堪らぬ狩りを、罪溢るる異端の地にて   作:ホワイニキ

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こんな感じで不定期更新になると思います。息抜きですので。

追記:キャス子の描写を忘れてたので書き足しました。


二話

召喚されて24時間が経過した。カルデアにいる英霊や職員との顔合わせもだいぶ済み、一息つこうと狩人はマイルームのベッドに腰を下ろす。

そういえば初めて召喚先で24時間過ごしたな、と取り留めのないことを考えていると、マイルームの扉からコンコンという音が鳴った。来客である。

 

「私!立香!管制室に集合だってさ!」

 

マスターである藤丸立香がドア越しに狩人へ声をかける。

待ちに待った狩りの始まりが近づいているらしい。狩人は目を見開き、口を三日月に歪ませた。

 

「……ククク。やっとか、ああ、待ち侘びたよ。先に行きたまえ。少々準備するのでね」

 

くつくつと愉悦を抑えながら笑う狩人。目は血走り、まるで飢えているような笑みを浮かべる。

狩人がそんな凶悪な笑みを浮かべているとは露知らず、立香は活発な様子で、また後でねー、と去っていく。

 

ーー鎮静剤、獣血の丸薬、発火ヤスリ、雷光ヤスリ、石ころ…秘儀や仕掛け武器も全てあるな。カレル文字は……右回り左回り拝領でいいか。

 

ノコギリ鉈を変形させ、一振り。変形しながらさらに一振り。武器の不調もないだろう、とインベントリにしまい込む。

 

ーーああ、楽しみだなぁ…ヒヒヒ。新たな地の狩りは、いったいどんなものであろうなぁ…。

 

そう笑いながら、狩人はマイルームを発つのだった。

 

 

 

管制室につくと、あらかたの説明が終わっていたらしい。

すまない遅れた、と謝罪をいれ、向こうの地での振る舞いについて簡単なブリーフィングを受ける。

 

「劇団…かね?」

 

「左様! 舞台は17世紀のアメリカ・セイレムなる村だということ聞いたでしょう? そこの現地民に疑われぬよう、扮装するのですよ。

まあ、貴方の場合その格好でも良さそうな気もしますがね!」

 

ウィリアム=シェイクスピアがニコニコと破顔しながら芝居かかった口調で言う。

 

「構わない。狩りに必要なことなんだろう?私から言うことは何もないとも」

 

「フン、ならその怪しさ満点の服装を変えたらどうだ。コートはまだしも、そのマスクは自分が不審者ですと公言しているようなものだ」

 

何故か少年の姿をした毒舌家、ハンス=クリスチャン=アンデルセンがヤジを飛ばす。もっともなことだったので、それもそうか、と狩人は枯れたような意匠の帽子とマスクをインベントリに入れ、トップハットをかぶる。

 

「…これで如何かな?」

 

「その帽子はどこから出したとかさっきの帽子はどこにしまったとか聞きたいことは山ほどあるが、まあいいさ…うん? どうした名探偵。黙りこくってらしくもない。気になることがあるんだろう?顔に出ているぞ」

 

「…ミスタ・アンデルセン。私は別にお喋りな人間というわけではないのだが…」

 

シャーロック・ホームズが溜息を吐きながらアンデルセンに苦言を呈する。アンデルセンは底意地の悪そうな笑みを浮かべながら答えた。

 

「おっと、こいつは失礼した。なんせいつも偉そうに無駄に的を得ないご講釈を垂れてるからな。てっきりそうなのだと思った」

 

「…皮肉が今日も冴え渡るようでなによりだ。

…話を戻そう。私が狩人君に聞きたいこと、だったかね? 聞きたいことというほど高尚なものではないさ。気になった、程度のものにすぎないよ」

 

「気になったことか。構わない。好きに聞いてくれたまえ」

 

「そうかい? では遠慮なく。君は私と同じ国の出身で、しかもヴィクトリア朝時代の人間だと聞いていたのだが、少々服装の意匠がロンドンの流行と微妙に異なっているのでね。そこが少々気になったのだよ」

 

「…ふむ。聞くに貴公は祖国で大流行した小説の名探偵、らしいな」

 

「え、ええ。ホームズさんは19世紀後半にアーサー・コナン・ドイル氏が書いた小説のシリーズに登場しますが…。…たしか狩人さんもその年代出身の方でしたよね? ご存知ないのですか? 文化様式や過去の出来事を聞いてみても私たちの世界線ともあまり変わりません。ですからシャーロックホームズシリーズの小説だけが存在しない、ということはないはずでしょうし…」

 

マシュが考え込む。彼女の言う通り、狩人の世界線とこちらの世界線の歴史や文化の違いはあまりなかった。違いは魔術があるかないか、というだけである。

 

「ああ、申し訳ないが、知らない。ヤーナムは山の中の都市だと話したことはあるだろう?」

 

「うん。たしか来るだけでも一苦労する超ど田舎のくせに摩天楼やらでっかい教会やらがたくさんある都市みたいな感じだって」

 

「ああ。その通りだ。それに加えてヤーナムの人間はよそ者を嫌う。そこにいるシェイクスピアをはじめとする文化やら何やらはよそから入ってはいるが、よその流行なんぞ入ってくるはずもない。ましてや本なぞヤーナムに持ち込もうとする酔狂な人間はもっといないさ。来るのは血の医療に縋るしかない重篤な患者だけだ。……私もずいぶんと酷くあしらわれたよ。『関わり合いになりたくないんだ、帰れ』とね」

 

「よそ者嫌い…ですか。それは嫌ですね…。

えっと、じゃあシャーロックホームズシリーズもロンドンの流行も入ってこなかったのはヤーナムの「よそ者嫌い」故だろう、ということですか?」

 

マシュが微妙な顔をしながら狩人の話を要約する。

 

「おそらくは、な」

 

「…ふむ、そうかね。ああ、納得したとも」

 

マシュもホームズもとりあえずは納得したらしい。マシュはともかく、ホームズの場合は何を考えているかわかったものではないが。

 

「…さて、どうするマスター。正直なところ、俺はこいつを信用できん。だが、最後に決めるのはおまえだ」

 

シェイクスピアとは対照的なニヤニヤとした笑みを浮かべ、立香にそう問いかける。

 

「いいんじゃない? 敵意はないっていうんだし、わざわざ異世界から駆けつけてくれたんだもん。絶対いい人だって!」

 

最悪のことなんて何も考えていませんと言わんばかりの返答をする立香。

気配はあったが、想像以上に随分とお人好しのようだ、と狩人は心のなかで苦笑する。

 

「…私としても賛同しかねるな。彼には良い気が感じられない。具体的に言えば、血生臭い。……経験上、そういう輩は何をするのかわからない」

 

立香の呑気すぎる態度を見てか、ジェロニモが不安そうに眉を寄せながら彼女にそう耳打ちする。

立香はまあ大丈夫大丈夫、とジェロニモをなだめ、狩人へと向き直る。

 

「だって狩人は積極的に人を襲わないんでしょ?」

 

「ああ、獣に成り果てなければな」

 

「そういう冗談言ってる場合じゃありませんよね!?」

 

マシュが狩人の予想外の返答にツッコミをいれる。この場で言うジョークにしては少々ブラックすぎるジョークだ。

…狩人としてはジョークなど口にしたつもりはないのだが、それは言わぬが花というものだろう。

 

「ははは。まあ立香君もこう言ってるんだし、多分大丈夫さ。本当に狂った人間はそんな冗談、口に出来ないだろうしね。

……さて!そろそろレムナントオーダー、その最後になる指令を下そう」

 

ダヴィンチが弛緩した空気を締めるよう声を張り上げる。

 

「マスター・藤丸立香は本時刻をもって特異点セイレムに着任。

この特例中の特例の異変を無事解決し、帰還するように!」

 

ダヴィンチの言葉を区切りにレイシフトなる便利な装置が起動する。知らない場所に時間空間問わず行けるという凄まじい装置(本当は数多くの制約があるのだが、ここでは明記しないこととする)に、たった二百年でここまで技術が進歩するとは、と狩人は戦慄しながらセイレムへと発っていった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「…どうだい? 名探偵。彼は信用できそうかい?」

 

「…明言しかねるね。だが、たしかに胡散臭い。胡散臭さで言えば私やそこのシェイクスピアといい勝負だ」

 

「はっはっは! いやぁ照れますなぁ!」

 

「褒めてない。褒めてないぞ」

 

高らかに笑うシェイクスピアに対して突っ込むアンデルセン。

 

「ただ…隠し事があるのは確かだろう」

 

「おや、今回は『今はそれを語るべき時ではない』とかなんとか言ってはぐらかさないのか?」

 

「優先順位が低い謎だからね。彼からは悪意が感じられない。ならば優先すべきはセイレムの謎だろう?」

 

「ははは! それはたしかにそうですな。それに吾輩、彼の素性にももちろん興味ありますが、それ以上に彼が何をしでかすか、ということが非常に興味深い! 主にネタとして!

まあどのみち、今から止めようとしてもレイシフトの燃料はあと片道一回分。もはや事は動いています。いわゆる『髭が生えかけているのさ(I have a beard coming.)』というやつでしょうな!」

 

「ふむ、それについては俺も同意見だ。実際のところそこな劇作家と同じように、今はイレギュラーに頼らねばならないほどネタが欲しいんだよ、切実にな」

 

「…はあ、まったくこのロクデナシ三人組からは緊張感というものが感じられない。いくら立香君に対して悪意のないサーヴァントだとしても未知の存在なんだ。少しは警戒すべきじゃないかな?」

 

「何を言う。おまえも奴が何をしでかすか楽しみなんだろう? 態度でバレバレだ。」

 

「おっとバレちゃ仕方ないね。

ま、我々は裏方役。せいぜい彼らのサポートをするとしようか」

 

そうダヴィンチが締めて仕事に掛かろうとしたその時、一息ついていたサーヴァントたちにありえないことが転がり込む。

 

「もうマスターは特異点に向かってしまったかしら!?」

 

管制室に立香とともにセイレムに向かったはずのメディアがひどく焦った様子で入室してきたのだ。

先程旅立ったはずのサーヴァントが実はカルデアにいた、という不可解なことが目の前で起き、四騎のサーヴァントは目を見開いて驚く。

 

「これは……一波乱起きそうだ」

 

そう不穏に呟きながらホームズはため息をつき、モニターに目を向けるのだった。




《ノコギリ鉈》

狩人が獣狩りに用いる、工房の「仕掛け武器」の1つ

変形前は人ならぬ獣の皮膚を裂くノコギリとして、変形後は遠心力を利用した長柄の鉈として、それぞれ機能する

刃を並べ血を削るノコギリは、特に獣狩りを象徴する武器であり、酷い獣化者にこそ有効であるとされていた
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