

配下は王の為に在る、故に彼は散っていった者達への同情など欠片も浮かばない。だが、この事を彼女が知ったらどう思うのだろうか。死んだ部下の1人、シャルロッテは彼女と特に仲が良かった。奴が死んだと知ったら、どんな顔をするのだろう。

そして何よりも、自分の婚礼を我が事の様に喜び、祝った者達だ。

 

あの子達にも式に並んで欲しかった

 

彼女はそう言うだろう。それを考えると、少しだけ申し訳なくなる。

 

「王として、夫として…か…」

 

「考え事をしている暇があるのか?」

 

考え事に浸っていたその刹那、背に回り込んだ砕蜂の回し蹴りが飛んでくる。

「先ずは一撃」、その程度の気概で攻撃を見舞うが、次の瞬間砕蜂は目を見開いた。

 

(なん…だ…?これは…ッ)

 

砕蜂の放った蹴りは、バラガンに当たる直前に威力が減衰し始め、目に見えて動きが鈍くなっていく。

 

「ふん。」

 

ノロノロと動く脚など容易く掴み取られ、逆に砕蜂はビルの壁まで投げつけられて激突の衝撃でコンクリートを破壊した。

何が起こったのか分からないのは彼女だけでは無い、一連の流れを眺めていた大前田も目をぱちくりさせている。

砕蜂は白打の達人だ。実戦を重ね、経験を積んだ彼女は、戦闘の先を読む事にも長けている。涅マユリなどが薬で再現しようとするそれを、彼女はある程度感覚で感じ取る事が出来た。それでも、何故蹴りが止まったのか理解が追い付かない。

明らかに瞠目する砕蜂を眺めながら、バラガンは嘲るように笑い、その重い腰を上げたのだった。

 

 

「…仕方あるまい。

儂自ら殺してやろう。来い、蟻共。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はーい始まりました。

チキチキ虚夜宮防衛戦最終章、ウルキオラ・シファーVS黒崎一護!

場所は虚夜宮天蓋の真上、実況は毎度おなじみ皆のお姉さんジェーン・ドゥと!

 

「えっ!?えっ!?い、井上織姫の提供でお送りします…?」

 

いえーいどんどんぱふぱふー!

 

「わ、わ~…」

 

えーテンション低ーい。

織姫ちゃんが一護君の戦ってるところ見たいって言うからわざわざ天蓋の外まで連れてきてあげたんでしょー。

さあ侵入者黒崎一護君の戦いもいよいよ大詰め、死神代行は果たして囚われのお姫様を助ける事ができるのか!?

コンディションは両者共に良好に見えますが…どうですか織姫さん。

 

「え…良く分からないですけど…取り敢えず黒崎君が勝つと思います!」

 

 

おおーっと此処で黒崎一護君の勝利を確信し大胆にも愛の告白!因みに私も彼女の恋路を応援しちゃうのでお前は完っ全にアウェーだぞウルキオラ!

 

……二人とも戦いに夢中で聞こえてないようですね、実況を続けましょう。

 

「愛の告白だなんてそんな……

っ黒崎君危ない!」

 

ウルキオラ選手、天蓋の外なのをいい事に帰刃だァー!大人気ないぞー!

知ってる織姫ちゃん?十刃にはそれぞれ死の形があってね、アイツは『虚無』なんだよってこの子全く話聞いてませんね!ボコられる黒崎選手に首ったけですわ!ていうかこの子実況向いてないな!

 

 

「これが破面の第二解放だ…この姿は藍染様にもお見せしていない。」

 

 

ウルキオラ選手、ダメ押しとばかりに第二解放を発動。ただでさえ辛気臭い姿が更に暗くなり、悪魔っぽい見た目に変貌した。

虚化の仮面も限界に達した黒崎君は為す術もなくボッコボコにやられて殺される直前、

飛び出そうとした織姫ちゃんより先に翠色の槍がウルキオラの身体を射貫く。

 

「…ネリエル・トゥ・オーデルシュヴァンクか。」

 

「彼をこれ以上傷付けないで、ウルキオラ。」

 

「その霊圧、まさか…ネルか…?」

 

ネリエル…?ああ確かハリベルより前の♯3(トレス)だった破面ね。

彼女が言うにはノイトラに不意打ちで殺されかけて、霊圧が歪んで幼児退行してしまっていたらしい。そのまま行方不明扱いで十刃からも外されてたんだけど、虚圏の濃い霊子を少しずつ吸収して、漸く元の身体に戻れたんだってさ。

 

突如乱入したネリエル、そのまま黒崎君を守りながら戦闘を始めた。

流石元♯3、型落ちの破面とはいえ第二解放したウルキオラと互角に張り合ってる。

つか重奏虚閃(セロ・ドーブル)だっけ?強いなアレ。ウルキオラの黒虚閃(オスキュラス)呑み込んで打ち返しちゃったよ。

お互い解放状態で、力は拮抗していると思ったけどネリエルの方は必死だ、少しずつ削られるみたいに霊圧が段々不安定になってきてるし。多分解放状態が長続きしないんだろう。織姫ちゃんどう思うってわぁお何だこの子すっげえネリエル睨みつけてる。

 

「誰、あの女…」

 

お、おう…嫉妬も程々にね?

 

「はっ!?し…嫉妬じゃないです!」

 

目がやばかったよ?瞳孔開いてたし、今にも暗黒面(ダークサイド)に堕ちそうな顔してた。

そんな事話してる間にウルキオラの雷霆の槍(ランサ・デル・レランバーゴ)がネリエルの翠槍と衝突して大爆発が巻き起こる。取り敢えず織姫ちゃん飛ばされないように抱き寄せる振りをしながら胸を揉んどいて、さーあの二人はどうなってるかなーっと。もみもみもみ…

 

 

……あ、これは織姫ちゃんにお見せできないやつだ。

 

 

「…何故奴を庇った、黒崎一護。」

 

「いち…ご…?」

 

ウルキオラの問いに答える者は居ない、そこにはウルキオラと、霊圧使い果たして子供に戻ったネルと

 

胸に風穴が空いた一護君の姿があった

 

多分あの爆発の後、ウルキオラの不意打ちを対応しようとしたネリエルがネルに戻ったのを見て、咄嗟に二人の間へ割って入ったんだろう。結果、ウルキオラの一撃は一護君の身体を貫いた。

 

べしゃり、と力無く一護君が地面に落ちてきた。尋常じゃない出血量、それを見ちゃった織姫ちゃん、叫びながら駆け寄ってく。事象を拒絶する能力を使ってるけど、あの傷は間違いなく心臓を抉り抜いてるし、ウルキオラの撃ち込んだ霊圧が邪魔をして、中々傷が治らない。

程なくして、彼の霊圧が消滅した。

 

 

…あーあ、一護君死んじゃった。

 

 

 

 

 

「黒崎君っ!!黒崎くんッ!

そんな…そんな…いやああああああああっ!!」

 

泣き叫ぶ織姫ちゃん、ちょっ…煩くない?

死んだくらいで大袈裟だなあ。

あ、そっか。そう言えば人間ってこんなもんだったね、忘れてたわ。

ほらほらウルキオラ、これがお前に足りないものだよ。織姫ちゃんを見習いたまえ。

 

「知らん、奴が勝手に割り込んで…」

 

 

 

 

 

瞬間、虚圏が揺れた。

 

 

 

吹っ飛ばされるウルキオラ

 

代わりに私の前に立つ影

 

なにこいつ、虚?

 

殴りかかって来たので腕を掴む、そこそこに力強いな。足場の天蓋割れそうじゃん。

あ、ちょっと待って。その手に持ってる刀、もしかしてこいつ一護君?あ~言われてみれば霊圧似てるわー。死んだから虚になっちゃったのね。

死神の格好残したまま仮面と虚化なんて随分思い切ったイメチェンですこと、それがイマドキのファッションなんだね(ガリガリガリッ!!)ええええええッッッ!?

ちょっと何すんの、思っきり食らったわ!私じゃなかったら身体が斜めに真っ二つじゃない!首傾げんな白々しい!

おい!その頭の光はなんだ!虚閃か!?虚閃なのか!?そんな濃い虚閃天蓋に向けて撃ったら下の虚夜宮が滅茶苦茶になるだろがい!

 

咄嗟に虚閃の光球を空いてる手で掴んで発射直前に私の虚閃を零距離からぶち込んで握り潰した。結局指の間から漏れた虚閃が天蓋を傷付けてしまったよ。

 

吼えるイメチェン一護君、どんどん霊圧が上昇し始めたと思ったら姿が消えて、背中に強い衝撃が走る。気付いたら視界がぶれて天蓋の上をゴロゴロ転がってた。

どうやら一瞬で背後に回られて蹴られたらしい。

 

 

「ジェーンさん!」

 

我に返った織姫ちゃんが叫んだのが聞こえたので顔を上げると黒い斬撃が私を何度も斬り付けてくる。

 

速すぎて避けられない、このくらいじゃ傷なんて付かないけどいい加減鬱陶しい…なっ!

刀身を掴んで動きを止めた。一発蹴られたからね、お返しだよっ!

腹を思いっきりヤクザキックで蹴飛ばして、今度は一護君が宙を舞う。抉れた腹が高速で再生していくのがチラッと見えた、あの子超速再生まで使えるのか。

 

再び吼える一護君、コレ完全に暴走状態ですね!

 

 

こまったなあ、ウルキオラは吹っ飛んだまま帰ってこないし。このまま一護君ほっとくと織姫ちゃん達はともかく下の虚夜宮にまで被害が出そう。ん~…

なんかもうめんどくさいなあ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こいつ殺すか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆

 

 

 

「……ッッ!?!?」

 

思わず身を震わせる。

 

なんだ、これは。霊圧なのか?

 

本気の更木隊長の放つ、暴風の様な激しい霊圧では無い

 

嘗て総隊長の見せた、研ぎ澄まされた焔の如き霊圧でも無い

 

心臓を握り潰される様な重圧と、全身に突き刺さる悪寒。間近に迫る抗いようのない『死』。そう錯覚してまう程凶悪で、絶望的なナニカ。

ピカロを探し追いかける脚も止めて、その場に思わず蹲る。隣を走っていたはずの花太郎は後方で私と同じく蹲り、耐え切れず吐いているようだった。

 

 

蹲ったまま身体の力が抜けていく。意識が、身体が、()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……ひゅっ…う…ぁッ…」

 

呼吸が私の意思に反してどんどん浅くなっていく。吸った息が吐けない、身体が言うことを聞いてくれないのだ。

 

 

「ひっ………っ…っ!…………ひっ…」

 

 

からだがうごかない

ぁ……わた…し……………死……

 

 

 

 

 

…ちゃん

 

お…ちゃん…

 

 

「おねーちゃん!」

 

 

「……ッ!?ぷはぁッッ!!」

 

薄れ掛けた意識が少女の声によって覚醒し、飛び起きた。私は…

 

「もー!おかあさんの霊圧浴びたぐらいで死なないでよー、まだわたしたちと遊んでる途中なんだから!」

 

先程まで感じていた霊圧はもう影も形も無い。頬を膨らませてぶーたれる彼女をみていたら、だんだん呼吸も整ってきた。

 

「い、今のは一体…?」

 

「上の方でおかあさんが怒ったのかなあ…でも一瞬だったから本気じゃないと思うよ。」

 

ピカロ達の母が怒った…?怒っただけでこれだけの霊圧を放てるものなのか!?

まるで瀑布の様な霊圧の奔流。間違いなく並の死神など超え、隊長格すら凌駕している。もしかしたら総隊長と同格…いやそれ以上の…

 

『起きてよーおにーちゃーん!』

 

ビシビシビシビシッ……!!

 

気を失っている花太郎が少年ピカロに往復ビンタされている。みるみるうちに真っ赤になる花太郎の頬。ちょちょちょっとやり過ぎではないか!?

 

「……はっ!ここは…」

 

『やっと起きたー!

ほら、あっちにピカロ(ボク達)の気配がするよ。行こ行こ!』

 

その小さな身体の何処からそんな力が出ているのか、少年ピカロは花太郎の襟首を引き摺って動き出す。

 

「ぐえええええ首!首がぁ…」

 

『じゃあ早く歩いてよー。』

 

「おねえちゃんももう歩ける?」

 

「あ、ああ。もう大丈夫だ、だから花太郎みたいに引き摺るのは止めてくれ…」

 

 

 

 

 

先程の霊圧の件もそうだが、虚圏の様子がおかしい。藍染が現世へと消えた後からなのだが、なんというか…虚圏全体を取り巻く雰囲気が一変した気がするのだ。

何が原因なのかは分からない。

言いようのない不安に駆られながらも、私は少女につられ歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真っ黒な塊が弾けて、野球ボール大の虚弾が幾つも音を越えて襲い掛かる。それは嘗て一護だった虚の身体に無数の風穴を空け、痛みを感じた彼は声にならない雄叫びを天蓋に響かせた。

 

「うわ、超速再生ってそんな状態でも発動すんの?身体蜂の巣みたいになってんのにさあ…」

 

ぐじゅぐじゅと生々しい音を立てながら、空いた穴が塞がっていくその姿を見ながら呆れ返って呟くジェーン。

 

「お願いジェーンさん、黒崎くんを殺さないで!」

 

「え~んな事言っても、こうも暴れられちゃコッチも困っちゃうよ。

因みに彼、もう死んでるから。だからあんな姿になったんで…しょ!」

 

必死で頼む織姫に返事を返す片手間に、振りかかる斬魄刀を腕で受け止めた。足下のめり込んだ天蓋がその威力を物語っている。

腕と刀がぶつかり合ってギリギリと火花を散らす様子は一周回ってシュールだ。ジェーンの鋼皮だからこそ無傷でいられるが、並の破面なら今の一撃で腕を失ってもおかしくない。

 

ウルキオラに殺害され、胸に大きな風穴の空いた黒崎一護は、理由は不明だが虚となり、こうしてジェーンに牙を剥いている。

斬魄刀『天鎖斬月』を片手に、顔を完全に覆う虚の仮面と角を持つ一護の虚は、彼女からしてみれば()()()()で、どう対応したものか半ば扱いに困っていた。初めは速攻で殺すつもりだったのだが、必死に懇願する織姫が子犬みたいで可哀想だった為、やむなく殺害以外で拘束を試みてはいるが…

 

「この子、ヤミーなんて比じゃないくらい強いんだよなあっ!」

 

天鎖斬月を防御する腕を振り払い、再び虚弾を広範囲にばら撒く。一瞬で何百もの虚弾が飛び交う中、虚は大きく後ろに飛び退いて、残像を残しながら1発ずつ丁寧に躱しきった。

 

「へえ、当たると死ぬって分かるんだ。力強いだけじゃなくて頭も良いんだね。

う~ん…一護君、せっかく虚になったんなら虚夜宮(ウチ)に来ない?

今なら3食オヤツに昼寝付き、もれなく第0十刃の称号が付いてくるよ!」

 

多分彼女なりの妥協点なのだろう。

へらへら笑うジェーンの問いに、これが答えとばかりに黒い柱が虚から立ち上る。

放たれたのは大質量の黒い斬撃。解放状態の十刃が放つ『黒虚閃』と同じエネルギーの塊が、刃に乗せて放たれた。

 

「あれーお気に召さないー!?

何が不満…あ、分かった。オヤツはクッキーじゃなくてショートケーキがいいの?

贅沢だなーもー。」

 

そんなもの始祖の前では屁でも無い、とばかりに黒い月牙天衝を片手で受け止め振り払うジェーン。だが更に斬撃の数が増えていく、どうやらこれもお気に召さなかった様だ。

 

「おお!?明らかにご機嫌斜めだ…

こっちも譲歩に限界があるんだけど…分かった!

織姫ちゃん!織姫ちゃんで童貞捨てさせてあげる!これでどうだ!」

 

「ちょっとー!?」

 

全く関係ない所でとばっちりを食った織姫が悲痛な叫び声を上げた。

途端に虚の霊圧が膨れ上がり、黒い風が周囲に乱れ飛ぶ。

 

また斬撃が飛んでくると、ジェーンが構え「織姫ちゃんには悪いけど、これでダメならもう本気で殺しちゃうしか無いかなー。」とか思っていた。

 

 

 

 

 

「……………………」

 

「………………あれ?」

 

 

 

虚が止まった

 

 

 

 

 

 

「く、くくく黒崎くんのエッチぃッ!!」

 

 

 

 

顔を真っ赤にした織姫の悲鳴を機に、雑念を振り払うかのような仕草でかぶりを振った虚が再び激しく暴れ出す。その一瞬の隙を突き、何処からともなく飛んで来た雷の槍が虚の角を直撃した。

欠けた角の先から霊圧が虚閃となって漏れ出して、天蓋を更に傷付けていく。

 

「おっせーよウルキオラ!何処ほっつき歩いてたの!?」

 

「天蓋に沿って下まで転げ落ちていた。」

 

なんとなしに言ってのけるウルキオラだが、その身体はボロボロに欠け、以前の姿は見る影もない。

 

虚が呻き、霊圧による暴風が周囲を破壊していく。

一際大きく咆哮した後、仰向けに倒れた虚はその姿を崩し始め、殻の様に剥がれたその中から本来の姿をした黒崎一護が気を失った状態で現れた。ウルキオラの空けた胸の穴は超速再生によって完治され、ほぼ無傷の状態だ。

 

「黒崎くん!黒崎くん!」

 

「い''ち''こ''~!」

 

駆け寄る織姫。彼女に抱かれていたネルも、一護の無事を泣いて喜び涙と鼻水がダラダラ垂れて、かなり残念な感じになっている。

ああ、一護の死縛装が鼻水と涙と涎でぐちゃぐちゃに…

そんな彼女達を眺めながら、ジェーンはしたり顔で呟くのだった。

 

「決まり手は童貞、か…」

 

「お前は何を言ってるんだ。」

 

「いや間違ってないじゃん。

それで、見たとこ随分ボロボロだけどアンタの方はどうなのよ?」

 

「…動くだけなら問題無い。」

 

ウルキオラは破面が本来失っているはずの超速再生能力を唯一持つ十刃。脳と臓器以外の部位を一瞬で復元できるが、虚に吹き飛ばされた衝撃で内蔵を酷く損傷してしまったらしい。身体の一部が灰になり消えかかっていた。

そんな彼を見ながらジェーンは微笑み、自身の傍に黒腔を開く。

 

「いやあ助かったよ、あのままだと織姫ちゃん泣いちゃう所だったし。

虚圏マニュアル通りにしか動けない破面部門第1位のウルキオラ・シファー君もやる時はやるんだね。」

 

「なんだそのこの上なく不名誉な称号は。」

 

「お、いいねいいね。

その調子で感情出してこう。やっぱ一護君と戦って正解だったでしょ?

ところで、一護君と戦い始めてからずっと、藍染君から通信入ってて煩いんだよ。

だから私もそろそろ現世行ってくるね。」

 

「……そうか。」

 

「私が居ない間の事はルドボーン君に任せてあるから、彼から()()()とか色々聞くように。

じゃ、あと宜しくぅ。」

 

フーラーの奴連れてこないとなー、等と面倒臭そうに無駄口を叩きながら、ジェーンは穴の奥へと消えていった。

 

(……先を読め、奴のやろうとしている事はなんだ?藍染様の計画に加担し、何故意図的に侵入者達を誘導する?その指し示す先は…)

 

残されたウルキオラは思考を巡らせながら、倒れた一護とそれを介抱する織姫、ネルを遠巻きに眺める。

一護はかなり消耗しているようだ、これでは起きるまで暫くかかるだろう。

 

 

「…成程。奴は初めから、虚圏の事しか考えていない。」

 

 

ある結論に至った彼は未だ騒ぐ織姫達から背を向けて、ジェーンが示したある男の下へ歩み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺に足りないもの、不要と判断し切り捨てたもの。

黒崎一護との剣戟の最中に漸くその端くれを掴むことが出来た。あの女は初めから、これを気付かせるために黒崎一護を差し向けたのか…?

 

それは、奴らの胸を割けばその中に有ると思っていた。

 

頭蓋を砕けばその中に有ると思っていた。

 

あの女も、人間達も、容易くそれを口にする。

 

 

ネリエルに有って、ジェーン・ドゥに有って、井上織姫、黒崎一護に有って、俺に無いそれ

 

 

 

そうか、これが

 

 

心 なのか

 

 

 

空を見上げれば、明けぬ夜空に煌々と輝く欠けた月と、その隣で瞬く妖星が虚圏を照らしている。

 

 

 

 

 

 

壊れかけの我が身だが、その位の余裕はあったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

「……やあ、漸くお出ましかい。」

 

 

燃え盛る業火で囲われた檻の中、藍染惣右介はそう呟いた。

側仕えの市丸ギンは感情の読めない薄ら笑いを深め、東仙要は疲れたように溜め息を吐く。

 

恩人の為

 

友人の為

 

妻の為

 

決して口には出さないが、彼女の登場する意味を知る者達は皆静かに奮起し、同時に安堵した。

 

 

 

対して、異常な霊圧と共に突如として開かれた穴に死神達は瞠目する事になる。

 

 

 

 

 

 

巨大な扉が開く

 

数多の大虚と、謎の巨躯を引き連れて

 

場に似合わぬ鼻歌を歌い、緊張感の無い微笑みを浮かべながら

 

奈落の星が、やって来る

 

 







お ま た せ




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