双頭の骸、虚圏に立つ   作:ハンバーグ男爵

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「トレス・エスパーダはどっちもエロいよなあ…」って思いながら書いた話、始まるよっ

34巻表紙のネリエルとか、やばい(理性崩壊)









六話 奈落の星は蟷螂と踊る

 

 

 

 

…………嫌な予感がする

 

もう何度目だこの感覚は。いや気のせいだ、そうに違いない。確かに藍染惣右介は奴と接触を図ると言っていた。そして既に数年は経ったはずだ。

あの男は虚達を従え、我々は十刃と呼ばれるようになった。利害の一致したノイトラを利用する事によって十刃に対する『実験』も行うことが出来たし、藍染惣右介一行も近々虚圏へ拠点を移すそうだ。いよいよ死神との戦いが始まるのだろう。

 

最後に奴と話してしばらく経つ、まだ来ると決まったわけではな(ドカアアアアンッッッ)

 

な ん だ 今 の 爆 発 音 は

 

「ザエルアポロ~~ッ!!」

 

できれば一生聞きたくなかった声がラボに響く。oh......ラボの壁が…

 

「おっひさ~!会いに来てやったぞ!」

 

「出来れば一生会いたくなんて無かったけどなァ、ジェーン・ドゥ!」

 

奴が来た。

どうやら藍染惣右介のチカラでコイツも破面となったらしい。あの鬱陶しい巨体はなりを潜めて、人間の雌と同じ人型になっていた。

それでも壁を壊してやって来るのは変わらないのか……イカレ女め…

 

…なんて霊子の密度だ、傍から見てもすぐ分かる。ノイトラなんて比較にならないレベルの超高密度霊子、それが鋼皮に現れているな…化け物め。サイズが小さくなったことによってばら蒔いていた力が凝縮されたのか?

 

「ええい貴様、小さくなっても壁を破壊するのか!?そのサイズになれたのなら扉を使え馬鹿者!」

 

「いやー藍染クンからアンタの居場所聞いたんだけど、虚夜宮(ラス・ノーチェス)広すぎて迷っちゃってさー。壁ぶち抜きまくってやっと見つけたよ!」

 

「人の話全く聞く気ないな?お前の耳は腐ってるのかな?

……待て、『壁をぶち抜きまくった』だと?お前まさか…」

 

ハッと気付いて、慌てて奴がぶち抜いた壁の奥を覗き込む。

このラボまで一直線に道が出来ていた。

 

この女ここまで来るのに何枚壁を抜いたんだ!?

 

「28枚で御座います、ザエルアポロ様。」

 

いつの間にか現れたルドボーン、その分身達は石膏の入ったバケツと土木用のヘラが握られている。

 

「ルドボーン、君か。いつも済まないな…

奴も此処へやって来ていたんだな。」

 

「左様に御座います。

ジェーン・ドゥ様と私共々、藍染様によって《破面》にして頂きました。

荷支度の途中でジェーン・ドゥ様がお昼寝をして、数年経ってしまいご挨拶が遅れて申し訳ございません。

因みにここまで来る為にジェーン・ドゥ様が空けた穴は分身達が既に塞いでおりますので御安心を。」

 

ルドボーン優秀過ぎて目頭が熱くなってきた。

 

……そうか、僕の平穏はこれで脆くも崩れ去った訳だ。(遠い目)

 

「あ、これ昔あげた私の歯じゃーん。まだ持ってたんだ。」

 

「おい勝手に歩き回るなそこは無菌室なんだからそんな埃まみれの姿で入るんじゃない待て止めろその薬品に触るなせっかくの実験がパァになるだろ僕の従属官でお手玉するのを止めろ下ろしてやれ可哀想だろうが壁を壊すな壁を壊すな壁を壊すなというか一息にいつまで喋らせる気だ貴様アァァァァッッッ!!!」

 

ぜぇ…ぜぇ…

ッああもうキリがない!まだコイツがやって来て5分も経ってないぞ!

 

「ジェーン・ドゥ様。本日はザエルアポロ様にお話があった故、ここまで足を運ばれたのではありませんか?」

 

「お、そうだったそうだった。

今日は話があって此処まで来たんだよね、まあ座りなよ。」

 

「最早自分家(じぶんち)か。ここは僕の宮だぞ…いやもういい、話すだけ無駄だ。」

 

ルドボーンに諭されて、やっと本来の目的を思い出したようだ。

辛うじて生き残っていた椅子に腰掛けつつ、誠に遺憾ながら馬鹿の言葉に耳を傾ける。

 

「数字ちょうだい。」

 

……は?

 

「数字よ数字。ザエルアポロ、アンタ8番の十刃なんでしょ?

藍染君が言ってたんだ、『君には是非十刃の称号を手に入れて欲しいな。(声マネ)』って。

だからザエルアポロに頼めば何とかなると思って!」

 

なんだコイツ、妙に藍染惣右介の声マネが似ているのが余計腹立つ。

 

「馬鹿か貴様は、いや馬鹿だったな。

馬鹿の虚圏チャンピオン、愚かの極み部門第一位。優勝おめでとう、お前がナンバーワンだ。」

 

「やったー褒められたー!」

 

褒 め と ら ん わ

 

「十刃の数字が欲しいという事は、十刃を殺してそいつの持ってる数字を奪うという事だ。分かってるのか?」

 

「え、マジか。

ここに来る前にハリベルにも十刃の称号ほしーって言っちゃったよ。なんで驚愕してるのかと思ってたけどそれのせいかよ。ちょっと反省。」

 

今頃自分の宮でビクビク怯えているであろう哀れな第三十刃(トレス・エスパーダ)に心の中で合掌。

 

「えーじゃあ面倒臭いなー、ザエルアポロを殺しきるの時間かかるし…」

 

「待て、今から殺し合いを始める気か?」

 

「え?だって殺さないと数字貰えないんでしょ?」

 

轟、と霊圧が嵐のようにラボに吹き荒れて、心臓を握りつぶされるような感覚がどんどん強くなる。ギシギシギシギシ嫌な音を立てて空間が軋み、身が張り裂けそうだ。

破面となった事で更に霊圧が跳ね上がったなこの女。いや、研ぎ澄まされたと言うべきか。興味深い実験対象だが、今はそんな事を考えている暇はない!

このイカレ女は本気で僕を殺して十刃の数字を奪おうとしている!

 

この女は基本的に僕に対して友好的だが、奴の行動原理は『自分のやりたい事』が最優先される。この場合は『十刃の数字が欲しい』だ。目的達成の為ならどんな障害だろうと羽虫を落とす様に排除して欲しい結果を力ずくで奪い取る。

そしてもぎ取るだけの実力を有しているという余計タチが悪い女だ。

コイツは壊れているんだ。僕の事を笑顔で悪友などと呼んでいるのも只の気まぐれに過ぎない、目的達成の邪魔だと判断したらたとえ800年来の友人でも平気で潰し、殺す。まだ『敵』だと認識されていないだけラッキーだ。

 

コイツはそういう女だ、だから極力関わりたくないんだよ!

 

不味い不味い不味いぞ!過去のアレで体組織は手に入れたものの硬すぎて未だに解析できていないから、奴の底が分からない!(カス)と分離した為、僕の力も落ちているし、邪淫妃(フォルニカラス)の受胎能力もこの脳筋に効かない事は過去に実証済みだ!確実に死ぬ!なんとか奴の注意を別の十刃に逸らさなければ!

 

「お、落ち着けよ。何も十刃は僕だけじゃない。

他にも手頃な奴はいるだろ?そいつらを吟味してからでも判断を下すのは遅くないとは思わないかい?」

 

必死に平静を装ってはいるが発射直前の無数の虚閃を全身に突きつけられた気分だ。

「うえー探すのめんどくさいよー。」と凄く嫌そうな顔をしているが、コチラが折れるわけには行かない、命が掛かってるのだから。

ここが正念場だ!

 

「僕のラボなら虚夜宮内の全破面を監視できる、勿論十刃もな。それを使ってお前の欲しい数字を探してやろう。

だいたい8番なんて小さい数字、しょうもないだろう?下に2人しかいない。」

 

「んー、それもそうだなぁ。じゃあ探知宜しく!」

 

あれだけ吹き荒れていた霊圧の嵐が奴の笑顔ともに一瞬で消え去った。

…感覚で分かる、僕の従属官が20匹ほど死んでいるな。奴の霊圧に耐えきれなかったようだ。役立たずめ、と(なじ)るのは流石に気の毒か。

 

背に腹は替えられない、渋々ラボの電源を立ち上げて、探知を開始する。

と言っても十刃はいつも自分の宮に居るので探す必要も無いんだが。

さて、誰に生贄となってもらおうか…

 

「たしか藍染君の話だと、1番はもう予約が入ってて、0番と10番は同じ人なんだよね。名前は確かヤミーだっけ。」

 

「ああそうだな、というか0番を貴様にすれば良いだろう。昔の僕でも勝てなかったのなら、どうせ《始祖》に勝てる虚なんて居ないんだ。」

 

「そういうわけにはいかないみたいよ?

藍染クンも色々企んでるっぽいし。

あ、ダーリンは探知しなくていいからね。彼の数字は()る気無いから。」

 

字が物騒過ぎる。

 

「ダーリン?誰だそれは、そもそも何番の…」

 

「ダーリンはダーリンだよ。

第2十刃(セグンダ・エスパーダ)、バラガン・ルイゼンバーンは除外ね。」

 

「……なん…だと…?」

 

コンソールを動かす手が思わず止まった。

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

「…ア''ア''?なんだテメェ、俺の宮に何しにきやがった。」

 

男は目の前の雌の虚に向かって疑問を投げ掛ける。彼が男尊女卑の激しい性格と、十刃最強と自称する事をふまえて、ジェーンは此処へとやって来た。

ザエルアポロに探知させた情報を元に、ルドボーンとザエルアポロ(保護者2名)に引率され、なんとか壁を1枚も破壊せずに辿り着くことが出来た。が、保護者の1人、ザエルアポロ・グランツの額は汗に塗れ、息も上がっている。

 

「つ…疲れた…

まさかここまで連れてくるだけでこれ程の時間と苦労を要するとは…」

 

「…心中、お察し致します。ザエルアポロ様。」

 

道中何があったかは…ご想像にお任せします

 

「キミが第5十刃(クイント・エスパーダ)で合ってるよね?

私はジェーン・ドゥ。最近入った新顔だよ、宜しく!

それでね、君に頼みがあるんだけど…」

 

「オイ、さっさとこの女を追い出せテスラ。

雌臭くて適わねぇ。

ザエルアポロ、テメェもなんで俺んトコにこんな不愉快な奴を連れて来た?」

 

「キミの数字が欲しいんだけど…ダメ?」

 

「…聞こえねぇのか、雌。

出ていけ。」

 

この女、全く話を聞いていない。

しかしザエルアポロとは違い、彼はジェーン・ドゥ初心者だ。多少の会話の齟齬があるが許して欲しい。イライラするのも仕方ない。

 

「まあ落ち着けノイトラ、これは実験だ。

彼女は新しく藍染様に造られた破面、そんな彼女が君の数字を欲している。だったら後は分かるだろ?」

 

「戦えってか?この雌と?

……馬鹿も休み休み言えよ。ネリエルの時でもあるまいし、なんでわざわざこんな不愉快な奴と戦わねぇといけねえんだ。」

 

文句たらたらなノイトラに対して、彼女は天使のように晴れ晴れとした笑顔で笑いかけながら、告げる。

 

「聞こえなかったかな。

『数字ちょうだい』って言ったの。殺し合いしないと奪えないみたいだし、さっさとやろうよ。

アーロニーロやダーリンの所にも顔を出さないといけないんだよね。だからぱぱっと君を殺して♯5(クイント)の数字欲しいなって。」

 

「…………」

 

風が鳴った。

気付けばノイトラの巨大な斬魄刀の刃がジェーンの首へと容赦なくふり抜かれ、周囲の壁だけが吹き飛ぶ。狂刃はその柔らかそうな首筋を切り裂いて……いなかった。

 

「…あ?」

 

「あーっ!?壁が!何すんのさ!私の部屋になった時困るでしょ!?『立つ鳥跡を濁さず』って諺知らないの!?」

 

「…テメェ、イラつかせんのもいい加減にしやがれ。俺に挑む?頭イッちまって「てかここ狭いしさ、場所変えよ?外出よう!これ以上部屋壊したくない!」俺が喋ってる時に喋んなクソ雌がァァァッ!!」

 

激昂したノイトラが今一度凶刃を振るおうと、斬魄刀を振り上げた瞬間。

 

「だから壊すなって、馬鹿。」

 

 

ぐるんっ

 

 

世界は逆転する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

なん……だと…?

 

今ありのままに起こったことを話そう。

激昂したノイトラがジェーン・ドゥに切りかかり、斬撃が彼女の身体を突き抜けた。見間違いじゃない、ちゃっかり後ろにいた僕とルドボーンも同じ様に巻き添え食らった斬撃が身体を突き抜けて、後ろの壁が吹き飛んだ。

そして次の瞬間には、僕達は虚夜宮の外へ飛ばされていた。響転(ソニード)でもない、死神達の使用する瞬歩でもない。

完全に空間を移動している、点と点の移動…まさか…空間跳躍(ワープ)…なのか!?

 

あいつが何をやってるのか分からない。観察が足りない、解析が足りない、分析が足りない!

 

 

…ふう、僕としたことが取り乱してしまったね。大丈夫だ、深呼吸したら落ち着いた。

ああ、ルドボーン。水をありがとう。毎回出してくれるけど、君何処からそれ出しているんだい?異空間から?ジェーン・ドゥ様が出来るようにしてくれた?

…ルドボーン、後でじっくり話をしようか。

 

おっと、話が逸れたね。

ノイトラ、狼狽えているね。安心してくれ、僕も内心すっごい狼狽えている。ポーカーフェイス上手くて本当に良かった。こんなにも狼狽えたのは、奴から貰った残魄玉をうっかりぶつけてラボ(2026代目)が異空間に飲み込まれた時以来だよ。本気で死ぬかと思った。

 

「テメェ…何しやがった…ッ!!」

 

「だってあれ以上部屋壊されると私が使う時困るし。」

 

「もう俺から数字奪ったつもりでいやがる…クソ雌がァ!!」

 

すごいな、ノイトラの怒りゲージが天井知らずだ。これも記録として残しておこう。

 

「さっきからクソクソうっさいな…

でもここならいくら暴れても大丈夫!

さあノリスケ君、存分に殺し合いしましょう!」

 

「ノイトラだ、ダボがァッ!!」

 

ノイトラが剣を振り下ろす。

斬魄刀の大きさは持ち主の霊力に比例するが、死神達はそれをコントロールして一般サイズまで抑えているらしい。それは破面となった僕達にも受け継がれている。もっとも、ノイトラは自分の力を誇示するタイプだからわざと大きな得物を形成して威嚇しているのかもしれないが…

巨大な一太刀が砂漠を真っ二つに割った、砂煙が酷い。だが今僕はハッキリと見た。奴の身体に深々と突き刺さる刃を。だが…

 

「なーんで学習しないかなあ…」

 

「なん…だと…?」

 

ジェーン・ドゥは無傷だ。

一体何がどうなって…

 

「《明鏡止水(アスリスタ)》っていうんだけど、自身の体表に掛かる攻撃を全部後ろに流すの。斬撃も、衝撃も、虚閃も何もかも。

これを体表に隙間なく張ってるから、攻撃が私の身体を抜けたように見えるんだ。

面白いでしょ?いやあ破面化してから色んな技思いついて困っちゃうね。」

 

あははは、奴は笑う。

冗談じゃない!口で言うのは簡単だが、とんでもない超技術じゃないか…!これはまさか始祖の…

 

…いや、思い返せばコイツは昔からデタラメだった。

過去に1度だけ、まだ兄を切り離す前の話だが、僕はジェーン・ドゥと殺し合いをした事がある。自分で言うのもなんだが僕は強者である自覚があったし、一向に進まない研究に業を煮やして奴を本気で殺しにかかった。

結果は惨敗だ。近づくことすら困難だった。

仮に近付けたとしても、奴の装甲の前に虚閃は効かず、体内に侵入させた蟲達も強力な免疫を持っているのか一匹残らず死滅させられる。

あの両腕から絶え間なく発せられる変質した虚閃、際限なく降り注ぐ棘の雨。挙句の果てには重力バリアだの、超重力砲だの、ジェノサイドブレイバーだの訳の分からない単語を叫びながらこちらを蹂躙してくる奴と戦って、直接戦闘ではどう足掻いても奴を御せないと判断したんだ。

 

 

 

「まあ、こんな事しなくてもカリギュラ君の攻撃くらいなら鋼皮(イエロ)でどうにかなるんだけど…「ノイトラだって言ってんだろうがッ!!」あれ?ああそうだっけ、ゴメン名前覚えるの苦手で…」

 

三度ノイトラの斬撃がジェーン・ドゥの胴を真っ二つにし、衝撃が後ろに抜けていく。

 

「でさ、数字を貰う次いでにノイシュヴァンシュタイン城君で色々試そうかなって思ったの。

実験台、なってくれるよね?」

 

ニッコリと微笑むジェーン・ドゥ。

…ついに文字数まで合わなくなったか…

 

「てめぇ絶対ワザとだろ…」

 

「バレちった?(てへぺろ)

でも仕方ないじゃん、興味の無い奴の名前なんて覚える価値すらないんだし。

キミもどうせそういう質でしょ?

…十刃最強(笑)のノイトラ・ジルガ君?」

 

破面となった奴の人相も相まって、悪人面の酷い笑みだ。

悪魔、悪魔が居るぞ。誰かアイツを止めろ。

 

 

ぶちん

 

何かが切れる音がして

 

 

「━━━祈れ!《聖哭螳蜋(サンタテレサ)》アアアアッッッ!!!!」

 

 

砂漠が、爆発した。

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

「殺す!殺す!殺す!殺す!

内臓引きずり出して、体の骨全部砕き折って、その面二度と見えなくしてやるよオオオオオオオッッッ!!」

 

月下の砂漠で異形が吼える。度重なるジェーン・ドゥとのお話により、最早ノイトラの殺意は空間を歪ませるまでに至っていた。

だが、身を割くような殺気を浴びせられているにも関わらず、ジェーン・ドゥはからころ笑って、斬魄刀を呼び出す仕草もない。

 

「おわー見て見てザエルアポロ。

これが帰刃なんだねー。

すごーい、君はカマキリのフレンズなんだね!」

 

「…絶対バカにしてるだろう。というか前を見たまえよ。」

 

びゅうんっ!と聖哭螳蜋で増えた4本の腕から繰り出される斬撃が乱れ飛び、ジェーン・ドゥの後ろに抜けていく。

 

「クソッ!!刀剣解放しても抜けやがる!」

 

「あ、ゴメンゴメン。

明鏡止水切るね、このままだと理不尽だし、私も攻撃できないもんね。」

 

明鏡止水はあくまで防御の力、展開したままでは攻撃ができないらしい。

 

「何故自分の斬魄刀を持ってねぇ…無手で俺と殺り合う気かァァァッ!!」

 

「斬魄刀?あー…うん…

確かに、流石に無手は…時間かかっちゃうからヤだし。

でも帰刃は非常事態以外使っちゃいけないって藍染君から頼まれてるから無理なの。ごめんね。

だからさ、こうするの。」

 

極星凶剣(ガルガロア)

 

そう彼女が唱えた瞬間、目の前に生み出された黒い塊が大剣のような形を成し、地面に突き刺さった。

 

「……なんだい、あれは。ルドボーンは見た事が?」

 

「ありません。実際にジェーン・ドゥ様が人型で戦闘を行う御姿を見るのはこれが初めてです。」

 

興味深々と言った感じで観察する2人に対し、頭に血の上り切ったノイトラは喉が張り裂けんばかりの勢いで叫ぶ。

 

「んだァそりゃあ!オモチャかァ!?!?」

 

「当ったり〜!

《極星凶剣》はね、私の虚閃のエネルギーを無理矢理捻じ曲げて形を作ったものなの。

でも無理やりだから維持が長く続かなくて、剣としては使えない。だから……」

 

大剣を引き抜き、構える。構えるは構えるでも、それは投球モーションだったが……

 

「ピッチャー第一球、構えてぇ〜…」

 

投げたっ!

 

音が弾ける。音速を優に超える極星凶剣は一直線にノイトラへと迫り、その身体を貫こうと襲いかかった。

 

「ハッ!ンなモン叩き落として…」

 

「避けた方がいいよー、それ防御無視だから。」

 

ジェーン・ドゥがそう呟くのも聞かず、ノイトラは右腕の大鎌を二本振るい極星凶剣を捉える。その鋭利な(きっさき)が音速を越える速度の剣へ突き刺さり、()()()

それを彼が見た瞬間―――

 

避けろ

 

戦士としての直感だった。

 

感じるや否や思い切り身体を迫る剣から精一杯突き放す。

 

 

ガオンッ

 

 

剣が自分の右側を通過した

 

腕二本と右脇腹まで、消し飛んでいた

 

「うっ……ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ッッッ!?!?」

 

切断面から血が吹き出し、久しく感じていなかった激痛がノイトラを襲う。

油断していた訳では無い、ノイトラの鋼皮は十刃最硬を誇っている。それにもかかわらず、まるで空間ごと削り取ったかのように、ごっそりとノイトラの身体は抉られた。

 

「あーもーだから避けてって言ったのにー。」

 

「テメェエエ工ッ!!なんだ今のは!?

俺の鋼皮を簡単にぶち抜きやがって…!!」

 

「キミの鋼皮が十刃最硬ってのはザエルアポロから聞いてたよ。だから5番なんて中途半端な番号持ってるキミを相手に選んだんだ。手っ取り早いし、私と相性がいいしね。」

 

パチンっと彼女が指を鳴らすと、もう一本極星凶剣が現れ地面に突き刺さる。

 

「これさ、私以外に触れた物を何でも別の異空間に吹っ飛ばすんだ。現世でも、虚圏でも、尸魂界でもない、何処でもない暗黒空間にさ。

触れた部分だけ吹っ飛ばすから、傍から見ると消し飛んだ様に見えるんだなこれが。」

 

だから消し飛んだキミの右半身は、今頃粉々になって暗黒空間を彷徨ってるんじゃない?うける。

と笑いながら解説するジェーン・ドゥ。

 

ノイトラは状況を理解し、戦慄した。

たしかに自分の鋼皮は十刃の中でもっとも硬い。だが、硬いだけだ。奴の攻撃は防御力を一切無視して空間ごと身体を抉りとってくる。聖哭螳蜋も的を広くするだけで近付かなければ通用しない。あの女の言う通り、相性が悪過ぎる。

完全に仕組まれた戦闘だった。

 

「巫山戯んな…巫山戯んな巫山戯んな巫山戯んな巫山戯んな巫山戯んなアアアアアアアアッッッ!!」

 

「相性悪いよね、私達。だからとっとと終わらせよ?ね?」

 

数字ちょーだい?

 

ジェーン・ドゥの死刑宣告にも似た台詞。

 

「《虚弾・極星凶剣(バラージ・ガルガロア)》」

 

おびただしい数の虚弾(バラ)が禍々しい大剣の形を成し、彼女の足下に突き刺さる。

 

新しく生えた右腕を再び剣が素通りし、消し飛ばした。今度は投球モーションも一切無し、ナイフを投げるように軽々と。

 

当たれば即死の投擲が、連続で来る

 

「ウッ…ウオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!」

 

死を回避するには近寄るしかない。

笑いながら無駄のない仕草で無数の絶剣を放るジェーン・ドゥ。投げた剣の軌跡に沿って砂地が抉れて消えていく中、ノイトラは必死で走った。

距離を置かれたら負けだ、全力で近づいてこの女を一撃で切り伏せる。ただそれだけを考えて。

 

「お、なかなか避けるじゃん。」

 

笑いながら無数に生まれてくる大剣を、最早両腕が見えなくなる勢いでノイトラに向かって放るジェーン・ドゥ。

マシンガンのような勢いで連射される大剣をノイトラは移動しながら必死に避け続けた。

しかし投擲される大剣はぴったりとノイトラを追尾していて、中々逃れる事ができない。

 

不意に、避けそこねた一撃が彼の左脚を抉りとった。

血が吹き出し、激痛が走る。だが脚を止めるわけにはいかない。

 

つるり

 

「あっ、やっべ。」

 

その時、たまたまジェーン・ドゥが手を滑らせ、大剣を取り落とした。

 

ここしかない

 

片脚の力を限界まで振り絞り、ノイトラは跳んだ。そして未だ取り落とした大剣を拾おうと無防備になっているジェーンの首筋へ、残った鎌を振りかぶり、全力で叩き付けた。

自分の全力を込めた刃が彼女の首元へ吸い込まれ…

 

ッガアアンッ!!

 

鈍い音を立てた

 

「……は?」

 

意味が分からない、確かに自分は本気でこの女へ刃を斬り込んだ。刀剣解放した状態で、女はそれを無防備に受けた筈。さっきまでのように謎のバリアを張ってもいない、素の状態でだ。

なのにこれはなんだ?

 

ノイトラの刃は、彼女の首筋へ突き立てるも、その鋼皮を傷付ける事は叶わなかった。

 

「あーあ、やっちゃった。」

 

唖然とするノイトラに、ジェーン・ドゥは呟いた。

 

「えっとね、プライドが傷付くと思って言わなかったんだけど、全虚中最硬の鋼皮持ってるのは私だよ。

私ってば始祖だからね。君が産まれる何千年も昔から練り上げられた身体なんだ。『硬い』の一言で片付けられていいもんじゃないんだよ、私は。」

 

「なん…だと……?」

 

「あんまり戦いとか好きじゃないし、平和で楽しい方がいいと思ってるけど、こればっかりはね。

そんな私を差し置いて十刃最強とか、ちょっと世間狭すぎて笑っちゃうよ。」

 

「……始祖…?テメェが……?」

 

「うん、だいせいかーい。」

 

舌をペロッと出してニッコリ笑うジェーン・ドゥ。

 

「そんなに自覚なかったんだけどね。破面になった時ぴーんときたんだ。

始まりの虚、双頭の骸、虚圏を眺める奈落の妖星。《始祖》なんだよね、私。」

 

 

そっと、自身に剣を突きつけたまま固まるノイトラの左胸に人差し指を添える。

 

 

「《黒虚閃(セロ・オスキュラス)》」

 

 

「カッ……」

 

 

奈落より暗い、澱んだ力の激流が、ノイトラを飲み込んだ。

 

彼のプライドも、誇りも、矜持も、奈落の底に墜しこんで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月明かりに照らされる虚圏、その砂漠で一人、少女は笑う。嘗て5番だった男の首を握りながら。

 

「……うん、終わり終わり。これで私も……おん?」

 

ちりちりと焼けるような痛みが首筋に走る。少しすると収まったので、愛おしそうに指でそれをなぞり、にへらっと彼女は笑った。

右のうなじ付近には、『5』の数字が火傷の様に黒く刻まれている。

 

「うん…うんうんうん。これで良し。

コレどうしよっかな、頭しか残ってないし…

あ、そうだ!アーロニーロのお土産にしよっ!

腐っても元5番なんだからきっといっぱい強くなれるよ、喜んでくれるよね!」

 

「はい、きっとアーロニーロ様もお喜びになります。ジェーン・ドゥ様。」

 

「でしょ!?

ザエルアポロもそう思うよね?」

 

「…ああ、そうだね。」

 

「?なーに難しい顔してるのさ。

…もしかして私の遊びっぷりに感動したな〜?

ふっふーん、いいでしょう。今度ザエルアポロにも極星凶剣教えてあげるよ。

根性とやる気と虚閃の固定化と空間制御が出来れば余裕余裕!」

 

「(あれだけ暴れて只の『遊び』、か…)

後半二つはお前の固有能力だろうが…

ま、試してはみるけどね。」

 

「よく言った、さすが変態!」

 

「て・ん・さ・い・だ!!」

 

無邪気に笑う彼女を見ながら、ザエルアポロは1つだけ、心に決めておく事にした。

 

 

 

この女に付いていこう。極力反目せず、協力して、観察するのだ。

この化け物の後ろなら、自分は更なる力を得ることが出来る。

 

実験材料にするのはそれからだ

 

 

 

 

 

 

 

「そういえばノイトラも言っていたが、お前の斬魄刀はどうした。

1〜4番の連中はともかく、どうせお前も帰刃を禁止されているんだろう?

携帯くらいしておかないのか。不用心だな。」

 

「え?斬魄刀?

ああ、あれね。藍染クンに言われたんだ。

『斬魄刀を虚夜宮内で所持する事を禁止する』って。だから私の斬魄刀は今、家に置いてきてるよ。」

 

「斬魄刀の所持禁止…だと…?」

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

「…………」

 

「……藍染様。」

 

「良い、予定通りだ。

十刃を全員招集しよう。新たな仲間のお目見えだ。」

 

「…ええんですの?斬魄刀未開放どころか、未所持の状態でコレですよ。」

 

「何も問題はないさ、むしろありがたい。空間跳躍…ノイトラは無事役目を果たしてくれた。

彼女は我々以外に独自の方法で黒腔を操作出来る貴重な存在だ。引き続き観察を続けよう。」

 

「……承知致しました。」

 

「了解です……お、ジェーンちゃん達移動し始めたみたいやな。

アーロニーロにさっきの首渡して…お喋りしとる。」

 

「コミュニケーション能力も高いのか、本当に虚らしからぬ個体だ。興味深いね。」

 

「あの二人どんな会話するんかちょっと興味あるなあ…お、また移動するみたいやね。

今度はハリベルん所や。

………………揉んだわ。」

 

「……………揉んだね。」

 

「………揉みしだいてますね。」

 

映像越しにジェーンがハリベルの胸を揉みしだく映像は、茶菓子を差し入れに来たハリベルの従属官が彼女の無体を目撃し乱入するまでかれこれ30分ほど続いた。

 

 

 

その間、彼等は終始無言でモニターを見続けていた。






「大百科は次回に持ち越しや。」





つづこ

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