他の方がお書きになったSSにはステータスがよく載ってますが、あれって考えなきゃいけないやつなんです? 要らないなら要らないで余計な手m……面d……げふんげふん。ネタバレのもとになるものは書かずに済むのですが。
昨晩、獣に襲われ、怪しげな儀式をしていた中心人物の一人であるアビーことアビゲイルとその他大勢の少女を助けた後、一悶着ありつつも藤丸立香一座はアビゲイルの伯父を名乗る男ーーランドルフ・カーターなる人物の家で一晩明かすことになった。よく眠れたとは言いがたいが、宿があるだけマシというもの。地べたに寝転び夜を過ごすよりは断然いい環境だった。
そして迎える翌日の朝ーーすなわち今朝。カルデア御一行の皆は用意してもらったオートミールを食べながら“これからどう動くか”という趣旨の会議と今まででわかったことの報告会をしていた。
「ーーさて、我々が擬似的に受肉していることは皆わかっているな。そうなった以上、空腹や戦闘能力の低下は避けられない」
サンソンがこの場を代表して話を切り出す。
そう、何故かはわからないがこの場にいる全てのサーヴァントが受肉していたのだ。それ故に戦闘力は低下し、腹は減り、眠気を感じる。
ああ、サーヴァントとはなんと都合の良い存在だったのだ、とこの場の誰もが思うだろうーー狩人以外のサーヴァントは。
なぜ狩人はそのようなことを感じないのか。それは単純な理由である。この狩人、霊体などというものにまったくもって縁などなく、つい2日ほど前までは元気に身一つで獣と血塗れで踊り狂っていたのだ。経験のない以上、霊体化、なるものがどういったものであるかなどわかりはしない。
まあ、カルデアにいた間はその霊体なるものだったのだが、そんなことの検証なぞ狩人がするはずもなく、聖杯から知識をもらおうと「見えなくなる? 青い秘薬を使わずに? そんなことできるか、アメンドーズでもあるまいし」などと思っていたのだ。
つまり、端的に言って頭が硬いということだろう。時代の流れについていけないタイプの男である。
問題の一つである「戦闘能力の低下」についても狩人は気にしていない。能力が変動するのは
まったく頭が硬いのか柔らかいのかハッキリとしてほしいものである。
ちなみに某火の時代の不死とは違い、別世界に侵入したり協力しにいったりするときは生身である。闇霊だとか白霊だとかにはならない。
「通信機の調子も悪い……マシュ、まだ繋がらない?」
お気楽思考の権化たる藤丸立香もさすがに真面目な顔でマシュに問いかける。
「はい……もう一度試してみたのですが……」
「それは困ったな……。ダヴィンチの発明も常にうまくいくとは限らないが、連絡が取れないというのは……」
「まふはあほへいふひほんはいははふほへは」
「まずはその粥を飲み込め、哪吒。おまえさんもうちょい知的なキャラじゃなかったかい?」
眉をひそめるサンソンに、何を言っているのかわからぬ哪吒。そしてそれを咎めるロビンフッド。
「しかしこの様子を見るに豊かな村ではないと見えるな」
「……同じ材料でも私のほうがよほど上手に作れる。料理に関心を払う余裕がこの街にはないのよ」
陰気な雰囲気を見てか、またもや暗い表情を浮かべる一同。
「私のほうは一通り村の様子を探ってきたわ。劇団の売り込みも軽くしておいたから、皆も話を合わせてちょうだい」
「もう周辺の調査を終えられたんですか? この午前中に?」
「さすが姐さんだ。やるべきことは迅速にってな」
マタ・ハリが言うには、ここは昨晩アビゲイルから教えてもらった通りの西暦1692年のセイレムで、村民のほとんどはピューリタンーー英国系の植民者であるという。
さらに彼女曰く、波止場には倉庫が立ち並び、英国本土や西インド諸島へ向かう船も停泊していたらしい。
だが史実上、1692年のセイレムには波止場など存在しない。
その上、村民の照らし合わせをしてみても史実上のセイレム村民と特異点のセイレム村民の顔ぶれが違っているという。
ロビンフッドが調査してきたという地形の情報もカルデアの歴史資料と異なる部分が多数あったらしく、前述したマタ・ハリの話も合わせると、ここが史実そのもののセイレムではないのではない可能性が浮かんでくるのは当然のことだろう。
「じゃあ……ここは偽物のセイレムってこと?」
「おそらくは……そうでしょうね」
ここが偽物のセイレムであり真に過去に戻ったわけではないのだとすれば、決して無視できない疑問が一つ浮かび上がる。
本来の住民である五万人の人間はどこへ行ったのか、である。
「さっきざっと見回って来たが……五万の人間が幽閉されてるような場所は見当たらなかったっすねえ」
「では、彼らはいったいどこへ行ったのでしょうか……。
……それともう一つ大きな疑問が。魔女裁判はどうなったのでしょう」
史実では1692年の時点で魔女裁判の告発が飛び交い始めている頃だ。だが現実には今現在のセイレムではそんな噂など出回っていないという。
これも、このセイレムが史実から逸脱したものだと判断しうる証拠になり得るのではないか?
「ここは平和な田舎の村だわ。……でも、それは表面的なものにも見えた。土地の所有権の食い違いが元で、険悪な様子で言い争っている農夫たちもいた。
……篤い信仰心の奥底に、きっと少なからず不満を抑え込んでいるのでしょうね……。年若い娘たちが昨晩みたいに抜け出して羽を伸ばそうとする気持ちもわかるわ」
「穀物庫も覗かせてもらったが、食料の蓄えも相当厳しそうだった。不作続きなんだろうよ。切り詰めて切り詰めて、やっとこさ冬を乗り越えた感じだ」
ロビンフッドが壁、天井と家の中を一通り見回しながら言う。ここは相当裕福な家なのだ、と。
「そもそも、近未来観測レンズ“シバ”が突発的に見せた映像が誤りだったのではなくて?」
「それは否定できませんがーー」
「おんやおや……もうお芝居のご相談ですか? よく眠れましたかねぇ、お客様がた」
会議がヒートアップしかけたところでカーター家の召使いーーティテュバが帰宅した。
流石にこんな怪しさマックスな会議を続けるわけにはいかないため、皆押し黙る。
「あ……はい。ありがとうございます。朝食まで用意してくださって……」
「いえいえ。お客様ですから」
マシュとそんな気の抜けたやり取りをしていたティテュバに、ちょうど良い機会だ、と今まで沈黙を貫いていた狩人が尋ねる。
「……貴公、一つ尋ねたい。先程、あの少女と親しげに話していたな。彼女との付き合いは長いのか?」
「へえ、カーター様にお仕えする前はアビーお嬢様のお父さまにお仕えしていました。アビーお嬢様とはその時からのご縁で」
「あの、アビゲイルさんのご両親は亡くなられた、と聞きましたが……」
「…………ええ。お二人とも、森で先住民に殺されましてねぇ……。アビーお嬢様も長いこと塞ぎ込んでしまって……本当にお可哀想でした。伯父のカーター様がいらしてくれなかったら、どうなっていたことか」
「……そうか、ありがとう。言いづらいことを不躾に聞いてしまってすまなかった」
「いえいえ、お構いなく」
「すまない、一つ尋ねたい。昨夜アビゲイルの友人とは別に、もう一人のーー」
「おんや、いけない。それじゃ、わたしは仕事がありますんで失礼します。どうぞごゆっくり」
会話が終わったタイミングでサンソンが何かを言いかけるが、ティテュバはそれに気づいた様子はなく、仕事へと戻るため、外に出ていってしまった。
そんなティテュバを見て、綺麗な人だなぁ、とぼけーっとしていたマスターにメディアがなにやら話しかけるのを尻目に見ながら、狩人は考える。
昨夜、脳が疼いたのは彼女たちがしていた儀式に対してなのか、それとも彼女たちの誰かになのか。
前者ならば話は簡単である。その儀式とやらはきっと上位者への道だろう。自分が率先してその儀式を為せば良いのだ。無論、メンシス学派のような大規模なことはできないが、それでも狩人は幾多のヤーナムを巡った身。多少は神秘のことにも詳しい。
だが、後者であったならば少し厄介だ。なにせ残念ながら、夜が明けてからというもの、あの心地よい感覚はめっきりなくなってしまったのだ。ヤーナムで行ったように、上位者に繋がるアイテム探しを一からせねばならない。新たな地での探索はそれはそれで乙なものだが、無論面倒であることには変わりない。出来る限り避けたいものだ。
ーーああ、楽しみだなぁ。ヒヒヒ。
だが、この地に上位者の足跡があるのは確実なのだ。素晴らしいことだ、と改めて感じる。オドン教会のアイツのようなセリフが出てしまうくらいには舞い上がっているらしい。
そんな不穏に尽きる思考を巡らせていると、外からマスターとあの少女ーーアビゲイルの声が聞こえてきた。
ふと辺りを見れば、狩人以外誰もいない。いつの間にやら皆狩人を置いて外に出ていったようだ。
狩人が家から出ると、件のアビゲイルが走り去っていくのが見えた。少々出遅れた感が否めないが、そこはそれ、狩人は思考の片隅に追いやり、カーター氏とティテュバ、マスターたちがいる場へと歩み寄る。
「ーーティテュバ、もう子供たちに故郷のことを決して話さないと誓いなさい。いいね」
「はい、誓います旦那さま……申し訳ありません」
どうやら全て片付いたらしく、カーター氏とティテュバはすぐに離れていった。本当に出遅れていたらしい。
狩人にとっては後から聞いた話だが、どうやらアビゲイルが昨晩行なっていた儀式がキリスト教ならぬ異教の儀式、それもティテュバの故郷の儀式だと言うのだ。
それを聞いたカーター氏はティテュバに罰を与えようとしたが、アビゲイルがそこに止めに入る。そのまま口論となり、マスターが仲介に入るものの、アビゲイルは感極まって走り去っていった、らしい。
この時点で狩人は一からアイテム探しをせねばならないことが決定した。
そしてこんな神秘に関わるどころか神秘そのものな身内話はマスターにはできないため、マスターとサーヴァント連中から隠れながらせねばならない。
このことに思い至った狩人は、道は長いな、と天を仰ぐことになるのだが、狩人の探索とは往々にしてそういうものだ。致し方なし、である。
そんないざこざがあったその後、マスターの発案でカルデア御一行はそれぞれ分かれて調査と劇団の呼び込みをすることになった。
哪吒とロビンフッドは海へ。
マタ・ハリとサンソンは村の中心へ。
メディアは家に待機し、ティテュバとカーター氏について。
マスターとマシュはアビゲイルの捜索と村の比較的安全な外周周辺の調査を。
そして狩人は本人の希望もあって村より外側の獣や敵対エネミーの調査をすることになった。無論、朝からずっと狩人を警戒しているサンソンがじっと自分を見つめていたことにも気づいている。
だがしかし。狩人にとって人から警戒されるのは慣れていること。それゆえにあまり気にしてはいなかった。むしろ警戒のけの字もないカルデアのマスターが異端なのだ。
そんなこんなでカルデア御一行はその通りに分かれ、調査を始めるのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
マスターとサーヴァントたちから分かれた後、狩人は昨晩レイシフトした場所に来ていた。狩人の夢へと帰り、この地に戻ってくる拠点となるランプを探すためだ。
多少例外はあるが、基本的に使者たちは転移などで着く場所にランプを掲げる。そのため狩人は落ち着いたら探索に来るために、と昨晩目印にこっそり硬貨を撒いておいたのだ。
だがしかし、カーター氏の家につき、貨幣経済がまだ存在していることに狩人は気がついたと同時に冷や汗を垂らす。
なにせ未来の硬貨とはいえ天下のグレートブリテン王国の硬貨。使われている金属もおそらく希少価値の高いものだろう。今回は無事だったが、硬貨を拾われでもされたら目印として成り立たなくなってしまう。
そのため、この手段は多用すまい、と狩人は肝に銘じたのだった。
「この辺りか」
硬貨を回収しつつ歩き続けると、少し開けた場所に着いた。篝火の跡もある。間違いない、昨晩アビゲイルたちが集っていた場所だ。
「……やはりここにあったか」
その篝火の跡に刺さっているのは見慣れたランプ。さすがは使者たちだ、と賞賛の言葉を口にして狩人は指を鳴らし、ランプを点灯させる。
「良し…と」
これで目覚める場所は確保できた。流石に死ぬことはないだろうが、武器が壊れでもしたときに夢に帰れなかった場合、大変なことになる。それゆえに是非やっておきたかったことを終え、狩人は肩から荷が降りたような気分を味わう。ヤーナムでは久しく味わっていなかった感覚だ。
「……あまり損傷はないだろうが、大事をとって一応やっておくか」
おそらくは大丈夫なはずだがもしものこともある、と狩人は水銀弾の補充と武器の整備のため、一度夢に帰還するのだった。
《輝く硬貨》
特に輝きを放つ雑多な硬貨。
獣狩りの夜に商うものなど皆無だが、夜道に撒けば道標くらいにはなるものだろう。
あるいは、遠い夜明けまで貯め込んでおくとよい。