超能力青年 ウ☆ホンフー   作:変わり身

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12話 僕も彼女の事はよく知らないんだ

「――今日は、皆さんに大切なお話があります」

 

 

見滝原中学校、とある教室。

その組の担任教師である早乙女は、静かに座る生徒達に向かい厳しい口調でそう告げた。

 

 

「缶ジュースとは――緑茶ですか、コーラですか? はい中沢君!」

 

「えっ!? え、えーと……どっちでも良いんじゃないかと……?」

 

「ンその通りッ!!」

 

 

ダァン! と教卓に教鞭を叩き付け、中沢と呼ばれた男子生徒の答えに心の底から頷いて。

おもむろにチョークを握ると、背後の黒板にやたら精密な空き缶の絵を描き出す。リアルなアルミの質感に、生徒の一部から感嘆の声が上がった。

 

 

「女性は缶ジュースの選び方で魅力が決まる訳ではありません! そう! むしろ逆に!? 飲み終わった缶の投げ方、それが大切!」

 

(……また別れたのか。今年入って何回目?)

 

(三回目、去年よりはスローペース)

 

「はいそこ! 無駄話しないッ!」

 

 

ひそひそと失礼な内緒話をする生徒達にチョークを投げつけ、話を続行。

聞かされる方も各々慣れた様子で流しつつ、呆れや苦笑と共に早乙女の奇行を眺めていた。

 

 

「…………」

 

「……む~……」

 

(…………うぅ)

 

 

……しかし、そのような日常風景の中にあり、穏やかではない空気を纏う生徒がおよそ三名。

 

すまし顔と、睨み顔と、困り顔。

それぞれ別種の表情を浮かべ、言葉も無いまま互いの間に不穏な雰囲気を漂わせていた。

 

 

(流石に、肩がこるわね)

 

 

その内、ほむら(すまし顔)は疲れたように溜息を吐くと、ちらりと背後を見やる。

 

目に映るのは、こちらを睨むさやかと、そんな彼女と自分を心配そうに見守るまどかの姿。

言いたい事があるのならばテレパシーで話しかければ良いものを――と思ったが、昨夜に「全ては明日の放課後にしよう」と提案したのは自分であったと思い直す。

 

同時に、その言葉を律儀に守るさやかとまどかに呆れとも微笑ましさともつかないものを感じ、更に溜息。

未だ愚痴を続ける早乙女に視線を戻し、頬杖をつく。

 

 

(……まさか、また魔女の他に気を揉む敵が出るなんて)

 

 

続けて三度目の溜息を吐き。

ほむらは自然と、昨夜に起きた「見覚えの無い」出来事を思い出し始めていた――。

 

 

 

 

 

 

――夕方。

真っ赤な夕暮れ端から群青色が顔を出し、街に電光が灯り始める頃合い。

 

その日もほむらは人知れず街を飛び回り、まどかの周囲から魔女を排除するべく奮闘していた。

 

相変わらずインキュベーターの姿はまるで見えないが、暗躍は続けているらしい。

事実、地区から地区へと少し移動するだけでも数匹の使い魔と魔女の反応を察知しており、その嫌な頑張り様が窺える。

 

本当に、碌な事をしない。ほむらは今まさに討伐した魔女のグリーフシードを拾い上げ、眉間に深いヒビを刻んだ。

 

 

(……ひとまず、この辺りにはもう居ないようね)

 

 

消えゆく魔女の結界から脱出し魔力反応を探るも、魔女の気配は感じられない。

 

少なくとも、付近に顕現している魔女は居ないようだ。

ほむらは軽く息を吐き――しかし休む事無く、魔女の捜索を再開。付近のビルを駆け上がり、陽の沈む空を跳び駆けた。

 

 

(本当なら、武器の調達にも動きたい所だけど……)

 

 

そっと、服の裏に忍ばせているレーザー銃に触れる。

 

これを始め、マミの死亡前に最低限の武器調達はしたつもりではあった。

とはいえ相手は超弩級の魔女、ワルプルギスの夜である。「最低限」程度では足りないであろう事は、身に沁みて理解していた。

 

事実、これまでのほむらは現状と似た環境に置かれた場合、魔女の排除の他に武器の調達もスケジュールに組み込んでいたのだが――。

 

 

(……今回は、奴らの意図が読めない)

 

 

奴ら。即ち、インキュベーター。

今までの時間軸とは違い、姿を隠し続ける奴らの存在が髪を引き、従来通りの行動を阻害していた。

 

まどかに対し、これまで以上に妙な真似をするつもりではないのか。

そのような不安が日増しに大きくなり、今や武器調達に当てる時間の多くを魔女の討伐に割く始末。

 

 

(まどかの側には、既に魔法少女となった美樹さやかが居る。彼女が自棄にならない限りは、まどかが魔法少女になる事を止めてくれる筈だけど……)

 

 

己の視界外で魔法少女になってしまった美樹さやかを思い、ほむらは知らず唇を噛む。

 

巴マミが存命の場合、さやかはまどかを魔法少女にする事をあまり厭わない。良くも悪くも、ベテランであるマミの存在が支柱になっているからだ。

 

しかし、マミの死を目の当たりにし魔法少女の世界への危険を理解した場合、その対応は反転。まどかが魔法少女にならないよう気を遣い、時にはその身を呈して阻止してくれるようになる。

魔法少女の真実を知り錯乱してしまった場合はその限りではないが、今の時点ではまだ防波堤としてインキュベーターを遮っている筈だった。

 

……だが、今となってはどうにも不安が拭えない。見えぬからこそ、あの無機質な笑顔が余計に色濃く浮かぶのだ。

 

 

(……やはり、美樹さやかとの衝突覚悟でまどかの周囲へ付く?)

 

 

おそらく、相当な面倒事にはなるだろう。

ともすれば、さやかとの戦闘にまで発展する恐れもある。

 

ほむらとしても、無駄に彼女と争いたい訳ではない。ビルの合間を飛び移りつつ、その頭を悩ませて。

 

 

「……っ」

 

 

――その時、微かな魔力を感知した。

 

遠すぎたのか、細い煙のように微弱なもので正体は掴めなかったが、大まかな位置は予想がついた。街の中心より少し離れた、貸し倉庫跡地の方角だ。

ほむらは瞬時に身を翻し、進路変更。時間停止の魔法も併用し、その場所へと直行する。

 

 

(そういえば、あの辺りには確か……)

 

 

再び、レーザー銃に意識を向けた。

 

そうだ、あの辺りには『レジスタンス』のアジトがあった筈だ。

武装組織である以上良い感情を持ってはいないが、一応は使える武器を貰った恩が無くはない。特に焦りもしないまま、ほむらはちょっぴりスピードを上げた。

 

 

 

そうして辿り着いたのは、倉庫跡地へと続く路地裏に入ってすぐの場所だった。

 

平時であれば、薄暗い雰囲気ではあるがそれなりに清掃の行き届いた小奇麗な場所であったのだが――今目の前に広がる光景は、それとは真逆の酷い物だ。

地面や壁、至る所に刃物で切りつけたかのような傷が付き、果ては幾つかの爆発痕まで残っている始末。

 

明らかに、何者かが戦闘した痕跡だ。ほむらは冷静にそれらを観察しつつ、傷の続く路地裏の奥へと進み行き。

 

 

(……美樹さやかと佐倉杏子ね)

 

 

傷の種類と漂う魔力の痕跡から、そう断じる。

 

本質的には相性の良い筈の二人なのだが、それは互いに歩み寄った後の事。

初対面においては互いの態度と思想から反発し合う事も多く、諌め役のマミが間に入らなければ高確率で敵対する流れとなるのだ。

当然、マミが既に死亡しているこの時間軸でもそうなったのだろう。

 

こうなっては呑気にしてなどいられない。今度はしっかりと焦りを懐き、観察を切り上げ走り出す。

何故ならば、さやかが居るという事は、それはつまり彼女の相棒も側に居るという事で――。

 

 

「――はぁ、はぁ……さ、さやかちゃん……! どうして返事が……!」

 

(!)

 

 

居た。

 

少し走った先、蹲るさやかの相棒が――愛するまどかの姿があった。

息を荒らげている彼女に一瞬怪我をしているのかと青褪めたものの、単に走り疲れて休んでいるだけのようだ。周りには使い魔やインキュベーターの影もなく、危険は無い。

 

ほむらは小さく安堵の息を吐き……しかしすぐに気を引き締めると、敢えてヒールを強く打ち鳴らす。

まどかの肩が、ビクリと震えた。

 

 

「っ……ほむら、ちゃん……?」

 

「何をしているのかしら、こんな所で」

 

「えっと、その――っ! そ、そうだ! ほむらちゃんなら、さやかちゃんを……!」

 

 

まどかは突然現れたほむらに驚き、怯えと安堵の入り混じった表情を浮かべ――はたと我に返ると、慌てた様子でほむらへと駆け寄った。

しかし脚を縺れさせ、つんのめり。ほむらが咄嗟に受け止めれば、腕の中から潤んだ瞳に射抜かれる。

 

――何度時を繰り返しても、この目には弱い。

 

ほむらはそんな己に舌打ちを鳴らしかけるが、既の所で押し留め。

 

 

「……美樹さやかが、どうかしたのかしら」

 

「あ、あのね、さやかちゃん、さっきここで使い魔を見つけたの。だけど戦ってたら、突然知らない魔法少女の子が……!」

 

「襲ってきたのね。槍を扱う、赤い装束の子でしょう」

 

「! 知ってるの?」

 

「ええ。向こうは私を知らないでしょうけど」

 

 

言いつつ、路地裏の奥を注視する。

感じている魔力の反応は、近づいた事もあって先程よりもかなり強く、そして明確に感じ取れていた。

 

何処か歪で、澱んだ魔力――明らかに、さやかや杏子の物ではない。もう一つ別の存在がこの先に居る。

 

 

(魔女の結界……争っている最中、出くわしたのかしら)

 

 

どうやら、この先には魔女が現れ、二人はその結界に呑み込まれているようだ。

 

さやか一人ならばともかく、杏子が居る以上は魔女に遅れを取る事は無いだろう……が、問題はその後さやかが無事であるかどうか。

魔女という共通の敵を前に、多少の歩み寄りがあれば一番良い。しかし一方で、杏子に魔女諸共葬られるケースもある。

 

 

(やはり急ぐ必要がある――けど)

 

 

ほむらはちらと腕の中のまどかに目をやった。

そして僅かに逡巡した後、彼女を抱えたまま時間停止の魔法を発動。盾の機構が作動し、世界を灰色へと染め上げる。

 

 

「……え? な、何、これ……」

 

「先に謝っておくわ。少し我慢なさい」

 

「ひゃあ!? ほほほほむらちゃん!?」

 

 

返事は聞かず。

ほむらはまどかを横抱きに抱え持つと、魔力で強化された脚力で持って路地裏の道を駆け抜けた。

 

ここに一人残していくには、見えぬ白い獣の気配が一抹の不安を掻き立てたのだ。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

最初はおろおろと戸惑っていたまどかも、やがて大人しくなり。おずおずとほむらに身を預け。

 

 

「……ねぇ。ほむらちゃんは、どうして……、……」

 

 

きっと勇気を振り絞ったのだろう問いかけも、最期まで紡がれる事はなく。

 

互いに無言。

時の止まった世界の中、ぎこちない空気が二人の間を流れていた。

 

 

 

 

 

 

「これって……」

 

「それなりに激しかったようね、彼女達の戦いは」

 

 

そうして辿り着いた行き止まり。

通行を遮断する為に張られたフェンスには大穴が穿たれており、さやか達の戦いの激しさを明確に表していた。

 

ほむらは不安に表情を曇らせるまどかをゆっくりと下ろし、時間停止の魔法を解いて周囲を確認。

二人が居るであろう倉庫跡地へと意識を集中し、魔力の動きを見極め――その瞬間、感知にあった魔女の反応が霧散する。

 

反対に、さやかと杏子の魔力は共に健在だ。詳細は不明だが、魔女の討伐が成された事を静かに察した。

 

 

「……あなたは、ここで待っていて。もしあの白い獣が来ても、耳を貸さないように」

 

「あっ、待ってほむらちゃ――」

 

 

まどかの返答を最後まで聞く事無く、再び時間を停止させる。

そうして彫像の如く動きを止めた彼女の姿に罪悪感を覚えつつ、ほむらはフェンスの穴を潜り抜けて行った。

 

 

 

ほむらの記憶にある倉庫跡地は、廃墟とはいえレジスタンスのアジトとなっていた為か、多少は見られる場所だった。

 

しかし今やその面影は微塵も無く、ありとあらゆる場所が切り刻まれた瓦礫の群となっている。

レジスタンスの怪我人や死体が見当たらない辺り、最悪の事態とはなっていないようだが……魔法少女の争いと魔女の襲来に巻き込まれた彼らの不運には、ほむらと言えど若干の哀れみを禁じ得なかった。

 

 

(……いえ。そんな事より、美樹さやかと佐倉杏子は……)

 

 

とはいえ、それ以上に思うものも無く。

ほむらはあっさりとレジスタンスの存在を頭から消し、崩れた廃屋の上へと飛び乗り二人の姿を探す。

 

時が止まり、立ち籠める土煙がカーテンの如く視界を遮っていたものの、この殺風景な場所において魔法少女の装いは中々に目立つ。

早々に少し離れた場所に並び立つ赤青の影を見つけ、一息に跳躍。その付近に着地し――ここに至り、初めて彼女達の置かれた状況を認めた。

 

 

(――? これは……?)

 

 

その場には、二人の他にもう一つ。見知らぬ人物の姿があった。

長い黒髪をうなじの辺りで束ねた、中国服の……。

 

 

(……男? 女?)

 

 

背後からでも分かるその端正な容姿はどちらとも取れ、ほむらには判断がつかなかった。

 

ともかく、その麗人はさやかの真正面にあり、飛びかかるような体勢でその時を止めていた。

レジスタンスの残党が反撃にでも出たのだろうか。魔法少女に挑む蛮勇に半ば呆れつつ近づき、回り込み――。

 

 

「……っ!?」

 

 

――正面。その麗人の手刀が、さやかの腹部にあるソウルジェムに伸びているのだと気付いた瞬間。血の気が引いた。

 

 

「何なの、こいつ……!」

 

 

ほむらは咄嗟に二人を引き離そうとしたが、麗人の指先は既にソウルジェムに触れようかとする位置にある。

 

時間停止の魔法は、ほむらと彼女が触れているものには作用しない。

時間停止を解いたさやかが下手に身動ぎでもすれば、その瞬間麗人の指先にソウルジェムが触れてしまう恐れもある。そうなれば麗人の時間も動き、極めて面倒な事になるだろう。

 

 

(この状況じゃ、麗人の方にも手出しできないか……なら)

 

 

ほむらはゆっくりとさやかの背後に移動し、取り出した拳銃でその足元に数発の銃弾を撃ち込んだ。

時が動いた時、背後へとバランスを崩すように多少地面を削ったのだ。

 

――そして魔法により腕力を強化した上で、思い切りその手首を掴み引き倒した。

 

 

「――っ、うぇっ!? ――んがッ!?」

 

 

瞬間、さやかの身体に色が戻り、その時が動き出す。

 

突然の事に驚きの声を上げる彼女は、ほむらの目論見通り麗人の指に触れる事無く背後へと倒れ込み。持っていた刀剣を放り投げ。

当然何一つ受け身も取れないまま、勢いよく地面に後頭部を打ち付け――更にそのままほむらに引きずられ、強制的に麗人から距離を取った。

 

 

「いだだだ痛ぁ!? えちょっ、なっ……!?」

 

「落ち着きなさい。もう魔法少女なのでしょう、あなたも」

 

「へ……あ! て、転校生!?」

 

 

さやかは唐突な出来事に混乱していたようだったが、ほむらの姿を認めた途端目の色を変えた。

 

慌てて立ち上がろうとするも、すぐに手首を掴まれている事に気づき、振りほどこうと大きく腕を振り回す。

……しかし魔法での強化の差か、ほむらの腕はさやかの抵抗を許さず容易く抑え留め。必死に喘ぐ声だけが虚しく響いた。

 

 

「こンのっ……は・な・せぇ……ッ!!」

 

「……良いのかしら。もし離せば、あなたも動けなくなるのだけれど」

 

「はぁ? 一体何の話――、っ」

 

 

そこでようやく、周囲の動きが止まっている事に気が付いたようだ。

 

景色、麗人、杏子――。忙しなく周囲を見回した後、己の状況を思い出すように沈黙。

抵抗を止め、嫌々とした表情を浮かべつつほむらを見上げた。

 

 

「…………もしかして、助けてくれたっての? あんたが……」

 

「さぁ。私はこの状況をよく分かっていないもの」

 

「………………、………………ああもう、どうも!」

 

 

本当に、不承不承と。

さやかは吐き捨てるようにそう言うと、不機嫌を隠さず吐き立ち上がる。

 

そして未だ掴まれたままの手を乱暴に払おうとして、失敗。頑なに腕を離そうとしないほむらに不審な瞳を向けた。

 

 

「あのさ。もう良いから、離してよこれ」

 

「無理よ。この世界では、私と私が触れたものしか動けないわ」

 

「……せめてさ、マントの端っことかにしてくんない? あんたと手ぇ繋いでんの凄くヤダ」

 

 

さやかの要望に従い、ほむらの指がちょこんとマントの端を摘む。

その小動物のような可愛らしい仕草に、さやかの顔が妙な具合に歪んだ。

 

 

「っていうかこれ、金縛りって訳じゃないよね? 時間止まってる……とか?」

 

「ええ。その認識でも構わないけれど――」

 

 

ちらと、麗人を見る。頭の何処かで、警鐘が煩く鳴っていた。

 

 

「……とりあえず、今は場所を移しましょう。私の魔法も、無限に保つ訳ではないわ」

 

「……いや。こいつは……バッドエンドはほっとけない。今ここで倒さなきゃ、絶対――!」

 

「バッド……?」

 

 

さやかはほむらの言葉を拒否すると、新たに刀剣を生み出し麗人へと向け――その刃がピタリと止まる。

 

今が絶好のチャンスだとは分かっていた。しかし彼女の脳裏によぎるのは、攻撃を跳ね返され無残な死を遂げた杏子の分身。その死に様だ。

 

杏子のように、麗人――ホンフーの持つカルマミラーの能力を明確に見抜いていた訳では無い。

しかし彼女達の戦いを眺めていた事もあり、攻撃すれば自身の身体がどうなるか、粗方予想がついたのだ。

 

 

「――くッ!」

 

 

結果、刃の振り下ろす先を失い、再び無形の魔力と戻り。

怪訝な表情を浮かべるほむらを他所に、さやかは悔しげに、しかし意を決したように唇を引き結ぶ。

 

そして徐に杏子へと近づき、ほむらが止める間もなくその肩を掴み引き寄せた。

 

 

「――ろっ! っ!?」

 

 

途端、杏子の時が動き出し。瞬時にさやかの気配に気づくと、驚きの表情を浮かべた。

 

 

「青いの……!? あんた何で――つーかこれ、どうなって……!」

 

「あたしにもよく分かんないっつーの! もうそういうのいいから、あんたも来て! 一旦退却!」

 

 

その宣言に、杏子は勿論ほむらも多少目を丸くした。

 

 

「はぁ!? ふざけんな、あたしはこいつをぶっ殺さなきゃいけないんだ! ここで逃げたら――」

 

「――どうやって倒すってのさ! あんたがザコって言ったあたしにだって、今は無理だって分かんだかんね!?」

 

「……ッ」

 

 

燃え盛る怒りに負けじと返された怒声に、杏子は顔を歪ませる。

 

彼女自身、未だホンフーに有効な攻撃方法を見つけられていない事は、さやかに言われるまでもなく痛い程に理解していた。加えて、己が著しく冷静さを欠いている事も。

 

だが、だからといって退ける訳が無いではないか。ここで逃せば、『次』があるかも分からないのだ。

佐倉杏子という存在そのものを陵辱したこの男を、惨たらしく殺さなければ気が済まない。

 

理性と感情の乖離。それが一層大きくなり、噛み締めた歯が軋みを上げて――。

 

 

――ぼう、と。唐突に生まれた淡い魔力反応が、二人のソウルジェムを擽った。

 

 

「っ、何だ?」

 

「……転校生?」

 

 

振り向けば、そこにはほむらが手を掲げ、指先に微量の魔力を纏わせていた。

 

一体何をしている――二人がそう問いかける前に、その魔力はほむらの吐息により中空に流され、一房の黒髪のように漂い。

緩やかにホンフーに纏わり付いたかと思うと、彼の首筋に小さな図形を描き、染み込むように消え去った。

 

その現象に、未だ魔法少女として経験の浅いさやかは首を傾げるだけだったが、杏子は表情を強張らせ、今まで意識外にあったほむらを睨む。

 

 

「……なぁオイ、今のは……」

 

「魔女の口づけの真似事よ。事情はよく分からないけれど、随分とその人にご執心のようね」

 

「口づッ……!? 魔法少女のくせに何て事してんのよあんた!!」

 

 

あっさりと言い放たれた物騒な説明に、当然さやかは熱り立ち。魔法少女としての正義感のまま、ほむらへと食って掛かる。

しかしその鉄面皮は崩れる事はなく、逆に面倒くさいとでも言いたげな溜息が一つ。

 

 

「別に行動を操るだとか、洗脳じみた事は出来ないわ。この人の居場所を分かるようにする、発信機のようなものよ」

 

「だからってそんな、魔女みたいな――」

 

「――とにかく、これで私はこの人を見失わない。離れても、どこに居ても」

 

「……!」

 

 

更に言い募るさやかを遮り、そう告げる。

 

つまりは、必ず『次』を作る事が出来る――。

その意味を理解したのか二人は揃って口を噤み、それぞれ異なる感情を宿した瞳でほむらを見つめ。

 

 

「……この人にどんな因縁があって、何故攻撃できないのかは知らないけれど、話によっては私も協力してもいい」

 

「……こんなザコとつるんでるようなのが、一体何を出来るって?」

 

「今、この場は私の魔法で止まっているわ。そして、さっきの『印』でこの人の行動も把握できる。それでも、」

 

 

――それでも、一度落ち着く事すら出来ない状況なのかしら。

 

 

「…………ッ!!

 

 

そんな何処までも冷静な提案に、杏子は大きく舌打ちを鳴らし。

 

最後に時が止まったままのホンフーを血走った目で睨みつけ――行き場を失くした激情を発散するかのように、力の限り槍を振るう

地面が深く叩き割られ。巻き上がる砂塵が、すぐに色彩を失った。

 

 

 

 

 

 

それからほむら達はまどかと合流し、貸し倉庫跡地を後にした。

 

杏子は最後まで後ろ髪を引かれていたようだったが、余程さやかの言葉が真を突いていたのだろう。

「頭を冷やす」とだけ残し、ほむらの連絡先を毟り取ると一人その姿を消した。

 

おまけに既に陽も落ち、夜の帳が辺りを包む時間帯となっている。

中学生にとっては――特にまどかとさやかの女子二人にとっては、これ以上の拘束は大きな騒ぎに成りかねない。

 

現状、誰にとっても落ち着いた話ができる状況とは言えず。結果として、ほむらは諸々全てを明日に回す事を溜息混じりに提案したのだった。

 

……とはいえ、何も知らないというのも気持ちが悪く。最低限の話は、まどかからテレパシーで教えて貰っていたのだが――。

 

 

(……バッドエンド。超能力者の殺し屋)

 

 

時は戻り、学校。改めてその単語を思い出し、眉を寄せる。

 

何とも陳腐。何とも安直。

これが愛しいまどかから聞かされた物でなかったならば、鼻で笑っていた筈だ。

 

しかし、まどかの言葉とは別に、ほむらは実際にそれらしき麗人を目撃している。

そしてそれは、おそらく相当な難敵でもある筈だ。さやかはともかく、あの杏子があそこまでの反応を見せるのだから。

 

 

(イレギュラーね……それも、とびっきりの)

 

 

これまで結構な年月を(限定的な範囲とはいえ)繰り返してきたが、流石にこのような存在と接触するのは初めてだ。

 

ワルプルギスの夜が近づく現状、可能ならば敵対せずに済ませたかったが――既に手遅れと言わざるを得ない状況かもしれない。

 

昨夜バッドエンドを放置し退却したのは正解だったのか、間違いだったのか。

かつての白と黒の魔法少女のような、蓄積された経験を活かし難い存在に心がささくれ立つ。

 

 

(……まどか達は、インキュベーターから話を聞いたとの事だけど……)

 

 

ふと、疑問が顔を出す。

 

何故奴らは、己にだけ情報を与えなかったのか。

バッドエンドの存在を知らせない事により接触を促し、己を殺させようとでもしたのか。

姿を見せないのはその為か。否、そもそも何故バッドエンドは見滝原を訪れたのか。

 

一度考えれば次々と新たな疑問が湧き出し、頭の中を埋めていく。

ほむらもその一つ一つに付き合い、自分なりの答を出すべく静かに思考に没頭し――。

 

 

「――ねぇってば! 聞いてんの?」

 

「!」

 

 

ばん、と。突然強く机が叩かれ、意識が現実へと戻された。

顔を上げれば、そこにはむすくれたさやかが立ち、苛立ったように半眼で見下ろしていた。

 

 

「……少し考え事をしていたわ。早乙女先生の愚痴は終わったの?」

 

「とっくに終わって休み時間だっつの! じゃなくて、さ……バッドエンドの事なんだけど」

 

 

さやかは声を潜めると、ほむらに顔を寄せる。やはり彼女も気を揉んでいるようだ。

 

 

「……その話は、学校が終わった後に佐倉杏子も交えてする筈じゃなかったかしら」

 

「や、その……アイツ、今どこに居る感じかなって。病院の方とか……行ってないよね……?」

 

「……?」

 

 

一瞬、質問の意図を計りかねたが、すぐに上条恭介の存在に思い当たる。

 

彼がバッドエンドに狙われないか、心配でもしているのだろうか。

若干首を傾げつつ、その程度ならばとソウルジェムの指輪を抱き、昨夜バッドエンドに刻んだ『印』の反応を探った。

 

魔女の口づけとは違い、服端に髪の一房を巻き付けるような儚いマーキングではあるが、ほむら自身の魔力を使用し繋がりを保っている為、感知出来る範囲は非常に広い。

少なくとも、見滝原どころか複数の市を跨ぐ程度ならば問題なく反応を追える筈だが――。

 

 

「――安心なさい、今は……神浜方面に移動しているわ。あなたの想い人には近寄ってもいない」

 

「そ、そっか。ならよかっ――いやいやいや! お、想いビっ、な、なんっ、そなっ……!?」

 

「日本語を忘れたようね。二時限目の国語、頑張って」

 

 

慌てふためくさやかに冷たく言い放ち、再び思考に意識を割く。肩こりの意趣返しである。

 

 

「ぐ、くぬぬぬ……やっぱあんたキライだっ」

 

 

苦し紛れにそう残し、まどかの下に走り去るさやかにヒラリと一度手を振った。

……素直に甘えられて羨ましいな。僅かに残る過去の自分が、片隅でそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

放課後。

学校を終えたほむら達三人は、隣町にかかる位置にひっそりと放置された、ある廃教会へと集まっていた。

 

いつもまどか達が話し場として使っているファミリーレストランでは、会話の内容が些か不釣り合いだという事もある。

 

だが、一番の理由はそれでは無い。

扉を開けた先、崩れかけた長椅子に腰掛け林檎を齧る少女――佐倉杏子がここに居るであろうと踏んでいたからだ。

 

 

「……フン、こっちから行くつもりだったんだけど。何で分かったんだよ、ここに居るって」

 

「魔法よ」

 

「…………あたしにも『印』っての刻んでるんじゃないだろうな……」

 

 

簡潔な一言に杏子は己の首筋を擦るが、当然そこには何の魔力も感じない。

暫く疑わしげな瞳でほむらを見つめていたものの、やがて「ま、いいや」と切り捨て、残っていた林檎の芯を口の中へと放り込む。

 

……その様子からして、大分冷静さを取り戻しているようだ。こっそりとさやかが息を吐いた。

 

 

「で、そこのザコや魔法少女じゃないのまで集めてどうすんだい。コッチとしちゃ、あんたとだけ話するつもりだったんだけど」

 

「ぐ……ざ、ザコじゃなくて美樹さやか! あたしだって無関係でいられない理由があんのよ!」

 

「知んねーよ勝手にやってろ」

 

 

面倒臭げにそう返し、長椅子から立ち上がると改めてほむら達へと向き直る。

そして暫くさやかとまどかを睥睨した後、軽く鼻を鳴らし教会の奥を顎で示した。

 

 

「奥、入んな。長くなりそうだし、立ち話ってのもダルいだろ」

 

 

 

 

 

 

自己紹介。

持っている魔法の説明。

そして、互いの持つ情報のすり合わせ。

 

完全に仲間となった訳ではない以上、当然それぞれが隠すものは幾つもあった。

しかし連携に支障が出ない程度には情報共有が成され、さやかと杏子も反発はし合っているものの、昨夜のように戦い始める空気は無い。

 

本人たちの認識はどうあれ、魔法少女達の関係においては話し合いを通じ、若干の歩み寄りを見せるに至っていた。

 

……が。

 

 

「……洗脳。透明化。風を操り、攻撃を跳ね返し、魔法少女以上の身体能力……?」

 

「えぇ……いやあたしも見てたけどさ、流石にちょっと盛り過ぎじゃ――あたっ」

 

 

杏子が語るバッドエンドの情報に関しては、ほむらは勿論、実際に相対したさやかでさえ半信半疑と言った反応であった。

 

それも当然、持つ能力があまりにも強力かつ多彩に過ぎるのだ。

おそらく、魔法少女でさえもこれ程までに多種多様な能力を持った者は居ないだろう。杏子もそれは分かっているのか、さやかを軽く小突くだけに留め。

 

 

「それが超能力ってやつなんだろ。沢山あんのか一個を応用してんのかは知らねーけど、あたしはそれを体験した」

 

「……だからあの時、攻撃を躊躇していたのね。何故仕留めようとしなかったのか疑問には思っていたけれど……」

 

「ほむら、だっけ。例えばあんたの銃、下手にアイツの脳天にブチ込んだら自分のアタマが破裂するだろうさ。多分、止まってようがいまいがな」

 

 

杏子は指でピストルを形作り、己の頭に突きつけ――ぱん、と小さく跳ね上げる。

 

ほむらは時間遡行という世界の理に反する魔法を扱えるが、決して不死という訳では無い。

むしろまどかを救うという命題を掲げる以上、死は絶対に避けねばならない事であり、杏子の指鉄砲を見る視線が自然と鋭いものとなる。

 

 

「……全て本当だとして。そんなものと戦おうなんて何を考えているの?」

 

「うっせぇ。何が何でもアイツを殺すって決めたんだ、あたしは」

 

 

明確な怒りと殺意を込めて言い切り、靴底で強く床を叩く。

 

 

「だからこそ、昨日はあそこで退いたんだ。我慢してあんたの提案に乗ってやった。刃を通す方法を考える為にね」

 

「……躱す気は、無いようね」

 

「ああ。ビビったってんなら、戦うのはあたしだけでいい。ただ――その便利な魔法で、協力だけはして貰うよ」

 

 

気付けば、杏子の手には紅の槍が握られていた。

拒否すれば、その刃はどこに向く事やら。ほむらは大きな溜息を吐くと、仕方がないと首肯する。

 

 

「……いいわ。けれど、こちらも――」

 

「分かってるよ、さっき聞いたワルプルギスの夜の事だろ。あのカマ野郎ぶちのめせたら、あたしも協力してやるよ」

 

「……そう」

 

 

杏子はそう約束をするが、手放しに喜ぶ事は出来そうもなかった。

 

ワルプルギスの夜がこの街に来るまで、残された猶予は僅かしか無い。

果たしてその間に、全てが無事に済むのかどうか。ほむらの眉間に深い皺が寄る。

 

 

「…………」

 

「さやかちゃん……」

 

 

……そして、そんな二人の様子を複雑な表情で見つめる視線があった。

さやかとまどか――その理由は異なれど、蚊帳の外に置かれる二人のものだ。

 

 

(殺す……って、やっぱそのまんまの意味だよね)

 

 

マミの意志を継ぐと決めたのならば、絶対に止めるべきなのだろう。

 

例え相手が殺し屋であり、恭介にちょっかいを掛けていたとしても、人を殺す事は「悪」である。

さやかの正義感も、見過ごしてはならないと大声を張り上げている。しかし。

 

 

(……今のあたしじゃ、二人を止めらんない。それどころか、同じところにすら立ってない……)

 

 

杏子との戦いと、バッドエンドとの相対。そしてその顛末。

全ての機会に置いて何も活躍できず、実力も経験も知識も足りないという事は深く自覚させられていた。

 

……だが、それとは別に、意志や芯とも言うべき何かが及んでいない気がしたのだ。上手く形には出来ないのだが、そう感じる。

 

 

「……あーもー! こんなんだったら、せめてもっとキュゥべえから何か聞いときゃよかった! そうすりゃちょっとは……!」

 

 

魔法少女としての戦い方、心構え。バッドエンドの詳しい情報。その他諸々。

彼から聞いておくべき事は山ほどあった筈であり、聞き流すべきではなかったのだ。

 

しかし、今となってはそれも出来ない。胸のモヤモヤを吐き出しつつそう嘆くさやかに、杏子の胡乱な視線が飛んだ。

 

 

「うっせーなぁ……。キュゥべえって、アイツなら呼べばいつでも――あーいや、そういやそうだったな……」

 

「……あ、そっか。みんな、暫くはキュゥべえと会えないんだね……」

 

 

途中、杏子が思い出したように納得し、これまで会話に入らなかったまどかまでもが頷いて。

唯一ほむらだけが事情を理解できず、怪訝な表情で首を傾げた。

 

 

「……あの獣について、何か知っているのかしら。ここ最近見かけないのだけれど」

 

「あん? 何って……あんたも聞いてんだろ? あのカマ野郎――つーか、ジャジメントに関わったら、そいつには顔見せらんなくなるっての」

 

「いいえ、初耳だわ。奴自身が言っていたの?」

 

「う、うん。理由は分からないけど……」

 

 

それも、これまでの繰り返しで得た事の無い情報だ。

 

奴らは嘘をつかない以上、口にしたのならば事実ではあるのだろう。

しかし、ほむらがジャジメント所属だというバッドエンドと相対したのは、昨夜が初めての事だった。

 

それ以外にジャジメントと接点を持った事は無く、インキュベーターの姿を見なくなったのはそれ以前。

これは一体どういう事か、顎に手を添え考えて――。

 

 

(……! まさか……)

 

 

――『TX及びクモ強奪計画』。その存在を思い出す。

 

そういえば、あの夜に侵入した実験施設はジャジメントの物であった。

思えば、確かに『TX』との接触はしている。そしてインキュベーターが姿を見せなくなった時期とも合致する。

 

 

(これを原因とするなら、筋は通る。けれど……)

 

 

だが、何故ジャジメントなのだ。逆に疑問が深まるが、答えは出ず。

 

 

「……そうだ! まどかなら、まだキュゥべえと話せるんじゃない? バッドエンドと会ってないしさ」

 

「え……そうかな?」

 

「っ……」

 

 

反射的に声を上げかけ、飲み込んだ。

 

ほむらがまどかのこの場への同行を許したのは、昨夜同様見えないインキュベーターを警戒しての事だ。

本音としては会話すらさせたくは無かったが――彼女がインキュベーターと接触できるのかどうか、非常に気になる所ではあるのもまた事実。

 

さやかにテレパシーを促され、困り顔でちらりと視線を送るまどかに、ほむらは渋々と頷いた。

 

 

「……えっと、じゃあ――」

 

 

魔法少女三人の視線を受けつつ、まどかはおずおずと目を瞑り。

心の中でキュゥべえを求め名を呼び、そして。

 

 

(――やぁ、まどか。キミから連絡を取ってくれるなんて嬉しいよ、どうしたんだい?)

 

「! キュゥべえ!」

 

 

脳内に可愛らしい声が返り、まどかは明るい声を上げ。どこかで舌打ちが一つ鳴った。

 

 

(あのね、さやかちゃん達がバッドエンドって人と戦ったんだけど、私は会ってないからどうなのかなって、試しに……)

 

(……やっぱり、そうなっていたんだね。昨日の夜からキミ達に近づけなくなったから、そうじゃないかとは思っていたんだ)

 

 

いつもと同じ淡々とした声音であったが、僅かに残念がっているようにも聞こえたのはまどかの気のせいであったのか。

ふと見ればさやか達の怪訝そうな表情が映り、慌ててキュゥべえの言葉も声に出して周囲に伝える。

 

 

「で、でも、私は大丈夫なの……かな? こうやってテレパシーはできるみたいだけど……」

 

(うん、会話はできるようだね。でもジャジメントと接触したさやか達と一緒に居るためか、少し影響は受けているみたいだ。キミの方から求めが無いと、テレパシーでの会話も繋げられないよ)

 

 

どうやら、昨夜からまどかには接触を図ろうとはしており、そして失敗していたようだ。

 

多少は自分に有利な展開となっていた事にほむらは密やかに喜ぶが……裏を返せば、まどかが求めれば会えるという事でもある。

すぐに気を引き締め、生まれかけた油断を消した。

 

 

「つってもさぁ、そもそも何でそんな面倒なコトになってんの? 何、アレルギーとかそんな感じ?」

 

「――って、さやかちゃんが言ってるけど……」

 

(……、)

 

 

外野の疑問をキュゥべえに伝えると、彼はほんの一拍沈黙した。

しかしそれをまどかが疑問に思うよりも早く、言葉を返す。

 

 

(アレルギー……とは、ちょっと違うかな。僕のこれは自己の過剰免疫じゃなく、外から強制されるルールみたいなものだから)

 

「外からのルール……?」

 

(うん。僕がジャジメントに近づけないのは――ある魔法少女、その願いの結果なんだ)

 

「なんじゃそら」

 

 

まどかを通じての答えに、堪らずさやかのツッコミが入った。

 

 

「……何か、独特なお願いだね。キュゥべえをジャジメントに近づけない事を願うなんて……」

 

「スーパーの食品売り場でフンでもしたんじゃないでしょうね」

 

(僕はそういった行為はしないよ。近づけない対象がジャジメントになっているのは、ちょっとしたアクシデントの所為なんだ)

 

「ホントかなぁ……んで、どんな魔法少女なのさ、その子」

 

 

そんな何気ないさやかの問いかけを伝えられ、キュゥべえは(そうだね……)と呟き。

記録を辿るように、或いは少女達を傷つけぬ言葉を選ぶかのように間を挟み――。

 

 

(実を言うと、僕も彼女の事はよく知らないんだ。互いに友好を深める間もなく、交流は終わってしまったからね)

 

「……それって……」

 

 

 

(――周りからは、ピースメーカーと呼ばれていたかな。非常に貴重な種類の超能力者であり、数秒間だけの魔法少女となった子さ)

 

 

 

――やはり、変わらぬ調子のままに。

 

不穏混じりの明るい声音が、まどかの心を寒々しく揺らした。

 

 




『暁美ほむら』
みんな大好きほむらちゃん。何か凄く久しぶりな気がする。
さやかを見捨てると決めたが、その魔法は意図せず彼女を生かしたようだ。
対処しなければいけない敵が増え頭痛が痛い。でも大好きなまどかの為ならエンヤコラである。


『美樹さやか』
みんな大好きさやかちゃん。ソウルジェム(モツ)抜きから運良く生存した。
頑丈っていうイメージが先にあるから、割と扱い雑になりがち。でもそれが魔法少女としての強みでもあるので難しいところ。
それもこれもミラーズで固いせいだ!


『鹿目まどか』
みんな大好きまどかちゃん。最近なぎさに端末を爆殺された。
キュゥべえの言葉をみんなに伝える際はキチンと要点まとめてます。
文字上はそのままですが、まどかフィルターを通しているという事でどうか一つ。


『佐倉杏子』
みんな大好きあんこちゃん。絶対ホンフー殺すウーマン。
黒い方とは手は組んだが、まだあんまり信用してないようだ。
青い方はうぜーなーとは思いつつ、若干距離は近くなったようだ。
ピンクの方にはあんまり興味は無いが、少しは気にかけてやるかーという感じのようだ。


『ウ・ホンフー』
何やら神浜へと移動しているらしい。
沈黙に加えロックオンまで付与されていた。
魔術的なヒトではないので、魔防はゼロに等しいようだ。


『キュゥべえ』
みんな大好きド畜生。悪意はないんだ、悪意は……。
昔ちょっとしたオイタをしたら縛りプレイを受けちゃった! ひどいや!


『早乙女先生&中沢』
どの媒体でも大抵ペア。
叛逆でもそうな辺り、ほむらにとっての日常の象徴だったのかもしれない。


『印』
まほうのちからって すげー!


『ピースメーカー』
パワポケ世界における特大級の爆弾。故人。

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