双頭の骸、虚圏に立つ   作:ハンバーグ男爵

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人気投票でオストガロアが79位だったので初投稿です

新作も発表されたし多少はね?

前回投稿4年前、オリンピック更新で草






二十四話 奈落の女神

 

 

 

 

 

 

 

………………

 

……………………

 

………………………

 

……………………………

 

 

《これで終わり、か》

 

 

…………?

 

 

《いやァ終わりじゃねえさ、外はまだドンパチ賑やかだよ》

 

 

……誰だ

 

 

《虚圏だからかなァ、今日はいつもより意識も存在もハッキリしてんだ》

 

 

俺と同じ声で喋るお前等は誰だ

 

 

《……俺は奴に何も期待しない》

 

《そりゃーいい、ならオレが貰う!

此処は()()()()のお膝元だ、3食オヤツにあの女の操まで付いてくるとなりゃ断る理由も無ェ》

 

《勝手にしろ、俗物が》

 

 

止めろ…止めろ……ッ!!

 

 

《そうと決まりゃ話は早え、さっそくオレが目覚めてなんかいい感じの雰囲気にしてから織姫と〇〇〇(ピー)××××(ホニャララ)して□□□□□(バキュンバキュンバキューン)!》

 

 

 

いやマジで止めろやァっ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ぶはあッッ!?!?」

 

魂の叫びと共に視界が一気に開けて覚醒した。

う…思い出せねえけど…夢の中で虚の俺がとんでもない事を言っていた様な……

 

ッ痛ゥ…!

 

感覚がハッキリしてくると同時に自分が今どうなっているかも把握した。

知らない天井に知らないベッド、腕には点滴の針が刺さっているが包帯は巻かれていない。

天井も壁も真っ白な部屋に俺は寝かせられていた。

 

「此処は…何処だ?」

 

俺は今まで何をしてた?

確かウルキオラと戦って…姿の変わったネルが割って入ってきてそれから……

思い出した、俺は小さくなっちまったネルを庇ってウルキオラの攻撃を受けたんだった。

 

それがなんでこんな部屋に寝かされて…

 

 

 

「いぢごぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」

 

「おっふゥッ!?!?」

 

 

 

その時、奥の壁が開いて小さい何かが俺の腹に突き刺さる。もしかしなくてもこれは…

 

 

「ね、ネル!?!?

お前無事だったのか!!」

 

「ぞればこっぢのぜりぶっずぅぅぅぅいぎででぇがったぁぁいぢごぉおおお!!」

 

「わぁかった!分かったから服に鼻水擦り付けるの止めろお前コラッ!」

 

「びゃあああああああああああああ!!」

 

「黒崎くん!」

 

「い、井上…無事だったんだな。」

 

腹の上で泣きじゃくるネル、続けて入ってきた井上も半泣きになりながら俺の手を強く握ってきた。

 

「黒崎くん、目が覚めて本当に良かった…」

 

「悪い、助けに来たハズなのに逆に心配掛けちまったな」

 

「そんな事ないよ!

それより、色々説明しないといけない事が沢山あって…」

 

あのねあのねと一生懸命説明してくれてるんだが、何を興奮してんのかしどろもどろで何も頭に入ってこねえ。

そうしていたらまた1人、知らない奴が部屋に入って来た。

中学生位の身長で灰色の長い髪をした女の子だった。服装も他の破面達が着てるのとは少し違う、白いセーラー服みたいな死縛装。髑髏の髪留め、左の顬(こめかみ)には小さいが仮面の欠片が付いていて、小脇にカルテらしい紙束を挟んだバインダーを持っている。

 

「あ、コマさん!黒崎くん良くなりました!」

 

「見れば分かりますよ。

おはようございます、黒崎一護様。」

 

「あ、あんたは…?」

 

「私達の名前はピカロ。

個体名は《統率係(コマンダンテ)》ですが…まあ、好きに呼んで頂いて構いません。ええ」

 

「……達?」

 

軽くお辞儀をした《統率係》を名乗る女の子は、まだ腹の上でべそかいてるネルを無表情のまま引き剥がして放り投げ、そのまま俺の触診を始めた。

 

「おおおいネルゥ!?」

 

「邪魔です」

 

放物線を描きながら鼻水が舞って、べしゃっと床に叩き付けられたネル。特に痛がる素振りも見せていないが、まだちょっと泣いてる。

 

「……傷跡も無し、魂魄の損傷も完治、と」

 

触診を終え、カルテに何かを書き留めた後離れていく統率官を俺は慌てて呼び止めた。

 

「ち、ちょっと待ってくれ!

此処は何処だ?虚圏なのか?あの戦いの後一体何が……」

 

「質問に回答します。

此処は虚夜宮、第5十刃ジェーン・ドゥ様の宮内に設置された治療室です。

貴方は第4十刃、ウルキオラ・シファー様に勝利した後虚化の反動で魂魄が危険な状態になっていました。

お母様のご友人である井上織姫様の願いで貴方を此処へ運び込んだ次第です。ええ」

 

「勝利…?ウルキオラに勝ったのか!?俺は…」

 

「恐らく貴方に意識は無かったでしょう。

胸を穿たれ、瀕死の身で虚化した状態でしたし」

 

どうやら俺は、あの後瀕死になって虚化し、知らないうちにウルキオラを倒してしまったらしい。

虚化って事は白斬月(アイツ)が俺の身体を乗っ取ったって事か…!!

 

 

 

《あの女と〇〇〇(ワーオ♡)して×××××(チョメチョメ)からの□□□□□□□□□(卑猥な単語の羅列)

 

 

ええい黙れ!消えろ雑念!

 

「…?なにか?」

 

「あ、いや何でもねえよ!?」

 

「そうですか…

身体は既に回復している反面、魂魄(なかみ)が虚化の影響で少々不安定でしたので此方で治療を施しましたが…その様子ですともう点滴は必要ありませんね」

 

そう言って俺に繋がれていた点滴の針が抜かれていく。

 

 

「ワリィ、とにかく助かった」

 

「……此方へ。

ロカ様の所へご案内します。詳しい説明もそちらで致しますので」

 

「説…明?」

 

また知らない名前だ…

つうか敵陣のど真ん中でこんな悠長な事をやってていいのか?井上が見付かったなら恋次やルキア達とも合流しなきゃならねえし、尸魂界の隊長達も虚圏へやって来てた。まだ戦ってんならそっちへ加勢しないと…

 

「釘を刺すようですが、此処は虚圏の中心部。

下手な反抗は貴方の立場を危うくするだけですので、大人しく我々に従う事を推奨します。ええ」

 

表情の無い深い紫色の瞳がこっちをじっと見つめる、どうやら俺が逃げ出そうとしてる事はお見通しらしい。

俺一人なら何とかなるかもしれねえが、戦えない井上とネルが居る。敵の戦力が分からない上に2人を守りながら脱出するのはかなり難しい。

従うしかねえか…

 

「……ああ、分かってる」

 

「素直で宜しい。

暗殺係(アッサシーノ)》も貴方くらい聞き分けが良ければ苦労しないのですが…」

 

よく分からない事を言いながら「はぁ…」と溜め息を吐く少女に案内されて、俺と井上は歩き出した。

 

おいネル、いつまで泣いてんだ行くぞ。

 

「ぢぃぢぃご!」

 

鼻水が汚いッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………………………

 

 

 

 

 

 

「なあ、コマさん…でよかったか?」

 

「好きに呼んで頂いて構いません」

 

「あんたさっき自分を『私達』って言ってたけど、どういう事なんだ?」

 

「…他の皆様と違い、私達は破面化の際に身体が分裂してしまいまして。

なまじ幼い魂魄ばかりが寄り集まった虚でしたので、分裂した個体ごとにそれぞれ人格が芽生えた結果、数にして100体を超える“わたし”が生まれました。

《統率係》と呼ばれるこの個体(わたし)もその中から進化した一体です。

虚圏でも珍しい『群』にして『個』の破面、それが私達、元第2十刃悪戯小僧(ピカロ)なのです。ええ」

 

「だ、第2十刃…!?

じゃあコマさんはウルキオラやグリムジョーよりも強いのか?」

 

「いえ、破面の数字は殺傷能力の高い順に決まりますが、元十刃と現十刃では破面化の精度が異なります。数字が若ければ強いと決まった訳ではありません。

私が生まれたのは藍染おじさまが行った破面化実験の初期段階ですので未完成で(あら)が多く、より崩玉が完成に近づく後期に生まれたウルキオラ様やグリムジョー様の方が破面として完成されています。殺傷能力も私達と比べるべくもありません。ええ」

 

「殺傷能力…」

 

「まあ、この個体(わたし)と一部のピカロ(わたし)は少し特異な変化を遂げているので、一概に劣っているとも言えませんね。ええ。

お義母さまのお力は計り知れません。

因みに、十刃落ちの破面は番号が3桁になりますので」

 

お義母さま?

いや子供の魂魄って言ってたし母親くらいいるか…でも虚に母親なんているのか?

なんつーか、コイツからはグリムジョー達とは少し違う霊圧を感じるな。

 

「って事はドルドーニのおっさんも…」

 

「あの糞髭……もといドルドーニ・アレッサンドロ・デル・ソカッチオもピカロと同じく初期型の破面です。後に藍染おじさまに不要と判断され、十刃落ち(プリバロン)に降格されました」

 

ドルドーニのオッサンも元十刃だったのか。そういや共闘した時チラッと《103》って数字が見えたもんな。コマさんの首にも《102》の数字が入ってる、さしずめオッサンの上司ってところなんだろうか?

 

つか、今クソヒゲって言わなかった?なんか言い方に棘がねえか?仲悪いのかな。

 

「ていうか良いのかよ、ペラペラ喋っちまって。俺たち一応侵入者なんだぜ」

 

侵入者(お客さま)のおもてなしも《統率係》の仕事です。

別段聞かれて困る話でもありませんし、()()()()()()貴方は知っていて損はないでしょう。

お義母さまからも許可を頂いていますので」

 

「さっきから言ってる『お義母さま』ってのは、その…」

 

「ええ、ジェーン・ドゥ様です。

虚圏の女神、奈落にて輝く妖星(ほし)、私達を変えたお義母さまですよ」

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………

 

 

 

 

 

 

「さ、着きましたよ。此方です」

 

辿り着いた白い壁に切れ込みが入り、扉のように開く。

中は生活感のあるリビングみたいな部屋になっていて高そうなソファやクッション、壁掛けの薄型テレビなんかもあった。ていうか良い暮らししてんな!?バーカウンターの奥の戸棚には色んな種類の酒瓶が立ててあるし、エアコンはもちろん空気清浄機に各種ゲーム機…床にルン○走ってんぞ!?現世のモン持ち込み過ぎだろォ!

 

「なんかこう、もっと殺風景な部屋を想像してた…」

 

「お義母さまの宮が特殊なだけですよ。他の十刃…例えばウルキオラ様などは必要最低限のものしかない簡素な部屋ですし。

そうですね、あるとすれば先日お義母さまから借りていた《ときめ○メモリア○》くらいでしょうか」

 

「ゲームじゃねえか!」

 

意外だわ!無愛想な顔してゲームするんだなアイツ…しかもギャルゲーて!

 

「ロカ様は奥で作業中だそうですので、此方で暫くお待ちください」

 

ウルキオラの意外な趣味に驚きながらも部屋を見回すとバーカウンターの隅でグラスの酒を呷ってる人影が目に留まる。

 

「お、オッサン!生きてたのか!?」

 

「オヤ、ぼうや(二ーニョ)ではないか。

こんなところで奇遇だねェ」

 

あんな濃い顔、一度見たら忘れるハズが無い。

アーロニーロ戦で共闘したドルドーニのオッサンだった。身体の所々に包帯で治療された跡があるが元気そうだ。

 

「ん〜…程よい苦味と甘み、流石はロマネコンティだ。

この芳醇な香りはまさに一級品…」

 

「…………」

 

椅子から立ち上がり、片手に持つワイングラスを揺らしながら舌鼓をうつオッサンはなんつーか、優雅ってより格好つけてるだけってカンジだ。そんなオッサンに無言でコマさんが近づいて行く。

 

「オヤ、統率係。

ワインが羨ましいのかい?子供にはまだはや(ゴッスゥ!!)ギュイェッッッ!?!?」

 

「「「えぇ〜〜〜ッ!?!?」」」

 

こ、コマさん!?何故唐突にオッサンにストレートパンチを!?

 

「カッハ………な、なじぇ……」

 

身長差で丁度みぞおちあたりに拳が突き刺さったオッサン、破面でも人体の弱点は変わらんらしい。痛みで蹲り産まれたての小鹿みたいに膝がプルプル震えながらも手に持つグラスは必死に支えているあたり謎の根性を感じる。

それを見下すコマさんは…

 

「治療室から抜け出して一体何をしているのですかドルドーニ」

 

ご、ゴミを見るような目だ…!

養豚場の豚とか生温いもんじゃねえ、この世の闇を寄せ集めたような…相手を蔑みきって澱んだ瞳だッ!

 

「無様に負けて瀕死の所をルドボーン君に連れてこられた貴方には医務室にて監き…静養を命じておいた筈ですが、何故勝手に抜け出してお義母さまの部屋で寛いでやがりますか糞髭。いえ汚物」

 

今汚物って言っちゃった!

 

「わっ…ガハイもう傷は治ったから…ロカ殿に戻っても良いって言われたのだよ……」ビクンビクン

 

「嘘だッッ!」

 

「嘘じゃないよォ!?」

 

間髪入れずに否定するコマさんの気迫がヤバイ。

 

「コマさん待って待って!おじさんが可哀想だよ!?」

 

「下がっていてください織姫様、この男は危険です。

度重なるお義母さまへのストーカー行為、幼いピカロ達(わたしたち)への誘拐未遂、顔面の厚かましさ、言動全てが不快要素の塊、唾棄すべきこの世全ての悪なのです。

純心無垢な織姫様など見つめられただけで孕まされてしまうやもしれません。ええ」

 

「はっ…はらむ!?」

 

「いやワガハイも流石にそんな離れ技出来ないヨ!?!?

ていうかピカロ誘拐はキミ達の誤解だから!

決してジェーン殿に会う口実作りの為にお菓子で餌付けしようとした訳じゃないから!」

 

オッサンそれはヤベェ奴だぞ…

 

「オッサンそれはヤベェ奴だぞ…」

 

「ぼうや!心の声をそのまま口に出すのは止めたまえ、ワガハイが死ぬ!

《統率係》、第2解放になって成長してから君ってば辛辣過ぎやしないか?昔は他のピカロみたいにじゃれてくる無邪気な破面だったのに、ワガハイ悲し(ボグォッ!!)オッッグウゥゥッフ!?同じところに…2発もォ……」

 

「 む か し の は な し は す る な 」

 

い、今の見えなかったぞ…ドンだけ速い手刀だよ。

なんかこの2人、上司と部下っつーよりオヤジと夏梨(かりん)を見てるようだ。

暫く悶絶して、やっと復活したオッサン曰く、あの後崩れ落ちる部屋から間一髪仲間に助けられて今まで此処で治療されていたらしい。しかし回復したてに酒は駄目なんじゃなかろうか(医者の息子並感)。破面だから大丈夫なのか?

 

「おっちゃん元気になってて良かったッス!

ネルのヨダレのおかげだスね!」

 

お嬢ちゃん(べべ)!その話は止めなさい、ワガハイに効く!」

 

そういやオッサンはネルに涎かけられて回復したんだったな。世の中にはそういう事で回復できる特殊な奴もいるんだ…大丈夫かよ破面界隈。

 

「ほらァ!ぼうやと統率係が勘違いしてる!

違うからネ?あの涎には弱いが回復作用があってだね…」

 

「……あの、近づかないで貰えますか?」

 

「止めてェ!そんな目で見ないでえ!!

統率係に至っては物理的に距離置かれてるし、マジな拒絶だねコレ!?」

 

「いえ、拒絶なんてしてませんよドルドーニ・アレッサンドロ・デル・ソ大ゴミッチオさん。取り敢えず手足を縛ってそこの窓から飛び降りてくださいますか?」

 

「何故急にフルネーム!?

せめて目を合わせて会話しよう!?

てか今ゴミって言わなかった!?!?」

 

「言ってませんよ粗大ゴミさん。

ささ、テラスはこっちです。ええ」

 

「スッゴイいい顔してるなキミ!?

いつも無表情なのにそんな笑顔作れたんだね!

待ちたまえなんだねその縄は!?」

 

いや、ごく自然な流れで投身自殺させようとするんじゃねえよ…

 

因みにこの会話をしている間、部屋のル〇バが延々とおっさんの踵にぶつかり続けていた。

……機械からもゴミ扱いされてるのか(驚愕)

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

「……あれ?」

 

ドルドーニと統率係の痴話喧嘩の最中、いつの間にかやって来てソファでぽいんぽいんと楽しそうに跳ねてる小さな虚に気がついた。

人の形はしておらず、髑髏の仮面に手足が直接生え、デフォルメされたマスコットキャラクターのような外見をしている。

ちょっと可愛いかも、と思った織姫さん。安心して下さい、着々と虚圏に毒されてますよ。

 

「あの、コマさん。彼処に居るのも貴女の仲間の子?」

 

「ん…?おや、暗殺係と一緒に出て行ったピカロ(わたし)ですね。

侵入者を見つけてから連絡が途絶えていましたが何かありましたか?」

 

「■■■■■■!■■■!…」

 

喋る言葉は一護達には分からない、奇声ともとれるかん高い声だった。それでも同じ“自分”だから分かるのか、統率係はふむふむと頷き「お疲れ様でしたね、冷蔵庫にドクター〇ッパーがあるので飲んでも良いですよ。ええ」と告げる。

(因みにドルドーニは数秒前に金的を喰らってノックダウンした、掃除の邪魔だと言わんばかりに何度も頭にぶつかるルン〇がなんとも虚しい。)

 

小さなピカロは喜び勇んでキッチンへ飛んで行った。

 

「なんて言ってたの?」

 

「大した事ではありません。

“鬼ごっこ”に誘われただけですので」

 

「お、鬼ごっこ!?」

 

「貴女方のお仲間に誘われたと言ってました。

暗殺係も一緒になって虚夜宮の中を走り回っているようですね。

…既に参加した八割ほどの私達を確保しています」

 

統率係にはピカロ同士の位置を捕捉する固有の能力があるらしい。

 

「他の死神も…!

アイツら無事なのか!?」

 

心配して叫ぶ一護を一瞥し、統率係は空中を指で叩き探査回路(ペスキス)を発動。大小様々なホログラムのウインドウが彼女の周りにいくつも展開される。画面にはピカロ一体ずつの写真と座標が記されており、中には映像も映し出されていた。

 

「おぉ〜すげ〜ッス〜…」

 

「なんか近代的だな…」

 

戯擬軍翅(ランゴスタ・ミグラトリア)第2解放。

《統率係》の特権です、戦闘能力が殆ど無い代わりに全ピカロの位置把握と情報伝達が私の能力なのです。ええ。

……現在暗殺係2人に1人ずつ、死神が付いていますね。

なんとも頼りなさそうな男性の死神と…古風な喋り方をする女性の死神。」

 

((戦闘力がほとんど…?))

 

ならばドルドーニへ見舞ったあの流れるような手刀はいったい…

 

すい〜っと流れるように統率係から一護達の目の前にやってきた画面には、子供を肩車して白い砂漠を駆ける2人の死神の姿があった。

 

「ルキアと花太郎!」

 

「よかった、無事だったんだ…」

 

「他の死神の位置は分からねえのか?」

 

「注文が多いですね。

周囲にピカロがいれば映像を出せますが…

ああ、言い忘れていました。

貴方がたのお仲間の…茶渡泰虎様。彼は現在階下のトレーニングルームでテスラ様と修行をしております。」

 

「………何て?」

 

更に流れてきたウインドウ、そこには…

 

 

『雄オオオオオオッ!!』

 

『まだだ…こんなものでは足りないぞ茶渡泰虎!

お前の拳に乗せる思いはそんなものか!』

 

『違うッ…!

もっと、もっとだ。俺には…一護達と共に歩む実力が足りないんだ…!だから力を貸してくれ…アブウェロ(じいさん)…ッ!』

 

『ははっ!そうだ!

お前の能力(チカラ)はもっと高みへ行ける。それを俺に証明してみせろ!茶渡泰虎ァァ!!』

 

『《魔人の一撃(ラ・ムエルテ)》ェッ!!』

 

まるで発泡スチロールのように割られた瓦礫の欠片が飛び散り戦塵を巻き上げ、コロシアムに似た円形の闘技場で互いに熱い戦闘を繰り広げる二人。茶渡の一撃を帰刃し猪の頭をした巨人と化したテスラが拳で受け止め、映像越しでも分かるほどビリビリと空気が震える。

お互い本気の闘いをしているようだが、いい汗かきながら文字通り拳と拳で語り合っていた。

なんだこの王道青春バトル漫画みたいな熱い展開は…

 

「いやチャド何やってんだよ!?」

 

思わず吼える一護、まあ気持ちは分からんでもない。

 

「テスラ様が彼を気に入って此処へ連れて来たようですね。

治療の後少し分析してみた結果、茶渡泰虎様の両腕は(われわれ)と似た(もの)である事が分かりました。それを当人に伝えたところ、稽古を付けて欲しいと」

 

「井上の捜索はどうした捜索はァ!」

 

「茶渡くんなら此処へ来てから一番に会ったよ?」

 

「……はい?」

 

「えっとね、最初は第五の塔って所にジェーンさんといたんだけど、すぐにジェーンさん飽きちゃって「やっぱ私の部屋の方が便利で良いわ、行こ!」って言われて此処へ連れてこられたの。

その後テスラっていうジェーンさんの部下の人と一緒にボロボロになった茶渡くんが運ばれてきて、それを治して…」

 

一護から表情が抜け落ちる。

 

つまりこうだ。

あの三叉路を別れて抜け、ガンテンバインを撃破した茶渡は通路の先に居たテスラと交戦。実力差はあれど食い下がる茶渡、その実力と負けん気を気に入ったテスラは茶渡を撃破後もトドメを刺さずにジェーンの宮へ連行し、そこでばったり織姫と合流してしまう。

傷を治されるも、自分の力不足を痛感し自信を失いかけている茶渡に対しジェーンは笑顔で「じゃあ修行パート、行くしかないな!」と高らかに宣言。

以降彼女の宮の下階層に存在するトレーニングルーム、通称『100戦しないと出られない部屋』にテスラと共に閉じ込められ現在進行形で青春熱血バトルを繰り広げている。という訳だ。

 

「因みに現在の勝率は茶渡泰虎様42のテスラ様69です。後半になってからはスタミナの差で茶渡泰虎様が有利に立ち回り勝ち数を取り戻しているようですね」

 

破面にスタミナで勝る人間も大概ですが、と締めくくる統率係に一護は開いた口が塞がらなかった。

 

(俺の頑張りっていったい…)

 

まあ…一護は進むルートが悪かった(ハードラックとダンスっちまった)と言うべきか。

ノイトラ(inアーロニーロ)と戦い、グリムジョーと戦い、更にウルキオラとも戦闘した。途中で卯ノ花隊長に遭遇し傷を癒されたにも関わらず1桁十刃との3連戦だ。そりゃキツいだろう(最後の戦闘では半分負けたようなものだし)

 

静かに肩を落とす一護をよそに、統率係の探査回路は次々と虚圏内のピカロを映し出していく。

 

「……目標捕捉」

 

差し出された画面は霧が掛かっており、殆ど何も見えないが…

 

「なんだコレ、映像悪いのか?」

 

「極わずかですがこの霧の中に死神の霊圧を2つ感知しました。

近くに居るのは…《強襲係(インクルシオーネ)》ですか。」

 

「いんくるしおーね?何ダスかそれ?」

 

私達(わたし)の一員、突撃と強襲に特化した個体です。顔の良く似た双子ですよ」

 

「顔の良く似た双子ぉ…うぇッ!?それってばもしかしてぇ…」

 

「なんだネル、知り合いか?」

 

「知り合いなんて生易しいモンじゃねぇっス!

その双子つったらちょくちょく虚夜宮の外までやって来てネルたつにちょっかいかけてくるヤカラだぁ。バワバワが何回穴だらけにされたか!

ネルはドMだから問題ねえけどペッシェやドンドチャッカまで巻き込んでドンパチするのは勘弁して欲しいっス!」

 

「実力はあるのですが…融通の利かない個体でして。私達の中でも結構な問題児なのです、ええ」

 

ぷんすか怒るネルと呆れたように溜息を吐く統率係。最早ネルがドMな事には誰も突っ込まなかった。多分ツッコンだら負けだ。

と、思っていたら、突然アラート音が画面から鳴り始めた。

 

「わっ、ビックリした…」

 

「…?虚夜宮内で飛翔体?着弾予測地点は…ああ、不味いですね。

《強襲係》、聞こえますか?」

 

『なんだい、《統率係》。

ボクたちは今お嬢様とお客様を交えてお茶会してるんだ、邪魔しないでよ。

ねえ、姉様?』

 

『そうだわそうだわ。

この人の話、すっごく面白いの。

特に前任を決闘で嬲り殺したくだりなんて最高だったわ。

そうよね兄様。』

 

統率係の仮面がマイクのような役割を果たしているのか、気取った口調で幼い男女の声が一護達の耳にも届く。不穏な単語も言葉の端々に混じってはいるが…

「お互いを兄姉って呼んでるのか?」という一護の疑問は無視された。

 

「数秒後にそこへ正体不明の飛翔体が着弾します。霧が掛かっているという事は傍にお嬢様が居ますね?大至急お嬢様を爆心地より遠ざけなさい。

万が一彼女のお身体に障った場合、お義母さまに叱られますよ」

 

『『それはとっても困るね(わ)!?』』

 

『あ、あれ?2人ともどうして私を担ぐんですかぁ?

あ〜れぇ〜〜〜!?』

 

通信越しでもなんとなく、2人が“お嬢様”を抱えて走り去る姿が想像できた。

 

「いやちょっとまて!そこに居た2人の死神はどうなるんだよ。取り残されたままだろ!?」

 

「知りません」

 

「扱い雑ゥ!?」

 

一護が叫ぶも統率係は何処吹く風。そうこう言っているうちに空の一角が青白く輝き、一筋の光が霧の中へと吸い込まれた後大爆発を巻き起こした。

 

「ああああ死神いいい!」

 

映像越しにも関わらず思わず画面に向かって手を伸ばしてしまう一護。この男随分ノリが良くなった、織姫と会えて緊張が解けたのだろうか。

 

もうもうと巻き起こる砂煙。それが晴れ、中から現れた人影は常人の倍ほど大きく、ウニのようにとんがった髪型、特徴的な眼帯…

 

 

 

 

 

 

 

 

「って剣八かよオオオオオオオッ!?」

 

 

 

 

 

 

銀〇みたいなノリで一護が叫んだ。

 

一体、画面の向こうで何が起こっているのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

たのしい

 

 

たのしい

 

 

タノシイ

 

 

むくろのうみのそこのそこ

 

 

ひかりもとどかぬはてのはて

 

 

きらきらと らんらんと

 

 

ならくにかがやくほしひとつ

 

 

そらもかげもまたにかけ

 

 

わたしのおみあし どこまでも

 

 

だんすほーるのまんなかで

 

 

こわれたおもちゃのてをとって

 

 

わたしがりーどしてあげる

 

 

 

 

 

さあ

 

 

ゆかい に すてき に

 

 

 

 

 

 

 

おどりましょ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~……♪

 

 

 

 

 

 

「…?」

 

崩壊寸前の街並みの中、始祖と相対する重國は首を傾げた。

先程殴り飛ばした、並の虚なら一撃で欠片も残さず粉砕する己の拳を受けなおも平然としている始祖の骸は今、彼の目の前で俯き、反撃してくる様子もない。

まるで酔っ払いのようにふらふらと身体を揺らし、時折掌を握ったり開いたりを繰り返す。

そして耳を澄ますと聞こえてくる、一定の感覚でリズムを取るような彼女の声。

 

どれも戦場において明らかに異常、大前田なら余所見するなり大口叩いて相手を煽るなり油断する所であるが今彼女と相対しているのは死神の頂点に立つ男、山本元柳斎重國だ。そんな心配は無いだろう。

 

それが彼の命運を分けた。

 

 

 

たぁ

 

 

 

一瞬の煌めき、反射で背を思い切り反り返らせる。

音が後からやって来て、重國は反動で舞い上がった自慢の顎髭が顎下5センチ程まで消失している事に気付き年甲斐もなく小さな舌打ちを吐いた。

某映画のワンシーンの様なエビ反り体勢のまま今しがた後ろに飛んで行った〝何か〟の痕跡を辿る。重國の背後に佇む一軒家には向こう側まで抜けた〝穴〟がぽっかりと空いていた。

落ちた瓦礫の痕跡はどこにも無い。斬られた訳でも、抉られた訳でもない、文字通り消えて無くなった。

 

(防ぐのは悪手ッ!!)

 

そう直感した重國はバネのように身体をしならせ、老齢とはとても思えぬ柔軟な体捌きにて続けざまに飛来する〝何か〟を紙一重で避け続ける。

 

 

いつの間にか主武装だったハルバードは突き刺し地面に固定して、彼女の周りに漂うのは身の丈程もある巨大な大剣のような黒い塊。嘗て虚圏最硬度を誇るノイトラを一方的に葬った絶死の極剣。

 

極星凶剣(ガルガロア)

 

始祖の周囲に漂う固定化された虚閃が形を歪め形成された、ありとあらゆる物体を物理法則を無視して貫通、重なった部分を強制的に押しのけて暗黒空間に吹き飛ばすという狂気の代物だ。

 

一本でも掠れば致命傷、空気抵抗など当たり前のように無視して音速を超える速度で迫る死の塊に対し初見でその危険性を見抜いた重國は防御を捨て、全身を駆使し回避に専念する。

 

その最中一瞬だけ、顔を上げた始祖の骸と目が合った。

ぞっとするほど美しく、魂すら捕らえ優しく貶めるような奈落の瞳と目が合った。

肌が粟立つ、筋肉が萎縮し呼吸すら億劫になる程の狂気に呑まれかけ、危機を感じ直ぐに視線を切る重國。

 

完全に目を付けられた、彼はそう確信した。

 

途端、可視出来るほどの霊圧が黒い波動の柱となって始祖の骸から吹き上がる。部下の安否も一瞬頭をよぎったが、そんな心配をずっと続けられるほど脳のリソースを回せない。音速を優に超える速度で飛来する凶剣はぴったりと重國を狙い撃ち、マシンガンも真っ青の連射速度で今も建物を消し飛ばしているのだから。

 

白打の極限に至った重國の歩法でなければ今頃跡形もなく消失していた事だろう。

彼の通った後には文字通りなにも無くなり、時折曲射、偏差射撃まで織り交ぜた凶剣の雨あられが絶え間なく降り注ぐ。射線上の街並みはあっという間に瓦礫の山と化し、残った瓦礫もまた往復射撃で暗黒空間へボッシュートされていく。

どんどん更地になる空座の街を尻目に死と隣り合わせの回避劇を繰り広げる重國の頭は澄み切っていた。

 

(射撃の間隔は短いが…ある。如何に疾くとも両の手で剣を射出する以上隙が生じるハズじゃろう。)

 

 

あっ

 

つるり

 

 

間抜けな呟きと共にジェーンが極星凶剣を取り落とした。

この始祖、ノイトラの時からまるで成長していない。

 

その一瞬で足裏へ力を込めた重國は一足飛びに始祖の胸元へと跳躍し、全霊の一撃を放つ。

 

 

「《双骨》…ッ!!」

 

 

先程の一骨の強化版、両の拳で放つ山すら粉微塵に砕くそれは始祖の土手っ腹に直撃した。

 

「……ふっは!」

 

「なんという強度ッ…」

 

だというのに、吹き飛ぶ素振りすらないどころか笑い声すら上げる始祖、まるで何tもある鋼鉄の塊を思い切り…いやそれ以上の強度を持つナニカをぶん殴った気分だ。

殴ったこちらの腕に重い痛みが走るとは。

駆け抜ける空気の波紋が地面すら抉るなか、振動と衝撃で内と外から爆砕させる双骨を受けても尚よろけもしない鋼皮の頑強さに思わず驚嘆する。

 

だが手応えは確かに有った、そう捉えた刹那さっきまで周囲に点在していた星の大剣が宙に浮いたまま動きを止めて、またガクガクと小刻みに震えているのを目撃する。

 

「《極星憤刃(ギリガロア)》」

 

惚けた顔の始祖の呟きと共に全ての大剣が弾け、細かな欠片となってふわふわと漂うさまを重國は悠長に眺める暇などない。

これは次の攻撃の前兆だ。

 

太陽光すら反射しないほど深い闇の奥にキラキラと輝く星が見えるような、一枚一枚が星屑を思わせる剣の破片が猛烈なスピードで始祖の周りを乱れ飛ぶ。

 

例えるならば六番隊隊長、朽木白哉の操る斬魄刀『千本桜』の卍解に近いだろうか。桜の花弁を彷彿とさせるあの優美な斬魄刀と似て、歪に集まった破片はまるで壮大な銀河を思わせる程雄大で、危険であった。

 

「ムウッ!?」

 

そんな欠片達が動き出すより一足早く、大きく飛び退いた重國。次いで始祖の周囲が綺麗な網目状に細切れた。周囲にかろうじて形を残していた電柱や建物の残骸がこれを受け、小さな賽の目状にカットされていく。

極星凶剣が『点』を射貫く技なら極星憤刃は『線』を刻む技。

大きく跳躍し着地した重國はそこで初めて自らの左脚が切り裂かれ、負傷している事に気づく。幸運にも傷は浅く筋は無事で戦闘に支障はない。

 

「見えなんだか…」

 

死神最強と謳われたあの重國ですら目で負えぬ速度、彼女こそ理を超えた存在なのだと改めて悟り、そして悔いる。

思考を止めればそこで終わりだと。

 

重國が離れた事で動きを止めた『極星憤刃』は始祖の上空に位置しはるか上に漂う殺意の天の川から綺羅星の如く赤と黒の光が溢れ出す。

 

「《極星嘆弩(グラーガロア)》…ッ♡」

 

身震いと共に自分を抱き、恍惚の表情を浮かべる始祖はそう呟いた。

 

 

 

『雨』

 

 

真っ先に重國の脳裏に浮かび上がった単語だ。

仮初の宇宙から飛来する数千、数万、ともすれば数億もの暗い輝き、空を覆い尽くすあの光一つ一つが黒虚閃である、細いながらも一本一本が馬鹿げた出力を持つ破壊の塊に始祖の狂喜が感じ取れた。

 

 

諸君等は雨を避ける事は可能だろうか?

答えは否。どれだけ速く動こうと、どれだけ巧みな剣技を持っていようと、如何なる死神隊士問わず、たとえ隊長でさえ必ず一雫は雨に濡れるものだ。

 

なおこの状況下では濡れる=死、であるとする。有り体に言うとクソゲーだ。やってられるか、と匙を投げるだろう。

 

 

そう、並の死神ならば。

 

 

 

 

すらりと、徐に重國は腰の得物を抜いた。

 

 

「万象一切灰燼と為せ」

 

 

流刃若火

 

 

死の雨で周囲が穴ぼこだらけになる中、一箇所だけ無事な地面がある。太陽の如き炎を纏う太刀が目に見えぬほどの速度で立ち回り、降り注ぐ虚閃をたたき落としている。

重國がその巧みな剣技でもって自身に降り掛かる虚閃のみを切り伏せているからだ。

幸運な事にこの虚閃には先の凶剣のようなインチキ効果は付与されていないようで、物理的に対処が可能らしい。それでも並の魂魄なら消滅必至、隊長格でも一筋一筋が致命傷になり得るほどの濃密な虚閃なのだが…

 

(極限まで霊圧を込め、流刃若火に乗せてもまだ完全に焼き切れぬとはッ!!)

 

みるみるうちに地面が消えていく、これで現世には何のダメージもないのだから結界を拵えた涅マユリの技術力には重國も感嘆を禁じ得ない。

それ以上にトラブルメーカーだから差し引きゼロなのだが。

 

絶え間ない雨を捌く腕は止めない、その隙間を縫うように流刃若火の鋒を後ろへやった重國は刀身より吹き出した焔の勢いと歩法を掛け合わせ、ジェット噴射の要領で稲妻の如くジェーンへ肉薄する。

 

「…撫切」

 

火々大焼(かかたいしょう)

 

始解状態で至近距離から放つ爆炎の一刀、刀身に纏う焔が勢いと共にジェーンの身体を袈裟懸けにしようと振り下ろされる。

鋼皮でそれを受け止めたジェーンの腕には僅かに切れた様な跡が。

 

「あっははははぁ!!」

 

叫んだジェーンが両手を広げ重國へ掴みかかるが、瞬歩によって一瞬で距離を置く。

強度ではとても敵わないが速さでは圧倒的に重國が上だ。

 

「始解状態でもその程度か、こりゃ骨が折れるのう」

 

並の虚なら灰も残らない、十刃でも一部の強者を除き全焼してしまうであろう火力を真正面から受け止めても、始祖の鋼皮にはペーパーナイフ以下の斬れ味しか影響を及ぼさない。

だが確実に傷は負わせた、その事実は重國の脳裏に勝機を抱かせた。

 

「はて、お前さんを燼滅せしめるには幾太刀打ち込めばよいか…」

 

「その火力じゃ無理なんじゃないかなぁ〜?」

 

急な返答に嗄れた眉を顰める。

戦闘開始後、ここに来て初めて重國と始祖の会話が成立した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ〜〜いぜ〜〜んく~~~ん!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

突如として偽物の空座町に響き渡る大声。

 

始祖の骸が放つ、元気いっぱいで緊張感のない呼び掛けに思わず他の戦闘も全て止まってしまっていた。

 

「ふふ、何かなジェーン」

 

平子との戦闘中にも関わらずいつもの調子で、どこか愉快そうに応える藍染が返事したのを知ってか知らずか、ジェーンはその声量のまま言葉を続けた。

 

 

 

 

 

「本気、出すわ!」

 

 

 

 

ばちこーん☆と星が出んばかりの軽快なウインクにさしもの藍染も目を丸くした後、その明晰な頭脳を如何なく発揮し意図を察した彼は斬魄刀の柄に手をかけて、密かに彼女の友人たちへお節介を掛ける。

 

その他、呆ける者共が言葉の意味を理解するより先に、ジェーンの横に広がる黒腔(ガルガンタ)

そこから取り出すのは黒と金に彩られた彼女の斬魄刀(ハルバード)

 

瞬間、何かを察した重國は炎と共に斬り掛かる。

 

空座決戦が始まった当初より撒いていた《炎熱地獄》。

護廷十三隊諸共に宿敵藍染惣右介を焼き殺す為準備しておいた秘策を急遽寄せ集め、その極熱をひとつに束ねた一撃は受け止めたハルバードごと真っ二つに焼き斬る……ことはなく。

 

尸魂界最強の死神による炎熱系最強たる斬魄刀によって放たれた渾身の一撃を片腕で受け止めた始祖の骸は、煮溶けて真っ赤になったコンクリートの海で尚も笑い続けていた。

 

「ぬぅうううッ!!」

 

「何を焦っているのかなぁ〜?

もしかして、私が何しようとしてるのか分かっちゃった?」

 

「焦るとも…!

成れば必然、隊士ともどもこの仮初の街は瞬時に崩れ去るとな!」

 

「部下想いなおじいちゃん、ステキだね!

ぶっちゃけ私も2()()()だから、何が起こるかわかんないや!

でもぉ…藍染くんはきっとこうなるって狙ってるだろうし、今やりたいのはコレだから。

藍染くんの計画がご破算になったとしても、この脆い偽物の街が消し飛んで現世が滅茶苦茶になっても、スターク達もろとも君達が死のうとなんだろうと!」

 

 

ヤったらきっときっと、超気持ちいいよねえ♡

 

 

蕩けている、狂っている、酔い痴れている。

 

生まれて初めての斬った()ったに高揚しこの始祖は、このとき一切の我慢と忍耐を捨てていた。

 

鍔迫り合いの後、押し返され距離を取らざるを得なくなった重國に追撃とばかりに宙から黒虚閃の砲撃を浴びせかける。

 

それら全てを紙一重で躱し、捌き、受け切った重國へひとつ。

仮初の宙に拡がる絶望の天の川からひときわキラリと光る一筋の煌めきが目に留まった。

 

それはみるみるうちに距離を詰め、大気圏突入と共に摩擦熱で更に眩く輝きを増す。

 

それを目撃した意識のある護廷十三隊も、生き残った仮面の軍勢(ヴァイザード)も、破面でさえ瞠目しただ空を見上げていた。

 

地球の重力に導かれ自由落下する

 

質量約10万t、直径70m程の極小惑星

 

それは、紛うことなき

 

 

隕石である

 

 

 

「頑張ったおじいちゃんにプ・レ・ゼ・ン・ト♡」

 

 

 

眼前に迫る巨大隕石。

当たれば即死、避けられる訳もなく即死、仮に避けても地表に直撃するだけで偽物の町を守る支柱は全壊し本物が剥き出しになった直後に衝撃で辺り一帯は更地と化すだろう。

もちろん、死神、虚問わず大量に死ぬ。死に絶える。

太古の支配者であった恐竜を屠ったのと同じ要領で、空座の人と町は地図から跡形もなく消滅する。

 

もはや戦っている余裕などどこにもなかった。

現実に頭が追い付かず棒立ちする者達を捨ておき、いの一番に飛び出した重國にもはや躊躇など存在しない。

 

「呆けるな阿呆共ッ!

支柱を死守せよッ!!」

 

一喝したのち炎を纏い飛び上がるその姿、昇り龍のよう。

 

被害の規模を予想し、一刻の猶予もないと判断した彼の決断は早い。

 

己の自罰など此度の戦いにおいて勘定に入れる余裕など無くなった。

 

 

()()

 

 

《残火の太刀 東》

 

 

業火を纏っていた筈の重國の刃から一切の炎が消え、鋒が(けぶ)るだけの焦げ付いた太刀だけが残る。

落下地点の軌道上に辿り着き、上段の構えをとる。

「剣は両手で振った方が強い」と嘗て何度も剣術指南で門下生達に叩き込んだ、身体が覚えている作法で焦げた刀を振り下ろせばその鋒が隕石と触れ合った時、一瞬だけ火花が弾け。

 

巨大な落下物は縦に分かたれた。

 

『旭日刃』

残火の太刀、奥義のひとつにして鋒にのみ炎を集約させ触れたものを跡形もなく消し飛ばす焦熱の刃。

いや本来なら消し飛ばすはずなのだが、超質量かつ驚異的な速度を誇る隕石を完全に消滅させるには些か火力に不足した。

 

悟った重國の対応はまさに電光石火の如く。

 

猿叫と共に2つに裂けた隕石へと躍りかかる、続けざまに走る僅かな火花と共に瞬く間に細切れにされていく隕石は殆どの形を留めなくなった所で一万五千度の熱波に焼き尽くされた。

 

 

残火の太刀 西

『残日獄衣』

 

重國の体表より吹き出す超高密度の霊圧は炎となり、一千五百万度もの焦熱で近づくもの全てを焼き殺す太陽の如き鎧。

長時間使用すれば現世、尸魂界問わず致命的なダメージを与える事になるこの技を隕石の内側、遥か上空で炸裂させることで被害を最小限に留めたものの、溶けた隕石の欠片が町へと降り注ぐ結果は変えられない。

 

地表付近にいる隊士にはたまったものじゃないが知ったことか、ここらが消し飛ぶより余程良いのだから。

 

だが間一髪、甚大な被害を及ぼしかねない隕石を退けた重國の胸中にあるのは喜びでも達成感でもない。

 

(間に合わぬか)

 

してやられた。

 

それは眼下に、灼熱のシャワーもものともせずにこちらを笑顔で見上げる女。

奈落の瞳を爛々と輝かせ、心底面白くて堪らないと言わんばかりの表情で重國と視線を交わす。

これがかの大悪、藍染惣右介であるなら二の句を告げず殺しにかかろう。

 

だがかの始祖の骸はあまりにも未知が過ぎ、尸魂界でも指折りの長寿であり知恵者である山本元柳斎重國をしてなお底知れぬ。

 

だってこいつはまだぜんぜん、これっぽっちも、僅かばかりも、その実力の一端すら垣間見せていない。

 

 

ハルバードの柄が溶けた瓦礫へ突き立てられ、溶岩の海が裂けるように丸くぽっかりと穴が空いた。

刃先の根本からたなびくように霊子の旗が翻る。

 

まるで此処こそ己が領域だと言わんばかりに。

 

今から全速力で阻止しようとしても到底間に合わないだろう。

たった一言で準備は完了してしまうのだ。

重國に出来ることはその後、己の卍解でこの結界が溶け落ちる前にどうにか勝負を付けることのみ。

 

 

 

 

 

 

その瞬間

 

音も、空気も、何もかもが止まる

 

死神も、破面も、()()()()()()()()()()()()()も、藍染惣右介ですら

 

皆すべからく、同じ感想を抱いた

 

まるで世界が凍ったよう

 

奈落の底から(さそ)うように

 

宙の果てから(いざな)うように

 

人差し指を艶のある唇に添えて

 

まるで恋人の耳元で愛を言祝ぐかのような

 

優しく、甘く、囁くようなたった一言は焦熱と瓦礫佇む地獄の中でどんなに大きく爆ぜる焔よりもよく響いた

 

 

 

 

完璧で究極なカノジョの真名解放(帰刃)

 

 

 

 

 

 

 

「━━━阻め」

 

 

 

 

 

 

 

白骸妖星(オストガロア)

 

 

 

 

 

 












次回未定
待て、然して期待せよ
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