双頭の骸、虚圏に立つ   作:ハンバーグ男爵

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オイオイオイオイ、キャラ崩壊だわアイツ
の独自設定ありあり





三話 永久を彷徨う始祖の骸

 

虚圏は今日も満月、ずっと続く夜の世界。

事情を説明し、お友達になったハリベルさんから滞在許可をもらって、しばらく私とルドボーン君はこのコロニーに身を寄せる事になった。といってもこの巨体では建物の中になんて入れないので、専ら門番をやってるんだけどね。

ハリベルさんの高圧水流シャワーを毎日浴びるのを条件に、このコロニーの護衛もおこなってる。大体攻めてくるのは雑魚虚なのでご飯が増えたくらいにしか思わないけど、そんな日々も長くは続かないわけで。

此処で長いこと過ごしているうちに私の姿が知れ渡ってしまったようで、いつまで経っても落とせないコロニーに業を煮やし、遂に「虚圏の王」本人がここへ向かって進軍を始めたらしい。

 

ちょっと反省した、私のせいだ。

 

ごめんねってハリベルさんに謝ったら、「気にすることは無い、ここもいずれ使い物にならなくなるのはわかっていた。それでも私がここを護っていたのは中途半端に掛けた情のせいだ。

これでいい区切りがつく。」と言ってくれた。

 

虚圏の王、ルドボーン君に調べてもらったところ、名前はバラガン・ルイゼンバーンというらしい。いきなり現れて「俺は神だ!」なんて言ってるのでけっこう…いやかなり痛い虚なんだろう。あまり関わりたくない。

 

 

よし、逃げようか。

 

 

幸いコロニーの中の虚達はバラガンが攻めてくると聞いた途端散り散りに逃げ出してしまってる。今まで守ってもらった御礼とか言えないのかな?元々悪霊なんだし仕方ないんだろうけどさ。

残ったのは私とルドボーン君、ハリベルさんとお供の3人組だけだ。

5人を背中に乗せて、スタコラサッサとコロニーから脱出した。ルドボーン君の分身に確認してもらったところ、バラガン軍は無人のコロニーをあっけなく攻め落としたらしい。空っぽの陣地を落して拍子抜けしていたそうな。ざまあみそづけ。

 

そのまま宛のない旅を続ける私達、道中で大虚が沢山住んでいるという地下の森へ観光に行ってみたり、この世界では珍しく大きな建築物のある場所を通ったり、色々な場所を回った。

そして導き出した結論は一つ、この世界なんもねえ。観光名所とか、目玉スポットとか、なんもねえのだ。

 

「ジェーンはどれくらい昔から虚圏にいるんだ?」

 

ある夜、砂を掻き分けながらのんびり砂漠を進んでいると、不意にハリベルさんからそんな質問を受けた。

 

んー、正直時間の感覚が曖昧で、どれくらい昔かなんて分からないなあ…でも、私が生まれた時はこんなに沢山の虚は居なかったよ。結構虚圏中を回ってたけど、居てもちっこいトカゲみたいなのばっかりで、何も無い砂漠だった。

それを聞いたハリベルさんは心底驚いたようだ、目をぱちくりさせてる。

 

「ジェーン、君はもしかしたら、《始祖》なのかもしれない。」

 

なんのこっちゃ。

ハリベルさん曰く、虚圏という世界が生まれてから、今に至るまで、数多の虚が生まれては滅び、滅んでは生まれを繰り返す中、その循環に囚われない者が極わずかながら存在するらしい。

虚は強さを求める存在だ。喧嘩上等、弱肉強食、そんな連中が長生きできるはずもなく、いつか必ず自分より強い誰かに負け、食われる。故に虚は短命だ。なのに私はなまじ自我が強くてそういった揉め事を極力避けながら今まで生きてきた結果、まだ虚圏に小さな虚しか居なかった初期から今まで生き残っている最年長の虚になってしまったそうな。

そんな年長虚を後から生まれたものたちは《始祖》と呼び、珍しがってる。

 

あー、そういえば前に遊びに行った時()()()がそんな事を言ってた気がする。10割聞き流してたけど。

 

「戦いを避け続けているのに、どうしてそれ程の霊圧を放てるんだ…」

 

何故と言われましても…生まれつきとしか…

 

疑問は尽きないけど、私が長生きしてるのは別に大したことじゃないから。やりたい事やって、やりたくない事は極力やらない。いっぱい食べていっぱい寝ていっぱい遊ぶ!それだけ。

 

まあ前世じゃそうやった結果虚になって、イカちゃんボディの乙女になっちまったんですけどね…

いいなあ…人型…そっちの方が動きやすそうで…私もなりたい…同じヴァストローデなのになぜ…

 

「…?その姿の方が戦闘で有利を取れるのではないか?」

 

乙女心が分かってないなハリベルさんは!

なんて他愛ない話をしながら、私達は砂上を進む。

 

 

「だが、やりたくない事はやらない…そんな選択肢もあるのか…」

 

 

ちょろっとだけ、ハリベルさんがそんな事を呟いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………そういえば、ジェーン・ドゥ様は一体何処へ向かっておられるのですか?宛もなく進んでいるようには感じませんが…」

 

ハリベルさんのお供三人娘が1人、スンスンちゃんが急にそんな事を聞いてきた。

 

うん、まあね。ハリベルさん達のコロニーでお腹も膨れたし、そろそろ安心して眠れる拠点が欲しいなあって思ってさ。

場所は決まったから、建築を知り合いのトコに頼みに行こうと思ってるの。

 

「ジェーン・ドゥ様のお知り合い…」

 

「どんな虚なんだ?」

 

私の答えにアパッチちゃんとミラ・ローズちゃんも首を傾げている。

アイツはなあ…そうだなあ…

 

一言で言うと…変態

 

「「「「……はあ。」」」」

 

ハリベル'sは皆キョトンとした。

 

 

行けばわかるさ~

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

嫌な予感がする

 

この僕が「予感」などという感覚的なものに頼るなんて屈辱の極みだが、こればかりは仕方ないのだ。奴はなんの前触れもなくやって来るのだから。

奴を一言で表すなら〝災害〟だ。異常気象など存在しない虚圏においてなおその暴威は正に暴風雨の様。

嵐のように暴れ回る。主に僕の周りでな!!

 

…初めは奴を利用する腹積もりで接触したんだ、その筈だった。

《始祖》の虚、その身体に蓄積された莫大な情報を得るため、果ては僕自身が完璧な存在へと至る為に奴が必要だった。その為なら奴と多少馴れ合う恥辱にも耐えて見せよう。

だがッッ!!

 

 

ドッグワアアアアアンッ!!

 

 

「遊びに…来たッ!」

 

「せめて扉から入って来い貴様ァァァァァッッッ!!」

 

ラボの壁をぶち抜いて、今日も奴が来る。

 

ここまで頭のネジが飛んだ奴だとは思わなかった…ッ!

 

奴の名前はジェーン・ドゥ、この虚圏において唯一の《始祖》たる虚。虚圏創世記より生き長らえる始まりの骸。

奴の体組織を解明すれば、僕は真の意味で完成された存在になれる。完璧な存在へと昇華されるだろう。

 

本来ならどんな手を使ってでも捕え、ホルマリン漬けにでもして研究したいのだが、それが出来ない理由がある。

 

強過ぎるのだ。奴はとにかく強い、硬い、そしてデカい。何度もラボごと虚閃で吹き飛ばされた。

僕の蟲を使ってもなぜだか全て無効化されてしまう。注射針なんて勿論通らない、どう足掻いてもサンプルすら採取出来なかった。

 

「これで3608回目だ!貴様は何度僕のラボを破壊すれば気が済むんだ!?」

 

「えっ壊した回数覚えてるの?キモ…」

 

「当たり前だ僕は天才だからな。キモイ等という矮小な言葉で片付けるんじゃない!

因みにこの会話も既に455回やっているぞジェーン・ドゥ!」

 

そうしているうちに、出会ってから既に800年以上無駄な時間を過ごしている。耐え難い苦痛だ全く!

 

「ザエルアポロ様、タオルと水です。どうぞ。」

 

「む、ああすまないね。

…全く、君が居てくれなければマトモにアイツと会話する余裕も無くなるよ…」

 

差し出された水を一気に飲み干し、汗を拭う。人の話を全く聞かないアイツに何故か従っているルドボーンが居なければ、本来なら会話すら成立しない相手だ。

奴は獣と同じだよ。

 

彼の分身が瓦礫の片付けを始めたところで、嫌な予感しかしないがここに来た目的を問うてみる。十中八九碌でもない事になるのは間違いないが。

 

「それで?今日は何の用だ。

大人しくサンプルを採取されに来たわけじゃないんだろう?」

 

「家作って。」

 

「………は?」

 

「家よ家。ハウス、ホーム。

近々引っ越して拠点を据えようと思ってね、アンタに建築して欲しいの。

天才なんだから無から家を建てるくらい楽勝でしょ?」

 

「いやまあ天才の僕にかかれば家一軒くらい半刻あれば余裕で建築できるが、断る。」

 

「なんでよ!?私とアンタの仲じゃない!」

 

「仲など無い、あるとすれば僕と君は被害者と加害者だ!

損害賠償代わりに君の血液でも寄越し給え、それくらいしないと割に合わないだろ!」

 

「うっわ出たよ血液マニア、マッドサイエンティスト怖ー!」

 

2本の触腕をおどけるように揺らしながら抗議するジェーン・ドゥ、それだけで更にラボが崩れるだろ止めないか!ルドボーンの仕事が増えるだろ!

君も少しくらい主人に文句を言ってやれ!

 

「私はジェーン・ドゥ様のお力になれれば本望ですので。」

 

クソぅ!主が主なら従者も従者だった、揃いも揃って馬鹿ばっかりだ!

 

「ん~~まあいいよ、私の体組織が取れればいいんでしょ。あげるから家、作ってよ。」

 

「…何?」

 

「この前くしゃみしたら歯が抜けちゃったからそれあげる。新しいのは生えてきたから問題ないし。

歯でも体組織だからセーフだよね?」

 

そう言って奴は背中の虚に合図を出し、褐色の女型虚が巨大な牙を抱えて持ってきた。

 

「これでいいのか?」

 

「サンキューハリベルさん。

ほら、あんたの欲しかった体組織。」

 

「私の能力でもカット出来なかった。相当に硬い素材のようだ。」

 

なん…だと…?

あっさりと手渡されてしまった。

しかしこのまますんなりと奴に従うのも癪だな…などと考え込んでいたら、奴が突然。

 

「まだ足りないのぉ?しょーがないなー、無事に家作り終えたら残魄玉あげるからさー頼むよー。」

 

「残魄玉?なんだそれは。」

 

「私にも良くわかんないけど、蓄積されたエネルギーの結晶が丸く固まったやつ。

くしゃみすると偶に口から出るんだよね。奈落の底みたいな深い色の宝玉で、飾ると結構綺麗なんだよ?」

 

なんだお前、くしゃみで口から色んな物出過ぎだろう。

それはそれとして、エネルギーの塊!?それだ!それさえ解明できれば私は…!

 

「何をやっている早く支度しろ、さっさと家を建築して残魄玉とやらを頂くぞ!約束だからな!忘れるなよ!」

 

「おお~掌クルックルぅ…」

 

「そのうち手首捻じ切れるんじゃね?」

 

うるさいぞ外野!さあ出発だ!今すぐ出発だ!

この天才に任せるがいい、豪邸の1軒や2軒、劇的に建築してやろう!フハハハハハハ!!

 

 






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