堪らぬ狩りを、罪溢るる異端の地にて   作:ホワイニキ

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Bloodborneの小説が増えてきたので初投稿です

追記
こんな見切り発車の拙作を閲覧、評価していただきいつもありがとうございます。
この度、お気に入り数が1100件を突破しました。これも皆様読者の方々のおかげです。相変わらず遅い更新ではありますが、これからも見守っていただけると幸いです。

お目汚し、失礼いたしました。


五話

少女、ラヴィニア・ウェイトリーは恐怖した。必ずかの邪智暴虐で悍ましい狩人の記憶を消し去らんと決意した。

だが悲しきかな。トラウマとなった衝撃映像はこびりついて離れず、昨夜は一睡すらできなかった。そのおかげで目の下のクマがさらに濃くなったのは言うまでもあるまい。

 

「……はぁ……」

 

とぼとぼと村はずれを歩く。ウェイトリー家は村の中でも浮いている。そのため中心に近づこうものなら陰口後ろ指は当たり前のこと。ゆえに彼女はよっぽどのことがなければ近づかない。

そして浮いているがため、何より彼女自身の雰囲気も暗いため、アビー以外の友達と呼べる人物もついぞできたことはなかった。それどころか視界の端に己が入ろうものなら同年代の子は脱兎のごとく逃げるのだ。これには流石のラヴィニアとて傷つく。

そんなこんながあり、己から他者近づこうとはしなかったがため、そしてアビーとも疎遠——彼女自らが負い目から避けているのだが——なため、彼女はいわゆるぼっちというものに成り果てていた。

だが構わない。私は外なる神を降ろせればそれでいい。一族の悲願を達成できればそれでいい。

 

だがしかし、強がってみてもぼっちであるがゆえにとぼとぼと歩くことくらいしか暇をつぶす方法は彼女のなかには存在しない。

それに加え、今日はトラウマという爆弾を抱えているのだ。非常に、非常に憂鬱な気分であった。

 

そして最悪な事に、くだんの狩人が村のはずれ、昨夜の現場に近づいていくのが見えてしまった。

鮮明に蘇る昨夜のスプラッタ映像。ラヴィニアは1/1D8のSANチェックです。ラヴィニアが何をしたっていうんだ!

 

ぴしりと固まるラヴィニア。あまりの恐怖に身体が動かなくなったのだろうか、目尻にうっすらと涙がたまっている。

 

だが狩人はラヴィニアには気づかずに森の中へ入っていった。

無論、ラヴィニアは今すぐ逃げ出したかったが、賢明な彼女は狩人がアビーの家がある方向から歩いて来たことに気がついた。気がついてしまったのだ。

 

——ま、さか。

 

そう、思い至ってしまったのだ。狩人がアビーの家で寝泊まりをしている可能性に。

もし彼が、あの危険人物がほんとうに彼女の家に寝泊まりしているのなら——

 

——だ、め。守らなきゃ…私が守らなきゃ……!!

 

げに素晴らしきは人の勇気か。ラヴィニアは今、自らのトラウマを乗り越え友のために奮い立ったのだ!

 

——守護らねばならぬ。他ならぬ、このラヴィニア・ウェイトリーがっ!

 

そうして彼女は狩人が入っていった森に入っていく。彼が何者かつきとめるため、そしてアビーを守るために。

 

「……っ、……っ…!」

 

まあ、腰が引けていて涙目でおっかなびっくりそろりそろりと進んでいるのは多少の愛嬌だ。見逃しても良いのではないか。

 

ーーーーーー

 

森の中。ラヴィニアは狩人を視界に入れることすら恐怖なため、狩人が残した足跡などを辿り、かの篝火跡まで来ていた。昼とはいえ、ここは大人すらめったに寄り付かぬ森の中。いつ獣が出て来てもおかしくはない。それに加えてさらに鮮明に蘇るスプラッタ映像。ラヴィニアはさらに涙目になる。

 

そんなサド気質のありそうな大きいお友達にとっては非常にそそられる状態になっていたラヴィニアは、篝火跡に刺さっている、灯りの灯っていないランプのようなものを見つけた。

 

「……なに、これ」

 

一見するとなんの変哲のないランプ。魔術のまの字も感じられぬ、ただの物。しかし、ラヴィニアはなんとも言い知れぬ違和感を感じた。

 

「……?」

 

なにが自分の琴線にふれるのか、ラヴィニアは考える。しかし、一向にわからない。彼女は首を傾げる。

 

「……あいつの足跡もここで途切れてる……まさか、気づかれた?」

 

否。己の隠蔽は完璧だったはずだ。魔術を使った気配遮断は常人であれば決して破れない。

いや、彼が常人である可能性は限りなく低いのだが、彼からは魔術の匂いはしなかった。

 

——それどころか、恐ろしく、悍ましく、しかしどこか甘美な——

 

待て。今私はなんと感じたのか?

 

甘美、甘美だと? いったいアレのどこに甘美なるモノを感じたのか。

わからない、全くもってわからない。

 

私は決して虐殺に酔い痴れたいと願う異常者ではない。では何故、何故アレに甘美なる匂いを感じたのか。

 

「……ひとまず、離れよう」

 

まさしく謎が謎を呼ぶとはこのことか。

今考えても詮無いことと判断したラヴィニアは来た道を歩いていく。

 

ヤーナムの血もなく、啓蒙を授かってもいない彼女がランプを認識できたこと、それ自体が異常であるということには気づかずに。

ランプの付け根にいる数人の使者の全員が、じっと彼女を見つめていたことには気づかずに。

そして何より。ああ何より。ある■■■すらも彼女を見つめていたことには気づかずに。

 

ただ、神秘のひとかけらも得ることもできず、彼女はこの場を去っていってしまったのだ。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

狩人の夢から目覚め、あたりに徘徊していた獣を千景の錆にしてすることもなくなった狩人はアビーの家に帰宅していた。神秘の残り香を探すためである。

しかし、狩人はこの世界の『魔術』なる技術などは知りもしないため、まったくもって無駄骨としか言いようがない。収穫は当たり前だがゼロである。

 

アビーの家はダメだと判断した狩人は村はずれを歩く。ただなんとなく、そうすれば道があるような気がしたのだ。

ヤーナムでのあの敷かれたレールの上を歩いてエリアを歩くような感覚に似たものが、ある種の直感にも似たものが狩人を駆り立てていた。

 

のどかな田舎だ、と狩人は考える。

きっとヤーナムではこれほどのどかな場所はないだろう。自然溢れる場所ならばあのクソッタレた森があるが、普通は人喰い豚やら星界の使者やら蛇が頭から生えてくるやつやら巨大なヒュドラ的なエネミーがいる森はのどかとは呼ばない。

 

——ふざけんなあの蛇男三人。なんだあの頭悪い配置。巧妙に上からアイテムの存在がわかるように置きやがって。悪意か?フ○ムの悪意なのか?三人に勝てるわけないだろってか?ふざけんなちくしょうが死ね。上位者(プレイヤー)どもめ、おまえら少しは毎回毎回儚い瞳の島に突撃しては死に突撃しては死ぬ我々狩人や不死人、デーモンを殺す方の身を案じろ。糞が死に晒せ。

 

狩人はまた一つ恨みを募らせる。非常に危ないことを言っているが、これも啓蒙の為せる業である。狩人すら自分が何を言っているのかさっぱりわかっていない。

 

そんなこんなでてくてくと散策していく。

ふと傍を見ると、なにやら気になる館がぽつんと一軒だけ佇んでいた。

 

——なんだ? この時代に一軒だけの家とは珍しい。気難しい住人なのか、それとも村八分にでもあっているのか。

 

なんとなく気になる狩人。それをじっと見つめる。

 

そう。見つめてしまったのだ(・・・・・・・・・・)

 

 

——ぞくり。

 

 

ああ。

 

 

——ちょろり。

 

 

あれだ。

 

 

——ぐじゅり。

 

 

あれだ。

 

 

——ぐじゅり。ぐじゅり。

 

 

あれに違いない。

 

 

——ぐじゅりぐじゅり。ぐじゅりぐじゅり。

 

 

きっとそう。そうとしか考えられない。

 

 

——ぐじゅり。ぐじゅりぐじゅりぐじゅりぐじゅりぐじゅりぐじゅりぐじゅりぐじゅりぐじゅりぐじゅりぐじゅりぐじゅりぐじゅりぐじゅりぐじゅりぐじゅりぐじゅりぐじゅりぐじゅりぐじゅりぐじゅりぐじゅりぐじゅりぐじゅりぐじゅりぐじゅりぐじゅりぐじゅりぐじゅり——

 

 

「ハハッ ハハァハハハハハァハハハハァァハハハハハハハハハハァァッ!」

 

狩人は歓喜の叫びをあげ、思わず『喜び』のジェスチャーをする。

 

——見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけたァッ!

 

上位者の残り香だ。そう、きっとそうに違いない。

なにせ、瞳が疼くから。

脳の瞳が昨夜よりも激しく蠢き回るのだ。

 

ああ、愛しい上位者だ。新たな、ヤーナムのモノではない新たな上位者だ。

今度の上位者とはどんな堪らない狩りができるのだろう。今度の上位者の血はどんな味なのだろう。そして何より、どんな新しい思索を授けてくれるのだろう。

 

——ああ、僅かだが匂うぞ……。甘美で甘露な、青ざめた香りだ。くっくっくっくっく……。

 

そして、館から匂いが漂ってくるということは、上位者を調べている何者かがいるということ。すなわち、上位者に繋がる糸が存在しているということ。

 

——ついている。ああ、ついているなぁ。

 

生憎、月の狩人はウィレームやローレンス、ロマにカレル、そしてミコラーシュのような学者ではない。まったくの門外漢である。狩人にとって、出来ることなぞ思索することぐらい。それで精一杯なのだ。

それゆえに、人体実験などでデータを取っていたりアイテムを揃えていたりする研究者は非常にありがたい。それを強奪して、思索の根拠にすることができるからだ。

 

——実験棟は素晴らしかったなぁ……。データの宝の山だ。教会がアレを秘密にしているはずだよ。アレをメンシス学派にでも見られれば、恥をかくとともに貴重な智慧が奪われるのだからなぁ。

 

くつくつと笑いながら狩人は館に向けて歩を進める。

願わくば、貴重なアイテムやデータ(テキスト)があらんことを。

 

ーーーーーー

 

青い秘薬を飲み、開いていた窓から入り込む。

青い秘薬は純然たる医療薬であるため、魔術師にもよほどのことがない限りは気づかれない。こういった侵入等に適した狩り道具だ。

 

狩人は手当たり次第に部屋に入り、上位者に関係ありそうな書類やアイテムを探していく。

 

——二階より上にはないな。匂いがしない。であれば、一階、もしくは地下か。

 

そう考えていると、本棚がひとりでに動き出した。隠し扉である。

狩人はすぐさま物陰に潜んだ。

隠し扉の向こうからは家主と思われる偏屈そうな爺がのそりのそりと出てくる。そして、匂いも爺が出てきた扉の向こうからするようだった。

 

扉が閉まる瞬間、爺に気づかれない速度で滑り込む。お目当てのものがすぐ目の前にある。狩人は興奮が抑えられなかった。

 

——ああ、もうすぐだ。楽しみだなぁ。

 

昼間だというのに随分と暗い。どうやら通気孔だけで、窓の類はないらしい。狩人は携帯ランプを腰につけた。

薄暗い通路を歩き、地下に繋がる階段を降りていく。

 

ギィと音のなるほど古びた扉を開けるとそこにあったのは、狩人には見覚えのない、錬金術師の魔術工房だった。

おそらくは当たりである。これほど怪しいものを隠しているということは見つかっては困るものだということ。

魔女裁判の件もあることだし、これが村のピューリタンにとって冒涜的なものであるという自覚はこの館の家主にもあるらしい。

 

狩人は辺りを見回すと、ライティングデスクの上にある日記を見つけた。おそらくは家主のものであろう。

 

狩人は日記を開いた。

 

 

————●年▽月△日

 

ああ、外なる神よ。何故この地に降臨なさらないのか。

我らは特別な知恵がある。かの神が真実だということ。現実におわすということだ。

だが何故、ああ何故我ら一族の現前ににその身を現してくださらないのか。ああ、何故。ああ。

 

 

————△年▽月△日

 

私はたまにしか日記を書かないが、まさか何年もの間が空くとは思いもよらなかった。

以前いたとされる外なる神の信奉者の遺した書を読み解き、一つのことが分かった。

外なる神が降りる条件は祈りではない。物質的な何かだ。

病魔が巣食う獣の内蔵か? 生きたままホルマリン漬けにした畸形のネズミか? わからない。だが、諦めん。諦めんぞ。実験を繰り返し、必ず突き止めてやる。

 

 

————☆年$月◆日

 

様々なことを試した。

生きた獣を八つ裂きにし取り出した内蔵。錬金術で組み替えたキメラ。虐待に虐待を重ねた獣の怨念が篭った脳。いずれもダメだ。

そろそろ別のものを試す頃合いかもしれない。

次は人間のパーツを使ってみよう。

 

 

————▲月△年◎日

 

生きた赤子の頭はダメだった。削ぎ落とした罪人の指もダメ。

森で彷徨ってた子から取り出した新鮮な心臓も。脳も。もちろん奇形児のパーツもダメだ。

いったい何が必要なんだ。何が。

 

 

————☆▲年$月☆日

 

なぜか水夫が象牙の書の写本を持っていた。無論、頂戴したとも。

これを読み解けば、悲願は達成されるのだ。やっとだ。待ちわびた。素晴らしい、素晴らしいなぁ。

 

 

————●●年▽月◆日

 

象牙の書をやっと読み解けた。

今までの研究はなんだったのだと思った内容ではあったが、無駄ではない。

今までの結果をもとにできた魔術触媒もあることだ。これからが楽しみだ。

 

 

————●●年◎月▽日

 

そうだ。依り代が必要だったのだ。特定の何かではないのだ。

かの神が降臨するには縁が必要。だが今現在それは地球上には存在しない。

ならば作ればよい。他ならぬ、外なる神を知る我々が。

偽りの主を信奉する愚かなピューリタンどもに目にものを見せてやる。

主などいない。決して、そんなものが存在してはならない。

 

 

————●●年◎月△日

 

我が娘だ。依り代には我が娘を使えばいい。母胎となれる娘を使い、神を降ろすのだ。

ああ、これしかない。娘には幸運なことに前々から外なる神に関する術式を教え込んでいる。何という僥倖。まさしくこのためだけに存在していたのだ、我が娘は。

さて、そう決まったのなら早速準備をしよう。いあ、いあ。

 

 

————●●年◎月□日

 

儀式は失敗した。何故だ。象牙の書に従い、呼ぶところまでは上手くいったのに。何が足りなかったんだ。

だが諦めん。諦めんぞ。外なる神を呼んでやるのだ、いつか。いつか必ず。我が一族の手で。

 

 

狩人は歓喜した。喜びの叫び声を上げるのを我慢するので精一杯だった。

象牙の書などの魔導書。なんとしてでも手に入れなければ。

 

狩人は目につく内蔵やホルマリン漬けなどの冒涜的アイテムや書類、本。何かに使う道具やお目当ての象牙の書になぜかあったネクロノミコンなる書をかき集め、全てしまい込んだ。

 

そして、まるで引越しの準備が終わった後のようになった地下室を一瞥し、青い秘薬を飲む。

狩人は階段を登り、本棚の隠し扉を教会の石鎚で叩き壊し、窓をまたもや石槌で叩き壊して館からすみやかに脱出する。

 

一つ歌でも歌い出したくなるほど上機嫌な狩人は、背後から響く野太い悲鳴をBGMに、スキップをしながらカーター氏の家に帰るのであった。




《青い秘薬》

医療教会の上位医療者が、怪しげな実験に用いる飲み薬。それは脳を麻痺させる、精神麻酔の類である。

だが狩人は、遺志により意識を保ち、その副作用だけを利用する。すなわち、動きを止め、己が存在そのものを薄れさせるのだ。


《教会の石槌》

特に医療教会の狩人が用いる「仕掛け武器」。

扱いやすい銀の剣と巨大な石の鈍器という、極端な二面性をもち、特にその後者は「重打」の特性と大きな衝撃力が特徴となる。

医療教会の工房は、狩人の「仕掛け武器」の二派の一方であり、かつて聖堂街のどこかに、ひっそりとあったという。
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