双頭の骸、虚圏に立つ   作:ハンバーグ男爵

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雑談回、多分次で護廷十三隊と接触する(接触するとは言ってない)





八話 雑談という名の駄文

 

 

 

「よっ…ほっ……ふっ…」

 

「まだまだ踏み込みが甘いぞ、得物の長さに振り回されるな!」

 

「せいせいせーい!」

 

「おお!?いい感じじゃねえか!」

「じゃあここいらで」『ヒトイキイレヨウヨ』

 

「そだねー。ルドボーン君、お茶くれ~!」

 

「かしこまりました、ジェーン・ドゥ様。」

 

レプリカのハルバードを振り回す手を休めて、椅子に座り込む。向かいにアーロニーロも座り、一緒にルドボーンのお茶を待った。

 

此処は第5十刃の宮、最上階。

要は新しい私のお家だ。虚圏のはなれに作ったあの家から引っ越して、今は虚夜宮に住んでいる。

因みに私の本物の斬魄刀(ハルバード)は昔の家に置いてきた。まあいつでも呼び出せるしいいかなって。掃除とかは向こうに残したルドボーン君の分身がやってくれてるんだって、有能かよ。

 

そんなこんなで今は、アーロニーロが食べた改造虚の中に居た死神、志波海燕って人になってもらい、長い得物の使い方を彼から御教授願ってる。

記憶も経験も、斬魄刀の解放すら自分の力としてコピーできるんだね、すごいや。

 

ただ、太陽の下でそれ使えないのって不便だよねー。虚夜宮は天蓋の内側に擬似太陽あるからアーロニーロ不利じゃん。

 

「全くだ。」『デモ、藍染サマニモオ考エガアルンダヨ、キット。』

 

ホントかなー、死神世界が恋しくて造らせたんじゃねーの?ホラ、虚圏はずっと夜だし、体内環境狂うとかで。

 

『藍染サマモ』「体調に気を使うもんなのか?」

 

 

「お待たせ致しました、お茶とクッキーです。」

 

ありがとー、いただきまーす!

 

『コノ前グリムジョーガ』「食わされてた奴だな。」

 

そうそう。あれは必殺技用のだけど、これは私が真面目に作った自信作なんだ。

アーロニーロ、最初は恐る恐る触手で摘んで喰虚が咀嚼した。

 

『……オイシイ』「甘いな。」

 

気に入ってくれたのか、もう一つ、もう一つと喰虚の触手がホイホイクッキーを掴んでは放り込んでいく。

 

偶には虚以外もいいでしょ?

 

「ああ、そうだな…」『虚トハ違ウ、優シイ味ダ。』

 

よしよし、アーロニーロには色々手伝って貰ってるからね。それの御礼だよ。バンバン食べちゃって!余った分は今度の十刃招集で皆に食わせるつもりだから!

グリムジョーとか食べそうにないけど無理矢理口に捩じ込む!

 

『獣二食ワセルニハ勿体ナイヨ。』

 

おう辛辣かよ。一応グリムジョーはアンタより上だぞ。

 

 

 

 

「俺にもくれよ、♯5(クイント)の嬢ちゃん。」

 

と、ベランダから現れたのは私が連れてきた新しい第1十刃(プリメーラ・エスパーダ)、コヨーテ・スターク君だ。後ろにくっ付いてるのは相方のラブリーマイエンジェル・リリネット・ジンジャーバック。

 

「今すげえ名前で呼ばれた気がした。」

 

無事藍染君に認められて1番の数字を貰ったようで、手の甲に1の数字が刻まれてる。

自分の宮を与えられて従属官も付けることを許されてるんだけど、何故かぼっちを続ける事に、そのうち話もされなくなって彼等は結局従属官無しでやっていくことになった。不憫な子。

 

ぼっち極まってんなあ…

 

「へいスターク、入るなら玄関から入ってきてくんない?

うちのベランダはアンタの発着場じゃないんだけど。」

 

「仕方ねえだろ、♯5より♯1(プリメーラ)の宮の方が高いんだ。わざわざ下から上がるよかベランダまで飛び降りた方が早えんだよ。♯9(ヌベーノ)の兄さんもいんのな、お邪魔してるぜ。」

 

「新入りの」『第1十刃カ。』

 

殺傷能力の高さで序列が決まる十刃。

ダーリン…もといバラガンの『老い』の力を上回ってスタークが一番だと藍染君が判断した理由は、「無限に溢れ出す霊力」だ。スタークは生まれつき霊力を本人の意思とは関係なく無限に体内で生成してる。それが漏れ出た結果周りの虚に害をなし、ぼっちが天元突破してしまっていた。そもそも身体を2つに分けるって芸当にどれだけ霊力割くのか…しかもリリネットの人格まで維持しないといけない量だよ?控えめに言って人間核融合炉だよね、スタークって。あ、虚か。

 

「始祖様のお褒めに預かり光栄ですよっと…ああ、すまねえなルドボーン。」

 

「いえ、ようこそいらっしゃいました。スターク様。

リリネット様もどうぞ、ミルクココアです。」

 

「マジで!?サンキューな!」

 

満面の笑みでルドボーン君の持ってきたココアをごくごく飲み干すスタークの半身、リリネットちゃん。

膝へおいでおいで…

はあ~リリネットちゃんきゃわわ、護らねばこの笑顔。

 

で、どうよスターク。虚夜宮の生活は?

 

「悪かねえさ。何より俺がそばに居ても誰も死なない…それがいい。」

 

そ、良かったね。

 

とまあ、これで十刃は全員埋まって、戦力は整った訳なんだけど。そうなるとそろそろ始まるんだよねえ…

 

死神達との戦いがさ

 

はァーめんど、マジめんど、破面化の恩がなかったら絶対従ってないよ。

 

「藍染サマ曰く、もうすぐ死神達と縁切るんだってよ。そしたら戦争だ。

あーあめんどくせえこった。」

 

腰据えて暮らせると思ったのになあ、とごちるスターク。

戦いなんて好きじゃない、でも死神側を裏切った藍染君が虚圏に来るなら、自ずと死神達も此処へ攻め込んで来るだろう。敵が来るなら迎え撃つしかない。

尤も、藍染君は私達破面と虚圏すら通過点としか考えてない様だけど。

 

この平穏な日々も終わりかあ…アーロニーロも気を付けてね、死なないように。

時にはプライド捨ててでも命優先しなよ。

 

「俺達の喰虚に」『敵ハ無イヨ。』

 

そうどーして破面は誰も彼も自分の力を信じて疑わないのかねー。不測の事態とか、万が一の保険とかあるでしょうに。

アーロニーロなら出来そうじゃない?万が一の為に喰虚を半分に分けてスペアの身体を残しておくとか。

 

『ソノ考エハ』「無かったな。たしか」『ソンナ力ヲ持ッタ虚ヲ昔…』

 

思い当たる節があるならやってみなよ、手が多いに越したことはないんだし。

 

『ソウダネ。』「今度色々試してみよう。他ならぬ」『友達ノアドバイスダカラ。』

 

うんうん

 

「…………」

 

なんだよスターク。私の顔じっと見て。

ガン飛ばしてんのか?お?

 

「いや、始祖サマは変わってんなって。

『生き残れ』なんて言う虚なんざ初めて見たよ。

俺達は虚の成れの果てだ。身内同士で殺し合いする事しか考えてないバカな連中なのに、アンタだけは『先』を見てる。」

 

急に真面目な話しだしたなこのぼっち♯1「誰がボッチだ!」

前にザエルアポロにも言われたよ。私は他の虚とは違う、「壊れた虚」だって。あんまり真面目に聞いてなかったから半分も覚えてないけどね。

私の『普通』は虚にとって『異常』なんだってさ。生き残りを最優先に考えるのも、戦いをできるだけ避けて生きるのも、全て虚のそれとは掛け離れた行動だって。

なんか馬鹿にされてると思ってザエルアポロは殴っといたけど、やっぱ私って変なのかな?

 

「…いいんじゃねぇの?」

 

「ジェーンは」『ジェーンダヨ。』

 

「私も、ジェーンはそれでいいと思う。

だってジェーンは優しいし、他の連中にはない良い所いっぱい持ってるし。

良くわかんないけどきっと、それが将来私達を助けてくれそうな気が…する…かな。」

 

リリネット、君が天使か

 

『僕タチモ』「過去にお前と出会っていなかったら」『自分ノ選択肢ヲ広ゲル事ナンテ』「出来なかった。全てを餌としか見ない」『亡者ダッタヨ。喰虚ノ可能性ヲ見出シテ』「くれた事には感謝してる。」

 

「とまあ、こんな感じだ。

周りからおかしいと思われていても、お前の行動に救われた奴だって居る。変だ何だと言われても、結局生きてりゃ勝ちだ。

俺はそう思ってるよ。

アンタは俺達に『選択肢』と『可能性』を与えてくれた。それに一端(いっぱし)の感謝はしてるさ。」

 

「カッコつけんなよスタークッ!!」バッシィ!

 

「ゴワァッ!?急にローリングソバットは止めろォ!!!」

 

うん、最後なんかカッコつかなかったけど、皆が私を励ましてくれてるって事は分かった。べ、別に落ち込んでた訳じゃねえし!?

当時それ言ったザエルアポロにも鉄拳制裁ぶち込んでラボごと木っ端微塵にしてやったし?気にしてないから!でも…

 

ありがとね

 

誰かに認められた事なんて今まで無かったから、ちょっと嬉しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

……それから暫くして、アーロニーロとスターク、リリネットが帰った後。

友達が帰った後の妙な静けさってあるじゃん?私の宮は今そんな状態だ。

 

んで。

 

皆帰ったよ。いつまで隠れてるのさ、藍染君。

 

「……気付いていたのかい。」

 

そりゃもうね、話を盗み聞きとか趣味悪いにも程があるよ。ちょっと正気を疑うんだけど。人の裸を視姦するに飽き足らず覗き見とは…私達のボスって変態だったの?

 

「君の裸を見た件に関しては僕にも弁明の余地はあると思うが。」

 

確信犯だよエロメガネ。

まあ座りなよ。ルドボーン君、彼にもお茶お願いね。

 

「かしこまりました。」

 

藍染君がさっきまでアーロニーロが座ってた椅子に座り、私と向き合った。

 

「他の十刃達と随分仲が良いんだね。」

 

でしょ?私ってば頭脳明晰容姿端麗ポケモンマスターだからね、慕われ過ぎて困っちゃうよ。ふははは。

 

「あまり難しい言葉を使わない方がいい、馬鹿に見えるよ。」

 

やっかましい!いらん世話じゃ!

 

 

 

…んじゃま、今日も悪巧みを始めちゃいますか。そっちの経過はどうなってんのさ。

 

「ああ、そうしよう。

間もなく尸魂界に敷いた布石は完成する、その際は現地映像を君にも見せよう。きっと良い見世物になると思うからね。」

 

お、いいね、ライブビューイングじゃん。

 

じゃあ私は前に言われた通り、いいタイミングで君達に反膜(ネガシオン)掛けて拾えば良いんだよね?

 

「その通りだ、多少演出を付けてくれても構わないよ。私の目論見通りなら、その場には護廷十三隊隊長格全員が集結するはずだ。驚かせてやってくれ。」

 

そんで前に言った朽木なんとかの魂魄の中に隠された崩玉を奪い取って、死神界からおさらばか…

ひっどいよね、部下を何年も騙し続けるなんて。

 

「信じた時間が長い程、裏切られた時の絶望は深く、動揺から生まれる隙も大きいものさ。」

 

それに傷もね。

あーあー悪のラスボスまっしぐらで、お姉さん罪悪感しかないわー。

 

「……お姉さん?」

 

そこを疑問形にするなエロメガネ。

 

 

 

藍染惣右介、死神界の裏切り者。

その頭脳と実力は並の死神の比ではなく、自身の目的の為なら長年連れ添った部下さえ駒として切り捨てる異端の死神。要するに黒幕。

 

『異端の死神』か。私も似た様なもんだけどね。

私は虚圏で受け入れられて、藍染君は尸魂界で受け入れられなかった。いや、自分から距離を置いたのかも。

普通と違う異端の考えは誰にも理解出来ないから、同調できる人もいない。ずっと、彼は一人ぼっちだったんだろう。

 

 

「…どうしたんだい?」

 

いんや、べっつにー?

あ、何度も言うけど、破面(私達)を使い捨てにするのは構わないよ。虚圏は強い奴に従うのがルールの世紀末縦社会だから、誰も文句は言わないし、君に言わせないだけの力があるのも知ってる。けどさ…

 

私のやりたい事邪魔するなら、本気で殺すから、そこんとこヨロシクにゃん。

力の差とか、思想の違いとか、余計なもん全部無視して心臓握り潰してあげるね。

 

「…ああ、分かっているよ。

同じはぐれ者同士だ、僕も君とは対等なままでいたい。

僕と同じ目線に立てる者は貴重だ。」

 

そんな大層な奴じゃねーですよ私。実際君ってば、私の事どこでもドアか何かかと思ってるでしょ。

 

「そのドアは何だか知らないが、僕は君の事を使い捨てようとは思っていないよ。それは本当だ。」

 

へーへー。

じゃ、お互い利害が一致する限り味方って事で。

 

「そうだね、まずはそういう事にしておこう。

我々は世界がどうなるかではなく、どうあるべきか語らなければならない。それが強者の責務なのだから。」

 

世のおば様方を虜にする甘いスマイルで微笑みかけてくるエロメガネ。ほんといい性格してるよ。

…絶対友達少ないよね。(ボソッ)

 

「友人の必要性を感じないだけだよ。」

 

ボッチはみんなそう言うよ、まあ…クッキー食べな。

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

侮っていた、と言わざるを得ない。

初めて接触した時は、最古の虚というものだから、従えて融通の利く駒として扱ってやろう程度の心持ちで始祖の下へ向かった。

が、蓋を開けてみればこれだ。

私に匹敵する霊力とそれに見合った霊圧、破面化した事により新たに発現した空間跳躍能力、更には尸魂界の密なる組織『零番隊』にも匹敵するであろう《始祖》の権能。黒腔の支配権を完全に得るなど、私やあの忌々しい浦原喜助でも不可能だ。我々は『技術』を駆使して黒腔を開くが、彼女の持つ絶対支配権には遠く及ばない。彼女がその気になれば、外から虚圏に侵入した者は永遠に夜の砂漠に囚われ続ける事になるだろう。

そして何よりも厄介なのは彼女の性格だ。

 

やりたい事だけやる

 

口にすれば簡単なそれを、行動に移すとなると話は別。彼女が目標と定めた道を阻むものがあろうなら、冷徹に、全霊を以てそれを踏み砕く…元♯5(ノイトラ)から数字を奪った時のように、羽虫を潰すが如く。

まるで要塞の様な彼女の帰刃と敵対すれば絶大な脅威として敵の前に立ち塞がるだろう。

 

だからこそ、今はジェーン・ドゥと敵対してはならない。すべきではない。

 

仮にそうなるとしたら、私が全てを手に入れた後だ。

 

幸いいつもの彼女は温厚だ。まあ、持ってくる厄介事に時々胃がこう…キュッとなる事があるが…それでも協力者としては破格の存在である。

 

「あ、そーだ。この前現世に黒腔繋いでこっそり盗って来たプリンあるんだけど食べる?

盗品食べちゃうとか、私達超悪役っぽいじゃーん?」

 

空間跳躍を使って瞬時に我々の目の前に皿とスプーンと、そして生クリームや切られた果実で装飾されたプリンが姿を現した。

なんて無駄な権能の使い方だ…

 

「おっほー何コレ美味しー!

これがあるから現世観光は止められませんなー♪」

 

頬を撫でながら笑顔でパクパクとプリンを咀嚼するジェーン・ドゥ。

この姿だけ見れば、年頃の生娘なのだが…現実とは残酷なものだ。

…そんなに美味いのか。そう言えば隊長になってから久しく現世に降りていない。ここは大人しくご相伴に預からせてもらおう。そう考え、プリンを一口含む。

 

ふむ、美味しい。

優しい甘みの中に感じるカラメルのほろ苦さ、果実の酸味も合わさって、舌先で幾重も味を楽しめる極上の品だ。尸魂界の羊羹やあんこ餅のような只甘いだけの菓子ばかりでは舌が馬鹿になってしまう、やはり定期的に外から刺激を得なければ。

 

「そんでさ、ザエルアポロに作らせる十刃専用オシオキアイテムの話なんだけど…」

 

「…興味深いね。だが君が主導というのが不安で堪らないよ。」

 

「とらすとみーとらすとみー。」

 

「ここまで白々しい態度は僕も初めて見た。」

 

 

この後も彼女と他愛ない会話を続けた。

 

久しぶりに食べる洋菓子の味は格別だ。

こういう時間を『束の間の休息』というのだろうか。何の変哲もない現状報告と世間話、なのに不思議と、彼女と過ごす時間を無駄だと感じることは無かった。

 

 

 









つづ…け…

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