超能力青年 ウ☆ホンフー   作:変わり身
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――暁美ほむらは、魔法少女にして時間遡行者である。



1話 魔法の力は感じない

 

 

「…………」

 

 

夜。

街の光さえもが失われ、月明かりがより一層の輝きを放つ時間帯。

白と紫を基調とした制服姿――魔法少女としての衣装に身を包んだ暁美ほむらは、暗闇に沈む見滝原の街を飛んでいた。

 

電柱を越え、屋根を越え、ビルを越え。魔法によって強化された脚力で持って、この街の誰よりも月に近い場所を行く。

それは彼女の美貌と合わせ、一種幻想的な光景でもあったが、しかしその瞳は氷のように冷え固まり。厳しく細められた眼差しだけが目的地へと注がれていた。

 

 

「――……」

 

 

トン、と。

街外れに鬱蒼と広がる名もない森林地帯、その中心近く。天高くより比較的木々の疎らな場所を見つけたほむらは、事も無げに着地した。

そして直後に、左手に装着した砂時計を内蔵する円盾の内側より拳銃を取り出し、油断なく周囲を警戒。何者の気配も無い事を悟ると、慎重に森の奥へと進んでいく。

 

 

(……予想より、険しい)

 

 

上空からは木々に覆われ分からなかったが、意外と傾斜のきつい場所のようだった。

足元は非常に悪く、加えて周囲は暗闇に沈み一歩先を見る事すら困難を極める。魔法による強化があるといえど、進みづらい事に変わりはない。

 

ほむらは照明を取り出すか少しだけ迷い――すぐに考え直し、盾に伸ばしかけていた手を離す。

情報によれば、ここは既に『テリトリー』の内部である可能性が高い。このような場所で光を扱うなど以ての外だ。

 

余計な事をして無用な騒ぎを起こす愚かな自分は、遥か過去へと捨ててきた。その筈だった。

 

 

「――、――。――……」

 

「!」

 

 

そうして、どれ程の時間を歩いただろうか。

そろそろ肉体への疲労が誤魔化せなくなってきた矢先、ほむらの強化された聴力が何者かの声を聞き取った。

 

……見つけた、のだろうか。

ほむらは咄嗟に付近の木陰へ身を潜めると、声のした方角を注視する。

 

 

「……の移動は問題なく済んだ。計器類も正常、そちらは?」

 

「こっちもだ。全ての個体に異常なし、問題なく稼働している」

 

 

聞こえてきた声は、どうやら男の物のようだった。

 

暗いために人相はよく分からなかったが、数は二人。銃のようなものを携帯していた。

彼らはバリケードのような物のすぐ横に立ち、内容を聞く限り何事かの状況を報告し合っているようだ。どこか無機質な、業務的な雰囲気が漂っている。

 

このような森中において、彼らの存在は極めて怪しく不釣合いなものであったが――ほむらはそれを予想をしていたかのように息を吐き、軽く眉を顰め。

盾の内側から折り畳まれた書類を取り出すと、木々の隙間から落ちる月明かりに晒し、その一枚目に視線を走らせる。

 

そこに書かれていたのは、小さく、そして淡々とした一文。

 

――『TX及びクモ強奪計画』

 

 

(……どうやら、本当のようね。これ)

 

 

当然ながら、これはほむらの記したものではない。半ば偶然手に入れたようなものだ。

 

ある種陳腐とも言えるその文字列と、目先に広がる男達。

それらを見比べたほむらは何とも複雑な表情を浮かべ――盾の中で流れ続ける砂時計を、堰き止めた。

 

 

「――ッ」

 

 

――瞬間、世界の全てが停止した。

 

風の音も、靡く草木も、二人の男も。ほむらを除いたこの世全ての存在が停止し、その色を失わせるのだ。

 

時間停止。ほむらの持つ魔法少女としての能力の一つであり、最大の武器である。

 

 

「――よし、それでは引き続き警戒を頼む」

 

「了解した。次の連絡は30分後だ、忘れるなよ」

 

 

そしてほんの一瞬の後、世界は何事もなく動き出し、色付いた。

 

男達は何一つとして異常に気づかないまま話を終えると、一人はバリケードの前に立ち、もう一人は内側へと戻って行った。

後にはもう声はなく。銃を構えた男が一人、銃と何かの機器を手にして警戒を続けるだけ。

 

 

……すぐ近くの木陰。

既に誰も居ないその場所で、落ち葉が一枚。不規則に舞った。

 

 

 

 

――事の発端は数日前。武器調達のため、ほむらがある武装組織の根城へ侵入した日にまで遡る。

 

 

ほむらは魔女と呼ばれる人間に害を成す存在と戦う魔法少女ではあるが、他の魔法少女のように固有の武器や強力な攻撃魔法といった物を持っていない。

それはつまり、戦う手段を持っていないと同義。戦いを強制される魔法少女にとっては、致命的とも言える欠点であった。

 

その代わりに時間停止・遡行という強力な能力を持っていたものの、攻撃能力がなければ魔女を倒す事は出来ない。

同時に、彼女の抱える目的――ワルプルギスの夜と呼ばれる超弩級の魔女を倒し、世界で一番大切な友人である鹿目まどかを死の因果から救い出す事も不可能だ。

 

他にも、インキュベーターとまどかの接触を防ぐ必要もある。故に、外部からの武器調達は絶対に必要な行動であった。

 

しかし、社会的には女子中学生の身分であるほむらに、そのような真似がおいそれと出来る筈もない。

ならば一体どうするか。苦悩と思案を重ねた結果、彼女が最終的に出した答えこそが、非合法組織からの銃火器の奪取であった。

 

元々のほむらには運動や戦いの才能は無く、また師となる人物も存在しない。扱いさえ覚えれば安定した火力を出せる銃火器は、彼女にとってまさにうってつけの武器だった。

そして時間停止の魔法を利用すれば、多種多様な銃器の眠る暴力組織の本拠地に侵入する事も可能である。これを無視出来る程、彼女の選択肢に余裕は無い。

 

無論、盗難に対する罪悪感は付き纏っていたが、まどかを助ける為だと言い聞かせ、冷徹の仮面に押し込め無視をして。

 

何度も何度も己の魔法で時を繰り返し、武器を調達し、戦い、敗れ。

そして時を戻し、消耗した武器を補充し、また繰り返す。

 

そうして扱う銃火器への知識とそれを扱う技術を深めるにつれ、より強力な銃とその数を求めるようになり。それに呼応し、侵入する組織の数や種類も時を繰り返す毎に増えていった。

ついには、ほむらの手は暴力団だけではなく、自衛隊基地や過激なカルト宗教組織、諸外国からの犯罪組織にまで及ぶようになり――。

 

 

――その内の、一つ。小さな武装組織の保有する金庫の中に、件の計画書はあったのだ。

 

 

『TX及びクモ強奪計画』

 

 

停止した時間の中、破壊した金庫からその書類を発見した時。ほむらは呆れの感情を禁じ得なかった。

このような直球そのままの作戦名を堂々と記している事もそうだが、何よりも問題なのは『TX』と『クモ』についてだ。

 

最低限のスペックと概要しか記されてはいなかったが、曰くそれらは世界最大の企業グループ『ジャジメント』の保有する戦闘兵器であるらしい。

そして『TX』は主兵装にレーザー兵器を持つ小型自立戦闘機械兵であり、『クモ』は自立行動型遠隔爆弾の改良型。

どちらも近年実用化されたばかりの物で、見滝原の一角で動作実験を行っているとの事だった。

 

 

(馬鹿馬鹿しい)

 

 

ほう、機械兵。なるほど、自立行動する遠隔爆弾。

中々に興味深い内容ではあるが、現在の科学水準から考えると眉唾も良いところである。

載っている外観も出来の悪い玩具のようで、現実味が全くない。

 

加えてほむらの認識では、ジャジメントとは大きなスーパーを経営している比較的身近な会社でしか無い。

そんな所が武器を作っており、それを強奪する? 全くもって意味不明だ。

 

非合法の武装組織である以上は大なり小なり『アタマがおかしい』のだろうが――それにしたって、どうにも。

 

 

(子供の集まりなのかしら、この組織……)

 

 

思えば、構成員の中に戦隊ヒーローやバッタのコスプレをしている者も居て、最初から妙だとは感じていたのだ。

否、もしかすると隠していた銃火器も玩具の豆鉄砲ではなかろうか。

ほむらは書類の横に置かれていた大量の銃器の内の幾つかを手に取り、胡乱気な目で眺めた。のだが。

 

 

「……?」

 

 

その見慣れぬ形状に、思わず動きを止める。

それは軽く見た所では自身の愛用するベレッタに似ていたが、しかし明確に違う点が幾つかあった。

 

銃口は一般的な銃より狭く窄まっており、淵の部分にはガラス片が均等に並び。おまけに撃鉄や弾倉といった銃に必要不可欠な機構が複数欠けていたのだ。

しかし手に持つ感触は慣れ親しんだ実銃のものであり、玩具のようにも思えない。

 

眉間に皺を作ったほむらは暫く考えた後、試しにと銃口を地面へと向け、その引き金を引き絞り――。

 

 

「きゃ……!?」

 

 

瞬間、『ビューン』というある種間の抜けた音と共に、光の線が迸る。

 

それを撃ったという手応えは無かった。

しかし気がつけば銃口から光が発射されており、床に着弾する直前で色を失い停止していた。

ほむらの身体から離れた事で、時間停止の効果を受けたのだろう。己の足元に滞空する光の線に、恐る恐ると目を向ける。

 

 

「レーザー、の……銃……?」

 

 

震える声で指を伸ばし、敢えて光線とその半径数十センチの時間停止を解けば、光はすぐさま目の前より消え去り、床に穴を開けた。

その内部は赤々とした光と僅かな煙を吹き上げ、相当の高温に熱せられている事が窺える。疑いようのない、本物だ。

 

 

(誰か、巴マミのような、他の魔法少女が作った――いえ、でも、魔法の力は感じない……)

 

 

つまりは、完全なる科学の産物という他なく。

握る銃の質感が、急激にその存在感を増した。

 

 

(こんなSFみたいなのが、本当に……? 私達やインキュベーターも『そう』なのだから、あり得ないとは言えないけれど……)

 

 

とは言っても、これはベクトルが違うのではないか。

これまで築いてきた常識が、音を立てて崩れていく錯覚。ほむらは頭痛を堪えるかのように額を抑え、俯き。

 

 

「――……、」

 

 

そうして下がった視線の先、金庫の中に放置したままの書類が目に付いた。

 

――『TX及びクモ強奪計画』。

 

 

「…………」

 

 

ほむらは手に持ったままのレーザー銃を見る。

 

次に、床に空いた弾痕を見て。

 

最後にもう一度、件の書類をじっくりと眺めた。

 

 

――『TX及びクモ強奪計画』。

 

 

「…………」

 

 

馬鹿馬鹿しい。今となってはそう切り捨てられる訳もなく。

ほむらはそっと書類を手に取ると、レーザー銃と共に盾の内側へと押し込んだのだった。

 

 

 

 

それから数日に渡り、ほむらは先日の武装組織についての調査を行った。

 

何せ、レーザー銃などというオーバースペックな代物を持っていた妙な組織だ。探れば他にも似たような物や、より強力な武器が出てくる可能性は十分にある

ワルプルギスの夜との対峙に備え、切れるカードは一枚でも多い方が良い。彼女は自らの起こした盗難騒ぎすら利用し、組織の周辺を調べ回った――のであるが。

 

 

(……やはり、時間が足りないわね)

 

 

自らの根城に戻ったほむらは、ポツリとそう呟いた。

 

彼女に許された時間は、鹿目まどかと出会いワルプルギスの夜と対峙するまでの僅か一ヶ月。

更にははじまりから既に10日以上過ぎており、その中のたった数日で目ぼしい情報が掴める筈もなく。『レジスタンス』の警戒も深まっていた事もあり、ハッキリとした事は不明のままだった。

 

分かった事と言えば、彼らが自分達を『レジスタンス』と呼んでいる事と、本当に『ジャジメント』とコトを構えるつもりである事。

そして件の計画書に書かれていた事柄を全て真実と見なしており、本気で実行するつもりであったという事だけだ。

……無論、計画書の盗難に遭った以上、今回の計画は見送られたようではあるが。

 

 

(……ジャジメント、ねぇ)

 

 

果たして、『レジスタンス』がそれ程敵視するジャジメントとは、本当はどういった存在なのか。

当然ほむらもそれは調べたが、やはり目ぼしい事は分からなかった。

 

否、『ジャジメント』の企業的な経歴ならば、調べればすぐに詳しいものが出た。

 

ジャジメントとは元々北米を中心に展開していた大企業であり、数年前に日本へと進出。

当時日本で大きな力を持っていたオオガミグループと衝突した後、合併。ツナミグループへと改名し。世界の頂点に近い大企業となった。

そして今より数ヶ月前に何故かまたジャジメントへと名前を戻したそうで、それ以降大きなニュースはないらしい……との事だ。

 

しかし、それ以上は何も出てこない。肝心の計画書に書かれていたような兵器に関しての事など、その噂の欠片すらも発見できないままだ。

こうなるとやはり『レジスタンス』の正気そのものを疑いたくなってくるが……一方で、実在するレーザー銃の存在が髪を引く。

 

そもそも『レジスタンス』の言うジャジメントと、調べたジャジメントが同一の物であるのかどうか……。

 

 

(……ともかく、限られた時間ではこのくらいが限界かしら)

 

 

溜息を吐き、思考を切り替える。

これ以上この事に時間をかけ、まどかの周辺を疎かにすれば、状況はまず間違いなく悪い方向へと流れてしまう。経験上、ほむらはそれを知っていた。

 

……この時間軸を捨て石にすると考えれば、ある程度の時間的余裕は生まれるだろうが、それを是とする事は敢えてまどかの死を容認する事でもある。

そんな事は許されない。認めてはならないのだ。決して。

 

 

(なら、そうね。せめてこれだけでも……)

 

 

ほむらは『TX及びクモ強奪計画』を取り出し、ペラリと捲る。

 

『TX』、そして『クモ』。簡易的なスペックの数値を見るだけでも、それらが優れた兵器である事はよく分かる。

特に『TX』の方は自律行動が可能な点に加え、今所持しているレーザー銃よりも強力な物が搭載されているらしい。魔法での強化と操作を組み合わせれば、戦力の底上げとなる事は間違いない。

 

もし本当に存在するのならば、とは付くが。

 

 

「…………」

 

 

ほむらは最後にもう一度だけレーザー銃を見ると、徐に地図を広げ書類に記された場所へピンを刺す。

この計画書は、自分が有意義に使わせて貰おう。そう決めた。

 

 

 

 

そうしてその日の夜、ほむらは早速見滝原の端に広がる森へ、計画書に示されていた場所へと向かった。

 

未だ完全には信じ切れず、半信半疑も良い所。

苦労して夜の森を歩く最中も、心の隅で「私は何をやっているのだろう」と自嘲していたが――結果を言えば、計画書に書かれていた事は紛れもない事実であったようだ。

 

 

「これは……」

 

 

森の奥。時間停止の能力により2人の男の目を掻い潜り、バリケードを抜けた先。

木々に紛れつつそこに広がる景色を見たほむらは、切れ長の瞳を大きく見開いた。

 

まず視界に入ったのは、最低限の舗装がされた広場と、その周囲にずらりと立ち並ぶ幾つもの建築物と装甲車。

地面には大きな煤跡や穴を埋めた跡なども残っており、何か兵器の演習場、或いは実験場である事は容易に伺える。

 

そこまでは頭の片隅で予想していた事ではあったが――その広場の中心に、酷く目を引く物があった。

 

 

(……青くて赤目、手足の付いた……変なタマ)

 

 

やはり、出来の悪い玩具だ。

少なくとも、遠目ではそうとしか表現できない物体だった。

 

 

「…………」

 

 

するとほむらは、突然身を潜めていた木の幹を駆け上がり、広場の中心目がけ身を躍らせる。

 

空高くより見下ろせば、あちらこちらにセンサーや監視カメラの光が見えた。どうやら、バリケードの外側とは比べ物にならない程に警備は厳重であるらしい。

 

しかし彼女の魔法を持ってすれば、それらは何の意味も無い。

センサー類がほむらの存在を察知するより先に砂時計を堰き止め、時間停止。灰色の世界の中で悠々と青い球の真横へ降り立つと、改めて至近距離から青い球を観察した。

 

 

「……間違いない。これが『TX』……」

 

 

青い装甲に、その中心部で赤く輝くカメラアイ。無理矢理取り付けたような手足は虫のように細く、腕部の先には万力とドリルが付いている。

そして球の複数箇所にはレーザー兵器と思しき機器も取り付けられており、計画書にあった『TX』の姿とほぼ同じ姿形だ。

 

……こんな物が本当にあるなんて。実際にこうして目にしていても、どこか現実感が無かった。

 

 

(……でも、あるのなら使わせてもらう)

 

 

とはいえ、自身がどう思おうとその目的には変わりなし。

ほむらは軽く目を伏せ思考を切り替えると、周囲へ細かく目を向ける。

 

どうやらこの個体は何らかの実験途中であったらしく、足元にはカメラと某かの観測機器が繋がれていた。

付近に人の姿が無い限り、建物の中で計測をしているのだろう。他の『TX』の姿も無く、広場にはこれ一体きりだ。

 

 

(できれば、もう何体か手に入れておきたいところだけど……)

 

 

流石に『TX』の現物がこれだけという事は無いだろう。

『クモ』の方も探したいところであり、まずはいつもの通り武器の保管場所を見つける必要があるようだ。

 

 

「さて……」

 

 

どの建物から侵入するか。

計画書を取り出し、地図を確認する。これを用意した組織は、下調べは欠かさない中々にマメな性質であったらしい。

 

そうして大体の目星をつけた後、ほむらはそっと『TX』の背に触れ、魔力を流し支配下に置く。

これで『TX』は停止した世界の中であっても、魔力を通して己の意のままに動かせる。自律行動が可能であれば、連れ立って歩く事も可能だろう。

 

回収完了――ほむらは軽く息を吐き、色づきながら軋みを上げて動き出した『TX』を、少しの興奮と共に眺め、

 

 

『――ガガガ、ピ』

 

 

唐突に、背面上部に搭載されていたレーザー兵器の銃口がほむらを捉えた。

避ける間も、驚きから回帰する暇さえ無く。瞬く間に銃口から激しい光が溢れ出し、強大な熱量を秘めた光線が放たれる。

 

 

「え――」

 

 

空気が焦げつき、プラズマ化する。

0.1秒にすら満たない刹那の中、光は彼女の頭部へと一直線に差し込まれ――脳幹を穿ち抜く直前、ピタリと止まった。

 

以前レーザー銃を撃った時と同じ。

ほむらの触れた『TX』から光線が放たれ切った事で、時間停止の効果を受けたのだ。

 

 

「――ッ!?

 

 

目前、僅か数ミリ。

鼻先に迫った死の光をようやく視認したほむらは瞬間総毛立ち、本能的に機械操作の魔法を解除した。

すると直ちに振り向きかけていた『TX』の体躯から色が抜け落ち、既に放たれていたニ射目ごとその時間を停止させる。

 

 

「……支配が、出来ない……?」

 

 

激しく脈打つ心臓を宥めながら、油断なく銃を構える。

 

しかし当然ながら、時間停止の魔法により『TX』に動きはない。動く筈もない。

つまり、機械操作の魔法だけが弾かれたという事だが――。

 

 

(やはり他の魔法少女が関わっている……?)

 

 

相変わらず他の魔力は全く感じないが、己の魔法が効かないという事はその可能性が高いだろう。

 

ほむらが知る魔法少女の中にそのような能力を持った者は居なかった筈だが、過去には未来予知や速度操作の能力を持った者達と相対した事もある。

ならば、より強力な機械操作能力を持った物が居ても不思議ではない……筈だ。

 

 

(そうだとしたら、これ以上手を出すのは得策じゃないわね)

 

 

あっさりと、そう判断する。

 

唯でさえ課題を幾つも抱えているのだ。いたずらに新たな魔法少女と敵対し事を荒立てては、事態は更に混迷を深めてしまう。

何より強引に徴収するにしても、魔法での支配が出来ないのだからどうしようもなく、『クモ』においても何を仕掛けられているか分かったものではない。

 

逆にこれらと関わりのある魔法少女と協力者として繋がりを結ぶのも選択肢としては有りだが、残念ながら今からでは時間が足りない。

もし今回「も」失敗した場合、次の時間軸における要素の一つとして覚えておくくらいが丁度いいだろう。

 

欲をかくと、碌な事にはならないのだから。

 

 

(……まぁ、失敗前提なんて考えたくはないけれど)

 

 

ほむらは徒労感混じりに大きく髪を掻き上げると、『TX』に向けていた銃を収め、大きく跳躍。この秘密施設からあまりにも容易く、それでいて名残惜しげに離脱した。

 

『TX』と、『クモ』。手に入れられれば大きな戦力増強となっただろうに、今は諦めざるをえないとは残念だ。

時の止まった灰色の世界の中、ほむらは再び夜空の下を駆け――。

 

 

「――……」

 

 

ふと、思い付いたかのようにとあるビルの屋上で立ち止まり、秘密施設のあった森へと振り返る。

 

……一つ。もう一つだけ、魔法が効かなかった理由に思い至った。

もしそうだとすれば支配できなかった事も頷けるし、魔法少女が関わっている可能性も若干とはいえ下がるのだが――。

 

 

「……いえ、あり得ないわね。それは」

 

 

そう、あり得ない。否、それどころか、決してあってはならない。そんな発想。

 

ああ、くだらない事を考えた。

ほむらはすぐさま頭を振ると、今度こそ振り返る事無く夜闇に消えた。

 

 

 

――『TX』が機械ではなく、脳と魂を持つ、生物の範疇に入る『物』だった――。

 

 

 

……少なくとも、ほむらはその可能性を馬鹿馬鹿しい話だと断じ、切り捨てた。

 

この場においては、それが全てであった。

 

 

 




『暁美ほむら』
みんな大好きクールなほむほむ。武器を手に入れるために東奔西走している様子。
少なくともループの後半には突入している。色々と熟成されつつある頃合いかもしれない。
手に入れたレーザー銃は黒野印の発明品。丈夫で初心者にも扱いやすい良い光線銃だ!


『子供の集まりみたいな組織』
反ジャジメント組織の一つ。
見滝原の外れに潜伏していたが、街に来て間もない上に問題も起こしていないため、これまで魔法少女たちには見つからなかったようだ。


『ジャジメント』
パワプロクンポケット世界における、めっちゃやべー大企業。
パワポケ8以降、各作の主人公達はジャジメント相手に大立ち回りをしたりしなかったりする。


『TX』
神条紫杏という女性の元で生み出された、ジャジメント製の強力な兵器。
固くて強い、文明崩壊後も生き残る地味にしぶとい奴ら。


『クモ』
遠隔操作が可能な小型爆弾。小さいながらも人間が粉微塵になる破壊力を持つ。


お久しぶりです、変わり身です。
エタの恐怖に怯えつつ、ゆっくりノロノロ続けていきたいと思います。


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