超能力青年 ウ☆ホンフー   作:変わり身
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15話 交渉を、しましょう

(――佐倉杏子。聞こえるかしら)

 

(……ほむらか。いきなりだね、何か用かい)

 

(ええ――バッドエンドの事だけど、神浜から見滝原に帰ってきたみたい。街中をうろついてるみたいだから、気をつけなさい)

 

(ハ、そりゃどーも。心配しなくても、まだ大人しくしとくさ。つーかあたしより、まず――)

 

(美樹さやか達なら昼間は学校よ。……少なくとも、彼女達から近づきに行く事はない。今教えて不安を煽る意味は無いわ)

 

(……あっそ。んで、用はそんだけ?)

 

(いいえ。彼、どうやら瞬間移動のような力を持っているようなの。神浜にあった反応が、一瞬で移動した)

 

(冗談――じゃあ無いんだろうね。ああクソ、幾ら何でも多芸すぎんだろうが)

 

(彼自身の力だと決まった訳じゃないけど、一応頭に入れておきなさい。もしかしたら、今この瞬間にでも目の前に現れるかもしれない)

 

(ご忠告どーも。ありがたくって涙が出るね)

 

 

(……ふん。そんじゃ、コッチも一個だけ忠告しといてやるよ。昨日、言いそびれた事さ)

 

(何かしら。大体は聞いたと思うけれど……)

 

(アレの洗脳能力について。持ってるとは伝えたけど、突っ込んだ話はしてなかったって思い出してね)

 

(……気持ちの整理はついたの?)

 

(……何の事かね。ま、重要な事だ、後でオマケ共にも伝えときな)

 

(そう……あなたがそう言うなら、そうするわ)

 

 

 

(で、アレの洗脳だが……大分捻くれちゃいるが、相当強力なモンらしい)

 

(……?)

 

(言葉に従えなくなるってのかね、口にした言葉と逆の事を相手にさせるみたいだ。それも、意思や抵抗を無視してね)

 

(意味が分からない。何故そんな面倒な性質を……)

 

(さぁね。でも――あれは、言葉に依存してると見ていい。実際、あたしの魔法で声を封じたら使わなくなった)

 

(声を……なら、その力はもう使えなくなったんじゃないの?)

 

(丸一日の時間があったのに? アレがそれで何も対策してないなんて思えないね、魔法は解けるから魔法なんだ)

 

(意外とロマンチックな事を言うのね)

 

(これでも魔法少女だからな――とにかく、アレと会話はするな。バッタリ会って話しかけられたら、その時点でアウトだと思え。何させられるか分かったもんじゃない)

 

(……ええ。肝に銘じておきましょう)

 

(そうしな……と、言いたい事はそんだけだ。じゃあね)

 

(ありがとう。また動きがあったら連絡するわ)

 

 

 

 

「――会話をしてはダメ。助かったわ、本当に」

 

 

 

 

 

 

風に流れる桜の花弁が、くるりと大きな輪を描く。

 

 

(……今日は、一段と風が強いですわね)

 

 

見滝原、朝の通学路。

少し強い風に吹かれ舞い散る桜吹雪に目を細めつつ、志筑仁美は乱れる髪をそっと押さえた。

 

最近、見滝原市においては天候が荒れ気味だ。

雲や雨こそ少なくはあるが、旋風がよく目立つ。

春の風は遊びやすいとは言うものの、日増しに強くなるその勢いに疑問に思う住民も多いようだ。

 

テレビのニュースでは大嵐の前触れだとも分析する予報士も居り、仁美も僅かな不安を抱いていた。

 

 

(もう、せっかく上手く髪をセット出来ましたのに……これでは台無しですわ)

 

 

とはいえ、深刻に受け取る程の物でもなく。

単なる女子中学生である仁美にとっては、整えた身だしなみを荒らす悪戯な風に過ぎなかった。

 

風に乱れた髪先を摘みつつ、軽く口を尖らせていると――ふと前方に見慣れた背中を認め、打って変わって笑顔を浮かべた。

 

 

「――ごきげんよう。まどかさん、さやかさん」

 

 

そこに居たのは、鹿目まどかと美樹さやか。仁美にとって、親友とも呼べる友人達である。

声に振り向いた彼女達もまた、駆け寄る仁美に笑みを向けた。

 

 

「おはよう、仁美ちゃん。今日は風が強いね」

 

「はよーっす。あつつつ……」

 

「あら? 頭痛ですか、さやかさん」

 

 

しかしさやかは手を上げた拍子に頭を抑え、すぐに苦悶の表情へと切り変わる。

心配を隠さず丸まった背を擦れば、さやかはきまり悪げに苦笑い。

 

 

「へ、へっへっへ……ちょっと昨日、門限ブッチしちゃいましてな……」

 

「さやかちゃん、昨日帰るの遅くてお父さんからゲンコツ貰っちゃったんだって。ほら」

 

「まぁ、なんて大きなコブ……」

 

 

まどかの指先。指し示されたさやかの頭頂部はぽっこりと膨れ上がっており、父親の怒り具合が窺えた。

仁美は何と言ったものか少し迷い――はた、と何かに気付いたかのように身を固くし、恐る恐ると問いかける。

 

 

「あの……それはもしや、上条さんと一緒に居たから……でしたり?」

 

 

上条恭介。

さやかの特別な幼馴染であり、仁美にとっても特別な少年だ。

そして、怪我で入院している彼の元へさやかが頻繁に訪れている事は周知の事実であり、それ故の邪推であった。

 

 

「へ? ち、違うって! ちょっと……知り合いと話してたら熱入っちゃっただけだって」

 

「そ、そうですか……」

 

「…………」

 

 

しかし、慌てた様子で否定するさやかに嘘は感じられず、本当に逢引の類ではないようだ。

仁美は安堵にほっと息を吐き……それを見たまどかは何かを言いかけるも、言葉は出さず。どこか居心地悪そうに目を逸らした。

 

 

「ああそだ、その恭介なんだけど、近い内に学校来られるようになるってさ。早ければ明日か明後日くらい?」

 

「本当ですか!? でも、あの怪我ではリハビリなどがあるのでは……」

 

「いやー、何かそういうの要らないくらいカンペキに治っちゃったみたいよ。まるで魔法っすなぁ、うははは」

 

(自画自賛……)

 

 

仁美の知る限り、上条恭介の怪我は相当に酷い物の筈だった。

そのように突然治る事などまずあり得ないと思っていたが……他でもないさやかが笑っているのならば、事実なのだろう。

 

半信半疑から疑いが抜けるに連れ、仁美の心にも喜びが湧き始め――同時に、とある想いに芯が入り、笑顔に少しの固さが混じる。

 

 

「そうですか。後遺症が無いのなら、本当に良かった」

 

「ねー。一時はほんと見てらんないくらい落ち込んでたもん。バイオリン一筋だからさー」

 

「……ええ、よく存じておりますわ。私、学校で上条さんに会える日を本当に楽しみにしています」

 

 

――言葉尻に、ほんの少しの含みを持たせた。

 

そうしてさり気なくさやかを窺うものの、言葉の裏に潜む感情には気付かなかったようだ。

恭介の復帰が望まれている事を、まるで自分の事のように嬉しそうに笑った。

 

 

「あはは。仁美みたいな美少女にそう言われたら、恭介も男冥利に尽きますなぁ。罪作りな奴め」

 

「……もう、さやかさんったら」

 

 

変わらぬ態度に安心はしたが、やはりもどかしさは拭えない。

仁美はそうと分からぬよう小さく溜息を漏らすと、一歩前に踏み出し先頭に立つ。

 

 

「さて。では、そろそろ急ぎましょうか。確か今日はさやかさんが日直の筈でしたし」

 

「え、あ、そうだっけ!? やっば教室の鍵早く開けとかないと、行くよ二人共!」

 

「ええっ、待ってよさやかちゃん!」

 

 

突然走り出したさやかが仁美を追い抜き、少し遅れてまどかが続く。

強い風に背を押され、三組の慌ただしい足音がパタパタと響き。

 

 

「……ね、ねぇ、仁美ちゃんっ。もしかしてっ、はぁ、そのっ……」

 

「お、お話は後に致しましょう? 流石はさやかさん、素晴らしい健脚ですわ……!」

 

「……う、うん……」

 

 

途中、まどかは先程と同じく何かを言いかけたものの、遮られ。

生まれかけた気まずい空気すらも置き去りにして、三人は学校への道を駆けていった。

 

 

 

 

 

 

『――それで、そっちは今どんな感じだい?』

 

 

とあるカフェの一席。

香り立つコーヒーの湯気を燻らせつつ、ホンフーは耳元の携帯端末から聞こえる声へと静かに返す。

 

 

「まぁ、それなりに上々と言った所でしょうか。少なくとも、落胆には未だ遠い」

 

『ほぅ……という事は、時間操作の能力者は確かに存在したという事かな?』

 

「おそらくは。ま、この目ではっきりと『認識』した訳ではありませんが」

 

 

窓から見える見滝原の街並みを眺めつつ、手に持つカップを傾ける。

 

端末越しの会話の相手は、ジャジメント本社に居るジオットだ。

定時報告という意味合いもあるが、ホンフー自身彼との会話は嫌っていない。特に用事は無くとも、息抜きとして雑談に興じる事も多々あった。

 

 

『良かったじゃないか。もし能力の取得に成功したら、是非ともご相伴に預かりたいものだね』

 

「……考えておきましょう。とは言え、目処が立っているとも言い難いんですよねぇ。課題は様々山積みでして」

 

『あらら。じゃあ見滝原から手を引いたのは勿体なかったかなぁ、今からでも誰か送るかい?』

 

 

ジオットのその提案は、それなりに魅力的な物だった。

情報屋やジャジメントの手の物が見滝原に居ない今、手足となる者は欲しい所ではあった。

 

しかしホンフーは軽く笑うと、端末越しに首を振る。

 

 

「いえいえ、それには及びませんよ。何せ今も私の我儘を許してくださっている訳ですからね、これ以上何かを頼むのはとてもとても」

 

『そんなの気にしなくていいのに。キミに頼もうとしてたオシゴトはまだ先の話なんだからサ』

 

 

そう――見滝原が瓦礫の山になった後の、ね。ジオットはおどけるようにそう告げる。

 

現在、ジオットはとある理由により大規模な人体実験を計画している。

彼の直属の部下であるホンフーにも、一月ほど後にはその一部に関わる任務を回される予定であった。

しかし、本格的な任務に入るまでには時間的な猶予はあり、だからこそホンフーもある程度自由に動く事が出来ているのだ。

 

とはいえ、ウルフェンの件のように細々とした任務は幾らでもある。現在それらが課されてないのは、ジオットの配慮が背景にある為だ。

(幾ら)ホンフーと言えど、多少の申し訳無さは感じていた。

 

最も、それとは別の懸念もあるのだが。

 

 

「お気持ちだけは受け取っておきますよ。実は今、時間操作能力者とは別に相手をしている魔法少女が将来有望でしてねぇ……あまり頭数を増やすのも、返って悪手になりかねない」

 

『おや、キミがそこまで評価するとは。よっぽどの逸材のようだ』

 

「ええ。才能、判断力、固有魔法の扱いと、全てにおいて一級品。いや、実に面白い少女です」

 

 

ホンフーは喉を押さえ、しかし楽しげに目を細める。

 

あの赤い装束の魔法少女。彼女は正義感溢れる多くの魔法少女と違い、人を傷つける事や搦手を用いる事に抵抗が無いように見えた。

無為に人数を増やした場合、彼女はまず間違いなくそこから崩してくるだろう。少なくとも、それだけの『目』は持っている筈だ。

 

加えて、件の時間操作能力者も彼女の側に付いてると見るならば、並の者では足手纏いにしかならない。

 

 

『うーん、流石にAランク以上を送る余裕はちょっとねぇ……あ、マゼンダ君とストームレイン君なら数日空いてるけど』

 

「あっはっは。協力者の意味、ご存知?」

 

『冗談だよ。しかしそうなると、確かにキミ一人の方がやりやすくはあるか』

 

「一応、とりあえずの渡りには心当たりもありますしね。まだ糸は途切れていない」

 

 

話す傍ら、懐から取り出したメモを開く。

以前、病院の医師から聞き取った情報を纏めた一ページ。その片隅に、一つの人名が記されている。

 

――上条恭介。一時はしあわせ草の被験者とも疑った少年だ。

 

先日、貸し倉庫跡で遭遇した『さやか』なる魔法少女と親しくしていた彼は、彼女達へと繋がる手がかり足り得るだろう。

……と、そこまで考え、ふと店内の時計が目に入る。

 

 

「……さて、では今回の報告はこのくらいで。そちらも忙しいでしょう?」

 

『あぁ……実は今から式典があってねぇ、出来ればこのままキミの話を聞いていたいんだが』

 

「私をサボる口実にしないでくれますか。抜け出すならば、ご自分の責任でどうぞ」

 

『はいはい。ま、そっちも頑張ってね。それじゃ』

 

 

それを最後に通話は途絶え、ホンフーは苦笑を一つ。

端末を懐に仕舞い込むと、再びコーヒーの香りを楽しみ始めた。

 

 

(さぁ、どうしますかね)

 

 

ほうと息を吐き、考える。

 

第一は時間操作能力者の捜索及び懐柔、或いは捕縛。そこに赤い魔法少女の相手と、魔法をコピーする方法の模索が混じる。

上条恭介に接触し、魔法少女達の側へと辿る事は決めているが……そこから先をどうするか。

 

ジオットに告げた通り、大きな悩みどころではあった。

 

 

(流れに任せるしか無い、と言えばその通りなのですが……)

 

 

もう少し時間に余裕があれば。

そうは思うが、予知した未来は変わらない。

 

見滝原を破壊する『何か』に恨みを向けるものの、当然何が起こるでもなく。

ホンフーは空になったカップをコースターに戻し、何となしに窓の外を見る。

 

強い風が木々を揺らし、桜と木の葉を掻き混ぜる。荒々しくも、寒々しさを感じる光景。

そんな踊る桜の一枚を眺めつつ、再び無意識に喉元を撫で。そして、どこかつまらなさそうに目を閉じた。

 

 

(……万全を期す為には、やはり『摘み取る』べきなのだが……)

 

 

……それはホンフーにとって、可能な限り避けたい選択肢であった。

 

好感もある。約束もある。しかし現状では、拘り続ける事も難しいと言わざるを得ない。

ああ、何と勿体無い事か。

己の所業を棚に上げて嘆きつつ、ホンフーはゆっくりと目を開けて――。

 

 

「――…………、」

 

 

――眼前。

 

カップの横に置かれた見覚えのない機械を認めた瞬間、瞬時に意識を研ぎ切った。

 

 

(――いつの、間に……)

 

 

気配と呼べるものは、何一つとして感じなかった。

本当に、唐突に。目を閉じた一瞬の間隙に、それは目の前へと出現していたのだ。

 

 

時間操作能力者――至極当然の帰結として、その存在が脳裏を穿ち、貫いた。

 

 

(……携帯、端末か?)

 

 

油断なく周囲へ警戒を走らせつつ、機械を観察する。

全体は三十センチにも満たないだろう。長方形の胴体部分に張り付く小さなモニターと、上方から伸びる短いアンテナ。

数世代ほど前の型ではあるが、確かに携帯端末のそれだ。

 

 

(爆弾、或いはESPジャマーのカモフラージュ……いや、現状そんな事をする意味がない。だが)

 

 

物は分かった。だが、何故ここにある。

 

カルマミラーは常時展開済みであり、余程の事がない限りは傷を受ける事もない。

しかし、意図の読めない状況に多少の動揺は隠せない。ホンフーは細く息を吐くと、改めて端末に向き直り――瞬間、モニターに光が灯る

 

メッセージの着信。疑うべくもない、ホンフーへと宛てられたものだ。

 

 

「…………」

 

 

慎重に指を伸ばし、ボタンを押し込む。

すると警戒の視線の先で点滅するカーソルが移動し、その軌跡に文字を敷いた。

 

それを視認したホンフーは、細い瞳を大きく見開き――やがて、小さく口端を歪める。

 

僅か一文。簡素にして端的な、短い文字列。即ち――

 

 

 

『 ――交渉を、しましょう。 』

 

 

 

 

 




『暁美ほむら』
みんな大好きクールなほむほむ。空間結合で印の反応が移動した事にそれはもう驚いた。
杏子とはそれなりの頻度で連絡を取り合っている。あまり信用はされていないが、悪人とも思われていないようだ。


『佐倉杏子』
みんな大好きあんこたん。幻覚能力にはかなり詳しい。
暇があればホンフーとの戦いを思い返し、攻略の糸口を見つけ出そうとしている。
デス・マスは八割ほど看破。カルマミラーの性質にも薄々気が付きかけているようだ。


『志筑仁美』
みんな大好……、……好きだろ? 好き……だろ……?
悪い子ではないんだ……むしろ凄く良い子なんだ……。ただ何というか、常識的なんだ……。
ゲーム版のアレだってしょうがないじゃん……? 身体ズルズルだったもん……まどかレベルじゃないと無理じゃん……?


『美樹さやか』
みんな大好きさやかちゃん。ゴチィン!といい音がしたらしい。
果たして本編のさやかは、仁美の気持ちに宣戦布告まで本当に気付かなかったのだろうか。
何か青くもドロッとしたものが隠れていたように思えてならない。


『鹿目まどか』
みんな大好きまどか様。さやかのコブを撫でて痛いの痛いの飛んでけをしたらしい。
恋愛絡みに関してはまどかが一番鋭いイメージがある。ピンクだからかな。


『ウ・ホンフー』
カフェでまったりしてたら強制イベント発生。何らかの意思を固めつつあるようだ。
所持するメモには、上条の情報が一通り載っている。もう駄目かも分からんね。


『ジオット・セヴェルス』
メロンパンをいぢめるのが大好きな、やさしいメロンパンおじさん。
覚悟は既に完了済み。ほむほむを追うホンフーを応援しているが、あまり本気では無い。
この時間軸ではピースメーカーが居ないため、ちょっぴり大人しいようだ。


『型遅れの携帯端末』
バブリー程ではないが、結構トランシーバー染みている。二つ折りできないタイプだ!



今年最後が短め繋ぎ回で良いのだろうか。まいっか。
みんなも掃除は日々こまめにしとかないと後々大変な事になるぞ! 良いお年を!


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