双頭の骸、虚圏に立つ   作:ハンバーグ男爵

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初 投 稿 です








二十三話 沈め掻き伏せ、虚ろの沼に

死神と破面の戦争、造られた空座町の一角にて。

 

幾つも谺響する空気の弾けるような音と共に響く剣戟の火花、時折走った黒い線が建物を抉りとっていく。

霊子の足場で空を翔け、常人の目では追いつく事さえ不可能な超高速戦闘を繰り広げているのは護廷十三隊八番隊隊長、京楽春水と、第1十刃(プリメーラ・エスパーダ)コヨーテ・スターク、リリネット・ジンジャーバックの2名だった。

 

「…ッ参ったねえ、こんなに速いなんて聞いてないよ!!」

 

「その割にはのらりくらりと躱してるじゃねえか…」

 

薄ら笑う京楽の眼前に一瞬で突き付けられたスタークの銃口が火を吹く。ほぼ反射で手にする斬魄刀『花天狂骨』で銃身を薙ぎ、鈍い音と共に射線を僅かにずらされた黒い弾丸は京楽の被る藁笠に穴を開けた。

 

銃口から吐き出される虚弾は何らかの加工が施してあるらしく、死神である京楽でも捉えられない程速い。幸い直線にしか飛ばないため射線を見極め紙一重で避け続ける事は可能だ。

 

距離を置いた途端、京楽の動いた後を追うように建物に穴が空いていく。背中にあった二階建ての家屋は随分と風通しが良くなり、程なくして倒壊した。

 

「ったく。遠間ならちったあ殺りやすいかと思ったが、全然避けるじゃねえの。

やりにくい。」

 

「いやいや…ソレほんとなんなのさ。

超濃度に圧縮した霊子の塊を飛ばしてるのかい?現世にある銃弾みたいだよ。」

 

「前にリリネットと一緒に現世へ連れ出された事があってな、色々参考にさせて貰った。

ゲーセン、結構面白いんだぜ?特にタイム…何とかっていうガンシューティングが気に入った。」

 

「キミら結構俗っぽいね!?

ぼかァ…インベーダーゲームやったのが最後だよ。現世の駐在任務も暫くやってないからねえ…」

 

「隊長サンは多忙なんだな。偶には息抜きしないと持たねえぞ?」

 

「耳の痛い話だ…よッ!」

 

弾丸と剣戟が交差する。

 

殺し合いの最中に相手と会話など正気の沙汰では無いのだが、それは互いの実力が()()拮抗している証に他ならない。

いつも飄々とし、どんな時でもマイペースを心がける京楽であったが、この時ばかりは内心焦りを浮かべていた。

 

(隙の大きい虚閃ばかりかと思ったけど、あの黒い弾丸…

恐らく圧縮させた虚弾か何かなんだろうけど、兎に角速いのが厄介だ。)

 

第二解放し一回り大きくなったスタークの銃から放たれるのは町を軽く抉りとる程の黒い虚閃、そして恐ろしく弾速の速い黒い虚弾(バラ)。当たる面積は狭いが圧縮された分その貫通力は並では無い。防御系の鬼道でも容易く防ぐ事は出来ないだろう。

現に開戦時、リリネットの放った虚弾に対して浮竹は縛道の八十一『断空』を使い防御を行おうとしたが、無数に降り注ぐ虚弾の質量を前に隊長格の霊圧をもってして生成した壁も呆気なく崩れ去ってしまった。

 

(それに…花天狂骨(この子)の機嫌、悪いんだよねえ。いつもはもっと『遊び』たがるんだけど、今じゃ何かに怯えるみたいに大人しく引っ込んじまってる。

奴さん、あの姿になってから霊子の増幅も自由自在らしいし、ボクが卍解して道連れなんてのも通用しなさそうだ。)

 

尸魂界に二振りしかない二刃一対の斬魄刀、『花天狂骨』特殊な始解、卍解を有する稀有な力を持っている。

総隊長や十番隊隊長の様な圧倒的な面制圧力は無いが、一度術中に嵌めてしまえば自分も相手も逃れる事が困難。所謂、搦め手が得意なテクニカルタイプだ。故にほぼ無限に増え続ける霊圧でゴリ押しするスタークとは相性が悪い。

多対一で不意が突けるような状況ならまだしも、一体一(サシ)の勝負となると圧倒的に不利。

 

それ以外にも彼が卍解を使わないのには諸々の事情がある訳だが、此処で語る必要はない。

 

ちらり…ともう一方の破面(リリネット)と戦う相棒、浮竹十四郎の方へ視線を動かしてみる。

 

 

 

 

…………………………

 

 

 

 

「わ、わ…わッ!」

 

「うらあ逃げんなオッサン!」

 

チュガガガガガガッッ!!

(リリネットのガトリング砲が毎分4000発の勢いで浮竹に向かって黒虚弾(バラ・オスキュラス)を撃ち出す音)

 

「その物量は反則だろう!うわわわわッ!?」

 

「ええいまどろっこしい!

その斬魄刀鬱陶しいんだよ吸ったり出したりチョロチョロ避けやがって!こうなったら…

フォルム、チェーンジッ!!

 

 

 

ジャコン!ガキンッ!!ガシャガシャ……ガッシャーンッッ!!

 

 

 

「い、今どうなったんだ!?明らかに質量保存の法則無視した変形しなかったかい!?」

 

「うるせえー!

第1十刃、超弩級砲塔魔銃リリネット様舐めんな!」

 

「銃じゃない!絶対に其れは銃じゃないぞ!!

列車砲的な何かだ!」

 

「食らえェ、《流星黒虚閃(メテオーラ・セロ・オスキュラス)》!!」

 

「うおおおお空から光が落ちてくるううううッ!?!?」

 

 

 

 

 

 

…………………………

 

 

(えぇ~~…)

 

なんだアレは。リリネットの持つガトリング砲が物理法則を超越した変形をしたと思ったら空から大量の虚閃が降ってきた。何を言ってるのか分からないだろうが京楽も訳が分からない。これには魔女量産機でお馴染みの白い害獣も苦笑いである。

流石にこれは予想外なのか浮竹も双魚理を振り回しながら何とか逃げ続けていた。

 

ただ1つ、言える事は…

 

(浮竹には悪いけど、アッチ担当じゃなくて良かったなぁ…)

 

京楽は割と心の底から思ったそうな

 

「はぁ〜参った参った。」

 

 

先程までとは違う、明らかな殺意をもって飛来するスタークの魔弾を紙一重で躱し続けながら京楽は一人ごちた。

 

 

 

その時

 

 

 

 

 

 

 

 

『 』

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ッッッ!!!?!」」

 

突如京楽を襲う背中に突然氷柱を突っ込まれたような悪寒と、心臓が縮む感覚。

永きに渡って死神としてやってきたが、これ程ハッキリと『恐怖』だと実感したのは何時ぶりだろうか。

ハッと我に返り、敵であるスタークを見るも彼も同じ様に動きを止め、戦闘中なのにも関わらずある一点を凝視している。

 

 

 

こことは離れた空座町の一角で、異変(それ)は既に起こっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

『私の…やりたい事?』

 

ああ、そうじゃ。

始祖の骸よ、何故貴様は死神と手を組む。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、何故今になって藍染に手を貸すか。

 

貴様がその気になれば一瞬で死神を壊滅させる事も可能であろう

 

貴様が腕を一振りすれば、その悉くを塵に還す事も容易なのは刃を交えた儂が一番知っておる

 

 

一人でどうとでもできると言うに、何故他者を巻き込むのか。何故誰も彼もを関わらせようとするのか。

 

『そんなもん決まってるでしょ。

虚圏とダーリンの為だよ?』

 

 

 

……………………何て?

 

 

 

『わーお初めて見たよそのマヌケ顔、皺だらけでもちゃんと表情筋って動くんだね。』

 

机から身を乗り出し両手で頬を摘んでくる馬鹿を掴んで席に戻し、再度疑問を投げ掛けた。

 

儂と、虚圏じゃと?

 

『そうっ!

破面(この姿)になってから色々考えさせられることが多くてね。

虚圏、このまま放置するの不味いし。ダーリンは藍染君に負けて意気消沈してるし。どーすっかなーって考えてた。』

 

腕を組みながら思案する仕草をするジェーン。

おい、ボソッと『バラガンは時代の敗北者じゃけえ…』とか呟くのやめろ。無性に腹が立つ。

 

『藍染君は虚圏の事なんて通過点としか考えてないみたいだし、死神が攻めて来たら色々引っ掻き回されそうだしさ。

十刃は相変わらず自分勝手で、もーみんな後先考えずに行動するからお姉さん困っちゃうよ。』

 

要するにこの女は藍染惣右介が現世侵攻した後、支配者の居なくなった虚圏をどうするか憂いていたらしい。

 

『だからあ。身体は虚、心は(プラス)な私が一肌脱ぎましょうってね。』

 

…ぷっ、お前が整とか。

 

『あっ、絶対いま心で笑ったなー!?』

 

ぷんすかと分かりやすく怒りながらも、ジェーンは茶菓子を頬張った。

 

『藍染君は例のれーおーとかいうのに首ったけだしね。近いうちにここから居なくなるにしても、虚圏にこれだけの施設を作っておいて放置するの勿体ないじゃん。

だから連中が消えた後、私たちが全部貰う。

都合のいい事に藍染君によって虚圏は殆ど統一されて、組織化もできて、オマケに虚夜宮なんてどデカい城までくれたんだもの。使わない手はないっしょ?』

 

『死神達が消えた後、虚圏は懲りずにまぁた荒れるでしょうね。

なんせ私達は悪霊の群れなんだし、イキった馬鹿が現れるのは目に見えてる。そこでダーリンの出番ですよ!

 

どデカい城(虚夜宮)にドーンと構えて!

 

十刃に協力させながら!

 

ワシが王やぞって我が物顔で統治すれば!

 

虚圏は楽々再統一完了!なんせ私達は虚圏で殺傷能力の高い上から10人だからね、戦闘になっても余裕余裕。虚の虚による虚の為の大帝国は向こう千年は安泰だ!Q.E.D!!

どうよ?パーフェクトでエクセレントなプランでしょう?がはははは、我ながら才能が恐ろしいな!

大丈夫!既に8番の変態と1番のボッチには了承取ってあるし、他の連中も説得(物理)して従わせるから!』

 

貴様…まさか虚圏にもう一度“国”を作る気か?

 

儂が聞くと、こっちを向いたまま一瞬固まってキョトンとしたジェーンが頷いてくる。

 

『そうだよ?

虚圏に秩序を敷いて、統治する王を立てて、虚を統率する。勝手な奴には罰を与えて、賢い子には褒美を上げて、いつまでも続く大帝国を築く。

人間なら100年持たないけど、寿命の無い私達なら未来永劫この世界を治めていられるよ。

もう布石は打っておいたから。

私のしたい事はこの身体になってから1ミリだってブレてない。

 

“大切な人と死ぬまで一緒に居る事”

 

その為ならどんな手段も選ばないしどんな妥協も許さない。不都合も悶着も困難も厄介事も、すべからく徹底的に排除して私はバラガン・ルイゼンバーンを虚圏の王にする。

貴方にはその器があるんだもの。』

 

『そうすれば死ぬまで一緒に居られるよね?』

 

テーブル越しにずいっと身を寄せて、ジェーンの顔が視界いっぱい映る。

思わず喉が鳴った、何時も暗いと思っていた奈落の瞳はいっそう底の無い沼の様に澱んでいた。

 

 

『あ、勘違いしないで欲しいんだけど死神や十刃の皆と仲良くなったのは将来使い捨てにしてやろうとか打算的な理由じゃないよ?

仲良くした方が楽しいし、私のコミュ力は53万だから自然と友達が増えていくだけ。これも人徳…いや虚徳?のなせる技かな。』

 

ぬへへ…と、得意顔で喋り続ける奴の表情から邪気は一切感じられない。

 

…こやつは何なのだ。

童の様に自由奔放を貫き、時にあの藍染ですら頭を抱える様な沙汰を起こしておきながら、『儂の為』じゃと?

他者を気遣う虚など居らん。いや、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()がヴァストローデなのだ。

怨嗟の只中にて尚己を見失わず、あまつさえ他者への気配りまでこなしてみせる奴は…

 

 

本当に虚なのか?

 

 

…いや、此奴は、この娘は、違いなくこの世界の“神”なのだ。

世界の維持と己の願望が入り交じり、歪んだ価値観と欲望がジェーン・ドゥの原動力。

 

それが奈落の星の『やりたい事』

 

理解した瞬間、思わず身が震えた。

神に選ばれたという悦びが儂の中を満たし、奴の為ならなんだってしてやろうという強い決意が芽生えてしまう。

ああ、理解した。これが〝依存〟か。

虚しき我々には決して得られぬ満足感を与えられ、沼に嵌るが如く堕ちていく。そうなってしまえばもう以前の状態になど戻れるはずもない。

棄てられぬように、喪わぬように、無意識の内に女神の為に全てを捧げる信奉者へと変えられるのだ。

 

そして儂も、そう成ってしまった

 

暗い瞳で無垢な笑顔を向ける此奴と向き合って

 

成っても良いと、思ってしまったのだ

 

 

 

『……と、言うわけで。

ダーリンにはぜひぜひ頑張って貰いたい訳ですよ。分かった?』

 

『………………』

 

『あ、あれ?

ダーリン?バラガンさーん?ご機嫌如何?もしかして寝てる?いや痴呆がもう…』

 

『まだボケるか、阿呆が。』

 

『なーんだ起きてんじゃんか紛らわしい!

その髭抜くぞ!』

 

『ええい止めんか、儂のチャームポイントに手を出すな!』

 

 

髭を掴もうと迫る馬鹿女神を必死に引き剥がしながら、儂は悦びに打ち震える。

ジェーン・ドゥは儂のものだ。虚圏で最も強く、最も偉大な女神は今、儂だけを見ている。

他の連中になど振り向かせるものか。

女神から直々の寵愛を受けたのならば是非も無し、バラガン・ルイゼンバーンは〝王〟として虚圏を治めねばならぬ。

 

 

其れが、其れこそが王たる儂に告げられた神託なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

空座町、上空

 

砕蜂の放つ卍解、《雀蜂雷公鞭》がハッチの拵えた結界の中で炸裂し、重い爆発音が大気を揺らす。

中に閉じ込められ、至近距離から大質量弾を受けながらもバラガンは自身の能力によりその威力を削ぎ、辛くも生還を果たしていた。

 

「おのれ…赦さん…赦さんぞ蟻共が…ッ!」

 

呻くバラガン。髑髏の頭蓋は欠け、自慢の大斧も衝撃で粉々に砕け散った。しかしまだ瞳の炎は消えてはいない。

彼を中心に広がる死の息吹(レスピラ)が瞬く間に周囲を飲み込み老い朽ちていく。

 

「ッ!?まだ戦えるのか!」

 

「アイツ不死身かよぉ!?」

 

崩れ去っていく町から必死に離れる死神2人を見ながら、バラガンは嗤う。

 

「小さい小さい小さい小さい小さいィッ!」

 

死の息吹がハッチに狙いを定め、猛スピードで襲い掛かる。ハッチは咄嗟に仮面を出し強化された鬼道で防いだ。

 

「小賢しいわ!」

 

が、荒れ狂う死の波が容易に障壁を削り取る。

 

「儂に向かって虚の真似事とは、身の程を知るがいい!我こそは〝大帝〟バラガン・ルイゼンバーン!

唯一にして絶対の、虚圏の王だ!」

 

遂に障壁が穿たれ、空いた穴から漏れ出た死の息吹がハッチの右手を掠めた。

老いの力はじわじわと侵食し始め、指先からどんどん朽ちていく。

 

「有昭田鉢玄!」

 

「フハハハハハハッ!

この世界の中で儂の力は絶対、それ以外の事柄は全て等しく小さき事。

至上の力を持つこの儂の支配の下に有る事こそがこの世界の有るべき姿なのだ!

拮抗する力の中に、平等は生まれぬ。

儂には貴様らの命も蟻の命も、等しく同じに映っているぞ……ッ!?」

 

勝ち誇ったように笑うバラガンは息も絶え絶えに額から脂汗を流すハッチを一瞥し、気付いてしまった。

 

「貴様…右腕をどうした」

 

ハッチの右腕、第二関節から下がごっそり消えて無くなっている事に。切断面は止血の為なのか結界で覆われていた。

 

「……差し上げマシタ。」

 

「何…をッ!?」

 

ハッチの指す先はバラガンの腹部、その直後彼のローブがボロリと剥がれ中から無くなった筈のハッチの右腕が覗く。

死の息吹によってボロボロと崩れ去る一歩手前の、腕が。

 

「『匣遺(はこおくり)』…どうやら成功したみたいデスネ。」

 

「きっ…貴様…ッ!

自分の腕を結界で切断して儂の腹の中に転送したのか!?」

 

「……アナタの力が唯一絶対なラ、アナタ自身もその力には敵わないハズ…

なんの確証もない賭けでしたガ…その読みが外れなくて良かったデス。」

 

『老いの力は鬼道すら侵食する。』

戦闘中バラガンが豪語したとおり、右腕を枯らし尽くした死の息吹は次の獲物を求め、近場にあったバラガンの身体を内側から侵食し始めた。

 

「ずっと不思議に思っていまシタ。

アナタの能力に触れた者は皆老い朽ち果て塵となる、ならば何故骨の姿である彼は塵にならないのでショウ。

そこで仮説を立てまシタ、〝彼は自らの体表に老いの力を退ける何らかの別の力を張り巡らせている〟と。

それならバ、普段触れることの無い身体の内部に力を送り込めばあるいは…と。

而して、読みは当たっていたようですネ。」

 

たとえ本人であっても容赦無く老いは侵攻し、どんどん腹の穴が大きくなっていく。

ハッチの機転が功を奏し、このままバラガンの全身が朽ち果ててこの戦いは終わる。

 

しかしバラガンは諦めなかった

 

「雄々オオオオオッ!!」

 

徐にバラガンは残っていた左手で腹の結界を掴み取り、握り潰す。そしてあらん限りの霊圧を腹の周りに込め、無理やり老いを封じ込めようとしていた。

 

「認めぬ…認めぬ認めぬ認めぬぞッ!!

儂は女神に選ばれし虚圏の大帝!このような所で終わっていいハズが無い……否ッ!」

 

「終わって堪るものかアアアッッ!!!」

 

その身を削り、更に溢れ出す霊圧。ビリビリと大気が揺れ、その顔は髑髏であるというのに、バラガンの鬼気迫る気迫は勝利を確信していたハッチ達すら呑みこんだ。

 

「なっ…」

 

「なんつー霊圧だ!隊長格すら超えてねえか!?」

 

「なんという執念…ッ砕蜂サン!構えてくだサイ!

彼はまだ………」

 

 

ガオンッ!!

 

 

「「「ッッ!?!?」」」

 

 

瞬間、三人は呆気に取られる。

腹が穿たれたとはいえ、まだバラガンの身体は半分程度は残っていたはずだ。

なのに、無い。

瞬きをした一瞬のうちに、バラガンの首から下が消し飛んでいた。

それに1番驚いたのは他でもない、バラガンだ。

 

「…これ…は…」

 

「頑張り過ぎだよ、馬鹿ダーリン。」

 

もはや欠けた髑髏の頭だけになり、落ちていくバラガンを抱き留めたのは他でもない。

 

始祖の骸だった

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

「……貴様か、ジェーン・ドゥ。」

 

「…………」

 

「おい、なんで無視する。コラこっち見ろジェーン・ドゥ。」

 

「……つーん。」

 

「おーい、聞いとるかー?もしや儂より早く痴呆が来たかー?」

 

「あ〜聞こえない聞こえな〜い!」

 

「チッ………………助かったぞ、マイハニー。」

 

「……!!!はぁい♡よく言えましたあ〜♡」

 

 

よく喋るしゃれこうべ…もとい死にかけのマイダリーンを愛おしそうに胸に抱えて始祖は朗らかに笑う。

というかあの状態でも喋れるのか…と死神達は破面の底知れぬ体力に驚いていた。

まあ流石に首だけになっても元気に喋れるのは虚圏広しといえどバラガンくらいのものだろう。

 

「先の虚閃は貴様の仕業か。

老いに蝕まれる儂の身体のみを消し飛ばしたのだな…」

 

「ミスって胴体全部ふっ飛ばしちゃった、焦ってたんだから許してよ。

いやむしろこんな可愛いしゃれこうべが生まれて結果オーライなのでは?商品化して現世で売る?商品名は『おしゃべりルイくん』で…」

 

「貴様、この状況でよくそんな悠長な事が言えるな…」

 

夫婦漫才を繰り広げる2人を他所に、大前田は首を捻っていた。

目の前の、首元に『5』の数字が刻印された破面はどうやらバラガンを助けに来たらしい。だがお互いが「ダーリン」「マイハニー」と呼び合うように、どうやら2人は夫婦のようだ。

 

(でもあのジジイは2番で女の方は5番だろ?数字は下なんだから砕蜂隊長なら楽勝なんじゃね?)

 

護廷十三隊二番隊副隊長大前田希千代、安定の舐めプ思考である。

十刃は数字の早い順に強くなっていく、という情報を事前に聞いていたからこその楽観視であったが、前回のラブ達の様に少しは怪しんで欲しいものだ。

未だに戦場に居るとは思えないほど悠長なおしゃべりを繰り広げる二体の十刃を眺めながら、大前田はちらっと上司である砕蜂を見る。視線に気付いた砕蜂はふんっと鼻を鳴らした。

 

「首の数字…成程な、アレが日番谷の報告にあった始祖の虚というヤツか。」

 

バラガンによって朽ちるのを避ける為、自ら切り落した左腕は簡単な止血は施したもののまだ痛む。が、新たな敵が現れたのなら是非も無い。

 

「ん…でぇ?

そこの饅頭みたいな子がダーリンを負かした訳だ。」

 

「いや儂にトドメ刺したのお前じゃろ。」

 

「ハイ黙る!」

 

「フゴッ!?」

 

髑髏の顎を無理やり閉じる。

……閉じた時なんか妙な音が聞こえた気がしたが気にしたら負けだ。

 

「え〜っと、確か鬼道めっちゃ上手いんだよね。藍染君が言ってたよ。

そっちの小さい子は隠密機動…?って部隊の隊長で、隣の子は副隊長かな?」

 

「……」

 

案の定、死神達の情報は筒抜けである。

まあ当の隊長格が3人も離反していれば漏洩は免れないか。

 

「あ、君の斬魄刀じゃ私を殺せないから止めといた方がいいよ?」

 

雀蜂を発動させ、隙を伺う砕蜂にジェーンは笑顔で釘を刺す。

 

「…ッ!」

 

一瞬のうちに後ろへ回り込み、バラガンの口を塞いでいるため武器も持たず無防備なジェーンの首へと鋒を押し込んだ。

 

ガリガリと耳障りな音が響き、雀蜂の刃がジェーンの肌を虚しく滑る。

 

「なっ…刺さらないだと!?」

 

雀蜂の《二撃決殺》は対象に傷を負わせる事によって発動する能力、傷が入らなければそもそも能力が発動しないのだ。

始解状態の雀蜂、小太刀にも満たない小柄な刃ではジェーンの鋼皮に傷を負わす事すら敵わなかった。

 

「さ、刺さんねえって…

砕蜂隊長の斬魄刀だぞ?始解とはいえ隊長格の技だぞ!?なんで傷すら入らねえんだよ!」

 

「それだけ砕蜂サンと5番の彼女の霊圧に差が有る、という事デスネ…」

 

「チィッ…!!」

 

流石に分が悪いと悟ったのか砕蜂は瞬歩で再び跳躍し、大前田達の下へと舞い戻る。

 

「お、速いねー。

掴もうと思ってたのに逃げられちゃった。

じゃ、あとは私がやるからダーリンは先に帰ってて。

ロカちゃんの所に送ってあげるから、早く治して貰ってよね。事後処理がまだ残ってんだから。」

 

「……ああ、分かっておる。」

 

「……ぁ!」

 

「…?」

 

言い終えたジェーンは最後に髑髏のみとなったバラガンをもう一度抱き締め、恋人に愛を囁くように優しく耳元で呟いた。

 

「敗北者じゃけえ……♡」

 

「やめやめろォッ!」

 

どうもシリアスなムードが続かない。

突如開かれた黒腔がバラガンを呑み込み、砕蜂達の前にはジェーンだけが残される。

ちらっと目が合ったハッチは思わず身構えた。

 

 

「いやー焦った焦った。

まさか自分の力に消されかけるとはねえ、この私の目をもってしても見抜けなかったよ。

つーか鬼道ってなんでもありかよ!狡くない!?」

 

「…昔は良く卑怯者と言われましたヨ。」

 

自嘲気味に笑う。

ハッチこと、有昭田鉢玄は元『鬼道衆』。

斬魄刀を使用せず、鬼道と縛道のみに特化した特殊部隊の副隊長だった。斬り合いが華の死神の戦いとしては邪道である。そのため、尸魂界在籍中は一部の部隊(主に喧嘩馬鹿しかいない所)からは「マトモに戦えない卑怯者」と陰口を叩かれた事もある。

実際、武闘派の砕蜂とは過去の件もあって今もギクシャクとした関係のままだ。

 

…砕蜂は無言で目を逸らした。

 

「先程の会話で察せたのですガ、貴女はかの大帝の妻なのデスカ?」

 

「そうだよ(迫真)。

ま、外堀は埋めたけど式は上げてないしたった今旦那は頭だけになっちゃったから、正式な籍を入れるのはこの戦いが終わった後かなー。」

 

「それは…おめでとうございマス。」

 

「それ旦那殺しかけた張本人が言っちゃう?」

 

「何を無駄話に興じてんだオッサン!?」

 

 

大前田のツッコミが冴える。

素直な祝辞は嬉しかったのか、少し照れながら笑うジェーンはぐるりと街を見渡した。

 

 

死神と破面の戦闘は未だ継続中だ。空では第二解放したリリネットの虚弾が街に向かって降り注ぎ、京楽とスタークの高速戦闘によって幾つも家が穴だらけになっている。ハリベルは三対一の状況でも善戦しているし、首領である藍染達もそれぞれ仮面の軍勢をあしらっていた。あの程度の相手なら万が一にも負ける事はないだろう。

ふと、地上に転がっている破面三人娘が目に留まった。

火傷して気絶してはいるものの、命に別状は無さそうだ。全員腕が片方無くなっているのを見るに、ペット(アヨン)を出したのだろう。

 

 

「ん~…生きてて形が残ってるのはズッコケ三人娘だけかあ、もうちょっと残ると思ってたんだけどなあ。」

 

「今更戦力差の確認か、呑気な事だな。」

 

「藍染君の無茶ぶりに命張るのはいつも通りだとして、ダーリンまでやられちゃうのは予想外だったよ?

ん〜、さっきのは思わず倒しちゃったけど、君らは藍染君から何も言われてないし放っといていいかな。どうせ最後は藍染君にぶつかるんだし。」

 

 

じゃーね、と再び響転で掻き消えたジェーンに砕蜂達は反応できなかった。

追おうともしたが、自分達の惨状を改めて思い直し脚を止める。

 

(なんだあの破面は…

仮にも伴侶が死にかけたというのに敵意すら見せないとはどういう事だ?)

 

破面は曲がりなりにも感情を持つ虚の上位個体だ。

仲間…ましてや親しい旦那が死にかければ怒るのは当然、何らかの感情の変化が起きてもおかしくはない筈なのだが、大前田はともかく砕蜂とハッチすら彼女が去る最後まで敵意の『て』の字も感じる事は無かった。

 

(所詮破面と言われればそこまでだが…何かおかしい。あまりにも『事務的』過ぎる。)

 

「「「ッッッ!?!?」」」

 

 

砕蜂は思わず思考を中断してしまった

 

顔を上げる

 

感じ慣れた、とは言い難いが見知った霊圧が爆発的に膨らむのを感じる。これは紛れもなく…

 

「総隊長殿…?」

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

んもー!

ダーリンったらうっかり負けてんじゃないよ!

私がガオンしなかったら帰って来れなくなる所だったじゃんか!慢心帝に改名しろ!

 

いやほんと危なかった、「老い」は唯一『繭』に戻ってこれなくなる能力だからね。まさかピンポイントで弱点突かれる相手と戦っちゃうとは…何が起こるかわかんないもんだ。

まあ完全に消滅しなくて良かったよ、もしなってたらこの街ごと塵にするとこだった。

 

おーい、藍染く〜ん。

 

「やあジェーン。彼の見送りは終わったかい?」

 

藍染君はオカッパ関西弁と斬り合いながらもこっちの呼び掛けに応えてくれた。

 

てめーコノヤロー、もっと詳しく敵の情報寄越せよな。

 

「ちゃんと言ったろう、鬼道系に特化した者が控えていると。」

 

つっても空間ごと転移させるとは思わなかったじゃん、卑怯だろあれ!おかげで大事なダーリンがヴァルハラに旅立つ一歩手前だったんだけど!?

 

「……君に特大のブーメランが刺さったように思えるが、気の所為かな?」

 

あーあー聞こえない聞こえなーい!

破面もこんなに数減らしてくれちゃってさあ、消耗品って割り切るにしたってもうちょっと丁寧に扱いなさいよ。回収するこっちの身にもなれっての。

まーハナっから期待してなかったけどさ、どうせ君に付いてこられる奴なんて私くらいのもんだし。

 

「…フフ、そうだね。」

 

 

市丸君は暇そうにしてるけどDJ.Kanameは他の相手にご執心みたい。ていうかなんだあのでっかいワンコの死神は、モフりたい。

 

「君も結構遊んでるじゃないか、視線で丸わかりだよ。」

 

遊んでません〜好奇心に負けそうなだけです〜。

 

「戦闘中に無駄話かいな……ッ!?!」

 

「友との語らいを邪魔しないで貰えるかい?」

 

オカッパがなんか言って再び斬りかかって来たけど藍染君はどこ吹く風、あっさり反応して弾き返しちゃった。頑張るねオカッパ君、精進したまえよ。

 

「いやオマエはどの立場からモノ言うとるんや!?」

 

お、戦闘中もツッコミを欠かさない関西弁キャラの鏡。

その時、下の方から凄まじい霊圧が噴き出して街中を覆い尽くした。街のあちこちで火の手が上がる。

炎の奥に佇む影はじっと此方を睨み付けてた。

 

ねー藍染君さあ、たしかあの人だよね。私に相手して欲しい死神。

 

「そうだね。」

 

炎の中に居たのは杖持った和製ダンブルド〇みたいなおじいちゃん。

けどなんだろう、他とは違うらしい。主に殺意とかその辺が。

傍に焦げて真っ二つになったアヨンっぽい残骸があったし、おじいちゃんがズッコケ三人娘を倒したのかな?

 

…ん?これって私に向けられてるカンジ?

 

そんでもってまた、炎

 

街を四角く囲う炎の檻がどんどん広がって、猛烈な熱波が私達を襲う。ちょっと喉が乾いた。

 

「さあ、本命だよ。

彼の打倒をもって私の計画も最終段階に入る、存分に始祖の力を振るうといい」

 

あいあいさー、ボス。

せいぜいアンタも死に目に遭えよ、死んで虚になったら従属官に変えてコキ使ってやる。

 

「それは…楽しみだね。」

 

え…マゾヒストだったの藍染君…引くわ。

 

「……早く行きなさい。」

 

へいへーい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

護廷十三隊『総隊長』山本元柳斎重國。

護廷内全ての強者共を統べ、尸魂界に千年以上君臨し続ける間違いなく最強の死神である。

彼は手にする斬魄刀『流刃若火』を振るい、他の隊士が戦闘を続ける中、ある行動を起こしていた。

そしてその仕込みが終わった頃、ふと顔を上げると彼女と目が合った。

脱退したとはいえ隊長格の平子を軽くあしらう藍染惣右介の隣、戦場の只中だというのに楽しそうにお喋りに興じている女破面の姿を。

 

彼女との…正確にはあの虚との因縁は数千年前、護廷十三隊創立以前にまで遡る。

 

突然現れ数多の魂魄を蹂躙し、喰らい、滅ぼした『始祖の骸』。重國の決意の切っ掛けとなった因縁ある相手。

姿は変わっても、その圧倒的な霊圧を忘れる筈もない。今は器用に隠しているが、ひとたび解き放てば並の魂魄なら浴びただけで魂をすり潰され、消滅を免れぬだろう。

 

故に滾る

 

総隊長の仕事の傍ら、山深くに籠り自らを鍛え直した。

無心で只ひたすらに剣を振り、昂った身体を滝に打たれ冷やしながら己の斬魄刀『流刃若火』と向き合う事で、過去の自分を見つめ直す。

惨劇の後、創り上げた護廷で起こった初めての大規模戦闘。種の生き残りを賭けた戦争とも呼ぶべきその戦いで、重國は『鬼』となった。

自分達に利するものは全て使い、必要なら部下の命すら灰と同義と切り捨てるその姿は正に修羅。それが創立より尸魂界を支え続ける山本重國という名の(おに)である。

 

自分が鬼となる根源を創った虚。

敗北を知り、無力を知り、報復を誓った相手。

 

平穏を取り戻す尸魂界につられて、自分も嘗ての烈火の如き激情も消えかけていたらしい。それが長としての責務であった故に。

ならば…

 

「…あの時とは違う。

此度の立ち合いでもって、彼奴(あやつ)に引導を渡す。」

 

眼を開き、刃禅(じんぜん)を終えた重國は静かにゆっくりと刃を掲げ、流刃若火を解放した。

鋒から線のように伸びた焔が一直線に滝を裂きながら駆け上がり、2つに割れる。頂上へ達した焔がすぐさま上流の水を蒸発させ、それ以降滝から水が降ってくる事は無い。一瞬にして滝を崖へと豹変させた重國は山を降りた。

この時をもって、山本重國は人から嘗ての鬼へと在り方を変えたのだ。

 

 

 

 

 

 

……因みにこの後尸魂界へ戻った時、目敏く察したのかそうでないのか、更木剣八に絡まれ滅茶苦茶勝負を挑まれた。その最中建物の陰からは4番隊の卯ノ花やちるが物憂げな表情でずっと此方を見つめてくるし、内心気が気で無かったそうな。

 

 

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

 

「ん~~…」

 

「……………」

 

「ん~~~?」

 

「……………」

 

「藍染君から直々のご指名で降りて来たのは良いけど、何この状況。」

 

ジェーンはそんな感想を漏らした。

焔の如き巨大な霊圧、それが護廷十三隊総隊長のものと知り、藍染(上司)の命令で渋々やって来た訳だが、当の重國は此方を見留めたまま視線を外さない。

相変わらず刺すような霊圧はそのままなので自分に敵意を持っている事は分かるのだけど、それ以上何もしてこないのだ。

 

「久方ぶり、と言った方が良いかのう。」

 

暫くして、突如発された重國の言葉にジェーンはどぎまぎしながらも答えた。

 

「え、うん…久しぶり…?」

 

「あんた誰?」と即座に言わなかった彼女に花丸をあげたい。雰囲気とかなーんも考えてないのかこの始祖は。

重國も察したのかそれ以上は言わなかった。このお爺ちゃん優しい。

 

「覚えておらんかも知れぬが、儂とお主は一度(まみ)えておる。

その時の儂は小さく、そして弱かった。

お主にとっては塵芥の様な存在じゃ…が、塵も集めて燃やせば大火となろう。」

 

灼熱の死神は構え、焔の如き霊圧が吹き荒れる。

 

「我が生涯に掛けた刃の重み…その身でしかと受けよ。始祖の骸よ。」

 

散っていた焔が集束しながら渦を巻く、流刃若火の周りが焔で満たされ、その刀身を顕にした。

 

「万象一切灰燼と為せ、『流刃若火』…()くぞッ!!」

 

「ッッッ!」

 

一閃

 

猛る焔を纏う刃が紅き(ひらめき)となりて、ジェーンに襲い掛かる。

感じた事の無い悪寒を覚え、咄嗟に鋼皮で刃を弾いた。

ギャリギャリと耳障りな音が響き、痛みを覚え右腕を凝視するジェーン。ほんの僅かだが彼女の腕に赤く跡を付けた。

紛れもない、重國の一閃が始祖の鋼皮に傷を入れた証拠である。

 

「まだ足らぬか…ッ!!」

 

嘆息する重國の眼前に黒が迫る。振り払った方とは逆の、突き出された掌からジェーンの虚閃が臨界状態で突き付けれた。

 

だが重國は臆さない

 

「呵ァッ…!!」

 

ズシンと重い音が響き、重國の拳がジェーンの脇腹に突き刺さる。

拍打の極地、自身の全体重を乗せ放たれた『一骨』の衝撃で吹っ飛ばされるジェーン。一瞬遅れて構えられていた黒虚閃が解き放たれ、重國の顔の真横を破壊の奔流が駆け抜けた。

轟音と共に歪んでいく空間をバックに、バウンドしながら直線上の民家を何軒も倒壊させたジェーンは何度目かの着地の折、地面に腕を突き刺して勢いを無理矢理殺し何事も無かったかのように立ち上がった。

 

一瞬きょとん、と(とぼ)け顔をしてみせて、僅かに痛む右腕を眺める。斬られたが血は出ていないし、赤い跡が腕に少し残っただけ。

 

だが、初めて感じた明確な痛みだった

 

どくん、どくんと胸が高鳴る

 

感じた事のない衝動が胸の内から込み上げてきて、自然と頬が緩んでしまう。

 

正直な話、油断していた。

鋼皮もゆるゆるで、俗に言う『舐めプ』ってやつだった。もろに食らった件については言い訳次第もございません。

が、生まれて初めて傷付けられたのだ。愛する旦那でもない、友人のエロメガネ(過去形)でもない、何処の誰とも知らぬ死神が、只の力のみで。

 

 

 

 

傷物にされた…

 

なんで?なんで?

 

どうしてこんな気持ちになるの?

 

こんな感情、エレガントでパーフェクトな私には必要ないと思っていたのに

 

痛かったのに、()()()()()()

 

今まで抑えこんでいたナニかが

 

少しヅツ、痛み(ヨロコビ)と一緒にあフれでて来ル

 

ちゃんト皆の事を考えなきャいけない筈ナのに

 

どんどん()()()()()()()上書キされてイく

 

ぴかぴか ちかちか ほしガ光ッて

 

ああ…あぁ…こんなにも……

 

タ ノ シ イ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あはっ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジェーンの口元が妖しく歪む

 

 

途端、街中に『死』が満ちた。

空座町で争っていた全ての死神と破面が皆一斉に縫い留められたかの様にその動きを止め、一様にジェーンを凝視した。

重國もまた、唯ならぬ気に思わず身を強ばらせる。老体となり枯れた肌が粟立つのは何時ぶりだろうか、いやもしかしたら初めてかもしれない。

 

気付けば額から冷や汗が垂れていた。

今しがた自分が殴り飛ばした相手、ジェーンから目が離せない、もし一瞬でも離してしまえば即座に首根を毟り()られると、脳内で大音量の警報が鳴っている。

信じられない、いや覚悟はしていたハズだ。

ただ、その覚悟より現実が勝っていただけの事。

惚けた表情で立つ、決して小柄とは言えないが麗しい女性の姿をした破面を鮮明に恐怖しているなどと。

 

 

 

可視化できるほど濃密な霊圧が放たれる度、周囲の建物が勝手にビリビリと震え始め、地が軋む。窓ガラスが一瞬で塵になり、建ち並ぶビルや家屋もその形を保てなくなっていく。運悪くその場に居た野良虚の身体が(あぶく)の様に弾け飛び、残骸が地面に落ちてまた弾け、それを繰り返すうちに完全に消滅してしまった。

勿論死神達も例外ではない。戦闘中の隊長格はともかく、傷を負い弱った隊士は呼吸が困難になるほど激しい動悸に襲われていた。

生き残り、今も戦闘中だったスターク、リリネット、ハリベルは迷わず戦闘を中断し、霊圧に耐える事のみに注力している。こればかりはジェーンと共に過ごしてきた時間がモノを言うようで、対応は手慣れたものだった。

 

 

差異はあれど、死神達が悪魔の如き霊圧の奔流に苦しむ中でただ1人、藍染惣右介だけはその笑みをいっそう深め、平子との斬り合いもそっちのけで眼下の友人を眺めていた。

 

妖星(ほし)の目覚めだ。

おはよう、ジェーン。」

 

愉しそうな藍染の呟きは誰にも聞かれることはなく、瀑布の如き霊圧の波に溶けて消える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

混沌とする戦場に妖しき(ほし)が1つ 瞬く。

 

呼ぶのは悲劇か惨劇か、それとも…




~~~ざえるあぽろくんのほろうこうざ~~~


…………なんだい、この珍妙なコーナーは。

は?語れ?虚について?
オイなんだジェーン・ドゥ、その機械は……録画機材?ピカロ達の教材にするからだと?

はぁー…(クソデカため息)

まあいい、こういう事を始めたお前に何を言っても無駄なのは理解してる。

良いだろう、しっかり録画してガキ共に学ばせるといい。
虚とは死した人間の魂がマイナスの方向へと変質したもの、俗に言う『悪霊』というヤツだ。捕食や破壊などの原始的な衝動で動き、小さな虚が互いを喰い合い成長した結果生まれた集合体が大虚になる。現世と隔絶され、共喰いに特化した虚圏内ではその競走は顕著に現れているな。
虚大虚となった時点で食った魂の数は100を超えるとされ、更に共喰いを続ける事で最下級大虚、中級大虚、最上級大虚と段階を経て進化していく訳だ。言わば大虚は僕達の根底を形作る要素だね。
で、だ。虚というものは先程も言ったように悪霊の類、故にその集合体である僕達にも当然破壊衝動や捕食欲求がある。まあ、最上級大虚ともなればその程度の欲求は殆ど消え失せてはいるがね。例外なのは『喰虚』を持つアーロニーロだけだが…まあ奴の事は今はいい。
要は学習するんだよ、何度も衝動や欲求に駆られるうちに感情の制御をね。
戦闘において衝動任せに動くなど三流のする事さ。

……何?「私はそういう衝動1度も味わった事がない」だと?そんなはずは無いだろう、ジェーン・ドゥ。腐っても始祖なんだからお前は…止めろ石を投げるな!馬鹿にしてない!してないから!だからその右手に持った名状し難いバールの様な物を置け!


~しばらくお待ち下さい〜


はぁ…はぁ…全く酷い目に会った…
しかし、そういった衝動に1度も駆られた事が無いか…なら、一度堰を切ってしまえば止まらないだろうな。
僕達は死しても元は人間の魂だ、衝動や欲求に流されてしまうこともある。ある程度の慣れは必要だろう。それがお前には無いんだからな。
…どんな理由でタガが外れるのか、だと?知らんよ僕に聞くな。
今のお前が理性を失う様なアクシデントなんて思い付かん。
案外、お前ならその辺の角に小指をぶつけた拍子にタガが外れて自分の宮を更地にしそうだなあ、ククク…

…オイ待て早まるな、大人しくその指先で転がしてる臨界状態の虚閃をしまえ。

止めっ…止めろッ!!やっ…アァーーーーーッッッ!?!?

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