「ハンバーグ男爵!?(仕事に)殺されたんじゃ…」
「残念だったな、トリックだよ…」
つづいた!
機は熟した、とでも言うべきか。
朽木ルキア処刑を阻もうとする旅禍達の瀞霊廷侵入。激動する瀞霊廷内で偽りの死を見せ、物語から退場したかに思えた男は、不遜に笑いながら再び決戦の舞台へと舞い戻った。
「…これが、崩玉か。
器となる魂魄を傷付けず摘出出来るとは、流石の技術力だ。」
納得したように藍染惣右介は笑い、取り出した崩玉を懐へしまい込む。
「だが、もう君は必要無い。
殺せ、ギン。」
「しゃあないなあ…」
━━━射殺せ、『神槍』
高速の刃が無防備なルキアの命を狙う。
しかし、悪意が彼女を貫くその刹那、割り込んだ何者かが己が身を挺してそれを阻んだ。
「兄…様…?」
「…………」
急所は外れている。しかし先の戦いで消耗した彼の体力はとうに限界に達しており、ルキアを抱えたまま崩れ落ち、膝を突いた。
止めを刺そうと近寄る藍染から庇うように、ルキアは兄を抱き寄せる。そうするしか手はなかった。
たとえそれが無駄だとしても。
含み笑う藍染が刀を振り上げようとしたその瞬間、一瞬にして二本の刃が彼の腰と首筋に突きつけられる。
「……久しい顔ぶれだね。」
「動くなよ藍染、筋一つ動かせば即座に首を刎ねる。」
隠密機動元総司令官、四楓院夜一。並びに現総司令官、砕蜂。尸魂界最速といっても過言では無いこの二人に加え、更に現れる影が増えていく。
気付けば護廷十三隊隊長格がほぼ総出で藍染達を包囲していた。
有り体に言えば絶対絶命である。しかし彼は尚も笑みを絶やさない。
「…何がおかしい。」
「ふ、ふふふ…いや済まない。
こうも予定通りに隊長達が集結してくれるとは思わなかったものでね。
「…?誰じゃ、彼女とは。」
ああ済まない、時間だ
「ッ!?!?離れろ砕蜂!」
「!?」
危機を感じた夜一と砕蜂は咄嗟に身を躱し、藍染から距離を取った。その僅か数秒後、四角く区切られた光が藍染、市丸、東仙を包む。
淡く光るその柱の名は《
一同が反膜の降り注ぐ光の出現を見る為、顔を上げたその時、空が裂けた。
まるで口が開くように、無数の黒腔が双極の丘をぐるりと取り囲み展開され、死神達を包囲した。
そこから現れるのは『死』だ。大量の
「なっ!?大虚がこんなに…」
「全部で500は居んぞ!?それにまだ奥に誰か…居る…?」
驚愕する彼等の視線の先には、メノスグランデの頭に腰掛ける少女の姿があった。
「やっほー藍染君、迎えに来たぞい。」
魑魅魍魎の群れに似合わぬ華奢な姿で霊子で編まれた髑髏の旗を突き立て、欠伸をしながら気の抜けた労いの言葉を藍染に向けて放つその少女の名は……
☆☆☆☆☆
あー視線が痛い、視線が超痛いよ死神の諸君。
瀞霊廷に旅禍ってのが侵入してから、藍染君一世一代の死んだ死んだ詐欺を経て、朽木……ルイ13世だったか何だったかの身体の中から崩玉を取り出すまで、単行本化するなら10巻分くらい掛かるだろう長い長い事件の末に、遂に私の出番がやって来た。
攻撃される可能性もあるから
とうっ!(手をかざす)
…………
…………
………………ドカーンッ!
ウワードコカラカトモナクハルバードガー!
ドンドンカベヲコワシテイクゾー!
カベガー!カベソノモノガー!
……ブンブンブン…
バッシィッ!!!
手元にハルバードが飛んできた。
よっしゃいい子だ、今日も絶好調!
……途中所々で破面の悲鳴が聞こえたのは気のせい気のせい。
何も起きなかった、いいね?
んで、通信機越しに藍染君の様子見ながら、いいタイミングだと思って迎えに行ったらコレですよ。せっかくギリアンいっぱい連れて、黒腔もバカスカ開いて派手に演出してあげたのにさ。
ちょっとしか驚いてないじゃん!何コレ!
もっと悲鳴上げるとかさ〜、あるでしょ?
よっしゃまだ威圧感が足りてないと見た。
ギリアン諸君、頑張って練習したコーラスの出番だ!
オオオオォォォォォォ……
ア"ア"ア"ア"ア"ァァァ…
ヴォアアアアア
ワ''ワ''ワ''ワ''ァァァ~〜♪
お、よしよし。流石に驚いたみたいだね。
あの巨体が突然歌い出したらそりゃ驚くよね、夜道に出くわしたら泣く自信ある。
あっ…なんか白い羽織着た人達がこっちめっちゃ見てる。
それにさっきからあのおじいちゃん私の事めっちゃ睨んでるんだけど、ひえ〜何あの霊圧、藍染君程じゃないにしてもこの中じゃダントツでヤバい奴だよ。殺すのに5分くらい掛かりそう。
「迎えに来てくれてありがとう、ジェーン。」
反膜の光エレベーターで上昇しながら、崩玉を手に入れてご満悦の藍染君はニッコリ笑う。
まー約束だし。もっと派手な方がよかった?
「何も問題無いよ、期待通りの働きだ。」
あそふん、よかった。
そのまま藍染君達を無事回収、反膜に包まれた時点で手なんて出せないんだけどね。
案の定、私も含めて死神達から睨まれる藍染御一行様。あ、白い髪したお兄さんがなんか言ってる。
そんで藍染君余裕の返し、煽りスキル高すぎでしょ私達のボス。
「私が天に立つ。」
そいでこのオサレ決め台詞ですよ。
特に意味も無く呼び出したメノスグランデ達にバイバイしながら、黒腔を1つずつ閉じていく。そして最後に私のいる穴を閉じようとした時、藍染君が切り伏せたオレンジ髪の子と目が合った。
うわなんだあの子、死神と人間と…虚?の力が混ざりあってドえらい事になってるがな。
私達に一番近いんじゃない。
それにお腹が切られてパックリ割れちゃってるよ、えっぐ。
あれがホントの腹筋崩壊ってか?ふひひっ
あ、やべ。自分で言っててちょっと面白かった。
笑ってる場合じゃない、帰ろ帰ろ。
じゃあね、ばいばーい。
☆☆☆☆☆
ゾワリと全身を舐めるような悪寒が身体中を襲う。
藍染に斬られたせいじゃねえ、白哉と戦った時の傷が疼く訳でもねえ。
穴の向こうにいた女、その深い紫色の瞳と目が合った瞬間に、それは起こった。
奴が笑った、たったそれだけで俺の全身から力が抜けて、汗が吹き出した。
『オイオイ、お前は理解してるはずだ。
アレは刃向かっちゃいけねえ存在だってよ。俺がそう思うんだ、お前が理解できない訳がねえ。』
頭の中で自分と同じひび割れた声が響く。
止めろ、出てくるな。黙ってろ。
『いいや喋るね!
俺達は「あっち側」だ、戦いを求め、血を欲し、ただただ殺戮を繰り返す獣だ!
だからあの女のヤバさが分かる!』
違う!俺は獣なんかじゃない!
『…ハァー、馬鹿が。
良いぜ、精々足掻いて見せな。
忘れるな、「俺」は何時でも狙ってるぞ。』
耳障りな声が段々遠くなり、遂に聞こえなくなった。ついでに俺の意識にも限界が来たのか、どんどん目の前が暗くなる。
そのまま俺は……
☆☆☆☆☆
かくして、旅禍達の起こした朽木ルキア救出作戦は一段落し、尸魂界は束の間の平和を取り戻す。
疑いの晴れた旅禍達は無事現世へと送り届けられ、護廷十三隊隊員達は、騒動の後片付けに追われていた。
藍染惣右介の裏切り、東仙要と市丸ギンの離反。未だに癒えぬ傷を抱えながらも、護廷十三隊は死神界の最高組織、故に一時も休まる暇は無い。
一番隊総隊長である山本元柳斎重國は、この日残った隊長格達に招集をかけた。
「皆、よく集まった。
藍染惣右介、市丸ギン、東仙要の離反で廷内が一時騒がしくなるじゃろうが、じき収まるじゃろう。」
火急の呼び出しにも関わらず、隊長不在の三、五、九番隊長以外の隊長が集結するあたり、彼の人徳が伺える。
「今日集まって貰ったのは他でも無い。かの大逆者、藍染惣右介とその一味について、儂から一つ伝えておかねばならぬ事がある。
皆は覚えておるか?藍染の開いた黒腔、その奥に佇む少女の事を。」
「あ〜いたいた。あの可愛い子ね。」
「兄は
隊首羽織の上から女物の派手な着物を来て、場の雰囲気全く無視でからから笑うのは八番隊隊長、京楽春水。それを呆れるように隣の朽木白哉は呟いた。
「左様、京楽の言う通り、大虚に座っておった旗持ちの娘じゃ。
…奴を見て違和感を覚えたものはおるかの?」
「感じた、と言われましても…」
「ああ、俺も見えたのはほんの一瞬だけで、直ぐに穴の奥へ消えてしまった。元柳斎先生は何かご存知なのでしょう?」
砕蜂が首を傾げ、それに同意した浮竹も同じ様子だ。あの場に居た他の隊長達も返す言葉がないらしい。
その中で一人、十二番隊隊長、並びに技術開発局局長である涅マユリだけが鼻を鳴らす。
「フン、無能共ばかりだネ。
私は現場には居なかったから解析機越しに奴らの去り際を観察していたが、多少気になる事があった。
総隊長が言っていたその娘、霊圧が無かったんだヨ。」
「なんと!?ならば彼女は人間…」
「違うネ、人間にも微粒子レベルではあるが霊力を持ち、ごく僅かなりとも霊圧を発してる。ウチのセンサー感度はそこらのものと比べ物にならない筈だ、なのに…」
マユリの言葉に隊長達は目を見開いた。
「霊圧が、全く無い…?」
「ああそうだヨ、全く検知できなかった。
四番隊隊長があの時伝えた通り、藍染の斬魄刀の力なら誤魔化す事も可能だろう。
…だが、それは我々の五感のみに働く完全催眠。霊圧検知の機械までも騙せるものかネ?」
他の者達がいやに静まり返る中で、マユリは続けた。
「では何故、あの娘は霊圧が全くなかったか。
私の仮説では、霊圧を何処か別の空間へ飛ばして隠していると考えるのが妥当だろう。
いや興味深いネ!是非研究させて欲しいものだヨ!」
つまり彼女が全く霊圧を放っていなかったのは、魂魄から漏れ出すはずの霊圧を体外へ放出される前に何処か別の場所へ吹き飛ばしていたから。以上が涅マユリの感じた少女への違和感の答えだった。
「へえ!良いじゃねえか、どっかへ逃がさねえといけねえ程の霊圧の持ち主なら弱えワケがねぇ。」
「お主は相変わらずじゃのう…
じゃが、涅隊長の言っとることは正しかろう。そして、儂は過去に恐らくあの娘に会っておる。」
「何っ!?」
「本当かい山じい。いいなあ、あんなべっぴんさんとお知り合いになれるなんてさ。」
「…兄はそろそろ黙れ。」
この後に及んでまだおちゃらける京楽を無視し、総隊長は言葉を続けた。
「まだ儂が年半ばの餓鬼じゃった頃に一度だけの。
そやつは一晩で十六の街を潰し、二万にも及ぶ魂魄を平らげた。」
「なん…だと…?一夜で二万…まさかっ!?」
「山じいそれって昔ボク達に話してくれた…」
元柳斎を師と仰ぎ、他の者よりも長く彼と時を共に過ごした浮竹と京楽はどよめいた。
門下生時代、何度も聞かされた。護廷十三隊結成より前の惨劇。
「うむ、彼方より来たる《厄災の星》。
嘗て尸魂界を絶望の淵に沈めた《始祖の虚》じゃ。」
「オイオイ待てよ、話が見えねえぞジイさん。」
頭を掻きながら呑気にそう言う更木に、元柳斎は皆へ向け語り始めた。
護廷十三隊結成以前、まだ組織体制の盤石でなかった頃、突如現れた巨大な影に飲み込まれた街と魂魄。刃向かうものには容赦なく死を撒き散らした、双頭の虚。
元柳斎の同期もこの時多くが犠牲となり、一時は世界のバランスが傾く直前にまで魂魄が減ってしまったらしい。
「あの時の禍々しい霊圧、儂すら怯ませるような威圧感、一度でも浴びれば忘れはせん。黒腔が開いた直後、一瞬だけあの時と同じ
杞憂であればと願ったが…」
どうやら彼は既に確信を得ているらしい。
「となるとそいつは破面化したのか。
黒腔の大量展開と無数のギリアンを従え、藍染救出の手綱を引いていたのも彼女だと…」
「日番谷隊長の提した可能性は捨てきれぬ。
現にあの時、その娘が出てきた途端、大虚が皆喚き出した。」
「確かに、あの叫びは何かを恐れ、また讃えるような声色だった…少なくとも今まで始末してきたギリアンはそんな真似はした事がない。」
刑軍として多くの虚を葬り去った過去を持つ砕蜂も、白哉の言葉に同意し頷いた。
「参ったねえ、藍染隊長は昔話の化け物まで手下に加えてたってのかい。」
「可能性は高いのう。崩玉が奪われ、彼奴等の動きは更に活発化する事じゃろう。
全隊に告ぐ、旅禍の侵入により各々思う所あろうが、いっそう鍛錬し、来るべき戦いの時へ備えよ!
崩玉を手に入れた藍染の目的も自ずと見えてこよう、決戦の時は遠くない。」
杖を床に突き、力強く言い放つ元柳斎に隊長達は思わず背筋が伸びる。
各々返礼し、それぞれの持ち場へ戻って行く中、残された元柳斎は一人呟いた。
「もし相見えるならば、決着を付けねばな…」
小さいながらも覇気を感じさせるその一言を聞いたものは誰も居ない。
☆☆☆☆☆
虚夜宮
「………………」
「……………………」
「…………ジェーン」
「………………」
「何故、ちょっと目を離した隙に僕達の私室の壁に大きな穴が空いているのかな?」
「…………」
「次いでに多数の破面から『大きなハルバードが物凄い勢いで壁を何枚もぶち破りながら飛んでいった』と報告があったんだが。」
「あ、藍染君メガネ取ったんだね!
エロメガネからメガネが無くなってただのエロに「ジェーン」あっはいゴメンナサイ。」
このあと滅茶苦茶壁直した
ちゃづけ